書いてあること

  • 主な読者:地域社会に貢献したいと考えている経営者
  • 課題:地域の防災を担って社会貢献したいが、労力も費用も多くはかけられない
  • 解決策:自社の社員を守るための災害対策を地域住民向けに拡大する、駐車場を避難所に提供するなど、自社が保有するインフラや事業の延長線上で可能なことから始める

1 地域の防災を担って社会貢献を

いつも自分たちがお世話になっている地域のために、地元企業としてできることをしたい。そう考えている経営者は多いはずです。一方、「社会貢献」「地域貢献」というと、何か壮大で難しい、すぐにはできそうもないと感じるかもしれません。そうした経営者の方には、

災害時に地域貢献できるように、準備をする

ことをご提案します。

これは地域住民の命を守る取り組みであり、かなり重要な社会貢献です。しかも、次のような取り組みであれば日頃の活動の延長線上でできるので、それほど敷居は高くなく、かつ費用負担も抑えられるでしょう。

  • 社内向けの防災活動を地域住民向けに拡大する
  • 自社の事業の延長線上で可能なことから防災活動を行う

さらに、やり方によっては、自社のビジネスの成長につながる可能性もあります。

そこでこの記事では、防災システムの開発、民間による緊急避難所の認定事業、防災の資格普及・運営事業などを行っているBOSAI SYSTEMの新妻健将社長へのインタビューから、中小企業が少ない費用負担で地域の災害対策に貢献するための方法を紹介します。

2 社内向けの防災活動を地域住民向けに拡大する

それでは、取り組みやすい地域の防災を担う方法として、まずは「自社の社員を守るための防災活動を地域住民向けに拡大すること」をご紹介します。

基本的にどの経営者も社内の防災には関心があり、準備をしているか、しなければと考えているでしょう。まずは、自社の社員を災害から守るための活動を進めていけば、その延長線上で地域社会に貢献できることがあります。

1)社員のための防災用品の備蓄の拡充

企業にとって最低限の防災活動は、社員分の防災用品の備蓄や、避難ルート・避難場所の確保です。例えば、地域住民のことを想定し、備蓄を多めに用意しておいてもよいでしょう。また、リモートワークを導入しているのであれば、災害時にオフィスにいない社員の分の備蓄を地域住民に提供できるような規定を設けるのも一策です。

2)防災に関する資格を利用して地域住民を啓発

災害時に社員を無事に避難させられる確率を高める第一歩としては、社員に防災教育を受けさせることをお勧めします。例えば、震度7以上の地震が発生してカオスな状況になってしまうと、7割以上の人が硬直して何もできなくなってしまい、適切な避難行動が取れるのは1割程度というデータもあります。防災教育を受けて、「いざというとき、人間はなかなか動けない」ということを知っているだけでも違うと思います。NPO法人日本防災士機構が認証する「防災士」という資格がありますし、当社(BOSAI SYSTEM)でも、一般社団法人日本防災教育振興中央会が新しく発行した、「緊急時避難誘導責任者(誘導員)」という資格制度を運営しています。

このような資格取得を利用して、防災に関する講習やセミナーに地域住民の方々をお招きすれば、防災意識の啓発につながるでしょう。講習やセミナーをきっかけに、新たな顧客の開拓につながる可能性もあるかもしれません。また、集客施設などは、利用者に「施設内に緊急時避難誘導員がいる」ことを知ってもらえば、安心感を与えることができます。実際に、有事の際に来店者を適切に避難誘導できるよう、資格を取得したフラワーショップの経営者の方もいます。

この他、リモートワークをしている社員がいる場合は、在宅勤務中の社員を守るFCP(Family Continuity Plan、家族継続計画。災害時に家族の集合場所を決めておく、など)も必要になってくると思います。こうしたノウハウも、地域防災への貢献に役立つでしょう。

3 自社の事業の延長線上で可能なことから防災活動を行う

1)事業内容や企業の特徴を活かした防災活動を

自社の事業や特徴を活かし、その延長線上で地域の防災活動を担うことも可能です。

例えば、製造業者や小売店、飲食店であれば、原材料や製造・販売している商品を、災害時に地域住民に提供できるかもしれません。私たちが2021年6月に事業提携した小型電気商用車メーカーは、ショールームを、電源供給特化型の民間緊急避難所として認定しました。災害時には、ショールーム内の電源や、展示している小型電気商用車に蓄電してある電気を地域住民に提供することを想定しています。

災害時は展示している小型電気商用車に蓄電してある電気を地域住民に提供

また、2022年5月に設立した一般社団法人の「EV100ラストワンマイルを実現する会」は、災害時に地域貢献することを目指す配送事業者の集まりです(新妻氏が理事)。配送車は電気自動車ですので、災害時には移動型の電源供給ステーションとなります。さらに、配送車には救護用品を装備し、ドライバーや作業員は緊急時避難誘導員の資格を取得していますので、地域住民の避難や救護活動にも貢献することができます。

自社の事業や特徴を活かした地域のための防災活動の一例

2)各企業ができる防災活動が集まれば大きな力に

それぞれの企業が、おカネや時間をあまりかけずにできる防災活動を組み合わせていければ、大きな力になると思います。理想的なのは、中小企業のそうした取り組みが多く出てきて大きなムーブメントになることです。「隣の会社はここまで防災活動をしているから、うちはここまでやろう」といった感じで、企業間で切磋琢磨(せっさたくま)していくようになればいいなと思っています。

いずれにしても、いざというときの備えを地域住民の方々に役立つようにするには、普段から地域住民の方々に、「うちの会社はこのようなことをしています」ということをお伝えしたほうがよいと思います。結果的に、自社のPRにもなるでしょう。

4 改めて確認しておきたい中小企業が地域の防災を担う意義

1)災害への危機意識が低い日本人

日本は地震、台風、豪雨などが多発する、世界でも有数の災害大国です。それにもかかわらず、今の日本人は、災害に対する危機意識が低いように感じます。

その大きな理由は、戦後の日本の義務教育に、防災教育がなくなってしまったことです。海外では防災教育を行うのが一般的なのですが、日本で正しい防災教育を受けているのは、戦前の世代の人たちしかいません。このため日本人は、実際に被災をしないと、危機意識が生まれにくくなっているのです。

私も子供の頃、たまに行った避難訓練で、「地震が発生したら机に隠れて防災頭巾を被りましょう」と教わった記憶しかありません。本来は、巨大地震が発生したときに机の下に潜ろうとすると、机ごと吹き飛ばされてけがをする可能性があります。救助が行き届かないような大災害の場合は、まず「けががなく生き残る」ことが大切ですので、まずは正しい姿勢(ゴブリンポーズといいます)でしゃがみ、揺れが少し収まるのを待って危険な場所から離れるのが正しい防災教育です。

2)災害時に頼れるのは自助と共助。公助は来ないと考えておくべき

日本人は、大震災が発生したら、すぐに自衛隊や救急隊が助けに来てくれると思っている人が多いと思います。ですが実際は、交通網が遮断されていますし、救助チームに比べて被災者の数が圧倒的に多いので、「公助」が来る確率はゼロだと考えるべきです。

1995年1月に発生した阪神・淡路大震災では、生き埋めや閉じ込められて救助された人のうち、救助隊に助けられた人は2.6%だったというデータもあります(日本火災学会「1995年兵庫県南部地震における火災に関する調査報告」)。首都直下地震が発生したと仮定した際に、負傷者を救助するために「公助」が来る確率は、自衛隊の初動対処部隊「FAST-Force」が0.26%、救急車が0.25%、消防車が0.34%、パトカー・白バイが1.5%とされています(一般社団法人日本防災教育振興中央会調べ)。

本来は、全ての国民が正しい防災教育を受けて、危機意識を持ち、「自分の身は自分で守る。家族や大切な人が被災したら、自分が助ける」という感覚を持っているべきです。そして、全ての国民が災害に備えて、防災用品の備蓄や家具の倒壊防止はもちろんのこと、止血の方法や骨折時の対応までできるようになっておくことが理想です。

とはいえ、こうした災害に対する危機意識がなかなか国民に浸透しない以上、SDGsのように、国連、政府、大企業といった“上から”の流れで、地域に根付いた中小企業にまで災害時の備えが広がっていくことが現実的な対応だと思います。

5 継続した取り組みにするために知っておきたいこと

1)社会貢献の訴求力が高い「地域の住民の命を守る」取り組み

社会貢献に取り組む際にあまり「メリットは何か」とは言いにくいかもしれませんが、継続して取り組めるようにあえて明らかにしておきましょう。まずは、防災に限らず、一般的な社会貢献活動と同じものです。月並みですが、以下の3つがあるでしょう。

  • イメージアップが図れる「ブランディング」
  • 社会性の高い企業で働きたいと考える若い人材を確保できる「人材採用」
  • メディアに取り上げられるなどの「PR効果」

しかも、防災という取り組みは、一般的な社会貢献活動と比べて、上記の3つのメリットをより享受できるはずです。なぜなら、防災に関する活動は、人命に直接関わる取り組みだからです。「地域の住民の命を守りたいから、この取り組みをしている」という理由付けは、非常に高い訴求力を持っていると思います。被災経験のない人には通じにくい部分があるかもしれませんが、不幸にも災害が発生してしまったときは、地域住民にお役立ていただけることは間違いありません。

2)地域の防災力の強化によって復興までの期間を短縮させる

防災を行う目的は、助けられる命を助けることはもちろんですが、災害後の復興までの期間を短縮させるということも大きいです。2011年3月に発生した東日本大震災は11年以上がたちますが、被災地はまだ完全には復興していません。

今後、日本のさまざまな地域で大震災が発生する可能性があるといわれているのに、大震災が発生するたびに復興まで10年、15年かかる、ということを繰り返しているわけにはいきません。復興までの期間が長くなるということは、経済活動の再開も遅れるということですから、地域社会にとっても、地域に根付いた中小企業にとってもマイナスです。

復興までの期間を短縮させるには、先ほどお話ししたように、「自分の身は自分で守る」という意識を前提にした、人的・物的な被害を最小限に抑えるための日頃の備えしかないと思います。つまり、地域の防災力を強化することは、中小企業自身にとってもメリットになるわけです。大震災は日本のさまざまな地域でいずれ発生するといわれているわけですから、地域の防災力の強化は、保険と同じような感覚を持ってよいのではないでしょうか。

3)何より大切なのは、地域社会に貢献したいという「思い」

とはいえ、中小企業が地域の防災に取り組むには、まずは何よりも、地域社会に貢献したいという「思い」がないとできません。

災害時に、皆で助け合えば、助かる命がたくさんあるはずです。ちょっとの余力をちょっとずつ集めていくことで、互いに助け合う風土づくりが実現できるでしょう。それが、地域の防災力につながっていくのだと思います。

【著者紹介】
新妻健将(にいづま けんすけ)
新妻健将(にいづま けんすけ)
青山学院大学経営学部卒業後、みずほ証券株式会社本店営業部入社。新規開拓営業、コンサルティング営業に従事。その後、運送会社の起業で独立し、複数の事業の立ち上げを経験。2021年4月「救えるはずの命を救う」ことを目的に、BOSAI SYSTEM株式会社設立。代表取締役就任。一般社団法人 日本防災教育振興中央会 副事務局長。株式会社EVA取締役。一般社団法人EV100ラストワンマイルを実現する会理事。国連NGO JACE 上席研究員

以上(2022年9月)

pj80135
画像:sogane-shutterstock

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