2024年6月から始まる「定額減税」の内容とやるべきことを整理

書いてあること

  • 主な読者:社員の給与計算を担当している給与計算担当者
  • 課題:イレギュラーな手続きであるため、減税の処理の漏れも心配だが、そもそも現場では何をすればよいのか把握できていない
  • 解決策:2024年6月以降に支払う給与等の源泉徴収税額から定額減税額を控除し、年末調整時も定額減税を反映させた精算が必要になる

1 2024年6月から始まる「定額減税」とは?

昨今の物価上昇を上回る賃上げを実現するために、令和6年度税制改正で決まった所得税と住民税の定額減税。定額減税とは、

2024年6月以降、会社から支給される従業員の給与、賞与から所得税と個人の住民税に一定額の減税(税額控除)が行われる制度

です。

定額減税の処理の一部は、社内の給与計算担当者が一定の調整を行わなければなりません。もし、その調整を忘れてしまうと、社員が受けられるはずの減税の恩恵を受けられず、損をしてしまいます。定額減税のようなイレギュラーな対応を漏れなく行うために、事前に何をすべきなのか、制度の概要とともに何をすべきかを把握しておきましょう。

1)定額減税の対象者

定額減税の対象者は、以下のすべての要件を満たす人です。

  • 2024年1月1日時点で日本国内に住所を有する個人、または現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人であること
  • 2024年分の所得金額が1805万円以下であること
  • 給与収入のみの場合は年収2000万円以下であること
  • 子ども、特別障害者等を有する者等の所得金額調整控除の適用を受ける場合、2015万円以下であること

2)定額減税の減税額

実際の減税額は次の通りです。

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2 【所得税】定額減税で新たに生じる実務

所得税については、

  • 給与計算:2024年6月以降に支払う給与などの源泉徴収税額から定額減税額を控除(月次減税事務という)
  • 年末調整:2024年10月~12月の年末調整作業時に定額減税額に基づいた精算を行う(年調減税事務という)

の2つの実務が生じます。

1)給与計算

2024年6月1日以降に支払う給与について、月次減税額(2024年6月以降に支払う給与などの源泉徴収税額から控除する3万円の定額減税額)を源泉徴収額から、できる限り控除します。

賞与支給月は、同月に給与と賞与の支給が発生すると思います。まず先に支給される給与もしくは賞与から月次減税額を控除します。控除しきれない場合、その後に発生する給与もしくは賞与から残額を控除します。

もし、従業員の収入額や扶養家族の人数などにより、6月中の給与や賞与だけで月次減税額の上限に達せず、控除しきれない場合は7月以降の給与や賞与に繰り越して残額を控除していきます。

なお、これらの処理は、2024年6月1日時点で勤めている従業員(定額減税対象者で、扶養控除等申告書を提出している人に限る)に対して行います。6月2日以降に入社した従業員については月次減税事務ではなく、年末調整減税事務で対応します。

また、2024年6月時点では、合計所得金額が1805万円を超えると見込まれる役員や従業員に対しても月次減税処理を行う必要がある点には注意が必要です(年末調整時において精算)。

2)2024年末の年末調整ですべきこと

従業員本人およびその家族の12月31日時点の状況を確認し、

  • 所得税の定額減税対象者であること
  • 定額減税対象者の場合の減税額

を確認した上で年末調整により年間の所得税額の調整を行います。

また、6月2日以降に入社した従業員や役員(前職で定額減税の処理が終わっている人は除く)に対しては、ここで定額減税額を控除します。なお、年末調整時に合計所得金額が1805万円を超えると分かっている役員や従業員については、この制度の対象外であるため、定額減税額を控除しないで年末調整を行います。

3 【住民税】定額減税で新たに生じる実務

1)住民税の処理の基本

住民税の実務はシンプルです。具体的には、

各市区町村から、定額減税を反映した特別徴収税額決定通知書が送付されてくるので(各従業員分)、そこに記載されている金額を法定控除する

ことになります。

注意すべきは特別徴収です。従来、ほとんどの給与所得者は前年度の所得に基づいて当年6月から翌年5月にかけて給与から住民税を特別徴収します。しかし、定額減税の対象者については、

2024年6月の特別徴収額を0円

とします。その上で、以下の計算式で計算した金額を11で割った金額を年間の住民税として、2024年7月の給与から2025年5月の給与にかけて特別徴収します。

所得割―定額減税額+均等割+森林環境税

2)源泉徴収票への記載

定額減税の対象者については、源泉徴収票の摘要欄に以下の通り記載する必要があります。

「源泉徴収所得税減税控除済額〇〇円」

「控除外額〇〇円」

ちなみに、年末時点で控除外額がある場合の調整給付に関しては、各市区町村により実施されるため企業側の対応は不要です。

以上(2024年6月)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:umaruchan4678-Adobe Stock

【事業承継】後継者を信じて教育し、見込みがなければ厳しくても引導を渡す

書いてあること

  • 主な読者:具体的に後継者教育を進めていこうとしている経営者
  • 課題:多くの社員を教育してきたが、「後継者」の教育となると重みが違う……
  • 解決策:主役は後継者。つらさよりも楽しさを伝え、一緒に中期経営計画を策定する

1 信じて教育する

事業承継で大切なのは後継者選びですが、その後の後継者教育は大変です。なぜなら、後継者教育には、

  • 長い取り組みとなる(3~5年程度が多い)
  • 後継者の覚えが悪くても、信じて教育し続けなければならない
  • それでも見込みがなければ、後継者候補を変えなければならない
  • 自身の経営哲学を押し付けるわけにはいかない

といった特徴があるからです。長期の取り組みの中で経営者と後継者が衝突することは避けられないでしょうし、後継者が経営者には不向きであることが分かれば、そのことを後継者に伝えて引導を渡さなければなりません。相手が自身の子供であっても例外はありません。

後継者教育は覚悟を決めた経営者でなければできない最後の人材育成です。それも、

後継者は「もう私には無理です」と辞退することができます。しかし、経営者に代わりはおらず、逃げることができない

ということです。実際、半数近い会社では経営者(社長)が直接教育をしています。

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教育方針は経営者の考え方次第であり、それが尊重されるべきです。この記事では、後継者教育をする経営者のお手伝いとして、重要となるポイントを紹介しています。「それはやめたほうがいいですよ」と、経営者には耳の痛いこともあるかもしれませんがお付き合いください。

2 経営者は、まずこの3つを理解する

1)経営感覚は少しずつ養われる

経営者の皆さんが若手だった頃は、「石にかじりついてでも3年」と、どんなにつらくても自分のためになると踏ん張ってきたことでしょう。今でこそ「あのときの経験があるから今がある」と迷わずに言えるでしょうが、若かった頃は「何でこんなに苦労しなければならないんだ」と思っていませんでしたか。経営者が長い時間をかけて培ってきた考え方は、やはり一定の時間をかけてゆっくりと伝えていかないと後継者がついてこられません。

2)主役は後継者である

後継者教育の主役はあくまでも後継者です。よく指摘されるポイントですが、多くの経営者は「取引先に後継者を連れて行ったときは、後継者にしゃべらせているから大丈夫」などと言います。これはこれでよいのですが、もっと大切なのは、目に見える言動というよりも、後継者の「考え方」を尊重することなのです。日ごろ「君の考えは甘い」と後継者を認めていないのに、訪問先に行ったときだけ引き立てられたら、後継者は余計に嫌になります。

3)つらさよりも楽しさを

経営者は幾多の困難を乗り越えてきており、そうした話をすることが後継者のためになると考えます。しかし、経営の厳しさやリスク、そして経営者の孤独などつらさばかり伝えられたらどうでしょうか。もともと「経営者になりたい!」と志していた後継者ならいざ知らず、迷いがある後継者にとっては、「やっぱり自分には無理かも……」となってしまいます。経営の楽しさや、やりがいを伝えなければなりません。

3 経営者にしかできない地ならし

1)事業承継の告知と反対者への対応

前章の3つをご理解いただいた上で後継者教育を進めていくのですが、まずは社内の地ならしをしましょう。事業承継や後継者のことを理解してもらうには長い時間がかかります。そのため、経営者は後継者と事業承継の時期を早い段階で告知したほうがよいでしょう。できれば、事業承継の2年ほど前に告知するのがよいと考えられます。

そうすると、残念なことに「退職する社員」が出てきます。また、特に幹部社員の中には、「若い後継者を下に見る者」「自分が後継者になれなかったことを妬む者」がいるかもしれません。そうした幹部社員は経営者が直接説得しますが、改善しないようなら処遇を考えざるを得ません。事業承継後に後継者に反旗を翻すようなことがあっては困るからです。ただし、処遇をする際は、その幹部社員がそれまで会社を支えてくれたことをくれぐれも忘れてはなりません。

2)社外の関係者に後継者をアピール

社内と同様に、社外の地ならしもします。金融機関などについては、事業承継計画書を提出しながら説明します。また、取引先や顧客については、できれば訪問して挨拶したいところですが、時節柄、オンラインでもよいでしょう。

こちらも残念なことに、相手から見ると、事業承継は取引終了や値下げを申し入れる絶好のタイミングになります。これを防ぐためには、挨拶などの際に後継者が頑張らなければなりません。経営者の横に置物のように座っているだけでは駄目で、後継者にきちんと自己主張をさせましょう。

3)後継者のための経営チームを組成

後継者と同年代などの社員も交えた経営チームを組成します。最初、後継者は自分だけで物事を決めることが難しいので、経営チームで議論し、最後は後継者が決めるようにして訓練していきます。経営チームの人選は後継者に一任しますが、経営者もサポートします。また、後継者を十分にサポートできる人材がいない状況はつらいので、後継者と同年代の社員の教育も行う必要があります。

また、経営者も経営チームに参加しますが、あくまでも主役は後継者です。後継者が筋の悪い意見を言うこともあるでしょうが、その場できつく指摘せず、肯定的に接します。そして、会議が終わった後に1on1で意見を擦り合わせるようにします。後継者が自分の子供であれば、一緒にお酒でも飲みながら話をすることも大事な教育です。

4 どこで育成・修業させるか

具体的な後継者教育の方法には、

  1. 他社に勤務させる(社外教育)
  2. 自社内の最前線で「現場の仕事」を経験させる(社内教育)
  3. 各部門の管理職や新規部門の立ち上げなどを経験させる(社内教育)
  4. 経営者の側近として傍らに置き、経営者としての「帝王学」を学ばせる(社内教育)
  5. 経営大学院や研修機関など外部の機関で学ばせる(社外教育)

があります。社外教育については、「他社で修業する機会」を提供するサービスが数多くあるので、そうしたものを利用するのもよいでしょう。社内ではどうしても甘やかされてしまうので、先に外に出て、ビジネスの厳しさを知った上で自社に戻ってくれば、後継者の姿勢も違ってくるはずです。

また、国内外の大学院で学ばせ、経営の知識を一通り身に付けさせることも有効です。一定期間、業務と離れて勉強すれば集中できますし、通常の業務では得られない人脈も築けます。それに経営の知識を身に付ければ、幹部社員と同じ言語で話せるようになります。

5 アウトプットは中期経営計画の策定と実行

後継者教育の方法はさまざまあるわけですが、より実践的な方法は、

中期経営計画の策定と実行

です。中期経営計画には、「収益、予算、人員」などさまざまな要素が含まれます。当然、事業承継計画もその中に含まれるわけで、そうした計画を経営者と後継者が一緒に策定し、実行していくことほど、現場に根付いたアウトプットはありません。

後継者が社外で修業した経験があるのであれば、自社と他社の違いを踏まえつつ考え抜いた中期経営計画になりますし、自身が考えた新規事業を実行することで、経験しなければ分からない事業推進から多くを学ぶことができます。

以上(2024年5月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

「ワーケーション」の労務管理は業務とプライベートの線引きが重要!

書いてあること

  • 主な読者:旅行先でテレワークをする「ワーケーション」の導入を検討している経営者
  • 課題:業務とプライベートの境界など、管理上の問題がありそうな気がする
  • 解決策:ツールを使うなどして業務中か否かを把握。業務中はオフィス勤務と同じ

1 旅行先でテレワークをする「ワーケーション」

ワーケーション(Workation)とは、「ワーク(Work)=仕事」と「バケーション(Vacation)=休暇」を組み合わせた造語です。例えば、旅行先でテレワークをすることを「ワーケーション」と呼び、

旅先のホテルなどでテレワークをしながら、空いた時間で休暇を楽しむという自由な働き方

の事を指します。働き方改革や地域おこしにつながるという理由から、国や地方自治体もワーケーションの普及・啓発に力を入れていて、アフターコロナが本格化してからは再び注目を集めています。

ただ、旅行先で「仕事も遊びも両方する」という働き方なので、

業務とプライベートの境界をしっかり分けて労務管理

をしないと、「労働時間管理」「労災(労働災害)の判断」「ワーケーションの費用負担」などで思わぬトラブルに遭遇します。以降でポイントを確認していきましょう。

2 「始業・中断・終業」のタイミングはこまめに把握する

業務とプライベートの境界が曖昧だと、労働時間を正確に算定できないだけでなく、労災の判断や、ワーケーションに掛かる費用負担の判断なども難しくなります。

問題は、ワーケーションでは次の図表のように、1日の中で業務と観光が交互に発生したり、日によって労働時間が変わったりすることです。

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こうした問題を解決するには、

業務の「始業・中断・終業」のタイミングをこまめに把握すること

が大切です。社員から都度チャットツールで連絡を入れてもらうのもよいですし、最近は1日に複数回の打刻ができる勤怠管理システムなどもあります。業務とプライベートの境界が明らかになれば、「観光中、上司から仕事の連絡が入ってちゃんと休めない」といった事態も防ぎやすくなります。

ただ、旅先に仕事を持ち込むことで、ついつい仕事に対する比重が重くなってしまい、せっかくの休暇(プライベート)を潰してしまう事にもなりかねません。そのため、あらかじめ仕事に充てることのできる時間数の上限をルールとして決めておくのも良いかもしれません。

次の問題は、賃金の取り扱いです。上の図表の場合、所定労働時間中に、1日目は5時間(8時間-3時間)、2日目は3時間(8時間-5時間)の不就労時間があります。不就労時間の賃金は控除できます(完全月給制の場合などを除く)が、ワーケーションを強く推進したいのであれば、

「半日単位」や「時間単位」の年休(年次有給休暇)を活用することを推奨

するなどして、社員が気兼ねなく休めるよう配慮しましょう。ちなみに、

  • 半日単位年休:導入する場合、就業規則への定めが必要
  • 時間単位年休:導入する場合、就業規則への定め、労使協定の締結が必要

です。なお、半日単位年休も時間単位年休も、計画的付与(会社が年休の取得日の計画を立て、日にちを指定すること)の対象にはならないので、取得はあくまで社員の意思に委ねられます。

3 業務中と自宅・ホテル間の移動中の被災は労災になり得る

労災には、業務上の事由により発生する「業務災害」と、通勤上の事由により発生する「通勤災害」とがあります。以下でそれぞれの考え方を紹介しますが、実際は個別の案件ごとに労災認定が行われるので、必ず所轄労働基準監督署などに判断を仰いでください。

1)業務災害の考え方

業務災害は、

  • 業務遂行性(社員が会社の支配下にあるときに被災したこと)
  • 業務起因性(業務と被災との間に因果関係があること)

の両方を満たすと労災として認定されます。

業務に従事しているときや、業務に付随する行為(業務の準備や業務中にトイレに行くなど)をしているときに被災すると、「業務遂行性」が認められます。ただし、業務遂行性が認められても、業務中にこっそり私的な用事をしていて、それが原因で被災した場合などは「業務起因性」が否定され、業務災害になりません。

ワーケーションの際、例えば、

ホテルでテレワークをしている最中に喉が渇き、階段下の自動販売機に飲料水を買いに行こうとして階段から転落した場合

などは、業務災害に当たる可能性があります。飲料水を買いに行く行為が、業務に付随する生理的行為に該当すると考えられるからです。

2)通勤災害の考え方

次に通勤災害は、

  • 自宅と就業場所
  • 就業場所と他の就業場所
  • 帰省先と赴任先と就業場所の三者間(やむを得ない事情がある場合)

のいずれかを、合理的な経路・方法で移動していて被災した場合に労災として認定されます。

ただし、合理的な経路を逸脱(通勤上、不要な遠回りなどをした場合)したり、移動を中断したり(通勤と関係ない行為をした場合。ただし日用品の購入などは可)していて被災した場合は、通勤災害になりません。ワーケーションの際、例えば、

ホテルでテレワークをするという前提があって、自宅とホテルの往復中に被災した場合

などは、通勤災害に当たる可能性があります。この場合、自宅とホテルの往復が、「自宅と就業場所」の移動に該当すると考えられるからです。

4 業務に関する費用以外は個人負担としても差し支えない

ワーケーションで発生する費用としては、自宅とホテル間の交通費や宿泊費、通信費などが考えられます。結論から言うと、

通信費など業務に関する費用以外は、個人負担としても差し支えない

と考えられます。

自宅とホテル間の交通費や宿泊費は、出張や社内研修のように会社命令に基づくものであれば、会社負担とするのが妥当です。ただ、会社命令ではなく社員自身の意思で就業場所を選択している場合は、個人負担としても差し支えないでしょう。

通信費については、会社がパソコンなどを貸与する場合、会社負担とします。社員が私物のパソコンなどを使って業務を行う場合も、業務に要した分については会社負担とするのが妥当でしょう。

この他、最近は、社員がホテルなどでワーケーションを行いながら、人間ドックや保健指導、運動指導などを受けられるサービスも登場しています。社員がこうしたサービスを受ける可能性がある場合、福利厚生として会社負担にするのか、社員の意思に任せて個人負担にするのかも決めておきましょう。

5 必要に応じて就業場所や対象者、使用機器などを制限する

ワーケーションの就業場所は、

原則として社員が自由に選択できるようにしつつ、「集中できなかったり、セキュリティーに問題があったりする場所は認めない」というのが基本

です。例えば、不特定多数が出入りし、パソコンの画面を見られる恐れがある場所は不適切です。どこまでやるかは会社次第ですが、参考として紹介すると、

始業前に就業場所の状況を映せるコミュニケーションツールを使用して、上司の承認を得ている会社

もあります。

また、ワーケーションの対象となるのは、

ある程度自立して業務を遂行できる社員

です。このあたりも会社次第になりますが、例えば、就業規則で「能力や勤務態度を考慮して、所属長が承認した者を対象とする」などと定めておき、事前にワーケーションの就業場所や期間を申請してもらう形にすると、管理がしやすくなります。

ワーケーション中に使用する機器については、

会社が貸与するパソコンやWi-Fi端末を利用させるのが基本

です。私物のパソコンなどの利用を認める場合は、

  • 会社指定のセキュリティーソフトをインストールさせる
  • フリーのWi-Fiには接続させないようにする

などの対策を取りましょう。Wi-Fi環境を整備しているホテルなどは多くありますが、セキュリティーの強度が異なるので、社員には会社から貸与したモバイルルーターなどを使用させるのが無難です。対策の詳細については、総務省の資料などが参考になります。

■総務省「テレワークセキュリティガイドライン(第5版)(令和3年5月)」■
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/cybersecurity/telework/

以上(2024年6月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:pixabay

Z世代のトリセツ イマドキの若手社員を指導する際に知っておくべき3つのポイント

書いてあること

  • 主な読者:入社1~3年目のZ世代の若手社員を指導する上司
  • 課題:Z世代には、これまでの指導法が通用しない……
  • 解決策:「対面の指導を望む」など、Z世代の特徴を踏まえた指導をする

1 Z世代の若手社員向けに指導をアップデート

入社1~3年目の若手社員は、いわゆる“Z世代”(1990年代半ば~2010年代初頭生まれ)と呼ばれ、ようやく戦力になった“ミレニアル世代”(1980年代~1990年代半ば生まれ)とは違う価値観を持っています。

日本能率協会マネジメントセンター「イマドキ新入社員の仕事に対する意識調査2023」(以下「調査」)によると、Z世代の若手社員は、上司の指導に関して次のニーズを持っています。

  • デジタルネイティブだけど対面での指導を望んでいる(社内の人間関係が大切で、自分のことを認めてほしい)
  • 自分が納得のいく方法で指導してほしい(自分らしく、自分のペースで取り組みたい)
  • うまくいかなかった経験から学びたいが、失敗はしたくない(無理のない範囲で成長したい)
  • 時には厳しい指導も望むが、理由や目的を明確に伝えてほしい(きちんと納得した上で、指導を受け入れて成長したい)

この記事では、Z世代の若手社員(以下「Z世代 」)の特徴を捉えた指導法を紹介します。

2 指導で押さえておくべき3つのポイント

1)遠慮せずに対面でコミュニケーションを取る

Z世代は、対面での指導を望む傾向があります。調査でも「報告・連絡・相談をするのに、有効と感じるのは対面とチャットツールのどちらか」という質問に対し、74.4% が「対面」を望んでいます。この点を踏まえると、リモートワークをしている会社でも、上司は伝えるべきことは対面で伝えることが大切です。

また、「これくらいは分かっているだろう」と放置せず、「ここは理解している?」と細かく確認しながら、必要な指示を出すようにします。さらに、Z世代が理解した指示の内容を言葉で表現してもらうと、確認できるので確実です。

「任せた」「やっておいて」という言葉にも注意しましょう。上司からすれば期待を表現した言葉であり、Z世代にとってもやりがいがあるはずです。しかし、共有すべきことが共有されていないと、互いにイメージと違ったアウトプットになり、ストレスが高まります。もしもZ世代からアウトプットされた仕事が上司のイメージと違った場合は、きちんと認識に齟齬(そご)があったことを認め、丁寧に説明した上で修正を依頼することが必要です。

2)無理をさせず、じっくりと育てる

Z世代は、まずは自分の能力の範囲で仕事をしたいと考えています。調査でも「自分自身が成長することについて、どのように考えるか」という質問に対し、53.9%が「無理のない範囲で業務に取り組みたい」と回答しています。この点を踏まえると、上司は大きく構えてZ世代と接する必要があります。

例えば、Z世代から「ちょっと難しいです」「期限に間に合いそうにないです」と言われると、上司はむっとしてしまいますが、Z世代は「今の実力ではまだ難しい」ということを真剣に上司に訴えているだけです。部下の成長を望むのが上司ですが、そこは焦らず、少しずつ難しい仕事や、量の多い仕事を任せるようにしてみましょう。

また、調査では「新しい知識やスキルを身につけることは重要か」という質問に対し、「YES」と答えたZ世代が86.0%います。これは、ミレニアル世代(80.7%)よりも高い数値です。無理をしたくないだけで、「学びたい、成長したい」という意欲自体はZ世代は十分に持っているので、働きぶりを見ながらゆっくりと業務の幅を広げていくとよいでしょう。

3)いつの時代も? 褒めると伸びるタイプ

Z世代は、褒められながら成長したいという傾向があります。調査でも「自分はどのように指導されることで、成長していけると考えるか」という質問に対し、65.7% が「できている点に目を向け、褒めてもらう」ことを望んでいます。この点を踏まえると、上司は、ささいなことでも、きちんと褒める配慮が必要です。

Z世代は、まだ自分の仕事に自信が持てていません。Z世代が1つの仕事を終えても、上司から何も言われずにすぐに次の仕事を振られてしまうと、「本当にこれでよかったのか」という不安が生じます。この気持ちが続くと、Z世代は「自分はあまり期待されていない」と思うようになり、上司の言葉も次第に響かなくなってしまいます。そこで上司は、

Z世代の仕事や仕事ぶりに良い点を見つけたら、積極的に褒める

ようにします。その際、褒める基準を明確にします。特に、Z世代は失敗を恐れる傾向が強いので、成否を問わず挑戦に対して褒めるようにします。

一方、重大な過失に関しては、50.8%のZ世代が「二度と同じ失敗をしないためにも、本気で厳しく叱ってもらいたい」と回答しており、必要に応じて厳しい指導も望んでいます。しかしその際、Z世代が厳しく指導される理由を納得できるように説明する必要があります。例えば、「悪かった点とその理由を具体的に伝える」「不明な点は確認する(決め付けない)」「過去のミスや人格などに話を発展させない」「人前で叱らない」などを踏まえた上で指導すれば、Z世代は成長のために不可欠なものとして受け入れてくれることでしょう。

以上(2024年6月更新)

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画像:unsplash

中小企業は「宣言」してつかみ取れ!補助金の加点やイメージアップにつながるお得な宣言

書いてあること

  • 主な読者:自社PRや補助金獲得のため、何らかの「宣言」をしてみたい経営者
  • 課題:世の中にどんな宣言があって、どんなメリットがあるのかを確認したい
  • 解決策:まず自社の経営課題と社会の要請に合致した宣言を考える。宣言を後押しする公的機関や団体などに申請して支援を受ける

1 積極的な「宣言」が成長のチャンスを生む

「パートナーシップ構築宣言」や「SECURITY ACTION(セキュリティ対策自己宣言)」など、世の中にはさまざまな「宣言」があります。これらは簡単に言うと、

企業が社会的責任などを果たす上で、「何に取り組んでいるのか」を端的に表すもの

です。宣言に伴い付与されるロゴマークなどが自社PRに役立つのはもちろん、宣言に取り組むことは “企業が成長するきっかけ”にもなります。なぜなら、宣言するまでの過程で、

  • 自社には、どのような課題があるのか
  • 課題を解決するには、どのような目標を立てればいいのか
  • 目標を達成するには、どのような取り組みが必要なのか

などに、真剣に向き合うことになるからです。また、宣言の中には

補助金の加点などの優遇措置を受けられたり、あるいは宣言すること自体が補助金申請の必須要件になっていたりするもの

もあります。この記事では、中小企業が行うさまざまな宣言の中から、

  • 補助金の加点や融資金利の優遇などにつながる宣言
  • イメージアップ、人材獲得や取引拡大などにつながる宣言

について紹介します。

2 補助金の加点や融資金利の優遇などにつながる宣言

1)「パートナーシップ構築宣言」(中小企業庁)

パートナーシップ構築宣言は、

企業が「サプライチェーン全体の共存共栄、下請事業者との取引の適正化などに取り組むこと」を発注者側の立場から宣言するもの

です。宣言するには、

  • サプライチェーン全体の共存共栄と規模・系列等を超えた新たな連携(企業間の情報共有や連携、IT実装支援やサイバーセキュリティ対策、専門人材マッチング、グリーン化、健康経営など労働環境に関する取り組み)を図ること
  • 下請中小企業振興法に基づく「振興基準」を遵守すること

が必要です。宣言すると、

政府、自治体などのさまざまな補助金の加点措置や優遇措置が受けられる

ようになります。また、

次のロゴマークの使用が認められ、宣言企業であることをアピールできる

ようになります。

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なお、「宣言」は全国中小企業振興機関協会が運営するポータルサイトに掲載されますが、掲載後に指導・助言を受けるなど、宣言を履行していないと認められた場合、掲載が取りやめになることもあるので注意が必要です。

補助金の加点などの優遇措置については次のウェブサイトをご確認ください。

■「パートナーシップ構築宣言」ポータルサイト 宣言するメリット■
https://www.biz-partnership.jp/merit/index.html

2)「SECURITY ACTION(セキュリティ対策自己宣言)」(情報処理推進機構)

SECURITY ACTION(セキュリティ対策自己宣言)は、

中小企業が「情報セキュリティ対策に取り組むこと」を宣言するもの

です。取り組み目標に応じて「★一つ星」と「★★二つ星」のロゴマークがあります。

宣言するには、中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン付録の

  • 「情報セキュリティ5か条」に取り組むこと(★一つ星)
  • 「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」で自社の状況を把握したうえで、情報セキュリティポリシー(基本方針)を定め、外部に公開すること(★★二つ星)

が必要です。取り組み目標を決めて、自己宣言者サイトから申請をすると、1~2週間程度でロゴマークの使用方法が伝えられます。

宣言すると、

「IT導入補助金」「事業承継・引継ぎ補助金(経営革新)」「事業再構築補助金(サプライチェーン強靭化枠)」などの申請ができる

ようになります(宣言が申請要件の1つになっています)。詳しくは次のウェブサイトをご確認ください。

■SECURITY ACTION 自己宣言を申請要件などにしている補助金・助成金一覧■
https://www.ipa.go.jp/security/security-action/requirement/requirement.html

3)「健康企業宣言」(全国健康保険協会(以下「協会けんぽ」)各支部)

健康企業宣言(健康宣言とも。協会けんぽの支部によって名称が異なる)は、

企業が「健康経営に取り組むこと」を宣言するもの

です。宣言するには、協会けんぽの各支部が定める取り組みを実施します。支部によって内容が異なりますが、例えば、東京支部の場合、

  • (STEP1)健診受診率を100%にして、特定保健指導の活用を宣言した上で「健診結果の活用」など6つの項目に取り組むこと
  • (STEP2)「健診・重症化予防」「メンタルヘルス対策」など6つの項目に取り組むこと

が必要です。

宣言すると、

支部ごとに設定された、さまざまな特典やサポートが受けられる

ようになります。例えば、東京支部では東京信用保証協会の信用保証料率の優遇が受けられたり、健康経営の専門家「健康経営エキスパートアドバイザー」の派遣を無料で受けられたりします。詳しくは次のウェブサイトをご確認ください。

■協会けんぽ東京支部「健康企業宣言®とは」■
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/shibu/tokyo/cat070/collabo271210-1/

4)エコリーフ宣言・CFP宣言(サステナブル経営推進機構)

エコリーフ宣言とCFP宣言は、

企業が「製品のライフサイクル全体について環境負荷を削減すること」を宣言するもの

です。複数の環境側面における負荷の削減について宣言するのがエコリーフ宣言、地球温暖化における負荷の削減について宣言するのがCFP(カーボンフットプリント)宣言です。どちらの宣言も、「SuMPO環境ラベルプログラム」という環境負荷の削減に向けたプログラムの一環です。

宣言するには、

  • 「PCR(製品カテゴリールール)」を選定・策定すること
  • PCRにのっとり、プログラムが提供する算定ツールを用いて環境に対する影響を定量的に評価すること(LCA(ライフサイクルアセスメント)算定)
  • プログラムに第三者検証員の検証を受けること
  • プログラムのウェブサイトで情報公開をすること

が必要です。宣言すると、

「ものづくり補助金」の加点措置が受けられる

ようになります。詳しくは次のウェブサイトをご確認ください。

■ものづくり補助金総合サイト 公募要領■
https://portal.monodukuri-hojo.jp/about.html

3 イメージアップ、人材獲得や取引拡大などにつながる宣言

1)知的障がい者フレンドリー宣言(Lean on Me)

知的障がい者フレンドリー宣言は、

企業が「知的障がいのある人が活躍できる社会づくりに取り組むこと」を宣言するもの

です。運営会社のLean on Me(大阪府高槻市)は、障がい者支援者向けのe-ラーニング教材の提供などをしている会社で、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)におけるアドバイザリー契約を結んでいます。

宣言するには、

  • 知的障がい特性理解のための研修を実施する(年1回以上)
  • 知的障がいのある人を雇用している
  • 知的障がいのある人が関わるチャリティーイベントに協賛する
  • 知的障がいのある人が関わるチャリティーイベントにボランティア参加する

の4つのフレンドリーアクションのうち、1つ以上の活動に取り組むことが必要です。

宣言すると、

知的障がい者フレンドリーカンパニー特設サイトに登録され、フレンドリーカンパニー専用バナーを使用できる

ようになります。詳しくは次のウェブサイトをご確認ください。

■知的障がい者フレンドリーカンパニー■
https://leanonme.co.jp/friendlycompany/

2)ISO自己適合宣言

ISO自己適合宣言は、

企業が「国際標準規格ISOに基づくマネジメントシステムを運用していること」を宣言するもの

です。多くの企業は、ISO認証を取得するために、日本適合性認定協会(JAB)が認定した適合性評価機関の審査を受けていますが、ISO9001やISO14001などのマネジメントシステムについては自己適合宣言も認められています。

宣言するには、

ISOに基づくマネジメントシステムの構築・運用が適合していること

が必要です。ただし、実際には、それだけでは信頼度が低いため、

初回は適合性評価機関を通じて認証を取得し、更新する際に外部の第三者機関に適合を証明してもらう検証審査を基に自己宣言に切り替える方法

も取られています。

宣言すると、

適合性評価機関による審査を受けるのと比べて、費用を抑えることができる

ようになります。第三者機関の審査を受ける場合も、「SDC検証審査協会」のような非営利法人に依頼することで費用を抑えられるでしょう。詳しくは次のウェブサイトをご確認ください。

■SDC検証審査協会■
https://www.v-sdc.jp/iso/

3)認知症バリアフリー宣言(日本認知症官民協議会)

認知症バリアフリー宣言は、

企業が「認知症やその家族の人が地域で安心して暮らしていくために、生活のあらゆる場面での障壁を減らしていくこと」を宣言するもの

です。

宣言するには、

  • 社内の「人材の育成」
  • 行政、他業種などとの「地域連携」
  • 認知症の家族をサポートできる社内制度
  • 顧客が利用しやすいサービス・店などの環境整備

の4つに継続的に取り組むことが必要です。

宣言すると、

認知症バリアフリー宣言ポータルのウェブサイトに宣言内容が掲載されるとともに、ロゴマークが提供され、自社での広報活動に活用できる

ようになります。詳しくは次のウェブサイトをご確認ください。

■認知症バリアフリー宣言ポータル■
https://ninchisho-barrierfree.jp

4)SDGs宣言

SDGs宣言は、

企業が「SDGs(持続可能な開発目標)の17項目に取り組んでいること」を宣言するもの

です。他の宣言のように所管の機関があるわけではなく、あくまで自主的に行う宣言です。

細かいルールはありませんが、宣言するには、次のような項目をまとめる傾向にあるようです。発信の方法については、すでに実施している企業を参考にするとよいでしょう。

  • 宣言文
  • 自社の取り組みと、それに関連するSDGs目標(17項目のうちのいずれか)
  • 宣言の公表日
  • SDGsの説明

宣言すると、

SDGsのロゴやアイコンを使える

ようになります。これらは国連広報センターのウェブサイトからダウンロード可能です。ただし、資金調達や販促用商品などの商業用途に使う場合は、あらかじめ国連に許諾申請する必要があります。なお、自社のSDGs関連活動など、会社資料や社内報といったものに使う場合は、許可を取る必要はありません。詳しくは次のウェブサイトをご確認ください。

■SDGsのポスター・ロゴ・アイコンおよびガイドライン■
https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/sdgs_logo/

また、多くの自治体ではSDGs宣言を募集して、情報提供やPRなどを支援しています。支援制度を利用したい方は、各自治体のウェブサイトをご確認ください。

以上(2024年6月更新)

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物流業2024年問題。人手不足を解決するための働き方改革のポイント

書いてあること

  • 主な読者:「物流業2024年問題」に危機意識を持っている経営者・人事労務担当者
  • 課題:長時間労働を改善したいが、業界慣習などもあってどう対応していいか分からない
  • 解決策:業務のDX化や配置転換、新卒採用などに取り組んでみる

1 物流業2024年問題をどうやったら乗り切れるのか?

物流業2024年問題とは、

働き方改革関連法によって、2024年4月1日から物流業にも「時間外労働の上限規制」が適用されたこと

による影響で起こる問題です。具体的には、時間外労働について「原則1カ月45時間、1年360時間までを上限とする」などの規制を設けるものです。

物流業の1カ月の所定外労働時間(就業形態計、年平均)は、2004年から2023年にかけての20年間、「調査産業計の約2倍」という状態が続いており、業界全体で長時間労働が慢性化している中、規制の適用を受けるようになった形です。

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物流業の場合、例えば、

  • 点呼や運行日報の記入などを人力で行っているケースが多い
  • 長時間の運転時間の他、荷待ち時間が発生したり、本来依頼になかった荷役作業を急ぎで依頼されたりすることが多い
  • 労働時間が不規則で年次有給休暇が取りにくいなどの理由から、若手が入りにくい

といった事情から、長時間労働に陥りやすい傾向があります。そこで、この記事では、物流業2024年問題を乗り切るためのポイントとして、次の2つを紹介します。

  • 時間外労働の上限規制の内容を押さえる
  • 業務のDX化や配置転換で長時間労働を是正する

2 時間外労働の上限規制の内容を押さえる

まずは、時間外労働の上限規制の内容を正確に押さえましょう。そもそも

時間外労働とは、法定労働時間(原則1日8時間、1週40時間)を超える労働のこと

です。本来、社員は法定労働時間しか働けませんが、会社が社員の代表(過半数労働組合または過半数代表者)と通称「36(さぶろく)協定」と呼ばれる労使協定を締結し、所轄労働基準監督署に届け出れば、原則36協定に定めた時間数の範囲内で社員に時間外労働を命じられます。

法改正前は、社員に命じられる時間外労働の時間数について具体的な上限が定められていなかったのですが、物流業の場合、2024年4月1日から図表2のように上限が設定されました。

画像2

2024年4月1日以降、物流業の時間外労働は「原則1カ月45時間、1年360時間まで」となり、臨時的・特別な事情がある場合も「1年960時間」が上限となりました。この上限規制は、

2024年4月1日以後に効力が発生する36協定について適用

されています。2024年3月31日以前に効力が発生した36協定がまだ有効な場合、その協定に定めた有効期限までは時間外労働の上限規制は適用されず、次に締結する36協定から適用されます。違反すると、労働基準法により、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象になります。

ここまでが時間外労働の上限規制の内容ですが、物流業の場合、上限規制に加えてドライバーの拘束時間や休息期間などを定めた「改善基準告示」も守らなければいけません。違反すると、貨物自動車運送事業法により、行政処分(警告、車両の使用停止、事業停止など)の対象になります。改善基準告示は、「トラック運転者」「タクシー・ハイヤー運転者」「バス運転者」についてそれぞれ定められていて、トラック運転者の場合は図表3のようになります。

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3 業務のDX化や配置転換で長時間労働を是正する

中小企業クラスの物流業における、時間外労働の削減に関する取り組み事例を紹介します。

1)ドライバーの点呼や運行日報の記入を自動化

物流業では、安全運転の徹底のため、運行管理者がドライバーの出発前や帰社後に点呼を取り、健康状態や呼気中のアルコール濃度をチェックすることが欠かせません。ですが、この業務にかかる時間は、DX化によって削減できる可能性があります。

例えば、ある会社は、各営業所に設置したロボットが、ドライバーの健康状態やアルコール濃度のチェックを自動で行い、運行管理拠点にデータを送る形で点呼を行っています。

ロボットが点呼を行うことで、運行管理者がドライバーと対面する必要がなくなり、作業時間を大幅に削減できる

ようになったそうです。

また、この会社では、運行日報の記入の自動化も実施しています。運行日報は手書きが当たり前という会社も多いですが、

「デジタルタコグラフ(デジタコ)」を使い、運転時の速度・走行時間・走行距離などを自動で記録できるようにする

ことで、ドライバーの負担を軽減しているそうです。

2)セーフティーレコーダーで荷待ち時間を削減

ドライバーの長時間労働が慢性化しやすい原因の1つに、荷物の積み下ろしが終了するまでドライバーが待機する「荷待ち時間」の問題があります。

例えば、ある会社は、ドライブレコーダー機能とデジタコ機能が一体になったセーフティーレコーダーを全車に導入し、車両の速度、走行時間、走行距離などを分析することで、荷待ち時間がどの程度発生しているのかを突き止めました。さらに、

荷待ち時間を可視化したデータを顧客に見せ、荷待ち時間短縮の協力を仰ぐ

ようにし、配送ルートの見直しも併せて行うことで、時間外労働の削減に成功したそうです。

3)高齢ドライバーを事務職に配置転換し、効率の良い配車を

どの会社でも従業員の高齢化は大きな課題ですが、物流業においては特にその傾向が強いです。経験豊かなベテランは会社にとって戦力の要ですが、一方で人間の身体機能は年齢とともに低下していくため、高齢化とともにドライバーが事故に遭うリスクも高まっていきます。

例えば、ある会社は、こうした高齢のドライバーをあえて「事務職」に配置転換することで、事故のリスクを減らすとともに、働き方改革に成功しました。「経験豊かなベテランを現場から外して大丈夫なのか?」と思うかもしれませんが、

ドライバーの仕事内容を細かく把握しているからこそ、配車が効率良く行える

という側面があり、結果的に職場全体の時間外労働の削減につながったそうです。例えば、どのサイズのトラックなら現場に入れるかなどを細かく顧客とやり取りしながら、ドライバーの仕事を決められるといった具合です。

4)「あえての新卒採用」に取り組む

中小企業の場合、ドライバーは中途採用が基本です。トラックの運転免許については、大型免許であれば原則21歳以上、中型免許であれば原則20歳以上といった具合に年齢要件が高めに設定され、なおかつ一定の運転経験が受験資格に含まれているため、新卒採用に取り組みにくい面があります。ただ、人手不足と高齢化の中、そんなことばかり言ってもいられません。

例えば、ある会社は、「いつまでも若手を入れないわけにはいかない」と考え、

物流業のいわゆる3K(きつい、汚い、危険)のイメージを取っ払い、新卒の人にも興味を持ってもらえる会社づくり

に取り組みました。業界未経験者であっても会社が費用を出して免許を取ってもらう形を整え、労働時間が不規則で年次有給休暇が取りにくいという課題を解決するため、年5日の計画年休制度も導入するなどした結果、高卒のドライバーの新卒採用に成功しました。また、従業員のユニフォームを清潔なデザインに一新したり、社内にパウダールームを設けたりすることで、女性の新卒採用にも成功し、人材の確保・育成を継続しているようです。

以上(2024年6月)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)

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事業再構築補助金の採択事例から見る、新規事業開発のヒント

書いてあること

  • 主な読者:新分野展開、業態転換、業種転換などのヒントをつかみたい経営者
  • 課題:ちまたに情報があふれていて、どれが自社に合っているか分からず、コストも心配
  • 解決策:「事業再構築補助金」の採択事例に注目し、補助金をもらいながら事業を見直す

1 事業再構築補助金はビジネスヒントの宝庫?

経営者は、会社を成長させるために、常に新しい事業の可能性を模索しています。ただ、ビジネスが複雑化し、目まぐるしいスピードで変化し続ける昨今は、会社の方向性を見定めるのも一苦労です。そんなときにヒントとなるのが、

中小企業が思い切った事業再構築(新分野展開、業態転換、業種転換など)に取り組むことを支援する「事業再構築補助金」

です。

本来は、コロナ禍で商品・サービスの需要や売り上げが減退した中小企業を救済するための補助金ですが、その採択事例の中には、今の時代に新たな取り組みにかじを切ろうとする経営者にこそ見てほしいものがあります。

国が、今後どのような中小企業の取り組みを支援し、どのような産業や業種・業態を後押ししようとしているのかを測る指標にもなるので、事例を知っておいて損はありません。

この記事では、事業再構築補助金の今後の動きを紹介しつつ、これまで採択された数多くの事例のうち、いくつか汎用性のありそうなものをピックアップして紹介します。

2 国が「成長を見込む」業種・業態とは

事業再構築補助金について今押さえておきたいトレンドが、

第12回公募における類型の見直しから生まれた「成長分野進出枠」

です。これはさらに「通常類型」と「GX進出類型」に分かれています。

まず、

通常類型は、過去~今後のいずれか10年間で、市場規模(製造品出荷額や売上高など)が10%以上拡大する業種・業態への新規参入などを支援するもの

です。

具体的には、国が経済産業省の統計データを基に選出した109種の他、各業界団体から客観的なデータを募って選出した38種が対象です(2024年5月7日時点)。38種には宇宙機器産業やリチウムイオン蓄電池の製造関連、キャンプ場・グランピング施設宿泊業、eスポーツ興行などがあり、こうした対象業種・業態のリストを見るだけでも、今後新規事業や参入を考える際の参考になります。

また、

GX進出類型は、「2050年カーボンニュートラル(2050年までに二酸化炭素の排出を実質ゼロとする取り組み)」の実現に当たり、成長が期待される産業(14分野)について、研究・技術開発や人材育成を行う中小企業を支援するもの

です。

14分野は洋上風力・太陽光・地熱産業や水素・燃料アンモニア産業といった次世代エネルギーの開発から、自動車・蓄電池産業といった製造分野、住宅・建築物・次世代電力マネジメントなど多岐にわたります。

成長分野進出枠は、国が今後成長を見込み、後押ししていこうと考えている業種・業態が対象となっています。事業再構築補助金ウェブサイトでチェックしておくとよいでしょう。

■事業再構築補助金ウェブサイト■
https://jigyou-saikouchiku.go.jp

上のURLをクリック後、

  • 「通常類型」については、「2023.09.13 第11回公募以降の成長枠対象業種・業態リストの公開について」
  • 「GX進出類型」については、「2022.04.19 グリーン成長枠の想定事例集について」

に進むと、それぞれの対象となる業種・業態を確認できます。

3 採択事例から見る新規事業開発のヒント

1)自社の遊休地を活用してドッグラン・グランピング複合施設をオープン

自社のリソースをそのまま活用して、新しい分野での事業展開に成功した会社の事例です。

この会社は、建設会社向けの機械のリースなどを手掛けてきましたが、コロナ禍の影響に加え、大手レンタル会社が業界に参入してきたことなどで、営業赤字が続いていました。そこで

事業再構築補助金を活用し、機械のストックヤード用の遊休地に全天候型のドッグランコートを備えたグランピング施設をオープン

しました。

既存の事業の資産、人材、ノウハウなどをそのまま活用することで、施設内の機器の導入費やメンテナンス費用が抑えられ、低価格でサービスを提供できています。しかも、元々首都圏とつながる高速道路のインターチェンジより数分という好立地にあるため、競合他社との差異化も図れています。

コロナ禍以前からあったグランピングの需要と、コロナ禍で高まったペットという孤独を癒やしてくれる存在の需要、その両方を取り込んだ事例といえます。

2)鉄工職人の技術を活かしてアウトドア製品を開発

これまで培ってきた専門技術を活かして、新しい分野に挑戦した会社の事例です。

この会社は、水門などの水利設備を製造してきましたが、コロナ禍の影響に加え、水利設備工事自体が、新しいものを建造するより既存のものを長寿化させる方向へとシフトしてきたこともあって、売り上げの確保が厳しくなっていました。そこで、

事業再構築補助金を活用し、在籍する鉄工職人の技術を生かしたアウトドア製品を開発

しました。

2年以上の歳月を費やして開発したのは、アウトドア用の窯・コンロ一体型グリル。オーブン調理とバーベキューを一度に楽しめるようにした製品です。水門設備にも使っているステンレス素材を採用して、耐久性が高くて熱効率の良い設計、組み立ての必要がない手軽さなど、鉄工職人の熟練技術を活かした製品となっています。

従来のビジネスのノウハウをコロナ禍でも好況だったアウトドア市場に横展開し、注目を集めた事例といえます。

3)高度な技術力で別分野に進出

これまで特殊分野で培ってきた高い技術力を活かして、対面で調整する必要が少ない部品の受注生産への新規参入に挑戦した会社の事例です。

この会社は、ミクロン単位の超高精度の切削加工技術を持ち、航空・宇宙、自動車、半導体、建設機械などさまざまな分野で、小ロットの特注品や、産業機器の試作開発を得意としてきました。しかし、コロナ禍では対面での細かな調整や確認が難しくなったことで多くのプロジェクトが停滞、新規案件も激減してしまいました。そこで、

事業再構築補助金を活用して、対面のやり取りが発生しづらい超高速鉄道用の部品製造事業にも参入

することにしました。

超高速鉄道用の部品は、あらかじめ指定されたスペックに基づいて製造するので、試作品を作るときのように何度も現場でやり取りする必要がありません。さらに、品質が顧客から認められれば、長期にわたって安定した取引ができます。

自社の強みを活かせる事業として、コロナ禍の状況でも対応できる堅実な成長産業に新規参入した事例といえます。

4)発泡プラスチック成形機の製造から電気自動車分野に参入

自社の強みとする素材の加工技術を活かして新規の事業分野に参入し、さらに参入市場にそれまでなかった新しいニーズをもたらした会社の事例です。

この会社は、発泡樹脂成形品の成形機や金型の設計・製造、発泡樹脂製品の断熱材や家電の部品、自動車の内装部材などを手掛けてきました。ですが、これらの商材は、プラスチック使用量の削減や、新築住宅戸数の減少などで需要が減ってきていました。そこで、

事業再構築補助金を活用して、これまでの成形加工技術と金型設計ノウハウを生かせる電気自動車向けバッテリーケースの製造分野に参入

することにしました。

電気自動車向けバッテリーケースは、円筒型やパウチ状などさまざまな形状があるため、高精密の特殊な金型や、機械制御の技術が要求されます。これまで多様な高機能発泡製品を原料の性質に合わせて製造してきた技術を活かし、この課題に対応した成形機を設計・導入します。また、従来のバッテリーケースはスチール製のため、重量や電池安定性の問題、漏電・発火事故などのリスクがありましたが、発泡樹脂製品に置き換えればそれらの課題も解消できます。

電気自動車分野と一口に言っても関連部品は多く、市場の要求に耳を傾けることで新規事業につながった事例といえます。

5)化石燃料と新エネルギーの両方を取引先にして経営を安定化

従来の事業分野が縮小していくのに伴い、その代替として成長している事業分野にも参入した事例です。

この会社は、国内の火力発電所を中心とするプラントに工業用弁やバルブを提供してきました。バルブメーカーにとって、近年の化石燃料依存から脱却していく方針や、再生可能エネルギー推進の動きは、ビジネス上の脅威といえます。そこで、

事業再構築補助金を活用して、エネルギー産業機械部品などの加工分野に参入

することにしました。

新規事業として考えられたのは、火力発電の代替となる新エネルギー分野の部品です。原子力発電所の弁遠隔操作装置の微細加工や、水素関連設備用機器の製作などです。これまで高く評価されてきた製造技術と品質管理能力を活かし、迅速さと低コストを武器に勝負を懸けました。

同一市場の中でも、縮小傾向の事業と拡大傾向の事業を両立させると、バランスのいい事業ポートフォリオを構築できるかもしれないというヒントを与えてくれる事例です。

6)工具メーカーが医療機器産業へ参入

異業種同士の連携コーディネーターとの出会いから、従来の製品と全く違うジャンルの製品の開発・製造に取り組んだ事例です。

この会社は、製鉄工具や土木工具の独自開発・製造・販売を手掛けてきました。ですが、国内の製鉄産業は高炉数がどんどん減っており、成長が見込めないという状況でした。そこで、

事業再構築補助金を活用して、医療機器産業へ参入

することになりました。

意外な業界へ参入することとなったきっかけは、医工連携コーディネーター(注)との出会いです。これまで培ってきた技術力を活かし、外科手術に使う内視鏡スコープレンズの洗浄装置の開発に挑戦することを決めました。さらに、販売代理店や行政との連携によって販売を推進していきます。

異業種の方や業界をまたぐ人材との出会いは、ときに思いがけない事業転換のきっかけになるということが再確認できる事例といえます。

(注)優れた技術を持ち、医療機器産業への参入意欲のある企業と、医療機器の製造販売企業や臨床機関とのマッチングを支援できる人材のこと

7)ワーケーションのためのテレワーク対応ホテルを整備

コロナ禍によって需要が高まったワーケーション(リゾート地などに滞在しながらテレワークをすること)に対応した会社の事例です。

この会社は、自然豊かな土地でホテル業を営み、宿泊のみならず結婚式や宴会も手掛けていました。ですが、コロナ禍による影響で予約キャンセルが相次ぎ、売り上げの6割を占める結婚・宴会部門が特に甚大な影響を受けます。そこで、

事業再構築補助金を活用し、コロナ禍で需要が増えたワーケーション対応の宿泊施設を新たに整備する

ことを決めました。

施設の共有スペースには、モニター用の50型テレビや、FAX・コピー機などのオフィス機器を配置。ミーティングスペースも用意するなど、コワーキングに十分な設備をそろえています。さらに、共用のキッチンや大型冷蔵庫、コインランドリーも設置しており、長期の宿泊でも対応できるようにしました。

もともと取り組みたいと考えていたワーケーション事業の需要がコロナ禍で高まったタイミングをとらえ、うまく取り込んだ事例といえます。

8)とび職人たちがオリンピック競技BMXのパークを自社建設&自社運営

これまで受注施工してきた施設を、自社で企画から設置まですべて作って運営することで収益を上げている事例です。

この会社は鉄骨工事(とび・土工工事、鉄骨組み立て工事)を専門として、工事のプランニングから設計、施工までを一貫して受注しています。ですが、冬には閑散期となるため、どうしても経営が不安定な状況でした。さらに、コロナ禍による建設需要の低下も重なったころ、競技者との個人的な交流から生まれた構想を実現させる予定でした。そこで

事業再構築補助金を活用し、BMXパークの施工・運営に挑戦

しました。

BMXとはバイシクルモトクロス(Bicycle Motocross)の略で、2021年の東京五輪からは正式種目にも選ばれている自転車競技です。同社のある九州では雪が降らず、BMX競技が盛り上がれば冬場の安定収入となります。自社の名前でパークを運営しているため、公園などの施工を新たに受注・請負する上での宣伝効果も期待できます。

新規事業の成功が、新規受注にもつながる好循環を生み出せるという事例です。パーク運営となればチャレンジ性は高いですが、製品サンプルを作るという観点で考えてみると、応用できそうな企業は多いのではないでしょうか。

9)ゲストハウスが離婚家庭の親子の面会交流を支援

従来の稼働外時間を活用して、社会ビジネスを展開している事例です。

この会社は、元民家をリノベーションしてゲストハウスを運営していました。しかし、コロナ禍で宿泊客が激減してしまいます。そこで、

事業再構築補助金を活用し、アイドルタイム(宿泊客のいない時間)を活用する新しい取り組みとして「ペアレンティングハウス事業」を実施

しました。

ペアレンティングハウス事業とは、両親の離婚や別居によって離れ離れで暮らす親子の面会交流を支援するというものです。面会の承認・調整がアプリ上でできるシステムを構築して、親同士が直接連絡を取り合わなくても親子が会えるという環境を提供しています。また、全国のゲストハウスにも参加を呼びかけているようです。

社会問題に切り込んだビジネスは多くありますが、まだまだ新しい切り口が見つかるかもしれないと思わせてくれる事例です。

4 採択事例は今後も要チェック

事業再構築補助金では、その時々のビジネス環境の変化や、それに応じた応募枠の趣旨に合致した事業が採択されます。中小企業庁の技術・経営革新課にヒアリングしたところ、次の回答が得られました。

「事業再構築補助金は、コロナ禍における補助事業として始まりました。しかし、アフターコロナを迎え、今後は企業の成長支援に軸足をシフトし、ビジネスにおける新しい挑戦を応援するような採択事例がますます増えていくと考えられます。

 

なお、2023年11月までの調査において、採択された事業の13%が収益化に成功していることが分かっています。BtoBビジネスは収益化まで時間が掛かる傾向にありますが、それでも全体の56%が1回以上の販売実績を得ており、順調に効果が出ているといえます。

また、事業計画の達成率については、計画を上回っている事業者が多いのが、基礎素材型産業と加?組?型産業における製造業で、計画を下回っている事業者が多いのは飲食業となっています」(中小企業庁技術・経営革新課)

なお、これまで採択された事業のその後の展開については、経済産業省が次のウェブサイトで公表しています。

■経済産業省「事業再構築補助金」■
https://www.meti.go.jp/covid-19/jigyo_saikoutiku/index.html

以上(2024年6月更新)

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画像:Nuthawut-Adobe Stock

【事業承継】「事業承継計画書」を作成して計画的に進める

書いてあること

  • 主な読者:事業承継で大切なポイントを洗い出し、計画的に進めたい経営者
  • 課題:「事業承継計画書」を作成したいが、フォーマットや記載内容が分からない
  • 解決策:事業承継ガイドラインの様式を参考に、経営ストーリーなど独自の情報を追加する

1 「事業承継計画書」とは?

事業承継計画書とは、

文字通り、事業承継をどのように進めていくのかをまとめた計画

です。事業承継は中長期の取り組みなので、後継者候補がいる会社でも完了までに5~10年かかるとされています。

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事業承継を円滑に進めるためには、関係者の共通認識となる計画書があったほうがよいわけで、実際に後継者や従業員、銀行に事業承継計画を共有することが珍しくありません。また、「事業承継税制」や「事業承継特別保証」を利用する際も事業承継計画書が必要です。

この記事では、中小企業庁「事業承継ガイドライン」(以下「ガイドライン」)で紹介されているものを基本に、事業承継計画書に記載するとよい内容をまとめます。

2 ガイドラインにある「事業承継計画書」の様式

記入例付き(一部、筆者が表現を変更)で、ガイドラインにある「事業承継計画書」の様式を紹介します。空欄の様式は、中小企業基盤整備機構のウェブサイトからエクセル形式のファイルをダウンロードすることができます(2024年1月26日時点)。

■中小企業経営者のための事業承継対策■
https://www.smrj.go.jp/tool/supporter/succession1/

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ガイドラインにある「事業承継計画書」の様式は、事業承継に関する基本的な事項をまとめたものです。これを基本として、不足している情報は各社の実情に応じて追加していきます。追加したほうがよい情報の例を次章で紹介します。

3 「事業承継計画書」に追加したほうがよい情報

1)経営ストーリー

経営者がどのような思いで、何を最も大事にして会社を経営してきたのかを言語化し、テキストにまとめたり、動画を撮ったりします。事業内容は事業承継を機に変わるかもしれませんが、経営に対する思いの根本は受け継がれなければならないからです。

事業承継に当たり、現経営者と後継者はこうした話を何度もすることになりますが、後に後継者が振り返れるようにしておきます。

2)社内の関係者

事業承継に関わる関係者をまとめます。例えば、2人兄弟で長男を後継者とする場合、次男をどのようなポジションにする予定なのかについても明記します。平等にしようと兄弟の持株比率を同じにするのは好ましくなく、長男を後継者にするのであれば、長男に集中させます。

また、古参社員についてもリスト化します。事業承継に賛成の者も反対の者もいるはずであり、事業承継後の体制を安定させる上で重要な情報となります。

3)社外の関係者

社内の関係者と同様に、社外の関係者もまとめます。取引先、顧客、顧問契約をしている士業(税理士など)、銀行の担当者などとなります。また、現経営者が参加している交流会などに後継者も参加させるつもりなら、その主要メンバーもリスト化しましょう。

4)自社の経営環境

現経営者が分析する経営環境をまとめます。具体的には、自社が成長する機会や強み、逆に成長を阻む脅威や弱み、業界自体のライフサイクルなどとなります。事業承継後は後継者の見立てでビジネスを進めることになりますが、後継者としても現経営者がどのように考えていたのかは知りたいはずです。

5)社内の有資格者、許認可

会社経営に必要な社内の有資格者や許認可の状況も整理しておきましょう。後継者が自社の強みを把握するきっかけになりますし、資格更新などの抜け漏れを防ぐためでもあります。

4 中期経営計画との整合性

事業承継計画書は作ったら終わりというわけではありません。事業承継計画書は中期経営計画の一部として遂行されるものなので、収益計画などと整合性が取れていなければなりません。そうでなければ、事業承継計画書の関係者も納得できないでしょう。

また、中期経営計画は実績に応じて見直すこともあります。そうした際は事業承継計画書も確認し、必要に応じてこちらも見直さなければなりません。仮に自社株の評価が変わるような大きな業績の変化があったとすれば、それによって「資産の承継」の方針が変わってくることもあるからです。

以上(2024年5月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

【中堅社員のスピーチ例】初めて意識するようになった“機会損失”

私が昨年課長を拝命してから、約1年が経ちました。以前は自分1人で仕事をこなすだけでよかったのが、自分以外の誰かに仕事を振って部署を回していかなければならない立場になりました。誰かに指示をする管理職の仕事には、正直いまだに慣れません。ですが、自分なりに1年間課長を務めてみて、前より少しだけ成長したと思っている点もあります。それは会社に入って初めて“機会損失”を意識するようになったという点です。

例えば、フリーランスに仕事を頼む場合がそうです。コンテンツ制作会社である当社は、フリーランスのライターに、記事の作成やリライトを業務委託で依頼しています。フリーランスには「何時から何時まで働く」という就業時間のルールはなく、各々が1日の中で働く時間を決めて自由に働きます。一方、「1カ月に何時間まで稼働できる」という枠は決まっていて、この枠をしっかり有効活用するのが私の仕事です。

当社は小さな会社ですから、仮に1カ月に20時間まで稼働できるフリーランスに、10時間分しか仕事を頼まなかったら、残り10時間分の仕事は、社員が引き受けなければいけません。本来であれば他の仕事に割けたはずの10時間を失えば、それは“機会損失”です。だから、私はフリーランスが1つの仕事を完了させたら、間髪を入れずに次の仕事を依頼し、1カ月の稼働時間の枠を目一杯使うようにしています。もちろん、相手に負担をかけすぎないよう、配慮をした上でです。

今度は社内の話になりますが、部下に仕事を任せる際も“機会損失”に気を付けます。私が初めて持った部下は新入社員で、仕事にはまだ不慣れです。もちろん、1つの仕事をこなすのには時間がかかりますし、こちらで引き取ったほうが早く終わる可能性はあります。

ですが、それをやると、私が本来、他の仕事に割けるはずだった時間を失うことになります。だから多少時間がかかっても、部下に与えた仕事は信頼して任せます。ただし、部下が何かに困っていたら、その課題を解決するための指導の時間はしっかり確保します。これは“機会損失”ではなく、部下の成長のために必要な“投資”です。

と、ここまで偉そうに言ってきましたが、実は私の管理職としての仕事には甘いところが多々あります。フリーランスとの連携や、部下への指示など自分の目の届く範囲での“機会損失”には注意していますが、そもそも目の届く範囲が狭すぎるからです。私が気づかないうちに、誰かが私をフォローしてくれて、その人の“機会損失”が発生しているというケースはたくさんあるでしょうし、他にも多くの人の時間をムダにしていないかと心配しています。

今年度の私の目標は、「社内の皆の時間を大切にすること」です。そのためには、もっと視野を広くする必要があります。ですから皆さん、私が「全然周りを見られてないよ!」と思ったら、そのときは遠慮せずに言ってくださいね。

以上(2024年6月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

<新推計>2040年に584万人 経営者が考えておきたい「認知症対策」

書いてあること

  • 主な読者:認知症対策と併せて、会社の今後を考えておきたい経営者や経営者の親族
  • 課題:認知症になった場合には「成年後見制度」があるが、経営者の場合は株式の売買や贈与などの課題もある
  • 解決策:認知症になる前に「株式の信託」を行うのが有効。認知症は誰にでも起こりえる可能性があるので、早めに専門家に相談して準備を進めることが大切

1 2040年に認知症患者は584万人と推計

政府は2024年5月8日、65歳以上の高齢者の人口がピークを迎える2040年に、認知症患者が約584万人、認知症の前段階とされる軽度認知障害(MCI)の患者が約613万人に上るとの推計結果を公表しました(九州大学などの研究チームによる将来推計)。

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約10年前の同研究班による将来推計では、2025年に高齢者の約5人に1人(約700万人)が認知症を発症するという結果が出ていましたが、医療技術の発展や健康志向の高まりなどで過去の研究よりも推計値が下回っています。

それでも、経営者にとって認知症は他人事ではありません。2022年版「中小企業白書」によると、経営者の年齢が65歳以上(2020年時点)の企業が41.5%を占めており、司法書士である私たちの現場でも、日々寄せられる相談の中に、「認知症対策」に関わるものが多くなっていることを実感しています。

この記事では、経営者の認知症対策に関わるものとして「成年後見制度」の課題を整理した上で、「信託」について説明していきます。

2 認知症が会社経営に与える影響

経営者が認知症になってしまったら、会社経営にはどのような支障が出てくるのでしょうか。具体的には、次のような困難が生じます。

  • 経営者個人として、売買や贈与などの契約を締結することが難しくなる
  • 株主総会での議決権の行使など、株主としての権利を行使することができなくなる

こうした契約や権利行使など、いわゆる法律行為を行う場合には、

自分(ここでは経営者)自身の行為の結果が判断できる能力(意思能力)

が大前提として必要とされます。認知症になると、この能力を欠いた状態になってしまい、意思能力が十分でない者の法律行為は無効とされるのです。

3 経営者と成年後見制度の課題1:株式の自由な売買・贈与ができない

認知症になった方に対応する制度として、「成年後見制度」というものが設けられています。

成年後見制度とは、認知症などで判断能力が低下した本人に代わって、法律行為を行うことができる代理人(成年後見人)を選定するというもの

です。

成年後見人は、本人の財産について包括的な管理権・代理権を持っており、「本人のために」、本人に代わって法律行為を行うことになります。本人の利益を守るために有効な側面がありますが、経営者の方、もしくはその親族の方や会社にとっては、さまざまな課題がある仕組みともいえるのが実情です。ここでは、その課題を整理してみましょう。

よく相談を受けるのは、事業承継対策、相続対策のタイミングです。こうした局面でしばしば行われるのが、

コンプライアンスに沿いながら自社の株式の価額をなるべく下げて、その上で株式の譲渡を行ったり、贈与を行ったりしやすくする

という対策です。しかし、成年後見制度には

本人の保有する株式の譲渡などに制限がかかるというルール

があります。成年後見人は、あくまで「本人のため」に法律行為を行うため、安価で株式の譲渡を行ったり、贈与を行ったりすることは、本人にとって不利益となり、成年後見人の職務に反することになってしまうのです。特に、株式の贈与については無償での譲り渡しとなり、本人にとって損失でしかないと見なされてしまうことがほとんどで、法令上、まず認められません。

株式の自由な売買や贈与ができなければ、事業承継対策や相続対策が行えなくなってしまい、親族、会社に負担になるのではないか……というご意見もよくあります。しかし、成年後見制度の趣旨はあくまで「本人のため」であり、「親族のため」「会社のため」ではないのです。

4 経営者と成年後見制度の課題2:第三者が後見人となる

さらに、別の課題もあります。成年後見人は家庭裁判所で選ばれますが、裁判所の最新の統計によれば、選任される成年後見人のうち81.9%が親族ではない第三者(司法書士、弁護士、社会福祉士など)から選任されています(最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況―令和5年1月~12月―」)。逆に言うと、親族が成年後見人になるケースは18.1%であり

たとえ経営者本人の親族であっても、当たり前のように後見人に選任されるわけではない

ということです。司法書士や弁護士といった専門家が後見人に選ばれ、株式の権利について第三者であるその後見人が行使していくことになる場合のほうが多いのです。

ここで選ばれる司法書士や弁護士、社会福祉士などはおのおのの分野の専門家ではありますが、必ずしも会社経営のプロではありません。むしろ、

個別具体的な会社の経営事情について、何も分からないということも少なくない

でしょう。こうした第三者が株主として権利を行使する可能性があることを、経営者として見過ごせないという方も多いはずです(なお、株主間で会社の運営方針に対立があるような場合には、成年後見人は議決権を行使しないという選択を行うこともあり得ます)。

5 経営者の認知症対策:信託

経営者が認知症になった場合、現行の成年後見制度に沿って手続きが進んでいきますが、そこには幾つかの課題があるということを見てきました。こうした課題への対策の一つとして、株式の「信託」という手法があります。

信託とは、自分の大切な財産を信頼できる人に託し、自分が決めた目的に沿って、大切な人や自分のために運用・管理してもらうという仕組み

です。自分の財産を託す側の人を「委託者」、財産を託される側の人を「受託者」、財産から利益を受ける人を「受益者」と呼びます。

一般的な信託の仕組みは次の通りです。

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経営者の方(委託者)は、自分自身の保有する会社の株式を信託財産にして、信頼できる方を「受託者」とし、自らを「委託者」兼「受益者」として信託します。このように株式を信託すると、株式の管理権限は受託者に移るため、議決権は受託者が行使することになります。

なお、信託財産(この場合は自社の株式)に関して、受託者が行う管理・処分などについての指図をする「指図権者」を定めることができます。そこで、経営者の方は、自分自身を議決権行使の指図権者としておくことで、例えば次のようなことが可能になります。

  • 元気なうち:自分の指図によって受託者に議決権を行使させる
  • 認知症になった場合:受託者の判断によって議決権を行使してもらう

株式の信託後の権利関係は次の通りです。

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株式の信託後、委託者が認知症となった場合の権利関係は次の通りです。

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さらに、一連の信託契約の中で、経営者の方が認知症になった場合や亡くなった場合などの株式の承継方法、処分方法を定めることも可能です。

6 おわりに

以上、経営者の方が認知症になった場合に利用が可能な制度をご紹介させていただきましたが、判断能力を失う可能性があるケースというのは、何も認知症に限ったことではありません。年齢を問わず、不慮の事故や、大病を患うことで判断能力を失う場合もあります。

実際に周囲の経営者の方でも、不慮の事故によって意識不明の状態となってしまい、完全に会社の機能がストップしてしまったところや、30代でくも膜下出血により倒れた方もいらっしゃいます。

認知症や不慮の事故などで経営者が判断能力を失うことは、会社の機能を完全にストップさせてしまいかねません。そして、これは、どの経営者の方にも起こり得る問題なのです。

実際に経営者が判断能力を失ってしまった後では、打つ手は限られてきます。一方で、事前に対策を行っていれば、経営者の希望に沿った対策を立てやすくなり、対応がスムーズに進む可能性が高まります。認知症などによる判断能力の喪失は、誰しも起こる恐れがあることを意識して、対策を打っておくことが望まれるでしょう。

以上(2024年5月更新)
(執筆 杠司法書士法人 副代表 西本拓司、
司法書士法人ゆずりは後見センター 副代表 坂西涼)

【著者紹介】
西本拓司

司法書士。西本拓司
企業の法務顧問としての実績を多数持つ。コンサルティングファームや金融機関と連携した事業承継、M&Aに伴う法務の実務に多く携わっている。

坂西涼

司法書士。坂西涼
後見人としての活動にキャリアの最初から取り組み続け、識者として行政機関や介護事業者向けの研修、セミナーなどに登壇することが多い。

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