書いてあること
- 主な読者:マーケティングを活用して利益を増やしたい経営者、経営戦略担当者
- 課題:マーケティング手法に関する知見が足りない
- 解決策:まずはマーケティングの4Pに基づく視点で戦略を練る
1 マーケティングの定義
日本マーケティング協会では、マーケティングについて、次のように定義しています。
マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である
企業活動におけるマーケティングとは、企業の利益を増加させることを目的としています。これを実現するために、顧客にとってより良い製品やサービスを、顧客が買ってくれそうな価格を付け、効率的かつ顧客の手元に届きやすい流通経路で販売し、顧客にとってより訴求力のあるプロモーションを行う一連の活動を指しているといえるでしょう。
■日本マーケティング協会■
https://www.jma2-jp.org/
2 マーケティングの4Pとは
マーケティングの手法や考え方にはさまざまなものがありますが、基本の1つとされているのが「マーケティングの4P」です。
マーケティングの4Pとは、顧客にとってより良い製品やサービスを、適正な価格で、効果的な販売チャネルによってより多く販売し利益を得る、ということを実現するための4つの要素です。これら4つの要素は一般的に次のように呼ばれます。
- Product(プロダクト=製品)
- Price(プライス=価格)
- Place(プレイス=流通)
- Promotion(プロモーション=広告などによる販売促進活動)
3 Product(製品)戦略
1)新製品に重要なアイデアの発想
製品開発にまず重要なのは「アイデア」です。アイデアを生み出す方法としては、顧客のニーズから発想する「ニーズ的発想」と、企業内にある技術などのシーズ(種)から発想する「シーズ的発想」があります。
ニーズに合った製品を開発するために、まずは「ニーズ的発想」によるアイデアを整理して、ターゲットとする顧客や、製品の活用シーンなどを明確にします。例えば、エアコンの場合であれば、アイデア整理方法としては次のように、5W1H方式を用いるとよいでしょう。
- 誰が(Who):一人暮らしのビジネスパーソンが
- いつ(When):外出しているときに(自宅にいないときに)
- どこで(Where):自宅で
- 何を(What):エアコンを
- なぜ(Why):エアコンの消し忘れを防ぐために
- どんなふうに(How):人の存在を感知し、誰もいなければ自動的に電源が切れる
製品開発に関するアイデアを生み出す際に「ニーズ的発想」と「シーズ的発想」のどちらか1つの方法のみで十分ということではありません。両方の発想方法から顧客のニーズに応える製品の開発を考えることが必要です。
2)製品のライフサイクル
人の一生と同様に、アイデアを基に製品化され、市場に投入された製品にも「一生」があります。これを「製品のライフサイクル(PLC=プロダクト・ライフサイクルと呼ぶこともあります)」といいます。製品のライフサイクルは、導入期、成長期、成熟期、衰退期に分けられます。
導入期では、市場に製品が投入されたばかりの頃で、その製品に対する認知度がそれほど高くないため、製品の普及は比較的スローペースで進みます。
成長期では、製品の普及が進み、その価値が認められるようになり、次第に売り上げは伸びていきます。競合製品も次々と投入され、競争が活発化します。
その後、製品がある程度まで普及してしまうと成長が緩やかになり、成熟期に入ります。さらに、代替品の登場などによってますます成長が衰退することになれば、市場から消えていくといった衰退期を迎えるケースもあります。
製品のライフサイクルに基づくマーケティング活動の特徴は次の通りです。
4 Price(価格)戦略
価格は、企業にとっての目的である「利益」に直結する要素であり、顧客にとっては購買の意思決定を促す重要な要素となります。価格の決定には、大別すると次のような方法があります。
1)費用重視型
原価のみを基に、一定の額の利益を上乗せして価格を決定する方法です。機械的かつ簡単に価格を設定できるため、販売品目が多岐にわたっている小売業などで用いられる傾向があります。
2)競争重視型
競争相手となる競合他社製品の価格を参考にしながら、自社製品の価格を決定する方法です。例えば、生鮮食品やガソリンなど均質化が進んでいる製品は、価格以外の面で競争相手と差異化を図ることが難しいことから、この方法を用いることが多いようです。
3)需要重視型
顧客の値ごろ感(「この製品がこのくらいの値段だったら購入してもいいな」と顧客が思う値段)を調査し、それに合わせて価格を決定する方法です。顧客の心理的な特徴を考慮した価格設定を「心理的価格設定」といいます。顧客の心理に基づく価格設定方法の例は次の通りです。
5 Place(流通)戦略
製品がメーカーから顧客の手元に届くまでには、「生産者(メーカー)→卸売業者→小売業者→顧客」のプロセスを経ます。このようなメーカーから顧客への製品の流れを流通チャネルといいます。
Place(流通)の大きな目的は、顧客が必要なときに、必要な製品が必要な数量、必要な場所にあり、顧客の手に入れやすさを実現することです。
1)流通チャネルの種類
1.開放的流通チャネル
製品を扱う流通業者を制限しないことによって、幅広く販売する方法です。
この方法は、顧客側から見ると、どの店でもその製品を買うことができることになります。購入頻度の高い日用雑貨や飲料などの製品に用いられることが多くあります。
2.選択的流通チャネル
流通業者を選別して販売する方法です。家電などのアフターサービスが必要な製品や高いブランドイメージを確立したい化粧品やアパレル製品などに適用されます。選別した小売業者などに、メーカーから販売員を派遣したり、販売ノウハウを伝授したりするケースもあります。
3.排他的流通チャネル
特定の流通業者に限定して販売する方法です。メーカーの意図を明確に反映させたい製品などに有効で、高級車や高級ブランド品などに用いられます。
排他的流通チャネルの代表的な手法として知られているのが、「メーカーによる系列化」です。系列化は、メーカー側から見れば流通における自社の意思を浸透させやすい、というメリットがあります。また、流通業者側から見ればノウハウを提供してもらえたり、支援してもらえたりするというメリットがあります。
2)流通における垂直的マーケティングシステム
流通チャネルは、メーカー・卸売業者・小売業者がチームを組んで協力し合い、製品をより効率的に多く販売するという「垂直的マーケティングシステム」の考え方から、次のような3タイプに分類されることもあります。
1.管理型
メーカー・卸売業者・小売業者がそれぞれ独立していますが、メーカーがリーダーとなり、卸売業者や小売業者に対して販売促進活動に関してさまざまな支援を行います。
2.企業型
1つの企業(あるいは企業グループ)が生産・卸売り・小売りの全てを行います。
3.契約型
フランチャイズチェーンやボランタリーチェーンなど、メーカー・卸売業者・小売業者が契約を結んで協力体制で販売活動を行います。
垂直的マーケティングシステムの場合、メーカー・卸売業者・小売業者が協力し合いながら流通体制を整えることによって、情報の共有化が進むという大きなメリットが得られます。特に、小売業者から収集される「性別・年齢層・地域による購買行動などの顧客情報」が共有化できます。
顧客の好みや購買傾向が多岐にわたっている現代では、流通チャネル内において、いかに「顧客情報」をスムーズに流通させるかが重要なポイントになります。
6 Promotion(プロモーション)戦略
プロモーション活動は、主に次のように大別されます。
1.人的促進
人による販売促進活動のことを指します。
2.広告
新聞、雑誌、テレビなどの有料媒体を使い、広告主のメッセージを顧客に伝えるものです。「人手」によるものではないことから、「非人的促進」とも呼ばれることもあります。
3.販売促進
店頭での陳列や店内での陳列広告、製品サンプルの無料配布など、顧客に対して、購買意欲を促進するような活動の全てをいいます。
以降では、プロモーション活動における考え方や評価方法などについて見ていきます。
1)広告効果測定
広告によるプロモーション活動が中心の場合、広告がどれだけの人の目に触れ、どれだけの人に接触したかという「広告効果測定」が重要になります。あまり効果が上がっていないようなら、早い段階で軌道修正する必要があるからです。
広告効果測定の方法としては、「地域限定トライアル広告」という方法があります。これは、試験的に特定の地域に限定して広告を発信し、広告が発信された地域での顧客の購買行動などを、広告が発信されていない他地域と比較する方法です。
また、広告が発信された後、製品についての顧客の認知度について聞き取り調査を行うなどの方法もあります。
広告効果を測定する際の調査項目としては、次のものがあります。
- 広告到達測定:広告を知っているかどうか
- 広告内容理解:広告の内容(製品についてなど)は理解したか
- 広告好意度:広告に対して好意を持ったか
- 製品購買意向:その製品を購入したか
2)ABC分析を販売促進活動に活用する
販売促進活動は、非常に手間が掛かるものです。店頭でサンプル無料配布を行う、クーポン券を発行するなどさまざまな手法がありますが、どれもかなりの労力やコストを要します。また、顧客のニーズに即した販売促進活動を行わなければ、訴求力に欠けてしまいます。
そこで、参考として、効率的かつ訴求力の高い販売促進活動を行う1つの考え方として、ABC分析に基づく販売促進活動を紹介します。
ABC分析とは、複数あるものを、A・B・Cのランクに分けて評価する分析方法です。例えば、自社の製品を「売り上げへの貢献度」によって3段階に分けて、次のように評価する方法が考えられます。
- A群:売り上げの80%を占める製品群
- B群:売り上げの20%程度を占める製品群
- C群:売り上げに影響を及ぼしていない、ほとんど貢献していない製品群
ABC分析によって、自社が注力すべき製品群が分かり、販売促進計画を検討することができます。
7 マーケティングの4Pのまとめ
これまで、マーケティングの基本ともいえる4Pの手法や考え方を見てきました。マーケティング活動を行う上では、4Pの要素がそれぞれ単独で存在するわけではなく、より良い形に組み合わせて、「顧客満足度を高める」「利益を増加させる」ことを実現しなければなりません。
顧客の「製品やサービスに対する選択の自由度」は高まっています。顧客は豊富な種類の製品の中から、機能や品質、価格などを比較検討し、「本当に欲しい製品を厳選」して購買するようになっています。
企業は常に、顧客に選択される製品やサービスを開発して販売しなければなりません。
企業には顧客それぞれのニーズに合った、あるいは顧客それぞれに訴求力のあるマーケティングがますます求められているのだといえるでしょう。
以上(2019年12月)
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