【債権回収】支払督促制度の利用

1 支払督促制度を利用する意義

内容証明郵便などで催促をしても相手が債務を弁済してくれない場合、「支払督促制度」を利用する方法もあります。支払督促制度とは、

簡易裁判所の裁判所書記官から、債務者に対して「金銭等の支払いを命じる督促状(支払督促)」を送ってもらう制度

です。内容証明郵便とは違い、裁判所からの督促となるので、相手に相当のプレッシャーをかけることができます。また、

支払督促制度で発付される「仮執行宣言付支払督促」は「債務名義」の1つ

です。債務名義とは、「強制執行」をする根拠となる文書であり、「債権債務の存在を公に認めるもの」です。また、強制執行とは、「判決等によって債務の履行が決まっているのに相手がそれに応じない場合、国家の強制力によって判決等で定められた内容を実現する」ことです。

支払督促制度のメリットとデメリットは次の通りです。

【支払督促のメリット】

  • 債権者(申立人)は裁判所に出頭しなくてよい
  • 対象は金銭、有価証券など金銭債権が中心で、請求金額の制限がない
  • 債務者からの異議がなければ早くて1カ月程度で強制執行手続ができる
  • 費用は通常の裁判の半額程度

【支払督促のデメリット】

  • 債務者の住所が不明の場合、支払督促制度は利用できない
  • 債務者は容易に異議を申立てることができ、その場合、債務者の住所地、本店所在地を管轄する裁判所にて通常訴訟に移行する

2 支払督促の流れ

支払督促制度の流れは次の通りです。

支払督促制度の流れ

1)支払督促の申立書の提出

通常の訴訟の場合、債務履行地が債権者の主たる事務所等であることが多いです。その場合、債権者の本店所在地を管轄する裁判所に訴えを提起することができますが、支払督促の申立ては、債務者の普通裁判籍(債務者の住所、主たる事務所等)の所在地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に対して行う必要があります。支払督促制度の対象は、金銭その他の代替物、または有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求に限られます。

2)支払督促の発付

債権者が支払督促を申立てると、裁判所書記官がその内容を審査し、支払督促を発付します。支払督促は、債務者を審尋(意見や主張を聞くこと)しないで発付します。

支払督促の効力は債務者に送達されたときに生じます。債務者は支払督促に対し、これを発した裁判所書記官の所属する簡易裁判所に異議の申立てをすることができます。債務者が異議を申立てた場合、事件は通常の訴訟手続で審理され、支払督促は失効します。なお、異議の内容は、

  • 請求は認めるが分割払いにしたい
  • 理由が何も記載されていない請求には納得がいかない

など、請求をそのまま認めないということであれば、どのような内容でも構いません。

そのため、債務者が支払督促に対してどのような対応に出てくるかを想定し、何も反応しない可能性が高い場合に、訴訟提起ではなく、支払督促の申立てを考えることがよいでしょう。

3)仮執行宣言の発付

債務者が支払督促の送達を受けた日から2週間以内に異議の申立てをしないとき、裁判所書記官は、債権者の申立てにより、支払督促に手続きの費用額を付記して仮執行の宣言をしなければなりません。仮執行宣言の付された支払督促の発付です。

なお、債権者が仮執行の宣言の申立てをすることができる時から、30日以内にその申立てをしないときは、支払督促はその効力を失います。

債務者が仮執行宣言の付された支払督促に異議を申立てた場合、通常の訴訟手続で審理されます。ただし、仮執行宣言の効力は当然には失効しません。債務者は支払督促への異議申立てとともに、強制執行の停止や取消しを求める必要があります。仮執行宣言の付された支払督促に対し、債務者が異議を申立てることのできる期間は、仮執行宣言付支払督促を受け取った日の翌日から数えて2週間です。

4)支払督促の効力

仮執行の宣言に対して債務者が異議を申立てないとき、または異議の申立てを却下する決定が確定したときは、支払督促は確定判決と同一の効力を有します。従って、支払督促に基づき強制執行を行うことが可能となります。

5)支払督促に要する費用

支払督促の申立ての手数料は、請求の目的の価額に応じ、民事訴訟費用等に関する法律別表第1第1項により算出した額の2分の1の額となります。その他、督促状を債務者に送付するための切手代を要します。

  • 100万円までの部分:その価額10万円までごとに1000円の2分の1
  • 100万円を超え500万円までの部分:その価額20万円までごとに1000円の2分の1
  • 500万円を超え1000万円までの部分:その価額50万円までごとに2000円の2分の1
  • 1000万円を超え10億円までの部分:その価額100万円までごとに3000円の2分の1
  • 10億円を超え50億円までの部分:その価額500万円までごとに1万円の2分の1
  • 50億円を超える部分:その価額1000万円までごとに1万円の2分の1

以上(2025年7月更新)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田賢生)

pj60219
画像:Mariko Mitsuda

取引先が無茶ぶりしてきたら? “ブンブン丸”への対応術

1 無邪気な“無茶ぶり”! ブンブン丸とは何者か?

「とりあえず、ざっくりでいいので見積もりを松竹梅の3パターン出して」

「今日のうちに資料作成お願いしたいです」

状況にもよりますが、こうした無茶ぶりともいえる依頼に心当たりはありませんか?

思いついたら即行動。フットワークは軽い反面、受け手の都合を考えていない? 無邪気にこうした無茶ぶりをしてくる取引先を、この記事ではビジネス界隈の【ブンブン丸】と呼びます。

ブンブン丸は無邪気に悪気なく動いているため、こちらも断りにくいのが実情です。結果として振り回されてしまうことが多く、対応に疲弊している人も多いのではないでしょうか。

ただし、視点を変えれば、ブンブン丸には「強い推進力がある」ともいえます。この力を建設的な方向に向けられれば、ビジネスを一緒に加速させていいけるかもしれません。

この記事では、ブンブン丸にどう対応したらいいか、ケーススタディでお伝えしていきます。

2 「ざっくり」な依頼には要注意

1)よくある状況の例

「とりあえず、ざっくりでいいので見積もりを松竹梅の3パターン出して」

「ざっくりとした内容の提案書をもらえますか? 細かいところはよしなに」

「ざっくり」と言われると気軽な感じでいいのかなと思いますが、実は要件が固まっていない状態で数字や形を求める、困った依頼の典型例です。

曖昧なまま見積もりやアウトプットを提示すると、手戻りが多くなって何度もやり取りすることになったり、後で大幅な修正や追加費用が発生したりしかねません。

2)対応法は、「ざっくり」を「しっかり」に変える

「ざっくり」の正体は、“目的・前提・期待値”が言語化されていない状態。言語化、共有していくことが重要です。そうした答え方の例をご紹介します。

1.ゴール、アウトプットのイメージを一緒に描く

「目的に応じて、必要なアウトプットが変わります。お手数ですが、何に使う見積もり(資料)かだけでも教えていただけますか?」

2.精度とスピードのバランスを示す

「急ぎであれば、まず1パターンだけを簡易的にお出しして、後ほどブラッシュアップすることもできます」

3.【3パターン見積もり】には前提条件と幅を明示

「現時点では要件が見えないところが多いので、お見積もりが難しいところがあります。30分ほどでいいですので、詳細をヒアリングさせてもらえませんか?」

4.粗い依頼をできるだけ明確にするテンプレートを用意

「ご要望のイメージをお伺いするための簡易入力シートをご用意しています。ご記入いただければ、内容を整理してご提案可能です」

対応のポイント

ざっくりした依頼にそのまま乗らず、「一緒に整える」姿勢を見せることが大切。「ざっくり」と言われても、こちらが主導権を握って「しっかり」にしてしまうのがポイント。実は相手も「しっかり」を求めています。

3 「フェイク緊急」連絡を上手にさばく

1)よくある状況の例

「明日の会議で使いたいので、今日のうちに資料作成お願いしたいです」

「急ぎ知りたいことがあって、とりあえず電話してみたんだけど」

本当に緊急の場合は別ですが、一見、緊急性が高いように見える依頼でも、実際には「今日じゃなくても大丈夫」「単なる思いつきの共有だった」というケースも少なくありません。

相手の勢いに押され、常に言われた通りに対応していると、業務が圧迫され、慢性的な疲労やストレスが溜まってしまうこともあります。とはいえ、頭ごなしに断ると関係性が悪くなりかねません。

2)対応法は、「フェイク緊急」を仕組みで落ち着かせる

「フェイク緊急」にも真摯に応じつつ、本当の緊急との違いを明確にする仕組みを持つことが大切です。そうした答え方の例をご紹介します。

1.受信確認+対応予告でまず安心感を持ってもらう

「メールを拝見しました。◯月◯日10:00までに一次回答いたします。緊急の場合はお電話をください」

2.緊急度の判定ルールを共有する

「本当に緊急の場合」を事前に決めておくことも有効です。例えば下記などです。

  • サービス停止でユーザーに重大影響
  • 法的締切が24時間以内
  • セキュリティインシデント

3.ルールを【愛されキャラ】で周知し、行動ガイドを徹底

相手との関係性や連絡の内容にもよりますが、メール署名やチャットの固定メッセージで「営業時間」「緊急連絡先」を柔らかいトーンで共有する方法もあります。

メール文面例

いつもありがとうございます。

私たちはより良い対応のために、通常のご連絡は平日9:00~18:00の間にお願いしております。お急ぎの場合に限り、○○までお電話ください!

4.チーム内で“緊急連絡の扱い方”を共有しておく

外部との対応だけでなく、社内でも「こういうときはすぐ対応する」「この程度なら翌営業日でOK」といった共通認識をつくっておくことが重要です。対応が属人的にならず、誰が対応してもブレのない対応が可能になります。

対応のポイント

単に断るのではなく「より良い対応ができる方法」を示すこと。相手も「いつでも対応してもらえる」より「確実に対応してもらえる」方を望んでいるかもしれません。

4 「無茶ぶりスケジュール」を現実的プランに変換する

1)よくある状況の例

(金曜18:00過ぎに)「月曜10:00までには企画案を出してください」

「遅れていた役員承認が下りました! 納品は当初予定どおり○日で」

突然のスケジュール変更や、現実的に対応が難しい短納期の依頼に戸惑うことはありませんか? 相手に悪気はなくとも、こちらの準備時間が足りないままで対応すると、ミスやクオリティ低下につながる恐れがあります。断りにくい気持ちもありますが、納得感を持って調整するための工夫が必要です。

2)対応法は、「できる範囲」を見せて共に調整する

無茶ぶりにそのまま応じるのではなく、冷静に「できる範囲」を提示し、相手と一緒に調整の落としどころを探る姿勢が重要です。そうした答え方の例をご紹介します。

1.必要工数を見える化して交渉

作業の内訳と所要時間を丁寧に伝えることで、相手も「それは無理だったか」と納得しやすくなります。

「企画案3パターン作成には以下が必要です。

  • 市場調査:8時間
  • 企画立案:12時間
  • 資料作成:6時間
  • 合計 26 時間

このため、週明け月曜朝までの対応は、現実的にかなり厳しいスケジュールです。例えば、一次案を火曜午前、ブラッシュアップ版を木曜正午にご提出するスケジュールであればできると思いますが、いかがでしょうか?」

2.優先順位を相手に選んでもらう

「どちらを優先しますか? 月曜朝に1案のみ(精度は高い)でしょうか、それとも水曜午後に3案すべて(通常の精度)でしょうか」

3.現実的代替案を提示

「今回、役員さまのご承認に○日要したため、品質を保つには □月□日が最短です。ただし段階納品なら可能です。一次納品は◎日、最終納品△日という形ではいかがでしょうか?」

4.合意内容を文書で確認

お互いに確認し合えるよう、書面でスケジュールの変更をお願いし、合意することも有効です。

書面例

変更後スケジュール

○月○日:一次案提出

△月△日:最終案提出

※品質基準は従来どおり維持

以上でご了承いただけますでしょうか?

対応のポイント

「できません」ではなく「こうすればできます」で提案。ブンブン丸は現実的な代替案を待っています。

5 「振り回される」から、「一緒に加速する」へ

これまで、ブンブン丸に「振り回されないようにする」対応法を紹介してきましたが、実はブンブン丸との関係を攻めの視点で捉えることもできます。

ブンブン丸に「振り回される」状況を、こちら側のチーム全体の“スピードアップ”や“対応力を鍛える機会”に変えてしまうことです。

例えば、仕事のフローをシンプル化する、定型フォーマットを用意する、AIをうまく活用するなどの取り組みで、スピードアップを図るのも一策です。

ブンブン丸への対応力を磨くと、次のような成果も期待できます。

  • スピード感のある対応体制が整う 急な依頼にも冷静に、素早く対応できるようになる
  • 対応パターンの資産化 汎用テンプレートや定型フローが増え、業務効率がアップする
  • メンバーの対応力向上 臨機応変な動き方が身につき、一人ひとりのスキルアップにつながる
  • 信頼の積み上げ 急ぎの要望にも“的確に対応できる存在”として評価が高まる

ブンブン丸の行動に一喜一憂するのではなく、それに対応できるチームへと進化することで、結果的に組織全体の推進力が上がっていきます。

振り回されるだけの関係から、一緒に加速し、成長し合える関係へ。ブンブン丸への対応を、そう前向きに捉えることもできるでしょう。

ブンブン丸は「困った取引先」ではありません。「可能性を秘めたパートナー」です。

みんなで良い方向に進化していきましょう!

以上(2025年6月作成)

pj00772
画像:日本情報マート

居眠り運転なのに労災? 小さな運送業が社員に訴えられた理由

1 小さな運送業は労災が多い

運送業の現場では、トラックや配送車の長時間運転、荷物の積み降ろし作業、倉庫や配送センターでの重機(フォークリフト等)操作など、日常的に労災リスクが潜んでいます。大手運送会社や大規模物流センターでは安全管理の担当者が常駐し、健康管理や事故防止策が徹底されているケースが多いですが、小規模の会社の場合、人的リソースや設備投資が限られ、「対策不十分」「悪気のない労災かくし」などの問題が起こりやすいのが実情です。

労災発生件数

さらに近年、2024年問題(注)と呼ばれるドライバーの時間外労働規制強化により、長時間労働の是正や運行管理体制の見直しが一層求められています。納期圧迫や人手不足などの課題が重なり、「事故が起きても忙しくて労災手続きを後回しにしてしまう」「ドライバー本人に自己責任で処理させてしまう」といった状況が懸念されます。

「ウチくらいの規模なら何とかなる」「大した事故じゃないから健康保険でいいだろう」などと安易に判断すると、後々大きなペナルティーやトラブルを招く恐れがあります。以下の事例を参考に、正しい労災対応をいま一度確認していきましょう。

(注)2024年問題:働き方改革関連法の施行により、運送業のドライバーにも時間外労働の上限規制(年960時間)が適用されるようになる問題。業界全体で人手不足や長時間労働が常態化している中、対応が急務となっています。

2 小さな運送業で起きた労災の落とし穴「6選」

次のリンクから、現役社労士が直面した小さな運送業で起きた労災の事例をベースに、労災に対するよくある誤解を取り上げた記事をご覧いただけます(実際の会社が特定できないように省略したり、表現を変えたりしているところがあります)。

以上(2025年7月作成)

pj00765
画像:ChatGPT

ライト兄弟のイノベーションは「リスペクト」から生まれた

僕たちはたゆまず進み、自分たちの手ですべてを見つけなくてはならなかった

オーヴィル・ライトは、18世紀の発明家。兄ウィルバーとともに、世界初の有人飛行(諸説あり)を成し遂げた英雄です。日本では「ライト兄弟」の名で広く知られています。

冒頭の言葉は、ウィルバーの病没後にオーヴィルが少年誌に寄せたコラム「How I learned to Fly」の中の一言です。ライト兄弟は、幼い頃に父親が土産に買ってきたヘリコプターの玩具をきっかけに機械いじりに興味を持ち、やがて成人すると自転車屋を営みながら、本格的に飛行機の開発に乗り出します。しかし、空という未知の領域への挑戦は困難を極め、2人は何度もぶつかります。2人は仲の良い兄弟でしたが、「飛行」に対するアプローチの仕方がまるで違ったのです。

兄のウィルバーは、「理論派・戦略家タイプ」。膨大な文献を読みこなし、鳥やグライダーの飛行を徹底的に研究しながら、機械を空に飛ばす方法を論理的に突き詰めていく人でした。弟のオーヴィルは、「実践派・技術者タイプ」。手先が器用で機械の組み立てなどを得意とし、自ら飛行機を操縦しながら足りないものを探っていく人でした。

性質が異なる人間がそろってものづくりを行うとなれば、言い争いが起きないはずもありません。例えば、飛行機のプロペラを開発していた際には、2人はお互いの意見の食い違いから、昼夜問わず激論を交わし、けんかに発展することもしばしばでした。しかし、彼らはけんかの翌朝になれば、「自分が間違っていた、やるならウィルバーの方法だ」「どうやらオーヴィルのほうが正しいようだ」とお互いの考えを認め、また2人で同じ部屋に入って研究を始めたといいます。

これは、兄弟がお互いに違う分野の“スペシャリスト”だったからかもしれません。ウィルバーは理論に精通しつつも、「弟のように機械をうまく操れない」という自覚があり、オーヴィルは機械に精通しつつも、「兄のように緻密に理論を組み立てられない」という自覚があったのでしょう。自分の得意分野にプライドを持っているからこそ激しく衝突しますが、相手が自分にないものを持っているからこそ、お互いに認め合って「たゆまず」進み続けることができたのです。

ビジネス環境が複雑化した現在では、経営者がワンマンで会社を引っ張るやり方は限界に来つつあります。社員一人ひとりが、特定の分野の“スペシャリスト”になり、「自分の得意分野へのプライド」「相手の得意分野へのリスペクト」の両方を持ち合わせてこそ、新たなイノベーションへとつながっていくのではないでしょうか。

後年オーヴィルは、「私たちにとって最大の恩恵は家族に恵まれたこと」と言いました。「会社は家族」という考えは古いという人もいますが、社員同士が兄弟のようにたゆまず切磋琢磨する会社は、着実な進歩を続け、いつかは大空に羽ばたくでしょう。

出典:「ライト兄弟 イノベーション・マインドの力」(デヴィット・マカルー著 秋山勝訳 草思社、2017年5月)

以上(2024年7月作成)

pj17634
画像:Gerald Zaffuts-Adobe Stock

【債権回収】 債権を守るために有効な 「担保」の種類と設定方法

1 債権保全の基本は担保の設定

万一、取引先から売掛金が回収できなくなる場合に備えて「債権保全」を講じます。債権保全とは、

債権を確実に回収するための施策であり、基本的な方法が「担保の設定」

です。ただ、実際に担保を設定したことがない人にとっては、具体的な担保の種類や設定方法が分からないと思います。

そこで、この記事で担保に関する基本を紹介します。一口に担保といっても、さまざまな種類と決まりがあるので整理していきます。また、一部の内容は民法改正に関係するので、その点も踏まえます。

この記事で紹介する担保の種類は次の通りです。

  • 物的担保:抵当権、根抵当権、質権、譲渡担保、所有権留保
  • 人的担保:普通保証(単純保証)、連帯保証、根保証

2 物的担保の種類と設定

1)物的担保とは

物的担保とは、

債務者や債務者以外の第三者が持つ特定の財産から、優先的に弁済を受けられるもの

です。物的担保の主な対象は不動産と債権ですが、その他にも機械、商品、有価証券、ゴルフクラブ会員権、現金、船舶、自動車、工場財団などが物的担保の対象になります。

なお、工場財団とは、工場抵当法に基づき、工場に属する土地、工作物、機械、器具、地上権などの全部または一部で組成されているものです。

1.不動産

不動産は担保の代表格です。安定性があり、登記制度による対抗力があるなど、担保に適しています。不動産を担保に設定する場合、登記と実態の両方をチェックしましょう。登記のチェックは不動産鑑定士や司法書士、土地家屋調査士などに依頼できます。また、実態のチェックは、実際に目で確かめる必要があります。

2.債権

取引先が有する債権も担保に設定されます。具体的には、売掛金や貸付金、金融機関に対する預金債権、不動産賃貸借契約などに伴う敷金・保証金・建設協力金の各種返還請求権などです。これらの債権は換金性に優れていて有用なものもありますが、不動産に比べると流動性が高く、知らぬ間に価値が減少したり、毀損したりしている場合があるので、担保として不安定な側面がある点に注意しましょう。

2)物的担保の代表的な設定方法

1.抵当権

抵当権とは、

抵当権者(ここでは債権者。以下、同様)が、抵当権設定者(目的物の所有者=通常は債務者)から目的物の占有の移転を受けることなく、一定額の債権のために目的物を担保に取り、他の債権者に先立って優先的に自己の債権の弁済を受ける権利のこと

です。抵当権の目的物は登記・登録が可能な財産に限られ、不動産が典型です。

抵当権が設定された後も、抵当権設定者は引き続き抵当物件を使用できます。しかし、債務が弁済されないときは、

抵当権者はその物件を競売にかけ、その代金を債権に充当すること

ができます。抵当権設定の効力は、抵当権者と抵当権設定者との間で「抵当権設定契約」を交わすことで発生します。しかし、第三者に対して権利の存在を主張し、他の債権者に対して優先権を持つためには、

登記・登録などの対抗要件を備えること

が必要です。

2.根抵当権

根抵当権とは、

抵当権の一種で、設定契約に定められた不特定の債務をまとめて担保する権利のこと

です。根抵当権の特徴は、優先的に弁済を受けられる金額について、一定限度である「極度額」を定めることです。極度額は、

元本・利息・遅延損害金を含めた当該根抵当権により担保される債務の総枠

を意味するので、通常は元本予想額より少し多めに設定します。

3.質権

質権とは、

質権者(ここでは債権者。以降、同様)に目的物の占有を移転させ、質権者は、他の債権者に先立って優先的に自己の債権の弁済を受ける権利のこと

です。質権の対象となるのは、不動産・動産・財産権です。中でも、

売掛金・貸付金・銀行預金・火災保険金などの債権を質権の対象とする「債権質」は、権利者と質権設定者(目的物の所有者=通常は債務者)にも便利な担保権

です。債権質において、債務者が売掛金・貸付金などの債権を持っている場合、それらを担保に設定することができます。

債権質設定の効力は、質権者と質権設定者との間で「債権質権契約」を交わすことで発生します。また、売掛金など「指名債権」の場合、質権設定者から第三債務者(売掛金の債務者)に対し、確定日付のある通知をするか、第三債務者からの確定日付のある承諾がなければ対抗できません。

指名債権とは、

債権者が誰であるか特定しており、債権の成立・譲渡のために証書の作成・交付を要しないもの

です。

4.譲渡担保

譲渡担保とは、

債権者が債務者に対して有する債権を担保するために、物の「所有者または権利者」(債務者)が、物の所有権または権利を債権者に移転すること

です。譲渡担保権の対象は、動産や債権、不動産などのように財産的価値および譲渡性があるものです。譲渡担保権も抵当権と同様に、物件の所有者と債権者との間で契約を交わして設定しますし、通常、債務者は譲渡担保権の設定後も、目的物を使用し続けることができます。

また、担保の目的物を個々の動産に限定せず、経済活動の過程で流動する動産を一括して設定することもできます。そのため、

  • 集合動産:特定の倉庫内にある商品など
  • 集合債権:特定の取引先との間の継続的取引により発生する売上債権など

の財産についても担保に設定できます。この場合、契約において担保の対象となるものの種類、量的範囲、所在場所を特定しておく必要があります。

なお、譲渡担保権の実行は、通常、

  • 目的物を換価して代金を取得する方法(処分清算)
  • 目的物を取得して、目的物の評価額と債権との差額を清算する方法(帰属清算)

のいずれかになります。

5.所有権留保

所有権留保とは、

売買の目的物の所有権を自社が保有したままにする特約

です。所有権留保特約を付けることで、売主は代金が全額支払われるまで、取引先の他の債権者に対して売買目的物の所有権を主張できます。

ただし、所有権留保の対象が動産の場合、取引先から当該目的物を譲り受けた第三者に「即時取得」されてしまう恐れがあるので、ここは注意が必要です。即時取得とは、簡単にいうと、

無過失で権利者と信じる者から取引によって動産を取得して占有した人は、その動産の所有権を取得し、すぐにその動産を使ったり、売ったりすることができる

ということです。売主が買主に動産を売り、さらに買主が代金を支払い終える前に第三者にその動産を売った場合、その第三者が即時取得するケースがあるということです。

3 人的担保の種類と設定

1)人的担保とは

人的担保とは、

債務者以外の第三者から、債務者に代わって弁済を受けることができるもの

です。

人的担保の代表的な制度が「保証」です。

保証とは、

主債務者が債務の弁済ができない場合に、主債務者に代わって保証人が債権者に弁済すること

であり、代表者個人の連帯保証などがあります。保証にはさまざまな種類があるので整理しましょう。

2)保証の種類

1.普通保証(単純保証)

普通保証とは、

主債務者が債務を履行できない場合に、これを補充する二次的な債務のこと

です。ただ、普通保証の保証人は「催告の抗弁権」と「検索の抗弁権」を持っているため、担保というには難があります。

催告の抗弁権とは、

債権者が主債務者に請求せずに保証人に請求してきた際、まず主債務者に請求するよう求める権利

です。

検索の抗弁権とは、

債権者が主債務者に対して請求しても弁済しないので、保証人に請求してきたときに、主債務者に弁済の資力があり、かつ執行が容易であることを証明して、まずは主債務者の財産から執行するよう求める権利

です。なお、保証契約は書面によるものでなければ無効になりますので、注意が必要です。

2.連帯保証

普通保証と違い、連帯保証人は「催告の抗弁権」と「検索の抗弁権」を持っていません。そこで、取引先への債権について相手の経営者が連帯保証人となっていれば、

取引先が債務不履行を起こした際、すぐに連帯保証人である経営者に弁済を求めることが可能

となります。債権者から見ると、普通保証より連帯保証のほうが有利です。

連帯保証も書面によるものでなければ無効です。また、契約を交わす前に次の点をチェックすべきです。

  • 保証人の支払能力は問題ないか(支払能力がなければ意味がない)
  • 保証人の保証意思は確認したか(債権者の面前で保証意思を確認し、署名なつ印してもらう)
  • 「連帯保証」である旨を明記しているか(保証にはさまざまな種類がある)

3.根保証

根保証とは、

債権者と債務者が継続的な取引を行う場合、将来発生するかもしれない不特定の債務をまとめて保証してもらうこと

です。根保証も書面によるものでなければ無効です。また、個人が根保証契約を交わした場合、その保証人を保護するため、

極度額の定めを書面でしなければ無効

となります。

4 【改正民法】人的担保に関連する改正ポイント

1)根保証における保証人保護の拡大

改正前民法では、保証人が法人の場合を除き、貸金等債務の根保証契約については、極度額の定めを書面でしなければ無効でした。改正民法では、個人による全ての根保証について、極度額の定めを書面でしなければ無効となります。

2)情報提供義務に関する規定の新設

改正民法では、保証人保護の観点から「保証契約を締結するとき」「保証人から情報提供を求められたとき」「主債務者が期限の利益を喪失したとき」に、主債務者の情報を保証人に提供しなければなりません。情報提供義務の概要は次の通りです。

情報提供義務の概要

3)個人保証人の保護規定の新設

改正民法により、事業のために借り入れた資金の債務保証は、次の2つに該当する場合を除いて無効とされます。

  • 保証契約締結前1カ月以内に、保証意思を表示した公正証書を作成(公証人による保証意思の確認手続)
  • いわゆる「経営者等の保証」

ここでいう「経営者等の保証」とは、次のケースをいいます。

  • 主債務者が法人で、保証人が当該法人の理事、取締役、執行役などである
  • 主債務者が法人で、保証人が当該法人の株式等の過半数を有している
  • 主債務者が個人で、保証人が共同事業者、または事業に従事している配偶者である

以上(2025年7月更新)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)

pj60198
画像:Mariko Mitsuda

【規程・文例集】「防災管理規程」のひな型

1 改めて防災を考える

 日本では、地震に限らず、様々な災害が発生します。万一の際、社員の安全や自社の資産を守るための拠り所となるのが防災管理規程です。もし、防災管理規程をまだ作成していないようであれば、これを機に検討してみましょう。防災対策に関する情報をまとめた行政機関のウェブサイトもあります。参考にしてください。

■内閣府「企業防災のページ(内閣府防災担当)」■

https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/

■東京都防災ホームページ「防災ブック」■

https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/1028036/

2 防災管理規程のひな型

以下で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容は異なります。規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【防災管理規程のひな型】

第1条(目的)

本規程は防災管理の徹底を期し、災害における人的・物的被害を最小限にとどめるために必要な事項について定める。なお、本規程でいう災害とは、火災、地震、暴風雨、洪水などに起因する災害をいい、労働災害、交通事故、テロ、ミサイル、感染症は除く。

第2条(適用範囲)

本規程は、消防法などの関連法令に基づき全社に適用する。

第3条(防災管理体制)

会社は、防災管理の推進・維持のため、次に定める管理者および会議体を置く。

  1. 全社防災対策本部長
  2. 地域防災対策責任者
  3. 防火管理者
  4. 火元責任者
  5. 防災対策本部
  6. 防災対策委員会
  7. 自衛消防隊

第4条(全社防災対策本部長の任命および職務)

1)全社防災対策本部長は、本社に置くものとし、総務部長がその任に当たる。

2)全社防災対策本部長は、全社的な防災対策の統括をするものとする。

第5条(地域防災対策責任者の任命および職務)

1)地域防災対策責任者は、拠点ごとに置くものとし、労働安全衛生法に基づいて選任した総括安全衛生管理者とする。ただし、総括安全衛生管理者を置かない拠点においては、労働安全衛生法に基づいて選任した安全管理者などの中から会社が個別に指名する。

2)地域防災対策責任者は、拠点における防災対策の統括をする。また、災害に際しては臨機応変な処置を講じるとともに、速やかに全社防災対策本部長に状況を報告しなければならない。

第6条(防火管理者の任命および職務)

1)防火管理者は、拠点ごとに置くものとし、法的資格者の中から全社防災対策本部長が任命する。また、防火管理者を置かない場合は、地域防災対策責任者が防火管理者の職務に準じて防火管理事項を実施・推進するものとする。

2)防火管理者は火災の予防および災害の防止を図るため、次の職務を誠実に行うものとする。

  1. 消防計画の作成および変更
  2. 建物、火気使用設備器具、危険物施設などの検査および危機管理
  3. 避難通路および避難設備などの維持管理
  4. 消防用設備などの点検および整備
  5. 火気の使用または取り扱いに関する監督
  6. 収容人員の管理
  7. 消火、通報および避難などの訓練の実施
  8. 従業員などに対する防災意識の啓発
  9. 火災およびその他の災害に対応できる体制、対策の維持管理
  10. その他、防災管理上必要な業務

3)防火管理者は前項の職務を遂行するに当たり、必要に応じて第7条に定める火元責任者および建物・諸設備などの点検を行う者(以下「設備点検員」)を任命するものとし、消防管理上必要な命令および指示をしなければならない。

第7条(火元責任者の任命および職務)

1)火元責任者は、各部門の責任者もしくはそれに準ずる従業員の中から防火管理者が任命する。

2)火元責任者は、防火管理者の命令および指示に従い、防火措置の実施、確認、その他の責任を負うものとする。

第8条(防災対策本部および活動)

会社は、重大な災害が発生した場合、本社に防災対策本部を置き、対策を決定する。また、必要に応じて、防災対策本部の決定した対策を講じるための全権を委嘱した役員を被災地に派遣する。

第9条(防災対策委員会)

1)防災対策委員会は、拠点ごとに置く。

2)防災対策委員会の委員長は、地域防災対策責任者とする。

3)防災対策委員会は、防火管理者、火元責任者、設備点検員、拠点内の各部門から任命された1名以上で構成する。

4)防災対策委員会は、原則として2カ月に1度開催する。

第10条(防災対策委員会の活動)

防災対策委員会は、主として次の事項に関する審議を行い、必要な事項を実施・推進する。

  1. 消防計画の立案
  2. 防災に関する諸規程の立案
  3. 防火対象物の防火構造および避難施設並びに消防用設備などの維持管理
  4. 消防設備の改善強化
  5. 消火・通報および避難訓練などの立案
  6. 防災意識の啓発
  7. 防災予防上必要な教育および消防・避難訓練の計画並びに実施
  8. 火災の際の隣接防火対象物の応援協定
  9. その他防災に関する必要事項

第11条(自衛消防隊)

1)自衛消防隊は、拠点ごとに置くものとし、火災のみならずその他の災害発生時に、人的・物的被害を最小限にとどめるための活動を行う。

2)自衛消防隊の隊長は、地域防災対策責任者とする。

3)自衛消防隊の隊長補佐は、防火管理者とする。

4)自衛消防隊には、隊長および隊長補佐の下に次の班を置く。

  1. 通報連絡班
  2. 初期消火班
  3. 避難誘導班
  4. 応急救護班
  5. 安全防護班

5)第4項に定める各班には、班長を置く。班長は各部門の責任者、もしくはそれに準ずる従業員の中から地域防災対策責任者が任命する。また、各班の班員は地域防災対策責任者が任命する。班員数については拠点の規模などを勘案の上、防災対策委員会が決定する。

第12条(自衛消防隊の活動)

自衛消防隊は、火災やその他の災害が発生した場合に、所有する組織力や装備を有効に活用して、人的・物的被害を最小限にとどめることを目的に、次の活動を実施する。

  1. 消防機関への通報
  2. 初期消火活動
  3. 人命の救助
  4. 関係者以外の者の立ち入り禁止処置
  5. 消防活動の障害となる物件の排除
  6. 従業員の避難誘導
  7. 必要な資器材の調達
  8. その他、人的・物的被害を最小限にとどめることに資する活動

第13条(消防計画)

防火対象物全般にわたる消防計画は防火管理者が企画・立案し、防災対策委員会で決定する。なお、消防計画については消防法など法令の定めるところによる。

第14条(防火点検)

建築物・火気・電気・危険物などにおける各施設の自主点検は、火元責任者が週1回実施し、点検結果は記録して、必要な整備事項があれば地域防災対策責任者に報告し処置するものとする。

第15条(設備管理)

1)消防用諸設備および用水については、火元責任者が管理状況を確認するものとし、防火管理者は巡回点検を定期的に行い、実施状況を監督しなければならない。

2)電気設備、警報設備、避難設備など、専門的な点検を要するものは、防火管理者が点検依頼先を指定し、社内外の専門技術者の点検を受けるとともに、点検結果を記録しなければならない。

第16条(防災訓練)

1)防災対策委員会は防火管理者が中心となり、防災訓練と防災教育の講習会を年1回開催する。

2)従業員は防災訓練並びに防災教育の講習会に参加しなければならない。

第17条(火災予防)

1)社内における指定場所以外の喫煙は厳禁とし、社内外における工事や大量の危険物取り扱いの際の喫煙場所は、事前に防火管理者の承認を受けなければならない。

2)臨時に火気を使用する場合、防火管理者並びに火元責任者の許可を得なければならない。

第18条(災害防御)

災害防御のため、該当者は次の項目に努めるものとする。

  1. 通報連絡
  2. 災害(特に火災)発生において発見者は、所轄の消防署へ通報するとともに、地域防災対策責任者などの関係者もしくはそれに準ずる者に連絡する。連絡を受けた者は、社内放送または口頭連絡により、災害発生を知らせる。

  3. 消火活動
  4. 自衛消防隊は、社内放送および連絡に基づき、直ちに消火活動に当たる。

  5. 避難誘導
  6. 自衛消防隊の誘導により行う。

第19条(安否確認)

従業員は各自、自身と家族の安全措置を講じた後、速やかに所属拠点へ安否情報を報告する。

第20条(災害復旧)

1)地域防災対策責任者は、事業を速やかに回復させるため、次の項目に努めるものとする。

  1. 勤務環境の整備
  2. 土地、施設および設備の復旧
  3. 備品などの調達および修繕
  4. その他、災害復旧に必要な事項

2)地域防災対策責任者は、応援要員、復旧資材、宿泊施設、食料、復旧日程などの計画を策定し、全社防災対策本部長に報告する。

3)地域防災対策責任者は、復旧計画の実施に当たって、自治体、防災関係機関などと密接な連絡を取りながら復旧を行う。

第21条(罰則)

役員および従業員が故意または重大な過失により、本規程に違反した場合、就業規則に照らして処分を決定する。

第22条(改廃)

本規程の改廃は、取締役会の承認による。

附則

本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2025年7月更新)

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安否確認に資金繰り……災害からヒト、カネ、モノを守りきれ!

大規模な災害が続く昨今、万が一のとき、会社が社員の安全を守り事業を継続するには、日ごろからの準備が欠かせません。社員の安否確認やデータ・書類のバックアップ、資金繰り、労務管理など、あらゆる場面で発生するイレギュラーに対し、その場の判断だけで対応するのは不可能です。この【中小企業のためのBCP】シリーズでは、中小企業が押さえておきたい防災・BCPの基本を、テーマごとに分かりやすくご紹介します。

1 「そのとき社員は動けるか?」~AED に初期消火、今こそ見直す防災訓練~

大規模な災害時、社員が適切な行動を取るためには、日ごろの防災訓練が欠かせません。例えば、大地震の場合、「安全確保と応急救護」「通報と初期消火」「避難」というのがおおまかな初動対応の流れになります。これを想定した防災訓練を実施する場合、まずは基本となる

「応急救護訓練」「通報・伝達訓練」「消火訓練」「避難訓練」のポイントを押さえる

ことが大切です。次のコンテンツで、AEDの使い方、119番通報の具体的な伝え方、消火器の適切な使用方法などを紹介します。

「そのとき社員は動けるか?」~AED に初期消火、今こそ見直す防災訓練~
大地震などが発生した場合の初動対応の流れと、代表的な防災訓練である「応急救護訓練」「通報・伝達訓練」「消火訓練」「避難訓練」のポイントを紹介します。

 

2 社員の「安否確認」手段を整備しよう

いざ災害が起こってもスムーズに行動できるよう、事前に決めておきたいのが、安否確認の手段です。具体的には「メールやSNS」「災害用伝言ダイヤル(171)」「災害用伝言板(web171)」などがありますが、

それぞれの手段で一長一短があるので、違いを理解し、どれを優先的に使うかを決める

ことが大切です。次のコンテンツで、社員の安否確認手段の整備方法を紹介します。

社員の「安否確認」手段を整備しよう
安否確認は、緊急時に従業員やその家族の安全を守り、事業継続の判断をするために不可欠。自社に合う安否確認手段を整備するためのポイントを紹介します。

 

3 テレワークや外出中の社員を災害から守るためのチェックリスト

社員が外出中に災害があった場合、普段の連絡手段が使えないことがあります。加えて、

オフィス街、住宅街、地下街、電車の中、車での運転中など、どこで災害にあったかによって対処法も異なる

ので注意が必要です。次のコンテンツで、オフィスの外での防災対策について、災害が発生した際の対処法や普段から備えておくべきことをチェックリスト付きで紹介します。

テレワークや外出中の社員を災害から守るためのチェックリスト
外回りの営業中やリモートワーク時など、オフィスの外での防災対策について、災害が発生した際の対処法や普段から備えておくべきことを解説します。

 

4 重要なデータ・書類のバックアップ

電子データや紙の重要書類は、それが使えなくなると事業の存続に関わる危機的な影響が及ぶため、バックアップが不可欠です。電子データや書類をバックアップする方法としては

  • 電子データ:外部記憶媒体、ネットワークストレージ(NAS)、オンラインストレージ
  • 書類:コピーを取る、スキャナーなどで電子データ化する

 

などが挙げられます。次のコンテンツで、重要なデータ・書類のバックアップ方法や、バックアップ体制を整えるポイントを紹介します。

重要なデータ・書類のバックアップ
緊急時、事業の継続や早期復旧に備え、重要な情報のバックアップは欠かせません。電子データや紙の書類のバックアップ方法、日ごろの備えについて解説します。

 

5 チェックリストで確認! 「経理部門」のBCP

会社にとって「カネ」を管理する経理部門は、事業活動の血液とも言える重要な役割を担っています。その機能が停止すると事業に甚大な影響を及ぼすため、

「オフィスや工場の閉鎖」「情報システムの使用不能」「社員の勤務不可能」といったシナリオも想定した上で、被害額の算出、運転・復旧資金の見積もりなどの対策を打つ

必要があります。次のコンテンツで、経理部門におけるBCPの策定ポイントを紹介します。

チェックリストで確認! 「経理部門」のBCP
もし、災害などによって経理部門の機能がストップしたら、事業活動に大きな影響を及ぼします。経理部門に特化したBCPの策定に必要な考え方などを紹介します。

 

6 災害時の労務管理!社員の賃金が振り込めなくなったら?

災害時は会社の事業継続が重要で、「労務管理」もその一環です。例えば、家族の治療や家屋の修理などでお金が必要なときに、賃金の支払いが滞ったら大変です。労働基準法などの定めに従って行動することが基本になりますが、

  • 災害時も平常時も変わらず適用されるルール(例:賃金は毎月1回以上、一定の期日に支払わなければならない)
  • 災害時のみ適用される特殊なルール(例:36協定によらずに社員に残業を命じられる)

 

があるので注意が必要です。次のコンテンツで、災害時の賃金支払い、休業手当、労働時間管理などの労務管理ルールを紹介します。

災害時の労務管理!社員の賃金が振り込めなくなったら?
地震や豪雨などの災害時に賃金の口座振込ができない場合や、復旧作業で社員を残業させたい場合などに、どのような点に注意するべきかを紹介します。

 

7 【規程・文例集】「防災管理規程」のひな型

万が一の際に社員の安全や自社の資産を守るための拠り所となるのが防災管理規程です。被害を最小限にとどめるためには、

組織体制(全社防災対策本部長、防火管理者など)を明確にした上で、職務や活動内容(火災予防、設備点検、消防計画の策定、消火・通報・避難訓練の実施など)を定める

ことが大切です。次のコンテンツで、「防災管理規程」のひな型を紹介します。

【規程・文例集】「防災管理規程」のひな型
企業には、災害全般から従業員の安全や自社の資産を守るための体制整備が求められます。防災についての事項をまとめた防災管理規程のひな型を紹介します。

 

以上(2025年7月作成)

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【労災の落とし穴(運送業)】 積み降ろしや長距離運転のぎっくり腰は労災じゃないでしょ?

この記事では、現役社労士が直面した小さな運送業の労災の事例として、「業務中にぎっくり腰を起こした社員について、『もともと腰が悪かったのなら、労災ではない』と判断してしまった会社」の話を紹介します(実際の会社が特定できないように省略したり、表現を変えたりしているところがあります)。

1 荷物の積み降ろしや長距離運転で腰痛に。でも会社が労災申請してくれない……

社員数5人の配送会社に勤めるドライバーのDさん。重たい段ボール箱を1人で何度も積み降ろしする作業を続けていました。フォークリフトはあるものの、使い勝手が悪く、「急いでいるから手作業のほうが速い」という社長の考えから、ほとんど使われていない状態です。ある日、Dさんは作業中に積み荷を落としそうになって腰をひねり、病院で「急性腰痛(ぎっくり腰)」と診断されます。数日は安静が必要と言われ、配送業務を休まざるを得なくなりました。

また、Dさんに加え、もう1人ぎっくり腰になってしまった社員ドライバーがいました。勤続10年以上の長距離トラックドライバー、Eさんです。Eさんは、座った姿勢を長時間維持し続ける運転業務で腰に負担がかかり続け、ある日、トラックから降りた拍子に腰を痛めてしまいました。

しかし、社長はDさんにもEさんにも「もともと腰が弱かったんじゃない? ぎっくり腰なら健康保険で通院して、休むなら有休を消化してくれ」と言い放ち、労災申請をする気配がありません。2人とも「仕事が忙しいから無理が祟ったのかも」と考え、会社に迷惑をかけたくない一心で、そのまま健康保険を使ってしまいました。

2 実務のポイント(正しい認識)

腰痛の業務起因性については、図表のように独自の基準が定められています。「災害性の原因による腰痛」「災害性の原因によらない腰痛」にそれぞれの基準がありますが、今回の場合、体勢を崩して腰をひねったDさんは赤字部分、長時間立ち上がることができずに業務を続けたEさんは青字部分のルールが適用される可能性があります。

腰痛の業務起因性

Dさんは作業中に腰をひねり、ぎっくり腰と診断されているので、

医師が「業務により症状が著しく悪化した」と明確に結論付けたのなら、業務起因性が認められる可能性が高い

です。業務遂行性については、そもそも業務時間中に発生した事故ということで認められるので、このケースが労災認定される可能性も高いといえるでしょう。

Eさんは、長時間立ち上がれず、同じ姿勢を保って行う業務に従事したことにより、腰を痛めています。災害性の原因によらない腰痛は、災害性の原因による腰痛に比べると、業務との因果関係が証明しにくい面がありますが、こちらも

医師が「長距離トラックの運転業務に従事したことにより、筋肉等の疲労を原因とした腰痛を発症した」と明確に結論付けたのなら、業務起因性が認められる可能性が高い

です。なお、いずれのケースも、医師の判断も待たず、健康保険で通院させることは、労災かくしにつながる恐れがあるのでやめましょう。

また、このケースでは社長がDさんとEさんに「休む場合は、有休(年次有給休暇)を消化するように」と指示していますが、そもそも労災により休業する場合、一定の要件を満たすことで労災保険の休業補償給付が受けられるので、有休よりもそちらを利用したほうが、会社も金銭的リスクを軽減できます。

3 腰痛については医師の判断に任せつつ、社内では腰痛予防対策を講じる

腰痛の悪化に医学的な根拠があるかどうかを判断するのは医師なので、社員本人や社長が勝手に判断せず、まずはきちんと医師に相談するようにしましょう。

Dさんの場合、フォークリフトなどの機器を導入していても、活用せずに手作業を行っていたことがぎっくり腰の遠因になっていますが、こうした状況は、会社が安全配慮義務に違反していると判断されかねません。1人で扱える荷重の目安や、チームで分担して運ぶルールを設けるなど、労災予防策を整備しましょう。

また、Eさんの場合、長時間座った姿勢を保持することの悪影響を考慮して、トラックドライバーの限度基準告示などを確認しながら、「複数のドライバーが交代で運転する」「休憩時間を十分に確保する」などの対応が必要になってきます。

以上(2025年7月作成)

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【債権回収】日ごろから「債権管理」を徹底する

1 皆さんの会社は「債権管理」をしていますか?

皆さんの会社では、取引を開始した後も定期的に取引先の経営状態をチェックしていますか。もし、取引開始時の与信情報から何もアップデートしていないとしたら、危険なことです。請求業務も経理担当者任せにしたままだと、ある日突然、「未払いが回収できません!」と報告を受けることになるかもしれません。その取引先が大口だと事態は深刻です。中小企業の場合、

一部の大口との取引で収益の多くを賄っていることが多く、そうした取引先に対する売掛金が未回収だと、自社の資金繰りに大きな影響を及ぼし、最悪の場合は資金ショートを起こしてしまうからです。

そうならないためにも、日ごろから「債権管理」を徹底しましょう。債権管理とは、

滞りなく売掛金を回収するための業務全般

のことで、具体的には「請求書の発行や入金チェック、未入金の場合は催促」などの一連の流れとなります。

この記事では、債権管理の一般的な内容を紹介します。業務フローはさまざまなので、会社の状況に合わせて債権管理を徹底してください。

2 一般的な債権管理の流れ

1)請求書を発行する

取引先に請求書を発行します。継続取引の場合は、毎月、決まった日に請求書を発行します。スポットの場合は、納品(検収)後、速やかに発行するようにします。開発案件では、半年分の開発を期末にまとめて請求することもありますが、売掛金をきちんと把握していないと請求漏れが生じます。また、

取引先と共通の認識を持つために、面倒でも、その都度「注文書」と「注文請書」でやり取りすること

が大切です。

2)入金の確認と催促

請求書を発行したら、期日までに入金があるかをチェックします。インターネットバンキングを利用していれば、いつでも入出金明細を確認することができます。

また、たまにあるのが入金された金額の間違い(請求金額と違っている)です。取引先が悪意なく間違えているケースがほとんどで、継続取引の場合、実務負担を減らすために次回請求で調整することがあります。ただし、

実態と異なる会計上の処理は、「粉飾決算」となり得ます。自社としては効率的に処理したいだけかもしれませんが、問題行為であることを認識しなければなりません(特に決算月をまたぐ場合)。

3)未入金の場合の催促

もし、支払期日になっても入金がない場合は、速やかに取引先に催促の連絡をします。手違いのケースが多く、通常は即座に処理してもらえるのですが、最悪の事態は、こうしたありがちなシーンから始まるのも事実です。そのため、

  • 具体的な支払期日を明示せずに支払猶予を求められる
  • 催促メールを送ったが返信がなかなか来ない
  • 電話をしたが、いつもと様子が違った

といったように、違和感を覚えることがあれば要注意です。具体的にどのような対応を取るかは状況次第ですが、少しモードを変える必要があり、

状況によっては取引継続の有無を判断したり、債権債務(売掛債権と仕入債務)を相殺したりすること

になるかもしれません。

3 取引状況を把握する

取引の規模を確認します。例えば複数の部門と取引している取引先がある場合は、全体だけではなく部門ごとにも把握するのが理想的です。また、継続取引をしている場合は、足元の状況だけではなく、将来発生する可能性のある債権債務についても把握します。その上で、以下の情報をまとめておきます。

  • 取引先との間で発生している債権債務の額
  • 取引先との間で発生している債権債務の弁済期
  • 担保を設定しているか

取引先との間で債権債務が発生していれば、いざというときに相殺して、事実上債権を回収することができます。また、契約において「期限の利益喪失条項」を定めておけば、支払期日前でも債権回収ができることがあります。期限の利益喪失条項とは、支払遅延等が生じた場合に、

債務者に本来の支払期日よりも前に債務を弁済させる義務を生じさせる条項

です。

この他、取引先が有する不動産や動産などの資産、取引のある金融機関、取引先がどういった会社と取引をしているのかについて把握します。これにより取引先の体力等が推測できるので、取引を継続するか否かの重要な判断材料となります。

以上(2025年7月更新)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)

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隠れ脱水と交通事故リスク(2025/7号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

今年の夏も猛暑が予想されています。夏の高温多湿下では、熱中症のリスクが高まります。

2025年6月1日施行の改正労働安全衛生規則により、熱中症対策が義務付けられました。事業者には、より安全で健康的な職場環境の維持が求められています。

熱中症を引き起こす原因はいくつかありますが、今号ではその一つである「隠れ脱水」について確認していきます。

隠れ脱水と交通事故リスク

1 熱中症を引き起こす隠れ脱水に注意!

夏場の車内は、エアコンを停止するとすぐに高温になってしまうという経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

暑さ指数(WBGT)※1 は熱中症予防を目的に提案されたものですが、これが28を超えると熱中症リスクが高まります(図1)。車内はエアコン停止の15分後に暑さ指数が危険レベルに達することもあります※2。

暑さ指数と熱中症患者発生率との関係

出典:環境省「熱中症予防情報サイト」/暑さ指数(WBGT)について学ぼうhttps://www.wbgt.env.go.jp/wbgt_lp.php(2025年6月12日閲覧)

一方で、エアコンが効いている車内でも自覚のないまま脱水症状になってしまうことがあります。これを「隠れ脱水」と呼び、熱中症につながるため注意が必要です。

運転中は、トイレなどの心配から水分摂取を控えてしまう傾向があります。また、体感温度が下がっているため、喉の渇きを感じづらくなります。これらは隠れ脱水を招く要因となります。

隠れ脱水になると、体内の水分不足により血液の流れを悪化させ、熱がこもりやすくなります(図2)。その結果、体温が下がりにくくなり、熱中症のリスクが高まります。

熱が体内にこもりやすくなる「隠れ脱水」

※1 暑さ指数(WBGT)=熱中症指数 とは
熱中症の危険度を判断する値として気温、湿度、日射・輻射の周辺熱環境を考慮した指数
出典:環境省「熱中症予防情報サイト」/暑さ指数とは?https://www.wbgt.env.go.jp/wbgt.php(2025年6月12日閲覧)

※2 出典:一般社団法人日本自動車連盟 JAFユーザーテスト「真夏の車内温度」
https://jaf.or.jp/common/safety-drive/car-learning/user-test/temperature/summer(2025年6月12日閲覧)

2 隠れ脱水に気付くには

気がつかないうちに脱水症状が進むと、熱中症につながります。それだけでなく意識障害などで重大事故を起こす可能性がありますので、できるだけ早めにその発症に気付くことが重要です。初期症状が出た場合や、その他体調に異変を感じたら、すぐに運転を中止し、医者にかかる、ためらわずに周囲に助けを求める、などの対応を行ってください。

~隠れ脱水の主な症状~

【初期】

  • 集中力・記憶力・認知機能の低下
  • 体がだるく感じる
  • 肌がべたつく
  • ふらつく

【中等度】

  • 頭痛、胃のむかつき

【高度】

  • 意識障害や痙攣

隠れ脱水症のチェック方法

出典:厚生労働省「働く人の今すぐ使える熱中症ガイド」
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001088384.pdf(2025年6月12日閲覧)

3 隠れ脱水を防ぐために

こまめな水分・塩分の補給

喉が渇く前に意識的に水分補給を心がけましょう。目安は1~2時間に100~200mlで、水分と一緒に塩分の補給をすることも大切です。スポーツドリンクや経口補水液は、水分と塩分を同時に補給ができるのでおすすめです。利尿作用のあるコーヒーや緑茶などカフェイン入りの飲料は避けましょう。

こまめな水分・塩分の補給

適切な休憩

疲労を感じる前に、1~2時間に1回、15分程度の休憩を取りましょう。疲れていなくても、早めに休憩を取ることが大切です。休憩時には、車外に出て軽いストレッチをしたり、体を動かしたりすることも有効です。

特に高齢の方は、体温調節機能が低下しているため注意が必要です。なお、運転中の体調の変化は気づきにくいため、ウェアラブル機器※3によるアラート通知を利用することも有効です。

夏場は、これらの点に注意して隠れ脱水を防ぎ、安全な運転を心がけてください。

※3 SOMPOリスクマネジメント(株) 熱中症管理サービス『みまもりふくろう』
https://www.sompo-rc.co.jp/services/view/184

以上(2025年7月)

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