書いてあること
- 主な読者:営業活動の効果を高めたいと考える経営者
- 課題:営業活動に情報を十分活用できない、必要な情報を収集できない
- 解決策:情報から課題を見つけたり、情報を聞き出す術を身につけたりする
1 顧客志向が求められる中での「ソリューション営業」
インターネットの普及など、誰もが手軽にさまざまな情報を収集できるようになった現在、顧客が営業担当者よりも質・量ともに充実した情報を持っていることも珍しくなくなりました。営業担当者が、商品の機能について通り一遍の営業トークをしても顧客の興味を引くことはできません。顧客は、「その商品を購入することによって自分の課題がどのように解決できるのかを、自分(顧客)が気付いていなかった視点で提案して欲しい」と望んでいます。そうした中で定着したのが「ソリューション営業」(提案型営業)です。
【ソリューション営業】
自社の売り上げ増加のみを最終目標とする自社本位の営業活動ではなく、徹底的な情報収集・分析を通じて顧客のビジネス上の課題を把握し、その解決策を全社的に提案することで顧客と自社の利益を同時に達成し、他社が介入する余地のない長期にわたるパートナーシップを確立するという顧客本位の営業スタイル。
2 ソリューション営業で重要な顧客の情報収集と分析
1)ソリューション営業の進め方
ソリューション営業は手間がかかります。なぜなら、ソリューション営業では、顧客に関するさまざまな情報を収集・分析した上で課題を発見し、それを解決に導く提案をしなければならないからです。ソリューション営業の進め方は業種、企業、営業担当者によって異なりますが、基本的には次のような流れで進めることになります。
1.ソリューション営業を行う顧客の決定
全ての顧客にソリューション営業を行うのはリソースの問題で困難です。また、関係が良好な顧客に、その時点でわざわざソリューション営業を展開し、波風を立てる必要もありません。ソリューション営業は、必要な時に、必要な相手に行うことが基本です。
2.対象となる顧客に関する情報の収集・分析
顧客に関する情報の収集・分析は、ソリューション営業の最も重要なステップです。社内外、インターネットとリアルを使い分け、必要な情報を効率的かつ迅速に収集し、分析しなければなりません。
3.課題の把握と提案の内容の組み立て
顧客に関する情報を分析した結果に基づいて仮説を立て、その顧客が抱えているであろう課題を導き出します。その仮説を顧客に伝え、実際にそうであるのかを確認し、提案内容を考えます。もし、仮説が間違っていたら、顧客にヒアリングしながら軌道修正していきます。
4.提案内容をプレゼンテーション
提案内容を顧客にプレゼンテーションします。提案内容によるものの、プレゼンテーションでは、できるだけ数字を交えて定量的に説明するようにします。下手に金額を隠すようなことをすると顧客と信頼関係が築けません。
5.フォローアップ(効果の確認)
ソリューション営業を行った顧客とは、中長期的な付き合いになります。サービスを導入した後は、想定した効果が表れているかなど、継続的にフォローをします。仮に効果が上がっていないようであれば、再度、情報の収集・分析から始めます。
2)情報収集の基本
前述した5つのステップはどれも重要ですが、ここでは「2.対象となる顧客に関する情報の収集・分析」に注目します。情報を収集する際は、どのような情報を、どのような手段で収集するかを明確にします。これができていないと、不適切な情報、不必要な情報を収集してしまうこともあり、効果的なソリューション営業を実践できません。
1.どのような情報を収集するか
必要となる情報はケースバイケースですが、少なくとも顧客の内部環境(資源)・外部環境は把握しておかなければなりません。一般的に、企業経営を取り巻く環境は次のように大別されます。これらの基本情報を整理することで、「顧客の強み、弱み」や「顧客が抱えている課題」などが見えてきます。
- 内部環境(資源):経営戦略、経営理念、経営資源(ヒト、モノ、カネ)など
- 外部環境:人口動態、経済動向、市場動向、競合状況など
2.どのような手段で収集するか
情報収集の手段は、次のように大別されます。情報収集の手段は多種多様です。状況に応じてこれらを使い分けることができれば、求める情報に素早くたどり着くことができます。
- 読む情報:インターネット、新聞、雑誌など
- 聞く情報:顧客、顧客の取引先、自社の前任の営業担当者、金融機関など
- 見る情報:顧客訪問、顧客がサービスを提供する事業所の訪問など
3 情報収集・分析の具体的な手法
1)多くの情報源を確保する
情報収集の原則は、数多くの信頼できる情報源を確保することです。素早く情報を収集するには、「関連の記事や報告書を読む」「知っている人に聞く」「実際の現場に行く、相手と会う」ことが欠かせませんが、求める情報がどこにあるのか分からないと、情報収集の初手からつまずいてしまいます。
また、さまざまな情報があふれる時代にあって、中には不適切な情報、不正確な情報もあります。そのため、情報源を確保する際は、信頼できる情報源を見極める必要があります。特に、人と会って収集する情報は非常に貴重ですが、情報源となる頼れる人脈は自らの力で構築していかなければなりません。必要な情報を収集するための情報源の例は次の通りです。
2)収集した情報を基に課題を把握する(仮説を立てる)
必要な情報が収集できたら、今度はそれを分析し、顧客が抱える課題を把握することが必要です。情報の分析方法はさまざまですが、代表的な方法にはSWOT分析があります。SWOTとは、「S:Strength(強み)」「W:Weakness(弱み)」「O:Opportunity(機会)」「T:Threat(脅威)」の頭文字をとったもので、企業が置かれている状況を客観的に判断する際に用いられる分析手法です。イタリア料理のレストランを例にした場合、SWOT分析の一例は次の通りです。
SWOT分析の例で紹介したイタリア料理のレストランの場合、次のような仮説を立てることができます。このような仮説が立てられるのは、適切な情報を収集し、それを客観的に分析したからに他なりません。
- オフィスビルができたことで、特にランチタイムの顧客が増える可能性があるものの、向かいのファミリーレストランと競合になる
- 有名イタリア人シェフの料理や丁寧な接客は強みであるものの、人件費が高い
4 「聞く」テクニック
1)情報を聞き出す
情報を収集する方法として「読む」「聞く」「見る」の3つを紹介しました。これらの中で、情報の収集が最も難しいものの、成功すれば有益な情報を得られる可能性が高いのは「聞く」情報です。
通常、顧客が胸の内に秘めている思いは新聞などの記事にはなりませんし、観察してもなかなか察知できません。こうした情報を聞き出すには、聞き手となる営業担当者にそれなりのテクニックが求められます。これから紹介するテクニックは、既に多くの営業担当者が心得ていることと思いますが、確認のために紹介します。
2)顧客が受け入れやすい話題から始める
顧客と顔を合わせてすぐに商談の話をすることもありますが、これは、その顧客とある程度の信頼関係がある場合に限られます。新規の見込み客を訪問し、いきなり「いい商品ですから、ぜひとも購入してください」なととセールスをはじめたら、顧客が警戒心を強めることは間違いないでしょう。
そこで、まずは顧客にとって良いニュース、あるいは当たり障りのない話題から始め、全体の空気を和ませることから始めましょう。
3)自分ばかりが話しすぎない
自社のサービスを熟知している営業担当者は、ついついサービスの機能や利点ばかりを宣伝しがちです。自分が話すことに夢中になり、1時間の商談で営業担当者が45分以上話してしまっていることもあります。
目的はあくまでも情報収集ですから、できるだけ質問することを心掛け、顧客が話す時間を長くします。ただし、あれもこれも聞きすぎると、顧客が疲れてしまい、話す気をなくしてしまうことがあります。このような場合は、話のところどころで顧客が興味を持つ情報を提供し、「情報のギブアンドテイクの関係」を築くようにします。
4)あらかじめ質問内容を準備しておく
「聞く」情報収集は、顧客に質問し、それに対する回答から必要な情報を導き出すものです。従って、最低でも訪問前に質問したい事項をまとめておく必要があります。
ただし、用意した質問を全てしなければならないと考え、顧客の話の腰を折って質問をし続けてはいけません。あくまでも、話の流れを止めないように臨機応変に対応します。また、話しているうちに、事前に準備していた質問が的外れとなってしまうことがあります。こうした場合は、準備していた質問にとらわれることなく、新たに浮かんでくる疑問について、素直に質問してみましょう。
5)相づちは打つが、メモは取りすぎない
顧客との商談が1時間になっても、本当に重要な情報は会話の中のごく一部であるのが通常です。そして、大切なのは、重要な情報を聞き出すことですから、適度に相づちをうち、適度に笑います。また、必要に応じてメモを取り、真剣に話を聞いている姿勢を顧客に示します。
ただし、あまりに真剣にメモを取りすぎるのは問題となることがあります。メモは紙に残るものであるため、顧客が警戒して話をやめてしまうことがあるからです。メモを取るべきなのは、顧客が話した本当に重要な情報の部分だけで十分なのです。
6)確認をする
会話が一段落ついたところで、「今のお話は○○ということですね?」といったように確認をしましょう。この効果は2つあります。1つ目は、顧客が「自分の話を聞いてくれているんだな」と気分を良くすることです。もう1つは、営業担当者が確認のために話した内容に対して、顧客が補足説明をしてくれることがあるということです。補足説明を受けられれば、より幅広い情報を収集することができます。
営業担当者の中には、わざと間違えて確認をしたり、顧客の補足説明を導き出すテクニックを使う人がいます。ただし、このテクニックを使いすぎると、「理解の遅い営業担当者だ」と顧客に嫌われてしまう恐れがあるので、使う相手と場面を確実に見極めることが重要です。
7)予期せぬ事態になっても慌てない
商談の場では、全く予期せぬ質問を顧客にされることが多々あります。このような時、何も言えなくなってしまう営業担当者、意味不明な回答をしてしまう営業担当者、正しくない回答(嘘)をしてしまう営業担当者がいます。顧客から予期せぬ質問をされた場合も、決して慌てる必要はありません。自分の知らないことであれば、「一度社に戻ってから回答させていただきます」と素直に言えばよいのです。
逆に、何も言えなくなったり、意味不明な回答をしてしまったりすると、慌てていることを顧客に悟られてしまい、後の営業活動に支障をきたすおそれがあります。また、1回でも正しくない回答をすれば、一瞬にして信用を失ってしまいます。
5 営業活動で使えるヒアリングシートの一例
実際は訪問履歴のスペースを大きくして、多くのことを書き込めるようにしておきましょう。
以上(2019年5月)
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画像:pixabay