書いてあること
- 主な読者:自社を成長させるため、自ら経営課題を考察したい会社の幹部
- 課題:課題は日々感じるもののうまく整理できず、根拠となる指標がほしい
- 解決策:ローカルベンチマークで「財務面」「非財務面」から課題を分析し、経営者との対話に活用する
1 会社の健康診断ツール「ローカルベンチマーク」とは
会社の幹部の中には、「会社を改善・成長させるために経営者と対話したい。けれど、情報を整理したり対策を考えたりすることがうまくできなくて、話し合いの場を設けてもなかなか実りあるものにならない」という悩みをお持ちの方が多いかと思います。そんなときは、経済産業省が提供している「ローカルベンチマーク」を活用してみてはいかがでしょうか。
ローカルベンチマークとは、
自社の現状について多角的に分析できる「会社の健康診断ツール」
です。
特長としては、
- ガイドブックがあって分かりやすいこと
- 財務分析が点数化・チャート表示されて見やすいこと
- 一般的な経営診断ツールと違って、定性的な非財務分析もできること
- 金融機関・支援機関・各種団体での認知度が高く、共通言語になってくれること
- 補助金申請の推奨ツールになっているほか、添付資料としても役立つこと
が挙げられます。
さらに、ガイドブックが「SDGs/DX対応版」にアップデート(2023年4月改訂)され、実はSDGs施策にすでに取り組んでいたことを認識したり、DXの進め方などを学んだりできるようになりました。対話例や簡単な説明もあって分かりやすくなっているので、まずはガイドブックだけでもぜひチェックしてみてください。
■経済産業省「ローカルベンチマーク作成ガイド」■
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/sangyokinyu/locaben/guide.html
また、中小企業庁が運営する「ミラサポplus」では、その活用セミナーの資料と動画を公開しています。分析を始める前に見ていただくと、よりスムーズに進められるでしょう。動画は前後編(各30分程度)に分かれており、前編ではローカルベンチマークの全体像や記入内容、シート同士を対応させる方法について、後編では、具体的な事例を基に、記入のポイントや、分析結果から分かった強み・課題対応策、事業展望と強みの結びつけ方などを説明しています。
■ミラサポplus「ポストコロナに向けた戦略!オンラインセミナーのご案内 不確実性の高い現代の経営環境におけるローカルベンチマークの活用方法」■
https://mirasapo-plus.go.jp/infomation/19613/
2 ローカルベンチマークで財務・非財務を分析しよう
この章では、「ローカルベンチマークシート(2022年度版)」(ファイル名:tool2022r4.xlsm、2024年6月時点で最新版)と、前述の「ローカルベンチマーク・ガイドブックSDGs/DX対応版(企業編)」を基に、使い方と記入例を簡単に解説していきます。ローカルベンチマークは、下記のウェブサイトからダウンロードしてください。
■経済産業省「ローカルベンチマーク(ロカベン)シート」■
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/sangyokinyu/locaben/sheet.html
また、第4章にて詳しく紹介しますが、外部連携サービスを通じてローカルベンチマークを作成することも可能です。例えば、事業再構築補助金の申請では、中小企業庁「ミラサポplus」で作成したローカルベンチマークの提出が必須となっています。同補助金を活用する予定がある方は、ミラサポplus上で作成することをお勧めします。
1)ローカルベンチマークの概要
ローカルベンチマークは、
- 財務分析シート
- 【入力】財務分析
- 【入力】商流・業務フロー
- 【入力】4つの視点
という4枚のシートと、データ表示に利用する【参照】のシートに分かれています。分析を始めるときは、どのシートから入力しても大丈夫です。ただ、どれも大切な項目なので、できるだけ空欄は残さないようにしましょう。
2)財務分析の入力方法と、6つの指標の紹介
財務面の分析においては、シート2枚目「【入力】財務分析」の黄色の部分に、損益計算書(PL)と貸借対照表(BS)の該当する数字を入力するだけです。
すると、1枚目「財務分析シート」に下記の6つの指標が算出され、財務分析結果がレーダーチャートで示されます。
- 売上持続性(売上増加率)
- 収益性(営業利益率)
- 生産性(労働生産性)
- 健全性(EBITDA有利子負債倍率)
- 効率性(営業運転資本回転期間)
- 安全性(自己資本比率)
3)非財務分析:商流・業務フロー
次に、「商流・業務フロー」シートでは、業務の流れや、取引先、顧客などについて“棚卸し”をしていきます。この分析では、次のようなことを明らかにできます。
- 自社の強み
- 顧客から選ばれる理由
- 仕入れ先、協力先を選ぶ理由
1.業務フローの記入方法
業務フローを5段階に分け、最後は商品・サービスを顧客に提供するところで終えるようにします。どうしても5段階に絞れない場合は、シートを加工して業務の枠を増やしましょう。
A:業務名を記載します。
B:それぞれの業務で実施していることを具体的に記載します。
C:各業務において、工夫している点、こだわっている点、他社と異なる点について、差別化ポイントとして記載します。そして、その差別化ポイントが出てくる理由をさらに「なぜ?」と深掘りしていきます。活用しているIT技術やSDGsにつながる取り組みも記載します。
D:業務プロセスを経て生み出された製品・商品・サービスの内容を記載します。
E:提供している付加価値、自社が選ばれている理由などを記載します。
客観的な視点に立ってみると、日頃から当たり前に行っていることの中にも、他社にはない優位性や強み、特徴、差別化ポイントが必ずあるものです。「うちの会社にそんな優位性はない」という先入観を捨て、「フローの中で一番重要な業務は何か」「こだわっている部分はどこか」「お客さまが自社を利用されるのはなぜか」と視点を変えながら掘り下げていきましょう。
2.商流の記入方法
次に、自社を取り巻く環境を見ていきましょう。仕入れ先・協力先・得意先・エンドユーザーについて整理していきます。仕入れ先と協力先には「選んでいる理由」、得意先とエンドユーザーには「選ばれる理由」を記入します。
A:仕入れ先や協力先について、社名・取引金額・取引内容・取引頻度・受け取り方法などの情報を記載します。
B:仕入れ先や協力先を選んでいる理由を記載します。活用しているIT技術やSDGsにつながる取り組みも記載します。
C:得意先やエンドユーザーについて、社名・取引金額・取引内容・取引頻度・提供方法・販売チャネルなどの情報を記載します。
D:得意先やエンドユーザーから選ばれている理由を記載します。活用しているIT技術やSDGsにつながる取り組みも記載します。
商流については、何をどのように書けばいいのか分かりにくいかもしれないので、記入例をご紹介します。下図のように具体的な取引金額やシェアなどを記入するとよいでしょう。
BとDは「付き合いが長いから」が理由だったとしても、それだけで終わらせず、「なぜ付き合いが続いているのか」を考えてみます。漫然と続いているだけなのか、選ぶ・選ばれるだけの理由があるのかを明らかにしましょう。例えば「10年ほど前に、もっと安く請け負ってくれる業者が営業してきたけど品質を保つために断った」などの情報が出てくるかもしれません。
4)非財務分析:4つの視点
非財務面を分析するには、もうひとつ「4つの視点」シートがあります。
4つの視点とは、
- 経営者
- 事業
- 企業を取り巻く環境・関係者
- 内部管理体制
です。それぞれ具体的にどのようなことを記載していくのか、次の図表に示しました。
なお、ガイドブックには各欄を考えるための主な質問が記載してあります。ぜひ参考にしてください。
また、「1.経営者」については、会社の幹部の視点で記入するのが難しいかもしれません。例えば、「自分たちからはこう見えている」「経営者はこう考えているのではないか」というように視点を変えて記入してみるといいでしょう。
そして、最後に「4つの視点」から見えてきたことを「対話内容の総括」にまとめ、現状認識・将来目標・課題・対応策を導き出します。
- 現状認識:対話内容を踏まえ、好調・不調の要因や特に注目すべき点
- 将来目標:現状認識を踏まえ、企業として考えている将来目標
- 課題:将来目標を達成するにあたって、取り組むべき課題
- 対応策:課題への対応策。金融機関などの支援機関と対話することで、さまざまな提案を受けられる可能性も視野に入れる
3 ローカルベンチマークを経営にどう役立てたか
ローカルベンチマークで分析した後、その会社は社内外でどのような対話をして、どのように行動しているのでしょうか。経済産業省のウェブサイトでは、資金調達・補助金採択・生産性向上・販路開拓などで成果のあった活用事例を紹介しています。
また、中小企業庁「ミラサポplus」でも、ローカルベンチマークを他のツールと連携させながら課題を解決していく様子をインタビューやストーリー形式で分かりやすく紹介しています。ぜひ参考にしてください。
■経済産業省「ローカルベンチマーク活用事例」■
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/sangyokinyu/locaben/jirei.html
■ミラサポplus「ロカベン活用の現場」■
https://mirasapo-plus.go.jp/tag/locaben/
4 外部連携しているサービス
ローカルベンチマークは、金融機関・支援機関との対話ツールとしても機能してくれます。社内で話し合った後は、金融機関の担当者や中小企業診断士、税理士など、経営課題の解決に向けて連携できる協力先との相談に活用するのもよいでしょう。
活用に当たっては、外部連携しているサービスを利用するのも手です。すでに利用しているサービスの追加機能にローカルベンチマーク作成支援ツールが搭載されている場合は、そちらを活用したほうが、各機関との共有がスムーズになります。
1)中小企業庁「ミラサポplus」
補助金情報の提供を中心とする中小企業向けの総合支援サイト「ミラサポplus」では、会員限定の機能としてローカルベンチマーク作成ツールを提供しています。事業再構築補助金の申請では、ミラサポplus上でのローカルベンチマーク作成・添付が必須となっています(非財務情報は任意)。
なお、事業財務情報とBIレポート(財務分析)の閲覧・編集には「GビズID」でのログインが必要です。詳しくは以下のウェブサイトをご確認の上、記載の手順に従ってご登録ください。
■ミラサポplus「ローカルベンチマーク」■
https://mirasapo-plus.go.jp/report/top
2)TKC「ローカルベンチマーク・クラウド」
TKC(栃木県宇都宮市)会員の会計事務所が利用する会計サービスの機能の1つとして提供されているサービスです。データセンターに蓄積された財務情報と、会員事務所によるヒアリングを通じて引き出された非財務情報を基に、ローカルベンチマークを作成します。
なお、TKC会員には認定経営革新等支援機関として登録されている事務所が多くあります。該当会員の事務所に支援を依頼した場合、中小企業庁「早期経営改善計画策定支援事業」の補助を受けながら、ローカルベンチマークに基づいた経営改善に取り組むこともできます。
詳しくは、お近くのTKC会員事務所にお問い合わせください。認定経営革新等支援機関については、以下のウェブサイトから検索できます。
■中小企業庁「認定経営革新等支援機関検索システム」
https://ninteishien.my.site.com/NSK_CertificationArea
3)CRD協会「CRD統合ツール・ローカルベンチマーク連携ツール」
CRD協会(東京都中央区)では、協会会員の銀行・信用保証協会に提供している与信管理ツール「CRD統合ツール」において入力した財務情報を基に、ローカルベンチマークのフォーマットに合わせた帳票を出力できる「ローカルベンチマーク連携ツール」を提供しています。
また、非財務情報についても、ローカルベンチマークをベースとして、1枚で事業性評価項目を入力できるように調整した「事業性評価結果入力用シート」を同ツール内で提供しています。
4)マネーフォワード「MFクラウド会計」
マネーフォワード(東京都港区)では、中小企業向けクラウド型会計ソフト「MFクラウド会計」において、ローカルベンチマークの「6つの財務指標」のチャート・点数などを表示するレポート機能を提供しています。
この機能は、上記「2」「3」のような支援事業者向けではなく、分析対象となる事業者が自ら確認できます。画面の詳細については、次のウェブサイトからご確認ください。
■マネーフォワード クラウド会計使い方ガイド「『レポート』機能の使い方」■
https://biz.moneyforward.com/support/account/guide/report02/re01.html#ttl06
以上(2024年8月更新)
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