書いてあること
- 主な読者:事業計画の重要性は認識しているが、実際には策定していない社長
- 課題:事業計画の策定には時間がかかるし、社長(経営者)の頭の中にあれば十分では?
- 解決策:事業計画は社員の成長のきっかけになる。社長と社員が一緒に事業計画を策定する
1 多くの社長が理解していない事業計画の意義
皆さんの会社では事業計画を策定していますか? もし策定していないとしたら、その理由は次のようなものかもしれません。
- 策定するのに手間と時間がかかる
- どうせ計画通りには進まないと思っている
- 全て自分(社長)の頭の中にあるから大丈夫
この理由を見て「大体、そんな感じ」と思った皆さん、少しお付き合いください。今のままで放置していると、会社が次のような停滞ムードが漂う組織になってしまうかもしれません。
- 経営方針は社長が決めていて、社員は指示に従うだけ
- 足元の業務に追われ、目線を上げて検討できない
- 良くも悪くも安定していて刺激がなく、社員に向上心が芽生えない
事業計画がない会社の社員は、
明確な目標と活動のよりどころがなく、目標を達成しようとする推進力もない状態
で働いているところがあり、経営が安定している会社ほど「ゆでガエル」状態に陥る恐れがあります。もちろん、事業計画さえあれば万全というわけではありませんが、
社長の頭の中にある見通しや、今、力を入れている事業の重要さが社員に共有されれば、社員は日々の頑張りが「何のためであるのか」を理解できる
ようになります。積極的な社員は目標達成のために必要な能力を得ようと自発的に勉強しますし、社外とのつながりを広める社員もいるでしょう。こうした社員がいる中小企業は強いです。
このように、事業計画は、
事業を定義し、その進捗を管理するだけでなく、組織を作り、社員の成長を促すもの
です。この記事では、「事業計画(利益計画・販売計画)」の一般的な内容を紹介しますが、
裏ミッションとして「社長にしかできない組織作り」
を意識していただければ幸いです。
2 事業計画で社員は全てを理解する
事業計画とは、
当期の経営目標を達成するための計画
です。事業計画に必ず盛り込まれるのは、
- 利益計画:目標となる売上高や利益をまとめたもの
- 販売計画:顧客別や商品別の売上高(販売数量)をまとめたもの
です。詳細な「数字」が記載されているので、金融機関などとコミュニケーションを図る際も役立ちます。この他、例えば人員を増やす場合や新規事業を始める場合は、その計画を詳細にまとめたりします。
いずれにしても、事業計画には会社全体の取り組みがまとめられています。また、「どの程度いけそうなのか?」といった肌感覚も盛り込まれるため、事業計画の策定に社員を巻き込めば、社員は会社の多くを知ることができます。大企業では、
社長→(ここが遠い)→経理本部→本部長→部長→課長→社員
といったコミュニケーションになりがちですが、中小企業では、
社長→全ての社員
といったコミュニケーションも可能です。社員からすれば、
利益計画・販売計画といった具体的な数値について、社長がどのような思いやロジックで考えているかを間近で見ることができる
という、貴重な経験になるわけです。
3 利益計画策定のポイント
1)利益計画は具体的な行動まで落とし込む
ここからは、少し実務的な話をします。
利益計画とは、目標となる売上高や利益をまとめたもので、いわば計画年度の予測損益計算書(予測P/L)です。事業計画の策定は利益計画から検討するのが一般的ですが、それは会社が達成すべきゴールを示すのが利益計画になるからです。
ゴールが決まると現状とのギャップも明らかになりますが、それだけでは社員はそのギャップを埋める具体的な行動を起こしません。ですから、利益計画の数字を達成するための具体的な行動まで落とし込む必要があります。例えば、当期純利益を前年度比20%増に設定する場合、
どの商品の販売を強化すべきなのか(販売計画)を、全社的な課題と位置付けた上で、具体的に検討していく
ことになります。
2)フォーマットは損益計算書に合わせる
利益計画の進捗管理をスムーズに行うために、利益計画のフォーマットは損益計算書と同じにするのが基本です。また、実現性・妥当性のある利益計画にするために、科目は細かな単位まで落とし込みます。細分化の基準は、
経理が使用している勘定科目や補助科目
です。さらに、年度の金額を月次で細分化します。支店(店舗)や部門が複数ある場合は、「支店(店舗)別・部門別」でも細分化するとよいでしょう。
3)当期純利益から逆算するのが基本
損益計算書は「売上高-費用=利益」という構成になっていますが、利益計画では、
目標利益=達成可能売上高-許容費用
と考えます。言葉を変えると、まず獲得すべき目標利益があり、それを達成可能な売上高の中で実現するために許容できる費用を算出します。会社の状況などによりますが、達成すべき目標登記純利益は、「企業(社長)の目標額」「過去数年間の実績額」「資金計画(借入金計画、資金調達計画など)」などを勘案して検討します。
借入金の返済などを考慮した当期純利益は、次の計算式で算出できます。
目標当期純利益=予定借入金返済額+予定配当金額+目標社内留保額-予定減価償却費
目標当期純利益を決定したら、損益計算書を下から上っていくイメージで費用を検討します。
- 法人税などを加えて税引前当期純利益を算出する
- 特別損益がある場合はこれを加減して経常利益を算出する
- 営業外損益を加減して営業利益を算出する
- 販売費・一般管理費を加えて売上総利益を算出する
- 最後に売上原価を加えて必要な売上高を算出する
といった具合です。この際、不要な費用は削減していきますが、実現性・妥当性が重要です。無理に費用を削減して、見た目だけ筋肉体質の利益計画としても意味がありません。また、支出額を予測しにくい費用は、前年度実績を目安に計上するとよいでしょう。
4 販売計画策定のポイント
1)「顧客別」と「商品別」に検討する
販売計画は、利益計画で策定した売上高や売上総利益(粗利益)などを、顧客別・商品別に展開した計画であり、
- 顧客別販売計画:顧客別に売上高などを検討する
- 商品別販売計画:商品別に売上高などを検討する
が基本となります。
例えば、小売業など不特定多数、あるいは小口取引が中心の会社は、顧客別販売計画の策定にあまり意味がなく、商品別販売計画がメインとなります。一方、製造・卸売業など大口顧客との継続取引が中心の会社は、顧客別販売計画と商品別販売計画の両方を策定します。
2)実現性・妥当性がある計画を策定する
販売計画でも実現性・妥当性が求められます。社員を巻き込みながら販売計画を策定する場合、「目標利益を達成する!」という強い思いが社員に芽生えるのはよいのですが、実現が難しいチャレンジングな販売計画になってしまうことがあります。
気持ちは大事です。しかし、確たる根拠もないまま希望的観測に基づいて見積もられた販売計画は意味がなく、時間が進むほどに未達成が大きくなってきつくなります。必ず具体的なアクションプランとセットで考えましょう。
3)攻める順番を決める
販売計画の実現性・妥当性を高める戦略の考え方は、確実性の高いところを攻めることです。販売先(既存顧客・新規顧客)と商品(既存商品・新商品)に分けた場合、次のようになります。
- 既存顧客への既存商品の販売額
- 既存顧客への新商品の販売額
- 新規顧客への既存商品の販売額
- 新規顧客への新商品の販売額
これは、過去の販売実績や市場のトレンドなどに基づいて優先順位を付ける考え方です。「1.既存顧客への既存商品の販売額」は、最も確実性が高くなります。逆に「4.新規顧客への新商品の販売額」は未知であり、販売計画の精度は落ちます。
ただ、これはあくまでも一例です。新規事業にチャレンジしている場合などは、当然、「4.新規顧客への新商品の販売額」を検討することになります。
5 社長と社員が一緒に事業計画を遂行する
事業計画は策定して終わりではなく、遂行しなければ意味がありません。教科書的に言えば、
月次単位で実績を把握して、事業計画との差異を分析して対策を講じる
ことになるのですが、この説明に具体性はありません。
事業計画の遂行についても、月次で全社ミーティングを行い、全社的に共有するのが望ましいでしょう。メンバーはいずれ絞っていけばよいですが、当初は会社が本気で事業計画を運営していることを周知するため、全社員に参加してもらいます。そうする中で、自社に合った方針が固まっていきます。例えば、計画と実績にプラスマイナス5%の差異が生じた場合、その理由を追及する会社がありますが、ただそれをまねするだけでは現場の実務負担が増すだけです。
中小企業には中小企業のやり方、自社には自社のやり方があります。「プラスマイナス15%になった差異から注目する」など、自社にとって無理のないルールを決めればよいですし、見るべき数字を絞ってもよいでしょう。とにかく、
社長と社員にとって事業計画が常に意識される存在
になれば成功です。
また、会社にはチャレンジしなければならないときがあります。そうしたときこそ、この記事で紹介したように全社一丸となって事業計画を策定し、推進していければ理想的です。それが会社と社員の大きな成長につながります。
以上(2024年10月更新)
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画像:pixabay