書いてあること
- 主な読者:新規製品やサービスなど、多角化を検討している経営者
- 課題:どういった市場を攻めるべきか、またその際の注意点は何があるのか知りたい
- 解決策:競争優位性を活かすことを検討する。そして成長が見込める市場を狙うことが定石
1 企業の平均寿命は23.8年
東京商工リサーチによると、2021年に倒産した企業の平均寿命は23.8年です。これとは別に「企業の寿命30年説」ともいわれるように、長く経営を続けることは大変です。単一の製品やサービスだけでは刻々と変わる経営環境を勝ち抜くのは難しいため、企業は多角化を進めます。とはいえ、無謀な多角化は経営資源の分散を招き、経営効率の低下につながります。多角化は重要な経営判断であり、相応の検討を進めてから行いたいものです。
やるべきことはさまざまありますが、少なくとも、
- どの市場に、どの製品やサービスで攻めるか
- その市場のライフサイクルはどのようになっているか
を検討することは必要です。
2 アンゾフの成長マトリクスと多角化の類型
アンゾフの成長マトリクスとは、
市場と製品・サービスを、それぞれ既存と新規に分けて戦略を検討するフレームワーク
です。
4つの象限の基本的な戦略は次の通りです。
1)市場浸透戦略
既存の市場で占有率を高めます。具体的には、広告宣伝、価格の改定、流通経路の再整備などを行い、リピート率の向上やチャーンレートの改善を見込みます。
2)市場開拓戦略
アプローチをしてこなかった市場(地域や業種、年齢層など)に、既存の製品・サービスを売り込みます。新しい市場に合わせてカスタマイズなどをします。
3)製品開発戦略
既存の市場に新製品・サービスを投入します。フルモデルチェンジなどを行いますが、コストなどの検討は必要です。
4)多角化戦略
既存の技術や流通網などを活かし、新製品・サービスを開発して新たな市場にチャレンジします。単独では難しい場合、業務提携やM&Aも検討します。
一般的に、多角化戦略には次の4つの類型があります。
- 水平型:既存の生産技術を活用して、既存の市場と類似した市場を開拓
- 垂直型:生産だけではなく流通や販売に対応し、上流から下流に至る市場を開拓
- 集中型:既存技術など現在の優位性を利用し、新たな市場向けの製品を展開
- 複合型:全くの異業種、新規事業分野に進出
以上が4つの象限の戦略ですが、この他に「撤退戦略」もあります。企業の拡大・成長とは逆方向の選択ですが、損失の回避などのリスクを最小限に抑えるために、常に念頭に置いておきたい戦略です。
3 製品ライフサイクル
1)成長が見込めなければ意味がない
「伸びている市場で流れに乗れば、規模は簡単に拡大する」。今、Web3やAIなどの領域で戦っている企業の経営者がよく言うことです。もちろん、投資が回収できるのか、また、安定した収益につながるのかは別問題ですが、いわゆる「導入期」の製品やサービスには勢いがあります。あるいは、既にコモディティー化している市場であっても、ちょっとした工夫によって新しい市場が生まれることもあります。伝統的な産業がそうしたことで息を吹き返すケースは珍しくありません。
いずれにしても、多角化を検討する際は、勝負する市場の成長が見込めなければ意味がないということであり、それを分析するものに、「製品ライフサイクル」があります。製品ライフサイクルとは、
製品・サービスの状況を把握し、それに応じて戦略を検討するフレームワーク
です。プロダクトライフサイクル(PLC)と呼ばれることもあります。
4つのライフサイクルの基本的な戦略は次の通りです。
2)導入期
製品・サービスを市場に認知してもらうフェーズです。広告宣伝費に加え、今後の需要増加を見込んだ生産体制を整えるための設備資金なども必要です。コストがかかる半面、利益は出にくいですが、ここを乗り越えると先行者利益が得られるかもしれません。
3)成長期
製品・サービスが市場で認知され、市場規模が拡大していくフェーズです。「市場がある」ことが分かると、そこに魅力を感じた競合が参入してくるため、自社の競争優位性をきちんと確保しておく必要があります。特許など知的財産権の確保も必要です。
4)成熟期
製品・サービスの売り上げがピークとなります。市場に浸透した分、競合製品との差異化が図りにくくなり、価格競争が激しくなります。
5)衰退期
市場が縮小し、撤退する企業も出てきます。生き残った企業においても、内部の徹底した合理化などコスト削減をしなければなりません。よほど自社に優位な外部環境の変化(昭和レトロブームなど)がない限り収益は落ち込むため、ここで多角化が必要になってきます。
4 多角化を検討する際に考えておきたいこと
多角化を進めやすいのは、ニーズを理解している既存の市場を攻めたり、既にバリューチェーンが整っている既存の製品・サービスを利用したりする戦略です。既存の製品・サービスを別の市場に投入して成功すれば、「売り上げの増加→生産量の増加→コストの引き下げ」といった戦略が描けます。
一方、既存市場や既存製品から離れた多角化は、未知の可能性が広がる一方で、リスクは高くなります。多角化の目的には、「市場や技術の変化への対応」「未使用の経営資源の有効活用」「将来展望」「リスク分散」などがあるので、この目的に照らして検討することが大切です。
多角化を図るタイミングも重要です。新規市場に進出してみたものの、当初の想定通りに市場が成長せず、事業が軌道に乗らないケースもあります。「時代を先取りしすぎるのは良くない」といわれ、実際に失敗事例も多いので注意しましょう。
以上(2022年8月)
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画像:photo-ac