【販路開拓】 第三者と提携して販路を拡大する方法~業務提携、販売代理

新しい販売先を獲得して売上を伸ばしたい!

販路拡大は多くの企業にとって重要な取り組みです。販路拡大の方法はさまざまですが、この記事では、

  • 業務提携:提携先と互いの強みを発揮しながら新しい顧客層を開拓する
  • 販売代理店契約:提携先に自社の商品を販売してもらう

を取り上げたいと思います。いずれもうまく機能すれば大きな効果を期待できる一方、相手は第三者なので、利害が完全に一致することはなく、常に一定のリスクを伴います。

そのため、業務提携や販売代理店を検討する際は、こうした取り組みの特徴を知った上で、契約によってリスクを排除していく必要があります。

業務提携や販売代理店に関する記事は数多くありますが、この記事では弁護士がリスクの観点から業務提携や販売代理店契約を考えます。

1 「業務提携」で販路を拡大する

1)業務提携のメリットとデメリット

業務提携のメリットは、これまで接点がなかった業界、地域、世代への販売機会が得られることです。また、互いの強みを融合して新規事業を開発することもできます。

一方、業務提携にはデメリットもあります。提携先とノウハウや顧客情報などを共有することがありますが、これらが適切に利用されないと漏えいなどのリスクが生じます。また、提携先の不祥事が自社のブランドを損なう恐れもあります。

以上を踏まえて、業務提携を進める際は以下の点に注意しましょう。

2)提携先を選定する際の検討事項

1.信頼性の確認

提携先とトラブルになったり、提携先が不祥事を起こしたりすると、自社のブランドにも悪影響が及ぶことがあります。そのため、

  • 提携先は、これまでにどのような事業を行ってきたか
  • 提携先の取引先はどういったところか
  • 提携先が、これまで取引先とトラブルを起こしていないか
  • 提携先が行政機関から指導、勧告などを受けたことがないか

などを事前に確認しておきましょう。

2.経営方針への共感

業務提携をしても、すぐには双方の売上向上につながらなかったり、シナジー効果を発揮できなかったりするケースはよくあります。そのような局面で、例えば、

  • 中期的に売上や利益をどのように伸ばしていきたいのか
  • 提携予定の事業についてどのような成長曲線を考えているのか

といった点を提携先と共有できていなければ、良好な関係は続きません。互いの経営方針や中期的な戦略を確認し、それに共感できるのかを確認しましょう。

3.シナジー効果とリスクの評価

前述した通り、ノウハウや顧客情報などの秘密情報を提供することがありますが、これにはリスクがあります。そのため、

何となく起爆剤になりそう、良い方向に進みそう

などの勢いで進めるのではなく、リスクに見合うシナジー効果があるかを検討し、安易な業務提携や秘密情報の提供は控えましょう。

3)契約段階の留意事項

1.業務内容と役割の明確化

実務上、業務内容と役割がきちんと協議できているかどうかが、業務提携の成否を決めるといっても過言ではありません。すなわち、

  • どのような業務について、どういった目的で提携するのか
  • それぞれがどのような役割・責任を果たすのか

を明確にすることが大切です。これにより、提携先と業務提携の期待値を共有することができ、関係が安定しやすくなります。

2.売上・利益分配の合意

業務提携に関連して生まれた売上や利益について、

  • どこまでを提携先に開示するか
  • どのような方法で分配するか

をルール化しましょう。これによって「お金」でもめることを回避することができます。

3.知的財産権等の取り扱いの明確化

業務提携に当たって、一方の当事者が保有する商標や特許などの知的財産権を共同で使用するケースがあります。そのような場合、当該知的財産権について、どのような方法で使用許諾を行うのかなどを決めておく必要があります。

4.出口戦略の協議

業務提携を開始する当初は提携先との関係も良好で、提携終了時のことを決めないことがあります。しかし、業務提携で当初想定していたシナジー効果を発揮できないことは珍しくありませんし、業務提携後、相手の要求が当初と変わってくることもあり得ます。こうした場合、業務提携を終了せざるを得なくなるかもしれませんから、そうした事態を想定し、出口戦略を決めておくことは重要です。具体的には以下の点を決めておきましょう。

  • 提携期間をどの程度とするか、当該期間が経過した場合の更新をどうするか
  • どのような事情があった場合に、提携契約を中途で終了させるか
  • 提携契約が終了した場合、共有していた秘密情報をどのように返還・破棄するか
  • 提携契約終了後においても提携先が自社の秘密情報を用いて事業を展開している場合、どのような損害賠償請求ができるようにしておくか
  • 提携関係を維持するために初期投資をしていたにもかかわらず中途で終了することになった場合、当該初期投資額について提携先に負担を求めることができるか

2 「販売代理店契約」で販路を拡大する

1)販売代理店契約のメリットとデメリット

販売代理店契約のメリットは、第三者が有するネットワークや販売網を利用できることです。これは、業務提携のメリットとして紹介した「これまで接点がなかった業界、地域、世代への販売機会が得られる」ことと同じですが、販売代理という業務に特化するため、「販売」に対する期待度がさらに高まります。

一方、デメリットもあります。販売代理店に過度に依存しすぎると条件交渉が難しくなって自社が利益を上げにくくなったり、販売代理店に気をつかって逆に販路を拡大しにくくなったりする場合などがあります。
このあたりを押さえつつ、販売代理店契約について、もう少し詳しくみていきましょう。

2)販売代理店契約の種類

販売代理店契約には、大きく以下の2つの方式があります。

(図表)【販売代理店契約の種類】

方式 ディストリビューター方式 エージェント方式
内容 「販売店契約」と呼ばれることもある方式で、提携先が商品やサービスを自ら買い取り、それを第三者に販売する方式 「代理店契約」や「販売委託契約」と呼ばれることもある方式で、提携先は商品を自ら買い取ることはなく、自社に代わって、商品やサービスを第三者に販売する方式
取引フロー 自社→提携先→第三者 自社→第三者
メリット 提携先に商品やサービスを販売するため、その時点で売上が確保でき、在庫リスクを回避できる。 一般的にディストリビューター方式よりも提携先に支払う手数料は少なくて済む。自社が第三者への販売価格を決定することができるため、市場価格をコントロールすることができる。
デメリット 第三者に販売する価格決定権が自社ではなく、提携先にあるため、自社商品・サービスの市場価格をコントロールできない。 提携先が第三者に販売をしない限り、売上が確保できず、在庫リスクがある。

(出所:筆者作成)

このように両者は一長一短です。経営方針によって最適な方式は変わってくるため、慎重に検討しましょう。

3)販売代理店契約を締結するに当たって気を付けるべき事項

販売代理店に過度に依存しないようにしましょう。もし、特定の販売代理店への依存が強くなりすぎると、

  • エージェント方式であっても実質的に第三者に販売する価格を決定できない
  • 販売代理店に支払う手数料が高くてもそれを受け入れざるを得ない

など、多く販売してもなかなか利益が出ない体質の会社になってしまう恐れがあります。ですから、双方が良い意味でお互いにけん制し合いながら取引を行うことが大切です。

販売代理店契約の交渉を進める際に注意しておきたいポイントは以下の通りです。

1.独占販売権の付与について検討する

販売代理店は、相応の費用をかけて販売網を構築していくことになるので、商品やサービスを独占的に取り扱いたいと主張してくることがあります。独占販売権が認められれば、提携先は資本を投下しやすくなり、商品販売のモチベーションが上がるので当然です。

もっとも、その販売代理店が本当に販売実績を上げてくれればよいのですが、仮に見込み違いで期待するような商品販売ができなかった場合、逆に自社の機会損失が大きくなります。そのため、独占販売権まで付与するかどうかは、慎重に考えなければなりません。

仮に独占販売権を付与する場合、自社にとって見込み違いで大きな機会損失が生じないように、以下の点を条件にしておくことが考えられます。

2.商品や販売地域の限定などについて検討する

販売代理店から、「商品やサービスの販売をすべて任せてほしい。御社では直接販売しないでほしい」と提案されることがあります。しかし、そうなると自社ECサイトを経由した販売などもできなくなります。また、提携先への依存が大きくなり過ぎると、提携先との関係性が悪化した際のリスクが大きくなります。そのため、直接販売権まで放棄して販売代理店契約を締結する場合には相当の注意が必要です。

また、独占販売権を付与する場合には商品全てではなく特定の商品とする、地域を限定するなどの条件を付けることも考えられます。あるいは、独占販売権を付与する一方で、販売代理店に購入してもらう最低数量を設定する場合もあります。

3.競合品の取り扱い禁止

独占販売権を付与する場合、販売代理店に自社商品の販売に注力する「覚悟」を決めてもらうために、競合品の取り扱いを禁止する場合があります。販売代理店としては、競合品の取り扱いの禁止は大きなデメリットになり得るため、この点は販売代理店契約の条件交渉で大きな論点になりがちです。

4)自社のブランドイメージの統一化を図る

販売代理店契約を締結すると、エンドユーザーへのアプローチは、販売代理店が行います。そのため、提携先に自社商品の写真やブランドロゴなどについて、幅広く使用を許諾することになります。これらの使用方法をきちんと決めておかなければ、自社の想定と異なる商品の販促活動やブランドロゴの使用によって、エンドユーザーが受ける自社のイメージが変わってしまう恐れがあるので注意しましょう。必要に応じて自社商品の写真やブランドロゴ等の使用方法を取り決める必要もあるでしょう。

5)契約終了時の取り扱いを決めておく

業務提携と同じように、販売代理店契約においても出口戦略を協議し、すり合わせをしておくことが重要です。

以上のように、販売代理店との提携は、自社の利益とリスクを適切に管理することが成功への鍵となります。

以上

(執筆 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2023年12月8日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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【中堅社員のスピーチ例】ライト兄弟を成功に導いた「ライバル」

いよいよ12月になりました。今日は飛行機の発明で知られる、米国のライト兄弟の話をします。なぜ12月にライト兄弟なのかというと、今から120年前の1903年12月17日、この2人が世界初とされる、動力飛行機による飛行を成功させたからです。実は「世界初」という部分については諸説あるようですが、いずれにせよ「空気よりも重い機械を空に飛ばす」という、当時としては考えられないレベルの偉業を成し遂げた兄弟です。

ライト兄弟の本業は自転車屋で、元々は飛行機とは特に縁のない人たちでした。ですが、自転車の小売りや修理を請け負う傍ら、自分たちのオリジナル製品を作って成功を収めるなど、乗り物への造詣が深かった彼らは、あるときドイツの航空研究家オットー・リリエンタールがグライダーによる飛行を成功させたニュースを耳にし、空の世界に興味を持ちます。その後、リリエンタールが実験中に墜落死したことを知ると、「高い所から風に乗るグライダーではなく、平地から自力で飛び上がれる乗り物を作れないか」と考え、飛行機の発明に本格的に乗り出したのです。

まずはリリエンタールをはじめとする先駆者たちの航空資料などを基に飛行の基本を勉強するところから始め、さらに自分たちの本分である自転車を改良した装置を使って空気の抵抗を測定したり、自転車の部品を使って数百種類の翼の模型を作ったりと、飛行機を飛ばすための研究を地道に続けました。

そして、何百回にも及ぶ飛行実験のデータを蓄積し続け、とうとう1903年12月17日、ライト兄弟は12馬力のエンジンを搭載した飛行機「ライト・フライヤー」を空に飛ばすことに成功します。彼らが飛行機の発明に乗り出してから、約7年の歳月が過ぎていました。なぜ、彼らは最後まで諦めなかったのか。色々な考え方があるでしょうが、私はライト兄弟にとって負けたくない「ライバル」がいたからだと思っています。

それは、先ほどの話にもあったリリエンタールです。彼は、墜落による非業の死を遂げながらも、亡くなる直前に「成功のためには、犠牲を払わなければならない」という趣旨の言葉を残しています。リリエンタールは自分の死を悲観せず、最後まで人類が空を飛ぶ未来に思いを馳せていたのです。ライト兄弟は彼の死をきっかけに飛行機の発明に本格的に乗り出していますから、もしかしたら失敗でくじけそうになったとき、「リリエンタールだったらここで弱音は吐かない。我々も負けてたまるか」と、自分たちを奮い立たせていたのかもしれません。

誰かは内緒ですが、私にもこの会社に負けたくないライバルがいます。自分がくじけそうになったとき、「あの人だったらここで弱音は吐かない」と自分を奮い立たせるようにしています。もし皆さんの中に、私のことをそのように思っている人がいてくれたらうれしい限りです。これからもいい仲間、いいライバルでいてください。

以上(2023年12月)

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画像:Mariko Mitsuda

全国各地に広がる「子ども食堂」に企業はどんな支援ができる?

書いてあること

  • 主な読者:子ども食堂の支援を通して地域貢献などを検討している経営者
  • 課題:企業ができる支援策や、支援をする際の相談先を知りたい
  • 解決策:物品の寄付以外にも、場所の貸し出しや学習体験の提供といった支援策がある。子ども食堂を支援するNPO法人や地方自治体が相談先となる

1 全国各地で広がる子ども食堂 その役割は?

子どもが1人でも行けて、無料あるいは低価格でご飯が食べられる「子ども食堂」。発祥は、2012年に東京都大田区で「気まぐれ八百屋だんだん」を経営していた近藤博子氏が、家庭の事情で食事が作れない家の子どもに対して、「だんだんワンコインこども食堂」として低価格で夕食を提供したことだとされます。この活動が東京都豊島区で子どもを支援する「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」の栗林知絵子氏の目に留まり、子ども食堂を知ってもらうための講演会やシンポジウムの全国ツアーが行われました。

加えて、子どもの孤食問題の認知拡大、コロナ禍で経済的に困窮する家庭が増えたことなども背景に、子ども食堂は全国各地に広まっていきました。全国こども食堂支援センター・むすびえの「こども?堂全国箇所数調査2022結果」によると、2018年には2286カ所だった子ども食堂は、2022年に7363カ所となっています。

子ども食堂の箇所数の推移"

昨今は国や地方自治体が予算を投入したり、地域の子ども食堂をリストアップしたりして、寄付先を募るといった支援の動きもあります。しかし、元々は民間発の取り組みなので、費用や食材などの調達、開催場所の確保が課題であり、企業の支援が求められています。

一方、別の視点では、

子ども食堂を「食事の提供だけでなく、地域の大人と子どもが交流し、お互いに経験を広げることができる場所」

と捉え、子ども食堂と共同してイベントを開催し、地域貢献や企業の人材育成につなげるなどの新しい支援の形に取り組む企業も出てきています。

この記事では、子ども食堂への支援に取り組む企業の事例や、企業が子ども食堂への支援を検討する際に相談、問い合わせ先となる窓口団体などを紹介していきます。

2 子ども食堂の課題・企業による子ども食堂への支援事例

1)子ども食堂の課題

「こども食堂の現状&困りごとアンケートvol.8 結果報告」によると、子ども食堂での困りごと(上位10回答)は次の通りです。このアンケートは、全国こども食堂支援センター・むすびえが、全国各地の「子ども食堂の地域ネットワーク」および「子ども食堂ネットワーク」とつながる子ども食堂を対象に行ったものです。

子ども食堂での困りごと

子ども食堂の課題はさまざまですが、例えば、運営資金やスタッフ、会場の不足などは企業による支援の余地があるといえます。企業による具体的な支援策としては、次のようなものが挙げられます。

企業による子ども食堂への支援策の例

以降で実際の企業事例を見ていきましょう。

2)子ども食堂で出前授業を実施:エナリス(東京都千代田区)

電力の需給管理や電力卸取引などを手掛ける同社では、東京都港区にある「みなと子ども食堂」の中で開催している学習会で出前授業を開催しました。

授業は電力の需要予測をテーマに、電気に関する基礎知識を説明した後、自宅、コンビニ、学校で一日の中でいつ、どのようなときに電気を使うかのワークを行いました。

出前授業によって子どもに新しい興味が生まれ、子どもの未来や電力業界の成長の芽につなげることが狙いとしています。

3)自販機の設置、売上で子ども食堂を支援:ダイドードリンコ(大阪府大阪市)

同社では、売上金の一部を地域の子ども食堂に寄付できる寄付型の自動販売機を展開しています。同社の自販機設置について解説するウェブサイトでは自治体や企業での自販機導入事例を紹介しています。導入した企業によると、地域貢献の方法として寄付型の自販機の設置が検討しやすいことや、飲料を購入するだけで気軽に地域貢献につながるため、社員に意識付けができることがメリットといいます。

また、自治体によっては同社と協定を締結している場所もあります。例えば、愛媛県新居浜市では「こども食堂等子どもの居場所を支援するための協働に関する協定書」を締結し、地元企業に自販機を設置してもらうことで子ども食堂への支援に取り組んでいます。

4)飲食店と連携して子ども食堂を推進:テンポイノベーション(東京都新宿区)

飲食店物件に特化した不動産業を手掛ける同社では、東京都内の飲食店で子ども食堂を開催する取り組みである「お店のこども食堂『みせしょく』」を、2019年から取引先の飲食店と共同で展開しています。

子ども食堂は、地域のボランティアが運営するケースが一般的なため、食材の調達、開催場所の確保、開催の告知などの負担が大きく、継続して開催することが難しくなる場合があります。一方で、飲食店で子ども食堂を開催することによって、食材の調達や開催場所の確保といった課題を解決でき、いつ、どこでも子どもがおなかと心を満たせる環境が整うといったメリットがあります。

なお、子ども食堂の活動資金は同社の企業利益から充てられており、2023年8月末時点で57店舗の参加実績があります。

5)居酒屋でチャリティーメニューを展開:ファイブグループ(東京都武蔵野市)

居酒屋・ダイニング経営を手掛ける同社では、吉祥寺で子ども食堂を定期開催しています。

店舗に来店した顧客が「子ども食事券」を購入して店舗に置き、その食事券を使って子どもは無料で食事を摂ることができるという仕組みになっています。

また、活動費は顧客が購入する食事券以外にも、グループ店舗で展開しているチャリティーメニューの売上金額を充てています。

子ども食堂の活動を通じて、リピーターの来客が増えて店舗の売上に貢献したり、社会貢献の取り組みに共感したとして、入社を希望する学生が増えて人材確保につながったりするなど、地域貢献に限らず企業にとってもメリットが大きい事例といえるでしょう。

6)社員寮を子ども食堂の会場として提供:西松建設(東京都港区)

同社では、福岡県大野城市にある社員寮の食堂を子ども食堂の「おおのじょうこども食堂みずほ町」の会場として提供しています。

この子ども食堂はNPO法人チャイルドケアセンターが開催している子ども食堂で、子ども食堂を定期的に開催できる会場が確保できなかったり、食材や備品を保管する場所が無かったりしたという課題をきっかけに、西松建設がチャイルドケアセンターに支援を申し出たことで実現したそうです。

社員寮に外部の団体が入ることのリスク管理は、次のような対応を取っているといいます。

  • 施設のセキュリティ:建物の解錠・施錠は寮の管理人のみが行う
  • 食中毒、ケガなどのトラブル対策:保健所主催の食品衛生管理・食中毒予防関連の研修の受講、参加するスタッフや子どものNPO活動総合保険への加入
  • 運営団体の信頼確保:チャイルドケアセンターが子ども支援や子育て支援に取り組んできた実績を示す資料の確認

7)自社の運営施設で子ども食堂を開催:ラグジュアリー(福岡県福岡市)

賃貸管理や保育園の運営などを手掛ける同社では、同社が運営する「コワーキングサロン&カフェラウンジ 四季のいろ」で子ども食堂を開催しています。子ども食堂では、カレーなどの食事提供と併せて、書道や英会話、プログラミング教室も催しています。

学校の授業では教わらない体験を通じて子どもに学ぶ楽しさを知ってもらうとともに、施設に集まった子ども同士で一緒に学ぶことで、学校外でのコミュニティ作りや友達づくりを支援する狙いがあります。

3 子ども食堂を支援するときの相談、問い合わせ先となる団体

1)全国こども食堂支援センター・むすびえ

全国各地の子ども食堂を支える団体への支援、子ども食堂を応援したい企業・団体との協働事業、こども食堂が全国にどのくらいあるか調べるなどの調査研究を手掛けています。企業・団体が子ども食堂を支援するに当たり、次のような例があります。

  • 社内や施設内への寄付付き自動販売機の設置、古本の寄付
  • 寄付付き商品の企画や、イベントでの売り上げなどを寄付するための支援
  • 食材や備品などの物資、商品を子ども食堂に提供するための仲介
  • 子ども向けの食育、健康教育、アート体験など企業が手掛ける体験プログラムを子ども食堂に提供するための仲介
■全国こども食堂支援センターむすびえ■
https://musubie.org/

2)全国食支援活動協力会

「こども食堂サポートセンター」の運営や、子ども食堂への支援マッチングなどを手掛けています。同団体のウェブサイトでは、企業連携の事例を紹介しており、王将フードサービスによる商品売上代金の寄付や、アサヒ飲料による飲料と絵本の寄付といった事例があります。

■全国食支援活動協力会■
https://mow.jp/

3)地方自治体による子ども食堂の開設・寄付に関する相談窓口

市区町村によっては、ウェブサイト上で子ども食堂の開設や寄付に関する相談窓口をはじめ、その地域内にある子ども食堂の一覧や、どのような支援を必要としているかの情報を公開している場合があります。また、自社で子ども食堂を開設する場合の手続きや開設に伴う助成金制度がある場合もあるので、最寄りの自治体のウェブサイトを確認してみるとよいでしょう。

以上(2024年1月)

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画像:hasegawa risa-Adobe Stock

「解雇」の種類と基本ルール

書いてあること

  • 主な読者:「解雇」の基本的なルールを知りたい経営者
  • 課題:解雇にはさまざまな種類があり、また基準も曖昧なので分かりにくい
  • 解決策:就業規則に定める。会社や社員の状況から解雇が本当に妥当かを検討する

1 解雇のハードルは高い、ルールを押さえて慎重に

「解雇」とは、使用者(会社)が労働契約を一方的に解約することです。多くの会社にとって解雇は身近なものではないですが、雇用の考え方やルールが変化する中で、今後は解雇の在り方も変わっていくのではないかという声があります。例えば、「ジョブ型雇用が浸透していくと、能力が仕事に追いつかない社員を解雇する会社が増えるのではないか」といった具合です。

ただ、注意しておかなければならないのは、

少なくとも今の日本の法制度では、解雇が認められるハードルは高く、慎重に手続きを進めないと、社員と訴訟などのトラブルになるリスクがあること

です。トラブルを防ぐには、次のような解雇に関する基本ルールを押さえる必要があります。

  1. 解雇の種類(普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の3種類)
  2. 解雇全般に共通する基本的なルール(解雇権濫用法理など)

2 普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の違い

1)普通解雇

普通解雇とは、

病気やけが、能力不足などを理由に、社員を解雇すること

をいいます。「社員が会社に対し、労務を提供できなくなった場合に行われる」というのがポイントです。普通解雇が行われる主なケースは次の通りです。

  • 社員が病気やけがで就業不能になった
  • 社員の勤務成績が会社の求める水準に達しない状態が続いた

2)整理解雇

整理解雇とは、

経営危機の状態にある会社が、余剰人員の削減を目的として社員を解雇すること

です。「社員の能力不足などに関係なく、経営上の理由で実施される」というのがポイントです。整理解雇が行われる主なケースは次の通りです。

  • 会社の収益が不況による販売不振で著しく悪化した
  • 会社の設備などが災害で大きく損傷し、事業の縮小を余儀なくされた

3)懲戒解雇

懲戒解雇とは、

極めて悪質な規律違反や非行があったときに、就業規則にのっとり、懲戒処分として社員を解雇すること

です。「重大な問題行為をした社員を罰する目的で行われる」というのがポイントです。懲戒解雇が行われる主なケースは次の通りです。

  • 社員が会社の名誉を害する犯罪行為や重大なハラスメント行為をした
  • 社員が重要な経歴を詐称して入社した
  • 社員が正当な理由なく、無断で遅刻、早退、欠勤を繰り返した

3 解雇の基本的なルール

1)解雇権濫用法理

解雇権濫用法理とは、

「客観的に合理的な理由」を欠き、「社会通念上相当」であると認められない場合、解雇は不当解雇として無効になるというルール

です。この解雇権濫用法理は労働契約法第16条に明文化されています。

1.客観的に合理的な理由

客観的に合理的な理由とは、

客観的に見て解雇はやむを得ないといえるだけの具体的理由のこと

です。例えば、社員の著しい能力不足、契約義務違反、経営上の必要性などがそうです。なお、多くの裁判例では、「就業規則の解雇事由に該当するかどうか」が、解雇の客観性・合理性を肯定する重要な基準になっています。つまり、就業規則に解雇事由に関する規定がないと、不当解雇と判断されるリスクが高いということです。

2.社会通念上相当

社会通念上相当とは、

社員の行為や状況に照らして、解雇が妥当であるかということ

です。例えば、「たった1回の少額な納品ミスで能力不足と判断し、解雇する」というのは厳し過ぎて、社会通念上相当とはいえません。

2)解雇ができない期間

会社は次の期間中、社員を解雇することができません。

  1. 業務上の病気やけがで療養するために休業する期間と、休業終了後30日間
  2. 産前産後休業の期間と、休業終了後30日間(女性社員のみ)

ただし、1.の場合、療養開始後3年を経過しても治癒しなければ、平均賃金の1200日分の「打切補償」を支払うことで、解雇制限が解除されます。また、天災事変などによって事業の継続が不可能となった場合も同様です。なお、平均賃金とは、算定事由発生日(けがをした日や病気が判明した日など)以前の直近3カ月間の賃金総額(賞与等を除く)を、算定事由発生日以前の直近3カ月間の総日数で除した金額です。

3)解雇予告と解雇予告手当

原則として、解雇は事前に予告して行わなければなりません。これを「解雇予告」といいます。解雇予告は少なくとも30日前にしなければなりませんが、「解雇予告手当(平均賃金)」を支払えば、その日数分、解雇予告期間を短縮できます。

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また、例外として、懲戒解雇など社員に帰責性があって解雇する場合や、天災事変により事業の継続が不可能となった場合、解雇予告なしに解雇することが可能ですが、その際は会社を管轄する労働基準監督署の事後認定を受けなければなりません。

4)即時解雇が認められている社員(例外あり)

次の社員は、解雇予告や解雇予告手当の支払いを経ずに解雇することができます。ただし、一定の条件を満たすようになると、解雇予告などが必要となります。

  1. 日雇いの社員(1カ月を超えて使用された場合を除く)
  2. 2カ月以内の期間を定めて使用される社員(定めた期間を超えて使用された場合を除く)
  3. 4カ月以内の期間を定めて季節的業務に従事する社員(定めた期間を超えて使用された場合を除く)
  4. 試用期間中の社員(14日を超えて使用された場合を除く)

5)原則として契約期間中の解雇は認められない

パート等の有期契約社員を契約期間の中途で解雇することは、やむを得ない事由(天変地異や会社の倒産、パート等の重大な非違行為など)がある場合を除いて認められません。解雇する場合も、会社に過失があれば、損害賠償責任を負う恐れがあります。

6)その他

この他、労働基準法や育児・介護休業法、男女雇用機会均等法により、

  • 国籍、信条、社会的身分を理由とした解雇
  • 妊娠や出産などを理由とする解雇
  • 育児休業・介護休業などを取得したことを理由とする解雇

が禁止されています。

以上(2023年12月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

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画像:Maxx-Studio-shutterstock

経営危機でもハードルが高い整理解雇を成立させるために必要な4つの要素

書いてあること

  • 主な読者:経営状態が厳しく、社員の整理解雇を検討する経営者
  • 課題:整理解雇は有効性の判断が厳しい。対象となる社員のためにしっかりと対応したい
  • 解決策:整理解雇の成立を左右する「4要素」を押さえつつ、適法に行った証拠を残す

1 経営危機下に行う「整理解雇」

整理解雇とは、

「会社が経営危機に陥った」「特定の事業部門を廃止することになった」など、経営上の理由から、余剰人員を削減するために行う解雇(リストラ)

です。整理解雇で注意しなければならないのは、

社員側に落ち度がない解雇なので、普通解雇(能力不足などを理由とした解雇)よりも、「有効」と認められるハードルが高い

という点です。裁判などで整理解雇が「無効」になったケースは少なくなく、会社が敗訴した場合、解雇した社員から係争中の賃金の支払いや損害賠償を求められることもあります。

こうしたトラブルを防止する上でのカギとなるのが、

「整理解雇の4要素」と呼ばれる、整理解雇の成立を左右する4つの要素

です。経営者にとっても経営危機による整理解雇は無念であり、だからこそ実施する際は適法に進めなければなりません。以降で4要素の考え方を詳しく紹介するので、確認してみましょう。

なお、4要素を押さえることは大切ですが、実務では訴訟になった場合などに備え、「適法に整理解雇を行った」といえる証拠を残しておくことも重要です。次のような証拠がないと、裁判で「整理解雇ついて十分に検討していない」と判断される恐れがあるので注意しましょう。

  • 人員削減の必要性があると判断した経営会議の議事録、整理解雇の計画書
  • 解雇を回避するための措置(経費削減、人件費削減、配置転換・出向、希望退職の提案等)に関する検討や実施の記録
  • 被解雇者の選定基準が分かる資料、人事考課表
  • 対象社員、労働組合への説明に用いた資料、協議の議事録

2 整理解雇の成立を左右する「4要素」

前述した通り、整理解雇は社員側に落ち度のない解雇であるため、裁判では次の4要素を考慮し、普通解雇(能力不足などを理由とした解雇)よりも、解雇が有効かを厳しく判断します。

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過去には、これらを「4要件」として「どれか1つでも欠ければ整理解雇は無効になる」と判断した裁判例がありますが、最近は「4要素を総合的に考慮して妥当といえなければ無効になる」という考え方にシフトしています。

3 要素1:人員削減の必要性

人員削減措置が経営上の必要性に基づいているかを判断します。人員削減の必要性がどの程度あるかがポイントです。レベルは次の4つに分けられ、1.が最も必要性が高く、4.が最も低くなります。

  1. 「倒産必至」の状態
  2. 「客観的に高度の経営危機」下にある状態
  3. 「会社の合理的運営上やむを得ない必要性」がある状態
  4. 「経営方針の変更等により余剰人員が生じる」状態

過去には、1.の「倒産必至」の状態でなければ、人員削減の必要性は認められないとした裁判例がありますが、最近は認められる範囲が広がっています。その代わり、人員削減の必要性のレベルに応じて、「要素2:解雇回避努力義務の履行」のレベルが変わってきます(詳細は後述)。

人員削減の必要性が否定される典型例は、(特に1.の「倒産必至」、2.の「客観的に高度の経営危機」にある状態で)人員削減を行いながら、次のような矛盾する行為をした場合です。

  • 大幅な賃上げを実施した場合
  • 多数の新規採用を実施した場合
  • 高額な配当を実施した場合

4 要素2:解雇回避努力義務の履行

整理解雇を回避する努力を尽くしているかを判断します。整理解雇前に次の3つを検討・実施しているかがポイントです。

  1. 経費の削減(広告費、交際費などの削減)」
  2. 人件費の削減(役員報酬の削減、残業削減、昇給停止など)
  3. 解雇回避措置(新規、中途採用の停止・縮小、配置転換・出向・転籍の実施、提案、希望退職者の募集など)

こうした手段を講じずに、いきなり整理解雇に踏み切っても、基本的には無効となります。ただし、前述した通り、「要素1:人員削減の必要性」のレベルに応じて、会社に求められる解雇回避努力義務の履行のレベルは変わってきます。

例えば、1.の「経費の削減」や2.の「人件費の削減」をしても経営危機から立ち直れない場合、3.の「解雇回避措置」は必ずしも求められません。逆に会社が経営危機の状態になければ、3.の措置は強く求められます。

5 要素3:人選の合理性

被解雇者を選定するための合理的な基準を設定し、公正に適用しているかを判断します。被解雇者の選定基準が、次の3つを満たしているかがポイントです。

  1. 明示的な基準設定(選定基準が社員に明示されているか)
  2. 基準自体の合理性(整理解雇がやむを得ないといえる選定基準になっているか)
  3. 基準適用の相当性(選定基準が公正に適用されているか)

1.の「明示的な基準設定」については、選定基準が社員に明示されている場合、人選は合理的だと判断されやすくなります。

2.の「基準自体の合理性」については、勤務成績(欠勤日数、遅刻回数など)、会社への貢献度(勤続年数など)、再就職の可能性を踏まえた経済的打撃の低さ(例:対象年齢が30歳以下)などを基準にすると、人選は合理的だと判断されやすくなります。

3.の「基準適用の相当性」については、合理的な選定基準があるのに、気に入らない社員を整理解雇の対象にするなど恣意的な運用をした場合、整理解雇は無効と判断されやすくなります。

6 要素4:手続きの妥当性

被解雇者などに十分な時間をかけて丁寧な説明を行ったかを判断します。整理解雇の前に、次の2つを実施しているかがポイントです(2.は労働組合がある場合のみ)。

  1. 被解雇者に対する整理解雇の必要性と時期、希望、方法についての説明、協議
  2. 労働組合に対する整理解雇の必要性と時期、希望、方法についての説明、協議

1.も2.も、整理解雇の有効性に与える影響が小さいとされています。ですが、整理解雇の有効性の判断は分かりにくいですし、訴訟などのトラブルを事前に回避するという意味でも実施しておいたほうがよいでしょう。

特に「要素3:人選の合理性」については、「合理的な基準」の判断が難しいので、そこで社員の納得が得られなくても、説明、協議によって会社の誠意を見せるようにします。また、「要素1:人員削減の必要性」が低いような場合、配置転換の意向も確認しておくことも重要です。

なお、労働組合との労働協約の中に「整理解雇についての協議条項」が定められている場合、協議事項に反する整理解雇は認められないので、労働組合がある会社は注意が必要です。

以上(2023年12月更新)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 堀田陽平)

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画像:Halfpoint-Adobe Stock

うつ病やハラスメントなどケース別 トラブルになりにくい「解雇」の進め方

書いてあること

  • 主な読者:解雇についてトラブルになりがちなポイントを知っておきたい経営者
  • 課題:解雇の基本的なルールは理解しているが、具体的に何が危険なのかが分からない
  • 解決策:解雇のシチュエーション別にトラブル回避のポイントを押さえる

1 解雇の種類ごとにトラブル回避のポイントがある

「解雇」は、使用者(会社)が労働契約を一方的に解約するという特性上、労使トラブルが起きやすい分野です。解雇の基本的なルールは労働契約法や労働基準法に定められていますが、実際にトラブルを回避するためのポイントは、

  1. 普通解雇:病気やけが、能力不足などを理由とした解雇
  2. 整理解雇:経営危機の状態にある会社が、余剰人員を削減するために行う解雇
  3. 懲戒解雇:極めて悪質な規律違反や非行があったときに行う、懲戒処分としての解雇

のそれぞれで異なります。以降で解雇の種類別に、トラブル回避のポイントを紹介します。

2 普通解雇をめぐるトラブルを回避するには?

1)社員が病気やけがで働けなくなり、休職期間が終わっても復職できなかった場合

多くの会社は、社員が私傷病(プライベートの病気やけが)で働けなくなった場合、一定期間労働を免除する「休職制度」を設けています。就業規則で定める休職期間を超えても社員が復職できない場合、解雇を検討するのが一般的です(就業規則に「復職できない場合、自然退職となる(自動的に労働契約が終了する)」などの定めがある場合を除く)。ただし、その際、

  1. 復職が可能なのに、休職期間満了を理由に解雇する
  2. 長時間労働やハラスメントでうつ病になった社員を、休職期間満了を理由に解雇する

などの対応をすると、不当解雇になる恐れがあります。

1.については、医師が復職できると言っているのに、会社が復職を認めない場合などに不当解雇になる恐れがあります。医師の意見を尊重し、慎重に復職の可否を判断する必要があります。

2.については、うつ病が労災認定されると、業務上の事由による病気ということで解雇制限(休業期間中とその後30日間は解雇が認められない)が掛かります。うつ病の社員に休職制度を適用する場合、長時間労働やハラスメントでうつ病になった可能性も考慮して休職させ、労災認定を受けたときは、「休職」扱いから「業務上の事由による休業」扱いに変更します。

2)社員の勤務成績が会社の求める水準に達しない状態が続いた場合

能力不足から勤務成績が著しく低い社員を普通解雇にする場合、

  1. 特定の能力を期待したわけではない社員を、いきなり解雇する
  2. 期待していた能力の不足と関係のない事情で解雇する

などの対応をすると、不当解雇になる恐れがあります。

1.については、専門職でない一般社員や新入社員の場合、普通解雇が難しくなります。まずは能力を発揮できる業務に配置換えしたり、教育して能力を引き上げたりするよう努めます。それでも改善の見込みがない場合、初めて普通解雇が認められる余地が出てきます。

2.については、専門職のように一定の能力があることを条件に採用した社員でも、雇用した後で業務内容が変わったなど、能力以外に勤務成績が下がった理由がある場合、普通解雇が難しくなります。ですから、勤務成績が下がったタイミングに着目し、それと近い時期に就業環境の変化がなかったかなどを確認してから、普通解雇を検討します。なお、

2024年4月1日からは、雇用した後で業務内容が変わる可能性がある場合、社員を雇用する時点でその変更の範囲を明示しなければならなくなる

ので注意してください。

3 整理解雇をめぐるトラブルを回避するには?

1)不況による経営不振で、会社の収益が著しく悪化した場合

整理解雇は社員に明確な落ち度がなくても行うことがあるため、裁判では次の「整理解雇の4要素」に照らして、解雇が妥当かを厳しく判断します。

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4要素を全て満たさなければいけないわけではありませんが、整理解雇の4要素を総合的に考慮して整理解雇が妥当といえないと、不当解雇になる恐れがあります。

2)会社の設備などが災害で大きく損傷し、事業の縮小を余儀なくされた場合

1)と同じく、整理解雇の4要素を考慮して、解雇が妥当かを判断します。なお、災害による整理解雇では、労働基準監督署の事後認定を受けることで、解雇予告(または解雇予告手当の支払い)がなくても解雇が認められる場合があります。ただし、認められるのは、

  • 会社の施設・設備に直接的な被害があり、事業を継続できなくなった場合
  • 取引先や鉄道・道路に被害があり、原材料の仕入れや製品の納入などが不可能になり、取引先への依存度、輸送経路の状況、他の代替手段の可能性、災害発生からの期間などを考慮しても、事業を継続できなくなったといえる場合

などに限定されます。

4 懲戒解雇をめぐるトラブルを回避するには?

1)社員が会社の名誉を害する犯罪行為や重大なハラスメント行為をした場合

懲戒解雇については、懲戒処分の程度(処分として重過ぎないか)や有効性をめぐって、会社と社員がトラブルになることが少なくありません。そのため、懲戒解雇は社員が何をしたかに関係なく、次の5点を満たした上で検討する必要があります。

  1. 就業規則に懲戒解雇の事由について明記している
  2. 懲戒解雇がやむを得ないほどの合理性を有している
  3. 解雇の妥当性を証明する証拠がある
  4. 処分前に対象者に弁解の機会を与えるなど、適正な手続きを経ている
  5. これまでに同種の事案があった場合、懲戒解雇より軽い処分が行われていない

特に2.については

社員の問題行為が刑法に抵触するレベルでないのに懲戒解雇すると、不当解雇になる恐れ

があるので、注意が必要です。懲戒解雇が妥当かどうかは個別の事案ごとに判断されるので一概には言えませんが、イメージは、

  • 横領や窃盗、強制わいせつ罪に当たるレベルのセクハラなどの場合、懲戒解雇が認められる余地がある
  • 性的な冗談やしつこく食事に誘うレベルのセクハラなどの場合、懲戒解雇は処分として重過ぎるので基本的に認められない

です。

なお、社員がプライベートで犯罪行為やハラスメント行為をした場合、原則として懲戒解雇は認められません。ただし、会社に著しい損害が出た場合(会社名が公表されて会社の信用を傷付けた、免停で業務を行えなくなったなど)、懲戒解雇が認められる余地が出てきます。

2)社員が重要な経歴を詐称して入社した場合

業務に必要な資格や免許など、重要な経歴を詐称して入社した社員を懲戒解雇にする場合も、

他の業務への配置換えなどを検討せずに、いきなり解雇すると、不当解雇になる恐れ

があります。ただし、会社に著しい損害が出た場合(配置転換をしても社員が能力を発揮できず、代わりの人材を新たに採用しなければならないなど)、懲戒解雇が認められる余地が出てきます。配置転換しても能力が発揮できなければ、懲戒処分よりもハードルの低い普通解雇にするのも1つの方法です。

3)社員が正当な理由なく、無断で遅刻、早退、欠勤を繰り返した場合

無断での遅刻、早退、欠勤は本来許されない行為ですが、

一度仕事をさぼっただけで懲戒解雇にするなどの行き過ぎた対応は、不当解雇になる恐れ

があります。けん責(始末書を提出させ、将来を戒める)や減給などの懲戒処分を行っても、依然として社員が遅刻や早退を繰り返す場合、初めて懲戒解雇が認められる余地が出てきます。

ただし、懲戒解雇が認められるのは遅刻、早退、欠勤に正当な理由がない場合です。例えば、社員が長時間労働やハラスメントでうつ病になってしまい、遅刻、早退、欠勤の連絡ができないといったケースでは、懲戒解雇は認められません。

5 その他の労使トラブル回避のポイント

1)解雇について説明を求められた際は、発言に注意する

解雇の通告後、改めて「解雇に至った経緯や理由を教えてほしい」と説明を求めてくる社員がいます。その際に、会社の手続き漏れや失言を誘うような質問をしてくることがあります。また、社員が弁護士や労働組合に相談している場合、交渉の内容をICレコーダーなどで録音しながら、会社側の落ち度について言質を取ろうとすることもあります。

会社側の対応としては、

  • 経営者1人だけで対応するのではなく、人事担当者なども交え最低2人以上で交渉に臨む
  • 相手の質問に明確に答えられない場合、曖昧な回答をしたり、臆測で発言したりせず、後日書面で回答するなど機会を改めて回答する旨を伝える

などが重要になります。

2)退職する社員の秘密情報の持ち出しを制限する

退職する社員が秘密情報の記載された資料などを外部に持ち出した場合、解雇をめぐってトラブルになった際、その社員が、会社への報復のために秘密情報を利用するリスクがあります。

会社側の対応としては、

  • 就業規則に資料の持ち出しを禁止する規定を設ける
  • 「退職に際しての情報保護に関する誓約書」などを事前に社員に提出させる

などして、資料の持ち出しを制限することが重要になります。

3)解雇予告通知書を渡す際は、社員の受け取り拒否に備える

解雇は、社員に解雇予告の通知をしてから30日後に成立します(解雇予告手当を支払った場合は、その分日数を短縮可)。通常は、「解雇予告通知書」などの書面で通知します。社員が通知書の受け取りを拒否した場合の対応が気になりますが、口頭またはメールで解雇予告通知である旨を伝達すれば、その時点で通知書を受け取った扱いになります。

もし、相手が解雇予告通知書の受け取りを拒否した場合、

通知書に、解雇予告をした日時と受け取り拒否に至る経過をメモ書きし、メモ書きした当人の署名押印をした上で保管

します。なお、メモ書きの内容に客観性を持たせるために、解雇予告通知書を渡す際は最低2人が同席するようにします。

4)解雇の場合の退職金の扱いに注意する

解雇の場合も、就業規則で退職金の支給対象になっている社員には、退職金を支払う必要があります。普通解雇や整理解雇の場合、退職金を支払うのが一般的ですが、懲戒解雇の場合、退職金の全額または一部を支給しないケースが多く見受けられます。ただし、

退職金には賃金の後払い的な意味合いもあり、長年の勤続の功を打ち消す重大な背信行為がなければ全額不支給は認められないとした裁判例もある

ため、この辺りは慎重な判断が求められます。

退職金のトラブルを回避したい場合、処分を懲戒解雇から諭旨解雇に引き下げるという方法があります。諭旨解雇とは、

本来なら懲戒解雇となる社員に、会社が退職を勧告し、退職願を提出させて解雇または退職扱いにする、会社の温情的な措置(退職扱いの場合は「諭旨退職」と呼ぶことが多い)

です。なお、社員が退職願の提出勧告に応じなければ、通常は懲戒解雇になります。一般的に、

  • 懲戒解雇は、退職金を全く支払わない
  • 諭旨解雇は、退職金の全部または一部を支払う

という対応になります。なお、諭旨解雇を行うには、諭旨解雇に関する規定などを就業規則に定める必要があります。

以上(2023年12月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

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画像:fizkes-shutterstock

【入社1年目の教科書】議事録は「事前準備」でスピーディーに作成する!

書いてあること

  • 主な読者:議事録をうまく取ることができずに困っている新入社員
  • 課題:会議などの内容についていけない。そもそも、どうまとめたらよいのか分からない
  • 解決策:議事録は速記ではない。フォーマットを決めて、事前にポイントを絞ることが大切

新しい事業の検討が始まり、今日の会議はとても盛り上がっている。良いことだけど、議事録が問題なんだよな。みんな早口だし、初めて聞く言葉もあってメモすら追いつかない。「ちょっと待ってください!」と話を止める勇気もないし。あぁ~、こんなことならスマホで録音しておけばよかったかな……。

1 議事録は速記ではありません

皆さんは議事録と聞いて「速記」をイメージしていませんか。つまり、会議の進行と同時に会話をまとめていくイメージです。しかし、これは無理です。速記は、速記のプロが速記文字という特殊な記号を使ってまとめており、皆さんが普通に書いたり、入力したりしても議論のスピードに追いつけるわけがないのです。

発想を転換しましょう。議事録に必要なのは速記の技術ではありません。皆さんがすべきことは、

事前準備と速やかな確認

なのです。事前準備とは、

  1. フォーマットを決めておく
  2. アジェンダ(議事録のフォーマットを使う)を事前共有する

ことです。

また、会議中は議論が紛糾することがありますし、発言の意図が分からないこともあります。こうした点は、会議が終わった後に先輩に確認すればよいことです。会議中に全て理解できれば理想ですが、これはまだ先のことなので、焦らなくて大丈夫です。

2 これだけは覚えたい議事録の6つの作法

議事録に限ったことではなく、ビジネス文書にはセオリーがあります。まずは次の6つのセオリーを押さえてください。議事録に記載すべき情報の整理に迷ったら、この6つを参考にすれば大丈夫です!

  1. シンプルに、抜け漏れなくまとめる。大事なことは繰り返してよい
  2. 話題は大きいところから小さいところへ
  3. 過去・現在・未来を基本に、時系列を分かりやすく
  4. 事実と意見を分ける
  5. 決定事項と継続議論の事項を分ける
  6. 次の具体的なアクションを示す

3 フォーマットを決めておく

1)必ず記載する事項

議事録には必ず次の事項を記載するので、フォーマットの中に入れておきましょう。

  • 日時:yyyymmdd 10:00~11:00
  • 場所:A社の本社、オンライン
  • 出席(欠席)者:A社課長○○さん、□□さん。B社部長△△さん、××さん
  • テーマ:新しい展示会に関する業務提携について
  • 資料(資料などのリンク):A社企画書(資料名)
  • 次の開催日:yyyymmdd 10:00~11:00 ※以降、定例化を検討

2)議事録の形式

議事録には、ポイント形式と会話形式とがあります。一般的なのはポイント形式です。

1.ポイント形式

ポイント形式とは、会議で話し合ったポイントをまとめるものです。内容には次のようなものになります。

  • 決定したこと:会議で決まったこと。「○○を共同制作する」
  • 具体的なアクション:次にすべきこと。「A社は企画書を改訂、B社は基本契約を準備」
  • 継続して議論すること:次回の会議に持ち越すこと。「A社とB社の費用の負担割合」
  • 議論のポイント:決定や継続議論に至った経緯

具体的なアクションは文字通り、具体的であるほどよいです。大切なのは、日時を指定することと、A社ではなく「××さん」と具体的な人まで示したほうが望ましいです。また、議論のポイントでは、特に共有したいことを記載します。何を記載するかの判断は難しいと思いますので、最初のうちは先輩に確認しましょう。

2.会話形式

会話形式とは、発言の内容をそのままの流れでまとめるものです。

  • A社 X課長「新しい企画があります。ぜひ、御社と提携して進めていきたいです」
  • B社 Y部長「ありがとうございます。具体的にどのような企画ですか?」
  • A社 X課長「これまでにない展示会の形式でして……」

先輩から「議事録を取って!」と言われたときに新入社員の皆さんが作りがちなのは、この会話形式です。ただ、会話形式は録音などを確認しながらでないと作れないので時間がかかります。それに、議事録が長くなり、ポイントが分かりにくくなるなどの問題があります。会社のフォーマットが会話形式でない限り、ポイント形式を採用したほうがよいです。

会話形式は、トラブル解消についての議論や何らかの謝罪など、「誰が、何と発言したか」を時系列でまとめることが必須の場合に採用します。

3)ファイル形式やファイル名のルール

会議の議事録は関係者にメールなどで共有します。その都度、ファイル形式やファイル名が違っていたら不便なのでルールを決めましょう。

ファイル形式は「.docx(Microsoft Word)」「.txt(テキスト)」などが一般的です。議事録はシンプルに情報がまとまっていることが理想なので、デザインなどにそれほどこだわらなくてよいでしょう。それよりも会議が終わってから議事録を展開するまでのスピードが大事です。

ファイル名は、例えば、

「展示会の企画-yyyymmdd.docx」「yyyymmdd-展示会の企画.docx」

などとします。テーマを優先したいのか、日付を優先したいのかによって工夫します。

議事録は、メールやクラウド上のドライブで共有します。もしメールで共有する場合は、ファイル名を件名にすると、後でメールが検索しやすくなります。例えば、

メールの件名:【議事録】展示会の企画-yyyymmdd

といった具合です。また、クラウド上のドライブで共有する場合は共有範囲に注意しましょう。間違えると、共有してはならないファイルまで共有されてしまいます。

4 アジェンダ(議事録のフォーマットを使う)の事前共有

会議の方向性をある程度コントロールするために、

アジェンダを事前共有

しましょう。アジェンダにポイントをまとめておき、それに沿って会議を進めていくと進行がスムーズで、議事録も取りやすくなります。

アジェンダは、そのテーマについて過去・現在・未来がある程度分かっていなければ作れません。きちんとアジェンダが作れるようになったら一人前です!

5 録音・録画の確認は最小限に

会議の内容を録音・録画していると、「後から確認できる」と安心してしまい、会議中に議事録の作成に集中できないことがあります。しかし、録音や録画の確認には思った以上に時間がかかります。仮に会議が60分とすると、録音や録画を確認しながら議事録を作るのに最低でも120分はかかると思っておいたほうがよいです。

ですので、スピーディーに議事録を作るには、

  1. アジェンダの事前共有
  2. 会議中にポイントを記載
  3. 会議後の確認(ここで録音や録画を確認する)

といったことを基本とします。録音や録画を確認しても分からないところは、先輩に確認するようにしましょう。

以上(2024年12月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

お尻を触るセクハラ社員は解雇できるか?

書いてあること

  • 主な読者:セクハラをするような「問題社員」を厳しく罰したい経営者
  • 課題:必要以上に重い処分を与えると、逆に訴訟などのトラブルに発展しそう
  • 解決策:裁判例なども参考にしつつ、妥当な懲戒処分をする

1 トラブルになりにくい懲戒処分のポイント

セクハラをするような「問題社員」は厳しく罰したいところですが、感情的になるのはトラブルのもとです。ここは冷静になり、次のポイントを確認しながら懲戒処分を検討しましょう。

  • 問題社員の行動が、就業規則の懲戒事由に該当するか
  • 客観的に見て、処分はやむを得ないといえるだけの具体的理由があるか
  • 問題社員の行動に照らして、処分の重さが妥当といえるか
  • 社員の問題行動、会社による注意や処分の内容を記録しているか
  • 処分の前に、弁明や挽回の機会を与えているか

注目すべきは、「問題社員の行動に照らして、処分の重さが妥当といえるか」です。例えば、服の上からお尻を触る社員を問題ですが、たった1回の行為なら、いきなり懲戒解雇にするのは厳しすぎます。

また、社員のプライベートにも注意が必要です。原則として、プライベートの行動は、会社の信用を失墜させた場合などでなければ懲戒処分にはできません。

以上を踏まえ、この記事では、ありがちな問題社員の行動と妥当と思われる懲戒処分を紹介します。一般的な懲戒処分の内容は次の通りで、1.の戒告が最も軽い処分、7.の懲戒解雇が最も重い処分になります。

  1. 戒告:厳重注意を言い渡す
  2. けん責:始末書を提出させ、将来を戒める
  3. 減給:一定期間、賃金支給額を減額する
  4. 出勤停止:数日間、出勤することを禁じ、その間は無給とする
  5. 降格:役職の罷免・引き下げ、または資格等級の引き下げを行う
  6. 諭旨解雇:退職届の提出を勧告した上で、退職届の提出がなければ解雇とする
  7. 懲戒解雇:即時に解雇する

2 就業時間内の問題行動への対応

1)業務命令に違反した、業務命令を無視した

社員が業務命令に従わなかったり、無視したりした場合、まずは口頭で注意して様子を見ます。その後も勤務態度を改めなければ、けん責や戒告などの軽い懲戒処分から始め、その後も改善が見られなければ、より重い処分に切り替えます。

指示された業務を放棄したり、業務はしていても職場環境や人間関係に大きな悪影響を及ぼしたりするようなら、場合によっては懲戒解雇や諭旨解雇も検討し得るかもしれません。

ただ、勤務態度の悪さを理由に懲戒解雇や諭旨解雇を課すのはハードルが高く、実務では解雇がやむを得ないケースであっても

普通解雇(社員としての適性がないことを理由とする解雇、懲戒処分ではない)で対応

するのが一般的です。

2)無断欠勤を繰り返した

社員が1~2日の無断欠勤をした場合、まずはけん責や戒告とし、改善されなければ重い処分とします。一方、2週間連続して無断欠勤した場合はレベルが違います。就業規則で「2週間連続の無断欠勤の場合は懲戒解雇とする」と定めている会社は多く、実際、それを認めた裁判例もあります(開隆堂出版事件 東京地裁平成12年10月27日判決)。

ただし、無断欠勤している社員がメンタルヘルス不調を抱えている場合などは、慎重に対応を判断しましょう。休職制度がある場合は、それを適用して様子を見ます。休職期間が終わっても復職が難しければ、就業規則に従って退職となります。

3)隠れて休憩した、居眠りをした、パソコンを私的利用した(怠業)

社員が隠れて休憩や居眠りをした場合、まずはけん責や戒告とし、改善されなければ重い処分に切り替えます。ただ、長時間労働が常態化しているなら、懲戒処分よりも就業環境の改善が先です。

パソコンの私的利用については、例えば、私的なメールを送るのに使っている場合などは、まずは懲戒処分ではない口頭注意などとし、改善されなければけん責や戒告とします。

ただし、回数が異常だったり、内容が会社の信用に関わる事案であったりする場合は重い処分を検討します。1日300回以上のチャットを行い、チャットを使って顧客情報を持ち出した社員の懲戒解雇を有効と判断した裁判例もあります(ドリームエクスチェンジ事件 東京地裁平成28年12月28日判決)。

4)ハラスメント行為をした

ハラスメントの判断は難しいので、大まかな基準を設けておくとよいです。例えば、セクハラ(セクシュアルハラスメント、性的嫌がらせ)の場合の目安は次の通りです。

  1. 刑法に抵触(強制性交等(準強制性交等)、強制わいせつ(準強制わいせつ)など):懲戒解雇、諭旨解雇
  2. 迷惑防止条例に抵触(服の上からお尻を触るなど):降格、出勤停止、減給、けん責、戒告
  3. 男女雇用機会均等法に抵触(性的な言動など):降格、出勤停止、減給、けん責、戒告
  4. 法令には抵触しない(「おばさん」と呼ぶなど):口頭で注意、けん責、戒告

セクハラと言われる行為は,刑法犯に該当する行為から性的発言まで幅広く存在します。これまでは、性的発言のみでは懲戒解雇、諭旨解雇は難しいとされていましたが、最近はセクハラについて厳しく判断される傾向にあり、行為態様、頻度によっては懲戒解雇や諭旨解雇を有効とする事例が出てくると思われます。セクハラを理由に懲戒処分を検討する場合には、上記のポイントを踏まえて慎重に判断するようしましょう。

3 プライベートでの問題行動への対応

1)飲酒運転などの犯罪行為をした

会社の信用を失墜させた場合などでなければ、プライベートの問題行動で懲戒処分にするのは難しいです。例えば、飲酒運転の場合、次の項目を確認してみましょう。

  1. 会社がトラックやタクシーなどの運送業を営んでいるか
  2. 問題社員が運転業務に従事しているか
  3. 刑事処分を受けたか
  4. 事故(人身事故など)を発生させたか
  5. 報道などで社名が出るなどし、会社の社会的信用が毀損されたか

1.から5.までの要素を検討し、仮にこれらに該当する場合、懲戒解雇などの重い処分が認められる可能性があるでしょう。

2)近隣住民とトラブルを起こした

犯罪に該当しない近隣住民とのトラブルは、基本的に懲戒処分の対象になりません。会社が管理する社宅でのトラブルについても、社員のプライベートな時間であるため、基本的に会社が介入することはできません。

例外として、社宅の利用や施設に影響を及ぼすトラブルであれば、事前に社宅利用規程などに決めておくことで、その範囲内で対応できますが、懲戒処分は限定的になるでしょう。

以上(2023年12月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

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画像:M-Production-shutterstock

優秀な社員を慰留しただけでトラブルになる?

書いてあること

  • 主な読者:退職や解雇の際のトラブルに備えておきたい経営者
  • 課題:どうすればトラブルを回避できるのかが分からない
  • 解決策:退職にトラブルはつきものと割り切り、法令や裁判例をベースに行動する

1 退職にトラブルはつきもの?

皆さんは、退職した社員や解雇した社員とトラブルになったことはありませんか? 例えば、次のようなケースです。

  • 社員を慰留したら、「会社が退職させてくれない」と外部の労働組合に駆け込まれた
  • 自己都合退職で合意したはずなのに、退職後に会社都合退職を主張してきた
  • 懲戒解雇した社員の退職金を不支給にしたら、「不当だ」と訴えられた

よほど円満でなければ、社員は会社に恨みを持っていることがあり、会社を去って関係がなくなる機会に、それが爆発するわけです。世知辛い話ですが、こうしたトラブルはある程度は仕方がないと割り切り、

トラブルになっても「会社は正しい対応をした」と主張できる行動をすることが大切

です。以降で、法令や裁判例に基づく対応のポイントを紹介するので、確認していきましょう。

2 退職の慰留交渉はどこまで大丈夫?

会社が社員の退職を止める権利はありません。民法や労働基準法では、

  • 無期労働契約の場合、退職の申し入れをしてから2週間が経過したとき
  • 有期労働契約(一定の事業完了に必要な期間を定めるものを除く)の場合、契約期間が1年を超えた後に退職の申し入れをしたとき

に社員はいつでも退職できるとされています。一方、会社からすれば優秀な社員が退職するのは痛手なので慰留交渉をします。その際、

最終的に社員が自由に決定できるなら、慰留しても問題ない

ことになります。ただし、

社員の意思決定を不当に妨げるのは違法

です。具体的には、

  • 暴行、脅迫、監禁などの不当な手段を用いて、社員を強制的に働かせる(強制労働)
  • 暴言を浴びせたり、無視したりして心理的に追い詰める(ハラスメントなどの不法行為)
  • 「退職するなら賃金や退職金は支払わないし、年次有給休暇の消化も認めない」などと迫る(労働基準法における労働者の権利の行使を不当に妨げる行為)

などをしてはいけません。

3 社員以外の者と退職交渉をしても大丈夫?

社員の退職届を受理しないなど、問題を先送りするような対応をしてはいけません。業を煮やした社員が、労働組合や弁護士に会社との交渉を依頼することがあるからです。

労働組合、弁護士、法定代理人など法令に定めのある者は、社員の代わりに退職交渉をする権限

を持っており、交渉を申し込まれたら必ず対応しなければなりません。そうなると、当事者だけなら折り合えた問題が複雑になることもあります。

なお、最近は会社に「退職したい」と言えない社員などが、弁護士や労働組合に当たらない民間の退職代行サービスを使って退職を申し出てくることがあります。ですが、こうしたサービス業者には、退職交渉をする権限はありません。あくまで社員と交渉する必要があります。

4 退職届があれば、退職理由は「自己都合退職」でいい?

社員が離職票の交付を希望する場合、会社は管轄のハローワークに離職証明書を提出します。離職証明書には、会社都合退職か自己都合退職かを記載します。ただ、退職理由は、

  • 会社都合退職:雇用保険給付が増えるなど、社員にとって好ましい
  • 自己都合退職:会社に落ち度がないことを示せるなど、会社にとって好ましい

といったように双方の思いが交錯します。とはいえ、これを偽るのは問題で、たとえ「社員の雇用保険給付を増やしてあげたい」と自己都合退職を会社都合退職にした場合でも、雇用保険給付の不正受給、刑法上の詐欺罪などに当たる恐れがあります。

つまり、ありのままの状態で判断しなければならないのですが、判断が難しいケースもあります。例えば、社員が「一身上の都合により退職します」と退職届を会社に提出した場合は一般的には自己都合退職ですが、

社員が退職勧奨を受け、退職届を提出するよう促された場合などは会社都合退職

になります。また、有期労働契約が社員の希望に反して更新されない場合、

「契約を更新する」ことを示していれば会社都合退職、そうでなければ自己都合退職

になります。

ここでは、参考として会社都合退職と自己都合退職の基本的なケースを紹介します。

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5 退職金の不支給・減額は認められる?

退職金の不支給・減額を行うには、合理的で社会的に相当な理由が必要です。この点、就業規則に定めがあれば、懲戒解雇する社員の退職金を不支給にしても問題ないように思えます。

ですが、過去の裁判例では、

懲戒解雇であっても、退職金を不支給とすることは、長年の勤続の功を打ち消す重大な背信行為がなければ合理的とはいえないので、減額などにとどめるべき

としたもの(東京高裁平成15年12月11日判決)もあり、注意が必要です。ちなみに、この裁判では、痴漢行為が原因で懲戒解雇された社員の退職金を不支給としたことで会社と社員が争いになり、最終的に70%の減額が妥当と判断されました。

また、会社都合退職よりも自己都合退職の場合の退職金を低くすることはよくありますが、これは、社員の定着率を高める上で合理性があると考えられており、問題となるケースは少ないようです。

6 賞与の不支給・減額は認められる?

賞与の不支給・減額を行う場合も、合理的で社会的に相当な理由が必要です。例えば、賞与支給日に在籍していない社員には賞与を支給しない「支給日在籍要件」は、合理的かつ社会的に相当であるとされています。なお、就業規則等の定めは必要です。

悩ましいのは、賞与支給日には在籍しているが、その後間もなく退職する社員です。この点について、過去の裁判例では、

  • 賞与は、社員の将来への期待を込めて支給するものなので、減額自体は違法ではない
  • ただ、社員の実績評価に基づいて支給するものでもあるので、大幅な減額は公序良俗に反する

としたもの(東京地裁平成8年6月28日判決)があります。ちなみに、この裁判例では、賞与を通常の82%以上減額したことで会社と社員が争いになり、最終的に減額は通常の20%までが相当と判断されました。

7 退職する社員に研修費用の返還を請求してもいい?

社員の資格取得の費用を補助したのに、社員が資格を取得した後に退職してしまうことがあります。会社としては、研修費用を返還してほしいところですが、例えば

就業規則等に「資格取得後○年以内に自己都合により退職する場合、研修費用の全額を返還しなければならない」といった定めをすると、労働基準法の「賠償予定の禁止」に抵触する恐れ

があるので注意が必要です。

もっとも、研修費用の返還について会社と社員が合意していれば、返還請求が認められることもあります。例えば、

研修費用をいったん会社が立て替え、資格取得後、社員が一定期間勤務した場合に、費用の返還を免除する

といった形で合意することがあります。こうした合意が「賠償予定の禁止」に抵触するか否かについては、次の3点を基に判断されます。

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ちなみに、過去の裁判例では、

研修内容が業務上必要なものである場合、その費用は会社が負担すべきで、社員に請求するのは不当である

と判断されたもの(東京地裁平成10年3月17日判決)があります。

以上(2023年12月更新)
(監修 弁護士 坂東利国)

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【入社1年目の教科書】「上座」を知るのが席次の攻略法。後は相手の意向と愛で対応

書いてあること

  • 主な読者:初めて取引先を訪問したり、会食に参加したりすることになった新入社員
  • 課題:「偉い人の席」はどこか、「自分が座るべき席」はどこかが分からない
  • 解決策:入口から遠い席、居心地がよい席が「上座」。後は相手の意向を尊重する

おいおい、取引先と商談した後に軽く会食をするなんて聞いてないよ。先輩も人が悪い。事前に教えてくれればいいのに。今日はノンアルコールだから無礼講ってわけにもいかないし。あぁ~、あと「セキジ」っていうのだっけ? どこに座ればよいのか全く分からない。会食は中華料理で円卓らしいけど、円いテーブルに上座なんてあるのかな……。

1 席次とは、親族が集まった際に席順を決める「あれ」です

冠婚葬祭などで親族が集まると、誰がどこに座るかを決めるのに時間がかかることがあります。もし、皆さんにそんな経験があったら、ちょっと思い出してみてください。通常、偉い人が座る「上座」は、出入口とは反対の奥の席です。となると、その席にはおじいさんや、おばあさんが座ることになります。これは押さえておくべきマナーです。

でも、決してこれにはこだわりませんよね。例えば、おじいさんや、おばあさんが皆と話しやすいようにとテーブルの中央に座ってもらったり、「奥は冷暖房が利きすぎるから」と出入口の近くに座ってもらったりすることはありませんか?

これが席次の全てです。つまり、

基本はしっかり覚え、現場では臨機応変に相手の意向やシーンに対応する

ということです。

今どきは、相手も「上座に座らせてもらえないなんて失礼だ!」と立腹することはほとんどないと思いますが、逆にこんな時代だからこそ基本はきちんと押さえておきましょう。

2 応接室での席次

応接室の上座は、「入口から遠い席」「正面に絵が見える席」です。

臨機応変ポイントは、例えば、「上座以外の席からきれいな景色が見える」「上座は空調が利きすぎる」などのケースです。こうした場合は、相手の意向を尊重しつつ、上座以外の席を勧めてみましょう。

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また、コロナ対策の観点から、密を避ける座り方をする場合もあります。この辺りも臨機応変に対応すれば大丈夫です。

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3 会議室での席次

会議室の上座は、「入口から遠い席」「対面の3人掛けでは中央の席」「会議ではテーブルの形状に関係なく、議長が一番奥」「議長の隣で入口から遠い席が1番目」です。中華料理などで利用する円卓でも考え方は同じです。

臨機応変ポイントは、例えば、「上座の近くにプロジェクターやホワイトボードがあって窮屈」「上座からは全体が見渡しにくい」などのケースです。こうした場合は、相手の意向を尊重しつつ、上座以外の席を勧めてみましょう。

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4 自動車での席次

自動車の上座は、「『相手の役職者が運転する場合』は助手席」「『タクシーの場合』は運転席の後ろ」です。

臨機応変ポイントは、例えば、「相手の役職者が運転に集中したいと言っている」「タクシーからすぐに降りたいと言っている」などのケースです。こうした場合は、相手の意向を尊重しましょう。

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5 列車での席次

列車の上座は、「窓側の席」「向かい合わせの場合、進行方向を向く席」です。

臨機応変ポイントは、例えば、「通路に出やすいから通路側がよいと言っている」「左右の人と話をするために中央がよいと言っている」などのケースです。こうした場合は、相手の意向を尊重しましょう。

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6 エレベーターでの立ち位置

エレベーターにおける上位者の立ち位置は、「左奥」です。

臨機応変ポイントは、例えば、「エレベーターからすぐに降りたいと言っている」などのケースです。こうした場合は、相手の意向を尊重しましょう。

なお、エレベーターの乗り降りの基本は、「上位者は最後に乗り込み、最初に降りる」です。新入社員は最初に乗り込み、操作盤の前に立つのですが、このルールを知らない人は、新入社員が先に乗り込むことを「失礼だ」と勘違いするので、念のため「お先に失礼します」などと断ってから乗り込むとよいでしょう。

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以上(2024年12月更新)

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画像:Mariko Mitsuda