書いてあること

  • 主な読者:対面の接客・販売手法だけでなく、「ライブコマース」を取り入れたい経営者
  • 課題:具体的な「ライブコマース」の動向や事例、成功のポイントが分からない
  • 解決策:インターネットとはいえ、コミュニケーションを重視する。関連法令にも注意

1 新たな販路の開拓にライブコマースを!

ライブコマースとは、

ライブ(Live)+Eコマース(E-Commerce)の名の通り、インターネットで商品を紹介する動画をライブ配信し、リアルタイムでオンラインショップでの購入につなげる販売手法

です。日本では、2017年頃に登場し、新型コロナの影響が拡大した2020年以降、ユーチューバーやインスタグラマー、動画アプリのTiktokなどになじみがある、若者や外国人を中心に定着してきています。

売りたい商品を映像で紹介するスタイルは、従来のテレビショッピングと似ていますが、ライブコマースには次のような特徴があります。

  • ネットの動画配信による、視聴者との双方向のコミュニケーション
  • 顧客に対して購入ボタンのワンクリックのみで直感的な購入に導くことができる
  • モデルやインフルエンサーなどがPRすることで、効果的な宣伝が見込める

この記事では、ライブコマースのサービス内容や、企業の取り組み、利用者の動向などについて解説し、ライブコマースで新たな販路を開拓するためのヒントをご提供します。

2 スマホで簡単注文、テレビ通販と実演販売のいいとこ取り

ライブコマースは、スマートフォンなどのアプリを用いて提供するタイプや、自社のECサイトにライブコマース機能を持たせるタイプなどがあります。

配信者が商品を紹介する動画を撮りながら、その動画を見ている利用者の質問などに答えていくスタイルですが、リアルタイムで顧客とコミュニケーションを取るライブコマースは、スーパーで総菜などを目の前で調理してくれる実演販売のようなイメージかもしれません。

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3 多様化が進むライブコマースの活用方法

日本でも、さまざまな業界でライブコマースの導入が進んでいます。最近は、ライブコマースをデジタルな販売戦略の一環として組み込んだり、地方の企業向けにライブコマースのサービスを提供する取り組みも登場したりと、活用方法が多様化してきている印象を受けます。

1)三越伊勢丹HD:実店舗のイベント連動、チャットやビデオ通話で接客

新型コロナが出現する前からライブコマースに取り組んでいた三越伊勢丹ホールディングスは、自社のライブコマースの取り組みを進化させています。これまでは、実店舗でのイベントに連動したものや新商品を紹介する配信を行っていました。

現在では、自社の専用アプリ「三越伊勢丹リモートショッピングアプリ」を提供しています。このアプリは、販売員にチャットでの商品についての相談や、一部の店舗限定ですが、販売員にビデオ通話で商品を見ながら提案を受けたり相談したりすることもできます。

こうした取り組みもあり、同社はライブコマースを含むオンライン売上高を、2024年度には600億円超と計画しています。

2)ファンケル:中国での販売に活用、限定商品や先行情報も発信

化粧品メーカーのファンケルは、新型コロナの感染拡大を機にライブコマースのサービス「ファンケル ライブショッピング」を開始し、自社の強みである通販事業の強化に取り組んでいます。

PR担当者と商品部門の担当者がコンビで、紹介する商品とその使用方法を説明します。配信中は、利用者からの質問などに商品部門の担当者が回答したり、PR担当者が使い心地やメークのコツなどを引き出したりします。

また、ライブコマース限定商品の販売や、その配信でしか聞けない先行情報などもあり、コアなユーザーを引きつける効果的な取り組みといえます。

同社は日本の化粧品に対する評価、需要が高い中国の顧客向けのライブコマース活用にも注力しているようです。同社は2021年11月に中国・上海で行われた博覧会に出展し、SNS「WeChat」によるライブ配信を行ったところ、約8900万人が閲覧したといいます。

3)京都中央信用金庫など:海外向けに店舗や周辺の風景の動画も配信

京都中央信用金庫は、取引先企業の販路拡大を支援すべく、越境ECの事業を行うインタセクト・コミュニケーションズと共に越境ECモール「京都優品跨境商城」の提供をしています。

この越境ECモールは、「WeChat」の軽量アプリ「ミニプログラム」として展開し、京都中央信用金庫の取引先の商品に限定して販売しています。商品の掲載だけでなく、プロモーション動画の配信や、商品を掲載している企業の実店舗や周辺の風景をライブコマースで配信しました。

新型コロナの影響によりインバウンド観光客がほぼ途絶えている中、金融機関が取引先を越境EC、ライブコマースで支援する動きは、今後も要注目といえそうです。

4)クリップス:地場商品を全国に発信

クリップスは、地方創生に特化したライブコマースのプラットフォーム「Sharing Live(シェアリングライブ)」を運営しています。

シェアリングライブの特徴は、地方創生に特化したプラットフォームのため、これまでは地元で消費されることが多かった地場の商品を他の都道府県の視聴者に紹介し、全国に販路を広めることができる点です。その他の同社の強みとして、ライブコマースの動画配信だけにとどまらず、企画や配信者(ライバー)の育成やスタジオ、撮影機器の手配なども一気通貫して提供できることが挙げられます。

こうした特徴を活かし、地方の企業や金融機関と共同でのライブコマースの配信実績を積み重ねています。同社の取り組みは、自治体からも好評を得ているようで、2021年11月には、東京都が主催するスタートアップ支援事業「NEXs Tokyo(ネックス トウキョウ」のモデル事業創出プログラムとして採択されました。

5)楽天:巨大ECサイト「楽天市場」を活用したライブコマース

楽天は、自社が運営するECサイト「楽天市場」の出店企業向けにライブコマースの配信機能を追加しました。

この配信機能は、楽天市場の各店舗が、最大90分の動画配信を行えるものです。また、楽天市場で定期的に行われる「楽天スーパーセール」などのイベントと連動し、動画配信もできます。

直近の配信予定を見ると、アパレルや食品、健康器具を販売する店舗などが比較的多く配信を行っているようです。これらの店舗を見てみると、視聴者限定の10%オフのクーポン発行や、購入時に付与される楽天ポイントを10倍にするなどで、視聴者を引きつける試みを行っています。

4 ライブコマースを成功させるためのヒント

ライブコマースを導入し、ファンや潜在顧客を獲得し、収益につなげるためにはどのような対策が必要なのでしょうか。ライブコマースを取り入れている企業からは、次のようなヒントを聞くことができました。

ライブコマースに対するスタンス:

  • 単なる商品・サービス説明ではテレビショッピングと変わらず、利用者にも飽きられるため、「顧客とのコミュニケーション」に主眼を置くこと。自社や商品の認知度が高くない場合は、収益化を急がずに、まずは自社のファンを増やすような気持ちで取り組む

配信者の選定:

  • 自社内で選定する場合には、進行役の「しゃべりのうまい人」、利用者の質問に的確に回答する「商品知識の深い人」のコンビで行っている。他のライブコマースの配信や、ユーチューブで有名ユーチューバーの配信方法を参考にしている
  • インフルエンサーなどに依頼したことはないが、多数の利用者に商品をアピールする場合や、自社が狙う顧客層とインフルエンサーのフォロワー層が合致する場合には、配信効果が大きいと考える。ただし、依頼する際には、商品の特徴や、想定問答の準備などが必ず必要になる

配信中:

  • 配信中は、利用者からの質問コメントに丁寧に回答する。回答し忘れたり、曖昧な回答をしたりすると、コメント欄が「荒れ」、視聴者が離脱する恐れがある
  • 配信者だけが盛り上がり、利用者を置いてきぼりにさせないために、「スーパーマーケットの実演販売者」を意識してお客さんとのコミュニケーションを取る
  • 利用者からは、色味やイメージが違うとの声が寄せられることがある。これは、カメラの僅かな光の加減や、手ブレなどによることもあり、配信時には、さまざまな角度で商品を紹介することや、アップで撮るなどの工夫をしている

配信後:

  • ただ配信するのではなく、コメントや販売数などの分析や、配信時の改善点の洗い出しも行う。質問やコメントなどは、貴重な「お客様の声」となるので、今後の商品企画や配信のヒントになる

5 リスク面:利用者とのトラブルや法規制

ライブコマースの本格的な普及はこれからなので、ライブコマースの利用者と導入する企業との両者の間で、ノウハウなどの蓄積が不十分といえます。国民生活センターの調査によると、「イメージと異なる商品が届いた」「出品者に確認した内容と異なる品質の商品が届いた」などのトラブルが報告されているようです。

1)消費者庁の注意喚起

消費者庁は「インターネット消費者トラブルに関する調査研究 ライブコマースの動向整理」の中で、利用者が注意すべき事項として、以下のような注意喚起を行っています。

  • 商品情報・取引条件を確認する
  • 衝動的な購入を行わない
  • 販売者・配信者の信頼性について確認する

2)関連法規制

ライブコマースに関連する法規制としては、次のようなものがあります。

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これらの法規制に抵触する恐れがある場合には、消費者庁が調査を実施し、措置命令や課徴金の納付を命じたり、業務停止命令や罰金が科されたりすることもあります。

6 ライブコマースの利用者動向

ネオマーケティングが2022年1月に行った「全国の20歳~69歳の男女1000人に聞いた『ライブコマース成功のカギ』」によると、ライブコマースを視聴した理由について、以下のように回答しています。この回答結果を見ると、「すでに知っている商品」について、さらに詳しく知りたいというニーズがあるようです。また、「パッケージを開いて使ってみせる」などの一歩踏み込んだ商品解説が求められているともいえそうです。

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また、ライブコマース利用者に今後の利用意向については、68.6%が「購入したい・やや購入したい」と回答しており、配信を継続することで顧客を定着させることができる可能性もうかがえます。利用者のライブコマースでの消費行動(消費金額、売れ筋商品など)は公表されていませんが、ライブコマースのサービスを提供する企業などによると、アパレルやアクセサリー、家電などがよく売れる傾向にあり、消費金額は数千円~1万円前後がボリュームゾーンとなっているそうです。

新型コロナの拡大を受けた外出自粛や店舗の閉鎖などを背景に、巣ごもり需要を捉える方法の一つとして広まったライブコマースですが、現在では、目的を差異化したものや、顧客との新しいコミュニケーション手法として活用する事例も登場しています。

一方、スマホで手軽に情報発信や顧客とやり取りができるため、トラブルなども消費者庁にも寄せられています。ライブコマースを取り入れる際には、関連する法規制の確認はもちろん、動画配信時の表現やコメント対応にも配慮することが望ましいといえます。

以上(2022年5月)

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画像:Daxiao Productions-shutterstock

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