書いてあること

  • 主な読者:電気代削減に取り組みたい製造業の経営者など
  • 課題:どのような再エネ調達の方法があるのか、メリットや費用感も含めて知りたい
  • 解決策:「自家発電・自家消費」がコストや税制面で注目されている。今後はサプライヤーとしての立場を強固にする上でも重要な調達方法となる

1 中小企業が再エネ調達に乗り出すメリット

地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」が2020年1月から本格スタートしたことなどを背景に、多くの大手企業は、企業活動におけるCO2削減を迫られています。そうした中、大手企業がサプライヤーに対して、CO2削減を要請するケースが増えています。

代表的なCO2削減策は、企業活動に必要な電力を再生可能エネルギーで賄う「再エネ調達」です。今後、中小企業がサプライヤーとしての立場を強固にする上で、再エネ調達は重要な取り組みになるとの指摘もあります。

注目されている再エネ調達方法は「自家発電・自家消費」。企業が自らソーラーパネルなどを設置し、そこから生まれた電力を自社で消費する方法で、次のようなメリットがあります。

  • 電気代を削減でき、コストダウンにつながる
  • 導入することで税制措置が受けられる
  • 災害時や緊急時の非常電源としてBCP対策になる

実際の導入事例などを踏まえ、具体的なメリットや費用感を見ていきましょう。

2 初期費用面を税制措置が後押し

太陽光発電事業などを展開するエコスタイルへのヒアリングによると、《電気代削減によるコストダウンに魅力を感じつつも、初期費用の面で二の足を踏んでいた中小企業が、税制措置に後押しされて「自家発電・自家消費」を導入するケースがここ数年で増加している》(2020年3月15日時点)とのことです。

大量の電気を使用するメーカーでは、自家発電・自家消費による電気代の削減効果は大きくなります。例えば、緩衝材加工メーカーのA社は、節電のために90キロワットのソーラーパネルを敷地内に設置。年間400万円以上かかっていた電気代のうち、約200万円分を自家発電で賄えるようになりました。

A社が「自家発電・自家消費」を導入した決め手の1つが、税制措置です。これは、2021年3月までに自家消費型の太陽光発電設備を取得した中小企業が、その費用について「即時償却」または「取得価額の10%の税額控除」などが受けられるというものです。

税制措置は、2016年7月に施行された中小企業等経営強化法に基づく支援措置の1つ(中小企業経営強化税制)で、他にも、民間金融機関から融資を受ける際の信用保証といった金融支援も受けることができます。

3 災害時の非常電源としてBCP対策に活用

2018年6月に発生した西日本豪雨では、被災地域で約1週間の停電が発生しました。今後、水害の発生頻度が増加するという予測もあり、メーカーなどがサプライヤーに対してBCP対策を求めるケースも出てきています。

「自家発電・自家消費」であれば、停電時でも、電話、メール、インターネットなど外部との通信手段を維持できます。従業員の安否確認や業務再開に向けた指示、取引先との連絡などを通して、業務の早期復旧を目指すことができます。

また、自家発電で賄える範囲で、工場の稼働や店舗の営業を継続することもできるため、取引先や地域住民の安心感や信頼の獲得にもつながります。

4 導入を検討する際のポイント

1)設置費用の目安は?

太陽光発電の普及に伴い、海外メーカーの参入による価格競争などの影響で、法人向けの太陽光発電設備の設置費用は年々下がっています。太陽光発電事業者などへのヒアリングによると、最近では《1キロワット当たり12万~20万円》で設置するケースが多いようです。

ただし、エコスタイルへのヒアリングによると、《設備業者や使用するソーラーパネル、積雪の有無、風の強さ、設置する屋根の角度や強度など、細かい条件によって費用はケース・バイ・ケースで大きく変わる》(2020年3月18日時点)とのことです。

2)設置規模の目安は?

エコスタイルへのヒアリングによると、《導入する中小企業の多くは、100~300キロワットのソーラーパネルを設置しており、パネルの面積は100キロワットで約660平方メートル、300キロワットで約2000平方メートルになる。これより規模の小さい事例だと、例えば、一般的なコンビニエンスストアの屋根の場合、20~30キロワットのパネルを設置できる》(2020年3月15日時点)とのことです。

また、《自家発電・自家消費の場合、導入する企業の普段の電気使用量に合わせて、発電した電気が余らないようにソーラーパネルを設置することになる》(2020年3月15日時点)とのことです。

5 サプライチェーンの要請はこれから本格化

近年、大手企業を中心に、サプライチェーンにおけるCO2排出量の算定・管理・情報開示を進める動きが活発化しています。

  • イオン:PB商品の製造委託先企業へCO2削減目標の設定を要請
  • 大和ハウス工業:2025年度までに主要サプライヤーの9割以上と温室効果ガスの削減目標を共有。取引先とともに省エネ診断や合同勉強会等を実施し、目標の設定および省エネ活動を推進
  • 富士通:事業のバリューチェーンからの温室効果ガス排出量を、2030年度までに2013年度比30%削減
  • NTTデータ:サプライヤーとの連携による購入した製品・サービスの省エネ化
  • NEC:製品の製造過程で消費する電力、ガスなど、資源の削減を要望

実際の導入事例などを踏まえ、具体的なメリットや費用感を見ていきましょう。

企業のサプライチェーンにおけるCO2削減支援などを行っているB社へのヒアリングによると、大手企業への支援件数は、《2019年度が5件だったものが、2020年度は17件に急増した。サプライチェーンへの具体的な要請に乗り出す企業も増えている》(2020年3月15日時点)とのことです。

「自家発電・自家消費」は、こうした大手企業の要請に十分に応える取り組みといえます。

例えば、大手自動車メーカーのサプライチェーンに属するC社の事例では、空調や照明設備などで省エネ化を図っていたものの、なかなか削減目標に届きませんでした。そこで、自家消費型の太陽光発電設備を導入したところ、削減目標を大きく超えることができたといいます。

このように、日本企業の多くは、従来、高効率空調設備の導入やLED照明への切り替えによる節電などを進めており、省エネ策は「頭打ち」ともいわれています。そうした中で、電気そのものを作り出す自家発電・自家消費は、打開策として注目されています。

以上(2020年4月)

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画像:pixabay

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