書いてあること
- 主な読者:広報活動をしたことがない、ノウハウが少ない企業の経営者や広報担当者
- 課題:プレスリリースの出し方やメディアとの付き合い方の質を向上させたい
- 解決策:広報活動の基本や広報経験者が教える効果的な広報活動のポイントなどをまとめる
1 社外にアピールする広報活動の必要性
どんなに優れた製品やサービス、技術を保有していても、消費者にその良さを届けられなければ意味がありません。企業には、自社の強みや魅力といった売りを社外に向けてアピールする広報活動が必要です。
もっとも、広報活動に取り組んだことがないため、社内に十分なノウハウが蓄積していなかったり、広報を担う人的余裕がなかったりする企業は少なくありません。
一方で、十分なノウハウや人的余裕がない中でも広報活動に注力し、自社ブランドや製品などの認知度向上、新規取引先の開拓、採用率向上などの成果に結び付けた企業があるのも事実です。
そこで本稿は、実際に広報を経験した人へのインタビューを基に、企業が広報活動に乗り出す際のポイントや注意すべき点を紹介します。
2 広報活動の基本を理解する
1)主な業務内容
広報担当者が担う業務は多岐にわたります。企業規模や部署の役割などによって異なりますが、広報の主な業務内容は次の通りです。
広報活動の目的に合致する業務を優先して取り組むことが大切です。製品やサービスの認知度を高めたいのか、自社ブランドを根付かせたいのか、採用率や離職率を改善したいのかなど、広報活動の目的は企業ごとに異なります。何のための広報活動なのかを明確に定め、限られた人員や予算で実現可能な業務を絞り込むことが重要です。
2)自社の全貌を把握する
広報担当者は、社外からの問い合わせに対応する「窓口」の役割を担います。そのため、自社の業績、製品やサービスの特徴、直面する課題などを正確に把握することが大切です。問い合わせがあったとき、以下の内容を踏まえた上で迅速に回答できるようにします。
- 自社のビジョン、経営戦略
- 自社を取り巻く市場の動向、規模、課題
- 自社製品やサービスの特徴、売り上げ実績、主な競合
- 今期の業績、前期からの推移、各事業部の事業内容、計画、目標
- 自社に対するユーザーや消費者の声、評価、主なクレーム内容
3)社内外を結ぶ「情報経由地」となる
広報担当者の中核業務は「情報の収集・発信」です。社外に向けて自社情報を発信するだけではなく、発信すべき情報を社内から収集したり、メディアに取り上げられた記事などをチェックし、自社が社外でどう評価されているのかを社内にフィードバックしたりすることも必要です。
情報を効率よく収集・発信できるようにするには、メディアをはじめとする社外の人脈を形成するのは言うまでもありません。また、見落としがちなのは、社内の各部署との関係です。社内の情報を余すことなく収集するには、各部署の取り組みや課題の聞き取りが不可欠です。普段からコミュニケーションを図って社内の人脈を形成し、社外に発信できそうな話題を入手できるようにします。
3 広報経験者が教える効果的な広報活動のポイント
1)4人の広報経験者に聞く
新たに広報活動に取り組む場合、オーソドックスな広報活動を展開するだけでは十分な効果を見込めません。競合がひしめく中でも自社をアピールできるよう工夫を凝らし、他社と差異化した施策を打ち出すことが大切です。
以降では、4人の広報経験者が実際に取り組んだポイントを紹介します。
2)効果的なプレスリリース制作のコツは?
Aさん:
読み手であるメディア担当者が興味を持つ見出しを考えるのは言うまでもありません。製品を使うユーザーが、どんな“幸せ”を得られるのかを伝えられるよう配慮します。文章で伝えにくければ画像や動画を活用します。製品の良さをどう伝えるのが効果的かを考えることが大切です。
一度プレスリリースで案内した製品を、内容を変えて再利用します。市場の動きやトレンドに合わせて製品の特徴を伝えられるように書き直すと、以前よりメディア担当者の反応が良くなることがあります。流行のキーワードを文章に盛り込むのも効果的です。
Bさん:
プレスリリースで取り上げる情報が足りないと考える企業は多いはずです。そんなときは、収集した情報の裏側に潜む背景や秘話を探ることが大切です。
例えば、新年度に掲げるスローガンについて、その意味を示すだけではプレスリリースとしての価値はありません。どんな経緯で生まれたのか、何を目指しているのかといった背景や秘話を加えるだけで、価値を高められます。背景や秘話を通して自社のビジョンを周知できる他、企業イメージを植え付ける効果も見込めます。
3)メディアと良い関係を構築するには?
Cさん:
メディアからの問い合わせは「迅速かつ正確に回答する」ことが基本です。メディアの規模や過去の掲載実績に関係なく、平等に対応します。規模が小さく記事掲載による波及効果を望めないメディアであっても、問い合わせの回答を後回しにしてはなりません。当たり前かもしれませんが、誠実に1件ずつ対応することが求められます。
Dさん:
メディアの編集部などを定期的に訪問して関係を維持します。メディアに提供する新情報を持ち合わせていないと訪問しづらいかもしれません。そんなときは「御用聞き」になるのがお勧めです。今後予定している企画を聞き出し、どんな情報を欲しているのかを探ります。場合によっては取材先を紹介したり、必要な情報を探したりします。こうした取り組みによって関係が深化します。訪問するメディアリストを作成し、担当者名や訪問履歴を記録しておくことも大切です。
4)SNS運営で気を付けることは?
Bさん:
運営する目的を明確にすべきです。SNSの目的は一般的に、自社のイメージ向上やファン獲得です。そのため、新製品やサービスを紹介するプレスリリースの内容をSNSにそのまま投稿するのは必ずしも好ましくありません。内容は薄くて構いません。セミナー開催の裏側やスタッフ紹介、就業中の何気ない写真など、「当社はこんな会社です」というイメージを訴求する内容をコツコツ投稿するのが望ましいでしょう。もちろん、運営目的や自社の戦略などによって投稿すべき内容は異なります。
Cさん:
SNSの運営に試行錯誤している企業は少なくないでしょう。中には成果を急ぐあまり、奇抜で過激な内容を意図的に投稿するケースが散見されます。企業風土や業態などによって異なりますが、こうした“炎上狙い”の投稿は控えるべきです。企業のイメージ低下を招く可能性は、わずかでも排除するのが広報担当者の務めです。
5)広報活動の成果をどう評価する?
Aさん:
広報活動へのKPI(重要業績評価指標)導入は賛否が分かれます。広報活動による実績を一定の指標で可視化するのは難しく、指標と売り上げが直結しにくいという問題もあります。広報活動を始めた直後は効果を見込みにくく、KPIも形骸化しかねません。
広報活動は、経営者の理解が強く求められる業務です。そのため経営者はもとより周囲の理解と協力が、広報活動による効果拡大には欠かせません。KPIを設けたとしても目安程度にとどめるべきです。
Dさん:
記事1本につき○ポイント、テレビなどの大きな露出は○ポイントといった配分で、半期ごとに評価するKPIを設けています。目標を達成するときもあれば、目標を大きく下回るときもあります。
KPIは、自分の取り組んだ結果を客観的に把握できる1つの目安です。前期や前月からの推移を比較し、広報活動が十分かどうかの参考になります。以前より下回っていれば、広報活動の内容を見直したり、工夫したりするなどの対策を講じます。
もっとも、上期にプレスリリースで発表すべき新製品・サービスの投入がなく、下期に集中することもあります。こうした“会社の事情”で目標達成の難易度は大きく変わります。KPIを導入する場合、記事掲載数やプレスリリースの本数に依存しない評価項目と、ポイントの配分が重要です。KPIの項目・数値設定は難しい作業です。運用しながら修正して精度を高めるのが望ましいでしょう。
6)広報担当者が備えるべき心構えとは?
Bさん:
いくら頑張っても成果に結び付かないかもしれないのが広報活動です。ただし、成果を見込めなくても諦めてはいけません。地道に継続することが広報活動では極めて重要です。モチベーションを維持するのは難しいでしょう。しかし、小さな情報発信が大きな効果を生む可能性を秘めているのが、広報活動の醍醐味でもあります。成果を急ぐ必要はありません。日々の広報活動を積み重ねることが大切です。
Cさん:
広報担当者が扱うのは「情報」です。情報はメディアごとに使い方や解釈が異なります。時間とともに鮮度も下がります。そのときの状況に応じて情報の利用目的や価値を使い分けることが大切です。
例えば、メディアからプレスリリースに関する問い合わせがあったら、メディアが何を望んでいるのかを踏まえ、そのときの最適解を提示します。プレスリリースに掲載していない新たな動きがあれば、併せて伝えるのが親切です。毎回同じではなく、その都度異なる対応を迫られるのが広報です。
以上(2019年2月)
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