【業務効率化】24時間は1440分。社員の成長を促すスケジュール管理

書いてあること

  • 主な読者:業務効率化の一環として、社員のスケジュール管理を徹底したい経営者
  • 課題:特に成果が上がっていないのに、社員が常に忙しそう
  • 解決策:“他人が決めたToDoリスト”に振り回されず、働き方に自主性を持たせる

1 24時間は1440分、8時間なら480分

24時間は1440分、8時間なら480分。時間が有限であることは承知の通りですが、こうして数字で表すと実感が湧いてきませんか? しかも、何か予定を入れれば、その間は別のことができなくなるので、常に機会損失が発生しています。

スケジュール管理が苦手な方にとっては耳の痛い話ですが、この記事が、御社の社員に時間の大切さをいま一度、考えていただくきっかけになれば幸いです。

2 脱「他力本願」のやらされリスト

1)他人に決められるのは楽?

スケジュール管理ができない人に共通する特徴は、

働き方に主体性がないこと

です。試しに、社員にこの先1~2週間のスケジュールを登録するように指示してみてください。対応できる社員は全体の1~2割といったところでしょう。

この先の予定が決まっていないのに、なぜ社員は忙しいのでしょうか?

それは、“他人が決めたToDoリスト”に振り回されている面があるからです。つまり、メールやチャットが届いた順にアポイントを入れ、仕事の納期も指定された通りに動いているのです。そこに上司の指示が入れば、ほぼ何も考えずにそちらを優先するので、優先順位もぐちゃぐちゃになります。「他人にスケジュールを決められるなんて、たまったものではない」と思いますが、主体性がない社員にとっては、“他人が決めたToDoリスト”に従っているほうが楽なのです。

2)ToDoリストとスケジュールの違い

ToDoリストはスケジュールとは似て非なるものです。ToDoリストとは、文字通りのやることリストで、「(1)〇〇さんにメールを送る、(2)企画書を作る、(3)食事会の調整をする」などの内容が登録されます。長いToDoリストができるということは、それだけやることが多いということかもしれません。ただ、重要なのはその作られ方と中身です。“他人が決めたToDoリスト”が長くなるほど、自主性のない働き方に拘束される時間も長くなるからです。

一方、スケジュールとは、「目標を実現するための計画が行動ベースに落とし込まれたもの」です。やるべきことと、それを実現するための計画が明確であれば、1~2週間先までスケジュールを登録することはたやすいはずです。

ToDoリストとスケジュールの関係は、「スケジュール→ToDoリスト」といった感じです。スケジュールを細かく分解したものがToDoリストということであり、ToDoリストの積み重ねがスケジュールになるわけではありません。

3)業務効率化の正しいアプローチ

「時間を大事に使おう!」となると、同じ60分をいかに実のあるものにするかというアプローチが思い浮かびます。「順番を変えてみる」「ツールを導入してみる」「やらないことを決めてみる」などの取り組みです。

やるべきことと向き合っているのなら、そのアプローチでよいでしょう。しかし、“他人が決めたToDoリスト”をこなすための効率化だと、話は違います。重要ではないことの効率を上げるよりも先に、そもそも着手しない(断る、精度を落とす)という選択肢を持つべきです。

“他人が決めたToDoリスト”をこなすためにあれこれと苦労することは、生産性を妨げる諸悪の根源であると認識しなければなりません。また、この点は、経営者や管理職も大いに反省する必要があります。社員の時間を無神経に奪ってはいけません。

3 「目標」設定から始めよう

1)「仏作って魂入れず」になる2つの理由

多くの会社では、半期ごとに人事考課面談を行い、中期経営計画に基づいた業務目標を決めているはずです。しかし、それがスケジュールに反映されていないのは、なぜなのでしょう?

最大の理由は社員が本気でないことです。多くの社員は、すぐに中期経営計画の内容を忘れてしまいます。また、日々、“他人が決めたToDoリスト”に忙殺され、本当に大事なことを後送りにしています。

もう1つの理由は、社員はそれなりにやる気があっても、やるべきことを分解し、スケジュールに落とし込むことができていないのです。経理のように、社内で受注的な事務作業を中心に行っている社員はなおさらです。

2)本気でなくても取り組む環境をつくる

この状態を打破するために、経営者は社員が「今、自分がやるべきこと」を正しく認識し、それを実行するように働き掛けなければなりません。有効な手段は、社員に少なくとも1週間先までスケジュールを立てさせることです。最初は多くの社員が戸惑うでしょうが、強制的にやらせます。

そうすると、“他人が決めたToDoリスト”が入り込む余地がなくなってくるので、社員はスケジュールの取捨選択をせざるを得なくなります。ここで初めて、会社にとって、チームや自分にとって、大切な仕事が何かを考えるようになります。

本気でない社員のマインドを変えるのは難しいことです。しかし、大事な仕事が後送りされない環境をつくることはできます。そして、このスケジュールをこなすことは社員の成長につながるでしょう。

3)経験と考え方の伝授

どうしても、やるべきことを分解して、スケジュールに落とし込めない社員がいたら、考え方を整理する方法を教えます。経営者や管理職がワン・オン・ワンのミーティングを行い、そこでやるべきことと、それを達成するために最も効果的なことを明確にして、いつから始めるのかまで決めてしまうのです。

後は、社員がスケジュールを意識しながら実行できる環境をつくります。前述した通り、少なくとも1週間先までスケジュールを立て、不要な仕事が入らないようにタイムブロックするようにします。

4 学習時間をスケジュール化する

新しい仕事をするときはそれなりの準備が必要です。例えば、新しい業界に営業を展開するときは、その業界のことを勉強しなければなりません。こうした学習時間は、きちんとスケジュールに登録し、「2時間の読書、勉強会に参加」といったように記録しておきましょう。

もし、手を動かす業務でないと、「さぼっている」「他にやることがない」と勘違いする人がいるようなら、経営者がきちんと説明しなければなりません。

5 スケジュール管理のテクニック

1)基準時間を設ける

経営者や上司から見ると、「時間がかかり過ぎだ」と感じる社員がいます。しかし、その社員に「何か手こずっているの?」と聞いてみると、「いえ、計画通りです」という意外な答え。どうも釈然としないということはありませんか?

こうしたギャップは、業務の基準時間が決まっておらず、客観的に判断できないために生じます。主な業務については、「ベテランなら60分、新人なら120分」といったように、完了までの時間の目安を設けましょう。

2)基本は20分単位で取り組む

スケジュールは20分単位とします。こうすると、60分の中に3つの業務を組み込めます。また、20分の業務と10分のバッファーで30分の固まりを設定すれば、60分の中に無理なく2つの業務を組み込むことができます。20分以上かかる仕事については、まとめて固まりの時間を確保します。

最近はWeb商談の機会も増えましたが、移動が必要な場合は、アポイントの前後に「移動時間」を必ず登録します。東京都区内の場合、20分あればかなりの距離を移動できます。現地の準備時間を20分取れば40分なので、やはり20分単位だとスケジュールが組みやすくなります。

3)機会損失を意識する

今月のスケジュールを確認してみてください。既にかなり埋まっていることでしょう。では、来月のスケジュールはいかがでしょうか。まだまばらな状況で、比較的余裕があるかもしれません。

しかし、そこで来月はまだ余裕があると考え、簡単に決めてしまってはいけません。決して、今月は忙しく、来月は暇というわけではないのです。来月になれば、今と同じように忙しくなります。にもかかわらず、1カ月前に軽い気持ちで登録した、あまり意味のないアポイントと、とても大切なアポイントがバッティングしてしまうのです。

同じ時間に2つのアポイントは入れられません。1つアポイントを入れた時点で、別の選択肢を排除していることを忘れてはなりません。

4)優先順位は細かな粒度で考える

業務の優先順位は、緊急度と重要度で考えます。ここにA、B、C、Dの業務があり、最も緊急度と重要度が高いのはAだとします。この場合、当然Aから着手します。ところが、正しいはずのこの着手で、なぜか問題が生じます。

それは、緊急度と重要度が2番目に高いBの業務を遂行するために必要な事前準備を、Aの業務よりも前に着手していないからです。そうすると、Aの業務が終わってBの業務を始めようと思ったときに、段取りができていないことに気付くのです。優先順位が下であっても、全体をスムーズに進めるために先に着手すべきことがあるということです。

5)後半こそ悲観的に考える

スケジュールが立て込んできて、いよいよギリギリの状況になると、「あれとこれがうまくいったら間に合う」と、楽観的に考える癖はありませんか。いまさらジタバタしても仕方がないと考えるのでしょうが、これは危険です。

後半になるほど関係者が増え、計画通りにいかなかった場合の影響も大きくなります。それに、スケジュールがギリギリの状況になっているということは、それまでがうまくいっていないことの裏返しでもあります。スケジュール管理は、後半ほど悲観的に見積もるのが基本であり、予備日を多く設けておくべきでしょう。

6)パーキンソンの凡俗法則に立ち向かう

「パーキンソンの凡俗法則」とは、大切なことよりも、ささいなことが議論されがちな状況を指摘したものです。

例えば、原子力発電所と駐輪場の建設に関する住民の会合があったとします。原子力発電所の建設は本当に重要ですが、住民にはスケールの大き過ぎる話であり、技術的なことも分からないため議論が深まらず、比較的あっさり決まります。一方、駐輪場は原子力発電所に比べて明らかに重要度が劣るのに、住民にとって身近な問題であるため、ささいな点まで活発に議論され、決定に時間がかかるのです。

パーキンソンの凡俗法則に陥る最大の理由は、メンバーの知識や経験の不足です。時間をかけて的外れな議論をし、本当に重要な点を見逃してしまうリスクがあります。必要に応じて、コストをかけても外部の知見を利用することを検討しましょう。

7)「ちょっといい?」は原則禁止

経営者や管理職がちょっと疑問に感じた途端、部下のスケジュールを顧みずに招集して臨時の会議を始めたりしていないでしょうか。当初は5分の予定だったのに、気付けば60分かかっていることも珍しくないでしょう。

仕事なので、経営者や管理職の疑問は解消しなければなりません。しかし、社員にスケジュール管理を徹底させている張本人(経営者や管理職)が、そのスケジュールを自ら破壊してはいけません。「ちょっといい?」にも配慮が必要な時代なのです。

【参考文献】

「1440分の使い方―成功者たちの時間管理15の秘訣」(ケビン・クルーズ(著)、木村千里(訳)、パンローリング、2017年8月)

「仕事は『段取りとスケジュール』で9割決まる!」(飯田剛弘、明日香出版社、2018年12月)

以上(2023年11月更新)

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画像:pexels

お手軽販売促進DX! 顧客データは「ちょい足し」するだけで活きてくる

書いてあること

  • 主な読者:データを利用して売り上げを伸ばしたい経営者、営業担当者
  • 課題:販促に必要なデータの集め方やデータを活用した販促のイメージがない
  • 解決策:先進的な企業の事例を参考に、消費者や顧客に関するデータを社内外からちょっとだけ加えて、分析することで販促に活かす方法を試してみる

1 販促活動の効果を高めるには、消費者のデータ活用が大切

経営者の皆さん、自社の販促活動に満足していますか?

販促活動の効果を高めるには、現在の消費者ニーズを的確に把握することが欠かせません。このときに重要なのが、次のような消費者のデータです。

  • 自社で保有する、年齢や性別、購買履歴などの顧客情報
  • SNSや検索キーワードの動向から探る、現在の消費者の嗜好や関心

この記事では、データに基づく販促活動を展開する際のポイントや事例を紹介します。とはいえ、難しい話でも、大掛かりなものでもありません。まずは、他社の取り組みを参考にして、できるところから、ちょっと加えるだけの「お手軽販促DX」から始めてみましょう。

2 消費者のデータ活用に取り組む企業事例

1)オープンデータなどで需要を予測:ゑびや大食堂(飲食店)

三重県伊勢市で土産物屋や食堂などを経営するゑびやでは、データ分析による来店客予測に取り組んでいます。

かつては手切りの食券とそろばんで売上管理をしたり、来店客の予測を勘に頼っていたりしたため、再現性がなく、調理ロスなどが発生している状況でした。そのため、気象情報、メニュー別の売り上げ、グルメサイトのアクセス数や近隣の宿泊者数などのデータを集めてエクセルにまとめたり、店舗の前にカメラを設置して通行量などを測定したりするなどの取り組みで来店予測やメニューの需要予測を始めました。

天候や気温に応じて、店舗前に設置するメニューを変えるだけでも、来客数の増加につながるようになったり、来店予測ができるようになることで食品ロスの削減や従業員の休暇取得が実現できたりしたといいます。

また、2018年にシステムを外販するための会社であるEBILAB(エビラボ)を設立。データ分析ツールを「TOUCH POINT BI」という製品名で販売するに至っています。

2)店舗ごとのメニューやカットの傾向を集計:オオクシ(理容チェーン)

千葉県を中心に理容チェーンを展開するオオクシは、マーケティングや顧客管理、人材育成などのさまざまな分野で、データに基づく定量的な目標を設定しています。

顧客の分析については、独自のPOSシステムを用いてメニューやカットの傾向、再来店率などを集計し、業務に反映しています。新規出店を行う際には、商圏の分析を行い、路面店やショッピングセンター内に入居するなどのテナントの形態によって商圏の棲み分けを行っています。

こうした取り組みもあり、同社の顧客の再来店率は、業界平均の60~70%を上回る85%以上を記録しています。

同社の取り組みは社外からの評価も高く、2020年には日本生産性本部から「日本経営品質賞(中小企業部門)」を受賞しています。

こうした事例のように、普段の業務と並行して、データ回収のための下準備などを行う必要はあります。成果が出るかどうか不透明な状況で、普段よりも一時的に業務量が増えることに抵抗感を持つ社員が出てくるかもしれません。

一方で、データを基に顧客の動向を分析すれば、「勘」や「運」頼みではない適切な施策を選び、効率的なサービスを提供することで、これまでよりも多くの利益を獲得できるでしょう。

3 社内の顧客情報は3つのポイントでの分析が重要

前述の他社の取り組みを参考にすると、専門のデータサイエンティストなどを雇わなくても、「お手軽販促DX」を進められる感覚が湧いてきたのではないでしょうか。

それでは、お手軽販促DXのキモとなる、収集すべき情報と分析のポイントを紹介します。

1)目的に応じた情報を集める

社内には、次のような自社商品・サービスなどを利用した顧客のさまざまな情報が蓄積されています。

  • 顧客に関する情報:氏名、年齢、住所、連絡先など
  • 営業活動で得た情報:訪問した企業名、商談回数、商談した商品など
  • 販売に関する情報:販売数、販売日時、在庫数など
  • その他の情報:アンケート結果、顧客からの問い合わせ内容など

まずはこうした情報をエクセルなどで整理し、販促活動を企画する際に参照できるようにしましょう。展示会やアンケートなどで取得した見込み客の情報も活用できるようにしておくのがお勧めです。

また、販促活動に生かせる情報がない場合、利用者にアンケートを取るといった方法で情報をそろえるのが望ましいでしょう。例えば、来店促進を目指すなら、来店曜日や時間、来店動機、利用者の満足度などを調べるようにします。

2)集めたデータはポイントを絞って分析

これまで通りのデータを集め、同じ視点で眺めるだけでは「やっぱりそうだよね」という結果になりかねません。重要なのは、データをどう読み解くかです。これまで気付かなかった傾向や兆候を導出できれば、販促活動のヒントになるでしょう。次の3点を踏まえて、データを捉えるようにしてみましょう。

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4 SNSなど外部の情報に「ちょい足し」

1)インターネット上の検索傾向をつかむ

社外のデータを活用するのも有効です。例えば、SNSや検索キーワードの動向から、自社と接点のない消費者の興味を読み取ったり、意外な時期に意外なものへの関心が高まっている実態などを把握したりすることができます。そこから、消費者のニーズや行動について、さまざまな仮説も立てられるでしょう。

こうした消費者の実態を把握するときに役立つのが、グーグルのウェブサービス「Google Trends(グーグルトレンド)」です。これを使うと、「消費者がどのようなキーワードを多く使って検索しているか」が分かります。時系列で見れば、「どのような時期にどのような検索キーワードを使っているか」といった季節性によるニーズを確認することもできるでしょう。その他、どのようなニュースが話題なのかというランキングも表示されます。

また、LINEヤフー(2023年10月にLINEとヤフーが合併)は、販促施策を検討するに当たって、いつどのような検索キーワードが増えているのかを示した、月別の「販促カレンダー」を公開しています。これを使うことで、前年の同じ時期にどのようなキーワードが検索されたのか、どのようなニーズが想定されるのかの参考になりそうです。

■グーグル「Google Trends」■

https://trends.google.co.jp/trends/

■LINEヤフー「LINEヤフー for Business 2024年販促カレンダー月別一覧」■

https://www.lycbiz.com/jp/ebook/yahoo-ads/support/calendar/

2)販促施策に活用すべき主な社外データ

社外のデータには検索キーワードの他に、政府や自治体が公開するオープンデータ(誰でも利用可能な公開データのこと)や、有料のマーケットデータなどもあるので、消費者の実態を把握するときに活用するとよいでしょう。

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自治体の中には、エリア内の企業によるオープンデータの利用を促進させるため、ポータルサイトを開設したところもあります。例えば、大阪府の堺市では、政令指定都市初の試みとして、堺市内の企業のオープンデータを公開するポータルサイト「さかしる」を開設しています。ポータルサイト内の企業情報はオープンデータとして利用可能なため、他社との取り引きの拡大などが期待されています。

■堺市の会社を知る・調べる さかしる■

https://sakacil.com/

以上(2023年11月更新)

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約260年続いた江戸幕府の初代将軍・徳川家康。彼が後継者に告げた一言の真意とは?

水よく船を浮かべ、水よく船を覆す。ただこのことを、よく心得られよ

徳川家康は、織田信長、豊臣秀吉とともに、戦国の三英傑の一人に数えられる人物です。最初は小国の三河(現在の愛知県東部)を治める一大名に過ぎませんでしたが、数々の戦いに勝利して勢力を伸ばし、やがて江戸幕府の初代将軍となり、長く続いた戦国の世を終わらせました。

冒頭の言葉は、家康が2代将軍である息子の秀忠(ひでただ)に度々言い聞かせたとされる教訓で、「水(領民)は船(幕府)を浮かべもするが、転覆させもする。だから領民の心が離れないよう、行いには重々注意しなければならない」という意味があります。1600年、天下分け目の決戦といわれる「関ヶ原の戦い」に勝利した家康は、1603年に江戸幕府を開きますが、2年後には将軍の座を秀忠に譲ります。これは、将軍職が徳川家によって代々引き継がれていくことを世に知らしめるためでしたが、一方で家康には、秀忠に将軍職を譲るに当たって懸念していることがありました。

それは「人生経験の差」です。家康は戦国の世を生き抜いてきた人物です。若い頃から三河を囲む敵国の脅威にさらされ、時には一向宗という教えの信徒になった領民に一揆を起こされるなど、領国の内外に自分を脅かしかねない存在を抱えながら、苦労の果てに将軍の座を手に入れました。

一方、息子の秀忠は、家康からすれば戦国の世の苦労をほとんど知らない人物です。家康が秀忠に将軍職を譲った頃には、徳川家の力はすでに揺るぎないものになっており、秀忠にとって敵といえるような存在はほとんどいませんでした。

家康はこの状況を、「秀忠は苦労せずに将軍になったから、下手をすればおごって世を乱すかもしれない」と危惧していました。だからこそ、「徳川家が盤石に思えても油断するな。領民は常に見ているぞ」と度々くぎを刺したのです。そのかいあってか、秀忠はおごることなく諸法度の制定や貿易の統制に取り組み、家康から引き継いだ江戸幕府をより強固な組織へと進化させました。

会社の経営者も、どこかで後継者に後を託すときがやってきます。家康の言葉を借りるなら、水は「社員」、船は「会社」であり、社員の心が経営者から離れれば、会社は立ち行かなくなります。このことは後継者にしっかり教えておく必要があるでしょう。ですが、社員の心が離れないようにするのと、社員の顔色をうかがうのは違います。船は水に浮かべて終わりではなく、針路を決めて前進しなければなりません。時には社員からの反対を押し切って、経営者自身が正しいと信じた道を前に進まなければならないこともあります。

大切なのは「後継者にトップとしての緊張感を持たせつつ、信じて後を託すこと」です。秀忠は、武将としての才にはあまり恵まれなかったようですが、家康は「これからの平和な時代には秀忠が必要だ」と考え、彼に後を託しました。将軍職が代々そうして継承されていったから、江戸幕府は260年余りも続いたのかもしれません。

出典:「明良洪範続編」(浜松・浜名湖ツーリズムビューローウェブサイト 家康公「伝」)

以上(2023年11月作成)

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画像:亮 山本-Adobe Stock

【文例付き】相手を不快にさせない催促メールへの返信マナー

電話やメールに加え、メッセンジャーアプリ(メッセージツール)やチャットでも連絡を取るようになった現在。相手との関係性などによって連絡手段を使い分けるようになりました。例えば、親しい相手に送るとき、内容が軽いとき、返信がすぐに欲しいときなどはメッセージツールやチャットで連絡を取るといった具合です。

一方、連絡手段が増えたことで確認漏れや返信忘れが多くなりました。特にメールは、メッセンジャーアプリやチャットのように即時性がないため、後で返信するつもりだったのに忘れてしまい、しばらくして相手から「返信が来ません……」と催促を受けてしまうことがあります。リモートワーク(テレワーク)中の場合、メール数が増える、オフィスとPC環境が異なるなどの理由から確認漏れなどが余計に増えているかもしれません。

そこで本記事では、催促を受けたとき、相手を不快にさせない返信の書き方を文例付きで紹介します。ChatGPTなどAIでメールの返信を作成する人も増えてきているかもしれませんが、その場合も、この記事の内容がChatGPTへのプロンプト(指示)の参考にしていただけるかと思います。

なお、相手にやんわりと催促したい、メールの再送をお願いしたいなど、こちらが相手に失礼のないように催促メールを送る場合は、次の記事を参考にしてください。

1 催促メールへの返信で注意すべきこと

1)相手からの催促メールに気付く

大切なのは、相手の催促に気付くことです。相手も催促メールを送ることに申し訳ないと感じているので、ストレートな表現を避け、“やんわり”とした内容の文面を送ってきます。中には遠回し過ぎて、結局、何が言いたいのかがよく分からないメールもあります。

このようなメールに遭遇したとき、実は「早く返信をください」という催促メールをもらっている可能性があります。分かりにくいメールを送ってきた相手にもある程度の責任がありますが、こちらが間違えた対応をすると、事態がさらに悪化してしまうので注意しましょう。

メールに次のようなフレーズが含まれている場合は、「催促メールかもしれない」というセンサーを働かせて、対応しましょう。

先日ご依頼した資料の件で、急ぎ確認したいことがあり、ご連絡致しました。
本日13時までに頂戴する予定のメールがまだ届いていないようです。
ご多用中に恐縮ですが、ご対応のほど、何卒宜しくお願い致します。
何らかのご事情で遅れているようでしたら、その旨、ご連絡いただきたく存じます。

2)返信前に「送信済みトレイ」などを確認する

催促されているということが分かっても、こちらとしては「その件は、すでに返信したのに!」と思うことがあります。しかし、送信済みだと勘違いしていて、実は「下書きトレイ」に入ったままだったり、システム障害などで相手に到着していなかったりする恐れがあります。

「返信してますよ!」と伝えたいところですが、その前に次のような問題がないかを確認しましょう。

  • メールボックスの「送信済みトレイ」を確認
    ⇒こちらから相手へ返信したメールが残っていないか、返信先の宛先や締め切りの期日を間違えていないかを確認します。
  • システム障害がないかを確認
    ⇒相手に返信していても、自社や相手にシステム障害が発生していて、メールが相手に到着していない可能性もあります。まずは自社にシステム障害がないかを確認してみましょう。

3)「未返信」の場合は簡潔に理由を説明する

何らかの理由ですぐに返信ができていなかった場合は、すぐに謝罪すべきです。とはいえ、こちらのミスで迷惑を掛けたことを悪く思うあまり、謝罪の言葉を書き連ねないように注意しましょう。

相手が一番に求めているのは、返信(こちらのアクション)です。長い謝罪文は言い訳がましい上に、それを読む相手の負担にもなります。謝罪は簡潔にまとめ、いつまでに、何ができるのかを相手に伝えましょう。

2 催促メールへの返信の書き方と便利なフレーズ

催促メールへの返信の基本的な構成は、通常のメールと同様に「挨拶」「前置き・本題」「フォロー・結び」となります。この構成に沿って、返信する際に使えるフレーズを紹介します。

1)挨拶

基本は、丁寧に接することと、相手の催促メールの要件を理解していることを明確にすることです。

いつもお世話になっております。株式会社○○の△△(氏名)です。
ご連絡いただいた件、お待たせしてしまい申し訳ございません。

2)前置き・本題

前置き・本題では、こちらから返信している場合と、こちらのミスで返信していない場合によって書き分けます。

こちらから返信している場合、前置きでは「自分のミスや勘違いである可能性を認識しています」というニュアンスを含め、低姿勢を崩さないようにします。

本題は、前置きに続けるかたちで、「いつ返信をしたか」を伝えて、相手に確認を促します。具体的には次の通りです。

  • 本メールと行き違いで、すでにご確認いただいていたら恐縮ですが、本日13時に▽▽(相手の氏名)さまにいただいたメールに返信するかたちで、お返事をお送りしております。
    念のため再送致しますので、ご確認いただけましたら、その旨をご返信いただければ幸いです。
  • 本日13時に▽▽(相手の氏名)さまに返信メールをお送りしております。念のため弊社のメールシステムの障害などを確認したところ、不具合などは発生していないようでございます。
    同様のメールを再送致しますので、大変お手数ですが、ご確認いただけますでしょうか。

こちらのミスで返信していない場合、前置きで謝罪します。謝罪のトーンは、相手に掛けた迷惑の度合いによって使い分けます。程度が軽いほうから順に、「失礼致しました」「申し訳ございません」「陳謝致します」などとなります。

また、本題はこちらからどのようなアクションを取るのかを記載します。なお、相手からの提案を断る場合などは、その旨をしっかりと伝えながらも、今後の関係性を考慮し、丁寧な回答をするように心掛けます。具体的には次の通りです。

  • お返事が遅くなり、大変失礼致しました。
    いただいたご提案の件ですが、社内で最終確認をしている最中でございます。
    明日5日の12時までに最終的なお返事をお送り致します。
  • お返事が遅くなり、大変失礼致しました。
    いただいたご提案の件ですが、社内で検討した結果、残念ながら条件が合わないため、このたびの採用を見送らせていただきたいと存じます。

3)フォロー・結び

フォロー・結びでは、相手に確認を促す場合は、「確認の手間を取ってもらって申し訳ないが、対応をお願いします」というニュアンスを伝えます。具体的には次の通りです。

  • ご多用中に恐縮ですが、ご確認のほど、何卒宜しくお願い致します。
  • もし、認識の相違がある場合は、その旨、ご連絡いただきたく存じます。

また、こちらから再度返信する場合や断る場合は、「もう少し時間をください」「今回は見送ります」というニュアンスを伝えます。いずれの場合も、丁寧な表現とし、かつ後ろ向きな言葉は避けるようにします。具体的には次の通りです。

  • お待たせして恐縮ではございますが、今しばらくお時間をいただければ幸いです。
  • 事情をご賢察の上、ご了承賜りますようお願い致します。

3 返信を催促されないように、日ごろから対策をしておこう

催促されてしまったときは、慌てず冷静に対応します。相手との関係性などを考慮して、電話で一報を入れて、状況の確認や謝罪をしたほうがよい場合もあります。

また、日ごろから心掛けておきたいのが、「催促されないように対策をしておくこと」です。「CCに自分以外の同僚を含めておく」「毎日就業前に、送信済みトレイをさっと見て、大切なメールの送り忘れがないかを確認する」などが考えられます。

この他に「すぐに回答できない場合は、メールを受領した旨と、いつまでに回答するかを記載して返信する」などを徹底しておけば、相手やCCに含めている同僚が、いつもと違って返信がないことに気付き、期日を過ぎてから催促されるといったことを防げるかもしれません。
 リモートワーク中などの場合は、相手にその旨を伝えておくことや、急ぎの場合は携帯電話に連絡をもらうよう、メールの署名欄に携帯電話の連絡先を追記しておくなどしてもよいでしょう。

自分なりに工夫して、「勘違いで返信が送れていない」「うっかり返信を忘れていた」といったことがないよう、日ごろから対策をしておきましょう。

また、こちらが催促をする場合は、【文例付き】上から目線にならない催促メールのマナーを参考にしてください。

4 (参考)メール送受信の仕組みを押さえておこう

普段どうやってメールが送られているのか意識することはありませんが、メール送受信の基本的な仕組みが分かっていれば、「送ったはずのメールが届いていないかもしれない」ときにも慌てふためいたり、何がどうなっているのか分からず悩んだりすることなく対応できます。実際には瞬時に行われていますが、メールは次の①~④の順で送信されます。

メール送受信の仕組み

①送信者がメールソフトなどでメールを送信すると、送信側のメールサーバに届く
②送信側のメールサーバはDNSサーバに宛先を照会し、DNSサーバが当該宛先のIPアドレスを返す
③送信側のメールサーバが受信側のメールサーバへメールを送信する
④受信側のメールサーバから、受信者がメールソフトでメールを受信する

メールサーバには、送信の役割を果たすSMTPサーバと、受信の役割を果たすPOPサーバまたはIMAPサーバがあります。POPサーバの場合、受信したメールはサーバ上には残らず端末にダウンロードされ、受信者はそのメールを読みます。IMAPサーバの場合、受信したメールはサーバ上に保存され、受信者はインターネットに接続してそのメールを読み込みます。

DNSサーバはドメイン名とIPアドレスを変換する仕組みを提供するサーバです。

送ったはずのメールが届かない原因はいろいろありますが、次のような事例もあるのは頭の片隅にとどめておくとよいかもしれません。

1.送信側のシステムで、メールを送信するのに上長の承認が要るのに、上長が承認するのを失念していた
⇒上長に連絡して承認してもらいましょう

2.受信側のシステムで、受信容量に上限があるのを知らずに、大容量のファイルを添付して送信した
⇒エラーメッセージが返ってきているか確認の上、ファイルを圧縮する、分割するなどデリバリー方法を相手に相談しましょう

3. SPAMメール送信元をリスト化し公開している団体(SPAMHAUSやSPAMCOP)のリストに何らかの原因でメールサーバのIPアドレスが登録されてしまった
⇒リストから除外してもらうように申請しましょう

なお、受信側のセキュリティ設定やメールソフトのフィルタ設定によってもメールが届かない恐れがあります。催促メールを送るときには想定できませんが、例えば「Bcc:」のみにメールアドレスを書いて一斉送信するのはSPAMメールや詐欺メールと誤認されても仕方ありません。気を付けましょう。

以上(2023年11月更新)

画像:MaDedee-shutterstock

中小企業が成長するために役立つ 「増資」の意味と方法

書いてあること

  • 主な読者:資本金を増やすべきかどうか悩んでいる中小企業の経営者
  • 課題:利益や資産・負債に比べ、開業後に資本金へ意識が向きにくく、資本金を増やすことで会社に何がもたらされるかがイメージしづらい
  • 解決策:増資は返済不要の資金調達で、資金回収が長期にわたる投資(設備投資など)に適している。また、社外からの信用度を高められる

1 開業時以外で、資本金を気にしたことはありますか?

「資本金をいくらにするか?」。開業時はいろいろと考えますが、開業後は利益や資産・負債に比べ、それほど気にする経営者は多くはないのではないでしょうか。実際に資本金を増やすと会社に何が得られるのかがイメージしづらい人も多いと思います。

開業後に、会社が資本金を増加させることを増資といい、一般的には、

資金調達のため

に株式を発行して行われます。資金調達以外にも、

金融機関や取引先といった社外からの信用度を高めるため

に資本金の額を大きくしたいというニーズもあります。

中小企業の経営者が増資を検討するきっかけはさまざまですが、最も多いのは事業拡大のための資金調達です。中小企業の資金調達手段には、金融機関からの借入が多いですが、資金需要の性質によっては借入より増資の方が適しているケースもあります。

この記事を読んで、増資にはどのような特徴があるのかメリット、デメリットを把握し、かつ増資の方法についても整理していきましょう。

2 増資のメリットとは

1)返済不要な資金が得られる

増資による調達資金は、借入金と違い返済義務がありません。返済期限を考えなくてもよいため、設備投資や研究開発など、資金回収まで時間のかかる投資のための資金調達手段としては、特に適しています。

2)財務体質強化による社外信用度の向上

増資により貸借対照表の自己資本(なお、借入金は他人資本という)が増えることで、財務体質が強化され、会社が安定して経営できているということを示すことができます。一般的には自己資本比率(総資産のうち自己資本が占める割合)が高いほど、財務体質が強い会社と判断されます。そのため、社外信用度の向上にもつながります。

3)株主による経営や事業運営のサポート

増資により新規に株主となる法人・個人から、会社の経営や事業運営のサポートを受けられることも多いです。株主は会社の経営上のリスクを共有しているので、基本的には会社のサポートに関し協力的です。

3 増資のデメリットとは

1)オーナーの持株の希薄化

オーナー以外の出資を受け入れることで、オーナーの株式保有割合は低下することになります(後述の株主割当増資による場合は、除きます)。オーナーの持株比率の低下により、オーナー以外の株主の意向も経営に反映する必要が生じるなど、経営の自由度が下がる可能性があります。

2)配当金の支払い

借入金のように金利負担がない代わりに、株主から配当の支払いを要求されることもあります。配当金を支払う場合、その資金負担が生じます。

3)税金増加の可能性

増資によって資本金が増加すると、税金が増加する可能性があります。資本金が1000万円未満の場合、設立から2年間は原則として消費税が免税となる他、その後も課税売上高が1000万円未満の場合、免税事業者となることを選択できます。また、法人住民税の均等割りに関する優遇もあります。

しかし、

増資によって資本金が1000万円以上となった場合、これらの優遇措置の対象外

となります。

さらに、資本金が1億円以下の会社には中小法人または中小事業者として法人税におけるさまざまな優遇措置がありますが、

増資によって資本金が1億円を超えた場合、この優遇措置の対象外

となります。

4)手続きにかかる金銭

増資を行うと登記が必要になりますが、

増加した資本金の額に応じて登録免許税(増加資本金の1000分の7、最低3万円)

がかかります。登記を専門家に依頼するのであればその報酬の支払いも生じます。

5)株主増加による負担の増加

株主が増加すると、株主対応に係る負担も増加します。たとえば、株主総会を開催するにも、会場の確保や招集通知の送付など、負担が生じます。

4 増資をする方法と手続き

1)第三者割当増資

第三者割当増資とは、

特定の出資者に株式を発行して増資すること

をいいます。出資者の候補としては、金融機関(投資ファンド含む)や取引先(仕入先・販売先)などが挙げられます。

後述の株主割当増資と違い、あらかじめ出資の意向がある相手を特定できることから、資金を集めやすいというメリットがあります。一方で、オーナー含め既存株主の保有割合が低下するというデメリットがあります。

手続きの主なものとしては、

  • 発行決議前に出資条件の協議
  • 原則として株主総会の発行決議(特別決議)
  • 発行決議後に出資者の募集・申し込み
  • 出資者確定のための決議(割当決議)
  • 増資後に発行済株式数と資本金額の変更登記

などが必要です。なお、必要な事項は会社によって変わることもあります。実際に増資する場合には、手続きに不備が生じないよう弁護士・司法書士など専門家のサポートを受けることをお勧めします。

2)株主割当増資

株主割当増資とは、

既存株主の保有割合と同じ割合で株式を発行して増資すること

をいいます。増資に応じるかどうかは各既存株主の判断となります。増資しても株主の保有割合が変わらないというメリットがありますが、他方で既存株主の資金余力・出資意欲によって調達金額が左右されるというデメリットがあります。

主な手続きとして、

  • 原則として株主総会の発行決議(特別決議)
  • 発行決議後に出資者の募集・申し込み
  • 出資者確定のための決議(割当決議)
  • 増資後の変更登記

が必要です。

3)公募増資

公募増資とは、

既存株主や特定の第三者に限らず、広く一般の投資家を対象に株式を発行して増資すること

をいいます。公募増資は原則として上場企業であることが前提となります。一般的な中小企業の増資方法は第三者割当増資か株主割当増資になるため、手続きの解説は省略します。

4)利益剰余金の資本組み入れ

新株を発行せず、会社の貸借対照表に計上されている利益剰余金を資本金に振り替えることで資本金を増やすことも可能です。主な手続きとしては、

  • 株主総会の普通決議
  • 資本金の増加についての変更登記

が必要です。

以上(2023年11月作成)
(執筆 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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【業務効率化】手軽に導入できる「電子印鑑」。その法的効力は?

書いてあること

  • 主な読者:働き方改革やDXの一環として電子印鑑の導入を検討している経営者
  • 課題:電子印鑑に法的効力があるのか不安。電子署名などとの違いも分からない
  • 解決策:電子印鑑に法的効力はないため、電子署名と組み合わせる必要がある。一方、そもそも請求書やほとんどの契約書に押印が必要なわけではない

1 電子印鑑に法的効力はない

働き方改革やDX(デジタル・トランスフォーメーション)が進む中、「電子印鑑」の導入を検討する会社が増えています。例えば、印鑑を押すためにわざわざ出社するというのは面倒なので、この問題を解決したいところです。

気になる電子印鑑の法的効力ですが、この点は次の通りです。

  • 法的効力なし:印影を模しただけの電子印鑑
  • 法的効力あり:電子署名法の要件を満たす「電子署名」

となると、リアルの印鑑はどうなんだということになります。この点については、「リアルの印鑑で押印されていると、本人の意思に基づいて文書が作成されたもの」と推定されることになります。以下の資料で詳しく解説されています。

■法務省「押印についてのQ&A」■

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00095.html

リアルの印鑑も電子印鑑も「誰が押印したか分からない」はずですが、単なる印影画像にすぎない電子印鑑はセキュリティーが脆弱であり、リアルの印鑑よりも信用性が乏しいといえます。つまり、効力が大きい順に並べると、

リアルの印鑑≒電子署名>電子印鑑

となります。

いずれにしても、働き方改革やDXを進めるための情報として、電子印鑑や電子署名などについて知っておくことは大切です。この記事で分かりやすく解説していきます。

2 電子印鑑・電子署名・電子サインは何が違う?

電子印鑑・電子署名・電子サインについては、いずれもコスト削減やビジネスの効率化というメリットがありますが、それぞれデメリットもあります。それぞれの法的効力やセキュリティーなどの違いを整理しましょう。

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1)電子印鑑

電子印鑑とは、

WordやPDFなどの書類データに押印できる印影画像

のことです。印鑑データは、ソフトを利用して印影(イラスト)を作成したり、実際の印鑑の印影をスキャンしてデータ化したりします。電子印鑑は、あくまでも「押印されているように見える」だけで、法的効力はありません。

2)電子署名

電子署名とは、

「電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)」の要件を満たす電子的な署名

のことです。要件を満たした電子署名は、

手書きの署名や押印と同等の法的効力

を持ちます。要件は次の2点です。

  1. 署名を行った本人によるものであることを示すこと
  2. 電子文書の内容が改変されていないことを確認できること

オンラインで契約書を交わす電子契約サービスは、電子署名を施すことで法的効力を担保しています。

3)電子サイン

電子サインは法律上の定義もなく、多義的に、また広範な意味で用いられています。前述した電子署名も含む用語であり、例えば、

パソコンなどに表示される申込書などに、指やタッチペンで行ったサイン

も含まれます。ただし、当然ながら、これだけでは電子署名にはなりません。

3 電子印鑑を利用する際はセキュリティーに注意

電子印鑑はなりすましや不正利用の懸念もあり、法的効力はないため、重要な書類については電子署名を用いなければなりません。なお、一部の電子契約サービスでは、

電子署名と電子印鑑を組み合わせて提供

しているので、これであれば、法的効力を担保しつつ、見た目も押印したようになります。電子署名があれば電子印鑑は不要ですが、「押印があると、なぜか安心」ということでしょう。また、雰囲気だけのものとはいえ、電子印鑑はセキュリティーが脆弱です。容易にコピーを作成したり、印影データを取り外したりすることができるので注意が必要です。

なお、有料サービスであるのが一般的ですが、印影データに使用者の識別情報を加えたり、コピー防止機能が付加されたりした電子印鑑もあります。単に印影をデータ化したものよりも信用力が大きく異なります。

4 電子印鑑もリアルと同じで使い分けが必要?

電子印鑑・電子署名・電子サインには大きな違いがあるので、目的に応じた使い分けが不可欠です。また、誰が確認、押印するか、どの書類にどの方法を利用するかについては、社内規程で定めておく必要があります。

1)請求書

日本には「ハンコ文化」があり、請求書に押印されることが多いですが、これは法令上の義務ではありません。そのため、押印なし、もしくは電子印鑑で請求書を発行しても、その効力に問題は生じません。ただし、取引先にあらかじめ説明・相談するなどの配慮は必要でしょう。

2)契約書

請求書と同じように、契約書にも押印しなければならないという法令上の義務はありません。ただし、契約書は、将来的な紛争発生時には証拠となることがあります。「文書が偽造された」「勝手に契約が締結された」などのトラブルを防ぎ、証拠として価値を有するものにしておく必要があるため、

電子印鑑だけではなく、電子契約サービスを導入して電子署名をすること

が必要でしょう。電子署名をすることができない場合は、契約相手とのメールなどのやり取りを記録・保存しておくことも有益です。

なお、定期借地契約や定期建物賃貸借契約などについては、法令上、電子署名が認められません。これらについては、従来通り書面によって契約書を作成し、押印する必要があります。

3)社内文書

稟議書などの社内文書(取締役会議事録などは除く)の形式について、法令上の定めはありません。そのため、電子印鑑でも問題ありません。ただし、誰が押印するのかなど、ルールは明確に定めておく必要があります。

注意を要するのは、

取締役会議事録については、法令で署名または記名押印が必要

とされていることです。議事録をデータで作成した場合、「署名または記名押印」に代わる措置として、電子署名をしなければなりません。

以上(2023年11月更新)
(執筆 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

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印鑑がいらない「電子契約」。便利そうだけど法的に有効なの?

書いてあること

  • 主な読者:電子契約に、どのようなリスクがあるのかを知りたい経営者
  • 課題:いろいろなサービスがあるけれど、無料のものでも法的に問題がないのか?
  • 解決策:当事者型と立会人型のサービスがあり、より好ましいのは当事者型

1 普及する電子契約。法的に有効なの?

すっかり普及してきた電子契約ですが、法的に有効なのか、トラブルにならないのかといったことを心配する人もいます。結論としては、電子契約は法的には有効ですが、立会人型といわれる一部のサービスでは、合意が成立したことや合意の内容を証明するための証拠としては十分でないとみなされる恐れがあります。

以降では、当事者型と立会人型のサービスや、方式の違いによる法的な問題点などを整理します。電子契約サービスを導入する際の参考情報としてお役立てください。

2 方式の違いによるメリット・デメリット

1)電子契約では電子署名が印鑑の代わりになる

電子契約では、電子署名が紙の契約書でいう印鑑の役割を果たします。電子署名とは、次の要件をいずれも満たす電子的な署名のことです。

  • 署名者本人の意思(本人が確かにその文書に署名をしたこと)が確認できる
  • 同一性(その文書が改ざんされていないこと)が確認できる

電子署名があることで、文書の成立の真正性が担保されます。「文書が真正に成立する」とは、本人の意思に基づいて文書が作成されたという意味です。電子署名の方式には大別して、当事者型と立会人型とがあります。それぞれ次のようなメリット・デメリットがあります。

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それぞれの方式には、2つの大きな違いがあります。この違いがメリット・デメリットを生む要因となっています。

  1. 電子署名を行う者
  2. 電子証明書の有無

2)立会人型でも一定の要件を満たせば、本人が行った電子署名に該当する

電子署名を行うのは、当事者型では当事者、立会人型ではサービス提供会社となります。

立会人型は手軽に導入できることから利用が広がってきたものの、グレーゾーンだという指摘がありました。法律では、「電子署名は当事者本人が行うこと」と規定されており、立会人型では、文書の成立の真正性が担保されず、証拠として認められないのではという懸念です。

2020年に公表された政府見解により、この懸念が一部払拭されました。政府見解では、立会人型についても、一定の要件を満たせば、当事者本人が行った電子署名に該当することが示されました。要件を簡単にまとめると次のようになります。

  • 利用者本人が署名したことを特定するための認証プロセスについて十分な固有性(注)が満たされていること
  • サービス提供事業者内部のプロセスについて十分な固有性が満たされていること
  • 電子契約サービスの利用者(署名者)の身元確認がなされること
  • (注)暗号化等の措置を行うための符号について、他人が容易に同一のものを作成することができないような場合に、固有性が満たされていると認められます。

3)当事者型は証拠力が高く、安心して利用できる

当事者型では、電子証明書が用いられており、立会人型よりも本人確認が厳格であるという点で、安心して利用することができます。電子証明書は紙の契約書でいう印鑑証明書の役割を果たします。当事者型は、押印+印鑑証明書が添付されているイメージです。

仮にトラブルになった場合も、誰が契約を締結したのかに加えて、それが本人の意思に基づく契約であると推定することができます。例えば、代表者の電子証明書や代表者から委任を受けた者の電子証明書を用いた電子契約は、契約権限のある本人(代表者)などが契約を締結したとみなされます。

一方、2)で紹介した一定の要件を満たさない立会人型では、電子証明書がなく、紙の契約書でいう押印だけです。誰が契約を締結したのか、権限のある本人が契約を締結したのかなどを確認するのが難しい場合があります。また、本人確認を行うためにメールアドレスにワンタイムパスワードを送るなどの方法が取られていますが、基本的にメールアドレスなどは、代表者の電子証明書などに比べて厳しく管理されていないことが多いでしょう。

そのため、契約の相手方に、「第三者が勝手に契約を締結した」「一社員が会社の承認を得ずに契約を締結した」などと主張されてトラブルになった場合、自社がそれを覆す証拠を示さなければ、契約自体が無効になる可能性もあります。このような点を考慮すると、立会人型は当事者型に比べて、証拠力が低いといえます。

3 トラブルを防ぐ視点

当事者型と立会人型はそれぞれメリット・デメリットがあるので、契約の内容や重要度などに応じて、当事者型と立会人型のサービスを使い分けることを検討してもよいでしょう。具体的には、次のようなことです。

  • 当事者型:代表者印で締結していた契約、金額の大きな売買契約など
  • 立会人型:認印で締結していた契約、定型的な業務委託契約など

立会人型のサービス全般に懸念があるということではなく、電子証明書に代わる本人確認を厳しく行っているサービスなどもあります。例えば、多要素認証などを行っているサービスです。多要素認証とは、知識要素(ID・パスワードなど)、所有要素(スマートフォンのSMS認証など)、生態要素(指紋など)について、2つ以上の要素を組み合わせる認証方式のことです。ID・パスワードとスマートフォンのSMS認証を組み合わせたものなどが該当します。

立会人型のサービスを検討する場合は、サービス提供会社に対して、どのような本人確認を行っているのか、証拠力が問われた場合のリスクの程度などについて、確認しておくとよいでしょう。

以上(2023年11月更新)
(監修 弁護士 八幡優里)

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【業務効率化】覚え切れないパスワード。メモや使い回しが絶対ダメな理由とは

書いてあること

  • 主な読者:情報セキュリティについて経営者から指示されている情報システム管理者
  • 課題:パスワード管理は個人任せで、パスワードの使い回しが横行している
  • 解決策:ID管理(アイデンティティー管理)ツール・サービスの導入を検討する

1 個人任せのパスワード管理は超危険!

オンラインサービスやアプリなど、システムの利用にID・パスワードは欠かせません。しかし、人間の記憶力には限界があり、複雑なパスワードをいくつも、ずっと覚え続けることは不可能です。

とはいえ、パスワード管理を個人任せにすると、次のように危険な状況になってしまいます。

  • パスワードを記載したメモを残してしまい(最悪なのはデスクに付箋で貼り付けてある状態)、情報漏洩につながる
  • 1つのパスワードの使い回しが横行すると、一度パスワードが破られたら、芋づる式にアカウントを乗っ取られる

この記事では、そんなリスクを抑えるために、組織としてパスワード管理をする方法、すなわち、

ID管理(アイデンティティー管理)ツール・サービスの導入

をご提案します。

2 ID管理ツール・サービスの例

ID管理ツール・サービスは、企業で運用するシステムにアクセスするのに必要な、ID・パスワードといったユーザー情報を一括管理するためのシステムです。国内外からさまざまなツール・サービスが登場しており、複数のシステムにおけるユーザー情報の管理ができ、新しい従業員が増えた場合の登録、従業員が退職した場合の削除などが可能なものもあります。

例えば、次のようなツール・サービスがあります。

■インターナショナルシステムリサーチ「CloudGate UNO」■

https://www.cloudgate.jp/lineup/uno.html

■GMOグローバルサイン「GMOトラスト・ログイン」■

https://trustlogin.com/

■Okta「シングル・サインオン」■

https://www.okta.com/jp/products/single-sign-on/

■1Password「1PASSWORD ENTERPRISE」■

https://1password.com/jp/enterprise-password-manager/

■エクスジェン・ネットワークス「Extic」■

https://www.exgen.co.jp/extic/

■HENNGE「HENNGE One」■

https://hennge.com/jp/service/one/

■Siber Systems「RoboForm for Business」■

https://www.roboform.com/jp/business

3 もう一度おさらい。こんなパスワード管理は超危険!

1)なぜ、パスワードの使い回しは絶対ダメなのか

例えば、2023年3月にエン・ジャパンの転職情報サイト「エン転職」において、第三者による不正なログインが発生した事案では、いわゆる「リスト型攻撃」が行われ、2000年以降の「エン転職」の登録者のうち、25万5765名分のWeb履歴書が不正ログインの対象となりました(退会者は除く)。

リスト型攻撃とは、何らかの手段により他者のID・パスワードを入手した第三者が、これらのID・パスワードをリストのように用いてさまざまなサイトにログインを試みることで、個人情報の閲覧などを行うサイバー攻撃です。

繰り返しになりますが、パスワードの使い回しが超危険なのは、他のウェブサービスやアプリにも不正アクセスされて、芋づる式にアカウントを乗っ取られる恐れがあるためです。同じパスワードを設定しないことが、リスト型攻撃を防ぐ方法の1つです。

2)1秒以内に破られる、使ってはダメなパスワード

プライバシーとデジタルセキュリティに関するソリューションを提供する大手プロバイダーであるNode Securityが公表する「Top 200 most common passwords」によると、日本では、「123456」「password」「1234」「12345678」「akubisa2020」「xxxxxx」「sakura」「303030」「12345」「123456789」などが最も一般的なパスワードとなっています。これらの大半は、1秒以内に破られてしまいます(「akubisa2020」のみ、破るのに5日間かかるようです)。

すぐ破られてしまうパスワードを使っていないか、確認してみるとよいでしょう。

■Node Security「Top 200 most common passwords」■

https://nordpass.com/most-common-passwords-list/

3)デバイス紛失時に漏洩しかねない「ウェブブラウザへの記憶」

ID・パスワードをウェブブラウザに記憶させておくこともできます。便利な機能ですが、デバイスを紛失してしまったときのことを考えると、あまり好ましくありません。比較的簡単な操作でID・パスワードが漏洩してしまう危険があります。

4)パスワードの定期的な変更が裏目に出ることも

これまではパスワードの定期的な変更が推奨されていましたが、最近は変わってきています。これは、

定期的な変更でパスワードの作成方法がパターン化することのほうが問題である

という考えが広まっているためです。内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)からも、パスワードを定期変更する必要はなく、流出時に速やかに変更する旨が示されています。

■内閣サイバーセキュリティセンター「インターネットの安全・安心ハンドブック」■

https://security-portal.nisc.go.jp/handbook/

以上(2023年11月更新)

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コミュニケーション活性化の場として社内勉強会を継続するためのポイント

書いてあること

  • 主な読者:社員同士のコミュニケーションの場として、社内勉強会を続けていきたい経営者
  • 課題:社内勉強会が一度や二度の開催で終わってしまって続かない
  • 解決策:社内の自主性に任せすぎず、ルールを決める(プレゼンテーマ、開催日のスケジュール、資料の事前準備)

1 なぜ社内勉強会が続かないのか?

有志の社員が集まって、特定のテーマについて知識の共有や議論を図る「社内勉強会」。社員の知識の底上げやコミュニケーションの活性化だけでなく、経営者や上司にとっても「参加する社員の人となり」「興味・関心のあるテーマ」「プレゼンの資料作りや話し方の傾向」などが分かるので、開催するメリットは大きいです。ただ、問題は

社内勉強会が一度や二度の開催で終わってしまって続かない

というケースが多いことです。

社内勉強会が続かない理由としては、次のようなものが挙げられます。

  • 業務に直結するテーマを続けると、講師を担当する社員のプレッシャーが高くなる
  • 開催日が場当たり的に決まるので、スケジュールが合わない社員が多い
  • 当日に資料が配られるので、参加者が事前に準備できず、意見交換が盛り上がらない
  • 次回の担当者やテーマが決まらず、どこか「なあなあ」になってしまう

社内勉強会が続かないからと、経営者がテーマを決めたり、運営に関与したりと口を出しすぎると、社員の姿勢が受け身になったり、やらされ感が出たりすることになりかねません。それでせっかくの社内勉強会が頓挫してしまっては本末転倒です。

まずは

社内勉強会が長続きするよう、一定のルールを決める

ようにしましょう。

決めたルールに基づいて、社内勉強会がある程度続いて軌道に乗ったら、社員の自主性に任せていけると理想的です。

そこで、この記事では、社内勉強会を軌道に乗せる手助けとして、社内勉強会を続けていくためのルール作りのポイントを提案します。

併せて、社内勉強会が長続きしている企業はどのような取り組みをしているのか、事例も紹介しますので、社内勉強会を長続きさせるためのヒントとして、ご活用ください。

2 社内勉強会を続けていくためのルール作りのポイント

1)「業務関係」以外にも、「趣味」「IT」など幅広いテーマを認める

社内勉強会のテーマを業務関係のものに絞る必要はありません。むしろ業務関係に絞ってしまうと、講師を担当する社員が「前回よりも質の高い発表をしなければいけない」とプレッシャーを感じたり、毎回内容が似通ってマンネリ化してきたりします。

勉強会は社員が知識を付ける以外に、社員同士のコミュニケーションを通して、その人となりが分かるといったメリットもあります。そうした意味では、

テーマの範囲をある程度自由にし、社員の趣味の分野についてプレゼンしてもらう

というのも1つの手です。あるいは、

若手の社員が業務・プライベートを問わず普段使っている便利なITツール

をテーマにし、よいツールがあれば、正式に社内で使ってみることもできます。

2)開催を不定期にしない

「思い立ったが吉日」とばかりにその都度社内勉強会の予定を組もうとすると、スケジュールが合わず参加者が集まりませんし、プレゼン担当者も資料などを準備する余裕がなくなります。また、開催が不定期で勉強会の間隔が空きすぎると、前回の内容を思い出しにくくなりますし、モチベーションも長続きしません。

社内勉強会をやると決めたなら、

「毎月第◯曜日の◯時から1時間」といった形で定期的に開催する体制を整え、社員のスケジュールに組み込んでもらう

ようにしましょう。開催日の1週間前など、日にちが近くなったタイミングでリマインドをするなどの小さな配慮もあるとよいでしょう。

なお、開催日のルールを決めるのは大切ですが、有志の集まりである以上、「あくまで自由参加である」という点は強調しておく必要があります。社内勉強会が自由参加の場合、その時間は原則労働時間になりませんが、開催日のルールを厳格にすると、社員の中には「参加が強制である」と誤解する人も出てくるでしょう。仮に会社が強制参加と社員に受け取られても無理のない対応をしていた場合、社内勉強会の時間が労働時間とみなされ、賃金を支払わなければならなくなるケースもあります。

3)資料を事前に共有、記録を残す

社内勉強会のテーマについて、資料がある場合にはあらかじめ参加する予定の社員で共有しておくようにしましょう。特にある程度専門的な内容を扱う場合、開催日当日に資料を渡されても内容が頭に入ってきません。逆に資料が事前にあると、参加者も事前に勉強した上で臨むことができ、意見交換も活発化します。

また、内容を頭に入れるという点では、ウェブ会議システムのレコーディング機能を活用して、社内勉強会の記録を残しておくのもよいでしょう(リモートで開催する場合)。そうすれば、次の社内勉強会まで日にちが空いたとしても前回の内容がすぐ思い出せますし、次回以降に講師役を担当する社員にとっても、資料作りや話し方などの参考になります。

4)次回の講師役を必ず決める

次回のプレゼン担当者やテーマの候補があらかじめ決まっていないと、勉強会が続かず自然消滅してしまう可能性があります。

勉強会の終わりのタイミングだと時間が足りず次回の講師役を決められなくなる場合は、勉強会の始めのタイミングで決めたり、スケジュールを決める段階でプレゼンを持ち回りで担当できるように指名したりしておくのもよいでしょう。

3 社内勉強会が長く続く会社の取り組み事例

ここでは、各社のリリースを基に、社内勉強会が長く続く会社はどのような取り組みをしているかの一例を紹介します。

1)プレゼンのハードルを下げて「ゆるく」続ける:NTTコミュニケーションズ

同社(東京都千代田区)では、昼休憩の時間を利用した社内ランチ技術勉強会「TechLunch」を9年にわたって開催しています。

元々はITに関する最新の技術や話題の技術に関するプレゼンをメインとしていたため、プレゼンを聞く社員にとっては刺激的でしたが、こうした状況が続くと、次の担当者にも技術的な内容が求められ、プレゼンのハードルが高くなるという課題がありました。

そこで、ラグビー経験者や、個人の趣味で日本酒やカメラをたしなむ人に経験や知識をプレゼンしてもらうなど、IT技術とは離れたテーマをプレゼン内容にすることで、発表に対するハードルを下げています。

また、「プレゼンをオフィスではなくリモートで行う」「時間帯は固定だが、プレゼン担当者が準備などをしやすいように、開催する曜日は任意に変更できる」などの柔軟な対応ができることも、社内勉強会を長く続けていくための大切な要素のようです。

2)運営のノウハウを残して負担を軽減する:HENNGE

同社(東京都渋谷区)では、エンジニアが技術的なテーマについてプレゼンしあう社内勉強会「MTS(Monthly Technical Session)」を100回以上開催しています。

毎回事前にプレゼン担当者を募集する形式で、業務の中で得た技術的な知見の共有や最新テクノロジーに関する話題、個人的な学習の成果などをテーマに情報交換をしています。

社内勉強会の運営は月替わりでプロジェクトチームが担当しています。プレゼン担当者の選定、設営準備、MTSの後に行う懇親会の準備などの運営に関するノウハウや手順を文書として書き起こしてあり、共有されるようになっています。こうした運営の仕組みを整えることで、社内勉強会が長く続いているといいます。

3)全社的に社内勉強会の内容を共有:モバイルファクトリー

同社(東京都品川区)では、社員のスキル向上を目的に1日1時間、業務時間内で社内勉強会を開催しており、10年以上継続しているといいます。

プレゼン内容は社員の主体性を尊重しているため、業務のノウハウの共有だけでなく、読書会や動画の視聴など多岐にわたります。

また、オンライン形式で開催することで、別の作業をしながらでも気軽に参加できるようになったため、社員が社内勉強会に参加するハードルが下がったとしています。

勉強会の資料はチャットツールのSlackで公開をしており、社員全員が閲覧できる状態になっています。公開資料に「いいね」や「コメント」などのリアクションがつくことでプレゼン担当者の達成感にもつながり、モチベーションを保つ要素になっているようです。また、社内勉強会を評価する仕組みとして、社員投票などによって良いアウトプットの事例を選出し、対象となった社員を表彰する制度もあります。

以上(2023年11月作成)

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【朝礼】「推しつ推されつ」の関係がビジネスを加速させる

おはようございます。今朝はビジネスにおける「推し活」についてお話しします。推しというのは、一言で表すなら「応援」です。もし、誰かと「推しつ推されつ」の関係になれたのなら、ビジネスの可能性は大きく広がります。なぜなら、推す力は、時として企業規模やブランドを超え、長く強く継続するものだからです。

私には、ビジネスにおいて推しつ推されつの関係になっている人が数人います。そのうちの一人は、仙台の取引先に勤める人で、東日本大震災をきっかけに親交を深めました。

その取引先には、当社の冊子を販売する予定でしたが、納品も終わり請求書を送ろうとしたところで、東日本大震災が発生しました。震災発生から数週間後、ようやく連絡が取れたときは相手の無事を心から喜び、冊子を販売ではなく寄付することにしました。取引先は、当社の冊子をお客さまに配る予定だったので、私は冊子を読んだ人々が少しでも元気になればと願ったのです。

その思いが相手に伝わって距離感が一気に縮まり、相手も自分の志などを話してくれるようになりました。やがて、部下たちも巻き込んだチームでの付き合いとなりました。仙台と当社がある東京は離れていますが、定期的に互いを訪問しては近況を報告し、刺激し合っています。

こうした関係はかれこれ10年以上も続いていますが、その間、取引先は当社が冊子を出せば、必ず購入してくれています。

他社からの営業も受けているとのことですが、当社を一番に採用してくれます。過去に理由を聞いたことがありますが、その取引先は、「単に付き合いが長いからという惰性ではなく、御社の志に共感しているからです」と話してくれました。

私は推すことと引き換えに何かを求めるわけではないので、取引先が冊子を購入してくれなくなっても関係は変わりません。もし、関係が途絶えるとすれば、当社と取引先のどちらかに、相手から推してもらえる理由がなくなったときです。

ここが重要なポイントです。企業規模、ブランド、一瞬の共感だけでは、長く強く推してはもらえません。「推してもらえるに足る努力を続けている」からこそ、まっすぐ推してもらえるのです。

ビジネスは人と人との関係であり、だからこそ「好き嫌い」もあります。この好き嫌いが進化したいまどきの形が推しなのだと思っています。人となりや志など、相手の内面を見て、共感し、応援していくということです。

そして、私たちが推してもらえるようになるために必要なのは、「発信と対話」です。「私たちは何者で、何を成し遂げようとしているのか。足元ではどのような活動をしたのか」をしっかりと発信し、相手と対話をして理解を深めてもらわなければなりません。皆さんには、ビジネスで推しつ推されつの関係になっている人がいますか。その人数は皆さんの発信力や活動量を測る物差しともいえるのです。

以上(2023年11月)

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画像:Mariko Mitsuda