書いてあること

  • 主な読者:既存事業の多角化を検討したい経営者
  • 課題:具体的にどんな事業で多角化すればよいのか分からない
  • 解決策:さまざまな業種の多角化例を参考に、事業の方針を模索する

1 新事業の展開の必要性が高まる

どの産業も導入期、成長期、成熟期、衰退期をたどります。成熟期もしくは衰退期にある産業の事業者は、規模を縮小しつつ事業を継続して残存者利益を勝ち取るか、新たな収益源を生み出すしか、生き残る手段はありません。

本稿では、ガソリンスタンド業、ガス検針業、住宅リフォーム業、墓石販売業という既存の事業をベースにした事業の多角化により、新たな収益源を生み出すためのアイデア例を紹介します。

2 既存事業の多角化例

事業の多角化には、既存事業のノウハウを活かせる事業や、既存事業と顧客層が重なり相乗効果も期待できる事業があります。事業の多角化の方向性について図表に示した後に、具体的な多角化の事例を紹介していきます。

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1)ガソリンスタンド業

1.自動車関連事業

車検や修理、タイヤの販売を行うガソリンスタンド(以下「SS」)は従来からありますが、事業範囲をクルマ回り全般に広げる動きがあります。 

コスモ石油はグループ会社などを通じて、カーリース、レンタカー、自動車販売・買い取り・廃車手続きの他、自動車保険やロードサービス「コスモカーレスキュー」を展開しています。自動車販売や保険などについては、「くるまの相談窓口」をコンセプトにSSに併設している「ビークルショップ」で、カーライフコンシェルジュと呼ぶ認定スタッフによる無料アドバイスも行っています。

また、伊藤忠エネクスも「カースタ」(カーライフスタジアムの略)のブランドを使った車の総合サービスとして、レンタカーや自動車販売・買い取りなどを行っています。

この他、ある程度の敷地の広さがあることが条件になりますが、SSにEV(電気自動車)の充電ステーションを併設するケースもあるようです。

2.給油や洗車の待ち時間を活用した併設店舗

SSを利用する顧客には、一般的に給油や洗車の間の待ち時間があります。SS事業者の中には、この時間を利用して他の商品・サービスの購入を促したり、SSへの来店動機を増やしたりすることを目的に、さまざまな施設を併設するケースが増えています。ただし、併設した施設の運営は、自社で行うよりもノウハウを持っている専門の事業者が行うほうが成功率は高いと考えられるため、併設店舗の設置については多角化よりも既存SSの活性化を主眼に置いたほうがよいでしょう。

併設店舗の代表的な例がコンビニエンスストアやコーヒーショップであり、大手チェーンとの協業も進んでいます。この他にも、出光興産(旧昭和シェル石油)は2018年12月、ピザハットとの併設店舗の1号店を開設するとともに、5年以内に併設店舗を100店開発する計画を明らかにしました。また、ENEOSを展開するJXTGエネルギーは2018年12月、コインランドリー併設事業のトライアルを実施するため、併設店舗の1号店を開設しました。併設するコインランドリーはOKULABが運営する「BALUKO」で、SSのスタッフがコインランドリーを管理します。

運転に伴う身体の凝りを和らげることなどを想定したストレッチ店や、長距離トラックのドライバーなど向けにシャワー室や入浴施設を併設したSSもあります。なお、シャワー室は無料で提供している店舗もあるようです。

2)ガス検針業

ガス検針業に関連する多角化として、ガス検針を利用した見守りサービスがあります。大東建託グループでLPガス販売などを行うガスパルは、離れて暮らしている65歳以上の高齢者もしくは障害を持っている人が使用しているガスメーターを1日1回検針し、使用状況を親族などの指定されたメールアドレス(最大3カ所)に送る「ぱるメール」のサービスを月額500円で提供しています。

東京ガスは「くらし見守りサービス」の名称で、同社のガスメーターが設置されている住戸を対象に、見守りサービスを提供しています。ガスの消し忘れ確認のために、スマートフォンを使ってガスの使用状況を確認し、ガスを止めることもできる他、ガスを長時間使用している場合に電話で確認するサービスもあります。また、離れて暮らす家族の見守りのために、前日にガスの利用が一度もなかった場合に、登録したメールアドレスに知らせるサービスもあります。利用するためには、ガスメーターを通信機能付きのタイプに交換する必要があります。

同社の「くらし見守りサービス」ではこの他、「自宅・家族の見守り」として、スマートフォンに、外出時の鍵の締め忘れをすぐに知らせるサービスや、外出前や就寝時に戸締まりをチェックできるサービス、子供や高齢者が帰宅したことを知らせるサービスも提供しています。利用するには有料のセンサーの設置が必要となります。

ちなみに、ガス検針業者ではありませんが、ガスメーターを製造している東洋計器も、ガスの使用が長時間なかった場合に指定したメールアドレスに自動的に知らせるサービスを提供しています。

3)住宅リフォーム業

リフォーム事業のノウハウを活かした多角化の例として、買い取り再販事業やワンストップリノベーション事業が挙げられます。ただし、リフォームの中でもごく一部の改修や修理ではなく、フルリフォームもしくは新たな機能や装備などを加えたリノベーションを行うノウハウを持っていることが前提となります。

いずれも顧客層を従来の住宅保有者から、住宅の購入希望者にまで広げることができます。また、今後増加が見込まれる空き家を活用できる事業であるため、ビジネスチャンスが広がることも期待されます。

1.買い取り再販事業

買い取り再販事業は、リフォーム業者が自ら中古の物件を購入し、フルリフォームもしくはリノベーションをして価値を高めて再販売する事業です。物件購入と販売まで行うため、利益率が高まる可能性がありますが、物件購入のための資金が必要となり、在庫を抱えるリスクもあります。

なお、当該事業は不動産業の要素もあるため、参入するには、リフォーム範囲や規模に応じて必要となる建築一式工事や内装仕上工事といった建設業許可に加えて、宅地建物取引業の免許と、宅地建物取引士の設置が必要となります。

2.ワンストップリノベーション事業

ワンストップリノベーション事業は、物件購入希望者に対し、リフォーム工事を前提に、中古物件探しからリフォームプランの提供、購入に際しての資金計画、ローン申し込みの案内まで行う事業です。物件の仲介やあっせんを行う場合は、買い取り再販事業と同様に宅地建物取引業の免許と宅地建物取引士の設置が必要となります。また、物件購入希望者がローンを組む際に案内できる金融機関と連携しておく必要もあります。

4)墓石販売業

1.石材関連事業

墓石に限らず、石碑や記念碑、石像なども取り扱って事業を多角化するケースがあります。従来の墓石の製造技術を活用すれば、技術的な参入障壁は低いといえます。例えば、導入する石材の種類を広げ、デザイン性を高めた商品を提案すれば、石材加工に関連する多様なニーズに対応するサービスを提供できるようになります。需要全体は少ないかもしれませんが、インターネットでも注文を受け付けるなどして、ニッチトップを目指すという考え方もあります。

2.葬儀関連事業など

墓石の購入希望者へサービスの提供ができ、相乗効果が見込める関連サービスとして、墓地および霊園の案内があります。また、墓石販売業者が葬儀業に進出する事例もあるようです。

3.アフターサービスの拡充

墓石販売だけでなく、墓石保有者へのアフターサービスを拡充させることでビジネスチャンスは広がります。

特に、地方の過疎化や都市部への人口流入などに伴い、地方にある墓の“墓守”が不在となったり、親族が墓参りすることが困難になったりするケースが話題となっており、こうした人たちの問題解決が事業多角化のヒントとなる可能性があります。墓参り代行や、墓の清掃代行・洗浄などの需要は、今後も増えていくことが想定されます。また、これまで十分に墓参りができていなかったことで墓が荒れたり、複数ある墓を合葬したり、といった事情で墓をリフォームするニーズもありそうです。

墓守の問題がさらに深刻化して、墓じまいや改葬を行うケースもあります。先祖代々の墓に納骨するという従来の考え方から、納骨堂の活用や散骨などへと多様化している中で、墓石関連業は今後、新規販売よりも既存の墓石の解体の需要のほうが高まることも考えられます。

以上(2019年11月)

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画像:pixabay

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