書いてあること
- 主な読者:新規開業などのために商圏分析などをしたい経営者
- 課題:コンサルタントに頼むと高額。自分でやるにしても、統計がたくさんあってデータを見つけにくい
- 解決策:公的統計を基に、視覚的に分かりやすいデータ作成を無料でできる「jSTAT MAP」と「RESAS」を利用する
1 無料でできる市場調査
市場調査はしっかりとやりたいところですが、コンサルタントに頼むと高額になります。そんな悩みを持つ人にご提案したいのが、国の仕組みを使って「無料」で行える市場調査です。
- jSTAT MAP:設定した商圏の地図上に、総務省が提供している各種データを表示
- RESAS:地域ごとの産業構造や人口の推移などを視覚的に把握
この記事では、上の2つの仕組みを使って、眼科医院の開業を検討するための市場調査と事例を紹介します。
■地図情報システム「jSTAT MAP」■
https://jstatmap.e-stat.go.jp/trialstart.html
■地域経済分析システム「RESAS」■
https://resas.go.jp/
2 jSTAT MAPを使った商圏分析
まず、jSTAT MAPに登録(無料)してください。ここでは、埼玉県志木市内での眼科医院の開業を検討します。ちなみに志木市は、人口10万人当たりの医師数が最も少ない都道府県である埼玉県の中で、人口当たりの医師数が一番少ない市です(厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計(2018年)」)。
1)前提条件の設定
商圏分析の前提条件として、商圏(この場合は診療圏)がどの程度であれば開業すべきかを決めておく必要があります。
ここでは、1カ月当たりの外来患者数の目標を990人(1日当たり45人×診療日数22日)として、診療圏人口1万3182人を望める開業候補地を探します。念のために前提条件の根拠を図表にしてお示ししていますが、読み飛ばしていただいても構いません。
2)地図上に競合施設を表示する
志木市の人口は7万6601人(2021年4月1日時点)、眼科医院は5施設(医師会のウェブサイト)でした。市内の病院には眼科はありませんが、ここでは、隣接する朝霞市、新座市、富士見市で眼科を標ぼうする病院・診療所も考慮します。
jSTAT MAPでは、地図上に既存の病院・診療所とその診療圏を示すことで、その競合関係を視覚的に把握できます。競合が多くても、CSVファイルに住所を入力すれば、簡単に地図上にアップロードすることが可能です。CSVファイルの入力情報は次の通りです。
このCSVをjSTAT MAPにアップロードすると、自動的に地図上に各競合施設の場所が表示されます。アップロードした結果は次の通りです。
志木市内の5つの眼科医院を中心に半径1キロメートルの円を実線で描きました。これは徒歩を想定した診療圏であり、ここから次のような分析ができます。
- 既存の5眼科医院は志木市の西から南側にあり、志木市の中心を北から南へ流れる新河岸川の東側の地区(以下「宗岡地区」)には眼科医院がない
- 宗岡地区の患者は主に、いろは橋すずき眼科や眼科龍雲堂医院に車やバスで通院していると考えられる
- 宇野眼科医院は志木ニュータウンに位置しているため、独自の診療圏を確保しているものと思われる
- 志木市外の病医院で、新座市の新座志木中央総合病院があり、志木市内の3つの眼科医院と診療圏が重なる関係にある
3)診療圏を設定して診療圏人口を算出する
先の分析に基づき、開業を検討する眼科医院(以下「当眼科医院」)の開業候補地は志木市上宗岡4丁目に決めました。ここから診療圏人口を計算していきます。
当眼科医院の開業候補地と診療圏は次の通りです。
当眼科医院の診療圏を示しました。jSTAT MAPでは、この円を描いた中の人口を自動で算出し、「エリア分析レポート」としてデータをダウンロードできます。
ダウンロードしたデータを見ると、志木市宗岡の診療圏人口は2万3725人で、前提条件の1万3182人を超えています。競合病医院の影響があるため100%の集患は困難ですが、診療圏内でシェア40%を確保すれば、目標とする月間外来患者数990人に達します。
診療圏内シェア40%の場合の月間外来患者数
=診療圏人口2万3725人×外来患者数947万3446人/人口1億2614万6000人×シェア40%=2969人
ちなみに、jSTAT MAPでは、人口、世帯数、年齢別人口、性別人口、事業所数など、さまざまなデータが収録されています。地点と商圏を設定して入力すれば、さまざまなデータが出力できます。jSTAT MAPの詳しい操作説明書は、以下のURLからダウンロードできます。
■「jSTAT MAP」操作説明書■
https://jstatmap.e-stat.go.jp/manual/gis_manual.pdf
3 RESASを使った商圏の将来分析
国勢調査は過去の調査時点のものです。当眼科医院の経営を安定させるには、将来も診療圏人口が維持される必要があります。ただ、jSTAT MAPでは将来人口や年齢構成は分かりませんが、RESASでは確認できます。なぜなら、RESASには、国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」が収録されているからです。
RESASを使って、引き続き志木市での眼科医院の開業を検討してみましょう。なお、RESASへの登録は不要です。
1)前提条件の設定
ここでは、志木市および診療圏内の今後30年の人口が増加で推移することを、開業の前提条件に設定します。
2)人口マップで人口増減・将来人口の推移を確認
RESASの人口マップに収録されている将来人口推計を使って、志木市の将来人口の推移を確認します。人口推移は、グラフで視覚的に見ることも、CSV形式でダウンロードすることもできます。
ダウンロードしたデータを見ると、志木市の人口は2050年までは増加傾向で推移することが分かります。
ちなみに、人口マップでは、地図上で都道府県別、市区町村別に転入元・転出先を見ることもできます。この他、産業マップ、地域経済循環マップ、農林水産業マップ、観光マップ、消費マップ、自治体比較マップが収録されており、さまざまな情報を検討できます。
3)将来の診療圏人口を算出
図表5の診療圏人口に、図表7の将来人口推移の指数を掛け合わせて診療圏内人口の将来推移を表すと、次のようになります。
開業の前提条件で設定した、今後30年の人口が増加で推移するという条件は満たしていませんが、65歳以上の人口は2050年までは増加傾向にあります。眼科医院の場合、高齢者の増加は白内障などの患者数の拡大にもつながるので、開業を決断できるかもしれません。
この記事では、年齢別人口は3区分のものを紹介しましたが、jSTAT MAPとRESASは共に男女別・5歳階級年齢別人口を出力することができます。特定の年齢にターゲットを絞ったデータを作成することで、より精度の高い分析をすることが可能です。
RESASの詳しい操作マニュアルは、以下のURLからダウンロードできます。
■「RESAS」操作マニュアルダウンロード■
https://resas.go.jp/manual/#/11/11228
以上(2022年2月)
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画像:unsplash