書いてあること
- 主な読者:子ども食堂の支援を通して地域貢献などを検討している経営者
- 課題:企業ができる支援策や、支援をする際の相談先を知りたい
- 解決策:物品の寄付以外にも、場所の貸し出しや学習体験の提供といった支援策がある。子ども食堂を支援するNPO法人や地方自治体が相談先となる
1 全国各地で広がる子ども食堂 その役割は?
子どもが1人でも行けて、無料あるいは低価格でご飯が食べられる「子ども食堂」。発祥は、2012年に東京都大田区で「気まぐれ八百屋だんだん」を経営していた近藤博子氏が、家庭の事情で食事が作れない家の子どもに対して、「だんだんワンコインこども食堂」として低価格で夕食を提供したことだとされます。この活動が東京都豊島区で子どもを支援する「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」の栗林知絵子氏の目に留まり、子ども食堂を知ってもらうための講演会やシンポジウムの全国ツアーが行われました。
加えて、子どもの孤食問題の認知拡大、コロナ禍で経済的に困窮する家庭が増えたことなども背景に、子ども食堂は全国各地に広まっていきました。全国こども食堂支援センター・むすびえの「こども?堂全国箇所数調査2022結果」によると、2018年には2286カ所だった子ども食堂は、2022年に7363カ所となっています。
昨今は国や地方自治体が予算を投入したり、地域の子ども食堂をリストアップしたりして、寄付先を募るといった支援の動きもあります。しかし、元々は民間発の取り組みなので、費用や食材などの調達、開催場所の確保が課題であり、企業の支援が求められています。
一方、別の視点では、
子ども食堂を「食事の提供だけでなく、地域の大人と子どもが交流し、お互いに経験を広げることができる場所」
と捉え、子ども食堂と共同してイベントを開催し、地域貢献や企業の人材育成につなげるなどの新しい支援の形に取り組む企業も出てきています。
この記事では、子ども食堂への支援に取り組む企業の事例や、企業が子ども食堂への支援を検討する際に相談、問い合わせ先となる窓口団体などを紹介していきます。
2 子ども食堂の課題・企業による子ども食堂への支援事例
1)子ども食堂の課題
「こども食堂の現状&困りごとアンケートvol.8 結果報告」によると、子ども食堂での困りごと(上位10回答)は次の通りです。このアンケートは、全国こども食堂支援センター・むすびえが、全国各地の「子ども食堂の地域ネットワーク」および「子ども食堂ネットワーク」とつながる子ども食堂を対象に行ったものです。
子ども食堂の課題はさまざまですが、例えば、運営資金やスタッフ、会場の不足などは企業による支援の余地があるといえます。企業による具体的な支援策としては、次のようなものが挙げられます。
以降で実際の企業事例を見ていきましょう。
2)子ども食堂で出前授業を実施:エナリス(東京都千代田区)
電力の需給管理や電力卸取引などを手掛ける同社では、東京都港区にある「みなと子ども食堂」の中で開催している学習会で出前授業を開催しました。
授業は電力の需要予測をテーマに、電気に関する基礎知識を説明した後、自宅、コンビニ、学校で一日の中でいつ、どのようなときに電気を使うかのワークを行いました。
出前授業によって子どもに新しい興味が生まれ、子どもの未来や電力業界の成長の芽につなげることが狙いとしています。
3)自販機の設置、売上で子ども食堂を支援:ダイドードリンコ(大阪府大阪市)
同社では、売上金の一部を地域の子ども食堂に寄付できる寄付型の自動販売機を展開しています。同社の自販機設置について解説するウェブサイトでは自治体や企業での自販機導入事例を紹介しています。導入した企業によると、地域貢献の方法として寄付型の自販機の設置が検討しやすいことや、飲料を購入するだけで気軽に地域貢献につながるため、社員に意識付けができることがメリットといいます。
また、自治体によっては同社と協定を締結している場所もあります。例えば、愛媛県新居浜市では「こども食堂等子どもの居場所を支援するための協働に関する協定書」を締結し、地元企業に自販機を設置してもらうことで子ども食堂への支援に取り組んでいます。
4)飲食店と連携して子ども食堂を推進:テンポイノベーション(東京都新宿区)
飲食店物件に特化した不動産業を手掛ける同社では、東京都内の飲食店で子ども食堂を開催する取り組みである「お店のこども食堂『みせしょく』」を、2019年から取引先の飲食店と共同で展開しています。
子ども食堂は、地域のボランティアが運営するケースが一般的なため、食材の調達、開催場所の確保、開催の告知などの負担が大きく、継続して開催することが難しくなる場合があります。一方で、飲食店で子ども食堂を開催することによって、食材の調達や開催場所の確保といった課題を解決でき、いつ、どこでも子どもがおなかと心を満たせる環境が整うといったメリットがあります。
なお、子ども食堂の活動資金は同社の企業利益から充てられており、2023年8月末時点で57店舗の参加実績があります。
5)居酒屋でチャリティーメニューを展開:ファイブグループ(東京都武蔵野市)
居酒屋・ダイニング経営を手掛ける同社では、吉祥寺で子ども食堂を定期開催しています。
店舗に来店した顧客が「子ども食事券」を購入して店舗に置き、その食事券を使って子どもは無料で食事を摂ることができるという仕組みになっています。
また、活動費は顧客が購入する食事券以外にも、グループ店舗で展開しているチャリティーメニューの売上金額を充てています。
子ども食堂の活動を通じて、リピーターの来客が増えて店舗の売上に貢献したり、社会貢献の取り組みに共感したとして、入社を希望する学生が増えて人材確保につながったりするなど、地域貢献に限らず企業にとってもメリットが大きい事例といえるでしょう。
6)社員寮を子ども食堂の会場として提供:西松建設(東京都港区)
同社では、福岡県大野城市にある社員寮の食堂を子ども食堂の「おおのじょうこども食堂みずほ町」の会場として提供しています。
この子ども食堂はNPO法人チャイルドケアセンターが開催している子ども食堂で、子ども食堂を定期的に開催できる会場が確保できなかったり、食材や備品を保管する場所が無かったりしたという課題をきっかけに、西松建設がチャイルドケアセンターに支援を申し出たことで実現したそうです。
社員寮に外部の団体が入ることのリスク管理は、次のような対応を取っているといいます。
- 施設のセキュリティ:建物の解錠・施錠は寮の管理人のみが行う
- 食中毒、ケガなどのトラブル対策:保健所主催の食品衛生管理・食中毒予防関連の研修の受講、参加するスタッフや子どものNPO活動総合保険への加入
- 運営団体の信頼確保:チャイルドケアセンターが子ども支援や子育て支援に取り組んできた実績を示す資料の確認
7)自社の運営施設で子ども食堂を開催:ラグジュアリー(福岡県福岡市)
賃貸管理や保育園の運営などを手掛ける同社では、同社が運営する「コワーキングサロン&カフェラウンジ 四季のいろ」で子ども食堂を開催しています。子ども食堂では、カレーなどの食事提供と併せて、書道や英会話、プログラミング教室も催しています。
学校の授業では教わらない体験を通じて子どもに学ぶ楽しさを知ってもらうとともに、施設に集まった子ども同士で一緒に学ぶことで、学校外でのコミュニティ作りや友達づくりを支援する狙いがあります。
3 子ども食堂を支援するときの相談、問い合わせ先となる団体
1)全国こども食堂支援センター・むすびえ
全国各地の子ども食堂を支える団体への支援、子ども食堂を応援したい企業・団体との協働事業、こども食堂が全国にどのくらいあるか調べるなどの調査研究を手掛けています。企業・団体が子ども食堂を支援するに当たり、次のような例があります。
- 社内や施設内への寄付付き自動販売機の設置、古本の寄付
- 寄付付き商品の企画や、イベントでの売り上げなどを寄付するための支援
- 食材や備品などの物資、商品を子ども食堂に提供するための仲介
- 子ども向けの食育、健康教育、アート体験など企業が手掛ける体験プログラムを子ども食堂に提供するための仲介
■全国こども食堂支援センターむすびえ■
https://musubie.org/
2)全国食支援活動協力会
「こども食堂サポートセンター」の運営や、子ども食堂への支援マッチングなどを手掛けています。同団体のウェブサイトでは、企業連携の事例を紹介しており、王将フードサービスによる商品売上代金の寄付や、アサヒ飲料による飲料と絵本の寄付といった事例があります。
■全国食支援活動協力会■
https://mow.jp/
3)地方自治体による子ども食堂の開設・寄付に関する相談窓口
市区町村によっては、ウェブサイト上で子ども食堂の開設や寄付に関する相談窓口をはじめ、その地域内にある子ども食堂の一覧や、どのような支援を必要としているかの情報を公開している場合があります。また、自社で子ども食堂を開設する場合の手続きや開設に伴う助成金制度がある場合もあるので、最寄りの自治体のウェブサイトを確認してみるとよいでしょう。
以上(2024年1月)
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画像:hasegawa risa-Adobe Stock