書いてあること
- 主な読者:自社や他社の知的財産をビジネスに活用したい経営者
- 課題:知的財産の価値の評価手法が分からない
- 解決策:3種のアプローチによるそれぞれの評価手法について理解する
1 知的財産の概要
1)知的財産の重要性
知的財産とは、人々の工夫や発見、営業上の信用など、人間の知的な活動から生じる財産を指します。主な知的財産としては次のようなものが挙げられます。
1.知的な創造物
- 発明(独創的なアイデア)
- 考案(物品の形状や構造)
- 意匠(物品のデザイン)
- 著作物(音楽、小説、絵画など)
2.営業上の標識となるもの
- 商号(企業が事業活動を行う時に使う名前)
- 商標(商品やサービスを示す文字、デザイン)
知的財産の中には第三者が簡単に模倣できてしまうものがあります。しかし、発明の成果などを無制限に第三者が模倣して利用できるとなると、人や企業が費用や労力をかけてつくり出す意味がなくなってしまいます。また、長年の積み重ねで消費者から信頼を受けてきた商品のデザインなどを模倣したものが市場に出回ると、消費者は安心してその商品を選ぶことができません。こうした第三者による模倣への対策のために知的財産の創作者に与えられる法的な権利が知的財産権です。
知的財産権は、それぞれの保護対象に応じて、特許法、実用新案法など個別の法律によって保護されています。知的財産権のうち、特許権・実用新案権・意匠権・商標権の4つは「産業財産権」と呼ばれています。
2)知的財産の活用
知的財産は保有しているだけでは意味がありません。知的財産は、ビジネスに結びつけることでその価値を発揮するものです。具体的には、次のような方法によります。
- 市場に参入障壁を築き、自社の優位性を確保する
- 他者とライセンス契約を結び、実施料収入を得る
- 知的財産を担保に融資を受ける
知的財産は、「他者による模倣などを受けた際の対抗手段」ですが、そうした「受け身」的な対応だけでは、競争が激化するビジネス社会では生き残っていくことはできません。知的財産を積極的に活用することで、自社の収益性を高めることが重要です。
3)知的財産の価値評価の重要性
特許などの知的財産について従来型の「権利による保護」という観点だけではなく、積極的にビジネスに活用していく必要性がますます高まっています。知的財産の活用において、「知的財産権の売買」「資金調達」「M&A」などの場面では、知的財産の価値評価が必要不可欠です。
知的財産をビジネスに活用するためにも、企業にとっては「自社が有する知的財産の金銭的価値はどの程度なのか」という点が重要となります。
しかし、現在のところ、知的財産の価値に関する評価方法が確立していないために、優れた知的財産を持ちながら、知的財産による資金調達などができない企業があると指摘されています。また、企業以外にも、裁判所や金融機関などが企業の資産価値などを算出する際にも知的財産の価値評価は必要となります。
知的財産の価値を評価する際の考え方としては、主にコストアプローチ、インカムアプローチ、マーケットアプローチの3種が用いられます。
それぞれの考え方には一長一短があり、実際に評価を行う際には、それぞれのケースに合わせて有効な手法を選択します。また、複数の手法による評価を行い、その結果を比較検討して最終的な評価を決定することもあります。
2 知的財産の価値評価の手法
1)コストアプローチ
コストアプローチは、知的財産を取得するために要した費用額から、知的財産の価値を評価しようとする考え方です。
コストアプローチには、主に次の2通りの方法があります。
- 原価法
- 再構築費用法
コストアプローチは、取得に要する(要した)費用を価値評価の基準としていることから、比較的客観性があるといえます。
しかし、「コストに含める範囲によって価値が大幅に変化する」などの問題があります。
2)インカムアプローチ
インカムアプローチは、知的財産が将来生み出すと予測される利益などから、知的財産の価値を評価しようとする考え方です。
インカムアプローチには、主に次の4通りの方法があります。
- 計画キャッシュフロー法
- 単純DCF法
- リスクを考慮するDCF法
- オプション理論ベース
インカムアプローチは、知的財産が持つ収益力を反映した手法だといえます。現在、知的財産の価値評価において最も一般的に用いられているのは、このインカムアプローチです。
しかし、「収益予測が困難であり、不確実性が高い」「主観や経験的判断に陥りやすい」などの問題があります。
3)マーケットアプローチ
マーケットアプローチは、評価される資産に類似する資産取引を調査して知的財産の価値を評価しようとする考え方です。
マーケットアプローチには、主に次の2通りの方法があります。
- 批准アプローチ
- 残差アプローチ
マーケットアプローチは、実際の取引価額を基準とするため、客観性や信頼性があるといえます。
しかし、特に技術をはじめとした知的財産に関しては、取引当事者間の秘密事項として外部に取引価額などの情報が出てこないことが多いため、参照できる適切な事例がほとんど存在しないという問題があります。
3 企業の知的財産に関連する活動をサポートする機関
1)日本弁理士会
現在、国内には知的財産の価値を客観的に評価する大規模な機関はありません。知的財産の価値評価に際しては、「知的財産関連の専門部署や関連企業を設置し、企業が独自に評価を行う」「ノウハウを持つ弁理士に依頼して個別に評価を行う」ことが一般的です。しかし、評価者によって評価が大きく異なっているのも事実です。
そこで、日本弁理士会では、弁理士が関与する知的財産の価値評価について客観性および妥当性の向上を図ることを目的として、知的財産価値評価推進センターを設立しました。同センターは直接的に知的財産の価値評価を行うわけではありませんが、適切に価値評価を行うための情報をまとめるなどしています。
2)知財総合支援窓口
知財総合支援窓口では、知的財産権制度の説明といった基本的な事項から、知的財産を出願する際の手続き支援など、企業が知的財産に関する悩みや相談を一元的に受け付けています。
以上(2020年4月)
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画像:pixabay