書いてあること
- 主な読者:SDGsに関心はあるけれど、二の足を踏んでいる経営者
- 課題:会社としてSDGsに取り組むメリットが分からない
- 解決策:SDGsを会社の利益に結びつけるための3つのステージを実践する
1 3つのステージのおさらい
このシリーズでは、中小企業がSDGsで利益を出すために必要な3つのステージを、2回にわたって紹介しています。3つのステージは次の通りです。
- 第1ステージ:SDGsを知り、社内の活動を全てSDGsにひも付ける
- 第2ステージ:SDGsに関する自社の強みと課題を明確にして活動方針を決める
- 第3ステージ:SDGsに関する活動を社内業務の利益・社会貢献の発信に結びつける
前編では、第2ステージの途中までご説明しました。後編では、第2ステージの続きと第3ステージを解説するとともに、実際にSDGsで利益を得ている中小企業の成功事例をご紹介します。
2 第2ステージの続き:SDGsに関する自社の強みと課題を明確にして活動方針を決める
1)企業によるSDGsの4類型のおさらい
前編では、第2ステージで、企業によるSDGsを4類型に分類しました。おさらいになりますが、「社内での全社の活動(社内環境)」「社内での個人の活動(会社生活)」「社外での業務の活動(会社業務)」「社外での外部の活動(個人活動)」の4つです。そして、この中で、SDGsで「稼ぐ」ことの早期実現を目指すのであれば、資源を「社外での業務の活動(会社業務)」に集中させることをお勧めしました。
2)SDGs活動のプランニング
第2ステージの後半では、自社が行っている4類型のそれぞれの活動の中で、積極的に推進・発信していくべき活動の優先順位を決めます。それぞれの類型の活動は、次のような基準に基づいて優先順位を決めるとよいでしょう。
- 「社内での全社の活動(社内環境)」:「働き方改革」にどれだけつながるのか
- 「社内での個人の活動(会社生活)」:組織の一員としてどれだけ成長につながるのか
- 「社外での業務の活動(会社業務)」:社会的な価値がどれだけあるのか
- 「社外での外部の活動(個人活動)」:社会課題の解決にどれだけつながるのか
上記の基準に基づいて自社の活動方針が決まったら、いよいよ第3ステージに進みましょう。
3 第3ステージ:SDGsに関する活動を社内業務の利益・社会貢献の発信に結びつける
1)自社のSDGs活動を社内に浸透させる
第3ステージでまずやるべきことは、活動内容と活動方針を社内に浸透させることです。その際に注意するのが、
自社のSDGs活動の目的・目標・手段を明確にして、しっかりと伝えること
です。なぜなら、第1ステージで社内の活動を全てSDGsとひも付けしていますので、社員は既に自社ではSDGs活動を行っていると受け止めています。本来、ひも付けは自社の強みと課題を知り、今後の活動方針を決めるためのものなのですが、社員は、「もうSDGs活動は社内でできているので、それ以上しなくてもいいのではないか」と考えてしまいかねません。
ですが、SDGsとは文字通り、「持続可能」というゴールを目指すものですから、その活動に終わりはありません。活動の手段は、随時更新していく必要もあります。SDGsの目的・目標を明確にした上で、自社として何をすべきなのかを社員にしっかりと伝えましょう。例えば、リサイクル素材を使った製品を生産することを始めるのであれば、原材料の選定基準、営業方針、製造工程の見直しなど、具体的な取り組みまで明確にして伝えるとよいでしょう。
以下に掲載した会社方針は、前編でご紹介した作業工具製造のマルト長谷川工作所(新潟県三条市)が、社内閲覧用に配布した内部資料です。自社の活動をSDGsにひも付けしながら、今後の目指すべき方針をしっかりと示しています。同社では、この会社方針を載せた手帳を年頭に社員全員に配布することで、自社のSDGs活動の方針を社内に浸透させています。
2)外部発信などによるSDGs活動の「見える化」
自社のSDGs活動の発信は、前編で述べた通り、企業イメージを良くすることはあっても、マイナスになることはまずありません。社内だけでなく、社外に対しても自社の活動をアピールする絶好の機会となりますので、自社のウェブサイトなどに積極的に掲載しましょう。その際は、
自社が「できていること」だけでなく、「できていないこと」もアピールすべき
です。自社の強みとなっている社外での業務の活動(会社業務)であれば、その事業が社会的な価値を高め続けていることを宣伝できます。逆に、自社ができていないことであっても、「このような課題解決に取り組んでいます」という姿勢を伝えることができます。
アピールするものは、新たな活動もあれば、既存の活動をSDGsに置き換えたものでも構いません(前編のマルト長谷川工作所のウェブサイトが参考になります)。積極的に「見える化」しましょう。求人戦略や営業活動に反映させるなど、活用方法はさまざまあります。
4 SDGsで「稼ぐ」成功事例
それでは、前編の冒頭でも触れた、私たちがコンサルティングをさせていただき、実際にSDGsで利益やメリットを得ている中小企業の成功事例について紹介します。
1)「売り上げのうち1円を地元の自治体に寄付します」と表示、売り上げ増加
山谷産業(新潟県三条市)は、「村の鍛冶屋」というブランドでキャンプ・アウトドア用品などを製造販売しています。中でも最も売り上げのある主力商品は、テントを張る際に地中に打ち込む杭(くい)の「鍛造ペグ」です。同社の経営戦略は「地域と共に歩んでいく。」です。
自然や環境に関連する事業ということもあり、同社の事業内容をSDGsにどう置き換えていくのかがテーマになりました。そこで、同社はウェブサイトで、鍛造ペグが1本売れるごとに1円を三条市に寄付することを決めて発信したところ、最高売り上げ本数を更新しました。キャンプ用品としてのブランド化にも貢献しています。
2)工場などにSDGsの取り組みを掲示しSNSなどで発信、小中高校の工場見学が殺到
これまでもご紹介しているマルト長谷川工作所ですが、同社の工場見学への参加を希望する、新潟県内の小・中・高校および大学からの問い合わせが殺到しています。その理由は、工場見学の順路ごとに、同社のSDGs活動を掲示していることです。
同社がSNSなどで発信したことで広く知られるようになり、コロナ禍で修学旅行などの制限もある中で、地域のSDGs学習の教材として活用される存在になりました。新聞をはじめとするマスコミにも取り上げられ、PR効果は十分得られています。
同社は環境問題や社会貢献に敏感な欧州に進出していることもあり、以前から社会貢献などに取り組んでいましたが、本格的にSDGsに取り組んだのは、創業100周年に向けて2020年にSDGsプロジェクトを立ち上げたことがきっかけでした。その際に、活動内容について大まかに「見える化」したものが、次のマンダラシートです。
このシートに基づき、次の5つのテーマを掲げたのです。工場見学はこの5番目のテーマに基づいています。
- 技術改善:MPI(Maruto Product Innovation)活動と称した社内一貫生産による改善
- 教育・雇用:人材を「人財」に、ディーセントワークを推進する心技体の社員づくり
- 健康:企業の発展に繋がる会社と従業員が一体となる健康推進
- 環境:働く人の意欲・能力が発揮できる環境づくりと、地球環境の保全と資源の保護に貢献・配慮した素材や設備を取り入れた活動
- 社会貢献:地域の雇用や地域活性化に資する新たなビジネス機会を創出し、地域行事への積極的な参画や、社会科見学の受入れを通じて地域社会に貢献
3)SDGsに関する県の認定登録や自社の取り組みをウェブサイトでPR、引き合い増加
長谷川興産(新潟県三条市)は、土木・建築・舗装などの工事全般や建設資材販売などを行っています。同社の課題は、いわゆる“3K”と呼ばれる業界全体に共通している、慢性的な人手不足です。特に20代前半の若者離れは深刻です。そこで同社は、SDGsの良いイメージを利用することにして、自社のウェブサイトを、SDGsを前面に押し出したものに一新しました。
同社が目を付けたのが、新潟県が行っているSDGsに関する企業認定の制度です。新潟県が2022年から始めたSDGs推進建設企業登録制度に登録し、自社のウェブサイトに登録証を掲載しています。
各自治体や団体などが行っている、SDGsに関する企業認定の制度は多数あります。「公的なお墨付き」といえるものですから、信頼性を与えるには格好の材料といえますので、利用しない手はありません。同社ではウェブサイトに、にいがた健康経営推進企業、ハッピー・パートナー企業(新潟県男女共同参画推進企業)の登録証も掲載し、働きやすい環境が整っているというイメージアップを図っています。
ウェブサイトを一新した効果は大きく、SDGsと関連させながら自社の本来の業務の姿を発信することで、求人の問い合わせや大手企業からの引き合いが増えたといいます。
5 SDGsによって広がる企業の可能性
最後に、中小企業のSDGs活動において、最も大切なものは何かをお話しします。
どの企業にも課題はあるはずですが、前章で成功事例を紹介した3社も、SDGsに取り組む前からそれぞれの課題を持っていました。ですが、その課題を明確に認識し、解決のための実施方針を決めるのは簡単はありません。
3社はいずれも、SDGsについて知り、社内の活動にひも付けを行うことで、経済・社会・環境に関する自社の課題と強みが明確になりました。そして、課題に対する解決と、自社の強みを伸ばすための実施方針や施策をベースに、企業の経営デザインを行うことができたのです。ただし、SDGsは、全てを委ねる対象ではなく、
SDGsというフィルターを通して、企業価値を持続的に引き上げる1つのツール
だと思います。
企業がさまざまな強みを持っている中で、新たにSDGsという強みを加えれば、SDGsが必要になったときにその強みを活かすことができます。ただし、SDGsという強みを発揮できるフィールドは、どんどんと広がっています。まだSDGsという強みは多くの中小企業が持っているわけではないので、現時点では先行者利益的な意味合いにもなるのではないでしょうか。
持続可能な企業とは、ビジネスを通して社会や環境に良い影響を与えることで、商売繁盛へとつなげていく企業のことです。これからの企業間の市場競争は、経済価値と社会価値の両方によって行われ、製品やサービスを取引する際の判断基準として重視されていくようになります。
最適なSDGs活動を通して、企業価値を高めましょう。
以上(2022年9月)
【著者紹介】
井上浩仁(いのうえ ひろひと)
NAコンサルティンググループ代表 https://na-consulting-group.jp/
【働く人の安全と健康をモットーに社会に還元奉仕する】を信条とし、ワークライフバランスの実現をはじめとするホワイト企業戦略に基づくSDGs経営・健康経営・業務効率化・人事評価制度構築・安全衛生・ハラスメント対策など多様な従業員の環境づくりと人的資本コンサルティングにおける企業の目指す目的に沿った中長期的な人財デザインを行っている。県内外中小企業・各商工会議所・経済団体・学校などの共催セミナーなども開催しており、社会で輝く人財づくりに尽力している。
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画像:shutterstock-brutto film