書いてあること
- 主な読者:ゲーミフィケーションをビジネスで役立てたい経営者
- 課題:ゲーミフィケーションの考え方や具体的な活用例が分からない
- 解決策:概要を把握し、ビジネスで役立てている事例を参考にする
1 ゲーミフィケーションの概要
1)ゲーミフィケーションとゲームについて
ゲーミフィケーションとは、「ゲームの考え方、デザイン、仕組みなどの要素を、ゲーム以外の社会的な活動やサービスに利用すること」をいいます。
ゲーム(game)は、「遊び」や「遊戯」と訳され、カードゲームやテーブルゲームから、テレビゲーム・アーケードゲーム・ネットゲームまで幅広い種類のものがあります。また、一口に「テレビゲーム」といっても、アクションゲームやロールプレイングゲーム(以下「RPG」)など、さまざまな種類のものがあります。
2)ゲーミフィケーションのビジネスへの活用
ゲームの特徴としては、「遊んでいて楽しい」とプレーヤーを楽しませることが挙げられます。「ゲームをしていると、時間を忘れるように夢中になっていた」という経験をした人も少なくないでしょう。
このようにゲームが持つ人を引き付ける力を、商品・サービスの売り上げ拡大や社員の教育などに活用しようと、ゲーミフィケーションを採り入れる企業が出てきています。
以降では、ゲーミフィケーションの考え方を理解するために、ゲームにおける人を引きつける要素と、ゲームに引きつけられる人のタイプを分類した上で、ゲーミフィケーションをビジネスで活用した事例を紹介します。
2 ゲーミフィケーションの概要
1)ゲームの特徴
ゲーミフィケーションを実施する上で、プレーヤーを夢中にさせるゲームの特徴を理解しておくことが必要です。「遊びやすさ」や「楽しさ」を演出するために、ゲームの特徴としては次の点が挙げられます。
1.インストラクション設計:マニュアルなしでも簡単に遊ぶことができる
ゲームは、簡単なマニュアル(説明書)が添えられています。説明書をよく読んでから始めてもいいですが、読まなくてもプレイしながら遊び方を身に付けることもできます。例えば、代表的なアクションゲームである任天堂「スーパーマリオブラザーズ」では、最初は前後に動くこととジャンプすることぐらいしかできないため、操作が容易です。序盤は出てくる敵の動きも単調であり、次のステージに進むためのミッションも簡単であることから、プレイをある程度続けることができ、次第に操作に慣れて上達していくことができます。
また、RPGでも、ゲームの最初にインストラクターとなる人物が登場し、操作を一つひとつ解説してくれるなど、プレイしながら操作を学べるように設計されています。
2.レベル設計:それぞれのプレーヤーが適切な難易度のゲームを楽しむことができる
ゲームは、それぞれのプレーヤーのレベルに応じて、“ちょうどいい”くらいの難易度のミッションが与えられます。ミッションが最初から難しすぎると、プレーヤーは次のステージに進むことができずゲームをつまらないと感じてしまいます。一方、ゲームに慣れてきたのにいつまでも簡単すぎても、プレーヤーはゲームに飽きてしまいます。それぞれのプレーヤーにとって、適切な難易度のミッションが与えられるようレベルを設計することが、プレーヤーにゲームを楽しんでもらうには欠かせないのです。
例えば、アクションゲームでは、プレーヤーが最初は操作に慣れることができるようミッションが簡単に設定されているものの、ステージが進んでいくにつれ、敵の動きや攻撃が複雑になってきたり、障壁となるようなトラップも増えてきます。
また、RPGでは、操作するキャラクターは最初は誰もがレベル1で、それでも十分に敵と戦えるようにできています。敵を倒してゲームを進めていくうちにキャラクターのレベルが上がり、出てくる敵も次第に強くなります。
加えて、ゲームを進めるうちに操作するキャラクターのレベルが上がり、新たな技が使えるようになるなどキャラクターの能力が向上していくようにできており、達成感を演出しています。例えば、アクションゲームでは、アイテムを入手することで、敵を攻撃する炎を出す能力や、空を飛べる能力などが得られます。また、RPGでは、敵を倒して一定の経験値を獲得するごとにキャラクターのレベルが上がり、「力が2ポイント向上」などと、キャラクターの成長を実感できるようにできています。
3.インセンティブ設計:ゲームにのめりこむようにインセンティブが与えられる
ゲームでは、例えば「自分は救世主であり、世界を救うために冒険を始める」などと、壮大なゴール(目的)が与えられます。また、そのゲームの最終的なゴールを達成する前に、いくつかのミッションが設けられています。そして、それぞれのミッションをクリアするごとに達成感を感じられるよう、クリアを祝福するような音楽や画像を挿入したり、貴重なアイテムが手に入ったり、ゲーム上の登場人物が祝福したりするようなイベントが発生するようになっています。
この他、ゲームを進めるうちに、登場するキャラクター間の意外な関係が明らかになったり、これまで謎だった「伝説」などの事実が解明されたりもします。
このように小さなゴールや発見を積み重ね、大きなゴールを目指すように設計されていることが、プレーヤーにゲームを継続するインセンティブを与えています。
2)バートルによるプレーヤーの4タイプ
以上のように、ゲームには人々を引きつけるためのさまざまな設計が施されていますが、こうした設計の中のどの要素に引きつけられるかは、人によって異なります。英国のゲーム研究家であるリチャード・バートルは、ゲームを愛好するプレーヤーについて、次の4つのタイプに分類しました。
1.アチーバー(Achiever)
達成することに満足感を覚える人です。レベルを上げることや、アイテムを獲得すること、ミッションをクリアすることに喜びを感じるタイプです。
2.エクスプローラー(Explorer)
未知の世界や新しい領域に踏み込み、新たな発見をすることに喜びを感じるタイプです。
3.ソーシャライザー(Socializer)
ゲームを通じて他者との交流を楽しむ人です。他のプレイヤーと協力したり、他のプレーヤーから感謝されたりすることに喜びを感じるタイプです。
4.キラー(Killer)
レベルを上げたりアイテムを獲得したりすることで、他者を凌ぐことに優越感を感じるタイプです。
ゲームに熱中するプレーヤーは、これら4つのタイプのいずれかに満足感を得ているとされます。
3)ゲーミフィケーションが注目を集めている背景
1.SNSの利用者増加
周囲の人から得られるフィードバックは、行動を起こす上で大きなインセンティブとなります。このようにインセンティブを与える効果を高めている要因として、SNS(ソーシャルネットワークサービス)の利用者の増加が挙げられます。
近年、ツイッターやフェイスブックなどのSNSの利用者が増加しています。これにより自分の行動などについて投稿し、フェイスブックの「いいね!」ボタン(注)のように、さまざまなユーザーからすぐにフィードバックが得られる環境が整ってきています。前述したバートルによるプレーヤーの4タイプのうちソーシャライザーは、特にSNSの効果が高くなります。
また、スマートフォンの普及もゲーミフィケーションの効果を高めています。スマートフォンにより、時間や場所を問わずインターネットと接続してSNSを利用できます。加えて、スマートフォンには位置情報を割り出すGPS機能が備えられており、GPS機能により移動距離や走行ペースを算出するなどといった遊び方もできるようになっています。
(注)フェイスブックの「いいね!」ボタンとは、自身が良いと思った投稿について、ワンクリックで「いいね!」と評価を示すことができるボタンです。
2.ゲームに慣れ親しんだ人の増加
ゲームに慣れ親しんだ人が増加したことも、ゲーミフィケーションが注目を集める背景の一つとして挙げられます。
現在ゲームで遊ぶのは、子どもだけではありません。ゲームが日本で広まりだした1980年ごろ、家庭用ゲーム機やゲームセンターなどのゲームで遊んでいた当時10代だった世代が現在では40代になるなど、社会においてゲームのことをよく知っている人が増えています。
これらのゲームに慣れ親しんだ人の間では、ゲーミフィケーションの考え方が一つの共通言語のようにとらえられるため、ゲーミフィケーションを実践・普及させる土壌となっているといえるでしょう。
3 ゲーミフィケーションをビジネスで活用している事例
最後に、ゲーミフィケーションをビジネスで活用するためのポイントについて考えてみます。ゲーミフィケーションによって顧客の満足度や利用意欲を高め、商品やサービスの売り上げ拡大につなげるための手法と事例について、前述のバートルによるプレーヤーの4タイプを想定しながら紹介します。
1)達成度の数値化
商品やサービスを利用することで、どの程度の効果があったのかを数値で示すことは、特にアチーバーの誘引につながります。ナイキが提供する「NIKE Run Club」は、GPSを使ってランニングの履歴が記録されるスマートフォンアプリです。走行距離の目標設定を行うことで、目標に対する達成度が数値で分かります。走行距離などが一定の条件に達するとトロフィーの画像が贈られるシステムもあり、アチーバーの満足度を高めるシステムが整っています。
さらに、走行記録をSNSなどにアップすることもできるので、ソーシャライザーの欲求も満たす仕組みになっています。アプリを通じてランニングのファン層を増やすことで、ランニングシューズの売上拡大に結びつきますし、ナイキというブランドイメージの向上にも貢献します。
2)ロイヤリティプログラム
一定のポイントが貯まると特典を受け取れたり、ランクが上昇したりするロイヤリティプログラムも、アチーバーに支持されるシステムです。また、ステーキチェーンの「いきなり!ステーキ」による肉マイレージは、獲得マイレージのランキングを公表することで、キラーを呼び込む効果もあるとみられます。
3)他人のフィードバックを得られるシステム
前述のフェイスブックの「いいね!」のように、利用者の活動がインターネットなどを通じて他人からのフィードバックを得られる仕組みは、主としてソーシャライザーからの支持が獲得できます。ユーザーの疑問を別のユーザーが回答するウェブサイト「Yahoo!知恵袋」では、最も役に立った回答に対して質問者が「ベストアンサー」に選ぶことで、ソーシャライザーの満足度を高めているとみられます。
4)自虐的な宣伝や奇抜な商品
自社の食品をあえて「まずい」と強調する宣伝や、意外な食品と組み合わせて食べることの提案、奇抜な見かけやネーミングを採用する戦略などは、エクスプローラーを刺激する売り込み手法といえるでしょう。意外な食品との組み合わせについては、商品専用のウェブサイトなどを通じて一般消費者から募集し、組み合わせに対するフィードバックを掲載することで、ソーシャライザーの関心も集められる可能性があります。
また、行き先を公表せずに出発する「ミステリーツアー」も、主にエクスプローラーをターゲットにした商品といえます。
以上(2019年7月)
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画像:unsplash