労働契約を締結する際、使用者は労働者に対し、労働条件を明示しなければなりません。有期労働契約の場合には、契約締結時だけでなく、更新のたびに明示が必要です。この労働条件明示のルールは、労働基準法第15条第1項に定められているもので、令和6年4月に改正されました。ここでは、新しく追加された明示事項や、正しく理解しておきたいことを、具体的にまとめます。
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【労基署の臨検】 監督官は書類のどこを見る? 36協定、労働条件通知書などのチェックポイント
書いてあること
- 主な読者:労働基準監督署の臨検監督について知りたい経営者、人事労務担当者
- 課題:事前対策を講じたいが、何をチェックすればいいのか分からない
- 解決策:まずは2024年4月法改正に関連する「36協定」「労働条件通知書」を確認、その他「就業規則」「法定四帳簿」「健康診断結果」などもチェック
1 2024年4月法改正で、労働基準監督署の動きが活発に?
会社が労働基準関係法令に違反していないかをチェックする
労働基準監督署(以下「労基署」)の臨検監督(以下「臨検」)
は、年に17万1528件実施されています(厚生労働省「令和4年労働基準監督年報」)。そして2024年度は、次の2つの法改正の関係で、労基署の動きがさらに活発になる可能性があります。
- 2024年4月から、建設業、自動車運転業務、医師、砂糖製造業(鹿児島県・沖縄県)にも「時間外労働の上限規制」が適用(いわゆる「2024年問題」)
- 2024年4月から、労働契約の締結時に、労働条件として明示する事項が追加
臨検では、労働基準監督官(以下「監督官」)が会社を訪問するなどして、36協定、出勤簿、賃金台帳、就業規則などさまざまな書類をチェックします。できれば、臨検が入る前にセルフチェックをしておきたいところですが、
監督官が書類のどこを見るか分からないので、対応ができない
という会社がほとんどでしょう。そこで、この記事では社会保険労務士監修のもと、労基署の臨検で指摘を受けやすい書類と、そのチェックポイントを紹介します
2 労基署の臨検で指摘を受けやすい書類は?
2022年に実施された臨検(17万1528件)のうち、大部分を占めるのは定期監督等(14万2611件)で、主に次のような違反が指摘されています(厚生労働省「令和4年労働基準監督年報」)。なお、赤字部分は、前述した2024年4月からの法改正に関連する項目です。
これらの違反は、主に監督官が次のような書類をチェックする過程で見つかります。まずは、2024年4月法改正に関係する「36協定」「労働条件通知書」から始め、順番に書類のチェックポイントを見ていきましょう。
- 36協定(社員に時間外・休日労働を命じる場合に必要な労使協定)
- 労働条件通知書(社員と労働契約を締結する際、労働条件を明示するための書類)
- 就業規則(社員数10人以上の場合、作成が義務付けられている職場のルールブック)
- 法定四帳簿(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿、年次有給休暇管理簿)
- 健康診断関連の書類(健康診断結果、医師の意見書など)
3 36協定のチェックポイントは?
36協定は、会社と社員側の代表(過半数労働組合や過半数代表者)が締結し、労基署に届け出ることで初めて効力を生じます。この社員側の代表についてですが、労基署の臨検では
監督官が一般の社員に対し、「誰が社員側の代表ですか?」「どうやって代表を選出しましたか?(例:多数決)」などと、抜き打ちで質問をするケース
があります。ですから、自社の36協定について正しい情報を社内に周知徹底しておきましょう。また、協定の有効期間は1年間ですので、更新を忘れていないかも要チェックです。
さらに前述した通り、2024年4月から、建設業などにも時間外労働の上限規制が適用されています。上限規制に違反する36協定の締結や残業命令は認められないので注意が必要です(図表2)。
4 労働条件通知書のチェックポイントは?
労働条件通知書は、社員を雇い入れる際などに必ず書面で交付する必要があります(ただし、社員が希望した場合はメールも可)。また、前述した通り、2024年4月からこれまでの労働条件と併せて、次の内容を明示することが義務付けられています。
- 「契約更新に関する事項」を記載する際、「更新上限」についても明示する
- 「無期転換に関する事項(新設)」を記載する際、無期転換の「申込機会」「転換後の労働条件」について明示する(通算契約期間が5年超のパート等が対象)
- 「就業場所」「業務内容」を記載する際、契約締結時の内容だけでなく、配置転換等の際の「変更範囲」も明示する
古い労働条件通知書のフォーマットを使い回している場合、早期に修正が必要です。なお、フォーマットを見直す際は、念のため次のような内容についても確認しておきましょう。
- 時間外労働が1カ月60時間を超える場合の割増賃金率が正しいか(2023年4月から、中小企業も「25%以上」から「50%以上」に引き上げられている)
- パート等の場合、「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」「相談窓口」も明示しているか(労働基準法ではなく、パートタイム・有期雇用労働法に基づく明示)
5 就業規則のチェックポイントは?
まず、社員が10人以上の会社なのに、就業規則がない(または作成しているが、労基署に届け出ていない)のは違法です。また、就業規則は社内に周知して初めて効力を生じるので、
テレワークの社員がいるのに、就業規則はオフィスに紙の状態でしか置いていない
というのもNGです。
加えて、労基署の臨検では、
法改正があったタイミングで、就業規則の変更と届け出がちゃんと行われているか
が厳しくチェックされます。ここ数年の法改正であれば、例えば次のような内容について、適正なタイミングで変更と届け出がちゃんとなされているかを確認しておきましょう。
- パワハラがあった場合の相談窓口について(2020年6月から)
- 育児休業の分割取得や出生時育児休業の取得について(2022年10月から)
- 時間外労働が1カ月60時間を超える場合の割増賃金率について(2023年4月から)
なお、就業規則を変更する際は、「就業規則本体」に加えて、「変更届」「社員側の代表(過半数労働組合や過半数代表者)の意見書」を労基署に届け出ます。これらについても労基署が受理の押印をした会社控えがあるか、確認しておきましょう。
6 法定四帳簿のチェックポイントは?
労働者名簿、賃金台帳、出勤簿の3つは「法定三帳簿」と呼ばれており、最近はこれに年次有給休暇管理簿を加え、「法定四帳簿」と呼ぶことがあります。いずれも、法令で定められた項目を記載の上、3年間保存することが義務付けられています。労基署の臨検では、
ほぼ必ず提出を求められる重要書類で、法令上必須の項目が記載されていないと、是正勧告の対象になる可能性が高い
ので注意が必要です(図表3)。
加えて、賃金台帳と出勤簿については、次のような点にも要注意です。
(賃金台帳)
- 長時間労働が続いているのに、「固定残業代だから」と残業代を一律支給にしているなど、違和感がある賃金台帳が提出されると、監督官から指摘が入ることがある
- 賃金から「積立金」「社宅料」などを控除している場合、労使協定の締結について指摘が入ることがある
- パート等を含め、時給が最低賃金を下回る社員がいないか確認されることがある(都道府県ごとの「地域別最低賃金」は、2023年10月から全国加重平均額で1004円)
(出勤簿)
- 「始業・終業時刻や休憩時間が一律」など、違和感がある出勤簿が提出されると、監督官から指摘が入ることがある(パソコンのログとの照合を求められることも)
- 始業前などに「清掃」や「制服への着替え」が必要な場合、その時間が労働時間に含まれているか確認されることがある
7 健康診断関連の書類のチェックポイントは?
会社は、社員を雇用した際の雇入時健康診断や、年1回の定期健康診断などを実施しなければなりません。労基署の臨検では、
- 各社員の健康診断結果を作成し、一定期間保存しているか(原則5年間)
- 「異常の所見」があった場合、健康診断をしてから3カ月以内に、就業上必要な措置(時間外労働の制限など)について医師等の意見を聴取しているか
- 社員数が50人以上の場合、定期健康診断結果報告書を提出しているか
などをチェックされる可能性があります。
ちなみに、社員数が50人以上になってくると、健康診断以外にも「ストレスチェックの実施」「産業医や衛生管理者の選任」「衛生委員会の設置」など、安全衛生関連の実務が増えていきます。これらの実務もチェック対象になり得るので注意が必要です。
8 書類以外も何かチェックされる?
ここまで、労基署の臨検でチェックされる可能性のある書類についてお話ししてきましたが、実際の臨検では、書類以外についても監督官のチェックが入る可能性があります。
例えば、建設業や製造業などの場合、工事現場や工場などの現場確認が行われることがあります。現場確認では、重機や手すりといった各種設備が労働安全衛生法の基準にのっとったものであるかなどについて確認されます。
また、サービス業のようなホワイトカラーでも、申告監督などの場合は、会社の提出した書類と従業員の実態に乖離(かいり)がないかを確かめるため、監督官から社員に対してヒアリングが行われるケースもあるようです。例えば、「1カ月のうち時間外労働がどの程度あるか?」「最近、労働災害に遭った人はいないか?」といった質問が考えられます。
以上(2024年6月更新)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)
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【働き方改革推進支援助成金】 11月29日締切! 年休取得の促進で最大730万円の助成金
書いてあること
- 主な読者:働き方改革を進めつつ、もらえる助成金は受給したい経営者
- 課題:一部の社員に、年5日の年次有給休暇(年休)を取得させなければならない
- 解決策:「計画的付与」などによって、年休の取得促進を実現すると助成金の対象に
1 年5日の年休を取得して助成金ももらおう!
労働基準法には、会社の「年休の時季指定義務」が定められています。これは、
年10日以上の年次有給休暇(以下「年休」)が付与されている社員には、社員の意見を聴取した上で、会社が時季を指定して年5日の年休を取得させる
という義務で、違反すると社員1人につき30万円以下の罰金となります。
仕事ばかりで休もうとしない社員や、周囲に遠慮して休みたいと言えない社員もいます。しかし、年休の取得は、社員の心身のリフレッシュや仕事の効率に繋がることから、この義務に真摯に向き合って確実に年休を取らせていくことは大切です。
それに、社員の年休取得を促進する取組は、助成金の対象にもなります。具体的には、
「働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)」で、最大730万円を受給できる可能性がある
のです。助成金を受給するには、所定の「交付申請書」を事業実施計画書などとともに、所轄都道府県労働局雇用環境・均等部(室)に提出します。
2024年度の申請期限は、2024年11月29日まで
ですので、詳細を確認してみてください。助成金の概要は次の通りで、赤字の部分が年休に関連する内容です。
2 何をしたら年5日の年休取得が達成できるのか?
1)就業規則等の整備
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)を受給するには、年5日の年休取得について就業規則等を整備する必要があります。定めるべきポイントは次の通りです。
- 年休の付与日数が年10日以上の社員に、年5日の年休を取得させる
- 5日の年休は、年休の付与日から1年以内に取得させる
- 5日の年休は、社員の意見を尊重しつつ、会社が時季を指定して取得させる
就業規則等の規定例は次の通りです。
【規定例】
第○条(年次有給休暇の時季指定)
会社は年次有給休暇を年10日以上付与する社員に対して、付与日から1年以内に、付与日数のうち5日について、会社が社員の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。ただし、社員が本人による時季指定または第○条で定める計画的付与により年次有給休暇を取得した場合、取得した日数分を5日から控除する。
なお、就業規則等を整備するだけでなく、運用面においても注意が必要です。具体的には、
社員ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存する
ことが義務付けられています。また、社員数が常時10人未満の会社(事業場)が働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)を受給する場合、この年次有給休暇管理簿が申請時の提出書類の1つになっています。社員数が常時10人以上の場合も、万が一提出を求められた際にきちんと対応できるよう、準備をしておきましょう。
2)計画的付与を導入する
年休をなかなか取ろうとしない社員がいる場合は、計画的付与が有効です。計画的付与とは、
会社主導で取得する時季を決められる制度
です。年休の時季指定義務との大きな違いは、
社員の意見を聴取せずとも、会社が計画的に割り振って時季を決めてよい
ということです。計画的付与では、会社全体で一斉に付与することも、チームや個人単位での交代制にすることもできます。なお、導入するには「労使協定」(過半数労働組合、それがない場合は労働者の過半数代表との書面による協定)の締結が必要になります。
計画的付与の対象は、付与日数のうち5日を超える部分です。例えば、年休の付与日数が10日の社員の場合は5日まで、20日の社員の場合は15日までです。逆に言うと、年休の付与日数が5日以下の社員には、計画的付与を適用できません。
図表2が年休の付与日数の一覧で、赤字が年休の時季指定義務の対象になる社員、網掛けにしているのが計画的付与を適用できない社員です。
3)半日単位年休や時間単位年休の導入
半日単位年休や時間単位年休を導入すると、
- 仕事の引き継ぎなどにかかる手間が減る
- 病院や役所に行くなど、ちょっとした私用に活用できる
といったメリットにより、社員が年休を取得しやすくなることが期待できます。社員が出張先で仕事をした後、空いた時間で観光を楽しむ「ブリージャー(出張休暇)」なども取りやすくなるかもしれません。
なお、半日単位年休と時間単位年休は似ていますが、実は次のように大きな違いがあります。
注意していただきたいのは図表3の赤字部分、「5.年休の時季指定義務との関係」「6.働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)との関係」です。
- 半日単位年休では助成金はもらえないが、年休の時季指定義務には含まれる
- 時間単位年休では助成金がもらえる可能性があるが、年休の時季指定義務とは無関係なので、別で年5日の年休を取得させる必要がある
以上(2024年6月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)
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画像:pixabay
【債権回収】与信管理で使えるチェックリスト
書いてあること
- 主な読者:日々の与信管理を仕組み化し、取引先の経営状況を横で比較したい経営者
- 課題:社員によって与信管理の意識が違うし、何をチェックしたらよいのか分からない
- 解決策:取引先の経営状況を比較するためのチェックリストを作成する
1 日々の「与信管理」で使えるチェックポイント
与信管理は日々、継続して行う必要があります。しかし、取引開始後はどうしてもチェックが甘くなりがちです。また、社員によって与信管理に対する重要性の認識が違うため、足並みも揃いません。こうした問題を解決し、取引先の状況を「横で比較」しやくするためにはチェックリストの活用が有効です。
この記事では、取引先の経営実態をつかむ際に重要となるチェックポイントを紹介します。これをリスト化して、日々の与信管理に活用してください。
2 ヒトから経営実態をつかむ
企業経営はヒトが要で、特に中小企業では「経営者=会社」というほど、経営者が経営に影響を与えます。取引先のヒトを知るには、実際に話してみるのが肝心。対面が望ましいですが、難しい場合はオンラインでもよいでしょう。ヒトに関する主なチェックポイントは次の通りです。
- 壮大な事業計画を口にする
- 他人の意見や忠告を聞かない
- 社外の公職をひけらかす
- 服装や生活が派手だ
- 家庭不和の噂がある
- 幹部社員の入れ替わりが激しい
- 社長との連絡がほとんどとれない
- 社員の表情が暗い、覇気がない
3 モノから経営実態をつかむ
取引先の経営実態は商品などモノの流れから把握できます。具体的には、仕入先や販売先、在庫などをチェックします。取引先と関係のある仕入先や販売先の企業にヒアリングする、取引先の倉庫に出向く機会があれば在庫を確認することをしてみましょう。モノに関する主なチェックポイントは次の通りです。
- 取引量が急増もしくは急減した
- 仲間取引が急増している
- 主要仕入先や販売先が頻繁に変わる
- 在庫品がきちんと保管されていない
- 不良品が増加している
- 本業と関係のない商品の取り扱いを始めた
4 カネから経営実態をつかむ
取引先の経営実態は、決算書などの財務内容に表れます。取引先の決算書を入手して財務内容をチェックすることも必要です。取引先の決算書を入手するのが難しければ、信用調査会社から入手することもえきます。カネに関する主なチェックポイントは次の通りです。
- 売掛金、借入金、棚卸資産が急増している
- 税金や社会保険料の滞納が続いている
- 決済日を守らなくなった
- 手形のサイトが長期化した
- 決済条件の変更を頻繁に要請してくる
- 取引銀行が頻繁に変わる
5 周辺情報から経営実態をつかむ
同業者の声や街の噂など、取引先に関する第三者の情報も役立ちます。周辺情報に関する主なチェックポイントは次の通りです。
- 同業者から悪い噂を耳にする
- 使い込みなどの噂を耳にする
- 飲み屋で支払いが悪いという声を耳にする
- 派手な接待を行っているといった噂を聞く
以上(2024年5月更新)
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画像:Mariko Mitsuda
【賃金データ集】初任給のモデル支給額
書いてあること
- 主な読者:賃金体系や賃金支給額の見直しを考えている経営者
- 課題:自社の賃金体系や賃金支給額が妥当か分からない。判断基準が欲しい
- 解決策:統計資料における同規模・同業種の企業のデータなどを参考にする
【賃金データ集】シリーズとは?
【賃金データ集】シリーズは、基本給や諸手当など賃金の主要な構成要素ごとの近年のトレンドを、モデル支給額を中心とした関連データとともに紹介します。経営者や実務家の方々が賃金支給水準の決定や改定を行う際の参考としてご活用ください。なお、モデル支給額などのデータを紹介する際は、基本的に出所に記載されている用語を使用するものとします。また、データは公表後に修正されることがあります。
この記事で取り上げるのは「初任給」(基本給が中心)です。
なお、以降で紹介する図表データのExcelファイルは、全てこちらからダウンロードできます。
1 初任給のトレンド
前年からの初任給を引き上げたと回答した企業は29.9%(前年比12.7ポイント減)となりました。
基本給の体系によって異なるものの、一般的な賃金カーブでは、50歳頃まで賃金支給額が緩やかに増加し、その後は減少に転じます。加えて、60歳以降は定年退職する従業員もいて人数が減るため、企業の賃金負担は軽くなります(退職給付を除く)。
現在、会社は「65歳までの雇用確保」の措置として、「定年廃止」「定年延長(65歳まで)」「継続雇用制度の導入(65歳まで)」のいずれかを実施する義務を負っています。また、70歳まで働くことを希望する社員に対し、「業務委託契約」なども含めて就業機会を与える努力義務を負っています。こうした法改正による賃金負担増を回避するためには、賃金のスタートである初任給や昇給ピッチを見直し、生涯賃金を調節するという考え方があります。
2 厚生労働省と日本経済団体連合会の統計資料によるモデル支給額
3 地域の状況(東京)
4 情報インデックス(この記事で紹介したデータの出所)
この記事で紹介した統計資料は次の通りです。調査内容は個別のURLからご確認ください。なお、内容はここ数年の公表実績に基づくものであり、調査年(度)によって異なることがあります。
■新規学卒者決定初任給調査結果■
http://www.keidanren.or.jp/policy/index09.html
■賃金構造基本統計調査■
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html
■中小企業の賃金事情
http://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.jp/toukei/koyou/chingin/
以上(2024年5月更新)
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画像:ChatGPT
【開催の模様を掲載しました】5/28(火)ChatGPTの無料ウェビナーを開催しました
大好評でした! ご参加の皆さまありがとうございました
このウェビナーの開催の模様は、下記の別記事でご紹介しています。ぜひお読みください
以上(2024年5月作成)
画像:日本情報マート
【労基署の臨検】 臨検の種類は? 厳しさは? 「指摘を受けたら真摯に対応」が鉄則!
書いてあること
- 主な読者:労働基準監督署の臨検監督について知りたい経営者、人事労務担当者
- 課題:そもそもどういう調査なの? リスクはあるの?
- 解決策:会社が労働基準関係法令に違反していないかの調査。違反は送検や会社名公表の対象だが、通常は真摯に是正・改善に取り組めば問題ない
1 そもそも「臨検(リンケン)」って何?
ある会合で、A社の社長が他の経営者に
「ウチの会社に臨検(リンケン)が入ったんだよ。しかも、アポイントもなく突然……」
と愚痴っぽく話しています。どうやら、労働基準監督署(以下「労基署」)の職員が会社にやって来て、出勤簿、賃金台帳、就業規則、36協定などを見せるように言われたようです。
社長が「忙しいから困る」と拒否しても、職員は「私たちには捜査権や逮捕権がある」の一点張り。詳しく話を聞くと、A社ではかなりの残業代の未払いが発生しており、そのせいで社員の1人が労基署に駆け込み、抜き打ち調査が行われたようです。
というのが、労基署の「臨検(リンケン)」の一般的なイメージです。正しくは「臨検監督」(以下「臨検」)。簡単に言うと、労基署の労働基準監督官(以下「監督官」)が、会社を訪問して各書類を確認するなどして、労働基準関係法令に違反していないかチェックすることです。
労働基準関係法令:労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、じん肺法、家内労働法、賃金の支払の確保等に関する法律など
臨検で重大な違反が見つかり、送検された会社をニュースなどで目にした経験もあると思いますが、臨検がどのように行われるのか、その実態は意外と知られていません。一方、
2024年4月に「労働時間」「労働時間の明示」など、労働基準法関連の重要な法改正があった関係で、今後、労基署の動きが活発になる可能性がある
ため、今のうちにイメージを押さえておきたい経営者は少なくないはずです。以降で、社会保険労務士監修のもと、普段はなかなか聞けない労基署の臨検の舞台裏を紹介します。
2 労基署の臨検って、突然やって来るの?
労基署の臨検は、
- 定期監督:労基署の年間計画に基づき、毎月対象の会社を選定して実施
- 申告監督:社員(退職している社員を含む)からの申告に基づき実施
- 災害時監督:重大な労働災害が発生した際、原因の究明や再発防止の指導のために実施
- 再監督:是正勧告を受けた会社の状況が改善されているかを確認する場合に実施
の4種類に分類されます。
定期監督の場合、通常は事前に監督官から、会社を訪問する(または経営者などに労基署に来るよう求める)旨の書面が送られ、用意すべき書類や日時が指定されます。時間もある程度決まっていて、おおむね2~3時間です。
一方、申告監督や災害時監督の場合、事前の連絡なしに抜き打ちで行われることが多いですが、労基署が申告者を保護する目的で、定期監督を装い事前に連絡するケースもあるようです。
監督官は、司法警察職員として会社を捜査する権限を持っているので、
監督官が臨検にやって来たら、原則として拒否することはできません
が、経営者が不在で臨検が実施できないなど、延期が認められるケースもあるようです。
3 具体的にどういう違反をチェックするの?
2022年に実施された臨検(17万1528件)のうち、大部分を占めるのは定期監督等(14万2611件)で、主に次のような違反が指摘されています(厚生労働省「令和4年労働基準監督年報」)。
「健康診断」「安全基準」「労働時間」など、社員の健康や安全に直接影響を及ぼす違反が指摘を受けやすくなっています。特に、赤字にした「労働時間」については、
2024年4月から、いわゆる「時間外労働の上限規制」が建設業、自動車運転業務、医師、砂糖製造業(鹿児島県・沖縄県)にも適用
されるようになり、今後これらの事業・業務に対する監督が厳しくなる可能性があります。同じく赤字にした6位の「労働条件の明示」も、法改正に関する項目なので注意が必要です。
2024年4月から、社員の雇入時や契約更新時に、「就業場所・業務の変更範囲」「契約上限の有無とその内容」「無期転換の申込機会と転換後の労働条件」を新たに明示
しなければならなくなっています。
4 臨検の種類や監督官によって厳しさが違う?
一概には言えませんが、臨検の種類ごとに厳しさの順位を付けるとすると、
- 監督官が指導した後に改善されているかを確認する「再監督」
- 重大な労働災害が発生したために実施する「災害時監督」
- 社員の求めにより実施する「申告監督」
- 計画で実施する「定期監督」
となるでしょう。
また、監督官によって厳しさが異なるケースもあり、経験豊富な監督官の場合、会社の事情を考慮して、現実的な解決策を提案してくれることもあります。例えば、賃金未払いについて、会社の財務状況などを考慮し、支払いまでの期限を長めに設定してくれるといった具合です。なお、社会保険労務士などの専門家は、労基署の臨検に立ち会ってくれることがあるので、会社だけで監督官に対応するのが不安な場合、相談してみるとよいでしょう。
5 違反があったら即座に送検されてしまうの?
監督官は、会社が労働基準関係法令に違反した場合、経営者などを地方検察庁に送検する権限を持っています。ただ、即座に送検されるのは相当悪質なケースに限られ、通常は
監督官の指導に従い真摯に是正・改善に取り組めば、「送検なし」で完結することが多い
です。監督官の指導は次のような流れで行われます。
監督官は会社に対し、労働基準関係法令に違反した場合は「是正勧告書」、違反はないが労務管理の改善が必要な場合は「指導票」を発行します。どちらも是正・改善すべき事項とその期日が記載されています(書式については後述)。
会社は、期日までに是正が完了したら「是正報告書」、改善が完了したら「改善報告書」を監督官に提出します。ちなみに、是正・改善どちらの場合も、
期日は是正勧告書(または指導票)の発行から、おおむね1~2カ月後
です。間に合わない場合は必ず監督官に連絡し、対応する意思があることと現在の状況を伝え、期日の相談をします。なお、労働基準関係法令に違反した場合、期日までに是正報告書を提出しない(または労基署が催促しても回答しない)など悪質な対応をしていると、再監督を経た上で、
「地方検察庁に送検される」+「厚生労働省ウェブサイトで会社名が公表される」
というペナルティを受ける恐れがあります。ちなみに、期日までに状況を是正・改善し、監督官への報告が無事終了した場合であっても、何年か経ってから、状況をチェックするため再監督が実施されることがあります。ですから、
一度是正・改善したら終わりではなく、その状況を維持する(可能ならさらに改善する)
という意識が大切です。
6 是正勧告書や指導票ってどんなもの?
最後に、社会保険労務士が作成した是正勧告書と指導票の一例を紹介します。
まずは是正勧告書です。
是正勧告書には、違反があった法条項等、違反事項、是正期日が記載されています。ただし、どう是正すべきかは載っていないケースが多いので、不安な場合、監督官や専門家に相談しましょう。また、「不足額については、遡及して支払うこと」などの記述がある場合、トラブルにならないよう、「いつからいつまでの分を支払うか」などについて、監督官と認識を共有しておきましょう。
次は指導票です。
指導票には、労働基準関係法令の違反に関する事項はなく(そもそも違反していないので)、指導事項とその報告期日が記載されています。指導票の未提出は送検の対象になりませんが、再監督が入る可能性がありますから、こちらも必ず期日までに提出しましょう。
会社は、是正勧告書に対しては「是正報告書」、指導票に対しては「改善報告書」を作成して、監督官に提出します。どちらの報告書も監督官から紙で手渡しされたものに記入しますが、一部の都道府県労働局ウェブサイトでは書式のデータが公表されているので、「手書きは面倒」という場合、そちらを活用するとよいでしょう。
■鳥取労働局「是正・改善 報告書様式」■
https://jsite.mhlw.go.jp/tottori-roudoukyoku/newpage_01118.html
なお、是正報告書・改善報告書については、ただ報告書に「いつ、是正(改善)しました」と記載するだけでなく、是正(改善)したことを証明する資料を別紙で提出する必要があります。
(例1)未払い賃金の是正に関する資料:賃金台帳、給与支給明細書など
(例2)機械の安全基準の是正に関する資料:是正した状況が確認できる写真など
以上(2024年6月更新)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)
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画像:pixabay
【債権回収】知っておきたい与信管理の基本事項
書いてあること
- 主な読者:経営環境の変化が激しい現在、与信管理をこれまで以上に徹底したい経営者
- 課題:与信管理として具体的に何をしたら良いのか分からない
- 解決策:取引開始後も与信管理を継続し、必要に応じて外部機関の情報も参考にする
1 「与信管理」では債権回収のリスクを想定する
多くのビジネスでは、売掛金などの「売上債権」が生じます。万一の未回収に備えて取引金額の上限や決済サイトを決めますし、担保の設定をすることもあります。これらの条件は、
債権回収ができないリスクと、それによって被る被害によって決定
します。つまり、
相手が「信用」できるのか
という点に尽きるため、「信用リスク」と呼ばれます。そして、この条件なら“信用”して取引できると判断した場合、信用を相手に与えるのが「与信」です。与信管理は次の図のような手法で行います。
2 新規取引をする際の与信管理
1)取引先の実体を確認
取引先が実体のある会社であることを確認します。次のような方法で調べられます。
- 取引先の本社を管轄する法務局や民事法務協会「登記情報提供サービス」で登記簿謄本の履歴事項全部証明書を取得する
- 実際に先方の事業所や事務所に行って確かめる「実地調査」
- インターネットで取引先のホームページや、経営者のSNSをチェックする
■民事法務協会「登記情報提供サービス」■
秘書代行など会社に代わって電話受け付けや郵便物受け取りを代行するサービスでは、一等地に所在するサービス提供企業の事業所を法人登記できるようにしている場合があります。取得した履歴事項全部証明書に記載されている住所が一等地だからといって安易に信用せずに、当該住所をインターネットで検索するなどして確認しましょう。
2)分析のポイント
分析は、営業担当者だけではなく上席者なども交えて行います。営業担当者だけだと、自分が担当する案件を何としても通そうとして評価が甘くなることがあるためです。また、定性分析は、分析を行う人の主観が入りがちです。これを防ぐために、複数の人で分析しましょう。
3)定性分析
定性分析では、数値化しにくい事項を分析するため結果が曖昧になりがちです。そこで、定性分析で見るべき項目を設定し、個別項目ごとに評価の基準となるポイントを決めて点数を付けます。分析結果が比較しやすくなるとともに、定量分析の結果と合わせて総合的に評価します。
4)定量分析
定量分析では、財務諸表などを分析するため、取引先が情報開示に積極的であれば必要な情報が集まりやすくなります。有料ですが、帝国データバンクや東京商工リサーチなどの信用調査機関を利用して、取引先の財務に関するデータを入手することもできます。
■帝国データバンク■
■東京商工リサーチ■
5)点数化のポイント
定性分析と定量分析の結果を点数化します。その際には、「安心して取引できる取引先の基準」を設けると分かりやすいです。例えば、分析項目を10項目とし、1項目を1~10点の間で採点する場合、安心して取引できる企業の基準を「50点」といったように設定します。
6)与信の審査
分析結果を受けて、最終的な与信の条件を決めます。例えば、「取引先への販売量」「取引で見込まれる自社の利益」「支払いサイトの長さ」「取引先からの担保の差し入れの有無」が挙げられます。こうしたポイントを基に、自社が持つ人的・物的・資金的な経営資源に見合った、取引上限の金額などの条件を決定します。
また、担保の設定や保証金の差し入れを求める場合、評価額や質(災害の影響を受けやすい、価格が変動しやすい、換金性が高いなど)を評価した上で審査に反映します。こうした与信の条件を決定し、取引の契約を締結します。
3 取引後の与信管理
取引開始後は、与信の条件が履行されているかをチェックします。これを「債権管理」と呼び、「請求書の発行」「入金の確認」「未入金の催促」が基本です。未入金など危険な兆候が見られたら、与信の条件変更や取引の解約・解除も検討します。
取引先の動向もチェックします。従来は、「近所まできたついで」「商品の評判を聞きけて」などの口実で訪問していましたが、コロナ禍では難しいところがあります。そのため、相手の担当者とSNSなどでつながり、気軽に連絡を取れる体制を整えることが大切です。取引先について定期的にインターネット検索をすることも大切です。
その他、商品の注文が急激に増えたような場合、取引先に「注文の動機」を確認しましょう。合理的な理由がない場合、商品の横流し、破綻前の商品の持ち逃げ、架空取引・循環取引などの恐れがあります。営業担当者は、販売実績を上げるため与信管理よりも取引の拡大を優先する傾向があります。また、日ごろの付き合いがあるため、取引先を「倒産することはない」「違法行為をすることはない」と信じがちです。営業担当者には、取引先が倒産した場合に被る損害がどれほど大きいのかを理解してもらう必要があります。
4 外部の力を利用した与信管理の強化
1)ファクタリング(売上債権の支払保証)の活用
売上債権の支払保証とは、
債権者がファクタリング業務を行う会社と支払保証契約(ファクタリング契約)を交わすことによってなされる売掛債権の保全
です。ファクタリングとは、
債権者に代わって債権回収を代行する業務
であり、売上債権が回収不能に陥った場合に、ファクタリング会社は債権者に対して契約であらかじめ決めた額まで損失を補填します。
ファクタリング契約を結んだ債権者は、ファクタリング会社に手数料を支払う他、債権を割り引いて売却します。その代わり、債権者は早期かつ確実な債権回収を図ることができます。ファクタリング会社は債務者から債権回収し、回収不可能のリスクを負います。
2)信用調査機関・与信管理サービスの活用
定量分析のところで紹介した信用調査機関の他、与信管理サービスを活用するのもよいでしょう。与信管理サービスは、信用調査会社の調査結果などを基に、倒産確率や与信限度額といった、与信管理に利用できるデータを提供しています。例えば、AGS「Neuro Watcher」などがあります。
■AGS「Neuro Watcher」■
以上(2024年5月更新)
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画像:Mariko Mitsuda