書いてあること
- 主な読者:事業承継において「経営理念」などをしっかりと引き継いでいきたい経営者
- 課題:目に見えにくいものであるため、どのように承継するか迷ってしまう……
- 解決策:後継者教育、体制の整備、自社の把握、それぞれの取り組みの中で承継していく
1 知的資産の承継で「仏造って魂も込める」
事業承継の対象で「知的資産」と呼ばれるのは、
「経営理念、経営者の信用」など業種や規模に関係なく全ての会社にある競争力の源泉
です。事業承継において、人や資産を承継して器をつくっても、知的資産が承継されなければ「仏造って魂入れず」の状態に陥ってしまうため、経営者は知的資産を確実に承継しなければなりません。目に見えにくい知的資産の取り扱いは難しいのですが、例えば、
- 後継者教育を通じて承継すること
- 体制の整備で承継すること
- 自社の把握によって明らかにし、承継すること
と整理すれば分かりやすいです。以降で順番に確認していきます。
2 後継者教育を通じて承継する知的資産
後継者教育を通じて承継する知的資産には、
「経営理念、組織力、経営者の信用」
があります。このうち経営理念については、
「事業承継とは【経営理念】の承継である」
と言う経営者がいるくらい、とても大切です。経営理念とは、会社の理想の姿であり、向かうべき目的地でもあります。経営理念がなければ、会社はまとまりがなく、また、向かうべき目的地も定まらないまま空中分解してしまうかもしれないからです。
経営者には、「どのような会社にしたいか」という理想や、大切にしたい価値観があります。これは、経営上の意思決定において最も基本的かつ重要な指針であり、「会社らしさ」です。経営理念のように明文化されたものばかりではなく、暗黙のうちに組織内で共有されているものもあるので、経営者はきちんと言語化し、後継者に伝えましょう。
この経営理念という力強い大黒柱があるからこそ、組織力が発揮され、経営者の対外的・対内的な信用につながるわけです。一方、「経営理念がない」という会社があるかもしれませんが、正しくは「経営理念として明文化していない」だけのことです。事業承継を機に後継者の思いも踏まえた経営理念を明文化し、社内に共有してください。
3 体制の整備で承継する知的資産
体制の整備で承継する知的資産には、
「社員の技術や技能、ノウハウ、取引先との人脈、顧客ネットワーク」
があります。
1)社員の技術や技能、ノウハウ
まず、社員の技術や技能、ノウハウについてですが、これは会社内の職務分析を通じて明らかにする必要があります。日々、社員が当たり前のように提供してくれるので気付きませんが、他社からうらやましがられるような素晴らしい技術や技能が自社にはあります。それをきちんと棚卸ししてください。
そして、ここが重要なのですが、
社員が「ヘソを曲げる」と技術や技能は十分に発揮されず、最悪の場合は社員の離職によって社外に流出する
ことです。残念ながら事業承継によってやる気を失う社員や離職する社員が出てくると思います。高い技術を持つ社員が反目に回っては困るので、必ず事前にケアしてください。
一体感を高めるためには、全社的な取り組みとして会社の強みを棚卸しします。そして、その強みが価値の源泉であることを社員に伝え、「誇り」を持ってもらいます。また、事業承継にあたり、後継者を中心とする経営チームをつくることがありますが、重要な技術を所管する責任者を経営チームに加えることも検討します。
2)取引先との人脈、顧客ネットワーク
会社経営では、社内外との良好な関係が欠かせません。とはいえ、経営者が長年にわたって培ってきた信頼関係は、「後継者」という立場だけで自動的に引き継がれるものではありません。そこで経営者は、
後継者が、「社内の幹部、金融機関、取引先」とのコミュニケーションを深める場をセッティング
しましょう。例えば、経営者が頼りにしている社内の幹部と後継者を一緒に仕事させれば、互いのことがより深く理解できます。また、社外については金融機関や取引先などとの会談、会合に後継者を同席させ、必ず発言させるようにします。ここで重要なのは、主役はあくまでも後継者ということです。「まだまだ若くて、私が見ていないと……」と、経営者は後継者をフォローするつもりで言っているかもしれませんが、そんなことよりも後継者が真っすぐ話したほうが相手に伝わります。
4 自社の把握によって明らかにし、承継する知的資産
自社の把握によって明らかにし、承継する知的資産には、
「知的財産権、許認可」
があります。他の知的資産に比べると、最も分かりやすいものである半面、専門的なものなので、必要に応じて専門家に相談しながら整理しましょう。知的財産には、特許や商標などさまざまなものがありますが、著作権を除けば、権利化しないと守れません。そのため、
まだ権利化していない知的財産があれば、事業承継を機に、権利化を検討する
ことが大切です。
また、許認可については有効期間を確認しながら一覧にし、更新に抜け漏れがないようにしなければなりません。その際、
- Pマークなど会社が取得しているものと、その担当者
- 社員が取得している資格
の両方を整理することが大切です。
以上(2024年5月更新)
pj80116
画像:Mariko Mitsuda