書いてあること

  • 主な読者:コロナ前にインバウンドの恩恵を受けた宿泊・観光事業者、インバウンドの本格再開を見込んで新規参入を狙う事業者
  • 課題:インバウンドは今後どれくらい期待できるのか、取り込むために必要なことは何か
  • 解決策:2019年当時の訪日者数に戻れば旅行消費額は6兆円超の可能性も。コロナで変化した外国人観光客のニーズに対応するとともに、感染症などのリスクに備えておく

1 外国人観光客の受け入れが全面解禁!

新型コロナ感染症対策のために制限されてきた外国人観光客の入国が、2022年10月11日から全面解禁となりました。こうなると、期待したいのがインバウンドによる経済効果であり、その背景には次の3つがあります。

  • コロナ前は訪日外国人数が右肩上がりだった実績
  • 外国人の旺盛な訪日ニーズ(“リベンジ消費”も含む)
  • 円安の追い風で「爆買い」復活の予感

この記事では、インバウンドによる経済効果を期待できる背景と、想定されるインバウンドによる経済効果についてご説明します。また、インバウンドを取り込むためのポイントとなる、コロナ前と比べて変化した外国人観光客のニーズの傾向や、感染症対策などのリスクへの備えについても触れます。

2 インバウンドの効果を期待できる3つの理由

1)コロナ前は訪日外国人数が右肩上がりだった実績

図表1のように、コロナ前の日本は、訪日外国人数が右肩上がりに増えていました。2003年以降で前年よりも減ったのは、リーマンショックの影響を受けた2009年と、東日本大震災が発生した2011年だけです。2015年には訪日する外国人の数が出国する日本人の数を逆転しています。

国連世界観光機関(UNWTO)によると、2019年の3188万人で、日本を訪れる外国人数は世界12位、アジアでは中国、タイに次いで3位に入っており、世界の上位にランクしていました。さらに、同年の国際観光収入は461億米ドルで世界7位、アジアではタイに次ぐ2位に入っていました。

訪日外客数と出国日本人数の推移

政府が2016年3月に策定した「明日の日本を支える観光ビジョン」では、2020年の訪日外国人旅行者数を4000万人、2030年には6000万人という目標を掲げていました。コロナ禍によって東京五輪が延期および外国人の観戦者の受け入れが見送られたこともあり、目標は遠く及ばなくなってしまいましたが、今後の状況改善が期待できます。

2)外国人の旺盛な訪日ニーズ(“リベンジ消費”も含む)

日本政策投資銀行と日本交通公社が2021年10月にインターネットで行った「DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査(第3回 新型コロナ影響度 特別調査)」(2022年2月公表)によると、「次に海外旅行したい国・地域」の1位は日本(アジア居住者67%、米国・英国・フランス・豪州居住者37%)でした。日本を訪れたい理由で最も多かったのは、「以前も旅行したことがあり、気に入ったから」(88.0%)で、コロナ禍の間もしっかりとファンの心をつかんでいたことが分かります。

この調査では、「コロナ収束後の海外観光旅行の意向」について、「思う」と回答した人が66%いることや、「今後6カ月以内にしそうなレジャー」として、飛行機で5時間以内の海外旅行を「実施する」「恐らく実施する」と答えた人が49%に上っています。コロナ対策で行動制限を受けた“リベンジ消費”を含め、海外旅行へのニーズが高いことがうかがえます。

また、「ダボス会議」で知られる年次総会を開催する「世界経済フォーラム(WEF)」が2022年5月に公表した「旅行・観光開発指数」に関するレポートでは、世界117カ国・地域のうち、日本(31.8%)が2位の米国(30.7%)を押さえて世界1位に評価されました。旅行・観光にふさわしい「環境(ビジネス面、安全性、衛生面、ICT化など)」「政策と状況(開放性、価格競争面など)」「インフラ」「需要喚起(自然や文化などの観光資源」「持続可能性(環境面、社会経済的な回復力、旅行・観光需要の高まりに対する許容度など)」という5項目について、112の指標を分析して評価したものです。世界的に観光地としての日本が評価されている証しともいえます。

3)円安の追い風で「爆買い」復活の予感

足元の円安も追い風です。2019年は1米ドル=110円程度でしたが、2022年9月は140円台で推移しています。外国人観光客にとっては、日本円で販売されている製品を、米ドルに換算すると2019年と比べて2割以上安い価格で買える計算になります。既に来日した観光客の中には、「自国で買うよりも割安」と、日本で大量に買い物をしているとの報道もあります。

円安が続けば、かつて中国からの観光客を中心に席巻した日本製品の「爆買い」現象が、世界各国の観光客の間で復活する可能性もありそうです。

3 インバウンド再開で見込まれる経済効果

1)コロナ前のインバウンドの水準に戻れば旅行消費額は6兆円超も

観光庁の推計によると、2019年の訪日外国人(約3188万人)旅行消費額は、4兆8135億円でした。前述のように、当時と現在の為替レート(2019年は1米ドル=110円、現在は1米ドル=140円)を踏まえて、仮に訪日外国人が自国通貨に換算した消費額と同額の消費を行ったとしたら、旅行消費額は6兆1263億円に上ります。

2)宿泊・観光事業者だけではない波及効果

経済産業省は、前述の観光庁の推計を基にした訪日外国人旅行消費額の生産波及効果を、7兆7756億円と試算しています。これに伴う付加価値誘発額は4兆230億円となり、2019年の名目GDP(553兆9622億円、二次速報値)の0.7%に相当します。さらに、二次波及効果を加えた付加価値誘発額は5兆円となり、名目GDPを0.9%押し上げた計算になります。

波及効果は宿泊・観光事業者や飲食サービス事業者だけにとどまらず、商業・農林業・金融・保険など幅広い業種に及びます。

また、インバウンドに伴う日本円に対する需要の高まりや、経常収支の黒字幅が拡大することによって、円安マインドに一定の歯止め効果が出れば、円安で苦しむ企業に恩恵をもたらす可能性もあります。

4 コロナ前から変化した外国人観光客のニーズ

インバウンドを取り込むには、コロナによって変化した外国人観光客のニーズを押さえることが大切です。インバウンドを取り込むための旅行企画やPR方法は、以下のコンテンツを参照ください。

また、以下のコンテンツでは、ウィズコロナの状況下で外国人観光客のニーズに応えた特徴ある宿泊施設を紹介しています。

5 リスクに備える:感染予防や感染者が出た場合の対応

コロナへの感染リスクがなくならない中で、外国人観光客が訪日する際の最大の懸念は、何といっても日本で感染が確認された場合の対応でしょう。外国人観光客が感染などの病気・けがに見舞われた際の対処方法について、以下のコンテンツで紹介しています。

6 参考:外国人の入国制限の緩和に関する主な施策

日本政府による、外国人の入国制限の緩和の流れは次の通りです。

外国人の入国制限の緩和に関する主な施策と訪日外国人数の推移

政府は2020年2月に指定感染症に定め、中国湖北省の滞在履歴者のある外国人などの入国を禁止して以降、禁止対象エリアを広げ、2020年12月28日から全ての国・地域からの新規入国を禁止しました。その後も入国規制の緩和と強化を繰り返しましたが、観光客の受け入れ禁止は一貫して続けていました。

以上(2022年10月)

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画像:bbernard-shutterstock

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