1 ハードルが下がる自前「VTuber」の企業メリットは?

YouTubeなどでよく見かける「VTuber(ブイチューバー=バーチャルユーチューバー)」。あえて定義をするならば、

自身の代わりに2Dもしくは3Dのアバター(仮想のキャラクター)を動かし、YouTubeなどで動画投稿を行う人

となります。企業や自治体がVTuberを起用する場合、VTuberとタイアップするのが通常でしたが、最近は独自にVTuberアバターを用意し、自らPRするケースが増えています。これにより、次のようなメリットがあります。

  • 自社のブランドに沿ったキャラクターを作成できる
  • 自社の社員で手掛けるため、より専門的な情報が発信できる
  • 顔出しをしないため、従業員のプライバシー保護にもなる

この記事では、自社オリジナルのVTuberアバターを使ってみたい経営者や広報担当者向けに、

  • VTuberを活用してどのようなことができるかの事例
  • 自社でVTuberを手掛けるためにどのような準備が必要か

などを紹介します。

2 こんなにある。企業や自治体のVTuber起用事例!

1)自社の情報発信にVTuberを起用:アクシオ(東京都品川区)

昭和電線ホールディングス傘下の同社では、自社の公式VTuberとして「芥川しおり」を起用し、YouTubeやX(旧Twitter)で自社製品の紹介や広報活動を展開しています。アバターのデザインは社内の有志と外部クリエイターが提携して作成しました。

今後は自社の受付業務や展示会での情報発信をはじめ、SWCCグループ内での利用拡大も検討するとしています。

■芥川しおり_Shiorich■
https://www.youtube.com/@shiori_akutagawa/featured

2)医師向け動画コンテンツ:伊藤忠商事(東京都港区)

同社では、VTuber事業を手掛けるANYCOLORと共同で、医師向けの動画コンテンツ制作に取り組み始めています。内容は勤務医の健康改善や研修医向けのノウハウなどをテーマとしており、出演する医師に対して、VTuberがアシスタントや進行役を務めています。

動画は医師が利用する医療情報向けサイトに公開されていましたが、2023年5月には一般公開されており、VTuberの生活習慣を医師が抜き打ちチェックをするというテーマの動画となっています。

■ライバーの日常を抜き打ちチェック!?【渥美正彦先生×にじさんじ/加賀美ハヤト/夜見れな/花畑チャイカ】■
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=NFigKSU9ijs

3)教育教材の実証授業:うちゅう(東京都墨田区)

宇宙に関する教育事業や教材開発を手掛ける同社では、学術系VTuberユニット“まなぶい”(学術的なテーマに関する発信を行うVTuberの有志団体)と共同で動画コンテンツを制作しています。この取り組みは経済産業省の令和4年度「未来の教室」実証事業(テーマB)に採択され、高校生や大学生向けの実証授業、教育大学生による分析・検討なども行っています。

動画は「現代のバーチャル技術」や「アバターを作って動かそう」など合わせて7つのテーマがあり、経済産業省「未来の教室」プロジェクトSTEAMライブラリーのウェブサイトで閲覧できます。

学術系Vtuberと考える

■経済産業省STEAMライブラリー(学術系Vtuberと考える”未来のバーチャル社会”)■
https://www.steam-library.go.jp/content/143

4)新庁舎建設:山形県高畠町・山形県立米沢工業高等学校専攻科

山形県高畠町では、町役場の新庁舎建設のPR動画にVTuberを起用しています。アバターの制作と取材を米沢工業高校専攻科の学生が手掛けており、高畠町の公式YouTubeでVTuberが工事現場の裏側や新庁舎建設に携わる人を紹介するなどの情報発信を行っています。動画は開庁までの約2年間、毎月1回配信する計画です。

また、同校では地元の伝統工芸品「原方刺し子」をフィンランドに向けて紹介する動画制作にも取り組んでおり、簡易版の動画が高校のウェブサイトで公開されています。

高畠町新庁舎建設

■高畠町新庁舎建設(高富町公式YouTubeチャンネル)■
https://www.youtube.com/playlist?list=PLIkLH3KNGiikvqESWgbATajKhZ_mA59br
■山形県立米沢工業高等学校 専攻科■
https://homesenko.wixsite.com/htdocs

5)バーチャル物産展:uyet(東京都渋谷区)

同社では、オンライン上で食品の生産者やメーカーが出店し、VTuberやVライバー(配信者)などのバーチャルキャラクターが出店ブースの売り子として商品やサービスをアピールするバーチャル物産展を展開しています。

イベント形式にすることで若年層の集客を図ることができたり、ライブコマース形式によってバーチャル物産展を訪問したユーザーに商品の魅力を最大限に伝えられたりするといった点が特徴です。

■uyet「バーチャル物産展」■
https://uyet.jp/service/virtualfoodfair/

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3 自社でVTuberを始めよう

1)アバターを用意する

VTuberを起用するには、まずは2Dモデルもしくは3Dモデルのアバターを用意します。2Dモデルと3Dモデルにはそれぞれ次のような違いがあります。

2Dモデルと3Dモデルの違い

3Dモデルの方が動作の自由度が高い反面、専用の機材の用意が必要になるなど、初期投資のハードルも高くなります。そのため、

まずは安価で用意できる2Dモデルで始めて、人気が出てきたり、操作に慣れてきたりしたら3Dモデルの切り替えを検討してみる

のがよいでしょう。

2)アバター作成の流れ

ここでは、PCソフトで2Dモデルのアバターを用意する場合の一般的な手順を紹介します。

1.キャラクターデザインを決める(イラストを作成する)

「Adobe Photoshop」や「CLIP STUDIO PAINT」などのペイントソフトを用いてキャラクターの基となるイラストを作成します。イラストは、全身もしくは上半身のバストアップと併せて、表情を変えたり動かすことができるようにしたりするために、髪や口、目など、体のパーツに分かれた画像も必要です。自前でイラストを作成することが難しい場合は、外部のイラストレーターに作成を依頼するのも1つの手段です。

なお、後述するモデリング(作成したイラストを動かすための準備)には、イラストのファイル形式をPSD形式にしておく必要があります。

2.用意したイラストを基に、2Dのモデルを用意する(モデリング)

作成したイラストに動きを付けるための作業です。モデリングにはさまざまなソフトがありますが、例えば「Live2D」があります。

個人のユーザーや年間の売上金額が1000万円未満の小規模事業者であれば商用・営利目的の無料版Editor(Cubism Editor FREE)を使うことができます。年間売上が1000万円以上の企業が商用・営利目的で使用する場合は、有料版のCubism Editor PROを購入する必要があります。

無料トライアル版や、動作をテストするためのサンプルデータ集をダウンロードすることもできるため、無料トライアル版で操作に慣れた後に有料版を導入するとよいでしょう。

■Live2D Cubism■
https://www.live2d.com/

3.トラッキングソフトを使って、モデルを動かす

トラッキングソフトとは、PCのウェブカメラで読み取った人の表情や動きをVTuberアバターに反映させて動かすために必要なソフトです。

主なトラッキングソフトには「VTube Studio」「nizima LIVE」「Animaze」などがあります。トラッキングソフトもソフトによっては、商用利用の場合に有料版のプランへの加入・ソフトの購入が必要なケースがありますので、注意が必要です。

■VTube Studio■
https://store.steampowered.com/app/1325860/VTube_Studio/?l=japanese
■nizima LIVE■
https://docs.nizima.com/promotion/nl92316/
■Animaze■
https://store.steampowered.com/app/1364390/Animaze_by_FaceRig/?l=japanese

3)外部に作成を依頼する場合

アバターの作成を自社で進めるのが難しい場合は、次のような企業に相談することができます。企業によっては、既に自社で用意してあるイラストを持ち込んで、それにモデリングをするなど、一部の工程のみを依頼できる場合もあります。

1.ジーアングル(東京都渋谷区)

2Dキャラクターデザイン制作やバーチャルコンテンツ事業を手掛ける同社では、個人向けに限らず、法人向けのアバターのイラスト制作のモデリングの実績があります。

同社ウェブサイトによると、キャラクターデザイン案の持ち込みや、作成したアバターの衣装変更といったアップデートまで幅広く対応できるとしています。

料金は、キャラクターデザイン作成が12万円~、Live2Dモデリング・セットアップが30万円~(等身大キャラクターの場合)となっています。

■ジーアングル■
https://www.g-angle.co.jp/

2.Too(東京都港区)

画像処理機器の開発・製造・販売などを手掛ける同社では、企業向けにVTuberビジネス活用を提案しています。

同社ウェブサイトによると、キャラクターデザインを自社で用意した上で、Adobe Character Animatorを活用し、VTuberとしてポーズや動きをとれる状態にする制作プランで40万円~の料金となっています。

また、活用例として、自社メディアでの情報発信に限らず、展示会や店舗での接客、プレゼンテーション時の発表者としての提案も行っています。

■Too■
https://www.too.com/

4 参考:押さえておきたい法律

1)著作権法

著作物などに関する著作者等の権利を保護するための法律です。アバターに使用するイラストやモデルを他者に依頼して制作してもらった場合、原則として作成されたイラストやモデルの著作権は作成者が持つことになります。

そのため、他者に制作してもらったアバターを用いて活動する際には、制作者との間で著作権の譲渡を受ける契約を結ぶなどの方法で、アバターの使用に際して著作権侵害が生じないように対応する必要があります。

2)商標法

事業者が自社の取り扱う商品やサービスのロゴや名称を保護するための法律です。アバターの名称や外観を保護するために必要になります。特許庁へ商標を出願して商標登録を受けることで、他社が同じ名称などを無断で使うことを防止できます。

なお、VTuberの名称に関して、実在の人物名などを商標登録することはできないため、命名にも注意が必要です。

3)不当景品類及び不当表示防止法(景表法)

商品やサービスの品質、内容、価格などを偽って表示することを規制するとともに、過大な景品類の提供を防ぐために景品類の最高額を制限するための法律です。

例えば、動画の視聴者に対して商品をプレゼントする場合に、提供できるプレゼントに限度額が設けられる場合がありますので、注意が必要です。また、実際の商品・サービスよりも著しく優良なものと消費者に誤解させるような表現をしないように注意を払う必要があります。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2023年12月8日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

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