会社や商品などの知名度やブランド力を高めるために、ネーミングが重要であることは誰もが理解しています。とはいえ、なかなか良いネーミングができない、というのが現実です。

ネーミング開発に約40年携わり、「BIG EGG」「ゆうパック」「かもメール」「ハルメク(雑誌)」など300以上のネーミングの実績を持つ、高橋誠さんに、人を惹きつけるネーミングの考え方や手法について解説してもらいます。これから起業する方、スタートアップで新商品や新サービスを開発しようとしている方には、以降で高橋さんが紹介しているネーミングに必要な4つの要件や、「課題」「発想」「評価」「登録」という手順が参考になるかもしれません。悩みながら楽しみながら、ネーミングを進めていきましょう!

1 社名・商品名・サービス名に良いネーミングは欠かせない

「名は体を表す」という言葉があります。名前はその実体を表すのだから、名づけは慎重に行わなければいけないという、ネーミングの大切さを示した言葉です。
ビジネスでのネーミングといえば社名・商品名・サービス名などですが、それ以外にも、部門名やプロジェクト名、施設名などがあり、これらもしっかりと考えたいものです。
コンビニでは、毎年約6000もの新商品が発売されますが、各店の棚に置かれても、2週間でほとんどが消えてしまいます。各コンビニ店には、平均して常時約2500点の商品が置かれていますが、1年後まで残るのは3割ほどだそうです。
このような激烈な競争状態の中で新商品や新サービスが生き残るには、まず商品やサービスそのものが魅力あるものでなければなりません。それに加えて、ネーム(名前)、スローガン(説明)、ロゴ(文字など)、パッケージなどの工夫も欠かせません。
ある調査によると、商品がヒットする要素で、断トツ1位が「ネーム」だったそうです。以下、「スローガン」「パッケージ」の順でした。このようにネーミングは、商品のヒットに最も影響力があるものなのです。
ネーミングの重要性を多くの企業は理解しており、2019年末の登録商標総数は約191万件に上り、その上、毎年11万件も増えています。ネーミングはビジネスの成功のために、絶対に欠かせない課題です。

2 ネーミングを成功させる4つの要件がある

ネーミングを成功させるには、次の4要件を押さえることが大切です。

1)ネーミングはトップ主導で、全社を巻き込んで行う

「ブルーレットおくだけ」「トイレその後に」「熱さまシート」など、ネーミングでヒットを飛ばし続けているのが小林製薬です。その先頭に立つのが、小林一雅会長です。私も小林製薬のネーミング研修に参加しましたが、会長の精神が全社員に浸透していました。

ネーミングは会社の最重要の仕事の1つですから、トップ自ら考え、率先して実施するべきです。そしてその精神を継ぐ社員たちが、トップと同じ思いで臨むべきです。

2)社名がローマ字やカタカナでも、意味が伝わるものにする

最近、ローマ字やカタカナの社名が増えています。私が心配するのは、漢字は表意文字ですが、ローマ字やカタカナは表音文字なので、意味が通じにくいということです。しかしたとえローマ字表記でも、東陶機器はTOTOに、有線ブロードネットワークスはUSENにして、旧名のイメージを伝えるようにしています。社名でも商品・サービス名でも、ローマ字やカタカナ名にするには、分かりやすくする工夫がとても大切です。

3)「商品・サービスのネーミング」は、対象にピタリと合わせたものにする

おもちゃのバンダイは、シニアを対象に、「大人の超合金」シリーズの模型、「アポロ11号」「新幹線0系」「宗谷」などを発売しています。「超合金」は、1970年代の「超合金マジンガーZ」などロボット玩具で使った名称の再現です。シニア層が子どものときに親しんだ思い出を、呼び起こさせるネーミングといえます。一方、「子ども向けの商品のネーミング」では、子どもの好きなキャラクター名を使うという手があります。王子ネピアのティッシュ「鼻セレブ」の子ども向けの商品名は「ネピア アンパンマン 鼻セレブ」です。

商品ネーミングは、対象にピタリと合わせて表現することが基本です。

4)「サービス名」は、商品名以上にネーミングを重視する

「宅急便」は、ヤマト運輸が1976年に始めたサービスです。一般名称は「宅配便」ですが、「宅急便」を一般名称と考える人もいます。その後、日本通運が「ペリカン便」、佐川急便が「飛脚宅配便」、西濃運輸が「カンガルー便」などの名で参入しましたが、全て「〇〇便」です。

わが社は日本郵政の「ゆうパック」をお手伝いしました。私たちはまず、「便」をやめました。そして、郵便の「ゆう」と小包の「パック」の、日本語と英語を組み合わせた「独自の名前」を考えました。サービス名は、商品名と違い、目に見えての差別化がしにくいものだけに、商品ネーミングよりもネーミングの重要性が高いといえます。

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3 ネーミング開発では、課題を明確にし、発想し、評価し、決定したら商標登録をする

ネーミング開発は、「課題」「発想」「評価」「登録」の手順で行います。
社名の開発でしたら、社の概要、競合会社の社名、最近の新社名の傾向などの情報を集め、詳細に分析して、新ネームの課題を明確にすることがまず必要です。
次に、社内で発想会議を実施しましょう。発想会議は、5~7人くらいの発想チームで行います。メンバーに事前に課題を渡しておき、事前に頭のウォーミングアップをしておいてもらいます。発想会議は、ブレインストーミングなどの発想法を活用しで実施します。発想会議の後は、出されたアイデアをラフにまとめて、評価をします。
評価では、まず長さが適切かチェックしましょう。記憶の研究者ジョージ・ミラーは、「マジカルナンバー7±2」という研究で、数字や単語の記憶は、短期的な記憶でも7文字前後が限界だとしています。そこで、ネーミングは原則として「7文字以内」とすべきでしょう。

次は「意味・視覚・音感」の3観点からの評価ですが、ポイントは以下の通りです。

  • 意味評価=会社・商品・サービスの内容や意味が伝わるか
  • 視覚評価=文字・図形・色彩が良く、見て見やすく、イメージが良いか
  • 音感評価=発音がしやすく、聞いて気持ち良く、感じが良いか

現代はグローバル時代、社名も商品名・サービス名もグローバルを意識したネーミングが欠かせません。ソニーやサンリオは、世界のどの国でも悪いイメージがない名前だといわれます。わが社でも、グローバルに耐えるネーミングの依頼が増えており、ネーミングの評価では主要言語(英・独・仏・西・伊・中)のチェックを必ず行います。

ネーミング開発の最後は、商標登録です。ネーミングが決まったら、必ず商標を登録して「商標権」を確保しましょう。そうすれば、侵害されたら「使用の差し止め」や「損害賠償」を請求できます。自らの知的財産を守るには、商標登録が必須です。

4 ネーミングを良いブランドに育てる

最後は、ネーミングした社名・商品名・サービス名をブランド化する工夫を考えましょう。ブランドは、「識別性」「保証性」「価値性」の3条件を備えたものといえます。

  • 識別性=人々に、他とは違う「独自」なものと認識されている
  • 保証性=その会社や商品・サービスなら「安心」という信頼感を持たれている
  • 価値性=人々に、「価値」あるものとして認められている

ブランドは、人々との間の信頼の絆から生まれます。そのためには、ブランドを息長く管理して、大きく育てることが肝心です。ブランド管理には、ブランドの「活性化」と「コミュニケーション」そして「リスク管理」が必要です。
どんなに評判の良いブランドでも、何もせずにそのままにしておけば衰退します。花王の「アタック」は、1987年に、「ザブ」に代わる主力製品として登場しました。その後、2009年には超コンパクト液体洗剤「アタックNeo」、2013年には洗浄時間を短縮化した、「ウルトラアタックNeo」が発売されました。このように、ブランドを常に活性化して、コミュニケーションをし続けることが欠かせません。
ブランドを取り巻くリスクは、商品の欠陥、人体への危害などの製品のリスク、社員や役員の犯罪など、さまざまあります。これらが表面化すれば、ネット経由でたちどころに大勢の人が知ることになります。だからリスク管理は大変重要です。
市場には多くの企業や商品、サービスがあふれています。ブランド力を高め、リスクから守り、ブランドを「企業の顔」にするためには、ブランドに関わる全ての関係者たちが、そのブランドに愛着と誇りを持つことが不可欠です。
ネーミング開発では最初の段階から関係者たちを巻き込むべきです。わが社はネーミング開発を、我々と社員の方々とが一緒になって進めます。またネーミングやブランドの大切さを、全社員の方に訴える講演会なども必ず実施します。

そして良いブランドにするのに最も重要なのは、消費者たちの支持です。わが社も広告やPRの長い経験と強いネットワークを持っています。ですからネーミング開発ではネーミングからブランド定着までの一貫した流れを、お手伝いするようにしています。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年9月30日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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