書いてあること
- 主な読者:情報活動(情報の収集、分析、活用)のスキルを向上させたい人
- 課題:欲しい情報を迅速かつ的確に集める方法や、その情報がビジネスで使える情報なのかの見分け方が分からない
- 解決策:インターネット以外での情報収集も行う。出所ごとの情報の質の違いを理解する
1 ネットで拾ったその情報、ビジネスで使って大丈夫ですか?
参入を検討している介護用品は、きっと売れるという報告をしたら、課長から「調査が不十分」と大目玉をくってしまった。ちゃんとインターネットで検索して、介護関連市場が拡大しているという経済評論家の話や、国が高齢者対策は重要だと言っていること、それにライバル会社の類似商品を評価する書き込みがブログやSNSに載っていることを報告したのに……。
ちょっと待ってください。確かにインターネット上には情報があふれており、商品の売れ行きを見通すための材料も見つかるかもしれません。ですが、先ほどの調査は、次の3つの点で不十分と言われても仕方ありません。
- 情報の出所:インターネットのみで情報を収集している
- 情報の質:情報そのものの信ぴょう性に疑念がある
- 目的と合致した情報:売れるかどうかを判断するのに役立たない情報を収集している
この記事では、上記の3点に焦点を当てて、自社のビジネスにとって必要な情報を、どうすれば迅速かつ的確に収集、分析、活用できるのかについて考察します。
2 情報の出所:ネット以外での収集も検討しよう
1)インターネットで見つからない情報に価値があることも
情報収集の最初の手段としてインターネットで検索することは、最も容易に、かつ的確な情報を得られる可能性が高いといえるでしょう。一般的に新鮮な情報が多い傾向もあります。ただし、情報を発信することも容易であるため、情報の質は玉石混交です。また、誰もが容易に入手できる情報なので、情報の“重さ”や貴重さという面では劣るといえるでしょう。
インターネットの対極にあるアナログな情報として、書籍や文献、専門家の話や実地調査などがあります。収集するのは難しいですし、書籍などの中には古い情報が含まれていることもあります。その一方で、実体験に裏打ちされた情報や、現場の生の声など、「リアル」な情報が入手できるメリットがあります。こうした情報には、情報源に近いという情報の“重さ”と、オリジナリティーのある貴重さという点で、インターネットで収集した情報とは一線を画した強みになることがあります。
2)場合によってはお金をかけることも必要
インターネットニュースの広がりにより、情報が水や空気と同じように無料で収集しやすくなっているのは確かです。ただし、全ての情報が無料で収集できるわけではありません。情報は、より選別化されているといえます。
有料情報は、有料で販売できるだけの強みを持っています。有料情報が強みとしている無料情報との主な違いとしては、次のような点が挙げられます。
- 通常では入手するのに時間や手間がかかる(蓄積された経年のデータも含める)
- 網羅性がある(調査の対象が広く全体を俯瞰(ふかん)できる)
- 専門性が高い(情報を持っている人が限られている)
- 正確性が担保されている(情報の精度が高い)
- 信頼性が高い(情報発信者として権威があることも含む)
対価を支払うだけのメリットが得られるのであれば、お金をかけて情報を収集することも検討しましょう。
3)「上下前後左右」の出所をフル活用しよう
インターネットが広まる以前、メディアに携わる人の間では、情報収集は「上下左右」からといわれていました。ネット時代となった現在は、情報の出所はさらに広範になっており、「上下左右前後」に例えることができそうです。
- 上:政府などの統計情報
- 下:消費者などの口コミ情報(インターネット掲示板やSNSなども含む)
- 前:研究者や専門家のコメントや文献、調査会社のリサーチ
- 後:書籍、専門機関のデータベース
- 左:ネット系新興企業(検索エンジン運営会社、マーケティング・リサーチ会社など)
- 右:従来のメディア(新聞、雑誌、テレビ、ラジオなど)
一部の出所には、インターネットからでは収集できない情報もあります。また、情報を分析・活用する際にも、それぞれの情報の出所ごとの特徴を踏まえておくことが重要です。情報の出所ごとの特徴は、次の通りです。
3 情報の質:真実に近いかを見分けることが第一歩
極端な話ですが、単なる噂話で会社の経営判断が振り回されるわけにはいきません。情報を分析するための第一歩は、情報の質、つまり真実に近い情報かどうかを見分けることです。近年は「フェイクニュース」という言葉をよく耳にしますが、誤情報は発信者の悪意からだけでなく、意図せずに事実と異なる情報を発信してしまっている可能性もあります。質の低い情報を基にいくら的確に分析しても、正しい分析結果は出せません。
ここでは、情報の質を見分けるための基本的なポイントを紹介します。
1)出所を確認する
情報の出所を確認することで、情報の質をある程度推定することができます。政府などの公的機関および研究機関、新聞、上場企業などが出所となっている情報は、一般的に質が高いといえるでしょう。
逆に匿名で発信された情報は、正確性が担保できない上に、真偽の確認手段も限られてしまいます。特にインターネット掲示板やブログ、SNSなどは匿名性が高く、質の低い情報が混ざっている可能性が高いと考えておくべきでしょう。
2)一次情報か二次情報か
一般的に情報は、媒介者が増えるほど正確性を損なっていく傾向があります。情報源(当事者)から直接入手した情報(一次情報)や、新聞など出所の確かな組織が一次情報を基に発信した情報(仮に「準一次情報」と呼びます)は、ほぼ真実とみなしてよいでしょう。それと対照的に、人づてに聞いた話や、インターネットで検索したブログでの書き込みなどの、いわゆる二次、三次情報は、質の低い情報といえます。
ビジネスで活用するのであれば、基本は一次情報および準一次情報を中心に収集するべきです。もし二次情報、三次情報を活用したいのであれば、可能な限り情報源を探しましょう。もし情報源を見つけられなかった場合は、その情報には裏付けがなく、間違えている可能性があることを前提にして分析を行うようにしましょう。
3)客観的情報か主観的情報か
情報の質を見分ける中で最も難しいのが、その情報がデータなどに基づいた客観的情報なのか、情報発信者の考えが混ざっている主観的情報なのかの判別です。
基本的には、何らかのデータにひも付けられた情報かどうかで判別できます。例えば、「A商品が人気になっている」という情報だけでは、客観的情報とはいえません。「直近の月間売上額がいくらで、ライバル企業の類似商品の1.5倍」といったデータに裏付けられて、初めて客観的情報になります。
では、ある消費者がSNSに書き込んだ「B商品は使いやすくて便利」という感想は、主観的情報なのでしょうか。これは、その消費者が感じたことを正直に書き込んだ感想であるので、客観的情報だといえます。ただし、その感想を書き込んだ消費者が、例えばB商品を無償で提供されているなど、B商品を褒めることにメリットがある場合、その感想は主観的情報と判別しなければなりません。ですから同じ情報であっても、発信者の立場にまで注意しておく必要があります。これは、研究機関や新聞などの発表でも当てはまることです。
4)情報の「クセ」にも注意を
どんなに公平・中立を目指した調査であっても、何らかの偏りが出てしまうものです。
例えば、世論調査をはじめとするアンケート調査の結果は、世の中の平均的な考えを集約した真実に近い情報だと思われがちです。しかし、例えば日本人の1日のインターネットの平均利用時間を知るために、インターネットを使って回答者を募集しても、正しい情報は得られません。インターネットを全く使わない人もいるからです。
また、日本人の場合は、「とても良い」「良い」「普通」「悪い」「とても悪い」という5つの選択肢がある場合、「とても良い」と「とても悪い」という回答を選びにくいともいわれています。
こうしたことから生じる情報の「クセ」の大きさを把握するためには、調査方法、調査時期(時間)、調査人数、調査対象の選び方、質問内容(聞き方)や回答方法といった調査の前提を確認しておくことが大事です。
4 目的と合致した情報:「何を判断するのか」を明確に
せっかく収集した質の高い情報でも、十分に活用できなければ、その情報は「インフォメーション」にとどまり、「インテリジェンス」にはなりません。収集、分析して得られた情報が、判断する材料に適した情報でなければ、意味がありません。逆にいうと、数ある情報の中から、目的に合った情報を選別して収集し、活用することが求められるのです。また、情報の使用目的によっては、著作権やプライバシーなどに配慮する必要が生じます。
1)「何を判断するのか」を明確にし、優先順位をつける
当たり前の話ですが、なぜその情報を活用するのか、その目的を明確にしておくことが基本です。
情報を活用する目的としては、6W2H(「Whether or not to:やるか、やらないか」「When:いつまでにやるのか」「Where:どこでやるのか」「Who:誰がやるのか」「What:何をやるのか」「Why:どのような理由でやるのか」「How:どのような方法でやるのか」「How much:いくらでやるのか」)といったものがあります。
これらの目的に合わせて判断するには、単独でなく複合的に判断する必要があります。例えば、「いくらでやるのか」が決まらなければ、「やるか、やらないか」も決められません。優先順位をつけながら、判断をしていくことになります。
2)多次元の情報を活用する
情報を基に判断するには、なるべく多くの側面から、つまり多次元の情報を基に判断することが大事です。
例えば、A店舗にB商品を追加投入するかどうかを判断するとします。「A店舗でのB商品の今月の売上高」という点の情報だけでは、判断できません。ここに、「A店舗でのB商品の過去3年間の月ごとの売上高」という縦の線の情報、「A店舗を含むC地域の各店舗でのB商品の売上高」という横の線の情報を加えて面の情報にすると、適切な判断がしやすくなります。
さらに、「B商品と類似したD商品の売上高」「B商品やD商品を含むカテゴリー全体の売上高」などの立体的な情報を加えることで、判断の精度が高まります。
3)反対の情報も探してみる
ある程度の情報が集まると、「この商品は売れそうだ」といった仮説を立てることができるようになります。仮説を基に、それを補強する情報を集めることによって、情報収集の効率がよくなります。
ただし、仮説はあくまでも仮説です。仮説を補強する情報だけでなく、仮説に反するような情報がないかどうかも調べてみることが大事です。
4)他者を説得する材料に活用する場合は、より客観性に配慮を
情報は自社の経営判断のためだけでなく、他者を説得するための材料としても活用します。
例えば、ある商品を売り込みたい場合、「販売量が類似商品の中で1番」「使った人の満足度は○%」といった情報を付けると、買い手の購入意欲を高める材料になるでしょう。
こうした際は、基本的に説得したい内容を補強する情報を使うと効果的です。ただし、説得したい内容との関連性が薄い情報や、根拠に乏しい情報を付けると、逆に不信感を与えかねません。また、客観性を担保するために、「当社アンケートに基づく」「当社の旧商品との対比」といった自社で作成した情報よりも、一次情報や準一次情報などを活用するほうが、説得力が増すでしょう。こうした場合は、出所を明確にすることも大事です。
5)社外へ公表する情報は、著作権やプライバシーに要注意
収集した情報を社内での検討資料として使用するだけであれば問題ありませんが、情報を外部に公表する場合などは、著作権やプライバシーに関しての取り扱いに注意が必要になります。ただし、社内のみで使用する情報であっても、取得した情報をPDFなどに電子化して共有する場合は、著作権に抵触する可能性があります。また、たとえ有料で取得した情報であっても、使用条件が限定されることが少なくありません。事前に使用条件を確認しましょう。
収集した情報を外部に公表する場合は、情報発信者の了解を取るべきでしょう。また、個人名などが判別されてしまうような情報に関しては、当人に確認したり、一部の情報を伏せて公表したりするなどの対応が必要になります。
以上(2021年7月)
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画像:unsplash