【労働条件の変更(4)】「労働契約」による労働条件の不利益変更

書いてあること

  • 主な読者:賃金引き下げなど、いわゆる「労働条件の不利益変更」を検討している経営者
  • 課題:労働契約の変更手続きの流れが分からない
  • 解決策:労働協約や就業規則に定めのない労働条件を変更する場合や、就業規則を下回らない範囲で労働条件を変更する場合、社員の合意を得て労働契約を変更する

1 労働協約や就業規則に定めのない労働条件を変更する方法

会社の経営状況や働き方の変化などを理由に、労働条件を引き下げることを「労働条件の不利益変更」といいます。労働条件を変える場合、労働組合がある会社なら「労働協約」の変更、労働組合がない会社なら「就業規則」の変更で対応するのが通常ですが、

労働協約や就業規則に定めのない労働条件を変更する場合などは、「労働契約の変更」が必要

です。また、変更の際は

  • 個別の社員との交渉・合意などを、正しい手続きで進めること
  • 就業規則の変更と労働契約の変更の使い分けなど、必要なポイントを押さえること

が大切です。以降で詳しく見ていきましょう。

2 労働契約とは?

労働契約とは、社員が会社から与えられた仕事をする代わりに、会社が社員に賃金を支払う契約です。労働契約を締結するに当たり、会社は次の事項を労働条件通知書などで社員に明示しなければなりません。なお、2024年4月1日以降は、図表1の赤字の内容を新たに明示する必要があります。

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労働契約の効力が及ぶのは、

労働契約の当事者である社員のみ

です。そのため、特定の社員の労働契約を変更しても、他の社員の労働条件は変更されません。労働契約の変更によって不利益変更を行う場合、変更する労働条件が、労働協約や就業規則に定めがある内容か否かで対応が変わります。まず、

労働協約や就業規則に定めのない労働条件を変える場合、労働契約を変更する必要

があります(契約期間、契約の更新基準(有期の場合)、就業場所など)。

次に、労働協約や就業規則に定めのある労働条件を変える場合です。労働協約、就業規則、労働契約の力関係は、

「労働協約>就業規則>労働契約」という力関係

があります。労働協約や就業規則よりも不利な労働条件を定めた労働契約は無効ですので、原則として労働協約か就業規則を変更しない限り、不利益変更はできません。ただし、法令上、「労働契約の労働条件が就業規則を上回る場合のみ、労働契約は就業規則に優先する」というルールがあるので、

就業規則を上回る部分の労働条件を変える場合は、労働契約を変更する必要

があります。なお、労働協約との関係では、たとえ労働契約の労働条件が労働協約を上回っていても労働協約が優先するという考え方が有力です。その場合は労働協約を変更しない限り、社員の労働条件は変えられません(社員が労働協約の対象とならない非組合員である場合を除く)。

3 労働契約による不利益変更の流れ

1)労働条件の不利益変更を行うことについて社員と交渉する

労働契約は会社が一方的に変更できないので、会社と社員の合意によって変更します。そのため、労働条件の不利益変更を行うには社員との交渉が必須です。

交渉の進め方などは当事者の自由ですが、通常は会社が労働条件の新旧対照表を作成し、変更が必要な理由を社員に説明します。例えば、賃金を引き下げる場合は賃金額の新旧対照表を作成し、変更が必要な理由(勤務成績が目標の○%に満たず、指導を継続しても改善が見られないなど)を説明するといった具合です。

2)労働条件の不利益変更を行うことについて社員の合意を得る

会社と社員が合意すれば、新しい労働条件が適用されます。「言った、言わない」のトラブルを防ぐため、「合意書」(任意の書式)を取得するのが無難です。合意書には、社員自身が署名する欄を設け、さらに、

社員が労働条件の変更について理解した上で合意する

などの文言を入れておくとよいでしょう。社員から「内容をよく理解せずに合意した」「会社の説明が不十分で、内容を誤解した状態で合意した」などと言われないようにするためです。

4 労働契約による不利益変更のポイント

1)社員の言い分も聴きながら交渉する

労働条件の不利益変更について社員と交渉する場合、会社と社員の立場の違いに注意しましょう。例えば、

「不利益変更を拒否したら、会社に居づらくなるのではないか」という不安から、本当は不利益変更に応じたくないのに、無理をして同意するケース

があります。その場の交渉は無事に終わっても、後に不満を募らせた社員がユニオンなどに駆け込み、「会社から不当な労働条件を強いられた」などと主張することがあります。

ですから、交渉の際は、必ず社員の言い分も聴くようにしましょう。例えば、「勤務成績が目標の○%に満たず、指導を継続しても改善が見られないため、月給を○円引き下げる」といった場合であれば、目標を達成できない理由などについて社員の言い分を聴きます。場合によっては引き下げ額の見直しや引き下げの撤回などを検討するようにします。

2)ケースに応じて、就業規則の変更と労働契約の変更を使い分ける

前述した通り、就業規則と労働契約の間には、

  • 原則:就業規則が労働契約に優先する
  • 例外:労働契約の労働条件が就業規則を上回る場合、労働契約が就業規則に優先する

というルールがあります。

例えば、就業規則で月給を25万円と定めている会社が、特定の社員と月給を30万円とする労働契約を締結することは問題ありません。また、月給が就業規則の25万円を下回らなければ、就業規則を変更せず、労働契約の変更によってその社員の月給を引き下げることも可能です。

同じ「賃金引き下げ」という不利益変更であっても、就業規則の変更で対応するか、労働契約の変更によって対応するかはケースによって使い分けるとよいでしょう。基本的なイメージは、

  • 賃金を一律的に引き下げるなら、就業規則を変更する(会社の業績が悪化した場合など)
  • 特定の社員の賃金だけを引き下げるなら、労働契約を変更する(社員の成果が著しく低い場合など)

です。

以上(2024年2月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 小出雄輝)

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画像:G-Stock Studio-shutterstock

【労働条件の変更(3)】「就業規則」による労働条件の不利益変更

書いてあること

  • 主な読者:賃金引き下げなど、社員の「労働条件の不利益変更」を検討している経営者
  • 課題:就業規則の変更手続きの流れが分からない
  • 解決策:労働組合が組織されていない(労働協約を交わしていない)場合は、就業規則の変更によって労働条件を変更する

1 労働組合がない会社が、社員の労働条件を変更するには?

会社の経営状況や働き方の変化などを理由に、労働条件を引き下げることを「労働条件の不利益変更」といいます。労働条件を変える場合、労働組合のある会社であれば「労働協約」の変更で対応するのが通常ですが、

御社に労働組合がない場合、社員の労働条件を変えるには、原則として「就業規則」の変更が必要

になります。また、変更の際は

  • 過半数労働組合や過半数代表者からの意見聴取などを、正しい手続きで進めること
  • 就業規則の変更の合理性など、必要なポイントを押さえること

が大切です。以降で確認していきましょう。

2 就業規則とは?

就業規則とは、賃金や労働時間など一定の労働条件をまとめた職場のルールブックです。社員数が常時10人以上の会社(実際は本店・支店などの事業場単位)の場合、作成は義務です。

就業規則に記載する事項は次の3つに分かれています。なお、「就業規則(本則)」とは別に、「賃金規程」などを別規程で作成する会社は多いですが、法令上は、本則も賃金規程なども全て就業規則に当たります。

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就業規則の効力が及ぶ範囲は、

就業規則の中で適用対象として定めた全ての社員

です。例えば、就業規則の中に「本規程は正社員に適用する」という定めがある場合、正社員にのみ効力が及びます。なお、正社員と異なる労働条件が適用される社員については、そうした社員を適用対象とする「パートタイマー用就業規則」などを別に作成すれば問題ありません。

労働組合がない会社の場合、社員の労働条件は、就業規則か労働契約によって決まりますが、

この両者の間には「就業規則>労働契約」という力関係

があるため、労働契約を変更しても、社員には就業規則の労働条件が引き続き適用されます。つまり、

就業規則のある会社が社員の労働条件を変える場合、まず就業規則を変更する必要

があるわけです。ただし、例外として、

労働契約の労働条件が就業規則を上回る場合のみ、労働契約は就業規則に優先

するというルールがあり、この場合は労働契約の変更で対応することになります。

3 就業規則による不利益変更の流れ

1)新しい就業規則を作成する

本来、会社は社員と合意せずに、就業規則の変更による不利益変更を行うことはできません。しかし、社員の不利益や労働条件を変える必要性など、いくつかの要素に照らして就業規則の変更が合理的といえる場合、社員と合意しなくても不利益変更が可能です。

合理性の判断のポイントは、第4章で事例を交えて紹介しますが、まずは経営者や人事労務担当者が、合理的かどうかを自己判断しながら新しい就業規則を作成することになります。

2)過半数労働組合や過半数代表者から意見を聴取する

就業規則を変更する場合、過半数労働組合(社員の過半数で組織される労働組合)から意見を聴取しなければなりません。過半数労働組合がない場合は過半数代表者(社員の過半数を代表する者)から意見を聴取します。なお、過半数代表者は、次の要件を満たす必要があります。

  • 管理監督者(労働基準法の「監督もしくは管理の地位にある者」、労務管理について一定の責任・権限を与えられている管理職など)でないこと
  • 就業規則に関する意見聴取のために選出されることを明らかにした上で、投票や挙手などによって選ばれた者であること

意見を聴取する際は、意見を聴取される者の氏名、意見の内容、聴取した日付などを書き込める「意見書」(任意の書式)を作成します。

なお、会社と意見を聴取される者が、変更内容について合意することまでは求められていません。つまり、

反対意見が出たからといって、就業規則の変更が無効になるわけではない

ということです。

3)変更した就業規則を所轄労働基準監督署に届け出て、社員に周知する

変更した就業規則は、過半数労働組合または過半数代表者の意見書を添えて、所轄労働基準監督署に届け出ます。書面で直接提出するか、「電子政府の総合窓口(e-Gov)」を使用できる環境にあればデータで送付します。

届け出が完了したら、変更した就業規則を社員に周知します。

就業規則を社員に周知しないと、新しい労働条件が社員に適用されない

ので、注意が必要です。例えば、オフィス内に就業規則を掲示しても、ほとんどの社員がリモートワークをしていて内容が確認できない場合などは、周知したことになりません。社内のイントラネットなど、社員が閲覧しやすい場所・方法で、就業規則のデータを掲示する必要があります。

■電子政府の総合窓口(e-Gov)■

https://www.e-gov.go.jp/

4 就業規則による不利益変更のポイント

1)「就業規則の変更が合理的か」が重要

前述した通り、会社が社員と合意せずに、就業規則の変更による不利益変更を行う場合、その変更が合理的である必要があります。具体的には、次の要素に照らして合理性を判断します。

  • 社員の不利益が大き過ぎないか
  • 労働条件を変える必要があるか(経営上の理由など)
  • 内容は適切か(変更の方向性、不利益の緩和措置、一般的な同業他社の状況など)
  • 労働組合等との交渉を行っているか
  • その他、就業規則の変更に当たって考慮すべき事情を見落としていないか

例えば、「仕事内容を基準にしたジョブ型の人事制度にしたいので、成果や仕事内容との関係性が薄い住宅手当を廃止する」という不利益変更の場合、次のような対応をしていれば合理的といえるかもしれません。

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図表2の場合、「住宅手当を廃止することによる社員の不利益が大きい」のがネックですが、会社としては競争力を上げるためにジョブ型の人事制度への切り替えが不可欠と考えているのが難しいところです。そのため、

住宅手当を廃止する代わりに、調整給を一定期間支給するという落とし所によって、社員の不利益を緩和し、合理性を担保する

という対応になっています。

就業規則を変更する場合、変更に当たって会社が考慮した要素を、図表2のような形であらかじめまとめておくと、過半数労働組合や過半数代表者も、意見を述べやすいかもしれません。

2)必要であれば個々の社員の合意を得る

第3章で紹介した手続きを踏めば、会社と社員が合意しなくても就業規則を変更できますが、変更の内容によっては反感を覚える社員もいるでしょう。社員とのトラブルを回避したいのであれば、

個々の社員の合意を得た上で就業規則を変更し、あくまで反対する社員については個別の労働契約によって就業規則と異なる労働条件を定める

というのも1つの方法です。

以上(2024年2月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 栗原功佑)

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画像:garagestock-shutterstock

既存の壁を突破せよ! 新規事業に必要な「異端の革新力」

書いてあること

  • 主な読者:一緒に新規事業を担う社員を育てたい経営者
  • 課題:多くの社員は変化を拒む。新規事業を考える「脳みそ」を持っていない
  • 解決策:経営者自身が「よそ者・ばか者・若者」+αの視点で人選する

1 アンゾフのマトリクスを参考とした展開

多くの企業は単一の事業で収益を上げています。限られたリソースを一点に集中し、改善を繰り返している経験は強みとなります。しかし、その事業が苦戦すると他にカバーする事業がないため、一気に業績が悪化します。

ですから、社長は常に新しい事業展開を検討し、試していかなければなりません。まずは「アンゾフのマトリクス」で事業展開の類型を確認しましょう。このマトリクスでは、市場浸透(既存市場×既存製品)、新製品開発(既存市場×新製品)、新市場開拓(新市場×既存製品)、多角化(新市場×新製品)の4つの象限で考えます。

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既存市場と既存製品の組み合わせは、いわゆる「金のなる木」(成長性は低いが、安定した収益を上げる事業)です。ここを確保している企業は0(ゼロ)から起業する場合と違い、安定した基盤の上に新規事業を立ち上げられるメリットがあります。ただし、既存事業を守ろうとするあまり、新規事業を攻めきれないという問題もあります。

一方、既存事業を縮小・廃止しつつ、新市場で新製品・サービスを展開する「多角化や事業転換」といった戦略もあります。新規事業に向けたより抜本的な取り組みです。

多角化や事業転換に成功すれば収益拡大の余地は広がりますが、未知の分野への進出となります。そのため、新製品開発や新市場開拓を経由して多角化に進み、事業化のめどが立ったら事業転換戦略に進むのが定石です。

2 人選は「よそ者・ばか者・若者」+α

いずれにしても、新規事業を推進すると、変化を嫌う社員はストレスと恐怖を覚えます。こうした社員も巻き込みながら新規事業を推進していくためのポイントは、「新規事業の担当者にこれまでとは違うタイプの社員を配置する」ことです。

具体的には「よそ者・ばか者・若者」です。さらに、それぞれの社員に+αの力が備わっていると理想的です。

  • よそ者×配慮:自社の常識に縛られないが、周囲の人に配慮できる
  • ばか者×知識:信じた道を突き進むが、直感だけではなく経験や知識の裏付けがある
  • 若者×したたかさ:あり余るエネルギーがあり、それを集中すべきところを感じ取る

よく「創業者と2代目とでは、求められる資質が違う」といわれますが、これは新規事業の場合でも同じです。市場浸透・新製品開発・新市場開拓をうまく進められるのは、その事業をよく知っている社員です。

一方、多角化・事業転換では、既存事業を否定することもあるため、従来とは異なる目線を持った社員でなければ、うまく進めることは難しいかもしれません。そのため、「よそ者・ばか者・若者」が必要です。

3 外部との出会いを後押しし、予算配分は機動的に

新規事業を成功させるために重要なのは外部のパートナーであり、その出会いを増やさなければなりません。事業展開の担当者がセミナーや会合などに自由に参加できるようにします(有料であってもその予算は確保する)。

また、予算はあらかじめ枠を設定しておくものの、それありきで運用しないようにします。状況の変化によって予算が余ったり、不足したりすることは頻繁です。必要な予算か否かは社長も参加して厳しく選別するものの、機動的な動きも必要です。

4 事業展開が進むか否かは経営者次第

既存事業を損なわないように、事業展開をしていくことは簡単ではありません。事業展開には社長も絡みますが、既存事業の兼ね合いで100%注力するのは難しいため、起業家マインドを備えた社員が必要です。

事業展開を担当する社員は、少なくとも社内では優秀です。事業展開を担当することになれば、既存事業で手薄なところも出てきますが、そこをカバーする組織づくりも並行して進めていく必要があります。こうして何らかの事業展開を進め、それが成功しても失敗しても、その結果を示すことで、一部の社員に「与えられた仕事をするだけではない」という感覚が芽生えていくでしょう。

社長は、事業環境の変化がますます急速になっていることを実感しているはずです。そうした中で生き残るためには、自由な発想で事業展開を考える社員が必要です。そして、そのような社員を育てられるか否かは、経営者のマネジメントにかかっています。

以上(2024年1月更新)

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画像:Vera NewSib-shutterstock

【労働条件の変更(2)】「労働協約」による労働条件の不利益変更

書いてあること

  • 主な読者:賃金引き下げなど、いわゆる「労働条件の不利益変更」を検討している経営者
  • 課題:労働協約の変更手続きの流れが分からない
  • 解決策:労働組合が組織され、労働協約を交わしている場合は、労働協約の変更によって労働条件を変更する。非組合員の労働条件を変更するには就業規則の変更も必要

1 労働組合がある会社が労働条件を変更する方法

会社の経営状況や働き方の変化などを理由に、労働条件を引き下げることを「労働条件の不利益変更」といいます。労働条件を変える場合、

労働組合がある会社なら、原則として「労働協約」の変更が必要

です。また、変更の際は

  • 労働組合との団体交渉などを、正しい手続きで進めること
  • 労働組合との交渉に失敗した場合の対応など、必要なポイントを押さえること

が大切です。以降で確認していきましょう。

2 労働協約とは?

労働協約とは、会社と労働組合が交わす書面の協定で、作成は任意です。労働協約に記載する事項は、労働条件(賃金、労働時間など)、組合活動(組合専従者、組合費の給与天引きなど)、団体交渉(交渉担当者、交渉手続きなど)などです。

労働協約の効力が及ぶ範囲は、

  • 原則:組合員のみ
  • 例外:労働組合が事業場(本社、支店など)の4分の3以上の社員で組織されている場合、組合員と非組合員

です。

労働条件は、労働協約、就業規則、労働契約のいずれかによって決まりますが、これらには、

「労働協約>就業規則>労働契約」という力関係

があります。そのため、就業規則や労働契約を変更しても、組合員には労働協約の労働条件が引き続き適用されます。つまり、

労働協約のある会社が組合員の労働条件を変える場合、まず労働協約を変更する必要

があるわけです。

なお、労働組合の組織率は減少傾向にあります。会社に労働組合がないようであれば、就業規則や労働契約の変更によって労働条件の不利益変更を行います。

3 労働協約による不利益変更の流れ

1)労働組合に対し、団体交渉を申し入れる

労働協約は、会社と労働組合の約束事なので、両者が合意しないと内容を変更できません。合意するには、労働組合と「団体交渉」をする必要があるので、まずは会社がその申し入れをします。申し入れの方法は労働協約などで定めます。例えば、「所定の書面を開催要望日時の○労働日前までに提出する」といった具合です。

申し入れの際は、労働条件の不利益変更を行う理由を明確にします。賃金引き下げを行う場合であれば、「業績が悪化している中で、全社員の雇用を維持するため」などが考えられます。

2)労働条件の不利益変更を行うことについて、会社と労働組合が合意する

労働組合との団体交渉を通して、労働条件の不利益変更を行うことについての合意を得ます。例えば、賃金引き下げを行う場合、団体交渉では次のような点がポイントになります。

  • 賃金引き下げの必要性を裏付ける資料があるか(会社の収益・支出、人件費の推移など)
  • 賃金引き下げの方向性は明確か(基本給を引き下げるのか手当の一部を廃止するのか、具体的にいくら引き下げるのかなど)
  • 賃金引き下げの内容は合理的か(例えば、社員の基本給は引き下げるが、経営者や役員の役員報酬は引き下げないというのは合理的と言いにくい)

団体交渉は1回で決着がつくとは限りません。例えば、賃金を引き下げることについては合意できても、その方法や引き下げ金額について反対意見が出ることなどがあります。そうした場合、ある程度労働組合の意見を尊重するなどして、妥協点を見つけていくことも必要です。

なお、団体交渉を繰り返しても、会社と労働組合が合意できない場合の対応については、第4章をご参照ください。

3)新しい労働協約を作成・締結し、組合員の労働条件を変更する

会社と労働組合が合意した場合、変更箇所や有効期間を確認しながら新しい労働協約を作成します。会社と労働組合それぞれの署名または記名押印があれば有効で、就業規則と違い、所轄労働基準監督署への届け出は不要です。なお、労働協約に決まった書式はありません。

4)就業規則または労働契約を変更し、非組合員の労働条件を変更する

労働協約を変更しても、基本的に非組合員には効力が及びません(事業場の4分の3以上の社員で組織されている労働組合を除く)。そのため、非組合員については、

  • 原則:就業規則を変更
  • 例外:就業規則と異なる労働条件で労働契約を交わしている場合、労働契約を変更

することによって、労働条件の不利益変更を行います。また、

労働協約や就業規則に定めのない労働条件を変える場合については、労働契約を変更

する必要があります(契約期間、契約の更新基準(有期の場合)、就業場所など)。

4 労働協約による不利益変更のポイント

1)労働組合との交渉に失敗した場合は、労働協約の解約を検討する

団体交渉を繰り返しても会社と労働組合が合意できない場合、労働協約の解約を検討するのも1つの方法です。具体的には、

  • 労働協約に有効期間(最長3年)の定めがある場合、期間満了の際に解約
  • 有効期間の定めがない場合、90日以上前に予告した上で解約(予告は、署名または記名押印した文書で行う)

します。

労働協約を解約した場合、労働条件の不利益変更は、就業規則または労働契約を変更して行います。

2)労働協約解約後の規律

労働協約が失効した後の措置について別段の合意がない場合、協約の効力は消滅しますが、新たな労働契約が成立したり、就業規則の合理的改訂がなされたりすれば、これらによって規律されることになります。

以上(2024年2月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 渡邉和也)

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画像:tashatuvango-Adobe Stock

【朝礼】草履と下駄を履いて「ChatGPT」を始めよう

皆さん、おはようございます。今朝は、「不完全でも走り出す勇気」についてお話しします。

最近のイベントや展示会に行くと、「ChatGPT」など生成AIに関する出展が目白押しです。今、最も注目されている技術だと実感しますが、残念なことに、出展されているサービスはどれも今ひとつで、今後に期待といった感じです。

ここからが話の本題です。今の私の話を聞いてみて、皆さんはどう感じましたか? イベントに出展する会社は、貴重なリソースを割いて研究を重ね、必死でパートナーを探しています。すぐに結果が出るほど簡単ではないでしょうが、今後、課題を突破して素晴らしいサービスをローンチする可能性を秘めています。にもかかわらず、「なんだ、今ひとつなのか。だったら、まだいいや」と思った人がいたら残念です。

「草履片々、木履片々」(ぞうりかたがた ぼくりかたがた)という言葉があります。これは戦国武将である黒田官兵衛が、「毛利攻め」の最中に本能寺の変の知らせを受けて動揺した豊臣秀吉に伝えた言葉だとされます。その意味は、「片方に草履、もう片方に下駄を履いた不完全な状態でも、全力で走らなければならないときがある」というものです。この言葉があったからこそ、秀吉は世に伝わる「大返し」をして明智光秀を討てたのかもしれません。

ChatGPTに話を戻しましょう。これだけ注目されているのに、未だにChatGPTを触ったことがない人が多いようです。そうした人は、ごく限られた情報で知った気になり、「セキュリティや結果の精度の問題があるから、まだ触らない」と、もっともらしいことを言います。しかし、実際に触ってもみないで何が分かるのでしょうか? 今の課題は解決され、また新しい課題が出てくるというサイクルが急速に回っているというのに。

だからこそ、私たちは片方に草履、もう片方に下駄という不完全な状態でも走り出さなければなりません。しかも、スタートは早いほど好ましい。周囲はとっくに走り始めているのです。

それに、ChatGPTに限ったことではありませんが、どんなに待っても、物事が完璧になることはありません。「完璧だ!」と感じるのは、その時に皆さんが考える完璧になっただけであり、他人から見れば不完全です。それに次の瞬間に技術はさらに進み、完璧の定義も変わります。

とにかく、やってみる。そんなマインドが求められています。まずは、「失敗」を口癖にして、自分や周囲を否定することをやめましょう。新しい物事を進めるのは難しくて当たり前。皆さんが「失敗」と言っていることは、次につなげるための貴重な経験です。それは他人がお金を払ってでも体験したいことであり、皆さんは先んじて経験できているのです。

いかがですか。現状にとどまる危機感を覚え、前に進む勇気が湧いてきましたか? さぁ、一緒に進みましょう!

以上(2024年1月)

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画像:Mariko Mitsuda

部下が生意気で悩む教育担当者のやる気を取り戻すアプローチとは?

書いてあること

  • 主な読者:新人や若手の教育に悩んでいる教育担当者を奮起させたい経営者
  • 課題:教育担当者にやる気を取り戻してもらうためにどうすればいいのか迷う
  • 解決策:「部下が生意気」「部下が自分を慕ってくれない」「自分には教える能力がない」など、教育担当者の悩みに応じてアプローチの方法が異なる。まずは、教育担当者の気持ちに寄り添い、何に悩んでいるのかをよく聞くこと

1 教育担当者の負担はますます重くなる

御社の教育担当者は、新人や若手の指導で壁にぶつかっていませんか?

今、会社にとって教育担当者は、これまで以上に大切な存在です。リモートワークなど新しい働き方が浸透している上に仕事の内容も高度化・複雑化し、社員の考え方や能力のバラツキが大きくなっているからです。

また、オンラインで教育する機会が増えると、熱量や温度感などを共有するのが難しい場面も出てきます。教育担当者の中には、伝えたいことがなかなか伝わらず悩む人もいるでしょう。こうしたことが色々と重なると、教育担当者は疲弊し、やる気を失っていくかもしれません。

そんなときこそ、教育担当者に対する社長のフォローが必要です。やる気というのは、闇雲に応援されたり、一方的にアドバイスを与えられたりしても湧いてきません。社長がまず心掛けるべきは、

教育担当者の気持ちに寄り添い、何に悩んでいるのかをよく聞くこと

です。

その上で、教育担当者の悩みに応じて、具体的なアプローチの仕方を考えます。以降では、3つのパターンを例に社長が教育担当者に働き掛ける例を紹介します。

2 部下が生意気?

1)社長と呆田(あきれた)さんの会話

やる気を失っている様子の教育担当者、呆田さんに、社長が話し掛けました。話をしているうちに、どうやら呆田さんは、「仕事ができないのに生意気な部下にあきれてしまい、お手上げの状態になっている」ことが分かりました。

社長:呆田君、いつもご苦労様。

   部下の教育は大変だね。

   呆田君の部下は、特に難しいと人事部も言っているからね。

呆田:本当ですよ。社長、なぜ、あのような社員を採用したのですか?

   何度言っても仕事を覚えないのに、自分の意見ばかり主張してきます。

   しかも、その主張が的外れなのですから、もうお手上げです……。

社長:まぁまぁ。気持ちは分かるが、まだ君の部下になって1カ月だ。根気強く頼むよ。

   今は色々な社員がいるから、社員の良い面を引き出す教育投資は欠かせないよ。

呆田:それは分かりますが、あまりにもレベルが低いですよ。

   もう私にできることは全部やりました。

   私以外に、もっと教育担当として適任の社員がいるのでは?

社長:……。

2)呆田さんへのアプローチ

今どき、呆田さんのような教育担当者は少なくないでしょう。簡単な仕事でさえ満足にできないのに自己主張が激しく、場合によっては上司の教え方が悪いと不満を漏らす部下がいます。教育担当者が「お手上げ」になってしまうのも分かります。

このケースでは、部下に問題があるのは明らかです。しかし、呆田さんも、部下の仕事のできなさ加減や生意気な物言いばかりに気を取られていて、視野が狭いようにも見受けられます。

人材不足の折、「ピカピカの新人」は期待しにくいです。となると、今どきの人材育成は、教育担当者が視野を広く持ち、それなりの時間をかけて部下の良いところを見つけ、伸ばしていかなければなりません。

呆田さんに対して、社長はどのようにアプローチするべきでしょうか。効果的なのは、

小さくてもよいので社長と一緒にできる仕事を与えること

です。社長の考えに触れることで、呆田さんの視野は広がるでしょう。

社長との仕事で、呆田さんはミスをするはずです。その際、頭ごなしに叱らず、呆田さんの話を聞き、ミスを取り返す方法を一緒に教え、ある程度任せます。これは、日ごろ呆田さんが行っている指導と同じはずなので、呆田さんは自分の教え方を再確認できます。

教育担当者としての経験が浅いと、短期的な成果、つまり部下の“成長の証し”をすぐに求めてしまいがちですが、人はゆっくりとしか育ちません。そのことを呆田さん自身が体験できる環境を社長がつくることが大切です。

3 部下が自分についてこない?

1)社長と寂椎(さみしい)さんの会話

やる気を失っている様子の教育担当者、寂椎さんに、社長が話し掛けました。話をしているうちに、どうやら寂椎さんは、「一生懸命に部下を指導しているのに、部下が自分を慕ってくれなくてさびしがっている」ことが分かりました。

社長:寂椎君、いつもご苦労様。

   部下の教育は大変だね。

   君、ちょっと元気がないんじゃないか?

寂椎:いや、なんというか……。

   私、部下に好かれる上司になろうと頑張ってるんですけど……。

   部下が私でなく、私の同僚の○○さんにばかり話を聞くらしくて、さびしくて……。

社長:なるほど、その気持ちは分からなくもないが、部下は寂椎君を慕っているはずだよ。

   寂椎君のように一生懸命な教育担当者はそうそういない。自信を持って!

寂椎:はぁ~。それなら、もう少し態度で示してくれてもいいと思います。

   最近はオンラインも多く、部下がさらによそよそしい気もします……。

   私ではなく、私の同僚のほうが教育担当として適任なのでは?

社長:……。

2)寂椎さんへのアプローチ

真面目な教育担当者ほど、寂椎さんのような感情になりがちです。寂椎さんには、自分の頑張りを部下に押し付けるつもりはありません。しかし、頑張った分だけ感謝してもらいたいのが人間というものです。

一方、このケースでは部下にも特に悪気はないのでしょう。部下としても、日ごろ、自分の面倒を見てくれる教育担当者に感謝をしているはずです。ただ、他の人の意見も聞いてみたいという思いがあるのも当然です。

一生懸命に教えているからこそ、教育担当者にはある意味、“自分色に染めたい”という感情があります。しかし、部下の成長を願うなら、さまざまな人の意見を聞いたほうがよいのは明らかで、ここに教育担当者のジレンマがあります。

寂椎さんに対して、社長はどのようにアプローチするべきでしょうか。まず行いたいのは、

社長が寂椎さんとその部下をオンラインの異業種交流会などに招待すること

です。

教育担当者と部下がセットで参加している状況であれば、社員教育などをテーマに部下に話を振ってみることで、寂椎さんが知りたがっている「自分の指導に対する部下の考え」を聞き出せるかもしれません。そこに日ごろの指導への感謝などがあれば、寂椎さんも自分の教え方を肯定できます。同時に、社長はこうした場で、寂椎さん自身がさまざまな人から意見を聞けるよう配慮します。そして、寂椎さんは教育担当者として優れているが、寂椎さん自身がもっと成長するためには、さまざまな人の話を聞くことが大切だということを理解させるのです。

教育担当者である自分の言うことを聞いてほしいのは当然です。しかし、どんなに一生懸命で、優れた教育担当者であっても、やはり考え方には偏りがあります。それを埋めるべく、たくさんの人と話をする大切さを体験させることが必要です。

4 自分は人に教えられる器ではない?

1)社長と能不(のうぶ)さんの会話

やる気を失っている様子の教育担当者、能不さんに、社長が話し掛けました。話をしているうちに、どうやら能不さんは、「自分には能力が不足していて、部下を育てることには向いていないと思い自信を失っている」ことが分かりました。

社長:能不君、いつもご苦労様。

   部下の教育は大変だね。

   ん、どうした? 少し顔色が良くないよ。

能不:いえ、大丈夫です。

   ただ、実は私も社長に相談しようと思っていたことがあります。

   言いにくいのですが、私を教育担当から外してください。

社長:なぜ、そういうことになるんだい?

   能不君は一生懸命に頑張っているじゃないか。私も認めている。

   それなのに、一体、どうしたんだ?

能不:私には、うまく教えることができません。

   他の教育担当者に指導されている新人や若手はどんどん成長しています。

   このままでは部下に申し訳なくて……。

社長:……。

2)能不さんへのアプローチ

責任感の強い教育担当者ほど、能不さんのような感情になりがちです。責任感が強い分、部下に高いハードルを課し、また他の教育担当者やその部下と自分たちを比べてしまいます。

自分の部下に一番になってほしい気持ちはどの教育担当者にもあるでしょう。しかし、無理をし過ぎると部下への態度が厳しくなったり、自分自身が自信を失ったりしてしまいます。場合によっては、「自分は役立たずだ」とふさぎ込んでしまうかもしれません。

能不さんに対して、社長はどのようにアプローチするべきでしょうか。

まず、社長が、引き続き能不さんに教育担当を任せるか否かを判断

しなければなりません。能不さんの思いがエスカレートすると、自分の能力不足に悩み、離職を考えかねないからです。

引き続き能不さんに教育担当を任せる場合、

「教育担当者の能力の高さだけで、部下を成長させることはできない」ことを伝えます。同時に、「自分の能力の高低よりも、部下の性格とそれに合わせた教え方」を考えるほうが大事だと伝えます。

自分自身の教育担当者としての資質を疑うのは当然です。しかし、それは自分側の分析にすぎません。教育担当者と部下は、人間同士のぶつかり合いです。教育担当者は、自分のことよりも、部下のことを少しでも多く考えることが大切なのです。

以上(2024年2月更新)

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画像:fotofabrika-Adobe Stock

【労働条件の変更(1)】就業規則など労働条件を決める4つのルールと変更の考え方

書いてあること

  • 主な読者:賃金引き下げなど、いわゆる「労働条件の不利益変更」を検討している経営者
  • 課題:労働条件をどのように引き下げていいのか分からない
  • 解決策:「労働法規>労働協約>就業規則>労働契約」という力関係を理解し、適切な方法で労働条件の引き下げを進める

1 「労働条件の不利益変更」にはルールがある

会社の経営状況、働き方の変化などを理由に、

労働条件を引き下げることを「労働条件の不利益変更」

といいます。例えば、「業績が悪化したので、基本給を引き下げる」「仕事内容を基準にしたジョブ型の人事制度にしたいので、成果や仕事内容との関係性が薄い手当(住宅手当など)を廃止する」などがそうです。

ただし、労働条件を変えるには一定のルールがあり、会社が好き勝手に変更することできません。細かいルールは色々ありますが、まずは、

  • 労働条件は、4つの要素(労働法規、労働協約、就業規則、労働契約)で決定される
  • 4つの要素には、「労働法規>労働協約>就業規則>労働契約」という力関係がある

ということを知ってください。この記事では、この4つの要素の関係を図解していきます。

2 労働法規、労働協約、就業規則、労働契約の概要

1)労働法規

労働法規とは、労働に関する法令(労働基準法、労働組合法など)の総称です。会社と社員は労働法規の内容を守ることを前提に、労働条件を決定しなければなりません。

例えば、労働基準法に違反する労働条件を定めた労働契約は、会社と社員の合意があっても無効で、無効となった部分については労働基準法で定める基準が適用されます。

2)労働協約

労働協約とは、会社と労働組合が交わす書面の協定です。決まった書式はなく、会社と労働組合それぞれの署名または記名押印があれば有効です(届け出は不要)。

労働協約の効力は、基本的に組合員にしか及びません。ただし、労働組合が事業場(本社、支店など)の4分の3以上の社員で組織されている場合、その労働組合が会社と交わした労働協約の効力は、非組合員にも及びます。

3)就業規則

就業規則とは、賃金や労働時間など一定の労働条件をまとめた職場のルールブックです。社員数が常時10人以上の会社(実際は事業場単位)の場合、作成は義務です。

就業規則を作成・変更するには、社員の過半数で組織する労働組合(ない場合は社員の過半数を代表する者)の意見を聴いた上で(合意までは不要)、所轄労働基準監督署に届け出なければなりません。

4)労働契約

労働契約とは、会社と個々の社員が交わす契約であり、その基本原則は労働契約法、契約内容(労働条件)は労働基準法などで定められています。

3 効力の強いところからアプローチするのが基本

以上で紹介した4つの要素は「労働法規>労働協約>就業規則>労働契約」という力関係にあります。これを図で表すと次のようになります。

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社員の労働条件は、労働協約、就業規則、労働契約のいずれかによって決まりますが、

どの場合も、労働法規に違反する労働条件は無効(労働法規が最優先)

です。

次に、「労働協約>就業規則>労働契約」という力関係があるので、労働条件を変える場合、

  • 労働協約がある会社は、労働協約を変更(効力が及ぶのは労働組合の組合員)
  • 就業規則がある会社は、就業規則を変更(社員数が常時10人以上の場合、作成は義務)

するというのが、基本的なアプローチになります。なお、このルールに照らすと、労働契約は最も効力が小さいことになりますが、例外として、

労働契約の労働条件が就業規則を上回る場合のみ、労働契約は就業規則に優先

します。ただし、労働協約との関係では、たとえ労働契約の労働条件が労働協約を上回っていても、労働協約が優先するので注意が必要です。

4 労働条件の不利益変更における力関係

簡単な例を挙げてみます。仮に労働協約、就業規則、労働契約の全てで、月給を30万円と定めていたとします。これを25万円に変更する場合、労働条件の不利益変更における力関係は次のようになります。

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1)労働協約の変更

労働協約を変更すると、組合員の月給は25万円になります。ただし、非組合員の月給は30万円のままです。労働協約の効力は、基本的に組合員にしか及ばないからです(図表2「1.労働協約の変更」の「就業規則との関係」を参照)。ただし、例外として、労働組合が事業場(本社、支店など)の4分の3以上の社員で組織されている場合、その労働組合が会社と交わした労働協約の効力は、非組合員にも及びます。

2)就業規則の変更

就業規則を変更すると、非組合員の月給は25万円になります。ただし、組合員の月給は30万円のままです。組合員の労働条件については、労働協約が就業規則に優先するからです(図表2「2.就業規則の変更」の「労働協約との関係」を参照)。組合員の月給を引き下げるには、労働協約を変更しなければなりません。

3)労働契約の変更

労働契約を変更しても、組合員も非組合員も月給は30万円のままです。組合員の労働条件については、労働協約が労働契約に優先し、非組合員の労働条件については、就業規則が労働契約に優先するからです(図表2「3.労働契約の変更」の「労働協約との関係」「就業規則との関係」を参照)。組合員と非組合員の月給を引き下げるには、労働協約と就業規則の両方を変更しなければなりません。

労働協約、就業規則、労働契約のそれぞれの変更手続きについては、次の記事をご参照ください。

00414 「労働協約」による労働条件の不利益変更

00415 「就業規則」による労働条件の不利益変更

00416 「労働契約」による労働条件の不利益変更

以上(2024年2月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

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画像:Mathias Rosenthal-shutterstock

中小企業が知っておくべき「令和6年度税制改正大綱」のポイント

書いてあること

  • 主な読者:最新の税制動向をアップデートしたい中小企業の経営者、税務担当者など
  • 課題:中小企業に関係のある税制改正大綱のポイントだけ教えてほしい
  • 解決策:令和6年度税制改正大綱の中で中小企業に関係の深い項目を把握する

1 賃上げ促進税制の上乗せ措置の拡充や繰越控除制度の創設

賃上げ促進税制(中小企業版)とは、従業員の給与支給額(雇用者給与等支給額。以下「給与等」)を前年度より1.5%以上アップさせた企業や個人事業主を対象に、一定の税額控除を行う制度です。原則の税額控除率(15%または30%)に、上乗せできる控除率の追加のほか、要件が変更されます。また、その年に控除できなかった控除額について、5年間繰り越して控除できる制度が創設されます。

現行制度では、上乗せ措置を受けるためには教育訓練費のみの増加割合が要件となっていましたが、改正により、

教育訓練費の増加割合要件の緩和(10%から5%)と合わせて、教育訓練費の額が給与等の0.05%以上という要件が追加

されます。

また、

女性活躍推進支援や子育てサポートが進んでいるとして厚生労働省の認定を受けている企業については、追加で控除率を上乗せ(5%)できる

ようになります。

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原則の税額控除率は従来と同じですが、追加された子育てサポートや女性活躍推進の認定要件を満たした場合は、税額控除額が最大45%(現行は最大40%)となります。この改正は、2024年4月1日から2027年3月31日までの間に開始する各事業年度において適用されます。

 

2 戦略分野国内生産促進税制の創設

半導体など一定の商品の販売量に基づいて計算された金額を税額控除できる制度(戦略分野国内生産促進税制)が創設されます。対象となる製品分野は、

半導体、電気自動車等(蓄電池)、鉄鋼(グリーンスチール)、基礎化学品(グリーンケミカル)、航空燃料など

です。

この制度の適用を受けるためには、

  • 青色申告書を提出している
  • 産業競争力強化法の改正法の施行日から2027年3月31日までの間に認定事業適応事業者となる
  • 産業競争力基盤強化商品生産用資産の取得等をして、国内にある事業の用に供している

の3要件を満たす必要があります。また、控除額はそれぞれ商品の仕様ごとに決められています。

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3 イノベーションボックス税制の創設

研究開発の成果(特許権など知的財産から生まれる一定の所得)に対して、30%の所得控除ができる制度(イノベーションボックス税制)が創設されます。

対象となる知的財産(特定特許権等)は、国内で研究開発を行った

  • 特許権
  • AI分野のソフトウェアに係る著作権

です。

また、取引先については、

  • 譲渡の場合は、居住者もしくは内国法人(関連者を除く)に対するもの
  • 貸し付けの場合は、上記のような限定はなく他の者(関連者を除く)に対するもの

とされています。この改正は、2025年4月1日から2032年3月31日までの間に開始する各事業年度に適用されます。

4 中小企業のM&Aに備えた準備金制度の拡充

M&A実施後に発生し得るリスク(買収企業に簿外債務の存在が見つかるなど)に備えるため、準備金を積み立てた場合に、その積立額を損金に算入することができる制度があります。

現行制度では、損金に算入できる準備金の積立額は投資額の70%が限度となる仕組みだけでしたが、改正により、一定の認定を受けた場合に、

  • その認定に係る特別事業再編計画に従って最初に取得をした株式等については90%
  • 上記1.に掲げるもの以外の株式等については100%となる新たな制度(以下「新制度」)

が加えられます。なお、株式等の取得価額が100億円超または1億円未満である場合などは対象外となります。

また、積み立てた準備金は、将来的に取り崩さなければなりません(益金として処理)。現行では、5年間の据え置き期間経過後、原則5年間で均等額の取り崩し(例えば2024年4月に準備金5000万円を積み立てた場合、2029年以降5年間にわたり、1000万円ずつ取り崩す)を行います。ただし、新制度により積み立てた準備金については、据え置き期間が10年間となります。

この改正は、産業競争力強化法の改正法の施行日から2027年3月31日までの間に認定を受けた株式等の取得に対して適用されます。

5 交際費等の損金不算入の緩和と中小企業特例の延長

交際費は、原則として損金に算入できません(損金不算入)が、一定金額以下の飲食代であれば交際費から除外され損金に算入できます。現行では1人当たり5000円以下が基準でしたが、改正により

1人当たり1万円以下に引き上げ

られることになりました。この改正は、2024年4月1日以後に支出する飲食費に適用されます。

また、中小企業が受けられる年800万円まで損金に算入できる特例については、適用期間が3年延長され、2027年3月31日まで延長されることとなりました。

以上(2024年2月)
(執筆 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)

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画像:Bacho-shutterstock

【規程・文例集】「役員規程」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:最新法令に対応し、運営上で無理のない会社規程のひな型が欲しい経営者、実務担当者
  • 課題:法令改正へのキャッチアップが難しい。また、内規として運用してきたが法的に適切か判断が難しい
  • 解決策:弁護士や社会保険労務士、公認会計士などの専門家が監修したひな型を利用する

1 役員規程とは

株式会社における役員とは、取締役、会計参与および監査役のことです(会社法第329条第1項)。役員が一定の規律の下でその役割を遂行していくためには、報酬や執務条件などをまとめた役員規程が必要です。役員規程の作成は法令で義務付けられていませんが、トラブルの未然防止などの観点から作成しておくのが望ましいです。注意点は、会社法などの関連法令や定款の定めなどと整合性を取ることです。最後に、「役員規程の作成で押さえておきたい会社法の事項(一部)」をまとめているので参考にしてください。

2 役員規程のひな型

各役員の有無などは会社の機関設計によって異なりますが、本稿では取締役会および監査役設置会社を想定し、一般的な内容の役員規程のひな型などを紹介します。実際にこうした規程を作成する際には、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【役員規程のひな型】

第1章 総則

第1条(目的)

1)本規程は、役員の就任・退任・執務条件・役員報酬などに関する基本的事項について定めるものである。

2)本規程に定める事項以外については、会社法などの各種法令、定款、株主総会および取締役会の決議に従うものとする。

第2条(役員の定義)

本規程における役員とは、株主総会で選任された取締役および監査役のことをいう。

第3条(役員の職位)

役員の職位は、次の各号の通りとする。

  1. 取締役会長
  2. 取締役社長
  3. 取締役副社長
  4. 専務取締役
  5. 常務取締役
  6. 取締役
  7. 監査役

第4条(適用範囲)

本規程は、原則として常勤役員に適用する。ただし、必要があるときは、本規程の一部を非常勤役員に準用することがある。

第2章 選任・就任

第5条(役員の選任)

1)役員は、株主総会の決議によって選任される。

2)株主総会に提出する役員選任に関する議案の内容として、当会社が提案する役員候補者は、取締役会により決定する。ただし、監査役である役員については、取締役会は、監査役の過半数の同意を得た上で監査役候補者を決定する。

3)第2項の取締役会の推薦を得ようとする者は、法令および定款に定める役員の要件を備えている者でなければならない。

第6条(就任の承諾)

株主総会において役員として選任され、かつ役員に就任することを承諾した者は、速やかに役員就任承諾書を会社に提出しなければならない。

第7条(役員の就任日)

役員の就任日は、役員就任承諾書を会社に提出した日とする。

第8条(役員の任期)

役員の任期は、取締役については、選任後2年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結のときまで、監査役については、選任後4年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結のときまでとする。

第3章 退任

第9条(役員の退任)

役員は、次の各号のいずれかに該当するときは退任となる。

  1. 任期満了
  2. 辞任
  3. 解任
  4. 定年
  5. 死亡
  6. 資格喪失

第10条(辞任)

1)役員を辞任する場合は、6カ月前までに会社に届け出なければならない。

2)役員を辞任する場合は、業務の引き継ぎを完了しなければならない。

第11条(解任等)

1)役員の解任は、株主総会の決議によって行う。

2)取締役会は、役員として適性を欠くと判断した場合には、当該役員に対して辞任勧告を行うことができる。

第12条(資格喪失)

役員に、会社法または定款に定める欠格事由が生じた場合には、その資格を喪失する。

第4章 定年

第13条(定年)

1)役員の定年は、原則として次に定める通りとする。

  1. 取締役会長:○歳
  2. 取締役社長:○歳
  3. 取締役副社長:○歳
  4. 専務取締役:○歳
  5. 常務取締役:○歳
  6. 取締役:○歳
  7. 監査役:○歳

2)任期中に第1項の定年年齢に達した場合には、任期満了日まで定年を延長するものとする。

第14条(退任後の処遇)

1)退任する役員が、在任中、特に会社に対して貢献がある場合、会社は当該役員に相談役を委嘱することができる。

2)相談役の委嘱は、取締役会決議によって決定する。

3)相談役の任期は1年とする。

第5章 執務条件

第15条(執務時間)

1)執務時間は、別途定める「就業規則」(省略)第○条~第○条の定めに準じる。

2)第1項に定める時間帯に職務を執行できない場合でも、業務に支障が生じないように配慮しなければならない。

第16条(休日・休暇)

1)休日・休暇は、別途定める「就業規則」(省略)第○条~第○条の定めに準じる。

2)休日・休暇の際には、常に会社と連絡を取れるように努めなければならない。

第17条(会社への届け出)

第15条第1項に定める時間帯に職務を執行できない場合、および休暇の取得に際しては、事前に会社に届け出なければならない。ただし、緊急時などやむを得ない場合は、事後の報告で足りるものとする。

第6章 責務

第18条(役員の責務)

役員は、職務執行に当たって、次の各号の事項を遵守しなければならない。

  1. 法令・定款・社内規程、株主総会の決議、取締役会の決議に従って職務を遂行すること
  2. コンプライアンスに対する高い意識を持って適正に職務を遂行すること
  3. 善良なる管理者としての注意義務を守り、忠実にその責務を果たすこと
  4. 所轄する部門や業務を統括し、他部門との連携・協調に努めること

第19条(取締役の責務)

取締役は、職務執行に当たって、次の各号の事項を遵守しなければならない。

  1. 取締役会に出席して、職務執行状況について報告すること
  2. 会社に著しい損害を及ぼす恐れのある事実があることを発見したときは、直ちに、当該事実を監査役に報告すること
  3. その他、法令などで定められている事項を適切に遂行すること

第20条(監査役の責務)

監査役は、職務執行に当たって、次の各号の事項を遵守しなければならない。

  1. 取締役の職務執行を監査し、法務省令で定めるところにより、監査報告を作成すること
  2. 取締役が不正の行為をし、もしくは当該行為をする恐れがあると認めるとき、または法令もしくは定款に違反する事実もしくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を取締役会に報告すること
  3. 取締役会に出席し、必要があると認めるときは意見を述べること
  4. その他、法令などで定められている事項を適切に遂行すること

第21条(禁止および制限事項)

1)役員は、次の各号に定める事項をしてはならない。

  1. 職務上の地位を、手数料・リベートなどの収受のために利用すること
  2. 個人のために、会社の金品を使用したり、従業員を使用したりすること
  3. 会社の名誉や利益を毀損する行為をすること

2)取締役は、次の各号に定める事項に該当する場合は、取締役会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。

  1. 取締役が、自己または第三者のために会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき
  2. 取締役が、自己または第三者のために会社と取引をしようとするとき
  3. 会社が、取締役の債務を保証するとき
  4. その他取締役以外の者との間において、会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき

第22条(機密保持)

1)役員は、職務上知り得た会社の機密情報を、正当な理由なく社内外に漏洩してはならない。

2)第1項の規定は、役員退任後も遵守しなければならない。

第23条(賠償責任)

1)役員が、その任務を怠ったことによって会社に損害を与えた場合、会社に対して、その損害を賠償する責任を負う。

2)前項に定める責任は、役員退任後も免れない。

第7章 役員報酬および退職慰労金

第24条(役員報酬に関する事項)

1)役員報酬は、株主総会の決議で総額を決定し、具体的な配分は、取締役については取締役会、監査役については監査役の決議によって、それぞれ決定するものとする。

2)支給方法などは、別途定める「役員報酬規程」(省略)に定めるものとする。

第25条(役員退職慰労金に関する事項)

1)退任する役員に対しては、株主総会の決議により、役員退職慰労金を支給する。

2)支給方法などは、別途定める「役員退職慰労金規程」(省略)に定めるものとする。

第8章 雑則

第26条(改廃)

本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則

本規程は、○年○月○日より実施する。

3 役員規程の作成で押さえておきたい会社法の事項(一部)

役員規程の作成で押さえておきたい会社法の事項(一部)は以下の通りです。あくまで主な事項と当該事項に関連する主な条文のみを紹介したものであって、これら以外にも多くの事項が会社法において定められています。また、定款の定めは、各社によって異なるため、役員規程作成の際は注意しましょう。

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以上(2024年2月更新)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田賢生)

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画像:ESB Professional-shutterstock

【規程・文例集】就業規則 その表現がトラブルのもと?(後編)  

書いてあること

  • 主な読者:就業規則のひな型をそのまま使っている経営者・人事労務担当者
  • 課題:具体的に就業規則をどう変更すればよいのか分からない
  • 解決策:ひな型をそのまま使った場合、社員とトラブルになりそうな箇所を変更する。例えば「昇給」「退職」「懲戒処分」「副業・兼業」など

1 「モデル就業規則」は自社の実情に合わせて変更すべし

インターネット上にある「モデル就業規則」をそのまま使うと、自社の実情に合わず、トラブルのもとになることがあります。前編に引き続き、最新のモデル就業規則(令和5年7月)を基に、弁護士の視点から危ない部分を解説します。

後編では、「第49条(昇給)」「第52条(退職)」「第67条(懲戒の種類)」「第70条(副業・兼業)」を取り上げます。記事内の赤字は、モデル就業規則の中で修正が必要な箇所、追記・修正案における追記・修正箇所です。前編については、次の記事をご確認ください。

なお、モデル就業規則(令和5年7月)の全文を読みたい人は、次のURLをご確認ください。

■厚生労働省「モデル就業規則(令和5年7月)」■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/model/index.html

2 「第49条(昇給)」:降給や昇降格などについて追記する

1)モデル就業規則

第49条(昇給

1)昇給は、勤務成績その他が良好な労働者について、毎年○月○日をもって行うものとする。ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合は、行わないことがある。

2)顕著な業績が認められた労働者については、前項の規定にかかわらず昇給を行うことがある。

3)昇給額は、労働者の勤務成績等を考慮して各人ごとに決定する。

2)追記・修正案

第49条(昇降給・昇降格

1)昇給・降給は、勤務成績その他別に定める基準に基づく人事考課により、毎年○月○日をもって行うものとする。ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合は、昇給を行わないことがある。

2)顕著な業績が認められた労働者については、前項の規定にかかわらず特別昇給を行うことがある。

3)昇給額・降給額は、労働者の勤務成績等を考慮して別表○に定める基準に基づき人事考課により決定する。

4)昇格・降格は、別表○に定める基準に基づき人事考課により決定する。この場合、昇格・降格後の役職と職務等級に基づき賃金を決定する。

5)懲戒処分による降格及び勤務成績不良等、職務不適格事由による人事権の行使としての降格の場合も、降格後の役職と職務等級に基づき賃金を決定する。

3)解説

モデル就業規則には、降給や昇降格に関する定めがありません。役職や職務等級に基づく人事制度があっても就業規則に定めがないと、社員とトラブルになる恐れがあります。ですから、

降給・降格について定めた上で、昇降給・昇降格の具体的な仕組み(役職や職務等級に基づく賃金の基準表を作成し、人事考課の結果に応じて賃金に反映するなど)を明記

する必要があります。

また、人事考課以外の事由による降給・降格がある場合、

懲戒処分や勤務成績不良など、具体的な事由を明記

しておかないと、降級・降格が認められないので注意が必要です。

2 「第52条(退職)」:長期の無断欠勤などについて追記する

1)モデル就業規則

第52条(退職)

1)前条に定めるもの(注)のほか、労働者が次のいずれかに該当するときは、退職とする。

  1. 退職を願い出て会社が承認したとき、又は退職願を提出して○日を経過したとき
  2. 期間を定めて雇用されている場合、その期間を満了したとき
  3. 第9条に定める休職期間が満了し、なお休職事由が消滅しないとき
  4. 死亡したとき

2)労働者が退職し、又は解雇された場合、その請求に基づき、使用期間、業務の種類、地位、賃金又は退職の事由を記載した証明書を遅滞なく交付する。

(注)「前条に定めるもの」とは、モデル就業規則第51条に定める「定年や継続雇用の上限年齢などに達したことによる退職」を指します。

2)追記・修正案

第52条(退職)

1)前条に定めるもののほか、労働者が次のいずれかに該当するときは、退職とする。

1.退職を願い出て会社が承認したとき、又は退職願を提出して○日を経過したとき

(中略)

5.届出及び連絡なく欠勤を続け、その欠勤期間が30日を超え、所在が不明のとき

2)労働者が退職し、又は解雇された場合、その請求に基づき、使用期間、業務の種類、地位、賃金又は退職の事由を記載した証明書を遅滞なく交付する。

3)労働者は、退職し、又は解雇された場合、会社の指示に従い速やかに業務を引き継がなければならない。

4)労働者は、退職し、又は解雇された場合、身分証明書、電子機器その他会社から貸与された物品を速やかに会社に返納しなければならない。

5)労働者は退職後であっても、その在職中に行った自己の職務に関する責任は免れない。

6)労働者は、退職または解雇された後も、在職中に知り得た情報を第三者に漏洩、開示してはならない。

7)労働者は、退職後○年間は、会社の許可なく同業他社に就職し、または自ら会社の業務と競争関係になる競業行為を行ってはならない。

3)解説

モデル就業規則には、「社員が無断で長期欠勤した場合」の退職に関する定めがありません。社員が自宅におらず、親族等も行方を知らないといった場合、無断の長期欠勤を理由に解雇が認められる可能性があります。ただ、原則として解雇する日の30日前までに解雇予告をする必要があり、社員が行方不明の場合、本人にその通知ができないのが難点です。この点、

欠勤期間が30日を超えても社員が行方不明の場合、退職の意思表示があったものと解釈して、退職扱いとする旨を明記

しておくと、本人に解雇予告の通知をしなくても自動退職とすることができます。

また、退職後や解雇後の職場の混乱を避けるため、

業務の引き継ぎ、会社が貸与した物品の返納、守秘義務や競業避止義務など

についても追記しておく必要があるでしょう。なお、追記・修正案の第5項では、

退職後であっても、在職中に行った自己の職務に関する責任を免れない

という定めをしていますが、これは社員の退職後に重大な不祥事などが発覚した際、その責任を追及できるようにするためです。

3 「第67条(懲戒の種類)」:降格などについて追記する

1)モデル就業規則

第65条(懲戒の種類)

会社は、労働者が次条のいずれかに該当する場合は、その情状に応じ、次の区分により懲戒を行う。

1.けん責

始末書を提出させて将来を戒める。

2.減給

始末書を提出させて減給する。ただし、減給は1回の額が平均賃金の1日分の5割を超えることはなく、また、総額が1賃金支払期における賃金総額の1割を超えることはない。

3.出勤停止

始末書を提出させるほか、○日間を限度として出勤を停止し、その間の賃金は支給しない。

4.懲戒解雇

予告期間を設けることなく即時に解雇する。この場合において、所轄の労働基準監督署長の認定を受けたときは、解雇予告手当(平均賃金の30日分)を支給しない。

2)追記・修正案

第67条(懲戒の種類)

会社は、労働者が次条のいずれかに該当する場合は、その情状に応じ、次の区分により懲戒を行う。

1.けん責

始末書を提出させて将来を戒める。

(中略)

4.降格

始末書を提出させるほか、役職の罷免・引き下げ、及び資格等級の引き下げのいずれか、又は双方を行う。

5.諭旨退職

退職願を出すように勧告する。ただし、所定期間内に勧告に従わないときは懲戒解雇とする。諭旨退職となる者には、情状を勘案して退職金の一部を支給しないことがある。

6.懲戒解雇

予告期間を設けることなく即時に解雇する。この場合において、所轄の労働基準監督署長の認定を受けたときは、解雇予告手当(平均賃金の30日分)を支給しない。また、懲戒解雇となる者には、退職金を支給しない。

3)解説

モデル就業規則では、懲戒処分として「けん責」「減給」「出勤停止」「懲戒解雇」の4種類の懲戒処分が定められていますが、この他にも、

「降格」「諭旨退職」などについても追記

しておくと、懲戒事案に応じて適切な処分をしやすくなります。懲戒処分は、会社が、企業秩序や職場の規律に違反した社員に対して行う制裁なので、就業規則で定められていない懲戒処分は認められません。ですから、懲戒の重さに応じて懲戒処分を段階的に定め、選択肢を広げておく必要があるのです。この他、諭旨退職や懲戒解雇の場合には、

退職金の支給の有無についても明記

しておくとよいでしょう。

4 「第68条(副業・兼業)」:禁止・制限の事由を明確にする

1)モデル就業規則

第70条(副業・兼業)

1)労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。

2)会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。

  1. 労務提供上の支障がある場合
  2. 企業秘密が漏洩する場合
  3. 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
  4. 競業により、企業の利益を害する場合

2)追記・修正案

第70条(副業・兼業)

1)労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。

2)会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。

  1. 長時間労働や深夜労働などによって健康を害する恐れがある場合、または現に健康を害している場合
  2. 企業秘密が漏洩する場合
  3. 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
  4. 競業により、企業の利益を害する場合
  5. 当社が別途定める副業・兼業に関する手続に違反した場合

3)解説

かつてのモデル就業規則では、「副業・兼業は原則禁止としつつ、一定の条件下で認める」という旨の規定が設けられていましたが、現在は「副業・兼業は原則容認としつつ、一定の条件下で禁止・制限する」というスタンスに変わっています。「原則容認」なので、

副業・兼業を禁止・制限する場合は、その事由を明記

しておく必要があります。

モデル就業規則の第1項の「労務提供上の支障がある場合」というのは、一般的には仕事の掛け持ちで過重労働に陥ることなどを指しますが、若干抽象的なので、

長時間労働や深夜労働などの文言を使って、社員に分かりやすい表現

にしましょう。また、副業・兼業を認める場合には、労働時間の管理や健康状態の確認が必要になりますので、副業・兼業に関する届出手続・フローを整備する必要があります。これらの管理の観点から、

会社が定める副業・兼業に関する手続に従わない場合、副業・兼業を制限することがある旨を明記

しておくとよいでしょう。

以上、モデル就業規則を例に、トラブルになりやすい条項を解説しました。なお、この記事で解説したのは一部の条項のみであり、修正案もあくまでも一例です。実務では専門家などに相談の上、会社の実情に合わせて個別に内容を検討してください。

以上(2024年2月更新)
(執筆 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

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