【入社1年目の教科書】これからの時代を賢く生き抜く資産形成。まずは基本を押さえよう

書いてあること

  • 主な読者:金融教育をしっかり受けていない世代の新入社員
  • 課題:「貯蓄から投資へ」などと言われても、何をどうしたらいいのか分からない
  • 解決策:王道は「長期・積立・分散」投資。信頼できるウェブサービスで基本を知る

お給料が入ったぞ! 欲しいものを買って、友達と遊びに行って、家賃を払って、親に何かプレゼントして。少しだけど残ったお金どうしようかな。ひとまず銀行に預けておけば安心だと教えられてきたけど、今って金利はどれくらいつくのだろう。最近、資産運用を勧められることが多いけど、それってお金持ちがすることじゃないの?

1 預けたお金は何年後に2倍になる?

早速ですが問題です。直感で答えてみてください。

金利0.002%で10万円を預金したら、倍の20万円になるのは何年後でしょうか?

10年後? 50年後? もしかして100年後? 答えはいろいろ出てきそうですが、参考にできるのが投資の世界でいわれる「72の法則」です。法則の使い方はとても簡単で、

72を金利の数字で割れば、元金が倍になるまでのざっくりとした年数が分かる

というものです。では、0.002で割ってみたらどうなるかというと、答えはなんと驚きの

3万6000年後

になります。お給料を銀行に預金しておけばコツコツと増えるという時代は変わりました。自分で稼いだお金をしっかり管理・運用するための金融リテラシーを、しっかりと身につけていきましょう。

なお、以降で紹介するのは情報提供のみを目的とするものであり、取引の申し込みや勧誘、あっせん、推奨、助言、金融商品を含む商品やサービスの販売等を目的として提供されるものではありません。

2 資産運用の王道は「長期・積立・分散」投資

投資にリスクはつきもので、株式や投資信託などの金融商品には「元本割れ」のリスクがありますが、「リスクはリターンの源泉」でもあります。資産運用の王道と言われる「長期・積立・分散」の3つの投資手法を見ていきましょう。

1)長期投資

短期間で売買を繰り返さずに、長期にわたって金融商品を持ち続けます。短期間で売買するときは、値上がりによって大きく収益を得ることもあれば、値下がりによって大きく損失を被ることもあります。投資期間を長くすることで、運用成績の悪い時期と良い時期がならされ、平均的な収益率は安定する傾向があるといわれます。

また、運用で得られた利益を投資元本に加えて再投資をすることで、「複利の効果」が働きやすくなることが期待されます。

2)積立投資

1つの金融商品を定期的に一定の金額ずつ継続して購入するものです。少額からでも投資ができ、一度設定しておけば自動的に継続が可能です。また、投資タイミングによって高値づかみしてしまうリスクも抑えられます。

3)分散投資

投資の対象とする金融商品について「資産・銘柄」「国・地域・通貨」「時間(タイミング)」を分けて購入するものです。1つに集中して投資をすると、運用がうまくいっているうちは良いかもしれませんが、うまくいかなくなった場合に大きな影響を受けます。投資の対象とする金融商品をいくつか組み合わせることで、価格変動などのリスクを抑えられます。

覚えておきたいのは、

  • 資産運用は少額でも早く始めて地道にコツコツ続けるほうが最終的に得られるリターンが大きくなる可能性が高い
  • ローリスク・ハイリターンは、まずもって無い

ということです。

3 預貯金・債券・株式・投資信託の特徴

投資の対象となる代表的な金融商品といわれる「預貯金」「債券」「株式」「投資信託」の特徴を紹介します。

1)預貯金

預金(銀行や信用金庫などに預けている日本円)と貯金(ゆうちょ銀行に預けている日本円)は、必要なときに引き出すことができ、万一、金融機関が破綻しても預金保険の対象として1000万円まで(とその利息)は全額保護されます。普通預金の金利は、0.001%ほどで、預けていてもさほど増えません。

外貨預金は、日本円を、米ドルやユーロなどの外国の通貨に替えて預け入れる「預金」です。定期で預ける「外貨定期預金」を指すことが多いですが、最近では普通預金を外貨で預ける「外貨普通預金」もあれば、外貨建ての預金を扱っている金融機関もあります。運用後、円に替える時の為替レートが預け入れた時より円安になっていれば為替差益が生じます。逆に円高になっていれば為替差損が生じ、円建ての金額は預け入れた時より減ることもあります(外貨での元本は保証されます)。外貨預金は、預金保険の対象にはなりません。

2)債券

国が発行する国債、地方公共団体が発行する地方債、株式会社などが発行する社債といった「債券」は、利子を支払う時期や利率、満期日があらかじめ決められており、満期日に購入した元本(額面金額)が払い戻されます(償還といいます)。

債券の発行者が破綻するとお金が返ってこない恐れがあるため、格付け会社が、発行者の信用力によって債券を格付けします。収益性は、一般的に預貯金よりも高く、株式より低くなります。満期日前に売却して現金化できますが、金利などの影響を受けて価格が変動し、売却価格が額面を下回って元本割れとなる可能性もあります。

3)株式

株式会社が発行する「株式」は、会社が利益を上げるとその一部を配当として株主に還元します。「この会社は成長しそう」と多くの人が思い、株式を購入したがると株価が上がります。購入時よりも株価が上がったタイミングで売却することで利益を得ることもできます。一方、会社の業績が下がると、一般的には株価も下がります。会社が破綻してしまうと株式の価値はゼロになります。株式は比較的簡単に売却して現金化できますが、手元に現金が入るまでは時間がかかります。

4)投資信託

投資信託は、多くの人からお金を集めて、専門家である資産運用会社が株式や債券などに運用するもので「ファンド」ともいいます。運用により利益が出ると配当として、また値上がり益を分配金として保有者に還元します。少額から投資できるものも多いですが、収益性(どれだけ利益が期待できるか)や安定性(どれだけ元本割れしないか)は投資信託が何にどれだけ投資しているかによります。株式同様、比較的簡単に売却して現金化できますが、手元に現金が入るまでは時間がかかります。

4 金融リテラシー向上に役立つサイト

今では、高校の家庭科で「金融教育」を受ける機会がありますが、それ以外にも政府や関係機関(金融庁、金融広報中央委員会、金融経済教育推進会議など)が提供しているウェブサイトがあります。代表的なページをいくつか紹介します。

■「金融リテラシー」って何? 最低限身に付けておきたいお金の知識と判断力■

https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201404/1.html

■金融庁×うんこドリル うんこ お金ドリル 全年齢対応■

https://unkogakuen.com/manabi/money

■金融庁「基礎から学べる金融ガイド」■

https://www.fsa.go.jp/news/r5/sonota/20231225/20231225.html

■金融庁「NISA特設ウェブサイト」■

https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/

■お金の知恵を学ぶリンク集 ~金融学習ナビゲーター~(若年社会人向け)■

https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/navi/select_default.html?a=7

■ライフプランシミュレーション 生活設計診断■

https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/sindan/

■動画で学ぶお金の知恵「マネビタ」■

https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/e-learning/

5 金融トラブルに注意!

金融トラブルについて知ることも金融リテラシー向上のために大切です。SNSなどを利用した暗号資産の取引や投資を持ち掛ける詐欺や、偽メールや偽サイトによるフィッシング詐欺や架空請求詐欺など、金融トラブルの手口は多様化しています。

例えば、SNSなどで知り合った人からいきなり投資を勧誘されたりしたら要注意です。金融庁のウェブサイトではトラブルの例や相談先が紹介されているので確認してみてください。

■金融庁からのお願い・注意喚起■

https://www.fsa.go.jp/ordinary/chuui/chuui.html

以上(2025年1月更新)

pj00688
画像:Mariko Mitsuda

【入社1年目の教科書】キーボードのタイピング音が迷惑?正しい姿勢でタッチタイピングを!

書いてあること

  • 主な読者:パソコンのキーボード操作、タイピングに不慣れな新入社員
  • 課題:とにかく配列が覚えられないし、タイピング音がうるさいと言われる
  • 解決策:覚えるキーは30個程度。あとは正しい姿勢をキープするのとこまめな休憩

キーボード操作って本当に苦手だ……。スマホのフリック入力なら自信があるのに。慣れないから、タイプミスも多くてイライラするし。あれっ! 先輩たちがけげんそうな目でこっちを見てる。まさか自分のタイプミスがバレてるとか? いやいやそんなわけはない。どうしてそんなに険しい顔をしているの?

1 あなたのタイピング音がハラスメント?

デジタルネイティブと呼ばれる皆さんが直面する意外な問題が、パソコンのキーボード操作です。スマホとは違う配列に悪戦苦闘しますし、慣れないうちはやたらに力強くキーを押してしまうので、タイピング音がうるさくなります。カチャカチャ…ッターン!と大きな音をたててエンターキーを叩いて「仕事をしてる」アピールする人もいますが、これは「音ハラスメント」です。

そう。冒頭で先輩たちがあなたを見ていたのは、「タイピング音がうるさい!」と不快に思っていたからなのです。

ただ、タイピング音は仕事をしているからこそ出る音なので、周囲も注意しにくいものです。ですから、皆さん自身が直していくしかありません。その方法をお伝えします。

2 まずは正しい姿勢で!

1)体がだいぶ楽になる正しい姿勢

タイピング音が大きくなってしまう主な原因は、

  • タッチタイピングに不慣れである
  • 余計なところに力が入り過ぎている

ことです。最初は練習あるのみですが、その際に心がけたいのが「正しい姿勢」です。

まずは無理のない姿勢がとれるように机や椅子を調整し、ディスプレイやキーボードの置き方を工夫してみましょう。基本は次の通りです(厚生労働省「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」)。

  • 椅子に深く腰をかけ、背もたれに背を十分当て、足裏全体が床に着く姿勢が基本
  • 必要に応じて、十分な広さがあって、すべりにくい足台を使う
  • 椅子と膝裏の間に手指が入る程度のゆとりを持ち、太ももに無理な圧力をかけない

また、ディスプレイについては次の通りです。

  • 40センチメートル以上の視距離を確保する(眼鏡による適正な矯正を行う)
  • ディスプレイの上端は、目の高さとほぼ同じか、やや下にする
  • ディスプレイとキーボードなどが離れすぎないようにする
  • ディスプレイは、作業しやすい位置、角度、明るさなどに調整する
  • ディスプレイの文字の大きさは小さすぎないようにする(3ミリメートル以上)

パソコンを使うときの姿勢は、デスクトップパソコンの場合、ノートパソコンの場合で、それぞれ次のようなイメージです。

画像1

2)ホームポジションを身に付ける

ホームポジションとは、キーボード操作で指を置く基本位置です。Windowsパソコンで「QWERTY配列」のキーボードでは、

  • 左手:小指「A」、薬指「S」、中指「D」、人差し指「F」
  • 右手:人差し指「J」、中指「K」、薬指「L」、小指「;」

となります。

画像2

このポジションを身に付けると、素早く、手に負担をかけずに操作できます。多くの場合、「F」キーと「J」キーにちょっとした突起があるのでホームポジションに戻るときに便利です。キーを1つ打ち終わったらホームポジションに戻ることを習慣にすれば、タッチタイピングがしやすくなります。

3)最初から全てのキーの配置を覚えようとしない

ローマ字入力の場合、覚えなければならないキーは、アルファベットの26個と、句点、読点、スペース、Enterなど合わせて30個程度です。よく使うのは、「A」「I」「U」「E」「O」、つまり50音の母音「あいうえお」です。そして、50音の各行の先頭「K」「S」「T」「N」「H」「M」「Y」「R」「W」、さらに 濁音や半濁音の行の先頭「G」「Z」「D」「B」「P」などといったように、よく使うキーから位置を覚えていくのが王道です。

4)タイピングの練習は速度よりも正確さ重視で

慣れないうちは、速度よりも正確さを重視しましょう。タイピングの練習に使える無料ウェブサービスもあるので、参考にしてください。

■ベネッセコーポレーション「マナビジョン 無料タイピング教材」■

https://manabi.benesse.ne.jp/gakushu/typing/

■東京書籍「タイピングソフト やってみタイプ」■

https://www.tokyo-shoseki.co.jp/kyouka/kou/joho/typing/

3 適度な休憩やストレッチで疲れを和らげよう

正しい姿勢だとしてもパソコンを使った作業は、長時間同じ姿勢になりがちです。1時間も座ったまま前かがみで集中してタイピングをしていると、肉体的にも精神的にも疲れてしまいます。

こうした疲れは、パソコンの作業継続時間や設置場所の工夫により軽減することができます。例えば、次のことを心がけてみましょう。

  • 連続した仕事は1時間以内とし、途中途中で1~2分程度の小休止を入れる
  • 次の連続した仕事までに10~15分の休憩をとる

適度な休憩やストレッチで疲れを和らげるのも仕事のうち。無理は禁物です。なお、休憩しても疲れがとれなかったり、激しい痛みを感じたりするときは、すみやかに医師に相談しましょう。

以上(2025年1月更新)

pj00687
画像:Mariko Mitsuda

採用活動で応募者のSNS調査を行うことは是か非か?

書いてあること

  • 主な読者:応募者の「素の人柄」を知るためにSNS調査などをしたい経営者
  • 課題:ネット公開されている情報を採用の材料にしても問題なさそうだが、本当にそうか?
  • 解決策:履歴書や面接の情報は個人情報。利用するには法令のルールに従う必要がある

1 SNS調査をこっそりと行うのはNG

社員がSNSに投稿した不適切な内容で「炎上」や「情報漏洩」が起きてしまったら、大きな問題です。一度、採用内定を出したり採用したりした社員に辞めてもらうことは容易ではありません。そのため、企業としてはリスクのある人物は採用したくないので、選考過程で、

SNS調査やリファレンスチェック(以下「SNS調査など」)を行う

ことがあります。

SNS調査

履歴書や面接の情報を基に、応募者のSNSの実名アカウントを調べて、投稿内容を確認すること。そこから出身地や誕生日などが一致する匿名アカウントを探し、プロフィール情報やフォローしている友人などから応募者本人かどうかを判別し、投稿内容を確認することを「裏アカ調査」という

リファレンスチェック

履歴書や面接の情報を基に、応募者の前職の勤務状況や人物像について関係者に問い合わせること(中途採用の場合)

SNS調査などをすれば、履歴書や面接からは分からない応募者の「素の人柄」を知ることができるかもしれません。とはいえ、SNSは私生活の投稿です。勝手にSNS調査などを行っていいのかという疑問も残ります。実際のところは、

SNS調査などは非常にグレーであり、こっそりと行うのはまずNG

です。この記事では、その理由を紹介します。

2 SNS調査などがグレーな理由

1)「SNS調査などに利用します」と通知する?

履歴書や面接を通じて得られる応募者の情報は「個人情報」です。個人情報の取得には、利用目的を特定の上、その目的の通知または公表しなければなりません。本人から直接書面で取得するなら、あらかじめ利用目的を明示します。

ですから、応募者の個人情報をSNS調査などのために利用するのであれば、その旨を、通知または公表する必要があります。ただし、個人情報をSNS調査などのために利用することを通知または公表すれば、応募者の反感を買うことにつながりかねないので、あまり現実的とはいえません。

2)実名アカウントの閲覧まではOK。でもそれ以上はNG

厚生労働省職業安定局「募集・求人業務取扱要領(令和4年12月)」では、企業や企業から委託を受けた採用募集代行業者が応募者の個人情報を収集する場合、次のような適法かつ公正な手段を取らなければならないとされています。

  • 本人から直接収集する
  • 本人の同意を得た上で本人以外の者から収集する
  • 本人により公開されている個人情報を収集する

応募者が実名アカウントで、公開範囲を限定せずにSNSに投稿している内容を確認することは問題ないでしょう。ただし、それ以上進めて、「裏アカ調査」やリファレンスチェックをするには、応募者の同意を得る必要があると考えられます。

3)採用活動で利用するなら、利用目的の通知または公表が必要

個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」では、

個人情報を含む情報がインターネット等に公開されている場合、単にこれを閲覧するだけで、転記等を行わないのであれば、個人情報を取得しているとはいえない

とされています。

SNSの投稿は、不特定多数人に見られることを前提としていますので、応募者が公開アカウントでSNSに投稿している内容を確認するだけなら、個人情報の取得にはなりませんが、採用の検討材料にするなら、個人情報の取得になると考えられます。繰り返しになりますが、個人情報の取得には、利用目的を特定の上、その目的の通知または公表が必要です。

例えば、ディー・エヌ・エーグループの採用活動におけるプライバシーポリシーでは、利用目的の1つとして、

「当社グループの採用選考に際し、候補者の適格性を評価するため(これには、バックグラウンドチェック、リファレンスチェック、その他の確認手続を含みます)」

と記されています。「バックグラウンドチェック」と表記するなどの工夫もされています。

4)収集してはならない情報がある?

職業安定法では、事業主が求職者から情報を取得する場合につき、取得目的を制限しています。また、職業安定法に基づく指針(平成11年労働省告示第141号、最終改正令和4年厚生労働省告示第198号)では、以下の情報を、原則として収集してはならない情報として定めています。

  • 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となる恐れのある事項(家族の職業、収入、本人の資産などの情報、容姿、スリーサイズなど)
  • 思想および信条(人生観、生活信条、支持政党、購読新聞・雑誌、愛読書など)
  • 労働運動、学生運動、消費者運動などに関すること

例外的に、これらの情報であっても収集目的を示した上で本人から収集することができるケースもありますが、特別な職業上の必要性がある場合などに限定されています。不用意に収集すると職業安定法に基づく改善命令が発出される場合があり、この命令に違反すると、罰則(6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金)の対象になります。

なお、これらの情報は、個人情報保護法の「要配慮個人情報」と一部重複しますが、

要配慮個人情報は本人の同意があれば収集できるのに対し、職業安定法に基づく指針の「収集してはならない情報」は、文字通り、原則として収集不可

となっている点に注意が必要です。

SNSには個人の考えなどを投稿することもあり、そこに「収集してはならない情報」が含まれる可能性は十分にあります。

5)調査代行業者への依頼やリファレンスチェックは個人情報の「第三者提供」

SNS調査などを代行する専門業者(以下「調査代行業者」)もいますが、調査代行業者への依頼は個人情報の「第三者提供」に当たると考えられます。調査代行業者が独自に調査した結果と、応募者の個人情報の突合は、企業の「委託」では不可能だからです。同様に、調査代行業者が依頼元の企業に個人情報を含む調査結果を渡すことも第三者提供に当たると考えられます。

個人情報の第三者提供を行う場合、あらかじめ本人の同意を得る必要があります。2022年4月に改正個人情報保護法が施行されたため、第三者提供に係る記録の開示請求手続に対応する必要があります。

同様に、リファレンスチェックも、履歴書や面接の個人情報を前職の企業に渡すことになるため、第三者提供に当たると考えられます。

3 SNS調査などがはらむリスク

このように、利用目的を明らかにして本人の同意を得られれば、SNS調査などを実施できることになりますが、懸念は残ります。例えば、「バックグラウンドチェックをします」と説明されても、応募者は「裏アカ調査」をされると認識できないでしょう。また、志望先の企業からSNS調査などの同意を求められたとき、それを拒否するのは難しいかもしれません。

この他、同姓同名の他人の情報との取り違いや、悪意の第三者によるなりすましが起こらないかといったことも危惧されます。

日本労働組合総連合会「就職差別に関する調査2023」によると、採用試験を3年以内に受けた15~29歳の男女計1000人のうち、

  • 「採用選考過程において、企業からSNSアカウントを調査する旨の通知を受けたことがある」という回答が11.7%
  • 「採用選考過程において、企業からSNSアカウントを調査されたことがある」という回答が10.7%

となりました。また、それぞれ「わからない」という回答が25.0%、29.3%を占めており、さらに多くの調査が行われている可能性もあるといいます。さらに、SNS調査などは「身元調査」にもなり得ます。このような調査の結果、目にしてしまった情報をもとに無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)が生じ、新たな就職差別につながる恐れもありますので、注意が必要です。

以上(2024年1月更新)
(執筆 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

pj60325
画像:wei-Adobe Stock

タワマン節税にメス、生前贈与改正。 大きく変わる相続・贈与税対策を解説

書いてあること

  • 主な読者:子供や孫などへの相続対策を行っている、または検討している人
  • 課題:一般的な税金対策に改正が入ったり、入ると見込まれたりしている
  • 解決策:近年の動きとして「暦年贈与・相続時精算課税・マンション節税・一括贈与(教育資金、結婚・子育て資金)」の制度改正を押さえる

1 改正が頻発している相続・贈与税

近年影響の大きい改正が頻発している相続・贈与税。生前贈与の非課税枠が縮小したり、タワマン節税にメスが入ったりと、これまで有効だった税金対策の効果が薄れたり、そもそも実施できなくなったりしています。

具体的に、どのような改正が入っているのか、または入る見込みがあるのか、この記事で分かりやすく紹介します。注目するのは、

暦年贈与・相続時精算課税・マンション節税・一括贈与(教育資金、結婚・子育て資金)

です。

2 暦年贈与

暦年贈与とは、1月1日から12月31日までの1年間(暦年)で、贈与額が110万円以下ならば贈与税がかからないというものです。毎年非課税で110万円を子供や孫などに渡せるので、将来的に発生する相続税の負担が減ります¥。ただし、亡くなる前の一定期間に行った生前贈与については、110万円以下も相続税の課税対象となります。この一定期間を加算期間と呼び、

2024年1月1日以降の贈与については、加算期間が3年から7年に延長

されました。改正後は、亡くなる前1~3年の間に行われた生前贈与は全額、4~7年の間に行われた生前贈与はその期間の贈与総額から100万円を差し引いた金額が相続税の課税対象となります。

暦年贈与は一般的な相続対策ですが、加算期間の延長や後述する相続時精算課税の改正(基礎控除の創設)によって、2024年以降は相続時精算課税制度を選択した場合の方が、より節税効果が高くなるケースが多く発生することが見込まれます。暦年贈与と相続時精算課税どちらを選ぶか、慎重に検討しましょう。

3 相続時精算課税

相続時精算課税とは、60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の子・孫への生前贈与について、2500万円までは贈与税がかからず、相続時に生前贈与分もまとめて相続税を計算するものです。生前贈与した金額の累計が2500万円を超えた場合は、超えた部分に対して一律20%の贈与税がかかります(この贈与税は、相続税を計算する際に相殺されます)。

2024年1月1日以降、

相続時精算課税制度で使える「年間110万円の基礎控除」が創設

されます。2024年1月1日以降に相続時精算課税制度を選択して贈与を行った場合、年間110万円以内であれば贈与税はもちろん、相続税もかからなくなります。加えて、贈与税の申告も不要です。従来は、相続時精算課税を選択すれば、少しでも贈与があれば、贈与税の申告が必要だったため、利便性がよくなりました。

画像1

4 マンション節税

マンション節税とは、市場での売却価格と通達に基づく相続税評価額とが大きく乖離(かいり)するというタワーマンションの特徴(一般的に高層階ほど価格は高額になるが、相続税評価額に反映されにくいなど)を生かした相続税のスキームです(2023年10月時点)。

まず相続税の計算をする際は、被相続人(亡くなった人)が所有していた全ての財産に対して、税金がかかる対象となる金額を算出します。相続税が発生する場合、被相続人の財産の価額は、国税庁が定めている評価基準(財産評価基本通達)によって決められます。この評価額が高いほど相続税の税額が高くなり、評価額が低くなるほど、税額は低くなります。そのため、タワーマンションには節税効果があると考えられていきました。

2024年1月1日以降、財産評価基本通達の改正が行われ、相続税評価額の計算方法が変わり、マンションの相続や贈与に影響が生じると考えられています。

今回予定されている改正では、

実勢価格(実際の取引が成立する価格)との乖離が1.67倍以上になる場合においては、「相続税評価額×乖離率×0.6」で評価される

と見込まれています。新たな基準が盛り込まれることによって、相続税評価額は実勢価格の4割から6割になるように検討されています(改正前は2割程度という事例もあった)。相続税評価額が上がると、それに伴い相続税も高くなるため、従来に比べて相続税対策としての効果が少なくなる可能性が高いです。

5 一括贈与(教育資金)

教育資金贈与の非課税制度とは、親から子、祖父母から孫など直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合、1500万円までは贈与税が非課税になるものです。2023年3月31日が適用期限でしたが、3年延長され2026年3月31日までとなりました。

また、贈与者が死亡した時点で、贈与を受けた教育資金が残っていた場合の残額の取り扱いについて、いままでは受贈者(贈与を受けた孫など)が23歳未満・学生(教育訓練を受けている場合を含む)の場合には相続税の課税対象ではありませんでした。しかし、2023年4月1日以後の一括贈与については、

贈与者の死亡の際の相続税の課税価格の合計額が5億円を超える場合には、受贈者が23歳未満・学生の場合でも、「残額」は相続財産に加算

され、課税対象となります。

画像2

さらに、受贈者が30歳に達した時点で贈与された教育資金が残っている場合は、贈与税が課されます。その際に適用される税率について、これまでは特例税率(低い税率)が適用されていましたが、

2023年4月1日以後の贈与については、一般税率(通常の贈与税率)が適用される

ことになっています。

6 結婚・子育て資金一括贈与非課税措置の見直し

結婚・子育て資金の一括贈与とは、父母などから結婚・子育て資金の贈与をうけたときに1000万円まで贈与税が非課税になる制度です。2023年3月31日が適用期限でしたが、2年延長され2025年3月31日までとなりました。

また、受贈者が50歳に達した時点で贈与された結婚・子育て資金が残っている場合などには、贈与税が課されます。その際に適用される税率について、これまでは特例税率(低い税率)が適用されていましたが、

2023年4月1日以後の贈与については、一般税率(通常の贈与税率)適用される

ことになっています。

以上(2024年1月作成)
(執筆 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)

pj30170
画像:ronstik-Adobe Stock

“組織”の本質を理解する~企業をより良く変えるための組織論~

書いてあること

  • 主な読者:現状の組織に課題を感じ、再編などを検討している経営者
  • 課題:同調圧力が生じたり、集団思考(グループ・シンク)に陥ったりして、マンネリ化や誤った意思決定が行われるため、組織変革がうまくいかない
  • 解決策:意思決定に携わる参加者を変える、あえて反対意見を出させるなど、組織を硬直化させない工夫が必要

1 組織変革がうまくいかない原因

企業における組織上の問題というと、どのようなものを想像するでしょうか? 例えば、「従業員のモチベーション低下」や「コミュニケーション不足」は組織の規模や形態を問わず取り上げられがちな課題かもしれません。

こうした足元の課題解決も大切ですが、その一方で、より根本的な対策を講じるためには、もう一歩踏み込んで「組織」のあり方を考える必要があります。

この記事では、組織上の問題を検討する上で参考となる経営組織論の視点から、次の問題を取り上げ、解決策の一例を提案します。

  • 誤った意思決定が行われる
  • 組織変革がうまくいかない
  • 働き方が多様化している

2 組織による誤った意思決定が行われる要因は?

1)集団における意思決定の落とし穴

一見、組織内での集団による意思決定は、個人による意思決定よりも合理的で、より成果の上がる決定ができると考えられがちです。しかし、常に正しい判断や質の高い意思決定が行われるわけではありません。組織内での集団による意思決定は、個人であれば恐らく行わないような誤った判断をしてしまうときがあります。

2)同調圧力と集団思考

個人の場合における意思決定と組織における意思決定が大きく異なる要因の1つに「同調圧力」があります。同調圧力が組織内に見られる場合、ある参加者が正しい意見を出したとしても、「多数の参加者の意見と異なる」と感じて自己の意見の正当性を否定し、他の参加者の意見に従ってしまうことがあります。

もう1つ、集団での意思決定において注意しなければならないのは「集団思考(グループ・シンク)」です。集団思考とは、集団での意思決定を行う場合、集団としての合意を優先するあまり、「集団構成員への批判抑制」「自集団の過大評価」「外部集団の過小評価」など誤った情報処理をしてしまい、結果として不適切な決定が下されることをいいます。

集団思考が発生する要因はさまざまですが、例えば、

  • 意思決定を行う集団の結び付きが強い場合
  • 外部から隔離されるなどして、情報収集が困難な状況である場合
  • 優秀で強いリーダーシップを発揮するリーダーが存在する場合

に発生しやすいといわれています。こうした集団内では、絶対的なリーダーの意見に従う傾向が強まります。その上、情報収集ができないために、意見の妥当性を慎重に検討することなく意思決定が行われてしまうこととなります。その結果として不適切な意思決定を生んでしまうのです。

3)集団における誤った意思決定を避けるには

1.誰かが集団とは異なる意見を述べる

同調圧力の発生は心理学的観点から見ると、「他の参加者と違う意見を述べることで、集団内での自己の評価が下がるのではないか」という恐怖感が影響しているといわれます。この同調圧力を緩和するには、集団とは異なる意見が言いやすい状況をつくり出すことが最も基本的な対策となります。集団と異なる意見を言う参加者がいれば、他の参加者も「自分だけが違う意見を持っているわけではない」と考え、集団内であっても自分の意見が言いやすくなるからです。

2.意思決定の場の参加者を変える

いつも同じメンバーで意思決定を行っていると、集団の凝集性が高まり、集団思考が発生しやすくなります。組織における集団思考を回避するためには、意思決定を行うメンバーを変えることですが、メンバー全員を毎回変更するのは難しいかもしれません。

そこで、経営者の目から見て、意思決定やアイデアがマンネリ化しているなど集団思考の兆候が見られる場合は、若手従業員などを会議に参加させるなど、経験や役職にとらわれずメンバーを同じ人で固定しないことで、意思決定の過程に多様性を持たせることも重要なポイントです。

3 組織の永遠の課題である組織変革を実現する

1)組織が変わることの難しさ

組織変革は、企業が生きながらえるためには常に直面する課題です。コロナ禍など企業を取り巻く外部環境や企業自身の内部環境の変化、あるいは新規事業進出・既存事業撤退などさまざまな要因により、企業は常に新しい組織像を求められます。

しかし、既存事業を行うために完成された組織を変えることは、非常に困難を伴う取り組みです。これには、「組織には変わることを拒むという性質がある」ためです。組織変革について考える際には、まずこの性質について「組織全体のレベルでの問題」と「個人レベルでの問題」に分けて理解する必要があります。

1.組織全体のレベルでの問題

組織変革を強く意識せずに、特段の取り組みを行わない場合、組織は既存事業の強化など「現在の組織構造を強化する」傾向があります。

例えば、設備投資は、その事業をより効率的に行うことのできる設備などが対象になります。人事面では、その事業に対する高い能力を有する人材を採用したり、そうした能力を少しでも高めることができるように教育・訓練をしたりするはずです。

また、指揮命令系統や部課などの組織構造も、既存の事業などに最適なものに形成されていきます。さらに、従業員の行動様式に影響を与える組織文化も、事業遂行に適したように形成されていきます。

このような「現在の組織構造を強化する」という流れは、今の組織構造を変化させる組織変革にとっての大きな障害となります。

2.個人レベルでの問題

組織全体のレベルとは別に、実際に組織を動かす従業員などの中にも変わることを拒む性質があります。これは、組織にいる従業員の特徴というよりは、むしろ人が本質的に持つ特性といったほうがいいかもしれません。

人が変化を好まない理由の大きな要因に、「先が分からないという不安感」があります。例えば「変革に伴って業務内容が変わるが、私にできるだろうか?」「今までの業務では高い評価を得られたが、新しい業務でも同様に高い評価を得ることができるのか?」「業務量が増えるのではないか?」など、新しいことに対してはさまざまな不安がつきものです。その結果、「先の分からない『変化』よりも、現状のままがいい」という気持ちが強くなってしまうのです。

組織変革の難しさは、組織全体のレベルでの変革と個人レベルでの変革を、バランス良く行わなければならない点にあります。しかし、実際の組織変革への取り組みを見ると、制度面の変更など、比較的容易に取り組むことができる組織全体のレベルでの変革には注意が払われているものの、個人レベルでの変革については、十分な注意が払われていないことが多いようです。

2)個人レベルでの変革を行う際の基本的な考え方

個人レベルでの変革を行う際の基本的なポイントは次の通りです。

  1. 組織変革の必要性(現状のままでいることは許されない理由など)を理解させる
  2. 組織変革を通じて実現する新たな組織像や、そのためにどのように変わる必要があるかという具体的な方向性を示す
  3. 組織変革の成果を実感させる
  4. 1.~3.の取り組みを継続する

1.で「現状のままがいい」という甘えを絶ち、真剣に組織変革に取り組まなければならないという事実をしっかりと認識させます。2.で「先がどうなるか分からない」という不安感を払拭するとともに、自身が組織変革のためにすべきことを具体的に示すことで、組織変革に取り組みやすい状況をつくります。3.で具体的な成果を通じて組織変革の正しさなどを実感させ、組織変革に取り組もうというモチベーションを高揚・維持させます。そして、4.で従業員の心の中に時折頭をもたげてくる「以前の状況に戻りたい」という気持ちを抑え、継続的に組織変革に取り組んでもらうようにします。

個人レベルでの変革において、経営者が注意しなければならないのは、「分かっている『はずだ』」という思い込みです。規模が小さな企業では日常のコミュニケーションを図りやすいこともあり、経営者は「何度も言わなくても、従業員は分かってくれているはずだ」と思いがちです。しかし、これでは個人レベルでの変革は実現できません。「常に、組織変革の必要性や、熱意を持って新たな組織像を語り続ける」といった姿勢が必要なのです。

4 多様化する働き方に対応する組織づくり

1)多様化する働き方

コロナ禍を経て「従前と同じやり方では、業務をスムーズに進められなくなった」など、組織上の問題を感じる経営者は少なくありません。その背景には、リモートワークやオンラインミーティングが普及し、「お互いの顔が見えない離れた場所で働いているため、コミュニケーションが取りにくくなった」といった要因が挙げられます。

こうした環境の変化に対応しながら、組織運営をスムーズに行っていくためには、さまざまな対策を講じることが求められます。ここでは「組織のライフサイクル」という考え方を基に、多様化する従業員に対応するための問題を考えてみます。

2)組織のライフサイクル

組織の変遷は、「誕生・成長・衰退」といったライフサイクルで表すことができます。ライフサイクルの段階区分はさまざまな定義がありますが、ここでは「1.起業段階→2.共同化段階→3.公式化段階→4.精巧化段階」と仮定して話を進めていきます。また、段階ごとに、戦略・マネジメントスタイル・リーダーシップの在り方などさまざまな特徴が見られますが、組織という視点から簡単にその特徴を紹介します。

1.起業段階

組織が誕生したばかりであり、規模が小さいことから組織の柔軟性は高く、組織的な活動というよりは、むしろ個々の従業員、特に経営者(この時点では創業者である場合が多い)の個人的な資質や魅力に強く依存しながら事業が展開されます。また、創業者の理念や夢(それを形にした企業理念など)に対する熱い思いが従業員の間で自然に共有されており、従業員はそうした要因に強く動機付けられながら業務に携わります。

2.共同化段階

組織の規模が大きくなってくるため、次第に経営者の個人的な資質や魅力に依存した組織運営が難しくなっていきます。また、人材も多様化してくるため、創業者の理念や夢を自然と共有することも難しくなってきます。そのため、経営者に求められる能力としては、組織を運営していく上で不可欠なマネジメント能力の重要性が増してきます。

3.公式化段階

組織の規模が拡大していくとともに組織内での活動が幅広くなり、経営者がマネジメントできる範囲も限られるようになってきます。組織内において経営者からの権限委譲が進み、それに伴って組織は部門ごとに分割されるなどして、組織区分の明確化や組織の階層化が図られ、官僚的組織が形成されていきます。また、経営者の役割は、マネジメント業務から戦略の策定など、組織活動の方向付けを行う役割が中心になってきます。

4.精巧化段階

官僚的組織が定着するに従って、セクショナリズムや責任回避といった官僚的組織のデメリットが顕在化し、組織の硬直化が進みます。こうした問題を解決するためには、プロジェクトチームやタスクフォースなどの横断的な組織制度を導入するなど、組織の柔軟化・活性化が重要な課題となります。

3)組織のライフサイクルから問題を考える

一般的に、組織の成長は「従業員数の増加」を1つの基準として語られます。しかし、これは単に従業員数の増加という視点だけではなく、それに伴う「従業員の多様化」という問題を考える際にも参考にすることができます。例えば、規模は決して大きくない中小企業においても、従業員の多様化などが原因で組織のライフサイクルと同様の特徴(問題点)が見られるケースは少なくありません。

組織のライフサイクルに準じて考えると、中小企業が特に注意しなければならないのは、起業段階から共同化段階に至る過程かもしれません。中小企業の中には、企業経営の大部分を経営者の個人的な資質や魅力に依存しているといった、起業段階が未成熟な組織のままでとどまってしまっている場合が少なくないからです。

しかし、起業段階の未成熟な組織が成り立つのは、従業員の多くが創業当時のメンバーであり、創業者の理念や夢に対する熱い思いを共有できているといった要素に負うところが大きいのです。創業当時から苦楽を共にしている従業員の間には親密なコミュニケーションが図られています。そのため、例えば「自身の担当業務ではなくとも、他の従業員が困っていたら協力を惜しまない」というように、指示がなくても相互補完的に業務を遂行するなどしているため、未成熟な組織であっても組織として成立し得るのです。創業者の理念や夢を共有できているからこそ、従業員は「それを実現したい」という思いから、未成熟な組織の中でも高い貢献意欲を持って進んで業務に取り組むことができます。

規模自体はそれほど大きくなくとも、従業員や働き方の多様化が進めば、その中で創業者の理念や夢を自然と共有することは難しくなってきます。従って、組織運営をスムーズに行っていくためには、何らかの施策を講じる必要が出てきます。

例えば、「創業時の理念や夢を共有できるように、従業員に熱意を持って説き続ける」といった対策を再強化することも有効かもしれません。その一方で、自社の状況を勘案しながら組織のライフサイクルを参考に、新たな組織づくりに取り組むことも有効な対策の1つとして検討することができるでしょう。

以上(2024年1月更新)

pj00109
画像:pexels

健康経営の最前線「ヘルステック (健康×テクノロジー)」事例集

書いてあること

  • 主な読者:健康経営の取り組みが十分でないと感じている経営者
  • 課題:健康経営の定義が難しい。経営的な視点や戦略性といわれてもピンと来ない
  • 解決策:難しく考えず、気軽にヘルステックの製品・サービスを取り入れてみる

1 「健康経営」はシンプルに考える

採用や福利厚生、SDGsなど「健康経営」に取り組むことの意義は高まるばかりです。しかし、「自分たちの会社は、健康経営に十分に取り組めていない」と考える経営者は多いです。その理由には、経営者が健康経営を「難しく捉えすぎている」ことがあります。

経済産業省では、

健康経営を「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」

と定義しています。これを「社員が健康に働けるよう、会社がサポートすること」とシンプルに捉えれば、だいぶ見方が変わってきます。「経営的な視点」や「戦略性」はひとまず置いておいて、社員の健康につながりそうなことを何か1つ実践してみましょう。手軽なのは、

健康経営関連の製品・サービスを導入してみる

ことです。これも立派な健康経営ですし、新しい福利厚生にもなります。

この記事では、健康経営の取り組みを分類した上で、健康経営の最前線である「ヘルステック(健康×テクノロジー)」の事例を紹介します。

2 「法定系」を実施し、「法定外系」でちょい足しする

まず、健康経営の取り組みを整理してみます。ここでは、

  • 縦軸:法定系、法定外系(法律に定められたもの、そうでないもの)
  • 横軸:フィジカル、メンタル(体の健康に関するもの、心の健康に関するもの)

でポジションマップを作成しました。

健康経営のポジションマップ

取り組みの基本は、

「法定系」の取り組みを確実に実施しつつ、「法定外系」の製品・サービスでちょい足しをする

ことです。「法定系」は確実に対応すべきことですが、以降で紹介するのは、「法定外系」のうち、テクノロジーを活用した「ヘルステック」の製品やサービスです。実際に製品・サービスの担当者に聞いた「提供を始めたきっかけ」「イチオシのポイント」「現在の状況」などを紹介します。

メールマガジンの登録ページです

3 骨格筋量や体脂肪率を簡単に計測できる体組成計

管理医療機器の販売を行うインボディ・ジャパン(東京都江東区)は、体組成計「InBody」シリーズを提供しています。身長を入力して体重を量り、備え付けの8点接触型電極を握るだけで、骨格筋量や体脂肪率、内臓脂肪レベルなどの6項目を10秒で測定できます。

通常の体組成計は、年齢や性別などの統計データに基づいて体成分の結果を補正するため、「高齢の人が頑張って筋肉量を維持しても、測定結果が低めに出てしまう」などの問題がありますが、InBodyでは年齢や性別などの入力を必要としないため、その心配がありません。また、アプリとも連動しているため、スマホから体成分情報を簡単に確認できます。下の写真は、家庭用の「InBody Dial」です。

InBody Dial

インボディ・ジャパン 経営管理部 金氏にお話を伺いました。

「提供を始めたきっかけは、同社の創業者が、大学での研究を通じて『電気抵抗で体成分が測定できる』と知ったことです。当時は一部の研究で使われているだけの技術でしたが、創業者はこれを医療機関などで実用化できれば社会貢献につながると考えました。そうして研究を重ねた結果、完成したのがInBodyです。

イチオシのポイントは、データの正確性です。InBodyでは、身長・体重と実測したインピーダンス(電気抵抗の値)のみに基づいて体成分を算出するので、不純なデータが混在せず、自分の健康状態を客観的に把握できます。また、体組成計に入力すべき情報が少なく操作が簡単、かつデータをクラウド上で一元管理できるのも強みです。現在、工場を持つ会社が作業員の健康管理にInBodyを活用している他、国立大学での研究、患者やアスリートの体調管理などにも使われています」(金氏)

■InBody Dial■
https://www.inbody.co.jp/inbody-dial/

4 身に着けるだけで腰への負担を軽減できるスーツ

介護福祉機器の開発、設計、製造、販売などを行うイノフィス(東京都八王子市)では、身に着けるだけで腰への負担を軽減できる「マッスルスーツ」シリーズを提供しています。物を持ち上げたり持ち運んだりする倉庫作業や、つらい姿勢を維持しなければならない介護や農作業などの現場で活用されています。

例えば、写真のマッスルスーツ「Exo-Power(エクソパワー)」は、27キログラムフォースという、シリーズ最強のアシスト力を誇ります。背負ってベルトを締めるだけで10秒で装着でき、補助力の強弱もポンプで送り込む空気の量によって調節できます。

マッスルスーツ「Exo-Power」

イノフィス マーケティング広報担当 清水氏にお話を伺いました。

「提供を始めたきっかけは、東京理科大学 小林教授の『人工筋肉』の構想です。教授は、二足歩行型のロボットが話題になった際、『技術は確かにすごいけど、人間にとって本当に役立つものは何だろう?』と考え、結果、全ての人が生きている限り自立した生活を実現できる『人工筋肉』に行き着きました。それが、マッスルスーツの開発の原点です。

イチオシのポイントは、電気を一切使わないことです。他社のアシストスーツは電気やモーターで動くものも多いですが、マッスルスーツはそれらを必要としないため、介護施設の風呂場や雨天時の畑でも使用できます。また、重いものの持ち運びやその場での作業には外骨格タイプのExo-Power(エクソパワー)、物流業など動きの多い作業にはサポータータイプのSoft-Power(ソフトパワー)など、用途に合わせてマッスルスーツの種類を選択できるのも強みです。

現在、マッスルスーツは腰への負担の大きい作業のある製造業、運送業、介護、農業、建設業などの現場で広く利用され、作業員の労災予防、ひいては離職防止や採用ブランディングに大いに役立っています。また、海外にも需要があり、17カ国で累計2万5000着以上を販売しています」(清水氏)

■「マッスルスーツ」シリーズ■
https://musclesuit.co.jp/product/lp.musclesuit.jp

5 トイレのタイミングが分かる排泄予測支援機器

排泄関連商品の企画、開発、販売を行うトリプル・ダブリュー・ジャパン(東京都港区)では、トイレのタイミングが分かる排泄予測支援機器「DFree」を提供しています。在宅介護で排尿に不安を抱えている家族などがいる場合、小型センサーをその下腹部に貼ることで、どのタイミングでトイレに行けばいいかが本体であるタブレットに通知されます。

通常の介護では、尿意を感じてからではトイレに間に合わないケースなどがありますが、DFreeの小型センサーは、超音波により膀胱の尿のたまり具合をリアルタイムで検知し、早めに知らせてくれるため、こうした問題を解決できます。

Dfree

トリプル・ダブリュー・ジャパン 代表取締役 中西氏にお話を伺いました。

「提供のきっかけは、私がアメリカ留学中のあるときに失禁を起こしたことです。そこから、尿漏れに関する悩みを持つ人が多いのではないかと考えるようになり、DFreeの開発が始まりました。

イチオシのポイントは、とにかく『トイレの不安解消』に尽きます。高齢者以外に出産後の女性なども尿漏れが発生しやすい傾向にあり、『つい何回もトイレに行ってしまう』『失禁が怖くて外出できない』など、不安を抱えている人は意外と多いです。尿のたまり具合を可視化できるDFreeは、こうした悩みの解決に役立ちます。実際、30分に1回トイレに行っていた人が、製品を利用し始めてから2時間に1回しかトイレに行かなくなった事例もあります。

現在、DFreeは介護が必要な家族を持つ人、出産後の女性に広くご利用いただいています。DFreeを福利厚生として活用したいという会社に、定価より安く販売したケースもあります。なお、2022年4月からは『特定福祉用具』の認定を受けましたので、要支援/介護認定の人は、介護保険適用により、1~3割負担で製品を購入できるようになっています」(中西氏)

■DFree■
https://dfree.biz/

6 楽しくウォーキングができるアプリ

インターネットサービス事業を行うONE COMPATH(東京都港区)は、楽しくウォーキングができるアプリ「aruku&(あるくと)」の法人向けサービス「aruku& forオフィス」を提供しています。スマホの歩数計データを利用して社内でウォーキングイベントを開催できる法人向けサービスです。

社員がスマホでアプリをダウンロードするだけで導入できます。社員が歩いた分だけ、歩数計データの内容が、個人別・部署別のランキングにリアルタイムで反映されます。また、「1時間以内に1000歩歩いて」といったゲームミッションや、プレゼントキャンペーンなど、イベント終了後もウォーキングを継続できる仕掛けが満載です。

aruku&forオフィス

ONE COMPATH イノベーション本部aruku&サービス部ゼネラルマネジャー 西澤氏にお話を伺いました。

「提供を始めたきっかけは、新規事業を立ち上げる中で、何か社会課題の解決につながるサービスを提供したいという話が持ち上がったことです。もともと当社では、インターネット地図や位置情報ゲームを展開していて、そこから『ゲーム感覚で楽しくウォーキングができるアプリがあれば、生活習慣病の改善や医療費の削減が図れるのではないか』という発想が生まれました。

イチオシのポイントは、今言った通り、ゲーム感覚で手軽に始められることです。導入は社員がスマホにアプリをダウンロードするだけで簡単にできますし、管理者・担当者向けに専用の管理ツールも提供しているので、歩数データの集計やイベント告知なども簡単に行えます。手間がかからないからこそ、社員同士で「どれくらい歩いた?」などの会話が自然に生まれ、ウォーキングを通じてコミュニケーションが活性化します。個人で健康意識を高めるのではなく、社員同士での意識醸成を図れます。

現在、社員数300人未満の中小企業を対象とした『U300応援プラン(アンダー300応援プラン)』というプランを実施しています。利用料が年間一律20万円と比較的安価で、導入いただいている会社は多いです。こうした甲斐あってか、2023年には、aruku& forオフィスを導入している会社のうち、66社が経済産業省の『健康経営優良法人2023』に認定されています」(西澤氏)

■aruku&forオフィス■
https://www.arukuto.jp/biz/office/

7 女性の健康問題の解決をサポートするサービス

フェムテック(女性×テクノロジー)に関するシステム開発・運営事業を行うLIFEM(東京都新宿区)では、女性の健康課題をライフステージに合わせて総合的に支援するサービス「ルナルナ オフィス」を提供しています。サービスの内容は、女性の体に関するセミナーやコンテンツの提供、医師などによるオンライン診療・相談、さらには薬の処方などです。

例えば、「スタンダードプラン」では、女性社員の月経、妊娠、更年期の悩みを

啓発(セミナーやコンテンツの提供)→認知(オンライン診療・相談)→改善(薬の処方)→検証(職場環境アセスメント)

という流れで解決するサービス体系になっています。女性社員の健康改善に役立つだけでなく、職場環境アセスメントまで行うことで、会社がどの程度女性特有の健康課題に向き合えているかもチェックできます。

ルナルナオフィス(スタンダードプラン)

LIFEM社にお話を伺いました。

「『見えにくい未来と今とのギャップを埋める』という理念に基づき、社会問題となっているジェンダーギャップ、その中でも男女の性差によって生じる『健康課題』のギャップを埋めることを目的に、ルナルナ オフィスが始まりました。

イチオシのポイントは、入社からリタイアまで、長期間にわたって女性の健康を支え続けられることです。産休・育休のタイミングであれば誰もが妊娠の悩みを抱えますし、年月を経て管理職になる頃には更年期の悩みも増えてきます。そうした幅広い悩みにワンストップで対応できるのが強みです。また、本サービスのセミナーなどは男性も視聴できるので、男性社員のリテラシー向上にも役立ちます。

現在、スタンダードプランの他に、社員数20人以下の会社を対象とした、よりシンプルな「ライトプラン」も提供し、中小企業を含む多くの会社にルナルナ オフィスを活用いただいています。女性活躍推進や健康経営の推進、採用強化や離職防止など、さまざまな課題の解決に役立っています」(LIFEM社)

■ルナルナ オフィス■
https://office.lnln.jp/

8 (参考)健康経営について知っておきたい補足情報

1)健康経営に関する認定制度

第6章の「aruku&forオフィス」の事例にも少し出てきましたが、健康経営に取り組むことで、経済産業省の「健康経営優良法人」をはじめ、さまざまな認定が受けられます。

認定を取得すれば、自社が健康経営に取り組んでいることのPRになります。第6章でもお伝えした通り、「他社が提供する製品・サービスを使って、ウォーキングイベントを開催した」などでも取得できる場合があるので、せっかく健康経営に取り組むなら、認定取得を目指していくのもよいでしょう。

図表7は、健康経営関連の認定制度の例(中小企業向け)です。

(図表7)【健康経営関連の認定制度の例(中小企業向け)】

認定制度名 認定ジャンル 主催 認定法人数(注1) 費用(税込)
健康経営優良法人(中小規模法人部門) 健康経営全般 経済産業省 1万4007件 1万6500円
各都道府県の健康経営認定制度(注2) 健康経営全般 各都道府県 都道府県による 無料
DBJ健康経営格付 健康経営全般 日本政策投資銀行 282社 無料
くるみん認定 子育て支援 厚生労働省 4986社 無料
えるぼし認定 女性活躍 厚生労働省 2532社 無料
ユースエール認定 若者採用・育成 厚生労働省 1159社 無料
もにす認定 障害者雇用 厚生労働省 331社 無料
安全衛生優良企業 労働安全衛生 厚生労働省 33社 無料

(出所:日本情報マート作成)

(注1)2024年1月12時点で把握可能な、公表分の最新の数値を合算しています。
(注2)実施していない都道府県もあります。

健康経営に関わる認定制度は多数ありますが、最も知名度が高く健康経営全般に対して認定を受けることができる制度は「健康経営優良法人」です。

2)健康経営の定義

冒頭で健康経営の定義を紹介しましたが、実は省庁や団体によって定義が若干異なります。主なものを紹介します。

1.経済産業省

「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されます。健康経営は、日本再興戦略、未来投資戦略に位置づけられた「国民の健康寿命の延伸」に関する取り組みの一つです。

2.東京商工会議所

健康経営とは、従業員等の健康管理や健康増進の取り組みを「投資」と捉え、経営的な視点で考えて、戦略的に実行する新たな経営手法です。これまで、従業員の健康管理は自己責任、あるいは企業にとってコストとして考えられてきましたが、今後も続くであろう深刻な「人手不足問題」などを背景に、「健康経営」に注目する経営者が増えています。従業員の健康づくりを「投資」とするには、相応の「リターン」が期待されるからです。

先進的に健康経営に取り組む企業からは、「生産性向上」「業績向上」「従業員の活力向上」「組織の活性化」「企業価値向上」「採用時の応募数増加」などを実感しているといった声も寄せられています。また、労務管理・労働安全対策の視点からの「法令遵守」「リスクマネジメント」の手法としても注目されています。このように、健康経営は、企業が経営理念に基づいて、従業員等の健康保持・増進に積極的に取り組むことにより、従業員の活力向上や生産性の向上など組織の活性化をもたらし、ひいては業績の向上や企業のイメージ向上、採用増加へつなげていく取り組みです。

3.健康経営研究会

健康経営とは「企業が従業員の健康に配慮することによって、経営面においても 大きな成果が期待できる」との基盤に立って、健康を経営的視点から考え、戦略的に実践することを意味しています。今後は、「人という資源を資本化し、企業が成長することで、社会の発展に寄与すること」が、これからの企業経営にとってますます重要になっていくものと考えられます。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2024年1月26日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。

【かんたん所得税(2)】利子や配当など10種類ある所得の概要とそれぞれの課税方法

書いてあること

  • 主な読者:所得税の「所得」について確認したい人
  • 課題:不動産の売買など、これまでとは違う所得があるが、どうしたらよいか分からない
  • 解決策:所得には10種類あるので、自分の所得が何に該当するかを確認する

1 10種類ある所得

所得を得る方法は実にさまざまです。そこで所得税では、所得を次の10種類に区分し、それぞれの性質に見合った形で納付税額を計算します。

利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得、雑所得

この記事では、この10種類ある所得の具体例を確認した上で、計算方法や課税方法について説明します。この記事は長いので、まずは自分の所得に該当する項目を読んでみてください。

2 利子所得

1)利子所得とは

利子所得には、次のようなものが該当します。

  • 公社債(国債、地方債、社債)の利子
  • 預貯金(銀行預金、JA貯金など)の利子
  • 合同運用信託(金銭信託、貸付信託など)の収益の分配
  • 公社債投資信託(中期国債ファンドなど)の収益の分配
  • 公募公社債等運用投資信託の収益の分配

2)非課税とされるものの代表例

1.障害者等のマル優などの利子

障害者等については、所定の手続きを取れば、元本350万円以下の少額預貯金等の利子、元本350万円以下の公債の利子が非課税となります。

2.財形貯蓄の利子のうち一定のもの

給与所得者の勤労者財産形成貯蓄(財形貯蓄)のうち、財形住宅貯蓄と財形年金貯蓄については、合わせて元本550万円までの利子が非課税となります。

3.納税準備預金の利子

納税準備預金が、税金の納付を目的として引き出された場合の利子が非課税となります。

3)利子所得の金額

利子所得の金額は、受け取った利子の額(源泉徴収前の金額)となります。

4)課税方法

利子所得に該当するものは、国内所得の場合、その支払いを受けるときに20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%)の税率で源泉徴収され、それで所得税や住民税の課税関係が完結するため、確定申告をする必要はありません。これを、源泉分離課税といいます。

なお、国債、地方債、公募公社債など一定の特定公社債等の利子は源泉分離課税の対象から除外され、原則として申告分離課税の対象となっています。申告分離課税とは、他の所得とは分離して個別で課税計算をすることをいいます。

3 配当所得

1)配当所得とは

配当所得には、次のようなものが該当します。

  • 法人から受ける剰余金、利益の配当
  • 剰余金の分配(出資に係るものに限ります)
  • 基金利息
  • 投資信託(公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託を除きます)の収益の分配
  • 特定受益証券発行信託の収益の分配

2)非課税とされるものの代表例

1.オープン型の株式投資信託の特別分配金

これは、事実上元本の払い戻しに相当するため非課税となります。

2.障害者等のマル優などの収益の分配

少額預貯金などの利子には、一定の株式投資信託の収益の分配も含まれます。

3.財形貯蓄に係る収益の分配のうち一定のもの

財形貯蓄の利子には、一定の株式投資信託の収益の分配も含まれます。

4.非課税口座内の少額上場株式などに係る配当所得(NISA)

2014年から2023年までの間に、年間120万円を上限として非課税口座で取得した上場株式等の配当などは、最長5年間非課税となります。

なお、2024年以降は、制度が抜本的に改正され、制度の実施期間が恒久化されます。また、年間の投資上限額は240万円に拡充され、非課税となる保有期間は無期限となります。さらに、これまで上記5.との併用ができませんでしたが、2024年以降は併用可能になります。

5.一定の投資信託に係る配当所得(つみたてNISA)

2018年から2042年までの間に、年間40万円を上限として購入した投資信託の分配金などは、最長20年間非課税となります。

なお、2024年以降は、制度が抜本的に改正され、制度の実施期間が恒久化されます。また、年間の投資上限額は120万円に拡充され、非課税となる保有期間は無期限となります。

6.未成年者口座内の少額上場株式などに係る配当所得(ジュニアNISA)

20歳未満の居住者が2016年4月1日から2023年12月31日までの間に、年間80万円を上限として未成年者口座で取得した上場株式等の配当などは、最長5年間非課税となります。

なお、2024年以降は制度が廃止されるため、新たな取引はできません。

3)配当所得の金額

配当所得の金額は次のように計算します。

配当所得=収入金額(受け取った配当の源泉徴収前の金額)-負債の利子の額

4)課税方法

1.上場株式等(持株割合3%未満のもの)の配当など

その支払いを受けるときに20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%)の税率により源泉徴収されます。配当所得として確定申告をする場合、この源泉徴収税額は前払税額として精算されますが、上場株式等の配当などについては、その金額にかかわらず確定申告をしなくてもよいという特例があります。この場合には、その源泉徴収税額だけで所得税と住民税の課税関係が完結します。これを、確定申告不要制度といいます。

2.その他の株式等の配当など

その支払いを受けるときに所得税・復興特別所得税が20.42%の税率により源泉徴収されます。配当所得として確定申告をする場合、この源泉徴収税額は前払税額として精算されますが、年間の配当金が10万円以下の少額配当については確定申告をしなくてもよいという特例があります。この場合には、その源泉徴収税額だけで所得税の課税関係が完結します(確定申告不要制度)。

3.私募公社債等運用投資信託および特定目的信託(社債的受益証券)の収益の分配

その支払いを受けるときに20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%)の税率により源泉徴収され、その源泉徴収税額だけで所得税や住民税の課税関係が完結しますから、確定申告をする必要はありません(源泉分離課税)。

4 不動産所得

1)不動産所得とは

不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利(借地権など)、船舶・航空機の貸付けによる所得です。具体的には、貸家やアパートの家賃収入、駐車場の地代収入などが該当します。不動産所得はあくまで不動産などを貸付けた場合の所得で、不動産を売却した場合は譲渡所得となります。

2)不動産所得の金額

1.総収入金額

家賃収入、地代収入などを計上します。原則として、契約上の支払日に計上します。ただし、継続記帳等による計算を行っている場合を除き、翌月分の家賃地代を当月末までに受け取る契約となっている場合は、翌年1月分の家賃地代を今年の総収入金額に計上するので注意しましょう。また、原則として全額返還するものとされる敷金や保証金などは預り金であるため、総収入金額に計上しません。

2.必要経費

貸付不動産に係る固定資産税、修繕費、損害保険料、減価償却費、借入金の利子、管理費などを計上します。

3.青色申告特別控除

青色申告者は、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額を計算するときに、青色申告特別控除額として10万円(原則)または55万円(特例。e-taxで申告する場合等は65万円)を差し引くことができます。55万円の特例は、「不動産所得又は事業所得を生ずべき業務を事業的規模(貸家ならおおむね5棟以上、アパート等ならおおむね10室以上など)で営んでいることと、取引内容を詳細に帳簿に記録していること」などが要件とされ、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額の順で合計55万円(e-Taxを使用して確定申告および青色申告決算書を提出期限までに提出する場合などは65万円)を上限として控除します。

4.不動産所得の金額

不動産所得の金額=総収入金額-必要経費-青色申告特別控除額

3)課税方法

不動産所得の金額は、他の所得と総合(合算)して総所得金額を構成し、所得税が課税されます。従って、確定申告が必要となります。

5 事業所得

1)事業所得とは

事業所得とは、農業・小売業・卸売業・製造業・サービス業その他の事業から生ずる所得をいい、次のようなものも事業所得に含まれます。

  • 従業員用アパートの使用料収入(社宅など)
  • 取引先や従業員に対する貸付金の利子
  • 空き箱や作業くずの売却代金などの雑収入
  • 仕入割戻(仕入リベート)
  • 棚卸資産に係る保険金収入
  • 副業などによる収入で、帳簿が保存されているもの

2)事業所得の金額

基本的に不動産所得の金額と同じように計算します。

事業所得の金額=総収入金額-必要経費-青色申告特別控除額

3)総収入金額計算上の注意点

1.棚卸資産の家事消費

棚卸資産を家事のために消費したら、自分自身に売ったものとして所得税が課税されます。この場合、その棚卸資産の通常の販売価額の70%の金額と仕入価額のいずれか高い金額を、総収入金額に計上することとなります。

2.棚卸資産の贈与

棚卸資産を贈与した場合にも、上記1.の家事消費と同様に取り扱われます。

3.棚卸資産の低額譲渡

棚卸資産を通常の販売価額の70%未満の対価で譲渡した場合、その通常の販売価額の70%の金額を総収入金額に計上しなければいけません。ただし、形崩れなどによる値引販売や広告宣伝のための目玉商品としての値引販売の場合は除きます。

4)必要経費計算上の注意点

1.売上原価

棚卸資産の売上原価の金額は、次のように計算します。

売上原価=年初棚卸高+当年仕入高-年末棚卸高

年末棚卸高の評価は、税務署に他の評価方法の届出をしない場合、最終仕入原価法(年末に最も近い日に仕入れた単価を使って、原価を計算する方法)により評価します。

2.家事上の経費・家事関連費

衣食住費、教育費、娯楽費などの家事上の経費は、必要経費に計上することはできません。また、店舗併用住宅の家賃や水道光熱費などのように、業務上の経費と家事上の経費が含まれている経費(家事関連費)については、業務の遂行上必要であることが明らかな部分だけを必要経費に計上します。

3.事業専従者控除

事業を営む者(白色申告者)と同一生計の親族(年齢15歳未満の者を除きます)で、その事業に専ら従事する者(事業専従者)がいる場合は、その事業専従者1人につき原則50万円(配偶者の場合は86万円)を必要経費に計上できます。なお、その事業専従者側では、その金額は給与所得に係る収入金額となります。

4.青色事業専従者給与

事業を営む者(青色申告者)と同一生計の親族(年齢15歳未満の者を除きます)で、その事業に専ら従事する者(青色事業専従者)に対し、「青色事業専従者給与に関する届出書」に記載されている金額の範囲内において給与(退職金は認められません)の支払いをした場合、労務の対価として相当な金額であれば、必要経費に計上できます。なお、青色事業専従者側では、その金額は給与所得に係る収入金額となります。

この規定の適用を受ける場合、その年の3月15日まで(新規開業等の場合には、開業日から2カ月以内)に、上記の届出書を納税地の所轄税務署長に提出しなければなりません。

5)課税方法

事業所得の金額は、他の所得と総合(合算)して総所得金額を構成し、所得税が課税されます。従って、確定申告が必要となります。

6 給与所得

1)給与所得とは

給与所得とは、給料・賃金・賞与(ボーナス)などに係る所得をいいます。

2)非課税とされるものの代表例

  • 出張旅費等
  • 通勤手当(原則として月15万円まで)
  • 制服などの職場上必要な現物給与
  • いわゆる税制適格ストックオプション(株式会社の取締役または使用人が、株主総会の付与決議に基づき株式会社と締結した契約(一定の要件を満たすもの)により付与された株式譲渡請求権または新株式引受権を行使した場合の経済的利益)

3)給与所得金額

給与所得金額は、原則として給与収入金額から給与所得控除額を控除して算出します。

画像1

4)課税方法

給与所得の金額は、他の所得と総合(合算)して総所得金額を構成し、所得税が課税されます。給与についてはその支払いを受けるときに一定の金額が源泉徴収され、確定申告の際には、その源泉徴収税額は前払税額として精算されます。

なお、勤務先に年末まで在職している人は、その年の最後に給与の支払いを受けるときに「年末調整」という手続きで所得税額が精算されるので、原則として確定申告はしなくてよいこととされています。

ただし、給与以外に所得があり、その金額が20万円を超える人などは年末調整を受けた場合であっても、確定申告をしなければなりません。また、給与収入が2000万円を超える場合は年末調整を受けることができず、確定申告をしなければなりません。

7 退職所得

1)退職所得とは

退職所得とは、退職手当、一時恩給など退職により一時に受ける給与に係る所得をいいます。また、次のようなものも退職所得に含まれます。

  • 国民年金法等の社会保険または共済に関する制度に基づく一時金
  • 確定給付企業年金法に基づいて支給を受ける一時金で加入者の退職により支払われるもの(その受給者が負担した保険料がある場合には、その負担した金額を控除します)

2)退職所得金額

退職所得金額は次のように計算します。

退職所得金額=(収入金額(源泉所得税控除前の金額)-退職所得控除額)×1/2

なお、勤続年数が5年以下である役員・公務員等については、「退職所得金額=収入金額-退職所得控除額」となります。退職所得控除額は次の通りです。

画像2

3)非課税

死亡退職金のうち死亡後3年以内に支給が確定したものは、原則として相続税の課税対象とされるため所得税は非課税となります。

4)課税方法

退職所得は、原則として所得の金額の計算上2分の1とするとともに、他の所得と区分する分離課税制度により課税されます。

また、勤務先を退職するときには通常「退職所得の受給に関する申告書」を提出することで、退職所得について正当税額が源泉徴収されるため、原則として確定申告をする必要はありません。なお、上記の申告書を提出しない場合には、退職金の額の20.42%が源泉徴収されます。

8 山林所得

1)山林所得とは

山林所得とは、山林の伐採または立木のままでの譲渡による所得をいいます。ただし、保有期間が5年以内に伐採または譲渡した場合は、事業所得または雑所得になります。なお、土地付きで山林を譲渡した場合には、土地部分は譲渡所得とされます。

2)山林所得の金額

山林所得の金額は次のように計算します。

山林所得の金額=総収入金額-必要経費-特別控除額-青色申告特別控除額

1.総収入金額

山林の譲渡金額を計上します。

2.必要経費

山林は、長期間育成した上で譲渡するものですから、譲渡した山林についてかかった植林費、取得費用、管理費、伐採費、譲渡費用など、その山林の育成から譲渡までの費用の累積額を計上します。

なお、譲渡した山林を15年前の12月31日以前から所有していた場合は、一定の概算経費率による方法で必要経費を計算することができます。

3.特別控除額

総収入金額から必要経費を差し引いた金額と50万円のいずれか低い金額となります。

4.青色申告特別控除

青色申告者は、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額の順で、合計10万円を控除することが認められています。なお、山林所得については55万円の控除が適用されません。

3)課税方法

山林所得は長年の育成の成果が一時に実現するものであることから、税負担の緩和を図るため、他の所得と区分する分離課税制度を取り、他の所得に比べて低い税率により課税されます。

9 譲渡所得

1)譲渡所得とは

譲渡所得とは、土地・建物、書画・骨董品、株式などの譲渡による所得をいいます。ただし、次のものは譲渡所得とはなりません。

  • 棚卸資産の譲渡による所得(事業所得となります)
  • 山林の譲渡による所得(山林所得、事業所得、雑所得となります)

2)非課税とされるものの代表例

  • 生活に通常必要な動産(家具、衣類、時価30万円以下の宝石・書画・骨董品など)の譲渡
  • 国、地方公共団体等に対する贈与
  • 国、地方公共団体等に対する重要文化財の譲渡
  • 相続税の物納による譲渡
  • NISAにかかる少額上場株式等の譲渡
  • つみたてNISAにかかる投資信託の譲渡
  • 未成年者口座(ジュニアNISA)での少額上場株式等の譲渡

3)譲渡所得の区分

譲渡所得は、次のように分離短期譲渡所得、分離長期譲渡所得、株式等に係る譲渡所得、総合短期譲渡所得および総合長期譲渡所得の5つに区分されます。

1.分離短期譲渡所得

土地・建物等の譲渡で、譲渡年の1月1日における所有期間が5年以下のもの

2.分離長期譲渡所得

土地・建物等の譲渡で、譲渡年の1月1日における所有期間が5年超のもの

3.株式等に係る譲渡所得

株式等(ゴルフ会員権を除きます)の譲渡

4.総合短期譲渡所得

上記以外の資産の譲渡で、譲渡時の所有期間が5年以下のもの

5.総合長期譲渡所得

上記以外の資産の譲渡で、譲渡時の所有期間が5年超のもの

4)譲渡所得の金額

1.分離短期譲渡所得

総収入金額-(取得費+譲渡費用)

2.分離長期譲渡所得

総収入金額-(取得費+譲渡費用)

3.株式等に係る譲渡所得

総収入金額-(取得費+委託手数料等)

4.総合短期譲渡所得

総収入金額-(取得費+譲渡費用)-50万円特別控除額

5.総合長期譲渡所得

総収入金額-(取得費+譲渡費用)-50万円特別控除額

なお、上記4.と5.における50万円特別控除額は総合短期譲渡所得と総合長期譲渡所得の全体で50万円の控除であり、先に総合短期譲渡所得から控除します。

5)総収入金額

資産の譲渡代金を計上します。なお、その計上時期は、原則としてその資産の引き渡しの日になります。

6)取得費

1.原則

土地や骨董品などの減価しない資産は、その資産の取得価額が取得費となります。建物、車両運搬具、工具器具備品などの減価する資産は、その資産の取得価額から価値の減少分(減価償却費など)を控除した金額が取得費となります。

2.相続等により取得した資産

相続、遺贈、個人からの贈与により取得した資産の取得費は、原則として元の所有者の取得費を承継します。

3.「5%基準」

上記の金額が収入金額(譲渡代金)の5%に満たない場合、資産の取得価額が不明である場合には、収入金額の5%を取得費とすることができます。

7)譲渡費用

資産の譲渡に際して支出した仲介手数料などを計上します。なお、資産の保有期間中の固定資産税、支払利息、修繕費などその資産の維持や管理のためにかかった費用は譲渡費用とはなりません。

8)内部通算

上記4)の譲渡所得の金額を計算した結果、赤字(譲渡損)の譲渡所得が生じた場合には、他の黒字(譲渡益)の譲渡所得から控除することができます。ただし、その赤字と黒字の相殺(内部通算)は、分離課税と総合課税のそれぞれの中でしか行うことができません。例えば、分離短期譲渡所得が赤字の場合には、分離長期譲渡所得の黒字と相殺することはできますが、総合課税の黒字とは相殺することはできません。また、株式等に係る譲渡所得については、内部通算の対象となりません。

9)課税方法

1.分離短期譲渡所得

他の所得と区分して分離課税により所得税・復興特別所得税30.63%、住民税9%の税率により課税されます。

2.分離長期譲渡所得

他の所得と区分して分離課税により所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%の税率により課税されます。

3.株式等に係る譲渡所得

他の所得と区分して分離課税により所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%の税率により課税されます。

4.総合短期譲渡所得

他の所得と総合(合算)して総所得金額を構成し、超過累進税率により所得税が課税されます。

5.総合長期譲渡所得

所得金額の2分の1を他の所得と総合(合算)して総所得金額を構成し、超過累進税率により所得税が課税されます。

10)住宅の譲渡に係る特例など

居住していた住宅を譲渡した場合には、短期所有、長期所有に関係なく、原則としてその譲渡益から3000万円を控除することができます(居住用財産を譲渡した場合の3000万円特別控除)。つまり、住宅の売却益は3000万円まで無税ということです。

また、土地などが国や地方公共団体に強制的に買い取られたような場合には、5000万円を控除することができます(収用交換等の5000万円特別控除)。

11)株式等に係る譲渡所得

1.株式等の範囲

株式(株式引受権等を含みます)、法人の出資者持分、新株予約権付社債、特定株式投資信託の受益証券など

2.取得費

  • 購入した株式:購入価額(購入手数料を含みます)
  • 払込みにより取得した株式:払込価額
  • 税制適格ストックオプションの適用を受けた株式:払込価額

3.課税関係

株式等に係る譲渡所得の金額は、「上場株式等」とその他の「一般株式等」に区分して計算します。なお、上場株式等のうち特定口座に保管が委託されている上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額は、証券業者が計算するため、納税者自身が所得計算を行う必要はありません。株式等に係る譲渡所得の金額は、他の所得と区分して分離課税により確定申告をするのが原則ですが、特定口座内の上場株式等の譲渡のうち、源泉徴収ありを選択したものについては、確定申告をしないことも認められています(確定申告不要制度)。

12)ゴルフ会員権

ゴルフ会員権の譲渡については、株式形態のものも預託金形態のものも、いずれも譲渡所得として総合課税されます。

13)公社債等

公社債(新株予約権付社債を除きます)、公社債投資信託や公募株式投資信託の受益証券、貸付信託の受益証券などの譲渡による所得については、2016年から課税となり、株式等に準じた課税方法が取られています。

なお、取得時に支払った経過利子や譲渡時に受取った経過利子の額は、それぞれ取得価額や譲渡対価に含まれます。

10 一時所得

1)一時所得とは

一時所得とは、上記2~9のいずれにも該当しない一時的な所得をいい、次のようなものが含まれます。

  • 懸賞の賞金品、福引の当選金品(業務上のものは除きます)
  • 競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金など(営利を目的とする継続的行為から生じたものを除きます)
  • 生命保険契約等に基づく満期返戻金(業務上のものは除きます)
  • 損害保険契約等に基づく満期返戻金
  • 法人からの贈与により取得する金品(業務上のものは除きます)
  • 遺失物拾得により受ける報労金など
  • 固定資産税や住民税の前納報奨金(業務上のものは除きます)

2)非課税とされるものの代表例

  • 国内宝くじの当選金
  • ノーベル賞の賞金など
  • 相続、遺贈、個人からの贈与により取得する金品
  • 心身または資産(棚卸資産等は除きます)に加えられた損害を補てんする性質の損害保険金や損害賠償金

3)一時所得の金額

一時所得の金額=総収入金額-支出した金額(その収入を得るために直接要した金額に限る)-50万円特別控除額

4)課税方法

一時所得の金額は、所得金額の2分の1を他の所得と総合(合算)して総所得金額を構成し、超過累進税率により所得税が課税されます。

11 雑所得

1)例示

1.公的年金等

  • 国民年金や厚生年金
  • 勤務先からの退職年金 
  • 確定給付企業年金法に基づく年金

2.公的年金等以外

  • 友人に対する貸付金の利子
  • 学校債や組合債の利子
  • 所得税の還付加算金
  • 生命保険契約等の年金
  • 株主優待券など
  • 副業などによる収入で、帳簿が保存されていないもの(年間の収入金額が300万円を超える場合で、事業実態がある場合には事業所得に該当)

2)雑所得の金額

1.公的年金等

収入金額-公的年金等控除額

2.公的年金等以外

総収入金額-必要経費

3.雑所得の金額

雑所得の金額=1.+2.

1.の公的年金等控除額は、国税庁「公的年金等の課税関係」にまとめてあります。公的年金等にかかる雑所得以外の所得に係る合計所得金額ごとに控除割合と控除額が異なりますので注意しましょう。

3)課税方法

雑所得の金額は、他の所得と総合(合算)して総所得金額を構成し、超過累進税率により所得税が課税されます。なお、雑所得のうち一定のものについては、その支払いを受けるときに一定の金額が源泉徴収されますが、その源泉徴収税額は、確定申告の際には前払税額として精算されます。

4)生命保険契約等に基づく年金

生命保険契約や損害保険契約による年金については、公的年金等には含まれず、公的年金等以外となりますので注意が必要です。これらの年金については、次のように計算します。

  1. 本年中に受けた生命保険等の年金(A)(総収入金額に計上)
  2. (A)×(保険料総額/年金支給総額)(必要経費に計上。小数第2位未満切り上げ)

以上(2023年12月更新)
(監修 税理士 石田和也)

pj30022
画像:pixabay

【規程・文例集】最新法令に対応した「パートタイマー用就業規則」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:パートタイマー用の就業規則の見直しを検討している経営者
  • 課題:パートタイマーによって働き方が異なり、どう就業規則を定めるべきか分からない
  • 解決策:画一的に決められる労働条件は就業規則で、それ以外は労働契約で定める

1 就業規則と労働契約の使い分けが重要

正社員よりも労働時間の短い社員のことを、一般的に「パートタイマー」といいます。ただ、

  • 正社員の補助として働くのか、その人にしかできない専門的な業務に従事するのか
  • 契約期間の定めがあるのか、ないのか
  • 社会保険の被保険者となるのか、ならないのか

など、ひとえにパートタイマーといっても、さまざまな違いがあります。通常、労働条件は「就業規則」か「労働契約」で定めますが、

  • 就業規則は、原則として規程の対象者全員に効力が及ぶため、働き方の異なるパートタイマーが多いと、その違いに対応しきれない
  • 労働契約は、パートタイマーごとに個別の労働条件を設定できるが、労働条件のばらつきが大きくなると、統率がしにくくなる

という問題があります。これを解決するには、

画一的に決められる労働条件は就業規則で定め、それ以外は労働契約で定める

のがポイントです。

なお、2024年4月1日からは、パートタイマーと労働契約を締結する際、

  • 有期労働契約の通算契約期間または更新回数の上限
  • 無期転換申込機会と無期転換後の労働条件(通算契約期間が5年を超える有期労働契約を締結した場合)

を新たに明示する必要があります。こちらも、画一的に決められる労働条件については、確実に就業規則に定めておきましょう。

次章では、パートタイマー用の就業規則のひな型を紹介します。ここまでの内容を踏まえた上で、自社の就業規則の見直しにご活用ください。

2 パートタイマー用就業規則のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容は異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【パートタイマー用就業規則のひな型】

第1章 総則

第1条(目的)

この就業規則(以下「本規則」)は、株式会社○○○○(以下「会社」)の従業員の労働条件、服務規律、その他就業に関して必要な事項について定めたものである。会社と従業員は本規則を遵守し、会社の発展に寄与するものとする。なお、本規則に定めのない事項は、労働基準法およびその他の関係法令によるものとする。

第2条(適用範囲および均衡待遇)

1)本規則の適用を受ける従業員は、第5条および第6条の手続きを経て、会社と期間に定めのある労働契約を交わした従業員で、1週間の所定労働時間が一般の従業員よりも短い短時間勤務従業員(以下「パートタイマー」)とする。

2)会社は、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」を遵守し、パートタイマーの待遇を就業の実態から判断して決定するものとし、一般の従業員との均衡を図るよう努めるものとする。

3)本規則に規定する「無期労働契約への転換」によって無期労働契約に転換したパートタイマーについては、転換後も本規則を適用とする。

第3条(労働契約の期間等)

1)会社は、労働契約の締結に当たって期間の定めをする場合には、3年(満60歳以上のパートタイマーとの契約については5年)の範囲内で、契約時に本人の希望を考慮の上各人別に決定し、別紙の労働条件通知書で示す。

2)当該契約について更新する場合またはしない場合の判断の基準は、次の通りとする(あらかじめ当該契約を更新しない旨明示されているものを除く)。

  1. 契約期間満了時の業務量
  2. パートタイマーの勤務成績、態度
  3. パートタイマーの能力および従事している業務の進捗状況
  4. パートタイマーの健康状態
  5. 会社の経営状況
  6. その他、会社が指定する書類

3)労働契約の締結時と更新時に、有期労働契約の通算契約期間または更新回数の上限を労働条件通知書で示す。

第4条(労働条件の明示)

1)会社は、パートタイマーとの労働契約の締結に際し、労働契約書を取り交わすとともに、労働条件通知書および本規則(付属する諸規程等を含む)を交付し、就業場所、従事すべき業務、労働時間、賃金、退職、その他の労働条件を明示する。

2)前項の明示事項の他、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律に基づき、契約更新の基準(更新上限)、昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無、有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口についても、労働条件通知書に記載し、あわせて明示するものとする。

3)第1項の労働条件通知書は、当該パートタイマーが希望する場合、メール、SNS等により送ることができる。

第2章 採用、異動

第5条(採用の手続き)

会社は、就職を希望する者の中で、次の各号に定める書類を提出した者の中から、面接その他一定の選考試験により採用者を決定する。会社はパートタイマーを採用するに当たり、労働契約の締結時、あるいは労働契約の更新時に、その後労働契約を更新する可能性があるか否かをパートタイマーに書面により通知する。ただし、状況により、会社はその一部の書類の提出を求めないことがある。

  1. 履歴書
  2. 職歴のある者については職務経歴書
  3. 写真(提出日前3カ月以内に撮影したもの)
  4. 会社が指定した資格証明書のコピー
  5. 在留カードのコピー(在留資格を有する外国人のみ)
  6. その他、会社が指定する書類

第6条(採用時の提出書類)

1)パートタイマーとして採用された者は、採用日から2週間以内に次の各号に定める書類を提出しなければならない。ただし、状況により、会社はその一部の書類の提出を求めないことがある。

  1. 誓約書
  2. 身元保証書
  3. 住民票記載事項証明書。個人番号(マイナンバー)が記載されているものの場合は、第8号の書類を提出する必要はない
  4. 通勤経路図
  5. 入社の年に給与所得があった者については、源泉徴収票(甲欄適用者のみ)
  6. 給与所得の扶養控除等(異動)申告書(甲欄適用者のみ)
  7. 基礎年金番号が確認できる書類(基礎年金番号通知書など、社会保険に加入する場合のみ)のコピー、雇用保険被保険者証(職歴のある者、雇用保険に加入する場合のみ)
  8. 個人番号(マイナンバー)カードの表裏面の写し、または個人番号(マイナンバー)の通知カードの写し。なお、個人番号(マイナンバー)カードの表裏面の写しの場合は、第9号の書類を提出する必要はない
  9. 自動車運転免許証または旅券の写し(有効期間内のもので、顔写真、氏名、住所、生年月日が分かるもの。ただし、交付されている場合に限る)
  10. 健康診断書(提出日前3カ月以内に受けたもの)(労働安全衛生法および関係規則の定めに該当する場合)
  11. 他社で雇用されている者については、他社の労働条件等が分かる書類
  12. その他、会社が指定する書類

2)前項の提出書類の記載内容に変更があったときは、速やかに所属長に届け出なければならない。

3)会社は、第1項の提出書類を人事労務に関する手続きおよび人事労務管理のために利用するものとし、その他のために利用する場合にはパートタイマーから同意を得るものとする。

4)前各項の規定にかかわらず、個人番号(マイナンバー)および個人番号(マイナンバー)をその内容に含む個人情報(以下「特定個人情報等」)の利用目的や取り扱いは、別途定める「マイナンバー(特定個人情報)取扱規程」(省略)によるものとする。

第7条(試用期間)

1)採用日から2週間を試用期間とし、業務の適性などを総合的に判断し、本採用の有無を決定する。この決定は試用期間の途中または満了日に行う。会社が適当と認めたときは試用期間を短縮または延長することがある。なお、延長の場合は2週間の範囲内とする。

2)前項の試用期間内に業務の適性が認められないと判断される場合には、当該労働契約期間で終了となる。

第3章 服務規律

第8条(服務規律の基本原則)

パートタイマーは、会社の指揮命令に従い、職務上の責任を自覚し、互いに協力して誠実に職務を遂行するとともに、職場の秩序の維持に努めなければならない。

第9条(服務心得)

1)パートタイマーは、次の各号に定める事項を遵守しなければならない。

  1. 勤務中は誠実に業務に励み、正当な理由なく無断欠勤および遅刻、早退、私用外出等をしないこと
  2. 許可なく業務以外の目的で会社の施設、物品などを使用しないこと
  3. 職務に関して自己の利益を図り、または他より不当に金品を借用し、もしくは贈与を受けるなど不正な行為をしないこと
  4. 整理整頓を徹底し、清潔な職場を心掛けること
  5. 日ごろから健康管理を怠ることなく、健康を保持すること
  6. 会社の一員としての自覚と品位を持ち、会社の名誉または信用を傷つける行為をしないこと
  7. 酒気を帯びて就業したり、自動車を運転したりしないこと
  8. 勤務中に、職務上の必要がないにもかかわらず電子メールやSNSを私的に利用しないこと。また、職務と関係のないウェブサイトを閲覧したりしないこと
  9. 他の者の業務を妨げないこと
  10. 他の者の就業環境を害さないこと
  11. 業務上の都合により、担当業務の変更または他の部署への応援を命ぜられた場合は、正当な理由なく拒まないこと
  12. 会社の許可なく、会社の文書類または物品を社外の者に交付、提示しないこと
  13. その他、職場の風紀・秩序を乱す行為をしないこと

2)パートタイマーが会社施設内において政治活動、宗教活動、集会、演説、放送をし、または文書の配布、掲示をしようとする場合は、事前に会社の許可を受けなければならない。

第10条(機密保持)

パートタイマーは、自己の担当であるか否かを問わず、業務上知り得た機密を第三者に開示または漏洩もしくは自らのために利用してはならない。退職後も同様とする。

第11条(ハラスメントの禁止)

全てのパートタイマーは、国籍、信条、性別、性的指向、性自認、職務上の地位・権限・職権、雇用形態に関係なく、職場において相手の人格や尊厳を尊重し、ハラスメント(セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント、パワーハラスメントなど)並びにそれらと疑われる行為をしてはならない。ハラスメントの防止については別途定める「ハラスメント防止規程」(省略)によるものとする。

第4章 労働時間、休憩、休日・休暇

第12条(労働時間および休憩)

1)パートタイマーの労働時間は1日6時間以内とする。始業および終業の時刻並びに休憩時間は次の通りとし、各人別に定める。ただし、パートタイマーの都合により以下の労働時間により難い場合は、個別の労働契約で定める。

画像1

2)前項にかかわらず、業務の都合その他、やむを得ない事情により始業および終業の時刻並びに休憩時間を変更することがある。ただし、1日の労働時間は6時間を超えないようにする。

第13条(休憩時間の自由)

パートタイマーは、休憩時間を自由に使用することができる。

第14条(出勤、退社)

1)パートタイマーは、始業時刻に所定の方法に従ってその時刻を記録しなければならない。

2)退社は終業時刻に自己の管理する物品を整理整頓した後、所定の方法に従ってその時刻を記録しなければならない。

第15条(遅刻、早退、欠勤)

1)パートタイマーは、遅刻、早退、欠勤しようとするときは、その前日までに所属長の承認を受けなければならない。ただし、やむを得ない事由により事前に所属長の承認を得ることが困難な場合は、当日の始業時刻までに電話などにより連絡し、出勤後に速やかに承認を得なければならない。

2)私傷病による欠勤が連続して3日を超える場合、会社はパートタイマーに医師の診断書などの提出を求めることがある。

第16条(私用外出)

勤務時間中に私用による外出を希望するパートタイマーは、あらかじめ所属長の承認を得なければならない。

第17条(公民の権利)

パートタイマーが、選挙権の行使や裁判員としての職権行使その他、公民としての権利を行使するために必要な時間を請求するときは、会社は公民権行使に必要な時間を与えるものとする。ただし、業務上の理由により、権利の行使を妨げない限度においてパートタイマーが請求した時間を変更することがある。

第18条(年次有給休暇)

1)会社は、6カ月以上継続勤務し、所定労働日の80%以上出勤したパートタイマーに対して、次の表の通り勤続期間に応じた日数の年次有給休暇を付与する。この休暇期間中については、所定労働時間を労働した場合に支払われる通常の賃金を支払う。

画像2

2)年次有給休暇を付与する基準日は、入社日から起算して6カ月が経過した日から1年ごとに区分した各期間(最後に1年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日とする。

3)年次有給休暇を請求するパートタイマーは、原則として3日前までに所属長に、別に定める「年次有給休暇の取得願」(省略)を提出しなければならない。

4)年次有給休暇は、原則としてパートタイマーが指定した時季に付与する。ただし、事業の正常な運営に支障があるときは、会社はパートタイマーの指定した時季を変更することがある。

5)会社は、労働基準法第39条第7項に基づき、第1項の付与日数が10日以上のパートタイマーに対して、時季を指定して年次有給休暇を付与することがある。

6)第1項の出勤率の算定に当たっては、年次有給休暇を取得した期間、産前産後の休業期間、育児休業期間、介護休業期間および業務上の傷病による休業期間は出勤したものとして取り扱う。ただし、育児休業および介護休業については、パートタイマーがこれを取得する権利を有し、現に取得した場合に限る。

7)年次有給休暇は、権利発生から2年の間において取得することができる。

第19条(休日)

1)休日は次の各号に定める通りとする。

  1. シフトで定める休日
  2. 国民の祝日
  3. 会社創立記念日(○月○日)
  4. 年末年始(原則として12月30日から1月3日までの5日間)
  5. その他、会社が指定する日

2)休日は1週間を通じ、1日を下回ることはない。

第20条(時間外労働、休日労働、深夜労働)

1)会社は、原則としてパートタイマーに時間外労働、休日労働、深夜労働(午後10時から午前5時までの間の労働。以降、同じ)を命じることはない。ただし、業務上必要がある場合は、時間外労働、休日労働、深夜労働を命じる場合がある。

2)法定労働時間を超える時間外労働および休日労働は、従業員の過半数を代表する者との労使協定の範囲とする。

3)第2項に定める時間外労働および休日労働は、労働基準法およびその他の関係法令における時間外労働および休日労働の上限を超えることはない。

第21条(災害など非常時の特別措置)

火災・地震・暴風雨・洪水、設備の爆発などの事故、感染症の流行その他避けることのできない事由により臨時の労働の必要がある場合は、会社は第20条にかかわらず労働基準監督署の許可を受けて、妊娠中および産後1年を経過しない女性パートタイマー(以下「妊産婦」)を除く全てのパートタイマーに時間外労働、休日労働、深夜労働を命じることがある。

第22条(産前産後の休業)

1)6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産する予定の女性パートタイマーから請求があったときは、産前休暇を与える。

2)産後8週間を経過しない女性パートタイマーは就業させない。ただし、産後6週間を経過した女性パートタイマーが請求した場合において、当該女性パートタイマーについて医師が支障ないと認めた業務に就かせることができる。

3)前各項の休業期間は無給とする。

4)妊娠中の女性パートタイマーが請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させる。ただし、業務に適する軽易な業務がないときには請求しても応じないことがある。

第23条(母性健康管理のための時間内通院)

1)妊産婦が母子保健法に定める健康診査または保健指導を受けるために請求した場合、会社は次の各号に定める範囲において母性健康管理のため、時間内通院を認める。

  1. 妊娠23週までは4週間に1回
  2. 妊娠24週から35週までは2週間に1回
  3. 妊娠36週以後出産までは1週間に1回
  4. 医師または助産師が、前各号と異なる指示をしたときは、その指示により必要な時間

2)母性健康管理のため勤務していない時間は無給とする。

第24条(通勤緩和)

1)妊産婦が通勤による心身の負担を軽減するために請求した場合、会社は出社時および退社時について、各々30分の遅出および早退を認める。

2)通勤緩和の時間は無給とする。

第25条(疲労回復のための休憩)

1)妊産婦が業務による疲労回復のために請求した場合、会社は第12条第1項の他に適宜休憩をとることを認める。

2)業務による疲労回復のための休憩は無給とする。

第26条(医師などの指導による措置)

1)妊産婦が医師などから勤務状態が健康に支障を及ぼすとの指導を受けた場合であって、妊産婦より申し出があった場合は、会社は当該妊産婦の意見を聴いた上で、次の各号に定める措置を講じる。

  1. 担当業務の変更
  2. 心身の負担が小さいと会社が認める業務への転換
  3. 所定労働時間の短縮
  4. 休業

2)前項第4号の休業は無給とする。

3)所定労働時間の短縮の適用を受ける期間については、第5章の定めに基づく基本給を時間換算した額を基礎とした実労働時間分の基本給を支給する。

第27条(育児時間)

1)生後満1年に満たない生児を育てる女性パートタイマーは、あらかじめ所属長に申し出て、勤務時間中に1日について2回、1回につき少なくとも30分の育児時間を受けることができる。

2)前項にかかわらず、1日の労働時間が4時間以内のパートタイマーは、1日について1回の育児時間とする。

3)育児時間は無給とする。

第28条(生理日の休暇)

1)生理日の就業が著しく困難な女性パートタイマーから請求があったときは、必要な期間の生理日の休暇を与える。

2)生理日の休暇は無給とする。

第29条(育児休業および介護休業)

会社は、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」に基づき、育児休業および介護休業、その他の両立支援策を講じる。育児休業および介護休業、その他の両立支援策については、別途定める「育児休業等に関する規程」(省略)および「介護休業等に関する規程」(省略)によるものとする。

第30条(特別休暇)

1)家族の慶弔など、特別の事情が生じた場合は、パートタイマーの請求により会社が認める日数の慶弔休暇を与えることがある。

2)特別休暇は無給とする。

第5章 賃金、賞与、退職金

第31条(賃金体系および賃金形態)

1)賃金は基本給、通勤手当および割増賃金とする。

1.基本給

 パートタイマーの経験や職務内容などを総合的に考慮し、労働契約において決定するものとする。

2.通勤手当

 最短かつ最適な通勤経路が片道1キロメートル以上のパートタイマーに対して、本人の申請により実費を支払う。ただし、月額1万円を上限とする。

3.割増賃金

 a.法定労働時間を超える労働に対し、基本給(時給)の25%を加算して支払う。

 b.法定休日の労働に対し、基本給(時給)の35%を加算して支払う。

 c.深夜労働に対し、基本給(時給)の25%を加算して支払う。

2)賃金の形態は時給制とする。

第32条(賃金の計算期間、支払日)

賃金の計算期間は、前月1日より前月末日までとし、当月△△日に支払う。ただし、支払日が休日に当たるときは、その前日に支払う。

第33条(休業手当)

会社の責に帰すべき事由によりパートタイマーが休業した場合、休業1日につき労働基準法に基づき算出した平均賃金の60%を支払う。

第34条(不就労時の取り扱い)

パートタイマーが早退、遅刻などにより、所定労働時間の全部または一部を休業した場合は、その時間に相当する基本給は支払わない。

第35条(賃金の支払方法)

賃金はパートタイマーに対して、直接、通貨をもって支払う。ただし、パートタイマーが希望した場合は、当該パートタイマーが指定する金融機関口座への振り込みにより賃金を支払うことができる。

第36条(賃金の控除)

賃金支払いの際、次の各号に定めるものは控除することができる。

  1. 源泉所得税
  2. 住民税
  3. 社会・労働保険の被保険者負担分の保険料
  4. 従業員の過半数を代表する者との書面により協定されたもの

第37条(臨時および非常時払い)

会社は次の各号に該当する場合、第32条にかかわらず既往の労働に対する賃金を支払う。

  1. パートタイマーが死亡または退職した場合において、本人または遺族の請求があったときは、7日以内に既往の労働に対する賃金を支払う。パートタイマーの遺族の範囲は労働基準法施行規則第42条から第45条によるものとする
  2. パートタイマーまたはパートタイマーの収入により生計を維持する者から出産、疾病、災害、その他非常の場合の費用に充当するために請求があったときは、既往の労働に対する賃金を支払う

第38条(昇給)

昇給は会社の業績および本人の技能、勤務成績、勤務態度等を勘案の上、原則として労働契約の更新時に行うものとする。なお、昇給を行わない場合もある。

第39条(昇給の対象者)

昇給は、入社から3カ月以上勤務しているパートタイマーを対象とする。

第40条(賞与)

賞与の支給については、パートタイマーの経験や職務内容などを総合的に考慮し、労働契約において決定する。

第41条(退職金)

退職金の支給については、パートタイマーの経験や職務内容などを総合的に考慮し、労働契約において決定する。

第6章 退職、解雇

第42条(雇い止め)

労働契約の期間が満了し、これを更新しないこととなったときは、会社は少なくとも期間満了の30日前までにパートタイマーに雇い止めの予告をする。パートタイマーが雇い止めの理由に関する証明書の交付を請求した場合は、会社は雇い止めの予告の前後を問わず、遅滞なくこれを交付するものとする。

第43条(退職)

1)パートタイマーが次の各号のいずれかに該当する場合は、次の各号に定める日を退職の日とする。

  1. 契約期間が満了したとき:契約期間の満了日
  2. 死亡したとき:死亡した日
  3. パートタイマーが自己の都合により退職を申し出て、会社がこれを承認したとき:会社が退職日として承認した日
  4. パートタイマーが届け出および連絡なく欠勤を続け、その欠勤期間が1カ月を超え、所在が不明のとき:欠勤期間が1カ月を経過した日
  5. 第64条の規定により無期労働契約に転換したパートタイマーが定年に達したとき:定年に達した日の属する月の末日

2)自己の都合により退職を申し出るパートタイマーは、退職希望日の14日前までに、総務部に別途定める「退職願」(省略)を提出しなければならない。会社の承認を受けるまでの間、パートタイマーは従前の業務に従事しなければならない。

第44条(普通解雇)

会社は、パートタイマーが次の各号のいずれかに該当した場合に解雇することがある。

  1. 勤務成績または業務能率が著しく不良で、向上の見込みがなく、他の職務にも転換できないなど、就業に適さないと認められたとき
  2. 勤務状況が著しく不良で、改善の見込みがなく、パートタイマーとしての職責を果たし得ないと認められたとき
  3. 業務上の負傷または疾病による療養の開始後3年を経過した日において、パートタイマーが労働者災害補償保険法に基づく傷病補償年金を受けているとき、または受けることとなったとき(労働基準法に基づく打切補償を支払った場合または労働者災害補償保険法に基づく打切補償を支払ったとみなされる場合を含む)
  4. 精神または身体の障害については、適正な雇用管理を行い、雇用の継続に配慮してもなおその障害により業務に耐えられないと認められたとき
  5. 事業の運営上のやむを得ない事情または天災事変その他これに準ずるやむを得ない事情により、事業の継続が困難となったとき
  6. 事業の運営上のやむを得ない事情または天災事変その他これに準ずるやむを得ない事情により、事業の縮小・転換または部門の閉鎖などを行う必要が生じ、他の職務に転換させることが困難なとき
  7. 試用期間における作業能率または勤務態度が著しく不良でパートタイマーとして不適格であると判断されたとき
  8. その他、前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき

第45条(解雇予告)

パートタイマーを解雇する場合、会社は労働基準法に基づき30日前に予告をするか、または予告に代えて平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払う。ただし、労働基準監督署長の認定を受けた場合、および次の各号のいずれかに該当するパートタイマーを解雇する場合はこの限りではない。

  1. 日雇いのパートタイマー。ただし、1カ月を超えて引き続き雇用されるパートタイマーを除く
  2. 2カ月以内の期間を定めて使用するパートタイマー。ただし、その期間を超えて引き続き雇用されるパートタイマーを除く
  3. 試用期間中のパートタイマー。ただし、14日を超えて引き続き雇用されるパートタイマーを除く

第46条(解雇理由の証明書)

会社は、解雇するパートタイマーから請求があった場合は、解雇の理由を記載した証明書を交付する。

第47条(解雇の制限)

会社は、次の各号に定める期間中はパートタイマーを解雇しない。ただし、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合で労働基準監督署長の認定を受けた場合は除く。

  1. 業務上の負傷または疾病により欠勤する期間、およびその後30日間。ただし、業務上の負傷または疾病による療養の開始から3年を経過しても傷病が治癒せず、労働基準法に基づく打切補償を支払った場合または労働者災害補償保険法に基づく打切補償を支払ったとみなされる場合はこの限りではない
  2. 産前産後の休業期間およびその後30日間

第48条(退職または解雇時の義務)

1)退職または解雇されたパートタイマーは、会社の指示する期間内に速やかに後任者に業務の引き継ぎを行わなければならない。

2)退職または解雇されたパートタイマーは、身分証明書、社員記章など会社からの貸与品を直ちに返納しなければならない。また、会社に債務のあるときは退職または解雇の日までに完済しなければならない。

3)退職または解雇されたパートタイマーは、退職または解雇の日以後、在職中に知り得た業務上の機密事項を他に漏らしてはならない。

第7章 賞罰

第49条(表彰)

パートタイマーが次の各号のいずれかに該当する場合は、会社はその都度審査の上で表彰することがある。表彰は賞状の他、賞品または賞金を授与して行う。

  1. 業務上有益な創意工夫、改善を行い、会社の業績に貢献したとき
  2. 品行方正で業務熱心であり、従業員の模範とするに足りるとき
  3. 事故や災害などを未然に防止し、または非常事態に際し適切に対応し、被害を最小限にとどめるなどの功労が顕著であったとき
  4. 社会的な功績があり、会社および従業員の名誉となったとき
  5. その他、表彰に値する善行または功績があると会社が判断したとき

第50条(懲戒の種類)

懲戒はその情状により、次の各号の区分に従って行う。

1.けん責

 始末書を提出させ、将来を戒める。

2.減給

 始末書を提出させ、減給する。減給は1回の額が平均賃金の1日分の50%を超えることはなく、また減給の総額が第32条に定める一つの賃金の計算期間における賃金総額の10%を超えることはない。

3.出勤停止

 始末書を提出させ、出勤停止を命ずる。出勤停止は7日間を限度とし、その間は無給とする。

4.降格

 始末書を提出させ、降格する。

5.諭旨解雇

 退職願の提出を勧告する。ただし、応じない場合は懲戒解雇に処する。

6.懲戒解雇

 即時に解雇する。

第51条(懲戒の事由)

会社は、パートタイマーが次の各号のいずれかに該当する場合は、その程度に応じて、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇に処する。

  1. 就業規則、社内規程、通達に違反したとき
  2. 正当な理由なく、無断で欠勤、遅刻、早退を繰り返したとき
  3. 正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき
  4. 正当な理由なく、無断でしばしば職場を離れたとき
  5. 職務、勤務に関する諸手続きを怠り、または不正に偽ったとき
  6. 素行不良で、会社内の秩序または風紀を乱したとき
  7. 会社を誹謗(ひぼう)中傷し、または虚偽の風説を流布・宣伝したとき
  8. 会社に所属する個人の名誉・信用を傷つけたとき
  9. 性的な言動によって他人に不快な思いをさせたり、職場の環境を悪化させたりしたとき。または、性的な関心を示したり、性的な行為をしかけたりして、他の従業員の業務に支障を与えたとき
  10. 妊娠・出産・育児に関する不適切な言動により、他人に精神的・身体的な苦痛を与えたり、また他の従業員に不利益を与えたりして、就業環境を害したとき
  11. 職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景とした不適切な言動により、他人に精神的・身体的な苦痛を与えたり、また他の従業員に不利益を与えたりして、就業環境を害したとき
  12. 業務上知り得た機密を、不正に第三者に開示または漏洩もしくは自らのために利用したとき
  13. 重要な経歴を詐称して雇用されたとき
  14. その他、前各号に準ずる程度の不都合な行為があったと会社が判断したとき

第52条(懲戒解雇)

1)会社は、パートタイマーが次の各号のいずれかに該当する場合は懲戒解雇に処する。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、諭旨解雇または降格にとどめることがある。

  1. 重要な経歴を詐称して雇用されたとき
  2. 正当な理由なく無断欠勤が14日以上に及び、出勤の督促に応じなかったとき
  3. 正当な理由なく無断で遅刻、早退または欠勤を繰り返し、再三にわたって注意を受けても改めなかったとき
  4. 故意または重大な過失により、会社に重大な損害を与えたとき
  5. 会社内において刑法その他刑罰法規の各規程に違反する行為をし、その犯罪事実が明らかとなったとき
  6. 素行不良で、著しく会社内の秩序または風紀を乱したとき
  7. 数回にわたり懲戒を受けたにもかかわらず、なお、勤務態度などに関し、改善の見込みがないと認められたとき
  8. 相手方の望まない性的言動により、円滑な職務遂行を妨げ、就業環境を悪化させ、またはその性的言動に対する相手方の対応によって、一定の不利益を与えるような行為をしたとき
  9. 職務上の立場を利用して交際や性的な関係を強要したとき
  10. 許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品などを使用し、会社に損害を与えたとき
  11. 会社における職務上の地位を利用して私利を図り、または取引先などより不当な金品を受け、もしくは求め、または供応を受けたとき
  12. 私生活上の非違行為や会社に対する誹謗中傷などによって会社の名誉・信用を傷つけ、業務に重大な悪影響を及ぼすような行為があったとき
  13. 会社の業務上重要な機密を外部に漏洩して会社に損害を与え、または業務の正常な運営を阻害したとき
  14. 酒気帯び、あるいは酒酔いの状態で自動車を運転したとき
  15. 特定個人情報等を不正に取得、利用、提供したとき
  16. 非違行為に対し、再三の注意、指導を受けたにもかかわらず、なお改悛(かいしゅん)の見込みがないとき
  17. 前条に準ずる行為において、その情状等に悪質性があると判断される場合
  18. その他、前各号に準ずる程度の不都合な行為があったと会社が判断したとき

2)会社は、諭旨解雇または懲戒解雇事由に該当し、実際に諭旨解雇または懲戒解雇になるおそれがあるパートタイマーに対し、原則として事前に弁明の機会を与える。

第8章 安全衛生

第53条(安全衛生の遵守事項)

会社は、パートタイマーの安全衛生の確保および改善を図り、快適な職場の形成のため必要な措置を講ずる。職場の安全衛生については、別途定める「安全衛生管理規程」(省略)によるものとする。

第54条(就業禁止)

1)会社は、次の各号のいずれかに該当するパートタイマーの就業を禁止する。

  1. 病毒伝ぱのおそれのある伝染病の疾病に罹患した者
  2. 心臓、腎臓、肺などの疾病で労働のため病勢が著しく増悪するおそれがある疾病に罹患した者
  3. 前各号に準ずる疾病で厚生労働大臣が定めるものおよび感染症法等で定める疾病に罹患した者

2)会社は、前項の定めにより就業を禁止しようとするときは、あらかじめ、会社が指定する医師の意見を聴くものとする。また、パートタイマーは、第1項に該当するおそれがあるときは、直ちに会社に届け出なければならない。

3)第1項の定めにより就業を禁止された期間は、無給とする。

第55条(健康診断)

1)会社は、常時雇用されるパートタイマーであって、週所定労働時間が一般の従業員の4分の3以上である者に対し、入社時および毎年1回定期的に健康診断を行う。

2)会社は、前項の健康診断の結果を本人に速やかに通知する。結果に異常の所見があり、会社が必要と認めるときは、就業の禁止、配置の転換、その他必要な措置を命ずることがある。

第56条(医師による面接指導の実施)

1)会社は、第20条の時間外労働および休日労働の合計が1カ月当たり80時間を超えたパートタイマーから申し出があった場合には、医師の面接指導を受けさせるものとする。

2)前項の他、労働安全衛生法およびその他の関係法令において必要とされる場合、医師が必要と認めた場合、会社が必要と判断した場合等において、面接指導を実施することがある。

第9章 災害補償

第57条(災害補償)

パートタイマーが業務上の事由または通勤途中に負傷し、疾病にかかり、または死亡した場合の災害補償や保険給付については、別途定める「災害補償規程」(省略)によるものとする。

第10章 個人情報の取り扱い

第58条(パートタイマー個人情報の取り扱い)

1)会社は、適正な雇用管理を行うために必要な範囲において、パートタイマーおよびその家族から適正な方法で入手した情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述などにより、特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。以下「パートタイマー個人情報」)を利用し、または法令の範囲内において第三者に開示する。

2)前項にかかわらず、特定個人情報等の取り扱いは、別途定める「マイナンバー(特定個人情報)取扱規程」(省略)によるものとする。

第59条(パートタイマー個人情報の管理責任者)

パートタイマー個人情報の管理責任者は総務部長とする。

第60条(パートタイマー個人情報の開示請求)

1)パートタイマーは、会社に対して自らのパートタイマー個人情報の開示を求めることができる。

2)会社は、パートタイマーからパートタイマー個人情報の開示を求められたときは、速やかにこれを開示する。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、パートタイマー個人情報の全部または一部の開示を拒否することができる。

  1. 法令に違反することとなる場合
  2. 本人または第三者の生命、身体または財産の保護のために必要がある場合
  3. 雇用管理に重大な支障を来すおそれがある場合

3)パートタイマー個人情報が開示された結果、当該パートタイマー個人情報に誤りがあることが判明した場合、会社は当該パートタイマーに通知し、同意を得た上でパートタイマー個人情報を修正する。

第61条(パートタイマーが退職などをした際のパートタイマー個人情報の取り扱い)

退職などの事由により、会社とパートタイマーの雇用関係が消滅した場合、会社は法令で定められている期間において、当該パートタイマーのパートタイマー個人情報を管理し、その後は検証可能な方法による完全な廃棄処分を行う。

第62条(顧客個人情報の取り扱い)

1)会社が保有するパートタイマー個人情報以外の情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述などにより、特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む)を「顧客個人情報」という。

2)パートタイマーは、別途定める「個人情報保護規程」(省略)を遵守して、適切に顧客個人情報を利用しなければならない。

第11章 一般の従業員への転換など

第63条(一般の従業員への転換)

1)1年以上勤続し、一般の従業員への転換を希望するパートタイマーについては、次の各号の要件を満たす場合、一般の従業員として採用し、労働契約を締結するものとする。

  1. 1日8時間、1週40時間の勤務ができること
  2. 筆記試験および面接試験に合格すること
  3. 所属長の推薦があること

2)第18条で定める年次有給休暇の付与日数の算定において、パートタイマーとしての勤続年数を通算する。

3)一般の従業員に転換する場合の転換時期は、毎年○月○日とする。

第64条(無期労働契約への転換)

1)通算契約期間が5年を超えるパートタイマーは、別途定める「無期労働契約転換申込書」で申し込むことにより、現在締結している有期労働契約の契約期間の末日の翌日から、無期パートタイマーでの雇用に転換することができる。

2)前項の無期転換の申し込みは、原則として、現在の労働契約期間が満了する1カ月前までに行うものとする。

3)第1項の通算契約期間は、2013年4月1日以降に開始した有期労働契約の契約期間を通算するものとし、現在締結している有期労働契約については、その末日までの期間とする。ただし、労働契約が締結されていない期間が連続して6カ月以上あるパートタイマーについては、それ以前の契約期間は通算契約期間に含めない。なお、労働契約が締結されていない期間以前の通算契約期間が1年未満の場合に当該契約期間の通算の可否については、労働契約法およびその他の関係法令に従うものとする。

4)この規則に定める労働条件は、第1項の規定により期間の定めのない労働契約での雇用に転換した後も引き続き適用する。

5)無期労働契約へ転換したパートタイマーに係る定年は、満60歳とする。ただし、満60歳を超えて無期労働契約へ転換したパートタイマーの定年は満65歳とする。

6)無期労働契約へ転換したパートタイマーで定年を迎えた者が希望し、解雇事由または退職事由に該当しないときは、会社が別途定める「労働条件」(省略)により満65歳まで継続雇用する。なお、前項ただし書きのパートタイマーに対する定年後の継続雇用については、都度決定をする。

第12章 雑則

第65条(福利厚生)

パートタイマーは、一般の従業員と同様に福利厚生施設を利用することができる。

第66条(教育訓練)

会社は、職務遂行に必要な能力を付与・向上させるための教育訓練について、一般の従業員と同様にパートタイマーにも実施する。

第67条(損害賠償)

パートタイマーが故意または過失によって会社に損害を与えた場合、会社はその全部または一部の賠償を求めることがある。パートタイマーの退職後に、その者の行為が故意または過失によって会社に与えた損害の原因であると判明した場合も、その損害の全部または一部の賠償を求めることがある。

第68条(改廃)

本規則の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則

本規則は、○年○月○日より実施する。

■無期労働契約転換申込書■

画像3

以上(2024年2月更新)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)

pj00439
画像:ESB Professional-shutterstock

【かんたん所得税(1)】副業解禁などで「確定申告」をする人が知っておきたい所得税の計算方法

書いてあること

  • 主な読者:副業解禁などにより所得税の確定申告が必要になった人、なりそうな人
  • 課題:これまでは会社が源泉徴収してくれていたので、確定申告のイメージがわかない
  • 解決策:所得は10種類で、他と総合するものと、分離するものとがある。所得控除もある

1 給与所得者も確定申告が必要な時代?

個人事業主やフリーランスにとって、所得税の確定申告は面倒な作業です。近年は副業や仮想通貨の取引などによって給料以外の所得を得る人が増え、給与所得者でも確定申告が必要なケースが増えているようです。原則として、給与所得者は源泉徴収と年末調整によって確定申告は不要ですが、

  • 2カ所以上から給与等の支払いを受けている一定の人
  • 給与所得、退職所得以外の所得(副業などの所得)が20万円を超える人
  • 給与等の年収が2000万円を超える人

などの場合は確定申告が必要です。

働き方改革など時代の変化によって、必要な知識も変わってきます。このシリーズでは、所得税の基本について紹介していきます。

2 課税の対象となる「所得」は10種類

所得税とは、1年間(1月1日から12月31日)の個人の所得にかかる税金(法人の所得については法人税)です。納税者が自分で1年間の所得とその税額を計算し、原則として、翌年2月16日から3月15日(15日が土日祝日の場合は翌日)までの間に税務署に確定申告をして納税します。これを申告納税方式といいます。

所得は次の10種類に区分して計算します。

  1. 利子所得:銀行預金の利子収入などに係る所得
  2. 配当所得:株式の配当金収入などに係る所得
  3. 不動産所得:貸家や土地の賃貸料収入に係る所得
  4. 事業所得:個人事業に係る所得
  5. 給与所得:給料や賞与に係る所得
  6. 退職所得:退職金収入に係る所得
  7. 山林所得:所有期間が5年を超える山林の売却に係る所得
  8. 譲渡所得:土地、建物、株式等、書画、骨董品などの資産の売却に係る所得
  9. 一時所得:クイズの賞金収入や生命保険の満期保険金などに係る所得
  10. 雑所得:年金収入など他の所得のいずれにも該当しない所得

以降では、所得税の計算フローを4つのステップで紹介します。

3 第1ステップ:各種所得の金額の計算

所得を10種類に分類してそれぞれの金額を計算します。この記事では、各種所得の計算式だけを紹介しています。

1)利子所得

イ.利子所得の金額(預貯金や公社債などの利子の額)

2)配当所得

イ.収入金額(株式の配当など)

ロ.負債の利子(借入金により取得した株式などについて、その借入金利子)

ハ.イ-ロ=配当所得の金額

3)不動産所得

イ.総収入金額(家賃収入、地代収入など)

ロ.必要経費(固定資産税、管理費、減価償却費など)

ハ.イ-ロ=不動産所得の金額

4)事業所得

イ.総収入金額(売上高、雑収入など)

ロ.必要経費(売上原価、販売費、一般管理費など)

ハ.イ-ロ=事業所得の金額

5)給与所得

イ.収入金額(給料や賞与の額)

ロ.給与所得控除額(収入金額に応じ一定の額を計算)

ハ.イ-ロ=給与所得の金額

6)退職所得

イ.収入金額(退職金の額)

ロ.退職所得控除額(勤続年数に応じ一定の額を計算)

ハ.(イ-ロ)×1/2=退職所得の金額

特定役員退職手当等に該当する場合は、2分の1を乗じません。特定役員退職手当等とは、勤務年数が5年以下の役員等に支払われる退職金をいいます。

また、2022年1月1日以降に、役員等でない、勤続年数5年以下の社員に支給された退職金(短期退職手当等)で、短期退職手当等の収入金額から退職所得控除額を控除した残額が300万円を超える部分については、2分の1を乗じることができないようになりました。

7)山林所得

イ.総収入金額(山林の売却収入など)

ロ.必要経費(植林費、育成費、管理費、伐採費、譲渡費用など)

ハ.特別控除額(「イ-ロ」の金額を限度として50万円を控除)

ニ.イ-ロ-ハ=山林所得の金額

8)譲渡所得

イ.譲渡(総)収入金額(土地・建物、株式等の売却金額)

ロ.取得費+譲渡費用

ハ.特別控除額(分離課税となるものを除き、「イ-ロ」の金額を限度として50万円を控除)

ニ.イ-ロ-ハ=譲渡所得の金額

9)一時所得

イ.総収入金額(クイズの賞金収入や保険金収入)

ロ.支出した金額(イの収入を得るために直接要した金額)

ハ.特別控除額(「イ-ロ」の金額を限度として50万円を控除)

ニ.イ-ロ-ハ=一時所得の金額

10)雑所得

イ.公的年金等の所得

a.収入金額(公的年金等の額)

b.公的年金等控除額(受給者の年齢と収入金額に応じ一定の額を計算)

c.a-b=公的年金等の所得

ロ.公的年金等以外の所得

a.総収入金額(生命保険の年金などの額)

b.必要経費(ロに係る費用を計上)

c.a-b=公的年金等以外の所得

ハ.イ+ロ=雑所得の金額

4 第2ステップ:「課税標準」の計算

1)総合課税

各種所得のうち、次の総合課税の対象となる所得の金額を合算します。

利子所得(一部除く)、配当所得(一部除く)、不動産所得、事業所得、給与所得、雑所得、一時所得、譲渡所得(土地・建物・株式等の譲渡を除く)

なお、譲渡所得(土地・建物・株式等の譲渡を除く)は、譲渡資産の所有期間が5年以下なら「総合短期譲渡所得」、5年超なら「総合長期譲渡所得」となります。そして、この総合長期譲渡所得と一時所得は、その2分の1を合算します。

2)分離課税

各種所得のうち、分離課税の対象となるのは次の通りです。

退職所得、山林所得、譲渡所得(土地・建物、株式等の譲渡)、利子所得(特定公社債等の申告分離課税を選択したもの)、配当所得(上場株式等の申告分離課税を選択したもの)

退職所得と山林所得は、それぞれ「退職所得金額」「山林所得金額」という別個の課税標準とされます。

譲渡所得のうち土地・建物等に係るものは、譲渡資産を譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年以下なら「分離短期譲渡所得」、5年超なら「分離長期譲渡所得」となり、それぞれ「短期譲渡所得の金額」「長期譲渡所得の金額」という別個の課税標準とされます。また、譲渡所得のうち株式等に係るものについては、「株式等に係る譲渡所得等の金額」という別個の課税標準とされます。

利子所得は、ほとんどが利子の支払いを受ける際、所得税等が源泉徴収されて課税が完結する源泉分離課税とされています。

3)損益通算:赤字と黒字の相殺

不動産所得、事業所得、山林所得、譲渡所得の4つが赤字(損失の金額)の場合、一定の順序で他の黒字の所得と損益通算(相殺)できます。ただし、次の譲渡所得は損益通算できません。

  • ヨットやグランドピアノなど、生活に通常必要ない資産を売却した場合の赤字
  • 土地・建物等(一定の居住用財産を除く)を売却した場合の赤字
  • 株式等を売却した場合の赤字(上場株式等の譲渡損は、上場株式等に係る配当所得と損益通算ができる)

4)純損失の繰越控除

損益通算してもなお通算し切れない赤字を「純損失の金額」といい、翌年以降3年間の繰越控除が認められます。

5 第3ステップ:課税所得金額の計算

第2ステップの課税標準から所得控除額を控除して、「課税所得金額」を計算します。所得控除には次の15種類があります。

  1. 雑損控除:災害により住宅や家財に多大な損害を受けた場合など
  2. 医療費控除:原則として10万円超の医療費を支払った場合
  3. 社会保険料控除:健康保険料、厚生年金保険料、国民年金保険料等を支払った場合
  4. 小規模企業共済等掛金控除:小規模企業共済制度の掛金、個人型年金加入者掛金等を支払った場合
  5. 生命保険料控除:生命保険料や個人年金保険料、介護医療保険料を支払った場合
  6. 地震保険料控除:地震保険料を支払った場合
  7. 寄附金控除:国、地方公共団体、一定の公益法人等に寄附金を支払った場合
  8. 配偶者控除:自分の合計所得金額が1000万円以下で、同一生計の配偶者の合計所得金額が48万円以下である場合
  9. 配偶者特別控除:自分の合計所得金額が1000万円以下で、同一生計の配偶者の合計所得金額が48万円超133万円以下である場合
  10. 扶養控除:扶養親族(一定年齢の同一生計の親族等で合計所得金額が48万円以下)を有する場合
  11. 障害者控除:本人または一定の親族等が障害者である場合
  12. 寡婦控除:本人が寡婦(配偶者と死別等をした一定の女性)で、合計所得金額が48万円以下の扶養親族がいる場合など
  13. ひとり親控除:一定のひとり親で合計所得金額が48万円以下の子供がいる場合
  14. 勤労学生控除:本人が勤労学生(働きながら学校に通う一定の者)である場合
  15. 基礎控除:全ての人に基礎控除が認められているが、合計所得金額が2500万円を超える人は適用対象外

6 第4ステップ:納付税額の計算

1)算出税額の計算

課税所得金額には、総合課税される「課税総所得金額」と分離課税される「課税短期譲渡所得金額」「課税長期譲渡所得金額」「株式に係る課税譲渡所得等の金額」「課税山林所得金額」「課税退職所得金額」などがあります。

課税総所得金額と所得税額の速算表は次の通りです。課税所得金額の大きさに応じて適用される超過累進税率により、所得税額が計算されます。超過累進税率とは、所得が高くなるほど税率が高くなる仕組みで、今の税率は5%~45%の7段階に区分されています。

画像1

一方、分離課税される各課税所得については、それぞれに適用される税率で所得税額が計算されます。

2)税額控除額の控除

配当控除や住宅借入金等特別控除などの税額控除額を算出税額から控除します。

配当控除は、配当所得がある場合に、法人税と所得税の二重課税を調整するために設けられています。また、住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)は、住宅をローンで購入し、一定の要件を満たした場合に認められるもので、住宅政策の一環として設けられています。

3)源泉徴収税額の控除

配当金や給料などの支払いを受ける場合、受取額からあらかじめ所得税が天引きされます。天引きされる所得税を源泉徴収税額といいます。天引きされた所得税は、前払税額として、納付税額の計算の際に控除します。

4)予定納税額の控除

予定納税とは、税額の前払制度のことです。前年に確定申告をして税金を納めた一定の者は、その納めた税額を基礎に7月(第1期)と11月(第2期)に、一定の前払税金を納めることが義務付けられています。予定納税額は前払税額として、納付税額の計算の際に控除します。

5)納付税額の計算

納付税額の計算式は次の通りです。また、分離課税による所得がある場合には、それぞれ算出した税額を合算します。こうして、第3期納付税額を翌年2月16日から3月15日までに確定申告をするとともに、国に納めることとなります。

  • 課税所得金額等(千円未満切り捨て)×超過累進税率等=算出税額
  • 算出税額-税額控除額-源泉徴収税額=申告納税額(百円未満切り捨て)
  • 申告納税額-予定納税額=第3期納付税額

6)復興特別所得税

2013年から2037年まで、復興特別所得税として、基準所得税額の2.1%が追加課税されます。

  • 基準所得税額=所得税額-所得税から差し引かれる金額(住宅借入金等特別控除等)

以上(2023年12月更新)
(監修 税理士 石田和也)

pj30021
画像:pixabay

【規程・文例集】自社に合った「役員規程」に仕上げるためのポイント

書いてあること

  • 主な読者:役員規程を整備していなかったり、ひな型をそのまま使ったりしている経営者
  • 課題:自社に合った役員規程にするために、どこを見直せばよいのか分からない
  • 解決策:役員の定義、役員規程の適用範囲、辞任、機密保持義務などを見直す

1 大きな権限を持つ役員にルールがないのは不自然です

「就業規則」はあるのに「役員規程」はない、そんな会社が少なくありません。労働基準法で10人以上の社員がいる会社には、就業規則の作成が義務付けられている一方、役員規程には、会社法などによる義務がないというのが背景にあるのでしょう。

しかし、役員は経営の中枢であり、権力や影響力が大きいわけですから、それを規定する役員規程がないのはガバナンスの面でまずいわけです。改めて整理すると、役員規程とは、

役員に共通して適用されるルール(役員の選任・就任、退任、執務条件、責務など)について定めた、いわば役員用の就業規則

です。特に、親族以外の役員がいるオーナー経営者にとって、役員規程は重宝するでしょう。

また、役員規程を作成する際に、インターネットや書籍のひな型をそのまま使うのはお勧めできません。役員構成などは会社によって異なるわけですから、役員規程も自社の実情に合ったものであることが必要なのです。

そこで、この記事では、

役員規程のひな型に通常盛り込まれている条項を「1)条文例」として紹介し、弁護士の視点から条文について「2)追記・修正案」と「3)解説」を記載

していますので、ご確認ください。なお、役員規程の作成・見直しをする際は、それと併せて、

役員と締結する委任契約に、役員規程が適用される旨の条項を盛り込んでおく

ようにしましょう。

2 「役員」の定義:自社の役員構成に合わせて修正する

1)条文例

第●条(役員の定義)

「役員」とは、株主総会で選任された取締役をいう。

2)追記・修正案

第●条(役員の定義)

「役員」とは、株主総会で選任された取締役および監査役をいう。

3)解説

役員構成は、会社によって異なるため、自社の役員がカバーされるように、適宜修正します。

3 役員規程の適用範囲:非常勤役員への準用について明記する

1)条文例

第●条(適用範囲)

本規程は、常勤の役員に適用する。ただし、必要があるときは、本規程の一部を非常勤役員に準用することがある。

2)追記・修正案

第●条(適用範囲)

本規程は、常勤の役員に適用する。ただし、本規程その他の書面で別途の定めがある場合には、本規程の一部を非常勤役員に準用することがある。

3)解説

役員規程の適用範囲については、特に決まったルールはないので、どのように定めても構いません。実務上は、「常勤役員のみ」を適用対象とするのが一般的です。

なお、非常勤役員への準用を定める場合、単に「必要があるとき」などとすると、どのような場合に準用が認められるのか分かりません。そのため、「本規程その他の書面で別途の定めがある場合」などとして、準用に明文の根拠を要求するように修正することが望ましいでしょう。

4 役員の辞任:辞任の事前通知期間を適切に定める

1)条文例

第●条(辞任)

役員が辞任する場合は、原則として2カ月前までに社長に届け出るものとする。

2)追記・修正案

第●条(辞任)

役員が辞任する場合は、原則として3カ月前までに社長に届け出るものとする。

3)解説

役員が辞任する場合、会社の業務運営に支障が出ないように、引き継ぎが確実に行える準備期間が必要です。準備期間としてどの程度の期間を確保すべきかについては、取締役の担当業務の内容や、後任者を確保できる見込みなどによって異なります。そのため、ひな型に記載された準備期間が短いと感じられる場合には、延長しておくとよいでしょう。

なお、会社の裁量により、所定の期間よりも短期間での辞任を認めることはできます。

5 役員の定年:退任時点を明記する

1)条文例

第●条(定年)

役員の定年は、原則として次に定める通りとする。

  1. 社長:70歳
  2. 取締役:65歳
  3. 監査役:65歳

2)追記・修正案

第●条(定年)

1)役員の定年は、原則として次に定める通りとする。

  1. 社長:70歳
  2. 取締役:65歳
  3. 監査役:65歳

2)事業年度の途中で定年に達した場合には、その日以降最初に到来する定時株主総会終了の日をもって退任するものとする。

3)解説

定年となる年齢を記載しているだけでは、いつ退任するのかがはっきりしないため、退任時期を明確にしておくべきです。退任時期については、取締役に欠員が生じないように、定時株主総会のタイミングに退任時期を合わせるとよいでしょう。

6 機密保持義務:別途NDAを締結して定める

1)条文例

第●条(機密保持)

役員は、職務上知り得た会社の機密情報を、正当な理由なく会社の内外に開示または漏洩してはならない。

2)追記・修正案

第●条(機密保持)

役員は、職務上知り得た会社の機密情報を、正当な理由なく会社の内外に開示または漏洩してはならない。また、役員は、会社との間で秘密保持契約書を締結し、その定めに従わなければならない。

3)解説

役員としての機密保持義務については、別途秘密保持契約書(NDA)を締結し、その中で詳細にルールを定めておきます。NDAで定めるべき事項は、次のようなものです。

  1. 機密情報の定義
  2. 例外的に開示を認める場合
  3. 退任後の機密情報の取り扱い
  4. 機密保持義務の存続期間など

以上(2024年2月更新)
(監修 弁護士 坂東利国)

pj60238
画像:ESB Professional-shutterstock