書いてあること
- 主な読者:事業計画は自分の頭の中にあるから大丈夫だと勘違いしている社長
- 課題:社長の頭の中は社員には分からないし、経営者も全ての数字を覚えられない
- 解決策:事業計画の基本となる「利益計画」と「販売計画」の策定から始める
1 独り善がりな社長は危険です
「事業計画は自分の頭の中にあるから、わざわざ作らなくてもいい」、つまり
自分には目指すべき姿(規模)があり、経営環境の変化に応じて、軌道修正をしながら経営のかじ取りをしているから大丈夫
という社長は多いですが、そのままでは危険です。
例えば、社長が当然のように行う経営判断で方針転換がなされたとしても、その理由や効果が社員に示されていなければ、社員は「いつもの朝令暮改。もう付き合いきれない」とうんざりしてしまうかもしれません。
また、社長はさまざまな会社の数字を覚えていて、状況に応じてそれを増やそう、減らそうと考えています。しかし、その数字や想定する変化が社員に示されていないと、社員は会社の成長や業務効率化の成果を実感できません。
最初から事業計画を作り込むのが難しい場合は、まず「利益計画・販売計画」に絞って策定してみましょう。そのためのポイントを紹介します。
2 利益計画策定のポイント
1)利益計画とは
利益計画は計画年度の予測損益計算書です。ゴールとなる利益計画を検討し、現状とのギャップを埋めるための課題を明らかにします。例えば、当期純利益を前年度比20%増にするというゴールを設定したら、そのために、どの商品の販売を強化すべきなのか(販売計画)といった検討課題が明確になります。
2)損益計算書のフォーマットで、科目は細分化する
利益計画は計画年度中の実績管理に使われるので、フォーマットは損益計算書に合わせます。ただし、損益計算書と同じ科目では大まか過ぎるので、もっと細分化します。細分化の基準は、経理が使用している勘定科目や補助科目です。
さらに、年度単位の金額を月次で細分化します。支店(店舗)や部門が複数ある場合は、「支店(店舗)別・部門別」でも細分化するとよいでしょう。
3)金額は当期純利益から逆算する
損益計算書は「売上高-費用=利益」という構成ですが、利益計画では「目標利益=達成可能売上高-許容費用」と考えます。つまり、
獲得すべき目標利益を決め、それが確保できる売上高を許容できる費用とともに算出
します。営業利益や経常利益を想定しつつ、最終的に会社に残す(純資産に積み立てる)ことができる当期純利益から検討します。
目標となる当期純利益は、「企業(経営者)の目標額」「過去数年間の実績額」「資金計画(借入金計画、資金調達計画など)」などを勘案して検討します。借入金の返済などを考慮して算出した当期純利益は、おおよそ次の計算式で算出できます。
目標となる当期純利益=
予定借入金返済額+予定配当金額+目標社内留保額-予定減価償却費
目標となる当期純利益を決定したら、法人税などを加えて税引前当期純利益を算出します。次に特別損益を加減して経常利益を算出し、営業外損益を加減して営業利益を算出します。さらに販売費・一般管理費を加えて売上総利益を算出し、最後に売上原価を加えて売上高を算出します。交際接待費など支出額を予測しにくい費用については、ひとまず前年度実績を目安にするとよいでしょう。
3 販売計画策定のポイント
1)販売計画とは
販売計画は、利益計画で策定した売上高や売上総利益などを、顧客別・商品別に展開した計画です。販売計画には、
- 顧客別販売計画:製造・卸売業など法人顧客との継続取引が中心の企業に向いている
- 商品別販売計画:小売業など不特定多数の顧客との小口取引が中心の企業に向いている
といった種類があります。
2)ギャップを埋める方策の基本方針
「目標利益を達成する!」という強い思いがあると、販売計画は楽観的なものになりがちですが、冷静になりましょう。仮に目標売上1000万円、しかし現状ではせいぜい600万円といった場合、不足する400万円分を達成するための対策を検討します。
その際は、次のように「確度の高い方策から検討する」のが基本です。
- 既存顧客への既存商品の販売額
- 既存顧客への新商品の販売額
- 新規顧客への既存商品の販売額
- 新規顧客への新商品の販売額
これは、過去の販売実績や市場のトレンドなど、企業の持つ経験や知識に基づいて優先順位を付けたものです。そのため、「1.既存顧客への既存商品の販売額」は、最も確度の高い計画が策定できるでしょう。逆に「4.新規顧客への新商品の販売額」は、顧客・商品共に経験や知識がありません。計画の確度は低くなってしまうため、検討するのは最後となります。
4 事業計画を使いこなす
事業計画は策定して終わりではありません。計画年度中、計画と実績との差異を把握し、必要な対策を講じていきます。その前提は月次単位の実績把握と素早い行動です。
まず、月次単位で実績把握ができるように数字の集計フローを確認し、必要な改善をします。経理・会計業務を外部の会計事務所などに委託している場合、月次の実績把握ができるタイミングで集計してもらうように依頼します。必ずしも全ての科目がそろっていなくても大丈夫ですが、大口顧客に対する売上高など重要科目は確実にそろえましょう。
分析の結果、販売戦略を見直す必要が出てくることもあります。迅速に行動に移すために、月次で経営会議を開催し、幹部社員と方針の擦り合わせをしましょう。経営会議の場で初めて数字を確認し、課題を検討するのでは非効率なので、
あらかじめ実績を参加者に配布し、経営者が感じている課題を動画にして共有
すると、議論がスムーズになります。
以上(2023年10月更新)
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画像:photo-ac