書いてあること

  • 主な読者:価値を生む現場づくりを目指す経営者
  • 課題:現場力が優れている企業となるために押さえておくべきポイントを知りたい
  • 解決策:社員をまとめ上げるために欠かせないのが、「人に対する信頼感や親近感」、あるいは少し強い表現で言えば「忠誠心」といったものである。そのため、日頃のコミュニケーションの積み重ねなどが重要になる

1 現場力とは

現場力とは、「自主的に問題を発見し、それを解決できる社員が集まる現場に備わる力」です(論者によって異なります)。現場は日々の業務を担う場であり、あらゆる企業に存在します。

現場は「企業の価値を生む場」と言い換えることができ、その優劣は企業の競争力に大きな影響を与えます。経営者なら自社の現場力を少しでも高めたいと考えるはずです。それは、現場力に優れている企業と劣っている企業とでは、次のような違いがあるからです。

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2 「7つのS」に見る組織変革のヒント

現場力を高めるには、さまざまな施策を多面的に実施し、社員の意識、あるいは組織全体を変革していく必要があります。その際に参考になるのが、「マッキンゼーの7Sモデル」です。

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7つのSは、「ハードS:Strategy(戦略)、Structure(組織構造)、System(システム・制度)。ソフトSよりも変えやすい」と「ソフトS:Shared value(共通の価値観)、Style(経営スタイル・社風)、Skill(スキル・能力)、Staff(人材)。強制的または短時間で変えることは困難」に大別されます。

組織変革を進める際、ビジョンの策定などハードSの整備に注力してしまいがちです。社員からの支持を得られるかは別として、極論を言えばハードSは経営者がトップダウンで変えることができるなど、取り組みやすいからです。

一方、ソフトSには社員の価値観が反映される必要があるため、変えるには時間を要します。以降では、変えることが難しいソフトSの4要素の視点から、現場力を高めるための取り組みを考えていきます。

3 ソフトSを高める

1)Shared value(共通の価値観)

現場力を高める素地となる共通の価値観を社員が共有できるようにします。共通の価値観を共有する方法として、「クレド(企業の信条や行動指針を簡潔に記したもの)を導入するなど、現場での判断基準を示すルールを明文化すること」が考えられます。

クレドは、経営者がトップダウンで作成することもできますが、社員がボトムアップで作成したほうが現場の実情に即した内容が盛り込まれ、組織に浸透しやすいことがあります。

2)Style(経営スタイル・社風)

経営スタイル・社風は社内で緩やかに共有されているものであり、クレドのようにはっきりと明文化できるものではありません。しかし、社員は少なからず経営スタイル・社風に影響を受けて業務を進めていることを意識しましょう。

経営スタイル・社風を社内に浸透させる方策として、「自由に意見を言い合うことのできる場を積極的に設ける」などが考えられます。また、経営者が朝礼や社内報などを通じて、経営スタイル・社風を体現しているエピソードを紹介することも効果的です。

3)Skill(スキル・能力)

現場力を発揮している状態とは、現場の社員が単に目の前にある問題解決や改善活動に取り組むだけではなく、より高いレベルで業務を遂行しようとしていることです。社員には「問題を発見・指摘する力」「問題を解決する力」が求められます。

社員に「問題を発見・指摘し、解決する」ことを体感するために、「『目安箱』のような制度を整備し、業務のやり方、社内の制度で疑問に思っていることなど、日々の業務で感じている問題を指摘してもらう」などの方法が考えられます。

社員が問題を発見・指摘した後は、どのような解決策を実施するのか、また、その結果など、問題解決に至るまでのプロセスを掲示板に貼り出すなどして、現場で問題を共有できるようにします。

4)Staff(人材)

現場力を高めるためには、「経営者と現場をつなぐ人材」が不可欠です。マネジャーなどの立場にあるミドルマネジメントに、「共通価値観を共有する、経営スタイルを浸透させる、社員のスキル・能力を引き出す」ための取り組みを促進してもらいましょう。

例えば、「社員のスキル・能力を引き出す」といった取り組みを促進するのであれば、社員とのコミュニケーションを通じて、日々の業務で感じている問題点を聞き出し、それをどう解決すればよいのかアドバイスを与えたり、一緒に考えたりしてもらいます。

4 現場力を高めるための視点

1)レビンのモデル

現場力を高める取り組みを一過性のものとしないために、心理学者のクルト・レビンが提唱した「1.解凍→2.変革・移動→3.再凍結」の順で変革を進めていくモデルが参考になります。これを実施することで、時間を経るに従って現場力を高めていくことができます。

なお、「1.解凍」は社員に変革の必要性を理解させ、新たな変化に向けての準備を促す段階、「2.変革・移動」は組織に新しい行動基準や考え方を導入する段階、「3.再凍結」は新しい行動基準や考え方を定着させて高める段階のことです。 

2)経営者、ミドルマネジメントといったリーダーが現場を動かす原動力となる

現場力を高めるためにさまざまな取り組みを実施していくことになりますが、社員には賛成派も反対派もいるので、全社員を巻き込んで取り組みを進めることは簡単ではありません。

社員をまとめ上げるために欠かせないのが、「人に対する信頼感や親近感」、あるいは少し強い表現で言えば「忠誠心」です。例えば、「以前社長と懇親会で話したときに、自分の話を真剣に聞いてくれた」「マネジャーの○○さんはいつも自分をサポートしてくれているから、あの人が困っているなら力になりたい」といったようなことです。

一見、小さなことに思えますが、こうした小さなコミュニケーションの積み重ねや、社員のことを気に掛けている姿勢が、社員を動かす力になるということを忘れてはいけません。

以上(2018年10月)

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画像:pixabay

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