書いてあること
- 主な読者:感情や直感など消費者の心に働きかけて売上アップにつなげたい経営者
- 課題:人間の行動を分析した行動経済学を理解し、売上アップのための施策に活用したい
- 解決策:時間不合理性やフレーミング効果など、行動経済学の理論を活用した身近なマーケティングの実践例を学び、導入してみる
1 「時間不合理性」を活用して、消費者の心を動かす
1)どちらがお得に感じる?
今回も行動経済学を体感していただきながら進めていきます! 早速やってみましょう!
多くの方が、「2):いま1万円もらう」を選んだのではないでしょうか。でもよく考えてください。1)を選べば利息が5%もつきます。経済合理的に考えれば、1)を選んだほうがお得なはずです。
これは、行動経済学で「時間不合理性」といい、
時間が遠いほど、自身の中で割引(マイナス)を設定してしまう
というものです。将来の利得より、目先の利得を選んでしまうのは人間の心情、言われてみればそうだよなという理論ですよね。
2)キャンペーンなどの特典付与時期は「近い時間」を設定しよう
お店の売上アップを支援する現場での話。そのお店では、最近、多くのお店で活用が進んでいる「LINE公式アカウント」を導入することになりました。来店された方にお店のLINEに登録していただき、そこにメッセージ配信やクーポン配信を行って再来店を促進する狙いです。重要になるのは、まずお店のLINEに登録してもらうことです。そこで登録促進のために特典をつけようという話になりました。
店長が考えた特典は、「いまLINEに登録すると、次回来店時に使えるドリンク券プレゼント」でした。私は、その特典に反対し、「『いまLINEに登録して画面を見せてもらえれば、本日ドリンクを無料で提供します』にすべきです」と助言しました。
あなたが客の立場だったら、どちらを選びますか? 恐らく「本日ドリンク無料」のほうに反応するのではないでしょうか? 次回という、いつになるか分からない将来よりも、いますぐという特典を選ぶのは、先ほどご説明した「時間不合理性」があるからです。
2 伝え方を変えれば、相手の心が動く
1)表現の仕方で反応が異なる?
続いては、次の2つの質問にお答えください。
私が行動経済学のセミナーで質問をすると、質問1ではほぼ全員の方が、「1):手術をする」と答えます。一方で質問2になると、「2):手術をしない」を選択する人が多くなります。
お気付きのように、質問1では、「90%の確率で手術は成功します」と言っていますが、裏を返せば「10%の確率で手術は失敗します」と言っているのと同じです。質問2では、90%の成功というポジティブな要素を伝えずに、10%の失敗というネガティブな要素を伝えています。つまり、同じ内容でも「表現の仕方」で選択が異なるということです。
人は、利益(ポジティブ)と損失(ネガティブ)をてんびんに掛け、「ネガティブ要素が少ない」よりも「ポジティブ要素が多い」を選ぶ傾向にあります。
この心理現象のことを行動経済学で「フレーミング効果」といい、ある事柄を説明するにあたり、
伝え方・表現を変えることで、相手に与える印象を変えられる
ことをご理解いただけたと思います。
2)マイナスをプラスに転換する「リフレーミング」で売上アップ
栄養ドリンクのテレビCMで、こんなフレーズがあります。
「ファイトー! 一発! タウリン1000mg配合」
このCMでのフレーズ、以下だったらいかがでしょうか。
「ファイトー! 一発! タウリン1g配合」
「なんだか、効き目なさそう……」。そう感じられた方は多いのではないでしょうか。
1g=1000mgですので、同じ量です。フレーミング効果によって、伝え方・表現ひとつでこんなにも受ける印象が違うのです。
売上アップのためにフレーミング効果を活用するためのポイントは、
マイナスをプラスに転換する
ことです。これを「リフレーミング」といいます。先ほどご説明したように、人はポジティブな要素に反応しやすい傾向があります。自社の強みを打ち出したり、キャッチコピーを作成したりする際には、いかにポジティブな要素を入れるかを意識してみるとよいでしょう。
当社では年に1回、「マーケ大カンファレンス」というマーケティングのセミナーイベントを開催していますが、その際にリフレーミングを活用して成功したことがあります。そのイベントでは、マーケティングの最前線で活躍する講師6人が登壇するのですが、イベントの最後に全員が登壇し、1講師10分で講義のエッセンスをプレゼンするという時間があります。
第1回の開催時は、このコーナーを最終盤に実施することから「エンディングセッション」とご案内していました。ところが、なんと半分近くの方がエンディングセッションの前に帰ってしまったのです。
「エンディング」というネガティブなイメージが影響を与えたのだと考え、第2回の開催時は、このコーナーの名前を「スーパープレゼンテーション」と変更してご案内しました。すると、9割以上の方にお残りいただき、最後までイベントにご参加いただけました。
「エンディングセッション」と「スーパープレゼンテーション」。同じ内容でも表現にポジティブな要素を入れるだけで、こんなに反応が違うのかと、リフレーミングの威力を体感した出来事でした。
3 タダほど強いものはない? ~無料の威力~
最後の質問です。
行動経済学のセミナーで挙手を求めると、だいたい半々に分かれます。ですので、販売促進の効果を考えると、2つの施策は同じくらいであると考えてもよいでしょう。
次に、このテレビを100人に販売した場合、それぞれの施策がどれだけ予算がかかるか計算してみます。
- A店:5万円×100人×5%=25万円
- B店:5万円×2人(無料)=10万円
A店の場合、ポイント還元により再来店を促すメリットがあったり、付与したポイントが使われない可能性があったりしますので単純に比較はできませんが、明らかにB店のほうが費用対効果の高い販促施策を展開しているといえるのではないでしょうか。
この「○○に1人がタダ」というキャンペーンは、航空会社や家電量販店で実施され大成功した例として知られています。「数字は見せ方によって、受け手の印象を大きく変えられる」ことを学ぶ好事例といえるでしょう。
行動経済学では、「無料の威力」という実証から導き出した理論があります。
無料、つまりタダに人は反応しやすい
というものです。当然、なんでも無料にしたら商売になりませんが、上記のキャンペーンのように、無料という要素をうまく活用して集客を図ることができます。
「見積もりは無料!」「無料サンプルのお申し込みはフリーダイヤルへ!」など、テレビ通販では常とう手段で使われていますよね。「タダほど怖いものはない」ともいわれますが、売上を伸ばすためには「タダほど強いものはない」ということもできるのです。
4 行動経済学を使って売上アップ
これまで行動経済学とその活用についてお伝えしてきましたが、いかがでしたか。「言われてみればそうだよね!」「それなら自分も取り組んでいるよ!」といった内容が多かったと思います。それもそのはず、行動経済学の理論は、私たちの日常生活や購買行動の実験・分析から生まれているものだからです。
いままで経験則でやっていたことも、行動経済学の理論的な裏付けがあると自信を持って実践できますし、施策に対する周囲の理解も得られやすいですよね。
ぜひ、今回ご紹介した行動経済学を、ご商売の現場でご活用いただければ幸いです。
以上(2022年1月)
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画像:Master1305-shutterstock
執筆者サイト:https://glocal-marketing.jp/