書いてあること

  • 主な読者:新たな手法や意外な媒体で広告を出稿して、競合他社と差をつけたい経営者
  • 課題:より「自然な形」でターゲットの目に留まり、費用対効果の高い広告出稿をしたい
  • 解決策:少額からスタートできる新しい広告手法も含めて比較検討し、自社のターゲット層へ最も訴求できそうな手法を選ぶ

1 広がる広告の選択肢。音声広告や多様な屋外広告も登場!

コロナ禍で2020年から一時期落ち込んでいた広告出稿ですが、新たな広告手法の登場により、ターゲットへの訴求力の高い広告の選択肢が広がりを見せています。「広告白書2022年度版」(日経広告研究所)によると、次のような新しい動きもあります。

  • テレワーク中の「ながら聴き」需要やワイヤレスイヤホンの普及により、ターゲティング可能なデジタル音声広告の市場が伸長
  • 外出制限の緩和により、街中の人流が戻りつつあることから、屋外広告の出稿はデジタルサイネージを中心に回復基調にある

その一方で、

  • インターネット上の「リスティング広告」などについては、ユーザーのプライバシー保護の観点から、世界的に規制を強化する方向に進んでいる

ため、プライバシー保護の問題に抵触せず、「自然な形」で届く広告手法が求められています。

この記事では、こうしたニーズに応える、新しくユニークな広告手法を紹介します。ターゲットに不快感を抱かせずに「刺さる」広告手法を活用して、潜在顧客の獲得を狙ってみてはいかがでしょうか。

2 新しくユニークな広告手法

近年登場した、新しくユニークな広告手法の一例は次の通りです。次章から、それぞれの広告手法の詳細を説明します。

新しくユニークな広告手法の例

3 リアルな広告メディア

1)デジタルサイネージ広告

デジタルサイネージとは、デジタルサイネージコンソーシアムによると、ディスプレーなどへ映像による情報を表示させるメディアのことです。屋外や店頭、交通機関などで、電子掲示板・看板の役割を果たしているものを見かける機会も増えてきたのではないでしょうか。情報発信のメディアにとどまらず、広告に利用することも可能です。デジタルサイネージには、規模や大きさ、場所など、さまざまな選択肢があり、今後成長の見込める広告手法です。

1.オフィス内サイネージ広告

社内の情報共有ツールやコミュニケーションツールとして、オフィス内サイネージを導入する企業が増えていますが、例えば応接室や受付などに設置したサイネージでは、来客者向けに自社や商品のPRを流すのも一案です。

■エレコム「オフィス向けサイネージサービス」■
https://www.elecom.co.jp/solution/contents/signage/office/

オフィスに専用の冷蔵庫を設置し、健康的なサラダやフルーツ、総菜などを定期的に届ける「置き社食」のサービスである、KOMPEITOの「OFFICE DE YASAI」。同社は、「OFFICE DE YASAI」の冷蔵庫に設置したタブレット端末をサイネージメディアとして広告配信する「OFFICE DE MEDIA」も展開しています。オフィスで働くビジネスパーソンの目に留まりやすいのが特徴です。また、オフィスで働く人を対象に、冷蔵庫を活用したサンプリングやアンケート、テストマーケティングなどを行うことも可能です。食品会社がサラダ用のソースやドリンクをサンプリングし、アンケートを行って販促へ活かすといった活用がなされています。

■「OFFICE DE MEDIA」(KOMPEITO)■
https://www.officedeyasai.jp/lp/media/

2.スーパー店頭サイネージ広告

スーパーの店頭に置かれたサイネージメディアは、店舗内の販促情報と広告とが交互に映されるため、目に留まりやすく、購買の促進を期待できる広告手法です。広告以外にも、コロナ禍では、店舗の混雑状況や感染症対策の案内、レジ袋の有料化や、キャッシュレス決済のレジ案内などの告知にも一役買いました。大日本印刷のスーパー店頭サイネージは、2018年に京王ストアが導入したのを皮切りに、Odakyu OXや東武ストア、リブレ京成といった鉄道会社系列のスーパーで広がりました。

また、NTTテクノクロスが提供する店舗サイネージには、スケジュールの予約ができるものがあり、タイムセールなどの情報提供もタイムリーに行うことが可能です。

スーパーを訪れるのは、近隣に勤務先や住まいのある人であり、また家計の管理者であることも多いと考えられます。さらに駅前のスーパーであれば人通りも多いでしょう。そのため、地域の主婦層をターゲットとしたい企業や店舗にとって有効な広告手法です。

■大日本印刷■
http://www.dnp-signage.jp/
■NTTテクノクロス「ひかりサイネージ」店舗サイネージ■
https://www.hikarisignage.net/usecase/usecase_shop/

3.エレベーター内・エントランス設置型サイネージ広告

ビルやマンションのエレベーター内やエントランスに設置するサイネージもあります。不動産関連企業や、ビルメンテナンス、リフォームやリノベーションなどの企業に向いています。

エレベーター内サイネージについては、大日本印刷の実証実験で「マンション住民の6割以上が配信内容を見た」という回答が得られています。また、同社のエレベーター内サイネージには、カメラがついていることから、個人を特定せずに、広告を見ている人数や属性、広告を見た人の反応も把握できます。このため、より詳細なターゲティングができることと、インプレッションベースの広告料金が設定可能なことが大きな特徴です。

サイネージサービスを展開する東京という企業は、エレベーター内サイネージ、エレベーターホール向けサイネージ、また、エントランス向けに「無人コンシェルジュ」というユニークなサイネージサービスを提供しています。

NTTテクノロスが提供する、ビルのエントランスやロビーに設置するサイネージは、オフィスビルの従業員や利用者へ向けた広告手法です。一括集中管理のできるサイネージであれば、設置箇所が複数あっても、それぞれの場所に合わせたコンテンツを配信することが可能です。

■大日本印刷■
http://www.dnp-signage.jp/
■東京■
https://tokyo-inc.com/
■NTTテクノクロス「ひかりサイネージ」ビル・マンション■
https://www.hikarisignage.net/usecase/usecase_building/

4.タクシーの車窓サイネージ広告

タクシー車両の後方サイドガラスに広告を映し出す、車窓モビリティサイネージサービスです。歩道の通行人に対し、熱中症や天気予報、紫外線情報などの情報を織り込みながら広告を掲載していますので、UVケア用品や雨具など、気象に関連する商品やサービスを取り扱う企業に向いています。

「THE TOKYO MOBILITY GALLERY Canvas」は、気象情報会社のウェザーニューズと共同で、天気連動型の車窓サイネージ広告を提供しています。ウェザーニューズが「WxTech」(ウェザーテック)サービスとして提供する1kmメッシュの高精度な気象データ(他社は5kmメッシュ)を活用しているのが特徴です。紫外線指数とUVケア用品の広告を車窓サイネージに掲出し、車内ではUVケア用品のサンプリングやアンケートを行うというような連動も可能です。

■「THE TOKYO MOBILITY GALLERY Canvas」(ニューステクノロジー)■
https://canvas-tokyo.jp/

2)ウインドウビジョン広告

建物の窓に映像を映し出すウインドウビジョンという広告手法があります。全面ガラス張りの病院や不動産会社、カフェなどでよく利用されています。目に留まりやすい窓のある社屋や店舗を持つ企業にお勧めです。LEDを活用した事業を展開するLED TOKYOで提供しているウインドウビジョンは、サイズを選ばず、かつ外光を遮らないことで、開放的な空間を保ちながら広告を掲出することが可能です。

■LED TOKYO■
https://led.led-tokyo.co.jp/works_category/window_vision/

3)消火栓標識広告

街中の公道の上方に、赤い支柱に「消火栓」と書かれた円形の標識があります。地下に設置された消火栓の目印で、消防車が位置を見つけやすく、一般車両の駐車や物を置かれるのを防ぐためのものです。消火栓を設置している「消火栓標識」は、標識の下にある四角いスペースを、広告板として出稿者を募集しています。

通行者の目に留まりやすく、道路占用・道路使用および屋外広告物などの許可の取得手続きも不要です。広告料は月額5000円からで、広告料で標識の設置・維持管理費用も賄っていますので地域貢献にもつながり、地域に密着した企業や店舗にお勧めの広告手法です。

■消火栓標識■
http://www.syokasen.co.jp/

4)シャッター広告

空き物件のシャッターに広告を出稿する手法も登場しています。

メルカリが展開するオンラインショップ「メルカリShops」は、「3D店舗」と銘打ち、東京・渋谷センター街の空き物件のシャッターに、オンラインショップに登録した出店者の広告を掲載しました。広告に掲載している二次元コードから商品を購入できる仕組みになっています。

広告を出稿したのは4社で、いずれも地方の食品製造販売業者です。中には初めてオンラインショップに参入した、創業180年の味噌しょうゆ製造販売業者も名を連ねています。

■「メルカリShops」3D店舗(シャッター広告)■
https://about.mercari.com/press/news/articles/20211007_ooh/

4 ウェブ広告メディア

ウェブ広告に関しては、後述するApple、Googleの動向(第5章)によって、これまでの広告ターゲティングが難しくなることから、それに代替する広告手法を選択する必要性が高まっています。

1)SNS広告(Facebook、Twitter、Instagram、TikTok、LINE、YouTube)

細かくターゲティングできることと、少額からスタートできるという利点から、デジタル広告では、まずSNS広告やアプリ広告が選択肢となるでしょう。各SNSの国内アクティブユーザーの数(推定)や特徴は、次の通りです。

各SNSの国内アクティブユーザー数(推定)と特徴

広告のターゲットについて、年齢や性別、地域、関心のある分野、広告掲出時間・期間などを設定し、予算に応じた出稿を行うことができます。

2)アプリ内広告

個人情報保護の観点から、Apple、Googleが自社のブラウザであるSafari・Chromeで、サードパーティーによるクッキーの受け入れを制限する流れとなっています。その影響を受けにくい広告として、アプリ内に掲出する広告が挙げられます。

■Googleアプリ内広告「AdMob」■
https://admob.google.com/intl/ja/home/

3)TVer広告

TVerは、時間や場所にとらわれず、アプリやインターネットに接続したテレビ(コネクテッドテレビ)などから、過去に放送されたテレビ番組を視聴できるアプリです。2015年10月に登場しましたが、2019年7月から2022年7月までの約3年間で総ダウンロード数が2000万件から5000万件へと急増しています。

近年は、特にコネクテッドテレビでTVerを視聴する層が伸びており、コネクテッドテレビで視聴した動画が25%を超えています(2022年3月時点)。テレビの視聴者層の中で、該当するテレビ番組を視聴する目的を持った人だけに広告を配信することができるため、従来のテレビ広告よりも詳細にターゲティングすることが可能になりました。テレビCMを出稿するほどの予算はかけられなくても、テレビCMのような広告出稿を望む企業にお勧めです。

■TVer広告■
https://biz.tver.co.jp/

4)デジタル音声広告

デジタル音声広告は、音楽配信のSpotifyやラジオ番組を聴取できるradiko、ネットで音声配信できるPodcastなどへ、音声で出稿できる広告です。また、YouTube動画へ音声と静止画で出稿することも可能です。

デジタル音声広告市場は、AirPodsに代表されるワイヤレスイヤホンの普及や、Podcastが市民権を得たこと、またコロナ禍のテレワーク中の「ながら聴き」需要に大きく後押しされ、大きく成長しました。2020年の日本国内のデジタル音声広告市場は、前年比229%の成長を見せ、16億円規模となっています(デジタルインファクトの調査予測)。

オトナルは、デジタル音声広告に特化したサービスを展開しています。同社の八木太亮社長は、「デジタル音声広告の強みは、『ながら聴き』のように、ユーザーの生活と共存できること。また隙間時間に入れること」と言います。また、視覚広告よりも押しつけがましくなく、ユーザーに抵抗なく認識されやすい利点もあります。

中でもSpotifyは、利用開始時に性別と年齢を入力するシステムのため、ターゲティングがしやすいのが特徴です。また、若年層の利用の割合が高いことから、事例として、芸能人が語るラジオトークのような予備校の広告など、学習塾・予備校や大学からの出稿が多いといいます。さらに、商圏ごとのターゲティングも可能で、長野県のスキー場の広告では、県内向けと県外向けの2種類の広告を出しわけています。

■オトナル■
https://otonal.co.jp/

5 補足:Apple、Googleの動向に見るウェブ広告の今後

従来のインターネットによる広告ターゲティングには、ブラウザのクッキーや、端末の広告識別子が利用されてきました。しかし、これらの情報を取得するにあたっては、ユーザーのプライバシー保護の観点から、ユーザーの事前同意を得ることなど、規制を強化していく流れにあります。

Appleは2017年より、ブラウザ・Safariでサードパーティーによるクッキーの受け入れを制限し、現在は完全に停止しています。またiOS14.5(2021年4月26日リリース)から、全てのiOSアプリに対し、Appleが端末に割り当てているランダムなIDによるトラッキングについて、ユーザーの事前同意を得るよう義務付けました。なお、日経広告研究所「広告白書2022年度版」によると、2021年12月時点で、アプリのトラッキングを許可したユーザーは、全世界で24%にとどまりました(スマホアプリ調査会社Flurryの調査、Appleは非公開)。2022年4月、Metaは「トラッキング規制によって、2022年の売上高が100億ドル減る」との見通しを発表しています。

日本においては、iOSのシェアは63.6%と、世界平均の27.7%の2.3倍(2022年4月。調査会社Statconter)で、より影響は大きいものと考えられます。

一方、Googleもブラウザ・Chromeでのサードパーティークッキー受け入れ制限を、2024年後半までに行うとしています。2022年2月には、Androidで提供していた広告識別子の利用制限を前提に、代替技術の開発を進めると発表しています。

以上(2022年10月)

pj70120
画像:zapp2photo-Adobe Stock

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