【事業承継】「事業承継計画書」を作成して計画的に進める

1 「事業承継計画書」とは?

事業承継計画書とは、

文字通り、事業承継をどのように進めていくのかをまとめた計画

です。事業承継は中長期の取り組みで、今の経営者が事業承継を意識してから後継者の承諾を得るまで3年以上、そこから事業承継完了までに3年以上の時間を費やす会社が多いようです。

事業承継を意識してから後継者の承諾を得るまでの時間

後継者の承諾を得てから事業承継完了までに必要な時間

事業承継を円滑に進めるためには、関係者の共通認識となる計画書があったほうがよいわけで、実際に後継者や従業員、銀行に事業承継計画を共有することが珍しくありません。また、「事業承継税制」や「事業承継特別保証」を利用する際も事業承継計画書が必要です。この記事では、中小機構(中小企業基盤整備機構)のウェブサイトで紹介されているものを基本に、事業承継計画書に記載するとよい内容をまとめます。

2 ガイドラインにある「事業承継計画書」の様式

記入例付きで、「事業承継計画書」の様式を紹介します。空欄の様式は、中小機構のウェブサイトからエクセル形式のファイルをダウンロードすることができます。

■中小機構「中小企業経営者のための事業承継対策」■
https://www.smrj.go.jp/tool/supporter/succession1/

事業承継計画書の例(親族内承継の場合)

これを基本として、不足している情報は各社の実情に応じて追加していきます。追加したほうがよい情報の例を次章で紹介します。

3 「事業承継計画書」に追加したほうがよい情報

1)経営ストーリー

経営者がどのような思いで、何を最も大事にして会社を経営してきたのかを言語化し、テキストにまとめたり、動画を撮ったりします。事業内容は事業承継を機に変わるかもしれませんが、経営に対する思いの根本は受け継がれなければならないからです。

事業承継に当たり、現経営者と後継者はこうした話を何度もすることになりますが、後に後継者が振り返れるようにしておきます。

2)社内の関係者

事業承継に関わる関係者をまとめます。例えば、2人兄弟で長男を後継者とする場合、次男をどのようなポジションにする予定なのかについても明記します。平等にしようと兄弟の持株比率を同じにするのは好ましくなく、長男を後継者にするのであれば、長男に集中させます。

また、古参社員についてもリスト化します。事業承継に賛成の者も反対の者もいるはずであり、事業承継後の体制を安定させる上で重要な情報となります。

3)社外の関係者

社内の関係者と同様に、社外の関係者もまとめます。取引先、顧客、顧問契約をしている士業(税理士など)、銀行の担当者などとなります。また、現経営者が参加している交流会などに後継者も参加させるつもりなら、その主要メンバーもリスト化しましょう。

4)自社の経営環境

現経営者が分析する経営環境をまとめます。具体的には、自社が成長する機会や強み、逆に成長を阻む脅威や弱み、業界自体のライフサイクルなどとなります。事業承継後は後継者の見立てでビジネスを進めることになりますが、後継者としても現経営者がどのように考えていたのかは知りたいはずです。

5)社内の有資格者、許認可

会社経営に必要な社内の有資格者や許認可の状況も整理しておきましょう。後継者が自社の強みを把握するきっかけになりますし、資格更新などの抜け漏れを防ぐためでもあります。

4 中期経営計画との整合性

事業承継計画書は作ったら終わりというわけではありません。事業承継計画書は中期経営計画の一部として遂行されるものなので、収益計画などと整合性が取れていなければなりません。そうでなければ、事業承継計画書の関係者も納得できないでしょう。

また、中期経営計画は実績に応じて見直すこともあります。そうした際は事業承継計画書も確認し、必要に応じてこちらも見直さなければなりません。仮に自社株の評価が変わるような大きな業績の変化があったとすれば、それによって「資産の承継」の方針が変わってくることもあるからです。

以上(2025年8月更新)

pj80111
画像:Mariko Mitsuda

【賃金データ集】時間外労働手当などのモデル支給額

【賃金データ集】シリーズとは?

【賃金データ集】シリーズは、基本給や諸手当など賃金の主要な構成要素ごとの近年のトレンドを、モデル支給額を中心とした関連データとともに紹介します。経営者や実務家の方々が賃金支給水準の決定や改定を行う際の参考としてご活用ください。なお、モデル支給額などのデータを紹介する際は、基本的に出所に記載されている用語を使用するものとします。また、データは公表後に修正されることがあります。

この記事で取り上げるのは「時間外労働手当など」です。

時間外労働手当などの位置付け

なお、以降で紹介する図表データのExcelファイルは、全てこちらからダウンロードできます。

こちらからダウンロード

1 時間外労働手当などの位置付け

時間外労働手当などとは、労働基準法(以下「労基法」)で定める時間外労働などに対して支給する「割増賃金」のことです。近年は時間外労働の上限規制、割増賃金に関する中小企業の猶予措置の廃止などが定められ、時間外労働手当などのマネジメントが求められています。

2 時間外労働手当などの潮流

企業は、「時間外労働」「休日労働」「深夜労働」に対して、時間外労働手当などの割増賃金を支給しなければなりません。割増率は、1カ月当たりの時間外労働の時間数や企業規模などによって決定される仕組みです。その概要は図表2.の通りです。

時間外労働手当などの潮流

なお、月60時間以内の時間外労働に関しては、例えば、

  • 月60時間以内の時間外労働に対する割増賃金率を25%
  • 月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率を50%

とした場合、月60時間超の時間外労働に適用される割増賃金率のうち通常(月60時間以内)の割増賃金率に上乗せされた25%(50%-25%)については、割増賃金の代わりに「代替休暇」を与えることも可能です(導入には労使協定の締結が必要)。

3 厚生労働省の統計資料によるモデル支給額

厚生労働省の統計資料によるモデル支給額

厚生労働省の統計資料によるモデル支給額

厚生労働省の統計資料によるモデル支給額

厚生労働省の統計資料によるモデル支給額

厚生労働省の統計資料によるモデル支給額

4 情報インデックス(この記事で紹介したデータの出所)

この記事で紹介した統計資料は次の通りです。調査内容は個別のURLからご確認ください。なお、内容はここ数年の公表実績に基づくものであり、調査年(度)によって異なることがあります。

■毎月勤労統計調査■
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1.html

画像7

■賃金構造基本統計調査■
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html

画像8

以上(2025年8月更新)

pj17906
画像:ChatGPT

慶弔見舞金規程のひな型(支給相場のデータ付き)

1 慶弔見舞金とは

慶弔見舞金とは、

従業員に結婚・出産などの祝事があったり、病気や天災・火災などの災害に見舞われたりしたときに、会社が支払う金銭の総称

です。中小企業総合研究所「中小総研レポート 慶弔休暇の導入状況及び慶弔見舞金の相場について(2023年1月)」によると、慶弔見舞金の支給金額(従業員規模別)は次の通りです。

慶弔見舞金の支給金額

慶弔見舞金は、種類が多い一方で支給する場面が限定的なため、社員とのトラブルを防ぐには、対象者や金額のルールをきちんと決めておくのが望ましいです。以降で専門家が監修した慶弔見舞金規程のひな型を紹介するので、ぜひご確認ください。なお、慶弔見舞金の実態についてより詳しく知りたい場合、こちらをご確認ください。

■中小企業総合研究所「中小総研レポート 慶弔休暇の導入状況及び慶弔見舞金の相場について(2023年1月)」■
https://www.fmltd.co.jp/wp/wp-content/uploads/2023/01/20230110.pdf

2 慶弔見舞金規程のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって制度内容に応じて定めるべき内容が異なってきます。特に、弔慰金などの金額については、企業の規模・業種・保険加入の有無などによって異なることに注意が必要です。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【慶弔見舞金規程のひな型】

第1条(目的)
本規程は、従業員(短時間勤務従業員を除く)とその家族の慶弔、被災および従業員の傷病などを事由に支給する祝金・弔慰金・見舞金(以下「慶弔見舞金」)について定める。

第2条(慶弔見舞金の種類)
慶弔見舞金の種類は次の通りとする。
  1.慶事:結婚祝金、家族結婚祝金、出産祝金。
  2.弔事:弔慰金。
  3.見舞:傷病見舞金、災害見舞金。

第3条(重複支給の制限)
同一世帯2名以上の従業員が、本規程による慶弔見舞金の同一の支給事由に該当する場合、多額の金額に該当する従業員1名に対して慶弔見舞金を支給する。

第4条(届出)
従業員が本規程の慶弔見舞金の支給を受けようとするときは、別途定める「慶弔見舞金申請書」(省略)を総務部に届け出なければならない。なお、その際、従業員は「慶弔見舞金申請書」と共に、必要最小限度の各種証明書を提出しなければならない。

第5条(結婚祝金)
1)従業員が結婚した場合は、次の結婚祝金を支給する。
  1.勤続5年未満の者:1万円
  2.勤続5年以上10年未満の者:2万円
  3.勤続10年以上の者:3万円

2)既に会社から結婚祝金の支給を受けたことがある従業員が再度結婚した場合は、第5条第1項に定める額の50%を支給する。

3)結婚の当事者双方が当社従業員の場合、祝金は各々に支給する。

第6条(出産祝金)
1)従業員本人または配偶者が子を出産した場合は、1産児につき1万円を支給する。
2)死産の場合は、見舞金として前条の半額を支給する。ただし、その場合、第7条の弔慰金は支給しない。

第7条(弔慰金)
従業員またはその家族が死亡した場合は別表第1「弔慰金」に定める弔慰金を支給する。なお、従業員本人が死亡した場合は、民法における相続権者に対し相続順位に基づいて支給する。

第8条(弔電・祝電)
従業員またはその家族が死亡した場合は弔電、従業員が結婚した場合は祝電を会社より発信する。

第9条(供花)
従業員またはその家族が死亡した場合は生花または花輪を会社より贈る。ただし、生花または花輪に代え、供花料1万円を贈ることができる。その判断は状況に応じて会社が行う。

第10条(傷病見舞金)
従業員が、業務上または業務外の傷病により出勤できないときは、別表第2「傷病見舞金」に定める傷病見舞金を支給するものとし、その期間は暦によって計算する。

第11条(災害見舞金)
従業員が、火災・風水害・地震などの不測の災害により、本人が居住する住宅が損失を被ったときは、別表第3「災害見舞金」に定める災害見舞金を支給する。

第12条(社会保険制度との関係)
本規程の慶弔見舞金は、労働者災害補償保険法、健康保険法、その他社会保険制度に基づく給付とは関係なく支給する。

第13条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則
本規程は、○年○月○日より実施する。

■別表第1「弔慰金」■

弔慰金

■別表第2「傷病見舞金」■

傷病見舞金

■別表第3「災害見舞金」■

災害見舞金

以上(2025年8月更新)

pj00160
画像:ESB Professional-shutterstock

【オーナー企業の事業承継(4)】自社株式の承継方法「譲渡」と「贈与」

1 自社株式の承継方法

事業承継では、自社株式の後継者への承継(移転)が大きなポイントとなります。

相続以外で自社株式を後継者に承継する方法は、大きく「譲渡」と「贈与」に分かれます。なお、相続による承継はオーナーの死亡が伴うため、「時期を選べない」「他の相続人との調整が必要となる」などの問題があります。よって、適宜の時期に円滑に自社株式を移転するためには、後継者に対して株式を有償で承継するか(譲渡)、無償で承継するか(贈与)を検討する必要があります。

この記事では、自社株式の「譲渡」および「贈与」による承継方法に関する検討ポイントを紹介します。

2 譲渡による承継と贈与による承継

1)譲渡による承継

譲渡による承継とは、後継者がオーナーから有償で自社株式を買い取ることをいいます。譲渡による承継(イメージ)は次の通りです。

譲渡による承継

オーナーは通常、換金しにくい自社株式を現金化することができるため、その資金を老後資金や相続税の納税資金の備えとすることができます。しかし、通常オーナーの保有する自社株式の取得価額は低いため、売却価額との差額(売却益)に譲渡所得として税金が課されます。

一方、後継者としては、取得資金の調達が問題となります。通常、業歴が長く内部留保の多い会社は株価も高く購入資金が多額となります。そのため、銀行借り入れなどを活用することとなりますが、担保、返済資金の確保などを検討する必要があります。また、この記事では詳細の説明は省略しますが、後継者個人で自社株式を購入するのではなく、後継者を株主とする持株会社を設立して取得する方法もあります。

2)贈与による承継

贈与による承継とは、贈与者(オーナー)と受贈者(後継者)がお互いに合意の上、株式を無償で与えることをいいます。贈与による承継(イメージ)は次の通りです。

贈与による承継

譲渡による承継と比較すると、オーナーは資金を一切受け取ることはできませんが、オーナーが所有する資産が減少し、後の相続時の相続財産の圧縮につなげることができます。また、後継者は取得資金ほど多額の資金を調達する必要はありませんが、納税資金の確保を検討する必要があります。

このため保険や金庫株(自己株式)を活用した納税資金の確保や納税猶予制度の活用に加えて、次の贈与税の実効税率表を参考にして、暦年贈与により基礎控除をフル活用しながら時間をかけて贈与することで、贈与税額の負担を軽減させることも一法です。

実効税率表

例えば、5000万円を一括して子(成人)に贈与した場合と、500万円ずつ10年間かけて子(成人)に贈与した場合の贈与税の負担は次のような差が生じます。

  • 5000万円を一括して子に贈与した場合の贈与税額:2049.5万円
  • 500万円ずつ10年間かけて子に贈与した場合の贈与税の合計額:48.5万円×10年=485万円
  • 差額:2049.5万円-485万円=1564.5万円

3)「譲渡」と「贈与」による承継の検討ポイント

1.譲渡か? 贈与か?

上記の通り自社株式の承継については、その方法ごとに承継側(後継者)、被承継側(オーナー)それぞれにメリット・デメリットがあることから、双方の財産保有状況、資金力と税負担額などのコストを比較して検討することとなります。

自社株式移転方法の比較(相続を含む)は次の通りです。なお、これらの判断には専門的な知識などが必要になるため、税理士や公認会計士などの専門家の意見を参考に検討するようにしましょう。

自社株式移転方法の比較

2.株価対策

譲渡した場合の譲渡所得や贈与した場合の贈与税は、株式の評価額(株価)に応じて算出されるため、株価が下がれば課税負担が軽減されます。また、この記事では詳細の説明は省略しますが、役員退職金の支払いや中小企業投資育成株式会社引き受けによる増資などの株価対策も参考にして、承継の時期などを検討してください。

3.経営権の移転対応

自社株式の承継が行われると財産権とともに会社の経営権も移転します。自社株式の承継時点では、後継者に全ての経営判断を任せることが難しい場合などには、種類株式や信託などを活用して、経営権の移転を一定期間留保することで、経営の安定化を図ることも重要です。

3 譲渡における株価について

1)株価算定上の留意点

自社株式の譲渡においては、利益が相反する純然たる第三者間の取引では、お互いに合意した価格が「時価」とみなされるため、価格の算定に関する課税上の問題が生じる可能性は低いといえます。

一方、第三者間の取引に該当しない場合(同族関係者間の取引の場合)は、お互いに合意した価格には客観性が乏しく、適正な価格で取引されないこともあり得ます。そのため、後述する低額譲渡や高額譲渡と認定されると、売り主・買い主の双方、あるいは当事者のいずれかが法人の場合には、その法人の個人株主に対しても「みなし贈与」などの課税が生じる可能性があります。

2)自社株式(非上場株式)の適正価格

一般的に非上場株式の同族関係者間の取引の場合は、次の方法により計算した価格をもって取引を行うこととされています。実際の取引に当たっては、それぞれの取引と適正価格を整理して低額譲渡や高額譲渡の問題も考慮した上で、具体的な取引価格を決定します。

自社株式(非上場株式)の適正価格

1.財産評価基本通達に基づく適正価格の算定

同族株主は原則的評価方式により評価します。原則的評価方式では会社規模に応じて類似業種比準方式または純資産価額方式を基礎として計算します。

また、同族株主以外の株主は、例外的評価方式により評価します。例外的評価方式は配当還元方式により計算します。

なお、自社株式の評価方式に関する詳細については、以下のコンテンツをご参照ください。

2.法人税基本通達に基づく適正価格の算定

課税上の弊害がない限り、上記の財産評価基本通達による計算に次の制限を加えて計算します。

  • 当事者が中心的な同族株主(注)に該当するときは「小会社」として計算する。
  • 純資産価額方式の計算上、土地または上場有価証券については時価による。
  • 純資産価額方式の計算上、37%控除はしない。

(注)中心的な同族株主とは、同族株主のうち1人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹および1親等の姻族(特殊関係会社を含む)の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の25%以上である場合の当該株主をいいます。

3.所得税基本通達に基づく適正価格の算定

課税上の弊害がない限り、上記の財産評価基本通達による計算に次の制限を加えて計算します。

  • 同族株主の判定は当該譲渡または贈与直前の議決権の数による。
  • 当事者が中心的な同族株主に該当するときは「小会社」として計算する。
  • 純資産価額方式の計算上、土地または上場有価証券については時価による。
  • 純資産価額方式の計算上、37%控除はしない。

3)低額で譲渡した場合の課税関係

適正時価に比べて低額で譲渡した場合の売り主・買い主双方の課税関係は、当事者が個人か法人かに応じて次の通りとなります。

低額で譲渡した場合の課税関係

低額で譲渡した場合の課税関係

4)高額で譲渡した場合の課税関係

適正時価に比べて高額で譲渡した場合の売り主・買い主双方の課税関係は、当事者が個人か法人かに応じて次の通りとなります。

高額で譲渡した場合の課税関係

高額で譲渡した場合の課税関係

4 名義株について

1)名義株の問題点

名義株とは、名義が本来の所有者とは異なっている株式で、将来、本来の所有者が株主であるとみなされる株式のことをいいます。

名義株の問題点としては、名義株の処理がされないまま名義人が死亡し、その法定相続人によって株式が相続された場合、会社経営に全く関係のない第三者に議決権が渡ることになります。もし、その第三者の議決権比率が高い場合には経営上重大なリスクとなることがあります。

2)名義株を集約するための2つの対処法

1.資金負担を伴わない処理

名義株主と本来の所有者が「名義株式である旨の確認書」を作成し、株式の名義を本来の所有者名義に変更します。

2.資金負担を伴う処理

名義株主を本来の所有者と考えて次のような対応を取ります。

  • 「株式贈与契約書」または「株式売買契約書」を作成し、株式の名義を本来の所有者名義に変更する。
  • 金庫株(自己株式)として株式を買い取る。
  • 後継者あるいは後継者の出資する持株会社で株式を買い取る。

3)対応のポイント

名義株の対応は各株主の収入や保有財産の状況が異なることから、買い取りの時期や金額などの具体的な交渉には注意が必要です。

また、各株主とのコミュニケーションを考えると、問題を先送りせず、現オーナーが健在なうちに早期に対処することが必要です。

以上(2025年8月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

pj30047
画像:soo hee kim-shutterstock

【中堅社員のスピーチ例】チームで支える休暇取得のススメ

【ポイント】

  • 周りに遠慮して、休みを取らないようにしている人がいるかもしれない
  • 不安を払拭するためには、「自分がいないと仕事が回らない」という状況を避ける
  • 業務の見える化やお互いの声掛けで、柔軟で休暇を取りやすいチームを目指そう

おはようございます。夏真っ盛りのこの時期、休暇を取得してリフレッシュを考える人もいるでしょう。一方で、皆さんの中には、「今、休んでしまうと業務が滞るのではないか」「周りに迷惑が掛からないだろうか」などの不安から、周りに遠慮して休みを取らないようにしている人もいるかもしれません。

そのような不安を払拭するためには、「自分がいないと仕事が回らない」という状況をつくらないことが大切です。自分がいないと仕事が回らない状況は、一見すると自分がチームにすごく貢献しているように思えるかもしれません。しかし、それは同時に、チームが特定の個人に依存している状態ともいえます。これは健全な状態ではありませんし、自分自身が「いざというときに周囲のサポートを当てにできない」という気持ちになってしまいます。

こうした状況に陥らないためには、日ごろから自分が担当している業務の進捗を、他の人でも理解できるようにしておくことがあります。例えば、プロジェクト管理ツールなどで自分の仕事の進捗を他の人でも見えるようにするといった方法があります。また、ルーティーン業務や複雑な業務は、手順書を用意して他の人にもできる状態にするとよいでしょう。これによってチーム全体の多能工化が進み、予期せぬ事態にも柔軟に対応しやすくなります。

併せて、周囲のメンバーが「誰かが休んでも、迷惑は掛からない」と安心できるような雰囲気づくりも肝心です。「〇〇さん、この件で困っていることはないですか?」「何か手伝えることはありますか?」など、普段から周囲の状況に気を配り、声を掛け合うことで、お互いに助け合える関係性ができあがります。

いかがでしょうか? 休暇の取得は個人のプライベートの充実だけでなく、業務効率やパフォーマンス維持のためにも重要です。日ごろから業務の見える化やお互いの声掛けで、柔軟で休暇を取りやすいチームを目指しましょう!

以上(2025年8月作成)

pj17225
画像:Mariko Mitsuda

イベントレポート「Femtech Japan2025/Femcare Japan 2025」2025/7/10開催

2025年7月10日木曜日、アニヴェルセル表参道にて、

Femtech Japan 2025/Femcare Japan 2025

が同時開催されました。

Femtech Japan 2025

本イベントは、同イベント実行委員会が主催する、フェムテック(女性の健康課題をテクノロジーで解決する製品やサービス)、フェムケア(女性の健康やライフステージに特化した製品やサービス)の展示会です。

Femtech Japan 2025/Femcare Japan 2025のテーマは、「表参道で日本らしいフェムテック・フェムケアを」。当日は40以上のブースで各社の製品・サービスが紹介され、会場は大盛況!

Femtech Japan 2025

Femtech Japan 2025

Femtech Japan 2025

また、セミナースペースでは、今回が初回となる、Femtech Japan Innovation Pitchも開催されました。これは、 20社・団体を超える製品・サービスのサプライヤーが、フェムテック・フェムケアに関する熱のこもったピッチを行うコンテストです。

壇上では、生理や子宮頸がんなどのフィジカルな課題を解決するものから、精神的なサポートまで。革新的なイノベーションが、サプライヤーによって活き活きと発表されていました!

Femtech Japan 2025

Femtech Japan 2025

中小企業がフェムテック・フェムケアに関する製品やサービスを導入するメリットとして、まず、

女性の健康課題を緩和することで、パフォーマンスの向上や離職率低下に繋がる

ことがあげられます。また、「女性を大切にする企業」ということで、従業員満足度や企業イメージの向上にも繋がっていくでしょう。

現在、政府や自治体からの支援策も活用できるため、導入ハードルも下がりつつあります。例えば、

  • 女性用トイレに生理用品を常備する
  • 生理に関する研修制度を利用する(生理用品メーカーなどが実施)

など、些細なことからフェムテック・フェムケアを始めるのを検討するのも、企業が社会的に前進するための第一歩となり得るのです。

企業における「生理」の悩みについてのコンテンツはこちら

以上(2025年7月作成)

pj10089
画像:日本情報マート

【オーナー企業の事業承継(3)】 自社株式の評価と相続税額の把握

1 事業承継や相続における現状分析と問題点の把握

事業承継や相続に関する検討の第一歩は、現状分析と問題点の把握です。ここでいう現状分析とは事業自体が継続できるかどうか、また後継者の有無に加えて、株主構成、経営権の承継に関する問題点、自社株式の評価額、オーナーに万一のことがあった場合の相続税額の把握などが含まれます。

2 自社株式の評価方法

1)評価方法

相続税や贈与税の計算上、自社株式の評価は財産評価基本通達に基づき、次のいずれかの方法で行います。

  • 「同族株主」間の相続や贈与の場合:原則的評価方式
  • 上記以外の少数株主の場合:例外的評価方式

2)同族株主の判定

原則的評価方式が適用される「同族株主」とは、

株主の1人とその同族関係者(詳細は後述)の保有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の30%以上である場合の、その株主とその同族関係者

をいいます。

ただし、株主の1人とその同族関係者の保有する議決権の合計数の最も多いグループが、その会社の議決権の50%超を保有している場合には、その50%超の議決権を保有する同族関係者グループだけが「同族株主」となり、その他の株主グループが30%以上の議決権を保有していたとしても「同族株主」とはなりません。

3)同族関係者とは

「同族関係者」とは株主の1人と特殊な関係のある個人または法人(判定しようとする会社の株主の1人が他の会社を支配している場合における当該他の会社)をいいます。なお、特殊な関係のある個人とは次に掲げる者などをいいます。

  • 株主などの親族(6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族)
  • 株主などの使用人
  • 株主などと婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者

なお、「原則的評価方式」が適用となる株主は、上記の「同族株主」がいる場合の他、他の「同族関係者」グループの議決権割合に応じて、さまざまな場合に該当する可能性があります(末尾に参考資料を添付)。

実際の評価方法の判定に当たっては税理士、公認会計士などの専門家に助言を求めるようにしてください。

3 原則的評価方式による評価

1)原則的評価方式のフロー

原則的評価方式は会社規模などにより、

  • 類似業種比準方式
  • 類似業種比準方式と純資産価額方式の折衷方式
  • 純資産価額方式

で評価する方法をいいます。なお、原則的評価方式による評価は、

  • 会社規模の判定
  • 特定会社の判定
  • 株式の評価方式の決定

の順に行います。原則的評価方式のフローは次の通りです。

原則的評価方式のフロー

2)会社規模の判定

会社規模は、評価する株式を発行した会社(以下「評価会社」)の「従業員数」「総資産価額」「取引金額(売上高)」により判定し、「大会社」「中会社の大・中・小」「小会社」に区分します。

  • 従業員数が70人以上の評価会社は、「大会社」に該当します。
  • 従業員数が70人未満の評価会社は、次の(図表2)に基づき、「取引金額基準」「従業員数を加味した総資産基準」で、それぞれ会社規模の判定を行い、いずれか大きいほうの会社規模を採用します。

会社規模の判定

例えば卸売業で「取引金額」6.5億円、「従業員数」51人、「総資産価額」5億円の会社は「取引金額基準」では「中会社の中」となり、「従業員数を加味した総資産基準」では「中会社の大」となり、会社規模の判定は大きいほうの「中会社の大」に該当します。

3)特定会社の判定

評価会社が次の特定会社に該当する場合は、一般の評価会社とは資産の保有状況や営業の状況が異なるため、後述の評価方式の決定にかかわらず、原則として「純資産価額方式」により株価を計算することとなります。通常は「純資産価額方式」によって計算すると株価が高くなるケースが多いため、十分な注意が必要です。

1.株式保有特定会社

株式保有特定会社とは、評価会社の相続税評価額による総資産のうち、保有する株式および出資(以下「株式等」)の価額の合計額の占める割合が50%以上の会社をいいます。

2.土地保有特定会社

土地保有特定会社とは、評価会社の相続税評価額による総資産のうち、保有する土地などの価額の合計額の占める割合が次に該当する会社をいいます。

土地保有特定会社

3.比準要素数1の会社

比準要素数1の会社とは、類似業種比準方式の計算の基となる1株当たりの「配当」「利益」「純資産」の3つの要素の直前期における金額のうち、いずれか2つの要素の金額がゼロまたはマイナスであり、かつ直前々期における2つ以上の要素の金額がゼロまたはマイナスである会社をいいます。

4.開業後3年未満の会社

課税時期において開業後3年未満の会社をいいます。

5.比準要素数0の会社

比準要素数0の会社とは、類似業種比準方式の計算の基となる1株当たりの「配当」「利益」「純資産」の3つの要素の直前期における金額が、いずれもゼロまたはマイナスである会社をいいます。

6.清算中の会社

7.開業前または休業中の会社

4)株式の評価方式の決定

上記の特定会社に該当しない場合は、会社規模に応じて評価方式を決定します。評価方式の決定は次の通りです。

株式の評価方式の決定

5)類似業種比準方式

1.類似業種比準方式の計算

類似業種比準方式とは、評価会社の1株当たりの「配当」「利益」「純資産」の3要素を基準にして、類似する業種の上場会社の株価に比準して株価を計算する評価方式です。類似業種比準方式の計算方法は次の通りです。業種および比準する株価等の数値は国税庁が公表する「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等」から選定します。

類似業種比準方式の計算

2.類似業種比準方式の計算上の留意点

類似業種比準方式の計算上の留意点は次の通りです。

  • 3つの要素の金額は原則として直前期、直前々期の平均数値を使用します。従って評価額には株式相場の水準に加えて、評価会社の決算での業績が影響を与えます。
  • 比準する類似業種の数値に対して自社の3つの要素が高い場合は、自社株の評価額も高くなります。
  • 業種目は評価会社の主たる業種目により判定します。複数の業種目を兼業している場合は、単独の取引金額が50%を超える業種目により判定します。
  • 計算に用いる「配当」「利益」は経常的なものに限ります。そのため、「配当」については特別配当や記念配当などの将来毎期継続することが予想できない金額は除いて計算します。

また、「利益」については固定資産売却益や保険差益といった非経常的な利益は除いて計算します。この場合、非経常的な利益より非経経常的な損失が大きいときは、非経常的な利益はゼロとして計算します。

6)純資産価額方式

1.純資産価額方式の計算

純資産価額方式は、会社の資産の額から負債の額を控除した純資産価額を自社株式の価値とする方式です。これは会社の清算価値に着目した評価方式ともいえます。純資産価額方式のイメージ図と計算方法は次の通りです。

純資産価額方式のイメージ図

計算方法

2.純資産価額方式の計算上の留意点

純資産価額方式の計算上の留意点は次の通りです。

  • 長期に滞留している不良資産や含み損を抱えた遊休資産について、税法上認められる範囲で除却することにより、評価を引き下げることができます。
  • 相続税評価上、資産内容を時価よりも評価を引き下げられるような不動産などの資産に組み替えることも、評価の引き下げに効果があります。ただし、評価時点から3年以内に取得した不動産については取引価額での評価となるため、組み替え後3年を経過しないと、引き下げの効果は得られないため注意が必要です。

4 例外的評価方式による評価

同族株主以外の株主や同族株主のうち少数の株式を有している株主が取得した株式については、会社の規模にかかわらず、例外的評価方式である配当還元方式により株式評価を行います。配当還元方式の計算方法と計算例は次の通りです。

例外的評価方式による評価

5 相続税の計算

1)相続税の計算フロー

相続による自社株式の承継に係る相続税は、承継のためのコストと捉えることができます。また、相続税の納付は原則金銭による一括納付が原則ですが、これを納付期限である相続発生後10カ月以内に納付することが必要となりますので、相続税の納付資金をあらかじめ用意しておくことは、スムーズな事業承継を進めるための第一歩ともいえます。それには、オーナーに万一のことが発生した場合に必要となる相続税額を、大まかにでも把握しておくことが大切です。相続が発生した場合の相続税の計算フローは次の通りです。

相続税の計算フロー

1.課税遺産総額の計算

土地、建物、現預金といったプラスの財産の評価額の合計額から、借入金や未払金などのマイナスの財産および葬式費用の合計額を差し引いた正味の遺産額から基礎控除額(3000万円+(600万円×法定相続人の数))を引いた額が課税遺産総額となります。課税遺産総額の計算(イメージ)は次の通りです。

課税遺産総額の計算

法定相続人は、民法で範囲が決められていて、次のような相続人の順番になっています。

  • 第1順位:配偶者と子
  • 第2順位:配偶者と直系尊属(被相続人の父母)
  • 第3順位:配偶者と兄弟姉妹

また、遺言などにより相続分の指定がない場合の共同相続人の順位と相続分は次の通りです。なお、配偶者は常に相続人となります。

相続分の指定がない場合の共同相続人の順位と相続分

2.相続税総額の計算

算出した課税遺産総額を、いったん法定相続分で分割したものと仮定して、各相続人の相続分を算出し、これに相続税率を乗じて計算した税額の総額が相続税総額となります。なお、相続税総額を計算する際は、次の速算表を参考にするとよいでしょう。

相続税総額の計算

3.各人の相続税額の計算

上記で算出した相続税総額に実際の各人の取得割合を乗じて相続税額を算出します。

各人の相続税額の計算

2)相続財産について

次の財産については、相続が発生した時点で被相続人が保有していた財産に加算されて相続財産となりますので、注意が必要です。

1.一定の贈与財産

次の一定の贈与財産は、相続財産とみなして相続税が課されます。

  • 相続開始前3年以内(2024年1月1日以降に発生した相続については、3~7年以内に段階的に延長)の暦年課税贈与財産
  • 相続時精算課税制度により贈与された財産(2024年1月1日以降に発生した相続については、相続時精算課税制度を選択した上で行った贈与のうち、毎年110万円までの贈与は相続財産に含まれません)
  • 贈与税の納税猶予制度により贈与された非上場株式

2.みなし相続財産

次の財産は民法上では受取人固有の財産ですが、相続税法上では相続財産とみなして相続税が課されます。なお、生命保険金と退職手当金については、それぞれ「500万円×法定相続人の数」を非課税財産として控除することができます。

  • 死亡保険金(生命保険・損害保険)
  • 死亡後3年以内に支給が確定した退職手当金
  • 生命保険契約に関する権利

6 (参考資料)同族株主のいない場合の評価方法の選定フロー

同族株主のいない場合の評価方法の選定フローは次の通りです。

同族株主のいない場合の評価方法の選定フロー

7 (参考資料)同族株主のいる場合の評価方法の選定フロー

1)筆頭株主グループの議決権割合が30%以上50%以下の場合

同族株主のいる場合の評価方法の選定フロー(筆頭株主グループの議決権割合が30%以上50%以下の場合)は次の通りです。

同族株主のいない場合の評価方法の選定フロー

2)筆頭株主グループの議決権割合が50%超の場合

同族株主のいる場合の評価方法の選定フロー(筆頭株主グループの議決権割合が50%超の場合)は次の通りです。

同族株主のいない場合の評価方法の選定フロー

以上(2025年8月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

pj30046
画像:soo hee kim-shutterstock

【賃金データ集】雇用形態別のモデル支給額

【賃金データ集】シリーズとは?

【賃金データ集】シリーズは、基本給や諸手当など賃金の主要な構成要素ごとの近年のトレンドを、モデル支給額を中心とした関連データとともに紹介します。経営者や実務家の方々が賃金支給水準の決定や改定を行う際の参考としてご活用ください。なお、モデル支給額などのデータを紹介する際は、基本的に出所に記載されている用語を使用するものとします。また、データは公表後に修正されることがあります。

この記事で取り上げるのは雇用形態別の「基本給」「賞与・期末手当」です。

画像1

なお、以降で紹介する図表データのExcelファイルは、全てこちらからダウンロードできます。

こちらからダウンロード

1 雇用形態の概要

企業が労働者を雇用する際の労働条件(特に雇用契約の期間)の違いによる類型を、「雇用形態」と呼びます。一般的に、雇用形態は次のように大別されます。現在は、同一労働同一賃金の議論に見られるように、非正規雇用労働者の待遇改善が進められています。

  • 雇用契約期間に定めがなく、フルタイムで働く「正社員」(正規雇用労働者)
  • 正社員以外の「パート等」(非正規雇用労働者)

2 雇用形態別の労働者数

 総務省「労働力調査」では、非正規雇用労働者を「パート・アルバイト、労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託、その他」に分類して集計しています。非正規雇用労働者数は、2024年時点で2126万人です。その中心はパート・アルバイトで、2024年は1502万人となっています。

また、現状、労働者の65歳までの就労機会を確保するための措置を講じることが企業に求められていますが、2021年4月1日より、改正高年齢者雇用安定法が施行され、企業は希望する従業員に、70歳まで働く機会を与える努力義務を負うことになりました。今後は契約社員・嘱託などがさらに増加するかもしれません。

画像2

3 厚生労働省の統計資料による短時間労働者のモデル支給額

ここでは、厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」より、短時間労働者のモデル支給額を紹介します。

画像3

画像4

画像5

画像6

画像7

画像8

画像9

画像10

画像11

4 厚生労働省の統計資料による派遣労働者のモデル支給額

画像13

5 情報インデックス(この記事で紹介したデータの出所)

この記事で紹介した統計資料は次の通りです。調査内容は個別のURLからご確認ください。なお、内容はここ数年の公表実績に基づくものであり、調査年(度)によって異なることがあります。

■労働力調査■
https://www.stat.go.jp/data/roudou/

画像14

■賃金構造基本統計調査■
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html

画像15

■労働者派遣事業の事業報告の集計結果■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000079194.html

画像16

以上(2025年8月更新)

pj17905
画像:ChatGPT

【事業承継】M&Aを活用するメリットと実務

1 事業承継でM&Aを活用する4つのメリット

事業承継におけるM&A(企業の合併・買収)とは、

主に第三者である他の企業や投資ファンドなどが、承継対象会社の株式や事業を取得すること

をいいます。

近年、従業員数が数名の零細企業のM&Aも頻繁に行われており、中小企業のM&Aが一般化しています。M&Aを活用して事業承継を進めると、次の4つのメリットがあります。

  • 後継者問題の解決
  • 株式・持分譲渡による手元資金の確保
  • 従業員の雇用安定とキャリアの広がり
  • 顧客・取引先の信頼維持

1)後継者問題の解決

M&Aの最大のメリットは、後継者不在の問題を解決できる点です。親族に子どもがいても、遠方や大手企業などで働いている場合、家業を継がせるために仕事を辞めて帰ってくるように頼むことは、現実的に困難ですです。M&Aを活用すれば、無理に子どもに家業を継がせる必要がなくなり、より経営効率の高い会社(第三者)に事業を委ねることができます。

2)株式・持分譲渡による手元資金の確保

第2のメリットは、株式・持分を現金化できる点です。非上場会社の株式は本来現金化が困難で、相続時には多額の税負担が発生しやすい資産です。しかし、M&Aにより株式譲渡すれば、その資産を現金化できます。また、株式譲渡時の税率は20%(有価証券の譲渡所得税としての課税)で、法人清算を選択した場合における税率50%(配当課税)よりも税負担が軽く済みます。これにより、オーナー経営者は、老後資金や次の投資資金を効率的に確保できます。

3)従業員の雇用安定とキャリアの広がり

第3のメリットは、従業員の雇用安定とキャリアの広がりが期待できる点です。M&Aで会社がより大きな企業グループに組み込まれることで、財務基盤や経営資源が強化されます。また、従業員にとってもスキルアップの機会や異動・昇進の可能性が広がり、自社単独では到達できなかった市場や分野に挑戦する機会も生まれます。

4)顧客・取引先の信頼維持

第4のメリットは、顧客や取引先の信頼維持です。後継者不在の状況では、顧客や取引先は本当に事業が継続できるのか不安を感じますが、買収企業のバックアップにより経営基盤が安定することになるので、そうした信用不安を払拭できます。特に同業種間でのM&Aであれば、業務の一貫性やノウハウの承継も期待が持てます。

2 M&Aに取り掛かり、実行する際の手続き

1)意向決定・方針策定

まずは、経営者自身がM&Aによる事業承継を選択する意思を明確にします。後継者がいない、親族内承継が難しい、あるいは従業員承継にもリスクがあるなどの状況下で、第三者承継(M&A)を選ぶ意義を整理する必要があります。

2)アドバイザーの選定

M&Aの仲介会社やFA(ファイナンシャル・アドバイザー)、弁護士、税理士といった専門家を選任します。売り手企業の適正価値を把握するための株価評価や、法的・税務的な課題の洗い出しのためには、M&Aに精通した専門家の支援が必要となります。

3)ノンネーム資料・インフォメーションメモランダム(情報開示資料)の作成

買い手候補に提示するため、会社概要や財務情報をまとめた資料を作成します。初期段階では社名を伏せたノンネーム資料を使い、興味を示した候補先に対して詳細なインフォメーションメモランダム(情報開示資料)を開示します。

4)買い手選定・条件交渉

買い手候補から意向表明書(LOI)を受け取り、価格や会社の譲渡時期、従業員処遇等の条件を交渉します。条件が合意に達すれば、基本合意書(MOU)を締結します。

5)デューディリジェンス

買い手候補による財務・法務・労務などについての調査が実施されます。その中で、買収価格を減額すべき事由がないか否かが調べられます。

6)最終契約の締結

デューディリジェンスの結果、発見された課題については、買収価格の減額調整や補償条項などを入れて、最終契約を締結することになります。

7)クロージング(決済)

最終契約に基づき、合意した日に株式名簿の書き換え、代表印や銀行預金通帳の引き渡しなどと交換に株式譲渡代金が支払われ、決済されます。

3 事業承継でM&Aを活用する際のポイント・留意点

1)情報管理

M&Aを実行するにあたって重要となるのが、情報管理です。M&Aをすること自体が、従業員や取引先にとって非常に重要な情報であるため、この情報が洩れないよう配慮しなければなりません。そのためには、インフォメーションメモランダム情報を開示する買収候補先を極力減らすことが重要です。また、役員や従業員にいつ情報を共有するかの、タイミングを見極めることも大切です。

2)価格以外の買収条件

M&Aは株式譲渡の額(詳細は後述)も重要ですが、それだけでなく、従業員の雇用維持、取引先との関係維持、経営理念の親和性など非財務的な要素も非常に大切になります。特に地域密着型の中小企業では、企業文化の親和性なども、買い手選定の大きな判断基準となります。

3)従業員の離職リスク

M&Aをきっかけに、多数の従業員が離職する事態が起こることもあります。M&Aによって従業員の就業関係の変化に対応できるような環境整備を行い、買収した会社と買収された会社とが、うまく融合するような配慮が求められます。

中小企業にとってM&Aは、「撤退」ではなく「承継」のための前向きな経営戦略となっています。時間を味方につけ、信頼できる専門家と連携しながら準備を進めることで、経営者、従業員、顧客全てが納得のいく形でバトンを渡すことができます。M&Aの活用は、地域経済の持続的な発展にも資するものであり、今後ますますその重要性は高まっていくと考えられます。

4 M&A価格の決定方法

M&Aを通じて株式や事業を譲渡する際、その対価がどのように決まるかは、売り手・買い手双方にとって重要な論点になります。価格の妥当性をめぐる認識の齟齬(そご)は、交渉決裂の大きな要因にもなり得るため、客観的な基準と交渉の実務を正しく理解する必要があります。

M&Aにおける企業価値の評価方法は、次のように大別できます。

  • 時価純資産法(Net Asset Approach)
  • 類似業種比準法(Market Approach)
  • 収益還元法(DCF法など)
  • 上記1.~3.を踏まえて、中小企業のM&Aの実務上で使われる年買法

1)時価純資産法(Net Asset Approach)

時価純資産法とは、

企業の資産と負債を時価で再評価し、その差額である純資産価額を基に評価する方法

です。資産価値の大きい不動産業や清算価値を重視する場合に適しています。シンプルで理解しやすいですが、将来の収益力を反映しないため、成長企業の評価には採用しにくい面があります。

2)類似業種比準法(Market Approach)

類似業種比準法とは、

上場企業や同業他社の株価や財務指標(PER、PBR・EBITDA倍率等)を参考に、自社の売上や利益水準に倍率を乗じて評価する方法

です。中小企業では上場類似企業との乖離(かいり)が大きい場合もあるため、適切な調整(会社の規模に応じて時価純資産法と組み合わせたり、従業員数に応じて一定の調整をしたりするなど)が必要となります。

3)収益還元法(DCF法など)

収益還元法とは、

将来生み出すであろうキャッシュフローを割引現在価値(一定の割引率を乗じて算出)に換算し、企業価値を算定する方法

です。将来の成長性や収益性を反映することができますが、前提とする収益予測や割引率に主観が入りやすく、算定結果の幅が大きく出やすいところがあります。

4)上記1)~3)を踏まえて、中小企業のM&Aの実務上で使われる年買法

M&Aの実務では、これらの複数の手法を併用して評価レンジ(金額の幅)を算出し、最終的には交渉による価格調整がなされます。特に中小企業のM&Aでは、

時価純資産法+営業利益の3年分から5年分を目安とする「年買法」による評価

が使われることが多いです。

以上(2025年8月作成)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 福崎剛志)

pj30228
画像:Mariko Mitsuda

【書籍ダイジェスト】『文章は、「転」。』

本書は、読み手の心に響く文章を書くための方法や心構え、「感性の鍛え方」を解説。名作の引用や、著者が各地の文章塾で添削してきた作文などを「文例」に引き、文章構成の基本、避けるべき表現などを具体的に指南している。
言葉を綴る際に意識すべき「型」の一つに「起承転結」がある。このうち、著者は「転」こそが、生成AIには書けない文章を作る上で、もっとも大切と述べる。

書籍ダイジェストは、こちらからお読みいただけます。pdf