笹島建設創業者・笹島信義。黒部ダム建設の際、リスクを伴う事業の継続を決めた彼の使命感が分かる一言とは?

我々には、いかに困難で危険な工事であっても、成し遂げなければならない事情があった

笹島信義(ささじまのぶよし)氏は、1956年から1963年にかけて行われた黒部ダムの建設において、最も困難な工事といわれる「大町2号トンネル工事」を成し遂げた作業班の中心人物です。この工事が難航を極めた理由は、作業班が着工2年目に遭遇した破砕帯(はさいたい)にあります。破砕帯とは、岩盤の中で岩が細かく砕けた、通常よりもろく崩れやすい地層のことですが、1957年、その破砕帯から人が吹き飛ばされるほど大量の地下水と土砂が噴出し、トンネル工事は中断を余儀なくされたのです。

冒頭の言葉は、笹島氏が自身の著書の中で、トンネル工事の今後を検討する委員会が開かれたときのことを振り返って述べた言葉です。委員会には、学者や技術者などの有識者が招かれましたが、破砕帯の脅威が未知数だったことなどから、工事の続行については否定的な意見が飛び交いました。しかし、笹島氏は有識者の前でも、「冬になれば、水が減り、トンネルを掘れるようになると思う」と言って、工事の続行を強く望みました。

笹島氏の心の内には、ある使命感がありました。それは「戦後の荒廃と虚脱から抜け出し、日本の産業を興隆させるために、何としても電力不足を解消する」というもの。当時の日本は日常的に停電が繰り返され、工場は停電のたびに作業を休止しなければならないなど、深刻な電力不足に陥っていました。だから、笹島氏は「この工事の本当の発注者は、国家であり国民である」と考えて、文字通り命がけで工事に取り組んでいたのです。

冬になると、笹島氏の言った通り坑内の水が減少し、工事再開が可能となりました。そして、破砕帯との遭遇から7カ月後、最後まで諦めなかった作業班はついに破砕帯を突破、1958年に大町2号トンネルは無事開通したのです。

ビジネスでは、経営者が会社の進むべき道を決める際、常に何らかのリスクが付いて回ります。ノーリスクで成功を得られるケースはゼロに等しく、時には「社員に負担を強いるかもしれない」「失敗したら会社が傾くかもしれない」といった大きなリスクを背負いつつ、困難なことに挑戦しなければならないケースもあります。

そんなときに経営者を支えるのは、「わが社はこの事業を通じて、社会のためにこんなことを成し遂げるんだ」という強い使命感です。笹島氏は、破砕帯との遭遇によりトンネル工事の危険性が新聞などで取り沙汰されるようになった際、作業員たちが家族から反対されて現場を離れてしまうことを危惧しましたが、実際はほとんどの作業員が現場に残ったそうです。それは、「自分たちがトンネル工事で日本を支えるんだ」という笹島氏の使命感が、作業員たちの誇りとなり、自分事として共有されていたからです。いつの時代も、経営者の本気の思いは社員を突き動かし、困難な壁を突破する力となるのです。

出典:「おれたちは地球の開拓者:トンネル1200本をつくった男:大事にしたい日本人の生き方」(笹島信義、ベストブック、2010年10月)

以上(2023年10月作成)

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事業承継やM&Aの事前準備としての効用も!中小企業にも求められる内部監査

書いてあること

  • 主な読者:内部監査の実施を検討している中小企業の経営者
  • 課題:内部監査を活用し、会社に存在する可能性のあるリスクをどう識別・対応すべきか
  • 解決策:内部監査の概要や実施事項、ポイントなどを理解し、調査項目や留意点を確認する

1 なぜ、中小企業も内部監査を行ったほうがよいのか?

内部監査とは、

  1. 社内規程や業務マニュアルなどの自主ルールが、現状と照らして適切かの検証
  2. 企業の中の組織や個人が、当該ルールを守っているかの検証
  3. 当該ルールを逸脱した実務が行われている場合などに、改善や予防のための助言や勧告

を行う取り組みです。上場企業や会社法上の大会社にとって内部監査は義務ですが、中小企業は任意です。実際、内部監査を行っている中小企業は少ないのですが、この記事では、次のような理由から中小企業に内部監査の実施をご提案いたします。特に、長い間、担当者や業務の遂行方法が変わっていないような中小企業は、この記事を読んでみてください。

  • 内部監査がないと不祥事が長期間見過ごされ、発覚したときの被害が甚大になる
  • 事業承継やM&Aを控えている場合、後継者や買収元へ引き継ぐ会社の状態をチェックする意味合いで有用になる

2 内部監査の実施フロー

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1)年度計画の立案

内部監査を担当する部門の年度計画を策定します。とはいえ、人的・時間的リソースには限りがあるので、

リスクの高い順番に内部監査の対象とする(リスク・アプローチ)

ようにします。通常、年度計画には、

  • 内部監査のテーマ
  • 内部監査の対象
  • 内部監査を行う部門の社員(以下「内部監査部員」)
  • 内部監査の実施に必要な費用

が織り込まれ、適切な承認者(経営者や取締役会など)に報告の上、承認を得ます。なお、内部監査は独立性の確保が重要になるため、内部監査部員は、監査を受ける部門とは関連のない人物にする必要があります。

2)業務計画の立案

業務計画は、年度計画で絞り込まれた内部監査のテーマのうち、重点的に見るべき具体的な項目を要約したものです。ここでも前述したリスク・アプローチに基づいて実施します。

リスクの高い項目を絞り込む際は、監査対象となる拠点の概要を把握する必要があるため、拠点の担当者に事前に監査があることを伝え、

予備調査:概要インタビューや関連規程類の閲覧

を行って、スムーズに本調査につなげることがあります。ただし、不正調査の場合は、事前通知をしないこともあります。

3)事前準備

計画が策定されたら、

  • 内部監査部員の作業内容や作業に対応するリスクなどをまとめた内部監査手続書の作成
  • 監査実施通知書(内部監査の概要)の作成と監査対象拠点への通知
  • 監査対象拠点との日程調整

を行います。

限られたリソースで一定の要求水準を満たすには、内部監査部員の努力はもちろん、監査対象となる拠点が質問に正確に回答したり、依頼された資料をきちんとそろえたりするなど協力が不可欠です。

4)監査現場作業

実際に監査対象となる拠点に赴き、予備調査で得た情報と、事前準備で作成された内部監査手続書に基づいて監査手続を実施します。監査手続の手法はさまざまで、例えば、次のような作業が挙げられます(下記以外にも、再実施、分析、計算調べなどがあります)。

  1. 質問:内部監査部員が監査対象となる拠点の責任者や担当者に質問して、回答を得る
  2. 閲覧:関連規程やマニュアルなどの文書を読み、ルールの存在を確認する
  3. 照合:一致すべきデータ同士を突き合わせ、整合性を確認する
  4. 観察:実際に業務を実施している現場に赴き、業務・設備などの状況を確認する

「最もスムーズにリスクを確かめられる手続きはどれか?」を意識しながら選択するのですが、内部監査手続書通りに監査手続を進めても、想定外のリスクが判明するケースがあります。その場合、新たに判明したリスクの内容とその重要性を勘案しながら、追加の監査手続を実施すべきか否かを検討します。

また、内部監査は限られたリソースで行うため、全ての項目・取引に対して漏れなく監査手続を実施することは難しいです。そのため、取引全体の母集団からサンプル(判断に必要な一部の資料)を抽出して、監査手続を実施する「サンプリング」を採用するのが一般的です。

5)監査調書の作成

監査調査とは、

実施した内部監査手続とその結果を記録し、経営者に提出される内部監査報告書上の結論のベースとして使用されるもの

です。監査調書は、

  • 個別の監査手続の実施内容と結果が記載される個別監査調書
  • 個別監査調書の内容をまとめた総括監査調書

に大別されます。

個別監査調書は、実施された監査手続によって監査調書のフォーマットも変わりますが、例えば、次のような形式が挙げられます。

  • 議事録:質問実施日、出席者・回答者、質問項目や議題、回答内容などをまとめたもの
  • フローチャート:質問などによって把握した業務の流れを図にして可視化したもの
  • 照合シート:照合した書類の結果をまとめたもの

監査手続が終了した段階で個別監査調書が作成され、総括監査調書に転記・要約します。総括監査調書は、内部監査部門の責任者が内部監査報告書の作成に際して、各監査項目について問題点が識別されたか否かを正確に判断できるように、簡潔に記載します。

6)結果の検討と報告書の作成

現場作業の最終日、監査現場作業の結果について、監査対象の拠点の責任者などと協議する講評会を開きます。特に、

不備事項に関する事実確認や、不備を解消するための改善活動(効果的かつ実現可能であること)

は重要な協議事項です。十分な協議を行わずに事実確認を誤ってしまうと、本来は不備ではない内容や、非現実的なスケジュール感での改善活動の実施案が報告書に記載されてしまいます。

講評会や監査調書をベースとして、最終成果物である内部監査報告書を作成・発行します。内部監査報告書のフォーマット例を紹介しますので、参考にしてください。

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7)改善指示、フォローアップ監査

報告書に記載された不備が放置されたままでは問題です。そのため、拠点において計画通りに改善活動が行われているかを確認する、フォローアップ監査を実施します。フォローアップ監査では、

報告書に記載された「何を」「いつまでに」実施するかの改善案に基づいて、改善活動が行われているかを確認

します。フォローアップ監査も内部監査の一環であることを認識しましょう。

8)コンサルティング業務への発展

ここまで紹介してきた内部監査の実施フローは、主に整備された業務が想定通りに運用されているか否かを確認・報告する機能(保証機能)です。この他、内部監査には、会社の発展にとって最も有効な改善策を助言・勧告する機能(助言機能)もあります。特に「6)結果の検討と報告書の作成」において、報告書に改善提案を記載した場合は、助言機能の一例になります。

さらに、もう一歩進んだ助言機能として、コンサルティング業務も考えられます。さまざまな拠点などを独立した立場で把握する内部監査では、多くのノウハウが蓄積されるため、そのノウハウを活かしたコンサルティングを依頼されるケースが想定されます。例えば、

  • 新規業務プロセスに必要な内部統制についてのコンサルティング
  • 社内講師としてリスク管理体制、内部統制に関連した研修を実施

などが挙げられます。

なお、コンサルティング業務においては次の留意点を念頭に置きましょう。

  • コンサルティング業務を受けても、当該部門が内部監査の範囲より外れることはない
  • コンサルティング業務実施側が最終意思決定者になることは客観性を害するため、行った助言を最終的に採用するかの意思決定は当該部門の責任者が行う
  • 独立性維持の観点より、コンサルティング業務を行った内部監査実施者は、対象部門の監査実施者から一定期間外すような工夫が必要

3 内部監査を意義あるものにするために必要なこと

1)内部監査の要件

内部監査の結果を歪めないために、

  • 独立性
  • 職業的懐疑心(入手した情報をそのままうのみにせず、客観的な判断を心掛けること)
  • 専門的知識
  • 会話・文章力

などが必要です。「内部監査人は、良心と信念に基づき、公正・普遍の立場で監査を行い、いかなる圧力にも負けない」ことが重要なので、特に独立性の確保に努めましょう。

そのために、内部監査部門を経営者直属にします。こうすることで、他部門の指揮命令系統から外れ、不必要な干渉を排除できるからです。また、リソースが限られた中小企業では難しい面もありますが、内部監査部門と他の部門との兼任は認めないのが基本です。

2)内部監査の体制

中小企業が単独で内部監査を実施することが、リソースや知識の面から難しいことがあります。その場合、公認会計士や弁護士などに内部監査をアウトソーシングすることが考えられます。外部委託の範囲によって、

  1. 内部監査に関する教育の支援のみ委託するパターン
  2. 特定分野の内部監査支援を委託するパターン
  3. 内部監査実施の全面的支援を委託するパターン

が考えられます。

3)内部監査に必要な規程の整備

内部監査の根拠となる規程の整備が必要です。一般的に、内部監査規程は、

  1. 総則
  2. 内部監査の計画
  3. 内部監査の実施
  4. 内部監査結果の報告

といった項目で構成されます。内部監査規程は会社の基本規程の1つです。そこでは詳細な内容は入れられないので、別途、内部監査マニュアルなどを作成して実務的なことを記載します。

4 子会社の内部監査

1)子会社の内部監査全般

最後に、難易度がやや上がる子会社の内部監査について触れておきます。中小企業でも子会社を持っているケースがあり、内部監査の対象とすることがあります。しかし、

親会社が子会社を自由に内部監査できる法令はないため、子会社は拒否できる

ことになっています。こうした問題を回避するために、あらかじめ親・子会社間で、親会社が監査を行うことを認める契約を締結するなど、スムーズに内部監査を行える環境作りが必要です。

子会社を内部監査する場合は、

  • 親会社の内部監査部門が全ての子会社を一括して内部監査する方法
  • 各子会社に対して内部監査部門を設置する方法
  • 各地域に統括会社を設置して、その中に内部監査部門を持たせる方法

などがあります。どの方法を採用するにしても、内部監査の方針や要求水準が一定になるように注意しましょう。具体的には、規程やマニュアルの統一、定期的な品質評価レビューなどが挙げられます。

2)海外子会社の内部監査

海外に拠点を持つ中小企業も少なくないのですが、海外子会社の内部監査は国内子会社に比べて難しい面があります。距離や言語の壁が高く、対応できる人材の確保もままならないからです。ただ、壁が高いほど目が届きにくくなるということで、逆に内部監査が必要になってきます。

海外子会社に対する内部監査で最大の注意点は、法制度や商慣習が違うことです。内部監査の主目的の1つは法令遵守ですが、肝心の法制度を理解していないと、目指すべきところが明確になりません。その国独自の法制度を調べるのはなかなか難しいため、必要に応じて現地法務に精通した弁護士に相談することも検討します。

また、文化、価値観、言葉の違いにも注意しましょう。内部監査手続の多くはコミュニケーションや書類の閲覧によって行われるため、使用可能な言語(日本語、英語もしくは現地語)の確認と、通訳の要否などを検討する必要があります。

なお、これらの問題をクリアすることが難しい場合には、外部の専門家である公認会計士や弁護士に委託することも検討しましょう。

以上(2023年10月更新)

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2023年(令和5年)の年末調整 対象者や控除の仕組みをわかりやすく解説(税理士監修)

2023年も年末調整の時期になりました。年末調整とは、従業員の所得税などの税額を確定するための手続きですが、正直、仕組みや言葉の意味がよく分からないことはないですか。この記事で、年末調整の仕組みを重要ワードにも触れながら説明しますので、参考にしてください。
なお、基本的なことはいいので、年末調整書類の具体的な記載方法を確認したい人は、以下の記事をご参照ください。

1 「年末調整」とは? とことん分かりやすく

 

会社(個人事業者も含む。以下同様)は、役員・従業員やパート社員(以下「従業員」)に支払う毎月の報酬・給与から、所得税と復興特別所得税(以下「所得税」)を差し引き、従業員に代わって納税しています。これを「源泉徴収」といいます。会社が源泉徴収しているため、従業員(給与所得以外の所得がある人などを除く)は、原則として、自分で所得税の申告・納税をする必要がないわけです。
ただし、会社が源泉徴収をした金額は、保険料控除などの所得控除(所得金額から差し引くことができる一定の金額。詳細は後述)が反映されていないので、正しい金額ではありません。そこで、これを解消して年の最後に精算するのが年末調整というわけです。

重要ワード

  • 所得税
    個人が1年間(1月1日から12月31日まで)に得た所得に応じて国に納める税金です。所得は10種類(給与所得・事業所得・利子所得・配当所得・不動産所得・山林所得・一時所得・退職所得・譲渡所得・雑所得)に分かれます。

  • 復興特別所得税
    東日本大震災の復興財源を確保するために設けられました。2013年1月1日から2037年12月31日までの25年間の期間限定で導入されています。

  • 収入金額
    自営業者は「売上金額」、給与所得者は「総支給額(社会保険料や税金が差し引かれる前の金額で通勤手当などの非課税金額を除いた額)」が該当します。

  • 所得金額
    上記の収入金額から必要経費を差し引いた金額です。自営業者の必要経費には、仕入費用や人件費・賃料などの諸費用が該当します。給与所得者の必要経費は収入金額に応じて決められていて(55万~195万円)、これを給与所得控除といいます。
    また、収入金額が850万円を超える一定の給与所得者は「所得金額調整控除」があります。この控除は複雑ですので、詳しくは後述します。

  • 所得税の確定申告
    1年間の所得金額とそれに対する所得税の額を計算し、毎年2月16日~3月15日(15日が土日・祝日である場合は翌平日)に申告します。所得が給与所得だけの人の多くは、年末調整をすれば確定申告は不要です。ただし、年末調整で申告できない各種控除の適用を受ける人や年末調整対象外の人は確定申告が必要です。

2 年末調整の対象となる従業員と、対象とならない従業員との違い

年末調整の対象は、原則として、会社に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」(以下「扶養控除等申告書」)(詳細は後述)を提出している従業員です。ただし、一部、対象にならない従業員もいます。

【年末調整の対象となる従業員】

  • 1年を通じて勤務している人
  • 年の中途で採用され、年末まで勤務している人
  • 年の中途で退職した人のうち、死亡により退職した人など
  • 年の中途で海外赴任により非居住者となった人

【年末調整の対象とならない従業員】

  • 1年を通じて勤務している人で、主たる給与収入金額が2000万円を超える人
  • 2カ所以上から給与の支払いを受けている人で、他の給与の支払者に扶養控除等申告書を提出している人
  • 扶養控除等申告書の提出がない人
  • 非居住者(国内に住所も居所(1年以上住んでいる場所)も持っていない人)など

なお、年末調整の対象となる従業員に対して年末調整を行わないと、罰則(10年以下の懲役、もしくは200万円以下の罰金(もしくはその両方))を受けることもあるので注意が必要です。

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3 所得控除とは

所得控除とは、所得税の額を計算するときに、所得金額から差し引き、税負担を軽くする制度です。全部で15種類ありますが、年末調整で申告できるのは、このうち12種類です。
ちなみに、年末調整で申告できない3種類の所得控除は、医療費控除(1年間に一定額以上の医療費がある場合に受けられる)、寄附金控除(国や地方自治体などに一定の寄附をした場合に受けられる)、雑損控除(災害などによって住宅家財などに被害が出た場合に受けられる)です。これらについては、自身で翌年3月15日までに確定申告をすることで所得控除を受けることができます。

重要ワード

  • 税額控除
    所得控除と似た言葉に税額控除があります。税額控除とは、課税所得金額(所得金額-所得控除額)に税率を掛けて計算した金額(税額)から直接控除できる制度です。税率を掛ける前の所得金額から控除する所得控除よりも、税額控除のほうが税負担を軽くする効果が高いです。

4 年末調整の対象となる12種類の所得控除と所得金額調整控除

年末調整における提出書類(申告書)と、それぞれに関係する所得控除の種類を紹介します。なお、以下で説明する「所得金額調整控除」は所得控除ではないものの、年末調整で申告できるので併せて紹介しています。そのため、全部で13種類(前述の12種類+所得金額調整控除)となっています。

1)扶養控除等(異動)申告書

扶養控除等(異動)申告書は年末調整で配布される申告書で、原則として、会社から給与の支払いを受ける全ての人(給与所得者)が提出する書類です。扶養控除などを記載しますが、適用する所得控除がない場合でも、氏名などの記載事項を記入して会社に提出します。

1.扶養控除
扶養親族(その年の12月31日現在の年齢が16歳以上で、生活費を負担しているなど一定の者)の合計所得金額が48万円以下である場合などに、一定額(38万~63万円)の所得控除を受けられる制度で、年末調整で申告できます。

2.障害者控除
納税者自身や配偶者、扶養親族が障害者(所得税法に規定されている障害者に該当する者)である場合に、一定額(27万~75万円)の所得控除を受けられる制度で、年末調整で申告できます。

3.寡婦控除
納税者自身が寡婦である場合に、一定額(27万円)の所得控除を受けられる制度で、年末調整で申告できます。寡婦とは、合計所得金額の見積額が500万円以下で、夫と死別または離婚した後に再婚をしていない人などをいいます。

4.ひとり親控除
納税者自身がひとり親である場合に、35万円の所得控除を受けられる制度で、年末調整で申告できます。ひとり親とは、合計所得金額の見積額が500万円以下で、現在婚姻しておらず(未婚や配偶者の生死が明らかでない場合で、かつ事実上婚姻関係にあるパートナーなどがいない状況)、生計を一にする子供がいる人などをいいます。なお、2019年までの年末調整項目であった「寡夫」はひとり親に含まれます。

5.勤労学生控除
納税者自身が勤労学生である場合に、27万円の所得控除を受けられる制度で、年末調整で申告できます。合計所得金額の見積額が75万円以下(給与所得だけの場合は、給与収入金額が130万円以下)で、大学などの学生や一定の要件を備えた専修学校の生徒などをいいます。ただし、給与所得等以外の所得が10万円を超える人は勤労学生控除は受けられません。

2)給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書

給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書は年末調整で配布される申告書で、原則として、会社から給与の支払いを受ける全ての人(給与所得者)が提出する書類です。記載事項には計算箇所が多いため、注意が必要です。記載方法については「2023年(令和5年)の年末調整 申告書の書き方をわかりやすく解説(税理士監修)」をご参照ください。

6.基礎控除
ほとんどの納税者が対象で、一定額を所得金額から控除することができます。具体的には、所得金額から48万円を控除できますが、合計所得金額が2400万円を超える従業員については、その合計所得金額に応じて控除額が減り、合計所得金額が2500万円を超える従業員については、基礎控除は受けられません。

7.配偶者控除
配偶者の合計所得金額が48万円以下である場合などに、一定額(13万~48万円)を所得金額から控除できる制度で、年末調整で申告できます。控除を受ける納税者自身の合計所得金額が1000万円を超える場合には、配偶者控除は受けられません。

8.配偶者特別控除
配偶者の合計所得金額が48万円を超え配偶者控除が受けられない場合に、配偶者の合計所得金額の見積額に応じて一定額(1万~38万円)の所得控除を受けられる制度で、年末調整で申告できます。なお、配偶者控除と同様に控除を受ける納税者自身の合計所得金額が1000万円を超える場合や、配偶者の合計所得金額が133万円を超える場合には、配偶者特別控除は受けられません。

9.所得金額調整控除
給与等の収入金額が850万円を超える人のうち、子育て中の人や障害者などである場合、下記の算式で計算された金額の控除を受けられる制度(所得控除ではない)で、年末調整で申告できます。なお、計算式上の収入金額は、収入金額が1000万円を超える場合には1000万円が上限となります。

所得金額調整控除額=(給与等の収入金額-850万円)×10%

3)給与所得者の保険料控除申告書

給与所得者の保険料控除申告書は年末調整で配布される申告書で、生命保険料控除などに関する記載箇所があります。

10.生命保険料控除
納税者自身が一般の生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料を支払った場合、上限4万円(2011年12月31日以前に一般の生命保険・個人年金保険契約したものについては上限5万円)の所得控除を受けられる制度で、年末調整で申告できます。保険期間が5年未満の生命保険などの中には対象外のものもあります。

11.小規模企業共済等掛金控除
納税者が小規模企業共済や個人型確定拠出年金(iDeCo)などの掛金を支払った場合、その年に支払った金額全額の所得控除を受けられる制度で、年末調整で申告できます。
iDeCoとは、納税者自身が掛金を拠出・運用し、資産を形成する年金制度です。原則、60歳まで資産を引き出すことはできませんが、掛金の拠出時(掛金が全額所得控除)・運用時(運用益に課税されない)と、資産の受取時(一定の所得控除がある)に税金優遇を受けることができます。

12.社会保険料控除
納税者が納税者自身や配偶者、扶養親族が負担すべき社会保険料を支払った場合に、その年に支払った金額または給与などから差し引かれた金額全額の所得控除を受けられる制度で、年末調整で申告できます。なお、控除対象となる社会保険料には、健康保険、国民年金、厚生年金保険、国民健康保険の保険料などが含まれます。

13.地震保険料控除
納税者自身が地震保険料を支払った場合に、上限5万円の所得控除を受けられる制度で、年末調整で申告できます。なお、地震保険料控除には2007年分の年末調整で廃止された一定の長期損害保険料(共済期間が10年以上のものなど)についても控除対象となっています。

4)住宅ローン控除とは

上記の他に、住宅借入金等特別控除(以下「住宅ローン控除」)があります。住宅ローン控除とは、納税者自身が住宅ローンを組んで住宅の購入・増改築を行った場合、「住宅ローンの年末残高×1%または0.7%(2021年以前に入居した場合は1%、2022年以降に入居した場合は0.7%)」で計算された金額の税額控除(所得控除ではない)を受けられる制度で、年末調整で申告できます。住宅ローン控除を受ける従業員は、「住宅借入金等特別控除申告書」の提出が必要です。
ただし、年末調整で申告できるのは、住宅ローンの利用を開始した年の翌年以降(2年目以降)が対象です。1年目については、自身で確定申告を行う必要があります。
なお、住宅ローン控除期間は13年間または10年間、適用を受けるには一定の所得限度額要件、控除額には一定の限度額があります。

5 「年末調整の電子化」。煩わしい作業から解放される?

2020年10月から年末調整の電子化が始まっています。これにより、書類をデータでやり取りしたり、保存したりすることができるようになり、控除額の検算や大量の紙を保管しなくても済むようになりました。
とはいえ、電子化に対応するには、

  • 会社:給与システムの改修
  • 従業員:専用ソフトのインストールやアカウント作成

などといった準備が必要です。こうした手間もあってか、引き続き紙で年末調整を行っている会社が多いようです。会社の規模によっては電子化によって新たに発生する実務が大変で、逆効果になってしまうこともあるので、担当責任者や税理士などと相談して決めるとよいでしょう。

以上

(監修 税理士 谷澤佳彦)

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2023年10月27日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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2023年(令和5年)の年末調整 申告書の書き方をわかりやすく解説(税理士監修)

年末調整では、

  • 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
  • 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
  • 給与所得者の保険料控除申告書

などの書類を使用します。この記事では、2023年末におけるこれらの申告書の書き方を分かりやすく説明します。
なお、年末調整の基本的な仕組みについて確認したい人は、以下のコンテンツをご参照ください。

1 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書(扶養控除等申告書)」の書き方

1)記載項目

給与所得者の扶養控除等(異動)申告書(扶養控除等申告書)の書き方を解説した画像です

1.氏名・個人番号(マイナンバー)・生年月日等
役員・従業員やパート社員(以下「従業員」)の氏名、個人番号(マイナンバー)、住所又は居所、生年月日、世帯主の氏名と続柄、配偶者の有無を記載します。マイナンバーについては記述を省略する会社もあります(その他の提出書類(申告書)に関しても同様。詳細は後述)。

2.源泉控除対象配偶者
源泉控除対象配偶者の欄には、次の要件を満たした配偶者がいる場合に記載します。

  • 従業員(合計所得金額が900万円(給与所得だけの場合は給与等の収入金額が1095万円)以下の人に限る)と生計を一にする配偶者
  • その配偶者が青色事業専従者として給与の支払いを受ける人及び白色事業専従者でないこと
  • その配偶者の2024年中の合計所得金額(見積額)が95万円(給与所得だけの場合は給与等の収入金額が150万円)以下であること

なお、非居住者である親族(国外に住んでいる親族)の項目には、該当する親族がいる場合に丸印(下記「3. 控除対象扶養親族(16歳以上)」欄には該当チェック欄に✓マーク)を記入し、添付書類(パスポートや留学ビザなど)もあわせて提出することになります。

3.控除対象扶養親族(16歳以上)
控除対象扶養親族(16歳以上)の欄には、扶養控除の対象である次の親族がいる場合に記載します。

  • 16歳以上(2009年1月1日以前生まれ)の親族
  • 上記の親族が従業員と生計を一にしていること
  • 上記の親族の年間の合計所得金額が48万円(給与所得だけの場合は給与等の収入金額が103万円)以下であること

なお、19歳以上23歳未満(2002年1月2日から2006年1月1月生まれ)の親族を「特定扶養親族」といい、70歳以上(1955年1月1日以前生まれ)の親族を「老人扶養親族」といいます。これらに該当する親族がいる場合は、チェックマークを付す箇所があるので忘れないようにしましょう。
また、非居住者の同居していない扶養親族がいる場合は、生計を一にする事実として、1年間に実際に送金した金額を記載する欄があります。この欄には見積額ではなく実際の送金額を追加で記載すると同時に、送金関係書類を提出しなければならない点に注意しましょう。

4.障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生
障害者、寡婦、ひとり親又は勤労学生の欄には、従業員本人が障害者である場合(生計を一にする配偶者や扶養親族が障害者の場合を含む)や、寡婦、ひとり親である場合、学校に通いながら働いている場合に記載します。
障害者とは、身体障害者手帳に身体上の障害がある者として記載されている人など、一定の障害者をいいます。
寡婦とは、合計所得金額の見積額が500万円以下で、夫と死別または離婚した後に再婚をしていない人などをいいます。
ひとり親とは、合計所得金額の見積額が500万円以下で、現在婚姻しておらず(未婚や配偶者の生死が明らかでない場合で、かつ事実上婚姻関係にあるパートナーなどがいない状況)、生計を一にする子供がいる人をいいます。なお、2019年までの年末調整項目であった「寡夫」はひとり親に含まれます。
勤労学生とは、合計所得金額の見積額が75万円以下(給与所得だけの場合は給与収入金額が130万円以下)で、大学などの学生や一定の要件を備えた専修学校の生徒などをいいます。ただし、給与所得等以外の所得が10万円を超える人を除きます。

5.他の所得者が控除を受ける扶養親族等

他の所得者が控除を受ける扶養親族等の欄には、夫婦が共働きなど、この申告書を提出する人以外の人が、家族を扶養親族としている場合に記載します。例えば、子供(控除対象親族)がいる共働きの夫婦のうち、夫が扶養控除を受ける場合に、その妻はこの欄に夫と子供の氏名等を記載します。

6.16歳未満の扶養親族

16歳未満の扶養親族の欄には、16歳未満(2009年1月2日以後生まれ)の扶養親族がいる場合に記載します。

7.退職手当等を有する配偶者・扶養親族

退職手当等を有する配偶者・扶養親族の欄には、2024年中に退職所得をもらう予定のある配偶者・扶養親族がいる場合に記載します。

2)留意点

扶養控除等申告書は、その年、最初に給与をもらう日の前日(中途採用の場合は、就職後最初の給与の支払いを受ける日の前日)までに提出してもらいます。
実務上、年末調整の際に配布される申告書は翌年分(令和5年の場合は令和6年分)であるのが一般的です。従って、年の中途で扶養親族の状況などに異動があったら、その都度、異動申告をしてもらう必要があります。この場合、別に異動申告書を提出してもらうか、年末調整の対象となる年分の扶養控除等申告書に訂正となる部分を二重線で消し、余白に新しい情報を記載し、「異動月日及び事由」の欄にもその旨を記載します。
なお、扶養控除の対象となる親族や障害者に該当するかどうかは、年末調整を行う日の現況で判定されます。判定の要素となる合計所得金額は、年末調整を行う日の現況により見積もった本年1月1日から12月31日までの合計所得金額を、年齢は原則として本年12月31日時点の年齢を申告書に記載してもらいます。
その他、留学などで国外に住んでいる親族を扶養の対象とするような場合は、扶養控除等申告書に親族関係書類と送金関係書類を必ず添付、または提示してもらう必要があります。

2 「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」の書き方

1)記載項目

給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書の書き方を解説した画像です

1.給与所得者の基礎控除申告書
あなたの本年中の合計所得金額の見積額の計算の欄には、給与明細書などを参考にして2023年中の「給与所得の収入金額」に記載します。その金額を申告書の裏面に掲載されている「給与所得の金額の計算方法」に当てはめて所得金額を計算します。なお、国税庁「給与所得控除」 の末尾に自動計算できるサービスがあるので、利用すると便利です。給与所得以外に所得がある場合は、2023年中の合計所得金額の見積額を記載します。
そして、判定欄のA・B・Cいずれかを区分Ⅰに転記し(合計所得金額の見積額が1000万円超の人は空欄)、かつ「控除額の計算」を合計所得金額の見積額に当てはめ、表右側の該当する金額を「基礎控除の額」に転記します。

2.給与所得者の配偶者控除等申告書
配偶者に関する事項を記載し、配偶者の本年中の合計所得金額の見積額の計算の欄には、上記1.と同様に配偶者の給与明細書などを参考にして、2023年中の「給与所得の収入金額」に記載します。その金額を申告書の裏面に掲載されている「給与所得の金額の計算方法」に当てはめて所得金額を計算します。給与所得以外に所得がある場合は、2023年中の合計所得金額の見積額を記載します。
そして、判定欄の(1)~(4)のいずれかを区分Ⅱに転記し、かつ区分Ⅰ・Ⅱに記載したアルファベットと数字を基に、配偶者控除の額または配偶者特別控除の額を一覧表の中から該当するものを転記します。
なお、区分Ⅱの欄が(1)または(2)の場合は配偶者控除の額の欄に、(3)または(4)の場合は配偶者特別控除の額の欄に金額を転記します。

3.所得金額調整控除申告書
給与等の収入金額が850万円を超え、かつ扶養親族が特別障害者であること、または23歳未満(2001年1月2日以後生まれ)などに該当する場合(制度の詳細は後述)は、要件欄のいずれか該当する項目にチェックをします。要件欄の指示に沿って「☆扶養親族等」の欄に該当する扶養親族等に関する事項と、「★特別障害者」の欄に障害の状態や交付を受けている手帳の種類などを記載します。

2)留意点

基礎控除は所得金額ごとに控除額が異なります。また、所得金額調整控除(給与等の収入金額が850万円を超える従業員に限る)の欄の記載漏れや、自分自身の所得金額の計算ミスなどが目立ちます。事前に記載ポイントをまとめて従業員に周知するようにしましょう。

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3 「給与所得者の保険料控除申告書」の書き方

1)記載項目

「給与所得者の保険料控除申告書」の書き方を解説した画像です

1.生命保険料控除
生命保険料控除の欄には、2023年中に支払った一般の生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料に関する事項を記載します。
それぞれの区分ごとに、保険会社などから郵送される保険料控除証明書の内容を転記します。なお、保険料控除証明書をインターネット上で電子発行できるサービスもあるため、各社のウェブサイトなどから電子発行を受けることもできます(ID取得のため、証券番号などの登録が必要)。
一般の生命保険料と個人年金保険料については、その保険の契約時により、取り扱い(所得控除額)が異なります。2011年12月31日以前に契約したものは旧保険契約として、2012年1月1日以後に契約したものは新保険契約として取り扱われます。
それぞれ旧保険契約に係る所得控除額は最高5万円、新保険契約に係る所得控除額は最高4万円となります。

2.地震保険料控除
地震保険料控除の欄には、2023年中に支払った地震保険料に関する事項を記載します。地震保険料と一緒に支払いをしている火災保険料は対象になりません。ただし、2006年12月31日以前に契約した長期損害保険契約等については、一定の金額が控除の対象になります。

3.社会保険料控除
社会保険料控除の欄には、2023年中に支払った従業員本人または従業員本人と生計を一にしている親族分を、従業員本人が支払った次の保険料に関する事項を記載します。

  • 国民健康保険の保険料や国民健康保険税
  • 健康保険、厚生年金保険や船員保険の保険料
  • 介護保険法の規定による介護保険の保険料
  • 国民年金の保険料や国民年金基金の加入員として負担する掛金
  • 農業年金の保険料や雇用保険の労働保険料など

4.小規模企業共済等掛金控除
小規模企業共済等掛金控除の欄には、2023年中に支払った小規模企業共済と確定拠出年金の掛金の額を記載します。なお、個人型確定拠出年金(iDeCo)の掛金は、この欄の「個人型」に記載することになります。

2)留意点

実務上は、保険会社から郵送または電子発行される「保険料控除証明書」に記載されている内容を、申告書に転記してもらうことになります。月払いにより保険料を払い込んでいる場合は、控除証明書の発行日までの保険料の他、年間(12月31日まで)の見積払込保険料が記載されていることが多くあります。12月31日まで保険を継続しているのであれば、年間払込保険料を申告書に転記すれば問題はありません。
もし、発行日から12月31日までの間に解約し、実際の年間払込保険料と、保険料控除証明書に記載してある見積払込保険料に相違がある場合は、実際の年間払込保険料を申告するようにしましょう。
その他、親族の社会保険料を負担しているときには、その支払額の全額が社会保険料控除の対象となるので、記載漏れのないように注意しましょう。
なお、これらの控除に当たり、控除証明書の添付または提示が必要になるものが幾つかありますので、必ず申告書と一緒に提出してもらうようにしましょう。

4 「住宅借入金等特別控除申告書」の書き方

住宅ローン控除の適用2年目以降の人は、年末調整の際に「(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」と、金融機関等が発行する「年末残高等証明書」を会社に提出します。
なお、(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書については、確定申告をした年の10月ごろに、税務署から9年分または12年分(2019年10月1日以降に一定の住宅を取得した場合で、確定申告をしているもの)がまとめて郵送されます。もし紛失した場合は税務署に申請すれば、再交付を受けることができます。

5 2023年の年末調整におけるその他の注意点

1)マイナンバーの取り扱い

提出を受ける申告書には、給与の支払いを受ける人または親族のマイナンバーを記載してもらう箇所があります。会社(給与の支払者)は、このマイナンバーについて、給与の支払いを受ける人の本人確認(番号確認+身元確認)をする必要があります。ただし、別途、給与の支払者がマイナンバーに関する事項を記載した帳簿を備えているならば、マイナンバーの申告書記載は省略できます。

2)源泉徴収票の住所等

年末調整を行うと、源泉徴収された税額の過不足を精算するとともに、源泉徴収票を発行することになります。源泉徴収票に記載する住所又は居所は、2024年1月1日現在の住所又は居所を記載します。
ただし、この源泉徴収票と同時に作成される給与支払報告書は、住民税の課税資料として毎年1月末までに、給与の支払いを受ける人の住民票がある市区町村または実際に居住している市区町村に送られます。そのため、給与支払報告書の作業も考慮すると、住民票を実際の居住地に変更してもらうよう従業員に伝えましょう。

以上

(監修 アイタックス税理士法人 税理士 山田誠一朗)

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2023年10月27日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。

指揮命令はNG。法令違反にならない外注契約のルール

書いてあること

  • 主な読者:フリーランスなどに業務委託をしている企業の経営者
  • 課題:請負と準委任の違い、労働者とフリーランスの違いなどが分からない
  • 解決策:準委任は請負と違い、仕事の完成の義務を負わないため、履行された仕事の内容に応じて報酬を支払わなければならない。労働者と違い、フリーランスには指揮命令を下すことができないため、これを守らないと偽装請負になる恐れがある

1 請負と委任の違い

「業務委託」をしていても、契約内容である「請負」と「委任」との違いを明確に理解していない企業は意外と多いです。今後、フリーランスの権利保護がますます進むことは間違いないので、業務委託をするこちら側も、きちんとした知識を持っておくべきです。

この記事では、請負と委任の違いを明らかにした上で、相手(フリーランスを想定)と契約を交わす際のポイントをまとめます。

まず知っておくべきことは請負と委任との違いです。両方とも民法で定義されていますが、内容は次のように全く異なります。

  • 請負:相手は仕事を完成させる義務を負い、自社は仕事が完成しなければ報酬を支払う必要がない
  • 委任:相手は事務処理を遂行する義務を負い(仕事を完成させる義務は負わない)、自社は履行された仕事の割合で報酬を支払う

また、委任については「準委任」のほうが聞き慣れているかもしれませんので補足します。「準」がつかない委任は法律行為を対象とするもので、弁護士などが相手になります。一方、準委任は法律行為以外の事実行為が対象となります。この記事では準委任を前提に説明します。

準委任の報酬ですが、これは履行割合型と成果完成型に分かれます。履行割合型の例は、一般的な学習指導の契約です。学習塾は生徒が志望校に合格できるように教育しますが、仮に志望校に合格できなくても報酬は支払われます。一方、成果完成型の例は、経営コンサルティングの契約です(契約の定めにもよります)。自社が資金調達を目的にコンサルティングを依頼した場合、コンサルタントには交通費などの経費に加えて、資金調達に成功した際には成功報酬が支払われます。

2 契約全般で注意すべきポイント

1)契約書は実態で判断する

請負と準委任のいずれの場合でも、契約内容を明らかにしておくために契約書を作成しましょう。契約時、業務内容をできるだけ細分化し、何をもって業務が終了するかなどを明確にします。実務上、請負と準委任の双方の性質を持つ業務も考えられるので、そうした場合は弁護士などに相談するのが無難です。

また、下請法の規制を受ける取引の場合、下請事業者(ここではフリーランス)の成果物の内容や、下請代金の額などを記載した書面の交付が義務付けられています。

こうした親事業者(ここでは自社)の義務は、当事者間の合意に優先して適用される強行法規であり、契約で変更することはできません。そのため、自社の取引が下請法の規制対象となっているかどうかを確認しましょう。下請法に関しては、公正取引委員会ウェブサイトをご参照ください。

■公正取引委員会「下請法」■

https://www.jftc.go.jp/shitauke/

2)請負、準委任とも重い責任を負っている

請負ではフリーランスが仕事の完成義務を負っているのに対し、準委任ではそれがないので、請負のほうが準委任よりも責任が重いように思えますが、それは正しくありません。

準委任では、自社はフリーランスが持つ専門的な能力や知見に期待して契約しています。そのため、業務内容に問題があった場合、フリーランスに対して善管注意義務違反としての債務不履行責任を問い、問題箇所をやり直させることなどができます。このように、一概に準委任は請負よりも責任が軽いわけではありません。また、準委任であっても、

自社が業務内容の検査後や確認後に業務が終了する旨を定めることで、実質的に請負における仕事の完成と同等の契約内容にする

こともできます。

3 指揮命令などで注意すべきポイント

1)偽装請負になっていないか確認する

フリーランスが社員と大きく違うのは、フリーランスには企業が指揮命令を下して、業務を遂行させることができないことです。これを守らないと、偽装請負として問題になる恐れがあります。

偽装請負に該当するとして労働関係法令違反を指摘されると、罰則を受けたり、社会的な信用を失ったりする恐れがあります。また、フリーランスの労働者性が認められる場合は、自社が社会保険料や時間外手当を後日支給する必要があります。

2)業務の遂行方法の指示や、自社の名刺を持たせるのは避ける

実務では、偽装請負か否か(労働者性)について、次の要素を基に総合的に判断されます。

  • 仕事の依頼への拒否の自由
  • 業務遂行上の指揮監督の有無
  • 時間的・場所的拘束性の有無、代替性の有無
  • 報酬の算定・支払方法
  • 機械・器具の負担や報酬の額等に表れた事業者性
  • 専属性の程度等

例えば、フリーランスが自社のオフィスなどで業務を行う場合、フリーランスに対して業務の遂行方法を細かく指示したり、出退勤や休憩時間、休日や休暇などに関して指示したりすることは、偽装請負と見なされる恐れがあります。

また、自社の名刺を持たせる際にも気を付けなければなりません。取引先などが、フリーランスが従業員としての責任や権限を持っていると勘違いする可能性があります。フリーランスには自社の名刺を持たせないのが無難です。仮に持たせる場合は、細心の注意が必要です。

3)再委託・再委任の禁止や報告を義務付ける

自社はフリーランスに対して、業務の遂行方法を指示することはできませんが、再委託・再委任を禁止したり、業務の状況等に関する報告を求めたりすることはできます。ただし、請負と準委任では、再委託・再委任の禁止や報告の義務に関する法令上の取り決めが異なります。

請負では、再委託が原則可能であり、報告の義務は原則なしとされています。そのため、再委託の禁止や報告を求める場合、契約書でその旨を定めておくことが求められます。

一方、準委任では、フリーランスの専門的な能力や知見を見込んで業務を委任していることから、再委任は原則不可とされています。また、報告の義務についても民法で定められています。

請負、準委任のいずれの場合も、契約締結時にフリーランスに対して、契約書で再委託・再委任を禁止する旨や、報告を義務付ける旨を規定しておくとトラブルが避けられます。

4)行き過ぎた競業避止義務を避ける

自社はフリーランスに対して、営業上重要な情報などを漏洩しないよう、秘密保持義務に加えて、競業避止義務を課すことができます。競業避止義務とは、社員が自社と競合する企業などに所属したり、自ら会社を設立したりといった行為をしない義務のことです。

とはいえ、競業避止義務期間が5年を超えるなど、フリーランスに対して行き過ぎた義務を課すことは、市場の自由競争やフリーランスの取引の自由を侵害することになりかねないため、独占禁止法(独禁法)や民法で規制される場合があります。

具体的には、期間、業務範囲、場所的範囲、競業避止を定めることに対する対価の有無などの要素を考慮して判断されます。

4 報酬の支払いなどで注意すべきポイント

1)報酬の支払期日や減額に注意する

下請法の規制対象である取引では、業務の終了日から60日以内の、できる限り短い期間内を報酬支払いの期日として定め、報酬を支払わなければなりません。従って、毎月特定の日に締切日を設けている場合は、締切日の翌月末日までに支払う必要があります。

また、フリーランスの責任ではない理由から報酬を減額したり、通常支払われる対価(市場価格など)に比べて著しく低い報酬を定めたりすることは、下請法だけでなく、独禁法でも規制されます。

2)知的財産権の帰属を決めておく

請負、準委任とも、フリーランスが業務を遂行する中で生まれた発明や著作物、それらの知的財産権はフリーランスに帰属します。

そのため、競合他社が知的財産権を利用できないようにしたいなどの場合、契約時に自社が知的財産権を承継できるように定めておく必要があります。

権利を承継する際は、適切な対価を支払わなければなりません。特に、企業がフリーランスに対して、無償や低廉な価格で著作権などの知的財産権を譲渡させているという問題が指摘されていることから、十分な配慮が求められます。

3)報酬の請求は慎重に確認する

税務上で注意しなければならないのが、消費税や源泉所得税の扱いです。

フリーランスへの報酬は外注費として消費税の対象ですが、社員への給与は消費税の対象とはなりません。問題は偽装請負です。中には偽装請負であるにもかかわらず、外注費とすることで、消費税の納税額の負担を減らす悪質なケースがあるようで、外注費が多い企業は税務調査で指摘されることがあります。

また、フリーランスへの報酬は、一律に源泉徴収が必要になるわけではありません。源泉徴収の対象となるのは、原稿料やデザイン料などの一部の報酬です。自社が支払う報酬が源泉徴収の対象であるのかを確認しておく必要があります。

特に、フリーランスの中には、源泉所得税の知識に乏しい人もいて、源泉所得税を天引きしない金額で自社に報酬を請求してくることがあります。

そのため、フリーランスからの請求が正しい金額であることを自社で確認し、誤った金額を支払わないように注意しましょう。仮に源泉徴収漏れを指摘された場合、フリーランスではなく自社が追徴支払いをすることもあり得ます。

5 外注契約の形態と特徴のまとめ

最後に、外注契約の形態と特徴をまとめた表を紹介します。業務委託をする前に各項目を確認してみてください。

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以上(2023年10月更新)
(監修 弁護士 田淵博雅)

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画像:Song_about_summer-Adobe Stock

あなたの会社にも起こり得る不正会計 〜その検知と対策

書いてあること

  • 主な読者:適切な会計処理を徹底したい経営者や経理担当者
  • 課題:自身の何気ない一言が不正会計につながったり、思いもよらない従業員の不正が生じたりすることもあり、意外にも身近なもの
  • 解決策:不正会計の兆しや防止策、もし不正を見つけたときに経営者が取るべき行動など、現場を知る公認会計士が教える

身近にある? 不正会計

不正会計と聞くと、ニュースをにぎわすような巨額な不正をイメージし、自社には関係ないと思っていませんか?

しかし、それは間違いかもしれません。なぜなら、経営者自身の何気ない一言が不正会計につながったり、思いもよらない従業員の不正が生じたりすることがあるなど、想像できない

不正会計は意外と身近にある

からなのです。また、コロナ禍や国際情勢の不安定化など、経済環境が悪化する時期は、不正会計が生まれやすい時期でもあります。昨今のテレワークの浸透により内部統制が脆弱化している会社は少なくないと思われます。

では、経営者が不正会計の兆しをキャッチしたり、防止したりするために、どのような知識が必要なのか、現場を知る公認会計士に不正会計の実態やその防止策などを聞きました。

Q1 代表的な不正会計とは?

不正会計とは、

決算書(貸借対照表や損益計算書など)に虚偽の表示をすること

です。代表的な不正会計は、「粉飾決算」「資産の流用」によるものです。

粉飾決算とは、

意図的に決算書(貸借対照表や損益計算書など)を操作して、会社の財務状況や損益状況を実際よりも良く見せること

です。詳細はQ2で解説しますが、「売上の水増し計上」や「売上の前倒し計上」による方法があります。粉飾決算によって赤字を黒字に見せる極端なケースもあります。

資産の流用とは、

会社の資産を盗み取ること

です。詳細はQ3で解説しますが、現金預金の「横領」、物的資産の「窃盗」などが挙げられます。多くは従業員の犯行で、この場合の被害は比較的少額です。しかし、資産の流用を容易に偽装できる経営者層が関与すると、被害が多額になることもあります。

Q2 粉飾決算の具体的な方法とは?

売上の水増し計上とは、

本来の取引金額に架空の取引金額を水増しして、売上を計上すること

です。売上の水増し計上では、その計上した売上の相手勘定として「売掛金」を用いることが一般的です。そのため、貸借対照表には架空の売掛金も計上されます。

売上の前倒し計上とは、

本来は決算日後(将来)に計上されるべき売上を、決算日前(現在)に計上すること

です。売上の前倒し計上では、決算日をまたいで売上の計上が前後するだけであるため、全体(年度で区切らず全ての期間)としては損益計算や代金の入金額は変わりません。しかし、決算日後(将来)の売上を取り込んでしまうため、当年度の決算と翌年度の決算のいずれの決算書も虚偽の表示となります。

売上の水増し計上、売上の前倒し計上ともに、会社の利益をよく見せることが目的で行われる不正会計です。例えば、決算時点で赤字が明らかである場合、既存取引の売上の水増し計上をすることでその原価を差し引いた利益が本来の利益に上乗せされ、赤字決算を黒字決算へと変えてしまうことができます。

中小企業の場合、融資元の金融機関や、入札審査を受ける際の官公庁に対して、会社の業績を少しでも良く見せようとして、粉飾決算に手を染めるケースがあります。

Q3 資産の流用(横領や窃盗)の具体的な方法とは?

横領とは、

自らの職位を利用して会社の資産を盗み取ること

です。例えば、出納業務と記帳業務を兼務する経理担当者が、無断で預金を解約してそれを盗み取るなどの行為です。業務によっては、同一人物が担当することで横領の発生リスクが高まります。

窃盗とは、会社の物品を盗み取ることです。例えば、会社の収入印紙や切手などを盗み取ることなどの行為です。なお、総務部の鍵のないロッカーに収入印紙や切手を保管している状況の中で、誰でも自由に取り出せるような場合には、窃盗の発生リスクが高まります。

これらの動機はさまざまで、個人的な事情(多額の借金を抱えている、遊ぶお金が不足しているなど)から実行されることが多いようです。

Q4 不正会計の基本的な防止策とは?

不正会計の防止策を考える上で重要な概念は「不正のトライアングル」です。不正のトライアングルとは、

不正を引き起こす3つの要素(動機・機会・正当化)のこと

です。これらを考慮した不正防止の仕組みをつくることが有効です。

1.動機

「従業員が行動を起こす、または行動を方向付ける」ことです。不正の防止策として、例えば従業員個人や部署に対して過度な目標が課されている場合、この目標が過大なプレッシャーになっていないかを見直します。

2.機会

「不正会計を起こせる立場にあり、それを実行できる能力がある」ことです。不正の防止策として、例えば職務分掌を明確にして、重要な決定についてはチェック・承認制度を社内ルール化することや業務相互チェックを掛けるなどのけん制機能を設けるようにします。

3.正当化

「不正会計をすることは悪くない≒仕方がない」と思うことです。不正の防止策として、例えば従業員に対して定期的に社内研修などを行い、不正会計の影響(個人・会社のダメージ)を啓蒙するようにします。

Q5 経営者が粉飾決算を防止するためにすべきことは?

売上の水増し計上は、

貸借対照表の「売掛金」に発見の糸口

があります。なぜなら、

その売掛金は架空のものであり、何もしなければ、現金回収されることなくいつまでも貸借対照表に計上し続けることになるから

です。仮に、本来の回収期間が過ぎて長期間滞留しているような売掛金が存在する場合には、売上の水増し計上が疑われます。また、

売上の前倒し計上を行った場合にも、上記同様「売掛金」がポイント

です。売上を前倒し計上すると、その分の売掛金残高が増えます。しかし、この増加は、当年度及び前年度の各月末の売掛金残高と比べることで異常な増加として発見することができます。

Q6 経営者が資産の流用を防止するためにすべきことは?

横領では、やはり、

担当者間のチェック体制が重要なポイント

です。経理担当者が出納業務と記帳業務の双方を兼務しているような場合、お金を取り扱う担当者(出納係)と、帳簿をつける担当者(記帳係)を分ける必要があるでしょう(職務分掌)。なお、人員が不足し、どうしても兼務しなければ業務が回らないような場合は、他者が定期的にチェック・照合することによって代替することもできます。

窃盗は、

適切な現物(切手や収入印紙など)の管理を行うことが最も重要

です。具体的には、現物を鍵の掛かる場所に保管し、現物を取り出した者が都度、日付・数量・氏名などを管理簿に記入し、総務担当者などが日々管理簿に照らして在庫数量を確認する体制が必要です。また、他者が定期的に管理簿を閲覧して異常な記録がないか確認しましょう。

Q7 不正会計の疑いがある場合、経営者がとるべき対処は?

「社内に不正会計の疑いがあるかもしれない」という情報を耳にしたら、経営者は、まずこの情報が正しいものであるかどうかを確かめましょう。相手の言うことをうのみにしてしまったり、逆に聞き流してしまったりしては後々大きな問題になりかねません。また、場合によっては刑事事件に発展する可能性もあるため、早めに顧問弁護士などに相談することが賢明です。

不正が事実だった場合は、被害が大きくならないうちに早めの対処が必要です(初動が大切)。また、不正は意図的に仕組まれ、見つからないように巧妙かつ複雑な手口で隠されていることがあるため、外部の専門家を交えてその対処方法(対象者へのヒアリング方法や被害額の算定方法など)を検討するのが望ましいでしょう。

Q8 専門家の立場から、中小企業の経営者にアドバイスを!

コンプライアンスとは、法令遵守を意味し、コーポレートガバナンス(企業統治)の基本原理の1つになります。

会社が企業活動を続けていくためには、会社の業績を維持・拡大していくことが必要で、基本的に会社は利益を追求していくことになります。しかし、利己的な利益追求をしていくと、法令すれすれ(グレーゾーン)の行動を取らざるを得ないこともあります。

さらに、目先の利益追求のために倫理観を失った行動を取れば、社会的な信用を大きく損ねてしまい、極端なケースでは会社の存続が危うくなることもあります。そうならないために、経営者が先頭に立ってコンプライアンスの重要性を社内に認識させることが求められます。

また、コンプライアンスの強化に励むことは、会社の存続に関わる重大問題の発展を事前に防止することのみならず、対外的にも社会的信用の認知度を高める積極的な取り組みと考えることもできます。

以上(2023年10月更新)

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その会計処理にピンときたら!不適切な会計処理の兆候と防止手段

書いてあること

  • 主な読者:適切な会計処理を社内に徹底したい中小企業の経営者・経理担当者
  • 課題:不適切会計は普段は目につきにくく、発覚する頃には手がつけられない金額になっていることも有り
  • 解決策:不適切会計の典型例を紹介し、会計上の兆候や防止策を解説

1 不正会計は「嘘つき会計」

決算書は、

  • 社内や社外の関係者に業績を示す資料
  • 経営者が経営判断をする材料

になる重要な情報です。決算書は正直に作成されなければなりませんが、中には「嘘つき」な決算書もあります。これを「不正会計」(不適切な会計処理)といいます。意図的な不正会計は論外ですが、意図せず結果として不正会計になってしまっていることもあります。

しかし、関係者はそうした背景に関係なく、不適切な会計処理をした会社を信用しなくなります。そうならないためにも、経営者は典型的な方法とその兆候を知り、具体的な防止手段を取っておかなければなりません。この記事では、そのためのポイントを紹介します。

2 起こりやすい不適切な会計処理

1)売上高を大きく見せる方法

1.売上高の前倒し計上

売上高計上のタイミングは、

対象となる物品やサービスが受け渡された日

です。そのため、このタイミングより早く売上高を計上することで売上高を大きく見せることができます。これは、実際の販売取引に対して、売上高計上のタイミングのみを操作することが特色です。例えば、売買契約締結日や手付金受取日に売上高を計上することが考えられます。

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2.売上高の架空計上

売上高の架空計上は、実際の販売取引がないにもかかわらず決算書でのみ売上高があったかのように会計処理するものです。売上高の前倒し計上と異なり、実際の販売取引自体を仮装していることが特色です。

なお、全くの架空販売取引として売上高を計上することの他に、実際の販売取引の金額に上乗せして架空の売上高を計上するケースも見られます。

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2)費用を小さく見せる方法

1.棚卸資産の過大計上

対象となる物品の購入対価は販売されるまでの間、棚卸資産として資産に計上され、販売されたときに売上原価(費用)に振り替えられます。

棚卸資産の過大計上とは、販売されたものの、棚卸資産から売上原価への振り替えを過小とすることで、売上原価を減少させて差引としての利益を大きく見せるものです。売上原価への振り替えが過小であるため、振り替え後の棚卸資産は過大計上される結果となります。

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2.架空資産の計上

会社運営に必要な諸費用は、その費用が発生した期の損益計算書に計上する必要があります。架空資産の計上とは、費用として計上すべきものを資産勘定として貸借対照表に計上することで、費用を減少させて差引としての利益を大きく見せるものです。資産勘定には計上されているものの実際の資産は存在しないため、架空資産となります。

例えば、本来は損益計算書の費用に計上される交際費を仮払金(資産)で、修繕費(費用)を固定資産(資産)で計上することが考えられます。

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3 不適切な会計処理の兆候

1)売上高を大きく見せる場合

1.売上高の前倒し計上の兆候

売上高計上のタイミングが本来のタイミングより早いため、

売上高の相手勘定である売掛金が回収されるまでの期間が徐々に長期化

します。例えば、決済条件が月末締め翌月末払いのケースの場合、本来は翌月末には入金があり売掛金残高はなくなりますが、前倒しで売掛金が計上されると、取引先は本来の決済条件で支払うため入金は翌月末より後になり、回収までの期間が本来の決済条件よりも長期化します。回収までの期間が長期化している売掛金がある場合は、その原因を慎重に究明する必要があります。

2.売上高の架空計上の兆候

実際の販売取引がなく決算書のみで計上された売上高のため、取引先からの代金の支払いはありません。

架空売上高に対応する売掛金は回収できないことから、滞留債権となり長期間にわたって残高が減少しない

こととなります。残高が長期間にわたって減少しない売掛金がある場合は、その原因を慎重に究明する必要があります。

なお、架空売上の事実を隠蔽するため、正当な取引による回収代金を架空売上高の売掛金回収に充当することで、滞留債権化を回避することも考えられますが、この場合、正当な取引により発生した売掛金の回収までの期間が長期化するという影響が表れます。

2)費用を小さく見せる場合

1.棚卸資産の過大計上の兆候

売上原価に振り替えることなく棚卸資産として計上され続けるため、

滞留棚卸資産となり長期間にわたって残高が減少しない

こととなります。滞留している期間と、通常の販売までの期間とを比較して、不合理に長期化している棚卸資産がある場合は、その原因を慎重に究明する必要があります。

なお、棚卸資産の過大計上を隠蔽するため、過大な棚卸資産残高を棚卸減耗損や棚卸評価損によってなくすことが考えられます。不合理な棚卸減耗損や棚卸評価損が計上されている場合には、その原因を慎重に究明する必要があります。

2.架空資産の計上の兆候

現物が確認できない仮払金勘定が利用されることが多く、相手先や支出内容が不明な残高が徐々に増加します。

仮払金勘定は、一時的な支出を仮に処理する勘定科目のため、長期間にわたって多額な残高がある場合

には、その原因を慎重に究明する必要があります。

また、架空資産として固定資産勘定を利用する場合、不自然な金額が不自然なタイミングで計上されることが多くなります。

固定資産としては少額な金額が定期的に計上されている場合や決済されていない固定資産支出が計上されている場合

には、その原因を慎重に究明する必要があります。

4 不適切な会計処理の防止手段

不適切な会計処理の防止のためには、適切な内部統制を構築することが有効です。特に

職務分掌(仕事の役割分担や権限を明確にすること)の徹底

は、シンプルではありますが効果的と考えられます。例えば、伝票起票者と伝票承認者が区分されていれば、相互けん制によって不適切な会計処理は実行しにくくなります。また、資金担当者と記帳担当者が区分されていれば、入金内容を意図的に変更させて経理処理することは難しくなります。さらに、担当者の変更により後任者が前任者の不適切な会計処理に気付くことがありますので、人事異動を定期的に実施することも、不適切な会計処理の防止に効果的です。

特定の1人に任せきりにしないことが最も重要なポイントとなりますが、中小企業のように限られた人員で管理業務を実施している場合、複数名での対応が難しいことも考えられます。その場合、十分とはいえないまでも、例えば、

監査役などが既述の事項を重点的にヒアリングする

ことによって一定のけん制効果が期待できます。

以上(2023年10月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 米山泰弘)

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画像:pexels

【SDGs】実は環境負荷が大きい音楽業界で本格化するSDGsへの挑戦

書いてあること

  • 主な読者:音楽フェスなどイベントの主催企業、協賛企業、後援する地方自治体
  • 課題:環境への負荷が大きいとされる音楽イベント業界で、少しでも環境負荷を軽減するための取り組みを進めたい
  • 解決策:飲食物の提供にプラスチック容器を使わない、電力を電気自動車で供給するなどの取り組みで環境負荷の軽減につなげることができる

1 知っていますか? 実は環境への負荷が大きい音楽業界

かつてはCDやレコード製造で消費されるプラスチックの量が問題とされてきた音楽業界でしたが、今はストリーミングやダウンロードによる視聴が主流になり、プラスチックの消費量は減りつつあります。

ただし、デジタル化が進んだから環境への負荷が減ったとは言い切れません。特に環境への負荷が大きいとされているのは、

  • 音楽のストリーミング、ダウンロードにかかる電力消費
  • 音楽フェスでの二酸化炭素排出
  • 音楽フェスでの飲食物の食べ残し、ごみの放置

です。

こうした問題を解決するため、音楽フェスでは再生可能エネルギーの導入やごみのリサイクルに取り組む事例も増えており、海外では「家で寝て過ごすよりもサステナブル」といわれるくらいに環境への負荷を減らすことが考えられた音楽フェスもあります。

そこでこの記事では、環境への負荷が高いとされている音楽イベント業界で、環境負荷を軽減するために実際に行われている先進事例について紹介します。

2 環境への負荷を軽減するための取り組み事例

環境への負荷を軽減するための取り組み事例には、目的に応じて次のようなものが挙げられます。

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1)電力を再生可能エネルギーなどで賄う

音楽フェスでは、照明やスピーカーなどによる膨大な電力消費がつきものです。そうした電力消費を再生可能エネルギーなどで賄う取り組みがあります。

例えば、中津川THE SOLAR BUDOKAN 実行委員会などが主催する音楽フェスの「中津川 THE SOLAR BUDOKAN」では、コンサートの運営にかかる電力のすべてを太陽光発電で賄っています。同イベントでは、会期中の来場者の移動で発生したCO2排出量のカーボン・オフセット(削減しきれないCO2排出量を、カーボンクレジットを購入することで相殺すること)にも取り組んでおり、2022年の実績で、119万6000円(1トン当たり2000円)分を購入しています。購入代金はクラウドファンディング、リユースカップ、オリジナルグッズ、募金の収益で賄っているといいます。

他にも、電力を賄う方法として、サンライズプロモーション東京(東京都港区)などが主催となって2022年10月に開催した「BLUE EARTH MUSIC FEST 2022 in MITO supported by 茨城日産グループ」では、音楽ライブのメインステージの一部と会場外の無料エリアの電力を電気自動車で賄う取り組みを行った他、飲食物をプラスチック容器ではなく、紙の包装紙を使って提供するといった取り組みを実践しています。

2)飲食物の食べ残しをリサイクルする

音楽フェスでの飲食物の食べ残しの処理も問題の1つです。この問題の解決策として、食べ残しを堆肥に変える取り組みがあります。

ロックバンドの「くるり」が主催する音楽フェス「京都音楽博覧会」では、2022年に環境に配慮した新しい取り組みとして、コンポストの設置を行いました。これは、フードエリアで出た飲食物の食べ残しや食材の使い残しを微生物によって発酵・分解して堆肥としてリサイクルするものです。出来上がった堆肥はフェス会場の梅小路公園の指定管理者である京都市都市緑化協会に寄贈し、公園の樹木の肥料に使われました。

また、同イベントでは飲食物を提供する際の食器を使い捨てでないリユース容器を導入したり、フライヤー、チラシを配布したりしないことでごみの削減につなげています。

他にも、生ごみの堆肥化はウエス(北海道札幌市)が主催する音楽フェス「RISING SUN ROCK FESTIVAL in EZO」でも行われています。これは、NPO法人のezorock(北海道札幌市)が「RSRオーガニックファーム」という名称で取り組んでいる企画で、同イベントで回収された生ごみの一部を堆肥に変え、栽培したじゃがいもを翌年の会場で食材として無償で配布しています。

3)CDパッケージの脱プラスチックを進める

これまで、CDパッケージはプラスチック素材がメインとなっており、環境への負荷が問題となっていましたが、近年では植物を原材料にしたリサイクル可能なものが出ています。

その例として、ソニーグループ(東京都港区)が手掛ける「オリジナルブレンドマテリアル」があります。竹やさとうきび繊維を原料にしたパッケージで、外箱や内箱だけに限らず、クッションや商品保護シートも同素材で作ることができます。リサイクルが前提の素材のため、廃棄の際にも他の紙類と一緒に回収に出すことが可能です。これによって、既存のプラスチック製のCDトレイと比較して、約97%の石油系プラスチックの削減ができたとしています。

4)ごみのリサイクルを図る

会場内で出たごみを回収し、リサイクルを図るイベント内資源循環リサイクルに取り組んでいるイベントの1つに「フジロックフェスティバル」があります。

同イベントでは、「ごみゼロナビゲーション」活動として、ボランティアスタッフがごみの分別を呼びかけるだけでなく、食用に適さない古米、米菓メーカーなどで発生する破砕米などを材料にしたごみ袋を来場者に配布し、ごみの放置やポイ捨てを防いでいます。

他にも、同イベントでは来場者と一緒に森林保全活動を図る取り組みもあります。イベント内で使われる割り箸やフライヤーなどは会場周辺で伐採した間伐材を材料に用いることで、森林整備や保全活動につなげています。

5)カーボン・オフセットでCO2排出を相殺する

前述した、削減しきれないCO2排出量を、カーボンクレジットを購入することで相殺するカーボンオフセットも環境に配慮した取り組みの1つです。

例えば、滋賀ふるさと観光大使を務める西川貴教氏が発起人の「イナズマロック フェス」では、2022年の9月に開催された「イナズマロック フェス 2022」でカーボン・オフセットによる開催を実現しています。

これは、イベント期間中に来場者の移動や会場での電力使用に伴って排出される30トン分のCO2を、提携する滋賀銀行がカーボンクレジットを購入・提供することで埋め合わせをする仕組みです。購入したカーボンクレジットは、滋賀県の森林資源の整備に利用されます。

3 参考:海外での先進事例

1)観客の熱気をエネルギーに変換:SWG3

スコットランドにあるナイトクラブの「SWG3」では、観客の体温をエネルギーに変換するシステムの「BODYHEAT」を導入しています。このシステムは、ヒートポンプシステムを用いて観客から発生する熱を地下に開けた穴に保存し、冷暖房に使用するという仕組みです。

このシステムによって、年間で70トン分のCO2排出を抑えることができるとしています。

2)オーディオファイルの環境負荷軽減:MQA

レーベルやDSP向けデジタル配信業者である英国のMQAでは、ハイレゾ音源データのCO2排出量を従来から80%削減することを実現しています。環境への負荷で置き換えると、MQA形式の音楽ファイルの場合で日6時間、365日再生した場合に19本の木を植えることと同様の効果があるとしています。

以上(2023年10月作成)

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【債権回収(25)】取引先が「破産手続」を申立てたら債権はどうなるのか?

書いてあること

  • 主な読者:取引先が「破産手続」を申立てた場合の対応を知りたい経営者
  • 課題:何ができるのか分からないし、そもそも債権が回収できるのか不安
  • 解決策:強制執行ができなくなる場合がある。一定の条件のもと、相殺と担保権の実行が認められる

1 「破産手続」の位置付け

取引先が破産手続を申立てた場合、自社の債権は大きな影響を受けます。そのため、取引先の破産手続の申立てに備えて、事前に何ができるのかを知っておく必要があります。その前提となる情報として倒産処理の手続を整理します。

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会社が債務超過などで倒産した場合、その手続は、

  • 私的整理:裁判所を利用しない
  • 法的整理:裁判所を利用する

に大別されます。法的整理はさらに、

  • 清算型:会社の清算を目的とする
  • 再建型:会社の再建を目的とする

に大別されます。

破産手続とは、

会社を清算し、消滅させることを想定した制度

です。会社の全財産が債権額に応じて債権者に按分で弁済され、会社は消滅します。弁済しきれない残債務は実質的に免責されます。そのため、取引先が破産手続に進むと、

何らかの担保を設定していない限りは、全て破産手続上でしか回収できない

状態になります。また、回収できるのは、債権額の0~1%程度にとどまることも少なくないため、ほぼ回収できずに債権が消滅してしまう恐れもあります。

では、破産手続の基本的なポイントを紹介していきます。

2 破産手続における債権の分類

破産手続では、債権を5つに分類します。

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商取引上の債権の多くは一般破産債権です。債権額のほとんどは弁済されないことになるため、取引先が破産をしてしまうと、最終的に貸倒損失として処理をすることになります。

3 破産手続の概要

破産手続の主な流れは次の通りです。図の黒塗りの部分については以降で詳しく紹介しています。

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1)裁判所による包括的禁止命令・財産保全処分

裁判所は、破産手続の申立てを受けてから破産手続開始の決定があるまでの間、

全ての破産債権者に、破産債務者の財産に対する強制執行などの禁止を命ずる包括的禁止命令を出す

ことができます。包括的禁止命令が出ると、債権者は売掛金の回収や自社商品の引き揚げなどができません。

また、民事再生手続と同様、裁判所は職権で仮差押え・仮処分その他の必要な保全処分ができます。

2)破産債権の届出・調査・確定

債権者は、破産手続の開始決定後、裁判所が定める債権届出期間内に、裁判所に対して債権の内容および額などを届け出ます。この届出を怠ると、債権者は債権を失う恐れがあるため十分に注意する必要があります。

債権者からの届出を受けた裁判所は、債権の内容および額などについて調査期間を設けます。その調査期間において、破産管財人が作成した債権認否書の内容について、破産債務者が認め、かつ届出をした破産債権者の異議がなかったときは、その破産債権の内容は確定します。

3)債権者集会の決議

破産法では、破産債権者の意思を、債権者集会あるいは債権者委員会(破産債権者をもって構成する委員会)によって破産手続に反映させます。債権者集会は、破産管財人・債権者委員会・知れている破産債権者の総債権について、裁判所が評価した額の10%以上の破産債権を有する破産債権者の申立てまたは裁判所の職権で招集します。

債権者集会の決議は、債権者集会に出席または書面投票した者の議決権の総額の50%超の同意によってなされます。

債権者委員会は裁判所または破産管財人に意見を述べることができ、裁判所は債権者委員会から意見を求めることが可能です。また、破産管財人は財産の管理および処分に関して、債権者委員会の意見を聴取することとされています。

4)破産債権者に対する配当

破産管財人は、財産の換価の終了後、遅滞なく、裁判所書記官の許可を得た上で届出をした破産債権者に配当します。配当には、原則型である「最後配当」、最後配当に代わる簡便な手続である「簡易配当」と「同意配当」、換価終了前の例外的な手続である「中間配当」、最後配当の補充的な手続きである「追加配当」があります。通常、単に配当という場合は「最後配当」を指します。

破産管財人は、配当の手続に参加できる破産債権者の氏名または名称および住所、債権の額および配当できる金額を記載した「配当表」を裁判所に提出します。その後、破産管財人は遅滞なく、配当の手続に参加することができる債権の額および配当できる金額を公告、または破産債権者に通知します。

配当表に異議のある破産債権者は、破産管財人が裁判所に届出をした日から2週間以内(除斥期間)に、配当表の修正記載の基礎となる事実を提示します。破産管財人は、これを受けて配当表を更正します。さらに、配当表の記載に不服がある破産債権者は、除斥期間が経過した後1週間以内に限り、裁判所に異議を申立てることができます。

4 破産手続中の取引先から債権回収する手立て

1)債権債務の相殺

破産債権者が債務者に対して債務を有する場合、

破産手続によらずに、双方の債権債務を相殺

できます。相殺権を行使する場合、一般的に配当を受けるわけではない以上、破産債権の届出は必要ないと考えられています。

なお、破産債権者の公平・平等と相殺権行使の濫用防止の観点から、破産手続特有の相殺禁止に関する定めがあるので注意が必要です。

2)担保権の行使

破産手続開始の時点で、

債務者の財産に設定されている担保権(特別の先取特権、質権、抵当権、商事留置権)を有する者は、その目的である財産については「別除権」を有し、破産手続によらずに行使できる

とされています。そのため、上記に該当する担保権を有していれば、原則として競売などを通じて債権回収できる可能性があります。なお、担保権の実行手続を開始している場合、破産手続が開始されても影響を受けません。

以上(2023年9月更新)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)

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画像:Mariko Mitsuda

テクハラVS逆テクハラ!若者はITに疎いオトナを露骨に見下す問題/今どきの若手社員のトリセツ~上司や先輩に贈るストレスマネジメントの処方箋 Vol.12

近年、職場の上司や先輩(いわゆるオトナ世代)は、若手社員の言動を理解できないイライラ、腑に落ちないモヤモヤを抱えつつも、指導の際は「パワハラ」と感じさせないように、気遣いや遠慮が求められるようになりました。
そもそもオトナ世代が若手にストレスを感じる原因は、オトナの考えと、若手の行動とのすれ違いによるものがほとんどです。しかし、若手に対して「けしからん!」と怒ったり、「理解できない!」と嘆いたりしていたことを、冷静に分析するだけでスッキリすることもあります。

本連載は、拙著「イライラ・モヤモヤする 今どきの若手社員のトリセツ」を一部抜粋し再構成してお届けします。

  • オトナ世代が違和感をもつ若手社員の言動を具体的にピックアップ
  • ギャップやストレスの正体を分析
  • 円滑なコミュニケーションや適切な指導法を考察

という3ステップで、指導の妨げとなるストレス解消のヒントを探っていきます。

1 すいません、ファイルが開かないんですが(汗)

オトナのイライラ・モヤモヤ
添付ファイルに暗号化したパスワード付きのZipファイルを送付する。分かるよ、情報漏えい防止のためでしょ。でもさ、パスワードを要求されただけで、なんか焦るんだよね。送ってきたパスワードもすごく複雑だから、けっこう打ち間違うし。わざと複雑にしてない? え? パスワードはコピペするのが常識だって? それ早く言ってよ。

若者のホンネ
パスワードのコピペ、前にも説明したじゃないですか。ITは難しいって毛嫌いしてるけど、こんなの初歩の初歩ですよ。だいたい業務に必要なスキルなんだし、身につけようとしないのは、怠慢だと思いますけど。

ITは今や必須のビジネスツールです。それなしでは、企業活動そのものに支障が出るケースも決して珍しくありません。それでいくと、社会人であれば誰もができて当然であり、業務に必要なスキルだということになります。
にもかかわらず、できないというのは、身につけようとしないほうが悪い。若者はそう考えます。特にZ世代はデジタルネイティブと言われるほどITに慣れ親しんで育ってきました。PCやタブレットといったツールは、学生時代から講義や論文で、あるいは就職活動で使用しています。ITスキル、リテラシーが高く活用に意欲的な若者からすると、冒頭のシーンのように、「ITに疎い、イコール怠慢」であると感じてしまうのです。

2 下剋上ハラスメントの時代

そういう状況から生まれてきたのが「テクハラ」です。 テクノロジーハラスメントの略で、IT関連に疎く、PCやスマートフォンなどの扱いが苦手な人へのいじめや嫌がらせのことです。
今では、なんでもハラスメントになってしまう時代ですが、数ある職場系ハラスメントは、ほぼ上から下へのものです。今までは、上が「それ前に言ったよね!」、下が「えっ……」となってしまう。そういうベクトルのハラスメントでした。
しかし、このテクハラに限っては、下から上へのハラスメントがほとんど。デジタルツールの使い方を覚えられないオトナに、若手が「それ、前にも説明しましたよね」と発言する。で、オトナが「えっ……」とショックを受ける。今や、ITを巡って、下からハラスメントを受ける時代になったのです。

テクハラは当初、IT機器に相当疎い一部の中高年社員が対象でした。それこそ、メール1通送るのに時間をかけているオトナに対して、若者がイラモヤして「チッ」と舌打ちする。仕事がデキるオトナほど、プライドが傷つけられる。こんなシーンが多かったんだと思います。しかし、クラウドサービス利用の増加、コロナ禍での在宅勤務、テレワークの導入など、環境の変化に伴いIT環境はあっという間に変わっていきました。テクハラの恐怖は、大半の大人世代に忍び寄ってきています。

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3 日進月歩の進化に追いつけない

冒頭のファイルの送り方なんかも、IT環境の日進月歩を示す一事例です。あの方式はPPAPと言って「パスワード(Password)付きZip」「パスワード(Password)送信」「暗号(Angou)化」「プロトコル(Protocol)」の頭文字をとったもの。長らくセキュリティ対策の定番でした。
それが今、実はセキュリティの脆弱性について指摘されているのです。デジタル庁は、「中央省庁の職員はPPAP方式を使ってはならない」という方針を打ち出しました。
我々オトナからすると寝耳に水。「え? せっかく覚えたのに、やり方が変わっちゃうの?」って感じじゃないですか。
ある程度リテラシーのあるオトナであっても、日々、アップデートされるITには、追いついていけない状況になりつつあります。しかし、ここで一歩踏み出せないと、若手との格差はさらに広がっていきます。

4 PC接続くらい、ちょっと手伝ってくれてもいいでしょ

オトナのイライラ・モヤモヤ
最近、会社のパソコンが変わった。あ、パソコンじゃなくて、最近はPCって言うのか。それはさておき、この設定ってどうやればいいの? メールの設定とか、プリンターの接続とか、データのバックアップとか、さっぱり分かんない。恐る恐る若手に「ちょっと手伝ってよ」ってお願いしたら、すごく嫌な顔された。

若者のホンネ
設定だって、接続だって、一回くらいは手伝いますよ。でも一回手伝うと、これは?あれは?それは?って、いつも頼ってきますよね。挙句の果てには、業務上のPC操作だけでなく、プライベートのスマホの設定までお願いされたり。こっちはサポートセンターじゃないんですから。

冒頭の「すいません、ファイルが開かないんですが(汗)」という場面で紹介した「テクハラ」が増えてくる一方で、最近では、実は「逆テクハラ」という言葉も話題になっています。逆テクハラとは、IT関連の知識が豊富で得意な社員に、そういった関連の作業を押しつけることを指します。
これは、職場では上位の立場にある、かつITへの苦手意識があるオトナ世代が、「ITからは逃げよう、得意な若者にやらせればいいんだ」と開き直ったために起こる事象といえます。

5 IT弱者のオトナ世代が逆襲

人間誰しもプライドはあります。それが長年生きて積み重ねた経験があればなおさらです。新しいものを習得するためには、誰かに教えを乞うか、自身で身につける必要があります。
しかし、プライドが邪魔すると、部下などの若手には素直に聞くことができません。仮に勇気を出して聞きにいったとしても、PC設定など、ごく稀にしか発生しない業務は、結局覚えられない。あるいは、教えてもらってもよく分からない。だからといって、自身で身につけようと思っても、基礎知識が足りないし、情報があるのはネット上だったりするので、調べるのが難しい……。そこでつまずくと、代わりにやってもらおうという心理が働きがちです。

結果として、ITを若者に押しつけようとするオトナが大発生してしまうんでしょう。いってみれば、IT弱者であるオトナ世代の開き直りによる逆襲です。

6 時間を奪われることがストレス

「今までITとの接点が少なかった世代が、高圧的な態度を取りITから逃げている」
「分からなくて当たり前とか、分かりやすく作らないほうが悪いという発言が老害」
「PCに詳しい=何でもできると思ってる。分からない設定も無理やりやらされる」
「私物PCのセットアップなど、普通はお金払ってやってもらうものへの感謝がない」
ネット上では、若者の手厳しい声があふれています。

若手社員は、オトナのITに対する理解不足に対して、当然イライラ・モヤモヤしています。しかしそれ以上に、時間を奪われることにイライラ・モヤモヤしているのです。一度や二度の質問は良いのですが、何度も同じことを聞かれる。代わりにやってと頼まれる。これは、時間を大事にする若者にとっては、明らかに時間を奪われる=業務を圧迫されることに他なりません。

ITに詳しい人間が「強者」で、ITに疎い人間が「弱者」。これがテクハラの温床になっていたわけです。しかしオトナの開き直りは、ITに疎い人間が「強者」でITに詳しい人間が「弱者」という立場の逆転構造を生んでしまったのです。
むしろ、テクハラよりも逆テクハラのほうが発生ケースとしては多く、深刻なものが多いのではないでしょうか。

7 イライラ・モヤモヤ解消法

テクハラに遭遇しない、逆テクハラを引き起こさない。そのためには、やっぱりオトナ世代が頑張って、ある程度のITリテラシーを身につけることなんだと思います。
ちなみに、最低限のITリテラシーとして定義されるのは、「Excel、パワポを使える」「リモート会議の設定」「書類のPDF化」「メールの設定」「スクリーンショット」だという声が大多数でした。この5つはマスターしましょう。あ、これ、筆者自身にも言ってます。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2023年10月25日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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