書いてあること

  • 主な読者:自社商品の認知度向上などのために協会の設立を検討している企業の経営者やマーケティング担当者
  • 課題:協会の設立・運営に必要なノウハウや知識がない
  • 解決策:さまざまな業種の企業や団体が設立した協会の事例や関係者へのヒアリングなどに基づき、協会を設立するメリットや、運営上の注意点などを紹介

1 注目される協会の設立

世の中には、数多くの「○○協会」が存在していて、その数はおよそ約2万9800件に上ります(2019年6月12日時点の国税庁法人番号公表サイト検索結果)。協会の設立主体はさまざまで、中小企業や個人事業主が設立するケースも増えています。

なぜ、協会の設立が増えているのでしょうか。それは、協会の設立によって自社のビジネスが成長していく可能性があるからです。協会を設立することのメリットや運営上の注意点をまとめます。

2 協会を設立する3つのメリット

1)認知度の向上

協会として活発に活動し、周囲の注目が集まれば、自社や商品の認知度を向上させられる可能性があります。

金沢市農産物ブランド協会は、加賀野菜や金沢の風土を生かして生産された農産品の普及を目的として設立されました。協会の前身は、加賀野菜の消滅を懸念した金沢市内の種苗店が中心となって、生産者や流通業者が発足させた加賀野菜保存懇話会です。その後、行政も巻き込んで協会が誕生しました。

生産者は品質の維持や生産ロットの確保、流通業者は販売先の拡充やネットワーク化、行政はPRや若い生産者を育成するための金沢農業大学校の開校などに注力することで、徐々に知名度を獲得していきました。

大手ビールメーカーのCMで加賀野菜を食べるシーンが使われたり、金沢市内で加賀野菜を扱う店舗が増加したりなどの効果がありました。

2)信頼性の向上

協会に対して「由緒が正しい、しっかりしている」というイメージを持つ人は少なくないため、協会を設立して自社の考え方や商品を普及させることができます。

日本ネットワークセキュリティ協会は、中小企業を含む情報セキュリティーを手掛ける企業などによって設立されました。設立メンバーとなった企業などは協会設立前から個別に情報漏洩対策などの重要性を訴えてきましたが、理解が広がらなかったことから危機感を共有する企業が集まり、協会設立後は経済産業省や情報処理推進機構から、企業のセキュリティー対策を促進する事業を受託するなどの実績を重ねています。

現在、情報セキュリティー対策の分野では、協会のガイドラインが参照され、設立メンバーが情報セキュリティー対策の第一人者などとして紹介されています。

3)規模の拡大

協会を設立して会員を集めることで、自社単独では難しい活動に取り組むことができます。

シェアリングエコノミー協会では、全国の自治体と連携して、シェアリングシティの取り組みを進めています。

シェアリングシティとは、子育て支援や空き家の活用など地域の課題解決にシェアリングサービスを利用する取り組みで、地域住民の満足度向上、移住の促進などにつながる可能性があり、欧米などでも注目されています。

自治体は、協会会員企業のシェアリングサービスを2つ以上導入しているなど、定められた要件を満たすと、協会からシェアリングシティとして認定され、シェアリングサービスを積極的に利用していることをPRできます。

協会の会員は中小企業や若いベンチャー企業が多いことなどを考えると、企業単独で自治体に営業するよりも、協会として自治体にアピールすることで引き合いの機会が増えると考えられます。

3 協会の運営がうまくいかないのはなぜ?

前述の通り、協会の設立には一定のメリットがあります。一方、協会を設立したものの、会員が集まらない、活動が盛り上がらないなど運営面での課題を抱え、活動が停滞している協会が少なくないのも事実です。

その理由としては、協会の理念が不明確である(メッセージ性が弱い)、ほとんど活動していない、そもそも協会を通じて広めたい考え方や商品に力がないなどさまざまです。

また、資格取得などを通じて独自の考え方や商品を普及させる協会の中には、受験料や登録料などの徴収が事実上の目的となっているところがあり、本来の活動がおろそかになっていることがあります。これでは、会員は協会の魅力を感じることができません。

こうなった場合の問題は、協会の活動が停滞することだけにとどまりません。協会に信頼感を持つ人が一定数いるのと同様に、“うさん臭さ”を感じる人もいます。ネガティブなイメージを持たれた場合、企業本体のブランドを毀損するリスクもあります。

協会の設立には相応の準備が必要です。また、設立後も活動のための時間を確保しなければなりません。具体的にどうするべきなのか。数多くの協会の設立・運営などのコンサルティングを行う協会総研などにヒアリングした結果を次章で紹介します。

4 協会を盛り上げるために必要な考え方

1)重要になる理念

協会の理事長や会長を務める経営者は、協会がどのような価値観を大切にし、何を目指しているのかを打ち出した理念を掲げる必要があります。また、理念は経営者が考える価値観や目的を反映したものですが、その内容は多くの人に伝わるようにかみ砕いた言葉としなければなりません。これは簡単ではないため、時間をかけた検討が必要です。

2)多くの時間を割かなければうまくいかない

会員を集めるためには、積極的なPRが必要ですが、どのPR方法が効果的かなどは一概にはいえないため、でき得る限りのことをやっていきます。

既存の顧客や取引先に案内する、各地でイベントやセミナーを開催し受講者を集める、イベントを開催するたびにプレスリリースを打つ、協会の事業内容に関連したコンテンツを掲載するサイトを制作して、メールマガジンの会員を集めるなどの方法があります。

こうした取り組みには、企画や準備を含めて多くの時間がかかり、多忙な経営者にとっては負担となりますが、「理事長の活動への思いに共感した」「会長が親身に相談に乗ってくれた」など、トップに魅力を感じて、入会する人も少なくありません。

経営者がトップを務める場合、本業に割かなければならない時間以外は、全て協会の活動に充てるというくらいの姿勢で取り組む必要があります。

3)トップには巻き込み型のリーダーシップが求められる

トップには積極的に協会の運営に携わっていくことが求められますが、巻き込み型のリーダーシップを心掛けなければなりません。

協会の活動内容などは、会員の意見を取り入れて決定することが望ましいといえます。こうした合意形成には時間がかかるため、一部のトップは、思わずトップダウンで指示や決定をしてしまうことがあるようです。しかし、これでは不満を持つ会員も出てきます。上からの指示・決定ではなく、会員とともに話し合いながら、協会を導く意識が重要です。

4)協会とビジネスは似て非なるもの

ビジネスの場合、顧客に商品をPRするのであれば、商品を利用することで問題を解決できるなどと、メリット面を訴求します。しかし、協会の場合はこうした訴求が逆効果になることもあります。

会員は会費を支払うなど、協会の収入に貢献する存在で、顧客とは異なります。会員は「会員となることで自身が成長できる」「同じ関心や志を共有できる仲間がいる」などの理由から協会へ入会することも少なくありません。

メリットを前面に出した訴求や顧客扱いといった、通常のビジネスと変わらないアプローチでは、自分が求めている協会とは違う、資格さえ取得すれば、その後は協会と積極的に関わる必要はないなどと感じて、会員の脱会につながりかねません。

5)協会と会員、会員同士のコミュニケーションの場を設ける

協会を存続させていくためには、会員の満足度を高める活動によって、収益を上げることが欠かせません。しかし、年に1度、会員の更新時期にのみ連絡をするだけで、その他は協会側から積極的に会員にアプローチしていないなどの場合、脱会につながります。

これを避けるためには、会員と定期的に面談の場を設けて、会員の関心に応じた資格の生かし方、協会の活動への携わり方などについてアドバイスするとよいでしょう。

また、資格制度を設けていない場合も、部会や交流会など会員同士が交流できる場を設けることが有効です。

5 協会の設立方法

1)法人格は関係ない

法人格のない任意団体であっても、株式会社であっても「協会」を名乗ることができます。ただし、任意団体の場合は対外的な信用度が低いこと、株式会社の場合は営利を追求するビジネスライクな印象が強いといったことから、基本的には一般社団法人や特定非営利活動法人(NPO法人)による設立が好ましいとされています。

協会の主な設立方法は次の通りです。

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2)一般社団法人とNPO法人のどちらがよいのか

一般社団法人のメリットは、目的や事業などに制約がなく、設立や運営などの手続きが比較的簡単なことです。ただし、基本的に課税対象は全所得となります(税法上の非営利型法人の要件を満たす場合や、公益認定を受けた場合の課税対象は収益事業に係る所得のみとなります)。

NPO法人のメリットは、設立費用が無料であることや、課税対象が収益事業に係る所得のみなど、税制面での優遇があることです。ただし、目的や事業内容などに加え、設立に必要な人数が一般社団法人に比べて多いなど、設立に際して多くの制約がある他、所轄庁に設立の申請をした後、登記までに4カ月程度の時間を要します。設立後も所轄庁への事業報告や情報公開などが義務付けられています。

一般社団法人、NPO法人の双方の設立方法とも、一長一短があります。目的や事業内容などを念頭に、どちらの設立方法がよいのかを税理士などの専門家と相談し、検討するとよいでしょう。

以上(2019年7月)

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画像:pixabay

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