ながら運転は禁止!​(2024/11号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

スマートフォンや携帯電話は、通話機能に加え、インターネット、メール、ゲーム等ができ、私達の生活に欠かすことのできない大変便利な機能を持つものになりました。

運転しながらのスマートフォンの画面注視や操作・通話などのいわゆる“ながら運転”は、画面・会話に意識が集中してしまい、周囲の危険を発見できず歩行者や他の車に衝突するなど、重大な交通事故につながり得る極めて危険な行為です。

運転しながらのスマートフォンの画面注視や操作・通話などは禁止!

1.携帯電話等使用による交通事故発生状況

運転中のスマートフォン画面注視など(以下、ながら運転) 、携帯電話等使用に起因する交通事故は、ながら運転に対する罰則が強化された改正道路交通法が令和元年12月に施行されたことや、広報啓発や交通指導取締り等の推進により、令和2年には大幅に減少しました。(図1)

携帯電話等使用による交通事故発生状況

しかし、令和3年以降、ながら運転による死亡・重傷事故件数は増加しており、令和5年には122件、全死亡事故に占める ながら運転事故の割合も1.24%と、最も多くなっています。

また、携帯電話等「使用」の場合は、「使用無し」と比較して死亡事故率※が4倍近く高くなっています。(図2)

※第1当事者が自動車(乗用車、貨物車、特殊車)の事故に占める死亡事故の割合

携帯電話等使用による交通事故発生状況

出典:警察庁「やめよう!運転中のスマートフォン・携帯電話等使用」
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/keitai/info.html (2024.10.16閲覧)

<ながら運転の違反別事故状況の特徴>

携帯電話等の画面注視や操作時は脇見運転が多くなり、これが事故発生の人的要因となる割合は78%(非使用時に対し約4倍)を占めます。一方で通話時は漫然運転と脇見運転を合わせると56%を占めます。通話時も、前方を見ているつもりであっても注意が散漫になり、周囲の確認が不十分になる傾向があります。

出典:(公財)交通事故総合分析センター「携帯電話等の使用が要因となる事故の分析」
https://www.itarda.or.jp/presentation/18/show_lecture_file.pdf?lecture_id=95&type=file_jp (2024.10.16閲覧)

2.“ほんの一瞬”が危険を招く

スマートフォンを見たり操作したりすることは「ほんの一瞬」であっても危険です。

ドライバーが運転中に2秒間以上視界が遮られると、危険を感じるといわれています。

車は2秒間で思った以上に移動します。その間、スマートフォンの画面を見るなどして周囲の視界が遮断されると、前車、対向車、歩行者等に気づくのが遅れ、ブレーキ操作等が間に合わず、追突、衝突もしくは歩行者等をはねるリスクが高まります。

時速60kmで走行している場合、2秒間に約33m進み、そこからブレーキをかけても停止距離が44mあるため、合計で約77mも進行してしまいます。

“ほんの一瞬”が危険を招く

3.ながら運転対策

ながら運転の危険性についてみてきましたが、「ほんの一瞬なら大丈夫」という気持ちを生じさせないために、“ながら運転は絶対にしない”という強い意識を常に持ち続けることが大切です。

ながら運転の危険性をいま一度認識し、安全運転を心がけましょう。

【ながらスマートフォン対策】

  • 着信で注意を奪われないよう、運転前に電源を切るか、ドライブモードに設定しカバンに入れ、そのカバンを後部座席に置く
  • スマートフォンを操作するときは、安全な場所に停車してから行う
  • ハンズフリー通話は、会話に気を取られ通常の通話と同じ危険度合いがあり、安全不確認や漫然運転といった安全運転義務違反につながる可能性があることを十分に意識する

<職場での取り組み>

  • ながら運転の撲滅に向け、油断が生じないよう、定期的に安全運転教育を行う
  • 運転をしている時間帯には、ドライバーへの連絡を控えるなど社内ルールを決める

以上(2024年11月)

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画像:amanaimages

【人事部DX】労働時間の管理や36協定の届け出をオンラインで行う

書いてあること

  • 主な読者:安全衛生や労働時間の手続きをオンラインで行いたい人事労務担当者
  • 課題:業務がリスト化されていないし、何がオンライン化できるのか分からない
  • 解決策:法定健康診断など一部を除き、オンライン化できる。2025年1月1日以降、電子申請が義務化される法定書類(定期健康診断結果報告など)があるので注意

1 手続きの多くはオンライン化できる(一部は義務化)

この記事では、人事労務の仕事を紙からデータに切り替えたい人向けに、

安全衛生や労働時間の手続きはどこまでオンライン化できるのか

をまとめます。一般的な安全衛生や労働時間の手続きは、原則オンライン化が可能ですが、図表1の赤字に注意が必要です。オンラインでの手続きの義務化という重大な制度改正があります。

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【法定書類の提出(定期健康診断結果報告書など)】

2025年1月1日以降、法定健康診断・ストレスチェック・労災(労働災害)・安全衛生管理体制に係る書類について、オンラインでの提出(電子申請)が義務化されます。

以降では「安全衛生の手続き」「労働時間の手続き」の2段階に分けて、労務管理のオンライン化のポイントを見ていきます。

2 安全衛生の手続き

1)法定書類の提出(定期健康診断結果報告など)

図表2の7つの法定書類については、

2025年1月1日以降、「電子政府の総合窓口(e-Gov)」によるオンラインでの提出(電子申請)が義務化

されます。ただし、電子申請が困難な事情がある場合、当面の間は経過措置として、従来の紙による提出が認められます。

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e-Govでは、インターフェースから該当する手続きを選択した上で、必要情報を入力し、電子証明書を添えてオンラインで手続きを行います。電子証明書を持っていない場合、GビズID(1つのIDでさまざまな行政サービスにアクセスできるサービス)による手続きも可能です。

なお、図表2の各書類は、厚生労働省「労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス」を使うと、ガイダンスに基づき入力した情報を、直接e-Gov経由で提出できます。入力した情報は端末に保存できるので、作業の一時中断や再申請なども可能です。

■電子政府の総合窓口(e-Gov)■

https://www.e-gov.go.jp/

■GビズID■

https://gbiz-id.go.jp/top/

■厚生労働省「労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス」■

https://www.chohyo-shien.mhlw.go.jp/

ここから先は、法定健康診断やストレスチェックについて、法定書類(図表2)以外の実務に注目し、オンライン化の可否、オンライン化する場合のポイントを紹介します。

2)法定健康診断

会社に実施が義務付けられている法定健康診断(定期健康診断など)は、採血や医療器具を用いた検査を行うため、基本的にオンラインでは実施できません。

ただし、予約はオンラインでできます。例えば、健康保険の「生活習慣病予防健診」(国からの費用補助の対象)を利用して法定健康診断を実施する場合です。国から費用補助を受けると言っても、手続き自体は健診実施機関に直接申し込むだけでよく、また、電話やウェブで予約ができる健診実施機関もあります。

また、健康診断結果は、データで保管することが可能です(医師等の電子署名や押印は不要)。

3)ストレスチェック、医師の面接指導

50人以上の会社に実施が義務付けられているストレスチェックは、オンライン化が可能です。ストレスに関する質問に社員が回答し、その結果を集計・分析できればよいので、クラウド型の健康管理システム(ウェブ上で質問への回答、結果の集計・分析を行える)などを利用するとよいでしょう。

ストレスチェックの結果はデータでの保管が可能で、社員本人への結果の通知もオンラインで行えます。ただし、ストレスチェックの結果は機微な個人情報なので、メールなどで通知する際は細心の注意が必要です。クラウド型の健康管理システムには、各社員の専用ページで結果を出力できるものがあるので、利用するのもよいでしょう。

また、会社はストレスチェックの結果、「高ストレス者」と判断された社員に対して、医師の面接指導を実施しなければなりません。この面接はオンラインでも可能ですが、実施に当たっては、次の条件を全て満たす必要があります。

  • 医師の属性(当該事業所の産業医であるなど)
  • オンライン面接に用いる機器の性能(医師と社員とが相互に表情、顔色、声、しぐさなどを確認できるなど)
  • 面接指導の実施方法(衛生委員会等で調査審議を行い、事前に社員に周知するなど)
  • 緊急対応体制(緊急の対応が必要な場合に、近隣の医師等と連携するなど)

医師の面接指導の結果は、社員に対する就業上の措置の検討に必要なため、会社にも伝えられます。結果の受け取りや保管の方法について法令に定めはありません。しかし、機微な個人情報なので、データのやり取りでは必ずパスワードをかける、必要最小限の関係者しかアクセスできないフォルダに保管するなどの対応が求められます。

4)労災保険給付の請求手続き(労災発生時)

社員が業務災害や通勤災害に遭った場合、通常は

  1. 会社が労災保険給付の請求書に「事業主の証明」をする
  2. 社員が請求書を所轄労働基準監督署に提出する(治療や薬剤の支給を無料で受けられる「療養(補償)給付」については、請求書は医療機関等経由で提出する)

ことで、労災保険給付を請求できます。

1.と2.の手続きは、e-Gov経由の電子申請が可能です。療養(補償)給付の場合は医療機関等が、それ以外の給付の場合は給付を受ける社員が電子申請を行います。ただし、社員、会社、医師(薬剤給付の場合は薬局)それぞれの電子署名が必要となるなど手続きが少し煩雑です。

取り急ぎ、1.の事業主の証明だけできればいいということであれば、会社にPDF編集ソフトがある場合、厚生労働省ウェブサイト(下記URL)から請求書のPDFをダウンロードし、事業主の証明の欄に直接必要事項を書き込むことでスピーディに対応できます(会社の押印は不要)。

例えば、療養(補償)給付の場合、社員は会社からメールなどで事業主の証明がされた請求書を受け取り、それを印刷して医療機関等の窓口に持参するといった具合です。

■厚生労働省「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousaihoken.html

5)安全委員会、衛生委員会の開催

安全委員会、衛生委員会(まとめて安全衛生委員会とすることも可)の設置義務がある会社は、毎月1回以上委員会を開催する必要があります。この委員会は、テレビ会議システムなどオンラインで開催できます(難しい場合は出席者がメールなどでやり取りする形式も可)。

委員会の議事の概要は、都度社員に周知する必要がありますが、こちらもメールなどオンラインで行うことが認められています。

3 労働時間の手続き

1)始業・終業時刻の把握

始業・終業時刻の把握は、次のいずれかの方法に則っていれば、オンライン化が可能です。

  • 客観的な方法:タイムカードの記録、パソコン等の電子計算機の使用時間の記録など
  • その他の適切な方法:自己申告制(社員への周知、労働実態の調査などが必要)

すでにオンライン化を実現している会社は、クラウド型の勤怠管理システムを導入しているケースが多いです。スマートフォンのアプリから打刻できるもの、業務用パソコンのログイン・ログアウトに連動して始業・終業時刻が自動的に記録されるものなどがあります。

一方、勤怠管理システムを導入していない会社は、エクセルやプレッドシートの出勤簿に入力するなどの自己申告制にしているケースが多いです。その場合、自己申告の内容と労働実態にズレ(隠れ残業など)がないか、ダブルチェック体制にしたり、抜き打ち調査などで随時チェックしたりする必要があります。労働基準監督署の調査などでは、運用面に関しても問われることが多いので、エクセルなどを用いて、出勤簿をクラウド上で管理できるようにしておくと便利です。

2)残業や法定休暇の申請手続き

社員が残業(時間外労働や休日労働)や法定休暇(年次有給休暇や育児・介護休業)を取得する場合、上司などに申請書を提出するのが一般的です。残業や法定休暇の手続きについては、基本的に法令に定めがないので、会社の判断でオンライン化できます。

育児・介護休業については、法令で申出の手続きが決まっていて、

原則書面で申請するが、会社が適当と認めた場合、メールなどでの申請も可能

というルールになっています。また、会社は育児・介護休業を申請した社員に、休業の開始日や終了予定日を通知する必要があります。この通知も原則書面で行いますが、社員が希望すればメールなどでも通知できます。

3)出勤簿、年次有給休暇管理簿、申請書などの保管

出勤簿や年次有給休暇管理簿は、労働基準監督署の臨検などがあった際、速やかに確認できる状態であればデータ保管が可能です。PDFで社内サーバー、勤怠管理ソフト、給与計算ソフトなどの中に保管するとよいでしょう。

残業や法定休暇の申請書、申請メールなどの保管について法令に定めはありませんが、出勤簿や賃金台帳と密接に関連するので、一緒に保管しておくのが望ましいでしょう。

4)36協定の締結、届け出

社員に残業を命じる場合、会社は過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)と36協定(労働基準法第36条に基づく労使協定)を締結し、毎年、所轄労働基準監督署に届け出る必要があります。

36協定は、電子契約書ソフトなどを使ってオンラインで締結することが可能です(労使ともに押印は省略可)。届け出もe-Gov経由で行うことができます。

以上(2024年11月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:Stokkete-shutterstock

【開催終了】「まんぷくマルシェ~おいしい、たのしい、大満足~by徳島大正銀行」開催!


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11/2(土)フジグラン北島(徳島県板野郡北島町)にて「まんぷくマルシェ~おいしい、たのしい、大満足~by徳島大正銀行」を開催いたします!

おいしいモノ、たのしいコトが集結!ぜひ遊びにお越しください。

【開催概要】

  • 日時 2024年11月2日(土)10:00~16:00
  • 場所 フジグラン北島@1F南側グランモール
  • 主催 徳島大正銀行
  • 協力 株式会社フジ/フジグラン北島

数々の名曲を生み出した音楽家・ベートーヴェン。彼の言葉から見える、「こだわり」を貫くことの大切さとは?

一時間の交響曲を書いたとしても、それはまだまだ、私には短すぎると思われるだろう

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンは、「楽聖」とも呼ばれる伝説的な音楽家です。交響曲第5番《運命》、ピアノ・ソナタ第14番《月光》など、彼が作り出した名曲は、誰しも一度は耳にしたことがあるでしょう。特に交響曲第9番(以下「第九」)は「人類最高の芸術作品」ともいわれ、日本では毎年、12月になると各地で演奏会が行われるのが恒例となっています。そして今年2024年は、ベートーヴェンが第九を作り出してからちょうど200年という記念すべき年です。

冒頭の言葉はベートーヴェンが第九を完成させるずっと前、交響曲第3番《英雄》の初演の際、「曲が長すぎる」との観客からの苦情に対して返した言葉です。《英雄》は演奏時間が約50分にも及び、内容も複雑で型破り。しかしベートーヴェンは、この苦情に全く耳を貸しませんでした。この言葉から約20年後に発表される第九の演奏時間はなんと約63分。1時間以上にも及ぶ傑作の姿が、当時の彼にはもう見えていたのでしょう。

ベートーヴェンは「こだわりの人」であり、自らの生業に決してぶれない軸を持っていました。彼は大学でフリードリヒ・フォン・シラーの「歓喜(フロイデ)」という詩に出会ったとき、その詩に曲を付ける構想を練り始めました。この「歓喜」が、現在の第九の第4楽章、歓びの歌の歌詞に当たります。構想を練り始めてから初演までは、約30年以上。しかも、初演までの間に、ベートーヴェンは病気で聴力を失っています。ですが、音楽家として致命的なハンデを抱えながらも、彼の軸がぶれることはなく、理想とする音楽の実現に生涯をかけて挑み、「こだわり」を貫き通しました。自身のこだわりについて、彼は生涯頑固でした。

一方で彼には、新しい才能や良いと思うものをどんどん吸収する、素直で好奇心旺盛な一面もありました。死の床にあっても、当時新鋭であったシューベルトの楽譜を毎日、何時間も読んで楽しんでいたそうです。

「こだわり」を貫くことは会社経営に不可欠な要素です。例えば、「わが社は、社会のためにこんなことを成し遂げるんだ!」という経営者の思いは会社の方向性を決める軸であり、そこがぶれないからこそ、社員は経営者についていきます。とはいえ、「自分がこうしたい」と思うだけでは、ただの独りよがりになってしまいます。ベートーヴェンが若きシューベルトを尊敬していたように、良いと思うものを素直に受け入れる柔軟な姿勢があって初めて、自分の「こだわり」をどうやって社会の中で実現すべきかが見えてくるのです。

ベートーヴェンが彼の「こだわり」を追求し、何十年もかけて実現して完成させた第九は、ベルリンの壁崩壊時の演奏や欧州連合の歌としての採用など、世界における特別な曲になりました。ベートーヴェンが大切にした「こだわり」は、今も確かに人の心に響き続けています。

出典:「ベートーヴェンは怒っている! 闘う音楽家の言葉」(野口剛夫(著)、アルファベータブックス、2020年12月)

以上(2024年12月作成)

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画像:AS Photo Family-Adobe Stock

税務調査の先にある税金“加算税”(2024年改正対応)

書いてあること

  • 主な読者:税務調査を受けた経験があまりない経営者
  • 課題:毎年納税の発生する法人税等とは異なり、税務調査などが入り、正しく申告・納税されていなかったときに、臨時的に課される加算税のことはあまり分かっていない
  • 解決策:加算税には過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税、重加算税がある。また、納税が遅れたことによる利子的な性格の延滞税も課される

1 最大の課税割合は50%。厳格化が進む加算税

加算税とは、

税務調査などで間違えが見つかったり、そもそも申告・納税を忘れていたりした場合に課される税金

です。毎年、申告・納税をしている法人税や所得税などと違って馴染なじみがないため、どのくらいの率(以下「課税割合」)が課されるのか、どういったときに課されるのかを知らない人も多いです。しかし近年、インターネットを介した取引が当たり前になり、高額な所得があっても無申告を繰り返す人が増えていることなどを背景に厳格化が進んでおり、しっかりと認識しなければならなくなってきています。

加算税には、

  • 過少申告加算税:正しい金額を申告していないと課される
  • 無申告加算税:期限内に申告をしていないと課される
  • 不納付加算税:源泉所得税の納付が遅れると課される
  • 重加算税:悪意を持って申告・納税をごまかすと課される

の4つの税金が設けられています。このうち最も重いのが重加算税で、最高課税割合は50%(一定の場合に限る)になります。

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それぞれの詳細を見ていきましょう。

2 【過少申告加算税】正しい金額を申告していないと課される

過少申告加算税は、

申告期限内に行った確定申告で納めた税金が少なかったり、還付される税金が多かったりすることを理由に、修正申告などをした場合

に課されます。

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ただし、税務調査が行われる前に行った修正申告(期限後申告に係るものは除く)には、過少申告加算税は免除されます。

過少申告加算税は、

新たに納付すべき税額×10%(新たに納付すべき税額が、期限内に確定申告をした納税額または50万円のいずれか多い金額を超える部分は15%)

の算式で計算した金額が課されます。また、帳簿を提示しなかった場合など一定要件に応じて、それぞれの課税割合に5または10%加えた割合となります。ただし、優良な電子帳簿システムの導入や保存(訂正や削除履歴が確認できるなど)が行われていると認められた場合には軽減され、新たに納付すべき税額に5%の課税割合を乗じて計算した金額が課されます。

3 【無申告加算税】期限内に申告をしていないと課される

無申告加算税は、

申告期限内に確定申告をせず期限後に行った場合や、期限後の確定申告について修正申告などをした場合

に課されます。

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ただし、期限後の申告であっても、

申告期限から1カ月以内に自主的に申告をし、かつ、過去5年間に無申告加算税や重加算税が課されたことがない場合

には、無申告加算税が免除されます。申告忘れに気付いたら早めに、かつ、日ごろから適切な税務処理・手続きを取っておきましょう。

無申告加算税は、

納付すべき税額×15%(納付すべき税額が50万円超300万円以下の部分については20%、300万円超の部分については30%)

の算式で計算した金額が課されます。また、帳簿を提示しなかった場合など一定要件に応じて、それぞれの課税割合に5または10%加えた割合となります。ただし、税務調査が行われる前に自主的に期限後申告などをした場合には軽減され、納付すべき税額に10%の課税割合を乗じて計算した金額が課されます。

なお、直近2年間(前年と前々年)に無申告加算税や無申告加算税に対する重加算税が課されていた納税者が、再び無申告を行った場合には、上記の15~30%の課税割合にそれぞれ10%が加算されます。

2024年1月の改正で、上記の

  • 無申告を繰り返す納税者に対する10%加算
  • 300万円超の部分の課税割合(30%)の設定

が行われ、無申告の繰り返しや高額な納税者の無申告に対して、従来よりも罰金が重くなりました。

4 【不納付加算税】源泉所得税の納付が遅れると課される

不納付加算税は、

源泉所得税が納付期限を過ぎた場合

に課されます。

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ただし、期限後の納税であっても、

過去1年間は期限通り納税をしており、かつ、今回の納付も期限から1カ月以内に納付した場合

には、不納付加算税は免除されます。

不納付加算税は、

新たに納付すべき税額×10%

の算式で計算した金額が課されます。ただし、税務調査が行われる前に自主的に納税した場合には軽減され、新たに納付すべき税額に5%の課税割合を乗じて計算した金額が課されます。

5 【重加算税】悪意を持って申告・納税をごまかすと課される

重加算税は、

上記のそれぞれの加算税が課されることになった事実が、意図的に隠蔽や、ごまかしたと判断された場合

に課されます。

重加算税は、

新たに納付すべき税額×課税割合

の算式で計算した金額が課されます。この課税割合は、元となる加算税(過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税)ごとに異なります。

  • 過少申告加算税・不納付加算税に代えて課される場合:35%
  • 無申告加算税に代えて課される場合:40%

さらに、過去5年以内に、無申告加算税または重加算税を課されたことがある納税者が、再び無申告を行った場合には、上記の15~30%の課税割合にそれぞれ10%が加算されます。

2024年1月の改正で、上記の

意図的な仮装・隠蔽を繰り返す納税者に対する10%加算

が行われ、無申告加算税に代えて課される場合には、最高50%の課税割合が適用されることになります。

以上(2024年11月作成)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:Dee karen-Adobe Stock

えっ!こんなときどうする?「企業の守り方」~フリーランスとの取引~

1 フリーランスとは?

最近、「フリーランス」という言葉を見聞きすることが多くなりましたが、そもそも「フリーランス」とは、どのように定義されているのかご存じですか?40年前から使われ始めた「フリー・アルバイター」を語源とした「フリーター」という言葉もありますが、「フリーター」とは異なる点は、実際に働く際の契約形態です。

「フリーランス」は企業や店舗には雇用されず、案件ごとに業務委託契約を締結するのが一般的で、「従業員を雇用しない個人もしくは法人」と定義されています。一方、「フリーター」は企業や店舗と雇用契約を締結することになり、非正規雇用ではあるものの、正社員や契約社員と同じ雇用契約という形態のため、「フリーター」は、労働者として法律の保護が受けられることになります。

「フリーランス」として働く人は、総務省の2022年の就業構造基本調査では257万人(いずれも副業を含む)がいるとされており、今後も増加すると見込まれています。これまで発注側の企業との取引におけるトラブルが増えていること、そもそも組織対応ができる企業側と個人として業務を受ける「フリーランス」との間に交渉力や情報収集力の格差が生じやすくなっていることを踏まえて、令和6年11月1日に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下 「フリーランス新法」)」が施行されました。
参考:フリーランス・トラブル110番【厚生労働省委託事業・第二東京弁護士会運営】

2 フリーランス新法とは?

「フリーランス新法」の趣旨は、主に個人として業務を受ける弱い立場であるフリーランス(当該法律では、「特定受託事業者」と称しています)が安心して業務を行えるような環境を整備することです。そのため、「取引の適正化」や「就業環境の整備」を図る目的として、発注側である企業に課せられる義務や禁止行為を下記のように定めています。

詳細は、厚生労働省のリーフレットをご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/001261528.pdf

◆義務

  1. ①取引条件の明示義務
  2. ②期日における報酬支払義務(60日以内)
  3. ③募集情報の的確表示義務
  4. ④育児介護等と業務の両立に対する配慮義務
  5. ⑤ハラスメント対策に係る体制整備義務
  6. ⑥中途解除等の事前予告・理由開示義務

◆禁止行為

  1. ①受領拒否の禁止
  2. ②報酬の減額の禁止
  3. ③返品の禁止
  4. ④買いたたきの禁止
  5. ⑤購入・利用強制の禁止
  6. ⑥不当な経済上の利益の提供要請の禁止
  7. ⑦不当な給付内容の変更・やり直しの禁止

【発注側】フリーランスへの業務依頼と取引条件明示の方法

【発注側】フリーランスへの発注における契約トラブル経験

出典:プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会
「フリーランス白書2024」

3 フリーランスでも時には社員!?

本法施行以前からも、フリーランスの労働者性を争った訴訟は少なくありません。遡ること40年前の昭和60年12月19日に労働基準法上の労働者の判断基準について「形式的な契約いかんにかかわらず、実態的な使用従属性」などを「総合的に勘案する」と整理されています。現在でも、実質的な雇用関係にあることはわかっていても、社会保険料の負担を避けるなどの理由で、社員をフリーランスと偽装するようなケースは少なくありません。

この法律施行以降は、発注者側の義務や禁止行為が明記されていることにより、発注者側である企業が本法に規定されている義務を履行しない限り、司法の場ではフリーランス保護に寄った判断を下す傾向が強くなるのではないかと思います。

以前、広告会社と業務委託契約を締結していたフリーランスカメラマンが、車で現場に向かう途中に渋滞をしている高速道路でトラックによる追突事故で負傷した事例で、労働者性が認められ労災から休業補償の支給が開始されました。その広告会社は、当時契約をしている複数カメラマンを専用アプリでシフト表を作ってスケジュールを管理していました。事故にあったフリーランスカメラマンは、事実上の雇用に当たるのではとして労災申請を行いました。その結果、実態として会社の指揮命令下で働く労働者と変わらないとして労災認定されたものです。最終的に会社側は労災保険料の支払いを求められています。

4 企業側の対策

企業側からしますと、昨今の人材不足で費用をかけてまで社員を採用して、さらに給与以外の福利厚生費や法定福利費、賞与、退職金などさまざまな人件費を負担することを考えれば、専門的なスキルやノウハウをすでに保有し報酬以外の費用負担も発生しないフリーランスに必要な業務を委託する方を選択することも自然な成り行きです。

ただし、上述の発注者側の義務を「①取引条件の明示義務」から順番に見ていくと、フリーランスと契約する際には、社員を雇用する場合とほぼ同様の義務を課されることになることが分かります。雇用契約のないフリーランスに対しても「④育児介護等と業務の両立に対する配慮義務」「⑤ハラスメント対策に係る体制整備義務」までもが企業側に求められています。

実際に、数年前に美容関係のフリーライターの女性が、エステサロンを運営する会社の代表取締役からセクハラを受けたとして損害賠償を求めて訴訟した事件がありました。裁判所は、その代表取締役の行為をハラスメントと認定し、その会社にも安全配慮義務違反が認められて150万円の支払いを命じた事件があります。社内だけではなく、社外であってもセクハラ、パワハラ等の要件は成立してしまいます。

本法の施行に伴い、フリーランスも労災保険に任意で特別加入することができるようになります。フリーランスと取引をする際には、労災保険の特別加入の有無を確認すること、未加入の場合には特別加入を推奨することをお勧めします。

また、すでに各種ハラスメントに関する社員教育を実施しているとは思いますが、改めてハラスメントは社内だけではなく社外にも及ぶことを周知するような研修を実施してください。

さらにハラスメントを起因とする損害賠償請求に備える保険にすでに加入をしているかも改めて確認していただくことなどで一定程度の企業防衛を図ることは可能と考えます。

労災保険の加入意向

出典:プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会
「フリーランス白書2024」

5 最後に

フリーランス新法違反が発覚した場合、公正取引委員会、中小企業庁長官、厚生労働大臣は違反事業者に対して助言、指導、報告徴収・立入検査、勧告、公表、命令という行政指導を行います。また、命令違反や検査拒否などがあった場合、50万円以下の罰金に処されるおそれがあり、企業の場合は行為者と法人両方が処罰の対象となることも忘れないでください。

以上(2024年10月作成)

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画像:nekokawaodori-Adobe Stock

【人事部DX】賃金の支払いや社会保険料の納付をオンラインで行う

書いてあること

  • 主な読者:賃金や社会・労働保険の手続きをオンラインで行うことになった人事労務担当者
  • 課題:具体的な業務が整理されていない。何がオンライン化可能なのか分からない
  • 解決策:健康保険「被扶養者状況リストの提出」など一部を除いて、オンライン化が可能

1 手続きの多くはオンライン化できる

この記事では、人事労務の仕事を紙からデータに切り替えたい人向けに、

賃金や社会・労働保険の手続きはどこまでオンライン化できるのか

をまとめます。一般的な賃金や社会・労働保険の手続きは、原則オンライン化が可能ですが、図表の赤字部分に注意が必要です。

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【法定書類(算定基礎届など)の提出】

健康保険の「被扶養者状況リスト」は、オンラインで提出できない。

以降では、「賃金の手続き」「社会保険の手続き」「労働保険の手続き」の3段階に分けて、労務管理のオンライン化のポイントを見ていきます。

2 賃金の手続き

1)賃金の支払い

給与明細は、社員の同意を得れば、PDFデータで交付したり、クラウド給与計算ソフトなどを用いてウェブ上で公開したりできます。賃金の振込についても、ネットバンキングを活用すれば、個々の社員の口座にオンラインで賃金を振り込めます。その際にお勧めしたいのが

「全銀協規定フォーマット」などを使った一括振込

です。これは全国銀行協会連合会(現:一般社団法人全国銀行協会)が定めた、多くの給与計算ソフトからCSV形式で振込データを出力できるフォーマットです。フォーマットをネットバンキングに読み込ませれば、社員数に関係なく一括振込が可能です。

また、労働基準法上、賃金は通貨で支払うのが原則ですが、労使協定の締結をした上で、賃金のデジタル払いを希望する個々の社員の同意を得れば、一定の要件の下、電子マネーによる「賃金のデジタル払い」(資金移動業者の口座への賃金支払)も可能です。

ただし、デジタル払いが認められるのは、厚生労働省の指定を受けた「資金移動業者」を利用する場合に限定されます。2024年8月9日時点で指定を受けている資金移動業者は「PayPay」の1社のみです。詳細については、下記をご確認ください。

■厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について」■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/shienjigyou/03_00028.html

2)法定書類の保管

次の書類は、社内で保管する義務がありますが、全てデータでの保管が可能です。

  1. 労働者名簿、賃金台帳、出勤簿(法定三帳簿)
  2. 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
  3. 給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書
  4. 給与所得者の保険料控除申告書
  5. 給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書
  6. 源泉徴収簿(作成は任意。年末調整の根拠資料として使用する場合には保管が必要)

1.は、常に会社に備え付けておかなければならない書類です。所轄労働基準監督署の調査などで提出を求められることがあるため、データで保管する場合であっても、すぐに画面上に表示したり、プリントアウトしたりできるようにしておく必要があります。

2.は、扶養親族の有無などを申告する際に、3.、4.、5.は、年末調整時に社員が会社に提出する書類です。いずれの書類についても、社員からデータでの提出を受けることが可能ですが、そのためには、

  • 社員からデータでの提出を受ける具体的な方法(電子メール等で送信する、USBメモリに保存して提供するなど)を定めておくこと
  • 提出されたデータが社員本人のものであると確認できるようにしておくこと(社員のマイナンバーカードなどで電子署名を行い、電子証明書を申告書情報と併せて送信する、申告書データそのものにパスワードを付す、社員に割り当てられた電子メールアドレスから送信するなど)

といった対応が必要です。具体的な方法は、国税庁ウェブサイトでご確認ください。

■国税庁「年末調整手続の電子化に関するパンフレット」(措置の内容については、「よくある質問」の問2-9に記載)■

https://www.nta.go.jp/users/gensen/nenmatsu/nencho_pamph.htm

また、税務署の調査などで提出を求められることがあるため、データで保管する場合であっても、上記と同様に、すぐに画面上に表示したり、プリントアウトしたりできるようにしておく必要があります。

6.は、毎月の源泉所得税の納付や年末調整を正確に行うために会社が任意に作成する書類です。税務署への提出義務はありませんが、年末調整の根拠として利用した場合には、紙またはデータでの保管が必要です。

3 社会保険の手続き

1)社会保険料の納付

社会保険料は、「口座振替」、「金融機関の窓口で納付」、「電子納付(Pay-easy)」のいずれかの方法で納付します。会社が毎月納付する社会保険料の額は、日本年金機構から送られてくる

  • 保険料納入告知額・領収済額通知書(口座振替の場合)
  • 保険料納入告知書(窓口納付、電子納付の場合)

に記載されています。上記各書類は、原則、紙で郵送されてきますが、原本を保管する義務はないため、スキャンをして、電子データで保管しても問題ありません。

また、保険料納入告知額・領収済額通知書については、「オンライン事業所年金情報サービス」を利用すれば、電子データで受け取ることも可能です。

上記の納付方法の中で、最も手間がかからないのは口座振替です。日本年金機構に必要書類(下記URL)を提出すると口座振替が可能になり、毎月末に納付すべき社会保険料が自動で引き落としされますので、会社側に振込の手間はかかりません。

■日本年金機構「健康保険厚生年金保険 保険料口座振替納付(変更)申出書」■

https://www.nenkin.go.jp/shinsei/kounen/hokenryo.html

口座振替を行わない場合は、ネットバンキングの口座を開設して、Pay-easyで電子納付を行うのがおすすめです。次の3つの手続きだけで、オンラインでの納付が完了します。

  1. ネットバンキングにログインする
  2. 操作画面から「Pay-easyによる支払」のメニューを選択する
  3. 「収納機関番号(00500)」、「納付番号(16桁)」、「確認番号(6桁)」を入力する

2)法定書類の提出

次の書類は、社会保険関連の手続きで定期的に提出が必要です。5.以外はオンラインでの提出が可能です。

  1. 算定基礎届
  2. 月額変更届
  3. 賞与支払届
  4. 被扶養者(異動)届
  5. 被扶養者状況リスト

1.は、毎年7月1日から7月10日(土日祝日に当たる場合には、翌営業日まで)の間に、2.は、2等級以上の社会保険料の等級変更があった場合に、3.は、賞与を支払った場合に、それぞれ日本年金機構に提出する必要がある書類です。なお、これらの各書類は、会社が電子証明書を取得していれば、「電子政府の総合窓口(e-Gov)」経由での電子申請が可能です。

■電子政府の総合窓口(e-Gov)■

https://www.e-gov.go.jp/

4.は、「子どもが生まれた」、「配偶者や子どもが就職した」などで被扶養者に変化があった場合に、日本年金機構に提出する必要がある書類です。1.から3.と同じく電子申請が可能ですが、健康保険被保険者証の受取や返却については、郵送での対応になります。

5.は、被扶養者(異動)届の提出漏れにより、被扶養者のままになっている配偶者や子どもがいないかを確認する書類で、健康保険の保険者(協会けんぽなど)から紙で送られてきます。こちらは必要事項を記入して、返信用封筒で保険者に返送することになります。

なお、1.から4.の書類については、提出後に次の通知書が発行されます。

  1. 算定基礎届 → 標準報酬決定通知書
  2. 月額変更届 → 標準報酬改定通知書
  3. 賞与支払届 → 標準賞与額決定通知書
  4. 被扶養者(異動)届 → 健康保険被扶養者(異動)決定通知書

電子申請で手続きしていれば、各通知書はブラウザー上で閲覧できる「XML」という形式で発行されます。データが正式な公文書として扱われますので、データのまま保管して問題ありません。

4 労働保険の手続き

1)労働保険料の申告

労働保険料は、毎年6月1日から7月10日(土日祝日に当たる場合には、翌営業日まで)までの間に1年分をまとめて申告・納付し、翌年度の当初に確定申告の上精算することになっています。1年分の賃金の見込額に基づいて予納し、翌年度に過不足額の精算が行われる仕組みです。

労働保険料を申告する場合、

労働保険概算・確定保険料/石綿健康被害救済法一般拠出金申告書

を所轄都道府県労働局又は所轄労働基準監督に提出する必要があります。この申告書はe-Gov経由での電子申請による提出が可能です。ただし、e-Govには保険料額を自動計算する機能などがないため、紙で申告する場合と同様、給与計算ソフトやエクセルなどで保険料額を計算する手間は発生します。

2)労働保険料の納付

労働保険料は、電子申請を行っている場合には、e-GovやPay-easyでの電子納付が、口座振替依頼書を金融機関に提出している場合には、口座振替による納付が、それぞれ可能です。

以上(2024年11月更新)
(監修 のぞみ総合法律事務所 弁護士 曽田駿希)

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画像:Stokkete-shutterstock

【人事部DX】社員の退職手続きをオンラインで行う

書いてあること

  • 主な読者:退職手続きをオンラインで行うことになった人事労務担当者
  • 課題:具体的な業務が整理されていない。何がオンライン可能なのか分からない
  • 解決策:原則全てオンライン化が可能

1 手続きは原則全てオンライン化できる

この記事では、人事労務の仕事を紙からデータに切り替えたい人向けに、

退職手続きはどこまでオンライン化できるのか

をまとめます。一般的な退職手続きは、原則全てオンライン化が可能ですが、図表の赤字に注意が必要です。

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【社会保険関連、税務関連の書類の取得】

健康保険関連の制度改正がある(2024年12月2日以降、健康保険被保険者証が廃止される。経過措置あり)

【法定書類(社会・労働保険関連、税務関連)の提出】

税務関連の書類は、電子証明書がないとオンラインで提出できない

以降では「退職前または退職日当日の手続き」と「退職後の手続き」の2段階に分けて、労務管理のオンライン化のポイントを見ていきます。

2 退職前または退職日当日の手続き

1)退職届の取得

退職届は、雇用保険の資格喪失手続きを行ったり、退職理由をめぐる労使トラブルを防止したりするために必要な書類です。社員本人が自分の意思で退職したことの証拠となるため、通常は直筆で署名捺印のあるものが望ましいとされています。

ただし、「一身上の都合で退職します」と記載されたメールなど、電子的な手段で退職の意思表示があった場合でも、直筆でない、署名捺印がないという理由だけで、退職届としての有効性が否定されることはありません。ポイントは、

社会通念上、本人が作成、送信したものに間違いないと推定できること

です。例えば、発信元のメールアドレスが、社員本人が管理し、他の人がログインできないものであれば、そのメールを退職届と同様に扱っても差し支えないでしょう。逆に、誰が管理しているか特定できないフリーメールなどを使用した場合、退職届として扱うのは難しくなります。

退職届を電子化する手堅い方法は、電子契約書ソフトを利用することです。例えば、

  • 退職する社員本人が管理をしているメールアドレスに会社側で作成した退職届のフォーマットを送って電子署名をしてもらう
  • 「退職合意書」を作成し会社と社員が相互に電子署名を取り交わす

といった形が想定されます。メールアドレスで社員本人を特定していることに加え、電子契約書ソフトによる電子署名が客観的かつ強固な証拠となるので、直筆で署名捺印がされた退職届と同等の証拠能力をオンラインで担保できます。

2)社会保険関連、税務関連の書類の取得

1.健康保険被保険者証(2025年12月2日以降、不要に)

従来は、退職する社員の健康保険被保険者証(本人分と被扶養者分)の現物を回収し、保険者(全国健康保険協会または健康保険組合)に返却しなければなりませんでしたが、

2024年12月2日以降は、健康保険被保険者証とマイナンバーの一体化に伴い、健康保険被保険者証が発行されなくなり(経過措置により、既存の健康保険被保険者証は最長1年間使用できる)、経過措置が終了する2025年12月2日以降、健康保険被保険者証の回収は不要(社員が自分で破棄してよい)

になりました。

2.退職所得の受給に関する申告書

退職金の支給を受ける社員は、「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出すると、退職所得控除の適用を受けられます。その場合、退職金に対する所得税が非課税または軽減された税額となります。提出しない場合は、支給額に対し一律20.42%が課税されます。

「退職所得の受給に関する申告書」は、オンラインでの提出も認められています。オンラインでの提出方法としては、「社員が押印したものをスキャナー保存してもらって、PDFなどでメール送信してもらう」という方法がありますが、

社員本人から間違いなく提出されたものであると識別できる必要

があります。識別性を持たせるためには、PDFそのものにパスワードを付すことや、当該社員がIDやパスワードを管理しているメールアドレスから送信させることが考えられます。

会社が税務調査などで「退職所得の受給に関する申告書」の提示を求められた際には、本人を識別できる方法で適正にPDFで受領していれば、原本の提示は必要ありません。

3)法定書類(雇用保険被保険者離職証明書)の作成

退職した社員が基本手当(いわゆる「失業手当」)を受給するためには、会社が所轄ハローワークに「雇用保険被保険者離職証明書」を提出する必要があります。雇用保険被保険者離職証明書は電子申請を前提として、「電子政府の総合窓口(e-Gov)」上またはその他の業務ソフト上で作成することができます。

手書きの離職証明書では、社員に「記載内容について異議がない」旨の署名捺印をしてもらいますが、電子申請の場合、社員側に異議がないことをどう証明するかが問題となります。解決策としては、例えば「離職証明書の記載内容に関する確認書」という書類を作成して社員に署名捺印をしてもらい、PDFで電子申請データに添付するという方法があります。

なお、e-Govで電子申請を行うには電子証明書が必要ですが、電子証明書を持っていない場合、GビズID(1つのIDでさまざまな行政サービスにアクセスできるサービス)による手続きも可能です。

■電子政府の総合窓口(e-Gov)■

https://www.e-gov.go.jp/

■GビズID■

https://gbiz-id.go.jp/top/

3 退職後の手続き

1)退職日までの給与、退職金の支払い

給与明細や退職金支給明細書は、社員の同意があればPDFなどで交付できます。この同意は入社時に得ておけば、途中で社員が撤回しない限り退職時まで有効です。

メールで給与明細を提供する際、最終給与や退職金の支払日は退職日後になることが通常なので、会社から付与されたメールアドレスが既に使用できなくなっていると、退職した社員に給与や退職金の明細を送付できません。そのため、セキュリティーに配慮しつつ、退職後も一定期間、メールアドレスを削除しないなどの対応が求められます。

同様に、クラウド給与計算ソフトなどを用いて、ウェブ上で給与明細などを公開している場合も、一定期間は退職した社員のアカウントを削除しないようにする配慮が必要です。例えば、退職後3カ月はアカウントを有効にしておいて、その間にダウンロードしてもらいます。

2)法定書類(社会・労働保険関連、税務関連)の提出

1.社会・労働保険関連

次の法定書類を提出する必要があります。

  • 健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届
  • 雇用保険被保険者資格喪失届
  • 雇用保険被保険者離職証明書

これらは全て電子申請が可能です。e-Govのインターフェースに直接情報を入力するか、業務ソフトを利用してAPI経由で申請をします。電子申請が受理されると、被保険者資格の喪失に関する通知や離職票の事業主控えがPDFで発行されます。PDFが原本扱いとなるので、データのまま社内のサーバーやクラウドストレージなどに保管しておけば大丈夫です。

なお、これまで現物の返却が必要だった「健康保険被保険者証」については、前述した通り、2024年12月2日以降、返却が不要になりました。

2.税務関連

税務関連では、次の法定書類を提出する必要があります。

  • 給与所得の源泉徴収票
  • 給与支払報告書
  • 特別徴収に係る給与所得者異動届出書
  • 退職所得の源泉徴収票

給与所得の源泉徴収票は、「国税電子申告・納税システム(e-Tax)」経由で電子申請が可能です。なお、提出のタイミングは社員の退職時ではなく、年末調整時となります。また、退職した年の給与等の支払金額が250万円(役員の場合は50万円)を超える場合のみ、提出が必要です。

給与支払報告書は、「地方税ポータルシステム(eLTAX)」経由で電子申請が可能です。こちらも、提出のタイミングは年末調整時となります。給与の支払金額の多寡にかかわらず、全ての退職者について提出が必要となるので注意しましょう。

特別徴収に係る給与所得者異動届出書は、eLTAX経由で電子申請が可能です。特別徴収を停止して、普通徴収に切り替えるための届出書ですので、提出のタイミングは退職時となります。

退職所得の源泉徴収票もe-Tax経由で所轄税務署にオンライン提出が可能です。ただし、提出義務があるのは受給者が法人の役員である場合のみで、社員が退職した場合は提出不要です。

なお、e-TaxまたはeLTAX経由で電子申請を行う場合、

現状は電子証明書の取得が必須(GビズIDは不可)ですが、e-Taxについては、2026年9月24日以降、GビズIDとの連携が可能になる予定

です。

■国税電子申告・納税システム(e-Tax)■

https://www.e-tax.nta.go.jp/

■地方税ポータルシステム(eLTAX)■

https://www.eltax.lta.go.jp/

3)社員への書類の送付

退職した社員本人には、次の書類を送付します。

  • 雇用保険被保険者資格喪失確認通知書(被保険者通知用)
  • 雇用保険被保険者離職票-1
  • 雇用保険被保険者離職票-2
  • 給与所得の源泉徴収票
  • 退職所得の源泉徴収票
  • 退職証明書(社員から請求があった場合)

これらの書類は、全てPDFでの送付が可能です。「雇用保険被保険者資格喪失確認通知書(被保険者通知用)・雇用保険被保険者離職票-1」「雇用保険被保険者離職票-2」は、e-Gov経由で電子申請をした場合、所轄ハローワークからPDFで発行されます。これを原本として扱い、そのまま退職者本人にメールなどで送付できます。

「給与所得の源泉徴収票」「退職所得の源泉徴収票」については、社員本人の同意を前提に、PDFで交付できます。ただし、本人から依頼があった場合は書面で交付します。

退職証明書に関しては、法令を解釈する限りでは書面に限るのか、PDFによるオンライン交付も可能なのかは明確になっていません。実務上の対応としては、少なくとも本人の同意がある場合は、PDFで交付をして差し支えないと考えてよいでしょう。

以上(2024年11月更新)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)

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画像:Stokkete-shutterstock

【朝礼】実は小心者? 藤原道長に学ぶ「勇気の見せどころ」

【ポイント】

  • 藤原道長の日記を読むと、豪胆に見えた彼の意外と小心者な一面が見えてくる
  • 道長は「いざというときに見せる勇気」で、人々を引き付けたのかもしれない
  • 何かにチャレンジする際はあえて言葉にすると、自分を奮い立たせることができる

今日は、平安時代の貴族「藤原道長」について話をします。皆さんもご存じ、自分の娘たちを天皇の后(きさき)にし、生まれてくる皇子の外祖父となって長期政権を築いた人物です。2024年の大河ドラマ「光る君へ」でも活躍が描かれていますね。そんな道長の人柄に関する話です。

世間でよくいわれる道長のイメージは「豪胆」。若い頃に行った肝試しで、兄たちが逃げ出す中で一人だけやり遂げた話や、弓の実力を競う競射の場で、「私の家から天皇や后が立つなら、この矢よ、当たれ!」と言って的の中心を射抜いた話があります。後年、道長の三女が天皇の后になった際、「この世をば 我が世とぞ思ふ(う) 望月の かけたることも なしと思へ(え)ば」という、藤原氏の栄華を喜ぶ歌を詠んだ話も有名です。

一方、道長の日記とされる「御堂関白記(みどうかんぱくき)」からは、彼の意外と「小心者」な一面が垣間見えます。例えば、ある年の正月に朝廷の儀式で手違いがあり、「私は儀式を主宰するのにふさわしくない」と吐露する場面や、天皇から難しい人事の注文を受け、承知してしまった後で「どうしよう……」と悩む場面があります。

本当のところは分かりませんが、私は道長のことを「本来は小心者で、『やるときはやる』タイプのリーダーだった」と考えています。道長は歴史上、特に優れた政策を実施しているわけではないのですが、それでも彼が長期にわたって政治の頂点に君臨できたのは、家柄などとは別に、普段は気が小さくても、ここぞというタイミングで「勇気」を見せる人柄が人々に慕われたからなのかもしれません。

道長の言葉にも注目です。弓の競射のエピソードで、彼が「私の家から天皇や后が立つ」と口にしたのは、「自分が実現したいこと」を明確に言葉にすることで、小心者である自分を奮い立たせるためかもしれません。後年の望月の歌も、見方を変えると、「藤原氏を永く栄えさせていく」という、道長の決意表明にも思えてきます。

普段は謙虚な人間が、いざというときに見せる勇気は人々を引き付けます。あえて言葉に出して、時には大胆なチャレンジをしてみましょう。

以上(2024年11月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

社員がキラキラ働き出す! 事業計画を策定する本当の意義

書いてあること

  • 主な読者:事業計画の重要性は認識しているが、実際には策定していない社長
  • 課題:事業計画の策定には時間がかかるし、社長(経営者)の頭の中にあれば十分では?
  • 解決策:事業計画は社員の成長のきっかけになる。社長と社員が一緒に事業計画を策定する

1 多くの社長が理解していない事業計画の意義

皆さんの会社では事業計画を策定していますか? もし策定していないとしたら、その理由は次のようなものかもしれません。

  • 策定するのに手間と時間がかかる
  • どうせ計画通りには進まないと思っている
  • 全て自分(社長)の頭の中にあるから大丈夫

この理由を見て「大体、そんな感じ」と思った皆さん、少しお付き合いください。今のままで放置していると、会社が次のような停滞ムードが漂う組織になってしまうかもしれません。

  • 経営方針は社長が決めていて、社員は指示に従うだけ
  • 足元の業務に追われ、目線を上げて検討できない
  • 良くも悪くも安定していて刺激がなく、社員に向上心が芽生えない

事業計画がない会社の社員は、

明確な目標と活動のよりどころがなく、目標を達成しようとする推進力もない状態

で働いているところがあり、経営が安定している会社ほど「ゆでガエル」状態に陥る恐れがあります。もちろん、事業計画さえあれば万全というわけではありませんが、

社長の頭の中にある見通しや、今、力を入れている事業の重要さが社員に共有されれば、社員は日々の頑張りが「何のためであるのか」を理解できる

ようになります。積極的な社員は目標達成のために必要な能力を得ようと自発的に勉強しますし、社外とのつながりを広める社員もいるでしょう。こうした社員がいる中小企業は強いです。

このように、事業計画は、

事業を定義し、その進捗を管理するだけでなく、組織を作り、社員の成長を促すもの

です。この記事では、「事業計画(利益計画・販売計画)」の一般的な内容を紹介しますが、

裏ミッションとして「社長にしかできない組織作り」

を意識していただければ幸いです。

2 事業計画で社員は全てを理解する

事業計画とは、

当期の経営目標を達成するための計画

です。事業計画に必ず盛り込まれるのは、

  • 利益計画:目標となる売上高や利益をまとめたもの
  • 販売計画:顧客別や商品別の売上高(販売数量)をまとめたもの

です。詳細な「数字」が記載されているので、金融機関などとコミュニケーションを図る際も役立ちます。この他、例えば人員を増やす場合や新規事業を始める場合は、その計画を詳細にまとめたりします。

いずれにしても、事業計画には会社全体の取り組みがまとめられています。また、「どの程度いけそうなのか?」といった肌感覚も盛り込まれるため、事業計画の策定に社員を巻き込めば、社員は会社の多くを知ることができます。大企業では、

社長→(ここが遠い)→経理本部→本部長→部長→課長→社員

といったコミュニケーションになりがちですが、中小企業では、

社長→全ての社員

といったコミュニケーションも可能です。社員からすれば、

利益計画・販売計画といった具体的な数値について、社長がどのような思いやロジックで考えているかを間近で見ることができる

という、貴重な経験になるわけです。

3 利益計画策定のポイント

1)利益計画は具体的な行動まで落とし込む

ここからは、少し実務的な話をします。

利益計画とは、目標となる売上高や利益をまとめたもので、いわば計画年度の予測損益計算書(予測P/L)です。事業計画の策定は利益計画から検討するのが一般的ですが、それは会社が達成すべきゴールを示すのが利益計画になるからです。

ゴールが決まると現状とのギャップも明らかになりますが、それだけでは社員はそのギャップを埋める具体的な行動を起こしません。ですから、利益計画の数字を達成するための具体的な行動まで落とし込む必要があります。例えば、当期純利益を前年度比20%増に設定する場合、

どの商品の販売を強化すべきなのか(販売計画)を、全社的な課題と位置付けた上で、具体的に検討していく

ことになります。

2)フォーマットは損益計算書に合わせる

利益計画の進捗管理をスムーズに行うために、利益計画のフォーマットは損益計算書と同じにするのが基本です。また、実現性・妥当性のある利益計画にするために、科目は細かな単位まで落とし込みます。細分化の基準は、

経理が使用している勘定科目や補助科目

です。さらに、年度の金額を月次で細分化します。支店(店舗)や部門が複数ある場合は、「支店(店舗)別・部門別」でも細分化するとよいでしょう。

3)当期純利益から逆算するのが基本

損益計算書は「売上高-費用=利益」という構成になっていますが、利益計画では、

目標利益=達成可能売上高-許容費用

と考えます。言葉を変えると、まず獲得すべき目標利益があり、それを達成可能な売上高の中で実現するために許容できる費用を算出します。会社の状況などによりますが、達成すべき目標登記純利益は、「企業(社長)の目標額」「過去数年間の実績額」「資金計画(借入金計画、資金調達計画など)」などを勘案して検討します。

借入金の返済などを考慮した当期純利益は、次の計算式で算出できます。

目標当期純利益=予定借入金返済額+予定配当金額+目標社内留保額-予定減価償却費

目標当期純利益を決定したら、損益計算書を下から上っていくイメージで費用を検討します。

  • 法人税などを加えて税引前当期純利益を算出する
  • 特別損益がある場合はこれを加減して経常利益を算出する
  • 営業外損益を加減して営業利益を算出する
  • 販売費・一般管理費を加えて売上総利益を算出する
  • 最後に売上原価を加えて必要な売上高を算出する

といった具合です。この際、不要な費用は削減していきますが、実現性・妥当性が重要です。無理に費用を削減して、見た目だけ筋肉体質の利益計画としても意味がありません。また、支出額を予測しにくい費用は、前年度実績を目安に計上するとよいでしょう。

4 販売計画策定のポイント

1)「顧客別」と「商品別」に検討する

販売計画は、利益計画で策定した売上高や売上総利益(粗利益)などを、顧客別・商品別に展開した計画であり、

  • 顧客別販売計画:顧客別に売上高などを検討する
  • 商品別販売計画:商品別に売上高などを検討する

が基本となります。

例えば、小売業など不特定多数、あるいは小口取引が中心の会社は、顧客別販売計画の策定にあまり意味がなく、商品別販売計画がメインとなります。一方、製造・卸売業など大口顧客との継続取引が中心の会社は、顧客別販売計画と商品別販売計画の両方を策定します。

2)実現性・妥当性がある計画を策定する

販売計画でも実現性・妥当性が求められます。社員を巻き込みながら販売計画を策定する場合、「目標利益を達成する!」という強い思いが社員に芽生えるのはよいのですが、実現が難しいチャレンジングな販売計画になってしまうことがあります。

気持ちは大事です。しかし、確たる根拠もないまま希望的観測に基づいて見積もられた販売計画は意味がなく、時間が進むほどに未達成が大きくなってきつくなります。必ず具体的なアクションプランとセットで考えましょう。

3)攻める順番を決める

販売計画の実現性・妥当性を高める戦略の考え方は、確実性の高いところを攻めることです。販売先(既存顧客・新規顧客)と商品(既存商品・新商品)に分けた場合、次のようになります。

  1. 既存顧客への既存商品の販売額
  2. 既存顧客への新商品の販売額
  3. 新規顧客への既存商品の販売額
  4. 新規顧客への新商品の販売額

これは、過去の販売実績や市場のトレンドなどに基づいて優先順位を付ける考え方です。「1.既存顧客への既存商品の販売額」は、最も確実性が高くなります。逆に「4.新規顧客への新商品の販売額」は未知であり、販売計画の精度は落ちます。

ただ、これはあくまでも一例です。新規事業にチャレンジしている場合などは、当然、「4.新規顧客への新商品の販売額」を検討することになります。

5 社長と社員が一緒に事業計画を遂行する

事業計画は策定して終わりではなく、遂行しなければ意味がありません。教科書的に言えば、

月次単位で実績を把握して、事業計画との差異を分析して対策を講じる

ことになるのですが、この説明に具体性はありません。

事業計画の遂行についても、月次で全社ミーティングを行い、全社的に共有するのが望ましいでしょう。メンバーはいずれ絞っていけばよいですが、当初は会社が本気で事業計画を運営していることを周知するため、全社員に参加してもらいます。そうする中で、自社に合った方針が固まっていきます。例えば、計画と実績にプラスマイナス5%の差異が生じた場合、その理由を追及する会社がありますが、ただそれをまねするだけでは現場の実務負担が増すだけです。

中小企業には中小企業のやり方、自社には自社のやり方があります。「プラスマイナス15%になった差異から注目する」など、自社にとって無理のないルールを決めればよいですし、見るべき数字を絞ってもよいでしょう。とにかく、

社長と社員にとって事業計画が常に意識される存在

になれば成功です。

また、会社にはチャレンジしなければならないときがあります。そうしたときこそ、この記事で紹介したように全社一丸となって事業計画を策定し、推進していければ理想的です。それが会社と社員の大きな成長につながります。

以上(2024年10月更新)

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