書いてあること
- 主な読者:サブスクリプションを導入して収益を安定させたい経営者
- 課題:サブスクリプションを成功させるポイントが分からない
- 解決策:新規顧客の獲得、解約率(チャーンレート)の低下、顧客単価の引き上げが重要
1 サブスクで日々の売り上げに一喜一憂しない
小売業などでは、日々の売り上げにバラつきがあることが経営上の大きな課題です。これを解決する手法として注目されるのが「サブスクリプション」(以下「サブスク」)です。サブスクとは、
販売数量に関係なく、顧客と継続的に契約する方式の販売手法であり、簡単にいうと「継続購入」
です。サブスクを取り入れたサブスクビジネスには、新聞紙の定期購読などがあります。近年はサービス領域が広がっています。
サブスクビジネスのメリットには、
- 商品・サービスを1つずつ販売する労力を大幅に軽減できる
- 年度当初から年間の売上高が予測できる
- いったん新規顧客を獲得すると、解約されない限り、安定的に売り上げを確保できる
- 顧客データを活用し、提供サービスの精度を高められる
などがありますが、これらを享受するために、
新規顧客の獲得、解約率(チャーンレート)の低下、顧客単価の引き上げ
が必須となります。この記事では、サブスクビジネスで成功するためのポイントをご紹介します。
2 サブスクビジネス成功の第一歩はLTVを理解すること
サブスクビジネスの最重要指標は、
LTV (Life Time Value):顧客生涯価値
です。LTVは、
顧客単価×購入頻度×継続購入期間
で求められます。ただ、サブスクビジネスでは購入頻度が一定なので、この要素は除外します。このLTVに顧客数を掛け合わせた数字が年間定期収益です。このため、サブスクビジネスで年間定期収益を増やすためには、冒頭で紹介したように次の3つの取り組みが大切になります。
- 新規顧客の獲得
- 解約率(チャーンレート)の低下
- 顧客単価の引き上げ
3 新規顧客の獲得
1)無料・お試しキャンペーンを実施する
「試しに利用してみよう」と思ってもらうために、一定期間の無料・お試しキャンペーンを展開する例があります。例えば、Amazon Primeは「お試し期間」として、30日間、無料で利用できます。気に入らない場合は期間内に解約すれば料金はかからないため、契約のハードルは低くなります。無料にするのが厳しい場合は、初回半額や最初の1カ月間は40%OFFといった特典が考えられます。
2)契約手続きをシンプルにする
契約のハードルを下げるために、少ない項目で会員登録できるようにするなど、手続きを簡素化することが大切です。購入理由などたくさんのことを聞きたいところではありますが、手続き中の離脱のリスクが高まりますので、設問は2~3問程度にとどめる、回答方法は選択式だけにするなどの工夫をします。
3)家族や友人・知人の紹介特典を用意する
ポイントや割引などの紹介特典を用意して、既存会員に家族や友人・知人を紹介してもらいます。紹介する側・される側の双方が得をするような設計が大切です。
4 解約率(チャーンレート)の低下
1)顧客の行動履歴やニーズを分析する
顧客の行動履歴やニーズを分析します。注目すべきデータは、ウェブページへのアクセス数や滞在時間、商品・サービスの契約数、顧客ごとの購入金額、契約継続期間などです。これらを性別や年代といった属性ごとに分析することで、深掘りするのも有効です。データを分析していくと、休眠状態になりやすい顧客や、解約しやすい顧客の特徴も明らかになってきます。
2)顧客にマッチする商品やサービスを提案・提供する
データ分析の結果を活かして、顧客に合った商品・サービスを提供します。例えば、商品Aの利用者は商品Bも利用する傾向がある場合、商品Aだけの利用者に商品Bを提案するなどします。
3)契約の自由度を高めて縛りをなくす
サブスクビジネスの前提は継続的な契約ですが、逆に短期の解約や、利用の一時休止を認めることで、顧客満足度の向上につなげる例もあります。例えば、チョコレートのゴディバが毎月提供するスイーツの定額購入では、1カ月の配送を中止する「スキップ」ができます。また、Netflixではしばらく利用していない休眠会員に対して、契約の継続確認を促し、反応がなければ解約をする取り組みを導入しました。
5 顧客単価の引き上げ
1)サービスプランを多様にそろえる
複数のサービスプランや料金プランを設定すれば、顧客のニーズを満たすことができます。また、1つ上の料金プランに変更を促す「アップセル」も見込めます。例えば、3つの料金プランを設定し、「松竹梅の法則」が効力を発揮した場合、多くの顧客を真ん中の料金のプランに誘導することもできます。ただし、あまり複雑にすると顧客管理が大変になります。
2)優良顧客への特典を付与する
いわゆる「ロイヤルティー・プログラム」を実施します。購入額の多さや、友人の紹介数などによってポイントを付与したり、顧客をランク分けしたりします。顧客をランク分けする場合、上位にランクされた顧客に対して、価格面や特典などで優遇することは、優良顧客を育成することにつながります。
6 サブスクビジネスの4つの注意点
1)収益化するまで時間がかかる
通常、サブスクビジネスでは客単価は低く設定されるので、一定の顧客数を確保しなければ収益はプラスになりません。資金回収までの期間、利益が出せるようになるタイミングを試算しておきましょう。また、収益化するまで資金の手当てについても検討しておく必要があります。
2)都度購入者のサブスク移行で一時的に収益が減少する
既存サービスをサブスクビジネスに移行する場合、既存顧客はサブスクの単価となり、一時的に収益が減少する恐れがあります。このような場合、ヘビーユーザーだけにサブスクを提案するといった方法も考えられます。
3)幅広い業種の企業が競合になる
顧客はサブスクを継続的な「固定費」と認識します。その固定費が多額になると大きな負担となるため、「動画や飲食などのサブスクの負担を毎月5000円以内に抑える」といったように、上限を設けることが考えられます。この場合、動画と飲食という異業種の競合が生じます。
4)サービスの継続的な改善が必要
サブスクビジネスは増えており、契約までのハードルも比較的低いため、顧客は気軽に別のサービスに乗り換えます。顧客離れを防止するには、競合の観察や自社データの利活用により、サービス内容を継続的に改善していくことが必要です。
以上(2022年5月)
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画像:unsplash