書いてあること

  • 主な読者:小売店の販売担当者
  • 課題:集客力を高めるために、セールやDMなどの販促を効果的に行いたい
  • 解決策:セールとDMの効果的な方法をまとめる

1 集客力とは

店舗の集客力とは顧客を吸引する力にほかなりません。物販店の場合、集客力は店舗規模に比例し、店までの距離に反比例する関係にあるといえます。

まず、店までの距離について考えてみましょう。仮に、同じ商品が同じ価格で販売されていたら、顧客は少しでも近い店で購入したいと思うものです。もし、1キロメートル先のA店と2キロメートル先に同業種のB店があった場合、一般的には1キロメートル先のA店に向かうことになります。しかし、車の利用を考慮した場合には異なってきます。距離的に近い店というよりも、車で行きやすい店に向かうのです。車で行きやすい店とは、「駐車場がある」「比較的短時間で着く」「道路が広く走りやすい」「道路から店に入りやすい」といった店です。

次に、店舗規模について考えてみましょう。多くの顧客は多くの種類の商品の中から、自分に合った商品を選んで購入したいと思います。従って、顧客は品ぞろえの豊富な店を選びます。品ぞろえを豊富にするには、それを可能とする店舗規模が必要になります。

物理的には、店舗規模の大きい店ほど、品ぞろえを豊富にすることができます。そのため、総合的な品ぞろえを目指しても、小規模店は大規模店に対抗できません。小規模店は品種を絞り込み、特定の品種の品ぞろえを充実させるという専門化戦略などで大規模店に対抗することになります。

隣接した店舗が同じ商品を販売していた場合、顧客はどちらの店舗で購入するでしょうか。この場合、販売価格がものをいいます。全く同じ品であるなら、少しでも安いほうを選択するのが合理的な判断です。

2 セールは動機付けがポイント

消費成熟時代には、顧客の消費活動は合理的になります。ものがあふれる豊かな時代にあって、本当に必要となるものは限られています。ほんの少し値段を下げたところで、顧客の購入意欲を高めることは難しいものです。

売れないから値下げする、値下げしても売れないからさらに値下げするというような値下げ競争は利益を圧迫し、企業体力を損なうばかりでなく、単なる値下げ販売では顧客の購入意欲を高めるのは難しい状況となっています。

「エブリデーロープライス(良い品を毎日低価格で提供する)」というのは、大量仕入れや物流の効率化などにより通常商品の低価格での販売を実現させたものです。当初は、その安さに驚きますが、やがて顧客はその価格に慣れます。競合店への価格面での優位性はあるものの、エブリデーロープライスで長期にわたり、顧客に感動を与え続けることは難しいのです。

セール(特売)も同様に単に安いというだけでは集客に結び付きません。集客および販売に結び付けるセールを行うには、顧客に「店に買いに行きたい」「この商品が買いたい」と思わせることがポイントです。

「店に買いに行きたい」と思わせるには、集客の工夫が必要です。そのためにはチラシの工夫はもちろんのこと、顧客が興味を持つようなセールの内容を考える必要があります。また、「この商品を買いたい」と思わせるには、購入意欲を高める表示の方法やアイデアが必要でしょう。

3 セールによる集客策の工夫

1)目玉商品

エブリデーロープライスは、「○○店に行けば、いつでも良いものが安く手に入る」という顧客の安心感が次の来店につながります。地域の競合店に比べて、品ぞろえや価格で優位にあれば、地域一番店として安定した売り上げを確保することができます。とはいえ、価格で常に他店より優位であるのは困難です。

そこで求められるのが目玉商品です。これは単に「安い」というのではなく「こんな値段で売ってしまってもいいのか?」という驚きの価格での提供を意味します。この目玉商品に限っては利益を度外視したものになります。

目玉商品としてなじみのアイテムとしては、「ティッシュペーパー」「トイレットペーパー」「ラップ」「洗剤」「飲料」「調味料」「卵」などが挙げられます。

しかし、競合店と同じ目玉商品では、顧客の驚きを期待することはできません。そこで、競合店では行わないようなアイテムを目玉商品として打ち出せば、大きな効果が期待できます。例えば、「生鮮野菜」「果物」「肉」「魚」「加工食品」「日用品」など普段消費するものの中から、競合店ではできないような商品、顧客に喜ばれる商品を選定します。

また、目玉商品を日替わりで提供できれば、顧客に毎日新鮮な気持ちで来店してもらうことができます。

  • 目玉商品販売による効果の考え方

目玉商品を打ち出すことで、どれだけの集客につながり、その結果どれだけの売り上げの拡大につながるかを予測します。

通常の来店客数が1000人、平均購入金額が2000円とした場合、1日の売り上げは200万円です。ここで目玉商品1500個を用意することで、通常の1.5倍の1500人の集客が期待できるものとします。

目玉商品1個を販売すると100円の損失が発生する場合、目玉商品の販売による損失額の合計は15万円(100円×1500個)になります。

一方、通常より500人多い1500人の集客を達成したため、この日の売り上げは300万円(1500人×2000円)となりました。この店の粗利益率を30%とした場合、通常の販売日よりも目玉商品の販売により30万円(300万円×30%-200万円×30%)多い粗利益を獲得することができます。目玉商品の販売に伴う損失15万円を差し引いても粗利益は通常よりも15万円多くなります。

2)まとめ売り

セールはまとめ買いを誘うように工夫すると購入金額を上げることができます。「1個:180円、2個:350円、6個:1000円」というように、1個ならば180円の商品を、2個ならば1個当たり175円(350円÷2)、6個ならば166.7円(1000円÷6)とまとめ買いして購入点数が増えるほど割引が大きくなるようにします。

このように商品の購入点数を増やすことで、大量仕入れが可能になるので、仕入単価の引き下げにつなげることもできます。

3)感謝デーセール

1カ月間に1日、顧客への感謝の気持ちとして、特別に低価格で販売する日(感謝デー)を決めます。できるだけ、売り上げの悪い日や集客の少ない日を選んで実施することがポイントです。

感謝デーと銘打つわけですから、「感謝デーには○○○円以上お買い上げのお客様に漏れなく○○をプレゼント」という企画も良いかもしれません。プレゼントする品は、今月は□□、来月は◇◇といった具合に、月によって替えたほうがより多くの人に喜ばれるでしょう。

もし、定休日があるならば、その定休日を「上得意様限定特別感謝セール」として、全商品を○割引販売にするなどのイベントを行うこともできます。上得意の顧客には案内状を郵送し、来店を促します。

また、店の近隣の居住者には、交通渋滞や騒音などの影響が多少なりともあるはずです。店の近隣の居住者には感謝デーの案内をしましょう。

4)雨の日セール

一般顧客向けには、「雨の日セール」などを設けて、雨の日に来店していただいた顧客向けに割引セールを行います。一般に雨の日の外出は面倒なものです。来店客数の少ない雨の日にセールを行うことで、「雨の日は○○店に行かなければ……」という気持ちにさせます。既存顧客へのサービスとしてはもとより、口コミにより新規顧客の開拓にも効果があります。

5)記念日セール

顧客個人に向けたセールとしては、「誕生日セール」「結婚記念日セール」など顧客にとって特別な記念日に、割引セールでお祝いする、または記念品をプレゼントするなどして来店に結び付けます。そのためには顧客データを整備し、各顧客の記念日が近くなったら、感謝デーの案内書を送付するなどします。

「ご来店の際は、このご案内をお持ちください」と告知すれば、他の顧客との区別が容易になり、来店時にさまざまな特典を提供しやすくなります。

4 セールを盛り上げる売場の工夫

1)にぎわいの演出

売る側と買う側では立場が異なります。売る側が「お買い得」と言ったとしても、買う側は「本当にお買い得なのか。売り得ではないのか」と思うかもしれません。そのようなとき、顧客は他の顧客の動向を観察しているものです。行列ができていると、つい自分も並びたくなるのと同じで、他の顧客が商品を手にしていると、足を止めて商品を手に取ってみたくなるものです。そして、それが商品の購入へとつながります。顧客の注意を引いて、顧客を立ち止まらせるには、にぎわいを演出するなどの工夫が必要になります。

店に活気を持たせるには、声が必要です。顧客の声、その声に負けずに聞こえる店員の声、縁日の出店や市場の活気を演出します。にぎやかで活気があれば自然と人が集まります。

2)顧客を飽きさせないタイムサービスの実施

売上高の増加には、顧客の購買意欲を高めることが大切です。購買意欲を刺激して購入を促すには、「タイムサービス」「数量限定」などで「今がお買い得である」ことをアピールする必要があります。

タイムサービスは、特定の時間帯に限り、大幅な割引セールを行います。いつも決まった曜日と時間に実施すると、顧客がタイムサービスの時間にだけ集中することになるので、タイムサービスの曜日と時間はゲリラ的に実施したほうがよいでしょう。

数量限定セールや先着セールを行う場合、「残り○○個で完売」といった残り数の告知を行うことで、より顧客の購買意欲を高めることができます。特に残り1個や2個という少ない数の表示になれば、ためらうことなく購入したくなるものです。これもにぎわいの演出に結び付きます。

表示の方法は「残り数量カウントダウン」などと表示したボードで、次々と変化する在庫の数量を書き換えたり、数量限定品の脇に在庫数の表示を簡単に換えられるパネルを用意するなどが考えられます。

3)実演販売

マグロの解体ショーなどの実演販売は、にぎわいの演出に大きな効果が期待できます。また、見せるという点では、総菜売場などでは、バックヤードでの調理作業がガラス越しに見えるようにすると食品衛生・食の安全・作りたてといったポイントを伝えることができます。

また、安いだけでは購入に結び付かない場合もあります。商品を大量にパック詰めして低価格にしても、顧客がそこにお買い得感を見いださなければ購入しないでしょう。逆に、単位当たりの販売価格は上がっても量を少なくしたほうが買いやすい場合があります。このため、昔ながらの量り売りにすると、各顧客の求める適量を売ることができます。量り売りは対面販売であり、労力を必要としますが、そこには販売員と顧客との対話が生まれます。こうした声はにぎわいの演出に欠かせません。

5 顧客管理とDMの重要性

1)顧客管理の重要性

店が長期にわたり一定以上の利益を確保するには、リピーターの確保が重要な課題となります。顧客は、店の商品やサービスに満足することで、また次も来店してくれます。これを繰り返すことで、利用頻度の高い優良顧客として定着するのです。利用頻度の高い優良顧客としての定着がなければ、店の業績はジリ貧にならざるを得ません。

店の売上高の多くは利用頻度の高い優良顧客に負うところが大きいものです。店の開業当初は、いかに来店客を増やすかにポイントが置かれますが、長期的には、優良顧客との関係を良好に継続することが店の利益に大きく貢献することになります。

顧客を大切にし、顧客との関係を強化するには、店にとっての顧客は誰なのかが明確でなければ、効果的なサービスの提供をすることはできません。

まずは、可能な範囲で顧客情報をデータベース化し、顧客の動向を把握する必要があります。これにより、毎週利用してくれる顧客、月に1度のペースで利用してくれる顧客、ここ3カ月間利用のない顧客などが把握できます。

顧客の把握ができれば、最も大切にしなければならない優良顧客が明確になるとともに、「上得意様感謝セール」「誕生日特別割引」「結婚記念日特別ご奉仕」などの特定の顧客に対するイベントの開催や案内が可能になります。

新聞の折り込みチラシは不特定多数の顧客に向け広告するには有利な方法ですが、特定の顧客に対する案内には向いていません。一方、DMは特定の顧客に対する送付が可能であり、費用面も比較的安く手軽という利点があります。DMは見込み客を絞り込んで送付することができるので、集客の効率が高くなる点もメリットとして挙げることができます。

2)顧客情報の収集とデータベース化のポイントと留意点

1.顧客情報の収集とデータベース化のポイント

顧客にDMを送付する場合、顧客情報を収集し、それをデータベース化しなければなりません。このデータベース化が難関であり重要なポイントとなります。

データベース化の基本は、一度でも自店に来店したことがある顧客の名前や住所(場合によっては電子メールアドレス)を入手することです。家電製品やピアノのように原則として購入した商品を配達で届ける場合や、主に予約販売やオーダーメイド販売している商品を扱っている店舗であれば、顧客の情報を簡単に知ることができます。

しかし、そうでない場合には、顧客が抵抗感なしに名前や住所などを書いてもらえるような、次のような工夫が必要です。

  • ポイントカードを導入して、カード発行時に記入してもらう
  • 配布した商品券を利用するときに裏面に記入してもらう
  • 定期的に情報を発信したり、割引で商品が購入できるなどのメリットがある自店の会員組織を運営し、入会時に名前や住所などを記入してもらう
  • 抽選で粗品を進呈するアンケートを実施する
  • 買い上げ商品に対する保証制度を導入して、その際に記入してもらう

また、既存顧客に知人を紹介してもらうようなキャンペーンを行うのもよいでしょう。

2.留意点

個人情報の有用性に配慮しながら個人の権利や利益を保護することを目的とした法律として、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)があります。

同法により、個人情報をデータベースなどの形で事業活動に用いる一定の要件(過去6カ月以内のいずれの日においても5000人を超える分の個人情報を保有している者)を満たした事業者(注)は、「個人情報取扱事業者」として、個人情報の適正な取り扱いのルールを順守することが必要となります。

(注)2017年5月施行の改正法により、5000人要件が撤廃され、小規模事業者も対象となります。

個人情報は、その利用目的を明確にし、あらかじめ本人の同意を得た上で利用しなければなりません。取得した個人情報を基にDMを送ろうとする場合には、個人情報を取得する際に「当店の商品・サービスの提供のご案内を送付するため」など、利用目的を明記し、同意を得ることが求められます。

3)DMの種類と内容を検討する

1.はがき

はがきによるDMは封書に比べてコストが安く、作成も比較的手軽です。ただし、情報を伝えるためのスペースが狭いという欠点があります。なお、はがきは裏面だけでなく、表面も下半分は広告スペースとして利用してもよいことになっているので、フルに活用します。

また、はがきの隅をめくると紙面が現れて、2倍、3倍のスペースが使える「オープンメール」は送料が普通のはがきと同じで、受け取った消費者の好奇心をかきたてるという利点もありますが、製作コストは高くなります。

その他、はがきにQRコードを付け、「詳しくはウェブで」として、ウェブサイトに誘導することもできます。

2.封書

掲載内容などが多く、はがきには収まらない場合などには、封書を利用することになります。

封書を使う場合にははがきと異なり、いくら中に入れてある紙面が魅力的でも、封を開けてもらわなければ何も伝わりません。消費者が受け取ってまず目にするのは封筒です。そのため、用いる封筒もDMを成功させる上でのポイントとなります。

封筒に店名や内容の基本的な情報が記入してあることはもちろん、「今なら送料無料です」「○月○日までの限定販売です」などの注意を引くキャッチコピーにより開封率を高めることができます。また、透明な封筒を利用して、外からでも中の案内状が見えるようにしておくという方法もあります。

3.電子メール(メルマガ)

送付先の電子メールアドレスが分かっている場合、電子メール(メルマガ)が効果的です。郵送コストが削減できるだけでなく、自社のウェブサイトのアドレスを電子メールに付けておけば、その時々のウェブサイトの最新情報を閲覧してもらうことが可能です。

日本ダイレクトメール協会では、ダイレクト・メール制作教室やダイレクト・メール・マーケティングに関する資格認定者養成のための講座を開講しています。

■日本ダイレクトメール協会■
http://www.jdma.or.jp/

以上(2018年10月)

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画像:pexels

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