書いてあること

  • 主な読者:自社に適用される自社株の評価方式の計算内容を知りたい経営者
  • 課題:評価方式が幾つもあり、それぞれ計算式が複雑で分かりにくい
  • 解決策:評価方式は4種類。専門家に相談して自社に適用される評価方式の基本を把握する

1 評価方式は株主区分や会社規模で異なる

上場していない会社の株式は「取引相場のない株式等」といわれ、財産評価基本通達(以下「評価通達」)に基づいて税務上の評価をします。具体的な評価方式は次の通りです。

  • 原則的評価方式:類似業種比準方式、純資産価額方式、両者の併用方式
  • 特例的評価方式:配当還元方式

どの評価方式が適用されるかは株主区分(少数株主または同族株主でない株主であるか)や会社規模(従業員数、総資産価額、取引金額)で決まりますが、いずれにしても、

親族内承継ならば評価を低くしたいし、M&Aなら評価は高くしたい

ものです。実際、さまざまな方法で評価額の調整が行われますが、そのためには評価方式の内容を知っておく必要があります。

そこで、この記事では、それぞれの評価方式の計算式などを紹介します。なお、自社に適用される評価方式の決定方法や評価方式ごとの評価額の引き下げ方法については、以下の記事でまとめています。

30097 【自社株(2)】自社株の評価方式は会社規模と株主区分で決まる

80093 【自社株(3)】自社株の評価額を引き下げる方法

なお、以降で記述のある「大会社」「中会社」「小会社」は、評価通達に定められている会社規模の判定に基づいた会社区分です。例えば、ここでいう大会社は従業員70人以上の会社、または従業員数35人超で業種ごとに定められている一定以上の取引金額と総資産価額を有している会社をいいます。

2 類似業種比準方式(原則的評価方式)

1)類似業種比準方式の基本

類似業種比準方式は、大会社に適用される方式です。基本的な考え方は、

大会社を上場会社に準ずる規模とみなし、事業内容が類似している上場会社の株価を参考に算出した株価に比準して株式の評価額を求める方式

となります。具体的には、

国税庁が公表する業種目別株価に、評価する会社の1株当たりの「配当金額」「利益金額」「純資産価額」の3つの要素を比準して評価

します。なお、納税者の選択により大会社でも後述の純資産価額方式を選択することもできます。

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2)計算式の「A~D」の解説

A~Dの数値は、国税庁から発表されています。類似業種は、その業種目が小分類に区分されていたら小分類の業種目、そうでなければ中分類の業種目を選択します。ただし、納税義務者の選択により、小分類にある業種目については、その業種目が属する中分類を類似業種として選択できます。また、中分類にある業種目については、その業種目が属する大分類を類似業種として選択することができます。

3)計算式の「b」の解説

直前期末以前2年間の剰余金の配当金額(特別配当、記念配当等は除く)の合計額の2分の1に相当する金額を、直前期末における発行済株式総数(1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の発行済株式総数。以下の「c」「d」についても同じ)で除した金額です。

4)計算式の「c」の解説

次のいずれか低い金額です。

  • 直前期末以前1年間の法人税の課税所得(固定資産売却益などの非経常的な利益を除く)に、その所得の計算の際に益金に算入されなかった剰余金の配当等の金額(所得税額に相当する金額を除く)および損金に算入された繰越欠損金の控除額を加算した金額(その金額がマイナスならゼロ)を、直前期末における発行済株式総数で除した金額
  • ただし、納税者の選択により、直前期末以前2年間の各事業年度について、それぞれ法人税の課税所得を基に、上記に準じて計算した金額の合計額(その合計額がマイナスならゼロ)の2分の1に相当する金額を、直前期末における発行済株式総数で除した金額

5)計算式の「d」の解説

直前期末における資本金等の額と利益積立金額(法人税申告書別表五(一)の「差引翌期首現在利益積立金額」)の合計額を発行済株式総数で除した金額です(マイナスならゼロ)。

3 純資産価額方式(原則的評価方式)

1)純資産価額方式の基本

純資産価額方式は、小会社に適用される方式です。基本的な考え方は、

評価する会社を個人企業に近いものと捉えて、原則として1株当たりの純資産価額によって評価する方式

となります。ただし、納税者の選択により中会社に適用される併用方式を選択することもできます。

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2)総資産価額

課税時期における会社所有の資産を、相続税評価額で評価した価額の合計額です。

3)負債の金額

課税時期における会社の負債の合計額です。貸倒引当金、退職給与引当金(旧法人税法第54条第2項に規定する取崩残高を除く)、納税引当金その他の準備金および引当金に相当する金額は含めませんが、次のものは含めます。

  • 課税時期が属する事業年度の法人税額、消費税、事業税額、都道府県民税および市町村税のうち、その事業年度開始の日から課税時期までの期間に対応する未払金額
  • 課税時期以前に賦課期日のあった固定資産税の未払税額
  • 被相続人の死亡により、相続人その他の者に支給することが確定した退職手当金、功労金、その他これに準ずる給与の金額

4)評価差額に対する法人税等に相当する金額

評価差額は資産の含み益で、これに「37%」を乗じて法人税額等を算出します。この37%は、清算所得に対する法人税等の税率の合計に相当する割合です。小会社であっても、株式である以上は会社の資産を所有することに変わりはなく、評価の均衡を図っています。

なお、含み損の場合は考慮しません。

5)発行済株式数

課税時期における発行済株式数(自己株式を除く)です。

4 併用方式(原則的評価方式)

1)併用方式の基本

併用方式は、中会社に適用される方式です。基本的な考え方は、

大会社と小会社の中間にある中会社に合わせ、類似業種比準方式と純資産価額方式を併用する方式

となります。下の計算式にある「L」の割合を見ると分かるように、中会社の大は類似業種比準方式の部分が多く、中会社の小は純資産価額方式の部分が多くなっています。

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議決権割合が50%以下の同族株主が取得した株式を評価する場合、算式中の純資産価額は20%の評価減が適用されます。

また、類似業種比準価額が1株当たりの純資産価額を超える場合の併用方式は、

純資産価額×Lの割合+純資産価額×(1-Lの割合)

となります。この場合、議決権割合が50%以下の同族株主が取得した株式については、上記算式の前半部分「純資産価額×Lの割合」の純資産価額に対する20%の評価減は適用されません。ただし、上記算式の後半部分「純資産価額×(1-Lの割合)」の純資産価額に対する20%の評価減は適用されます)。

2)小会社の併用方式の計算式

原則として、小会社は純資産価額方式が適用されますが、納税者の選択により併用方式を選ぶこともできます。この場合、次の1と2のいずれか低い方が評価額となります。

  1. 類似業種比準価額×0.5+純資産価額×0.5
  2. 純資産価額

なお、議決権割合が50%以下の同族株主が取得した株式を評価する場合、算式中の純資産価額は20%の評価減が適用されます。

5 配当還元方式(特例的評価方式)

同族株主以外の株主の株式の評価は「配当還元方式」で行います。ただし、その評価額が原則的評価方式を適用した場合よりも高いと、原則的評価方式が適用されます。つまり、

配当還元方式と原則的評価方式のいずれか低い方

ということです。

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  1. 1株当たりの年配当金額は、1株当たりの資本金等の額を50円として計算する
  2. 1株当たりの年配当金額は、直前期末以前2年間の平均値による
  3. 特別配当、記念配当等の臨時的に支払われた配当は除外する
  4. 1株当たりの年配当金額が2円50銭未満の場合、及び無配の場合は2円50銭とする

6 その他の留意点

1)株式保有特定会社の株式の評価

総資産価額に占める株式、出資、新株予約権付社債(株式等)の合計額が50%以上の場合、株式は純資産価額方式で評価します。なお、納税者の選択で、株式等は純資産価額方式で評価し、それ以外の財産は会社規模に応じた原則的評価方式により評価することもできます。

2)土地保有特定会社または開業後3年未満の会社の株式の評価

土地保有割合が一定以上の会社(土地保有特定会社)については、原則として純資産価額方式で評価します。なお、土地保有割合は会社の区分ごとに決められています。

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また、開業後3年未満の会社の株式は、純資産価額方式により評価します。

3)比準要素数1の会社や比準要素数0の会社の株式の評価

直前期末を基準に判定した「1株当たり配当金額」「1株当たり利益金額」「1株当たり純資産価額」のうち2つの要素の金額がゼロで、なおかつ直前々期末を基準に判定した場合も2つ以上の金額がゼロの場合、原則として、純資産価額方式で評価します。ただし、納税義務者の選択により、類似業種比準方式を25%、純資産価額方式を75%の割合で併用することもできます。

ちなみに、3つの要素ともゼロの場合は純資産価額方式により評価します。

この記事はこれで終わりです。評価額の引き下げ方法については、以下の記事でまとめています。

80093 【自社株(3)】自社株の評価額を引き下げる方法

以上(2023年6月更新)
(監修 南青山税理士法人 税理士 中田真希子)

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画像:Africa Studio-Adobe Stock

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