1 なぜ、質問力が大事なのか

聞く力と銘打った書籍が100万部を超えるベストセラーとなり、営業から人事まで、傾聴力・質問力に関する研修やビジネス書が大量にあふれかえる昨今。そもそも、ビジネスパーソンにとって「話を聞く力」がなぜ重要なのでしょうか。

答えはとてもシンプルです。ビジネスとは課題解決であり、相手の課題が認識できないと、適切な解決策を提供できないからです。

新規営業先や既存のお客様、社内の上司や部下、株主や社外の協力者など、会社を取り巻くステークホルダーは様々。経営者はおのおのの思惑や期待値を理解し、調整していく必要があります。そのために、相手が考えていること、求めているものを正しく理解することが重要で、それらを引き出す力が質問力、というわけです。

あくまで一つの定義ですが、質問力とは、「相手と同じ視点で物事を見る力」だと私は考えています。みなさんの周りでこんなことはありませんか。

  • 現場の営業担当者が商談先の要望を正しく理解できず、的外れな提案が失注につながった
  • コールセンターの担当者がお客様に寄り添った応対をできず、クレームにつながった
  • 部下と面談をしてもモチベーションや成果が上がらず、最終的に退職してしまった

経営に大きなインパクトを与えるこれらの課題について、「相手と同じ視点で物事を見られていない」ことが原因の一つとして考えられます。

では、どうやって質問力を高める教育をするべきなのか。これまで、1000人以上の人生ストーリーをインタビューした経験を基に、幾つかエッセンスをお伝えします。

2 何が質問力の高い・低いの差を分けるのか

まず、質問力を高めるために、分かりやすいゴールのイメージを持つことにしましょう。

そもそも、質問力が高い・低いとは、どういった状態なのでしょうか。先ほど、質問力とは、「相手と同じ視点で物事を見る力」であると定義しました。具体的な例をイメージしながら考えてみます。

例えば、御社で新卒採用を検討し、人材紹介会社の営業担当者と打ち合わせを設定するとします。

・1人目の営業担当者

御社の事業内容の理解度が低く、質問を聞いていると、業態を勘違いしているような印象です。募集職種に必要なスキルや特性についても、相づちを打ちながら聞いていますが、どこまでこちらの意図が伝わっているのか、いまいちピンときません。最終的には「このプランはオススメです。今なら値引きが可能です」とAプランを提案されました。

・2人目の営業担当者

御社に近い業態のクライアントを担当したことがあるようで、事業の内容や採用職種の要件について、こちらが伝えたいことを正しく理解してもらえました。その場でホワイトボードにまとめてもらいましたが、認識に相違はありません。また、商談の中で「実際にこれまで採用した新卒社員のうち、活躍する社員の共通点」について尋ねられ、皆体育会の経験があるということに気付きました。最後に、その会社で提案できるプランの説明を一通り受けた上で、体育会系の学生にリーチできるプランが良いのではないかというアドバイスをもらいました。

やや極端な例ですが、「相手と同じ視点で物事を見る力」=「質問力」によって、上記のような差が生まれます。

2つのケースで一番大きく異なるのは、話者に対する信頼の有無です。1人目の営業担当者が「この人に言っても伝わらないのではないか」と疑われているのに対し、2人目の営業担当者は、「考えていることが正しく伝わっているし、自分が気付かなかったことまで示唆してくれた」という信頼の獲得に至っています。

信頼のない相手とのコミュニケーションは、机を境界線に180度で対面した「対立構造」となる特性があります。「なぜこんなことを聞かれるんだろう」「なぜこの商品を提案されるんだろう」「なぜ値引きされるんだろう」といった探り合いが起こる構図です。

反対に、信頼できる相手とのコミュニケーションは、お互いが横の席に並んで座っているように、0度の「並列構造」となる特性があります。「実は、こんな内情なんですよね」「それであれば、無理にXXせず、YYするのがよいかもしれませんね。御社にはこのプランは合わないと思います」というように、同じものを2人で見て、相談するような構図が出来上がるのです。

目指すべきゴールは、対面の探り合いでなく、相手と横並びで同じものが見られる状態です。そのためには信頼を得ることが重要。では、どうすれば信頼を得られるのでしょう。

3 質問力を磨くには

いよいよ質問力をどう磨くかというパートに入ります。相手と信頼関係を構築し、同じ視点で物事を見るためには、「どう聞くか」「どう答えるか」の2点が重要です。

1)どう聞くか:相手が話しやすい順番で聞く

コミュニケーションにおいて、質問の順番は非常に重要です。「Aを説明するためには、前提となるBを説明しなければいけない」という考えが働いたり、「初対面でいきなりCの話をするのははばかられる」という感情が働いたりするためです。幾つか例を挙げます。

1.全体から部分へ

いきなり個別具体的な話に入らず、全体像の擦り合わせを行いましょう。特別なケースを除き、大枠から詳細に入っていくほうが、同じ前提を持って会話することができます。例えば、あなたが先の例に挙げた新卒採用の営業担当者だった場合、「新卒採用説明会の集客にお悩みではありませんか?」と聞くよりも、年次の採用目標や取り組んでいる施策、目標に対する進捗状況、と順々に絞り込んでいくほうが、相手も説明がしやすく、より本質的な課題に至ることができます。

2.事実から解釈へ(事象から感情へ)

相手が話していることが事実(事象)なのか、解釈(感情)なのかを分けて認識しましょう。商談相手が、「既存のベンダーの仕事に満足していない」のと、「今期で該当ベンダーの契約を打ち切ることが決まっている」のは明確に異なります。相手が説明しやすいのは、変動性がない事実です。まずは事実から質問し、次に解釈を聞く、という順番がオススメです。例として、ご自身がインタビューを受ける際に、「略歴」を聞かれてから「キャリア選択のこだわり」を聞かれるのと、反対の順で聞かれる場合を想像すると、前者のほうが答えやすいのではないでしょうか。

3.クローズドからオープンへ

全ての質問は、Yes/No、A/Bなど回答範囲の区切られた「クローズドクエスチョン」と、範囲が制限されない「オープンクエスチョン」の2つに分かれます。まずはクローズドから入り、関係性を築いた上で、一歩踏み込んでオープンに聞いてみる、というのが定石の一つです。例えば、営業の商談時に、相手の決裁体制を伺う際、「このような意思決定はXX様が決められるんですか?」と、範囲を限定して聞くこともできますし、「御社の意思決定フローや基準を教えてください」と、制限せずに相手に委ねることもできます。関係性を考慮して使い分けることが重要です。

2)どう答えるか:何を理解したか、相手に伝える

「質問力」というテーマで、「どう答えるか」と書かれると違和感があるかもしれませんが、相手の回答に対してどんなリアクションを取るかは、実は質問選びと同じくらい重要です。どんな受け答えが信頼を生み、相手と目線を近づけるのか、例を挙げて説明します。

1.言質を取る

トラブルなどの文脈で使われることが多い言葉ですが、「あなたがこう言ったと私は認識した」と、相手に伝えることは非常に重要です。「相手は言葉に出していないけど、恐らくこうであろう」という予測から失敗を招かぬよう、お互いが見える場に言葉を出すことが重要です。

2.復唱、要約する

一つ目と一部重複しますが、質問において「復唱・要約」は最も重要な要素の一つです。なぜなら、相手はあなたの相づちを打つのを見て、どの程度理解したか、これからどこまで話すべきかを判断するからです。そういった意味では、ただ相手におうむ返しをすればよいわけではなく、相手が伝えたい真意、重きを置いている点をくみ取った返答を行うことが、信頼の構築につながります。さらに、こちらの要約に対し、先方から、一巡目では説明できなかった深い点への言及を引き出すきっかけにもなります。

3.意見する、アドバイスする

上記の復唱・要約からさらに一歩踏み込んだのが「意見・アドバイス」です。関係性ができていない中で行うと気分を害されたり、失礼に当たったりすることもありますが、相手の意見を引き出す上で、自分の意見を述べるのは、最も有効なアプローチの一つです。新卒採用で苦しんでいる相手に、「新卒採用よりも、中途採用のほうがいいんじゃないですか」と意見を当ててみる、などの例が挙げられます。

4 実践編:ビジネスを前に進める質問テクニック

シーンごとに、相手と同じ視点で物事を見るための簡単なテクニックをお伝えします。

1)営業の商談

「木」と「森」の両方を見ることが重要です。目の前の相手の視点を追えばよいのではなく、意思決定者であるその上司や、反対する他部署の人など、相手の周りを取り巻く他者の視点も意識することが重要です。受注の意思決定に関わる影響範囲を広く捉えた上で、それぞれの立場の視点を理解できるような質問を投げかけましょう。

2)社内の部下との1on1

「理解」と「共感」を分けて考える・振る舞うことが重要です。相手の話した内容に対し、すぐに反論したり、評価する目線で返答したりしては、純粋な意見を聞くことはできません。ご自身が相手の意見に共感するか否かは一旦置いた上で、相手の意見を引き出すための質問の仕方を心掛けましょう。

3)採用の面接

過去の意思決定や仕事の内容を「点」で聞くのではなく、「線」で聞くことが重要です。時間軸に沿って前提を積み重ねていくことで、一つ一つの意思決定を独立して聞くよりも、話の解像度が上がります。

5 おわりに

最後に、私自身の経験から、失敗例と成功例を少しだけお話しします。

・失敗例

集中力を欠いていると、会話中に「次に何を聞こう」と考え込んでしまうことがあります。会話が弾まず、こちらの価値も提示できないことで、相手からは無意味な時間だとか、面白くないやつだ、と思われてしまう。しまいには、スマートフォンを見ながら話をし始める、なんてこともありました。

こうなると、私はすぐに気持ちをリセットして相手と同じ目線に立つことに集中し直します。実は、相手と目線が合い、信頼関係が築けているときは、「相手に何を聞くか」には注目せず、「相手が何を見ているか、考えているか」に注目しています。そもそも、質問は手段であり、目的ではないのです。

・成功例

信頼関係は必ず次の機会につながります。シンプルな事例として、相手と同じ目線に立つと、意見を求められる機会が増えます。事業の相談のうち、自社でお力添えできるものはソリューションを提案し、その場で受注、なんてこともしばしば。実は取材で知り合った方と次の仕事につながるケースは非常に多いのです。

少し話はそれますが、私は、これまでの経験から「墓場まで持っていく」という言葉をあまり信用していません。誰しも、自分のことを語りたく、理解してもらいたいという特性が少なからずあると思うのです。だからこそ、それがプライベートであろうと、ビジネスであろうと、相手目線で物事を考えられる人の価値は非常に高いのではないかと思います。

質問力を高め、相手と同じ視点で物事を見ることは、経営を行う上で関わる様々なプレーヤーと、長期的に利益を共有できる関係を作るのに大きな一歩となります。無数の会話で成り立つ日々の生活の中で、本稿で紹介した質問力のエッセンスが、少しでもみなさまの役に立てるとうれしいです。

以上(2018年8月)
(執筆 株式会社ドットライフ 代表取締役 新條隼人)

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画像:artinspiring-Adobe Stock

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