書いてあること
- 主な読者:「ランチェスター戦略」の基本が知りたい経営者
- 課題:経営資源が限られる中小企業が取るべき戦略が知りたい
- 解決策:地域・顧客・商品などの戦う領域を絞って市場シェア1位になる
1 中小企業は「ランチェスター戦略」で勝つ
ランチェスター戦略とは、
弱者が強者に勝つための戦略であり、言い換えるなら「中小企業が限られた経営資源で勝ち残るための戦略」
でです。もともとは、第1次世界大戦のときに英国人のフレドリック・W・ランチェスターが導き出した戦い方で、それを第2次世界大戦の際に進化させました。そして、戦後にマーケティングコンサルタントの田岡信夫氏がマーケティング活用などで使えるように体系化したといわれます。
ランチェスター戦略は「勝つための戦略」であり、兵力、つまり経営資源の乏しい中小企業が、いかにして勝ち残っていくかのヒントが多くあります。この記事では、ポイントをまとめています。
2 ランチェスター戦略とは
1)弱者向けの「ランチェスター第一法則」
ランチェスター第一法則とは、刀を持って戦うような接近戦や局地戦で、基本的には1人が1人としか戦うことができない状況を想定した場合、
武器の性能が双方同じであれば、兵力数の勝るほうが勝利する
というものです。
兵力が小さいB軍が勝つためには、武器効率を上げる必要があります。例えば、B軍が武器効率を1から2に上げることができれば、
2×3(B軍)-1×5(A軍)=B軍は1人が生存
することになり、B軍が勝利します。範囲が限定された戦場で武器効率が同じなら、兵士の数が多いほうが勝つという意味で、ランチェスター第一法則は弱者向きだといえます。
2)強者向けの「ランチェスター第二法則」
ランチェスター第二法則とは、マシンガンや戦闘機を投入して戦うような広域戦や遠隔戦、確率戦で、基本的には1人が複数の敵を狙える状況を想定した場合、
戦闘開始時の兵力数の2乗対2乗の力関係で戦う
というものです。
ランチェスター第二法則でも、兵力が大きいA軍が勝ちます。しかも、兵力が小さいB軍の損害は圧倒的に大きくなります。ここから分かるのは、
弱者は、ランチェスター第二法則で戦ってはならない
ということです。
以上のランチェスター戦略の第一法則、第二法則から、
- 武器効率(質)が同じなら、兵力(数)の多いほうが有利
- 弱者はランチェスター第一法則、強者はランチェスター第二法則で戦うべき
ということになります。
3 弱者とは誰か?
ランチェスター戦略から、中小企業が勝ち残っていくためには、
全国展開よりも地域限定、フルラインアップよりも一点突破で戦うことが望ましい
ということが分かります。
ちなみに、戦闘ではなくビジネスを想定しているランチェスター戦略では、強者=市場シェア1位の企業、弱者=市場シェア2位以下の企業のことを指します。強者=大企業、弱者=中小企業と考えがちですが、例えば、
ある地域に限れば、中小企業が大企業を抑えて、市場シェア1位=強者になる
ことができます。このため、ランチェスター戦略は、弱者が強者になるための戦略を示しているとされます。
ランチェスター戦略では、強者になるためには、
- ナンバーワン主義
- 「足下(そっか)の敵」攻撃の原則
- 一点集中主義
という3つのポイントが重要だとされています。次章で確認しましょう。
4 ランチェスター戦略から導く中小企業の戦い方
1)ナンバーワン主義
ナンバーワン主義とは、
2位以下を圧倒的に引き離して「ナンバーワン」になることを重視した考え方
です。ナンバーワンの目安とは、市場シェアに占める割合が41.7%(安定目標値)以上を指します。ただし、当初から41.7%の市場シェアを占めている必要はなく、まずは強者と弱者の境目とされる市場シェア26.1%(下限目標値)を目指します。そして、ほぼ独り勝ちの状態とされる41.7%を経た後、73.9%(上限目標値)に達することができれば理想的です。73.9%が理想的とされるのは、2位以下に逆転されることがなくなると考えられているためです。
また、ナンバーワンを目指す際は、
- 地域
- 顧客
- 商品
の順で、自社がシェアを確保する余地があるかを検討します。例えば、世界初の画期的な商品をゼロから生み出して市場シェアナンバーワンを目指すよりも、自社製品を限られた地域で販売して市場シェアナンバーワンを目指すほうが容易です。そのため、1.~3.の順でナンバーワンとなる方法を検討するのです。
2)「足下の敵」攻撃の原則
「足下の敵」攻撃の原則とは、
自社がナンバーワンとなるために、まずは自社の1つ下にいる企業から攻撃する
という考え方です。足下の企業は、自社より弱者であり、勝ちやすい相手です。勝ちやすい相手からシェアを奪い、自社の市場シェアが上位の企業と拮抗した時点で対決に挑みます。
この「足下の敵」攻撃の原則で重視されているのが、競争目標と攻撃目標を分けるという考え方です。具体的には、自社よりも市場シェア上位の企業を目標(競争目標)として定めながら、攻撃を仕掛ける相手は自社よりも市場シェアが下位の企業(攻撃目標)とします。
競争目標と攻撃目標に対する戦い方は異なります。競争目標に対する戦い方は、差別化戦略です。数に劣る自社は、質を高める必要があり、競合先と同じことをしていては勝てません。足下の競合先をたたいた後は、差別化戦略によって質を高め、上位の競合先と戦う必要があります。
一方、攻撃目標に対する戦い方は、ミート戦略(競合先と同じことをする、合わせる)です。同質であれば、数に勝るほうが勝利するため、強者である自社は競合先と同じことをすればよいのです。
3)一点集中主義
一点集中主義とは、
ナンバーワンになるために、一点を決めて集中的に投資する
という考え方です。「1.地域」「2.顧客」「3.商品」の視点から市場を細分化し、自社が強者となることができる、集中的に経営資源を投入していく重点化市場を定めます。
これによって、「兵力的な優位を築き→差別化によって質を高め→収益性が増す余力を生み→その余力で次なる重点化市場を攻略する」というサイクルを生むことができます。ランチェスター戦略では、このサイクルを繰り返しながら、ナンバーワンを目指すのが基本です。
4)重要なのは差別化
以上で紹介した3つの戦い方で重要なのは差別化です。弱者が強者に勝つためには、差別化によって競合先(強者)とは異なる、自社独自の取り組みを実施することが必要です。自社を競合先と差別化する際、市場を細分化し、次の6つの視点から検討します。
- 製品(Product):例)商品に機能を加えるなど
- 価格(Price):例)3つ買うと1つ無料とするなど
- 流通(Place):例)インターネットで販売するなど
- プロモーション(Promotion):例)手書きのDMを送付するなど
- サービス:例)アフターサービスを無料で提供するなど
- 地域:例)自社から片道30分以内の地域だけに配達するなど
差別化を検討する際には、「競合相手よりも、価格を低く抑え、アフターサービスを無料で提供し、地域限定で販売する」など、上記6つの中から3つ以上を組み合わせることが効果的だとされています。
【参考文献】
「世界一やさしいイラスト図解版! ランチェスターNo.1理論—小さな会社が勝つための3つの結論」(坂上仁志、ダイヤモンド社、2013年3月))
「小さな会社の稼ぐ技術」(栢野克己(著)、竹田陽一(監修)、豊倉義晴(取材・執筆協力)、日経BP社、2016年12月)
以上(2023年5月)
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