事業規模の拡大に伴うメンバーの増員、福利厚生の充実、経営者の出身地への貢献など、オフィス移転を検討するケースは意外と多いものです。実際にオフィス移転をするとなると、移転に必要なコストの調査や官庁などへの届出など、やるべきことが少なくありません。

しっかりと準備する場合、オフィス移転には10カ月程度を要することがあります。年度始めなど区切りの時期にオフィス移転を検討されている企業の参考になるように、この記事では、オフィス移転のスケジュールの目安、移転準備などで検討すべきポイントなどを紹介します。

1 オフィス移転に必要なスケジュールの目安

オフィス移転では、移転スケジュールの確認などの社内事務と法定届出事務などの社外事務が生じます。これらをスムーズに行うためにはスケジュールをしっかり立てましょう。次のスケジュールは目安ですが、実際に移転する際の参考になると思います。

時期別に移転の際のタスクをまとめた画像です

2 移転に必要なコストなど移転準備

1)自社にとって適正な広さや賃料を知るためには

日本ビルヂング協会連合会が発行する「ビル実態調査(全国版)」には、契約面積ベースのオフィスワーカー1人当たり床面積の推移などが掲載されています。

また、不動産流通推進センターのウェブサイト「不動産ジャパン」の他、オフィス仲介大手の三鬼商事、三幸エステート、シービーアールイーなどでは、主要都市のオフィス賃料の相場データを公表しているので、賃料の参考にすることができます。

2)移転に必要な費用はどの程度かかるのか

オフィス移転にかかる費用は、敷金、礼金、仲介手数料、前家賃、前共益費、火災保険料、内装工事費、設備工事費、家具・備品購入代、引っ越し代、名刺や封筒の印刷代など多岐にわたります。これらにかかる費用を把握しておきましょう。

詳細については、不動産会社など関係各所から見積もりを取る必要がありますが、三鬼商事や三幸エステートなどのサイトでは、面積や入居人数などから、移転に必要な費用の概算をシミュレーションできます。

3)移転を任せるパートナーの選び方

オフィス移転に関する業務は非常に多岐にわたり、ノウハウ・実績を持つパートナーの協力が欠かせません。パートナー候補先としては、オフィス家具メーカー、建築デザイン事務所、プロパティマネジメント会社、通信系設備工事会社などがあります。

ノウハウ・実績などからパートナーの候補先を数社に絞り、各社にプレゼンテーションしてもらい、技術面・コスト面から提案内容を判断したり、候補先の担当スタッフの力量を確認したりします。

4)現状のオフィスの解約予告期間を確認する

不動産の賃貸借契約書には、契約解除に関する条項があります。オフィス移転のスケジュールを立てる際に、現在のオフィスの賃貸借契約書で、この条項を確認しておきましょう。現在のオフィスと移転後のオフィスの賃料について、両方負担する期間をなるべく短くするため、この解約予告期間を勘案して移転の時期や条件を検討します。

5)不動産会社に物件を紹介してもらう

移転の時期や希望する条件が固まったら、不動産会社へ移転先オフィスビルの紹介を依頼します。移転先の候補となる物件については、現地にて内見をします。あらかじめ設定していた条件に加え、フロア形状、フロア内の柱の有無、眺望、採光、入居している他のテナントの状況、エントランスの開閉時間、エレベーター・トイレなど共用部分の状況、携帯電話の電波状況などを確認します。

6)申し込みと条件交渉

移転先の候補として気に入った物件が見つかったら、不動産会社へ申し込みをします。この段階で、不動産会社を通じて、移転先候補の物件の貸主に条件交渉を行います。賃料・共益費の金額交渉を行うとよいでしょう。賃料が一定期間発生しないフリーレント物件なら、1~3カ月程度の賃料を抑えられます。

また、不動産会社を通じて審査書類を提出します。主な審査書類として次が挙げられます。提出が求められる審査書類は、物件の貸主によって異なるので、あらかじめ確認しておきましょう。

  • 法人の登記簿謄本(写し)
  • 法人の概要(会社のパンフレットなど)
  • 直近3期分の決算書類
  • 連帯保証人の身分証明書(写し)
  • 連帯保証人の収入証明(写し)

7)現在のオフィスを解約する

審査書類を提出後、審査を通過した段階で現状のオフィスの管理会社に解約を申し入れます。解約の申し入れは基本的に電話ではなく書面で行います。この解約通知書面は、契約時に渡されるのが一般的で、その書面をFAXまたは郵送で送付します。

なお、解約の申し入れ後は、日割り計算で賃料を支払うのが通常です。送付日が解約を受け付けた日付となるため、早めに対応するようにしましょう。

8)賃貸借契約を締結する

契約時に必要なものとしては、一般的に次の書類があります。契約によって必要な書類は異なるので、事前に不動産会社や貸主に確認の上、契約日までに用意します。

  • 法人の登記簿謄本
  • 法人の印鑑証明書
  • 連帯保証人の住民票
  • 連帯保証人の印鑑証明書

賃貸借契約を締結した後に一方的に解約を申し出ても、それが認められるとは限りません。違約金などが発生する可能性もあるので、事前に条件交渉の結果が正確に契約書に反映されているかをしっかりと確認することが大切です。内容に問題がなければ契約書に署名・押印を行います。敷金、礼金、仲介手数料、火災保険料などを支払い、費用に応じて領収書、預かり証などを受け取った後、鍵が渡されて契約は完了します。

9)各種工事の発注と引っ越し

賃貸借契約完了後に、内装工事、家具・備品、通信機器・LAN設定工事、引っ越しの発注を行います。騒音が出る工事については、他のテナントの迷惑にならないよう、土曜、日曜にしか作業ができない場合も多いため注意が必要です。

また、取引先などに出す移転通知状や社用封筒、名刺、ゴム印などの発注を忘れずに済ませておきましょう。この他に、引っ越しの際に発生するごみの処理を検討しておきましょう。運送業者に引き取ってもらえるかどうかを確認し、引き取ってもらえない場合は、廃棄物処理業者などに別途依頼する必要があります。

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3 民法改正はオフィスの賃貸にどう影響する?

2020年4月1日より民法が改正され、オフィスの賃貸については次のような影響があります。

  • 敷金の返還や原状回復のルールが明確化
  • 貸主(債権者)から保証人に対して、主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務が新設
  • 個人根保証契約において極度額の設定が義務化
  • 個人根保証契約において契約時の情報の提供義務が新設

1.については、判例や解釈論などを明文化したものであることから、実務上の影響はそれほど大きくないといわれています。

一方、2.~4.については、大きな変更とされており、特に借主の立場でいえば、3.~4.が重要になります。3.については、契約書で極度額(保証人の責任限度額)を定めることが義務付けられました。改正後は極度額を定めていない契約には効力が生じません。極度額は法律上の規定があるわけではなく、保証人と貸主が相談によって決めます。

4.については、オフィスなど事業用の賃貸については、個人の保証人に対して借主の財産状況などの情報を提供することが義務付けられました。情報提供を行わない、または虚偽の情報を提供したことによって、保証人が誤認をし、それによって保証契約の申し込みまたはその承諾の意思表示をした場合において、主たる債務者がその事項に関して情報を提供せずまたは事実と異なる情報を提供したことを債権者が知りまたは知ることができたときは、保証人は保証契約を取り消すことができます。

4 法務局、金融機関など関係各所への手続きを忘れずに

移転時には、法務局や税務署など各監督官庁に届出をしなければなりません。各届出書は、「移転するのが本店なのか支店なのか」「移転先が同一都道府県か否か」など、ケースによって提出書類や添付書類、届出期間が異なるものがあります。

なお、次に紹介する項目以外にも必要な届出があるので、移転前に各届出先、司法書士・行政書士・税理士・社会保険労務士などの専門家に相談した上で、進めていきましょう。

官公庁などへの手続きや届出が必要な事務をまとめた画像です

また、各監督官庁以外にも金融機関や郵便局などへの届出も、忘れないようにしましょう。

以上

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