書いてあること
- 主な読者:「えいやっ!」の思いだけではなく、定量的な根拠を持って判断したい経営者
- 課題:複数の選択肢からプランを選ぶ場合、導入コストの比較くらいしか思いつかない
- 解決策:過去と未来を切り分けた上で、関連する収益を総合的に把握して判断する
1 未来志向で感覚的に定量判断する
企業経営はいつでも先行きが不透明ですが、これは悲観ばかりではありません。誰にも未来が分からないからこそ、新たなチャンスが生まれてくることもあるのです。現在を切り抜け、未来のチャンスをつかむために経営者のかじ取りが重要です。
この記事では、そうした際に経営者の判断を助けてくれる「3つの原価」の話をします。難しい計算は一切なく、皆さんが感覚的に理解していることだと思います。ポイントは、
過去にとらわれず、今の財務諸表にとらわれず、未来の収益構造をイメージして判断すること
です。
2 「埋没原価」は過去のもの。未来思考で判断する
埋没原価とは、
将来の意思決定に影響を及ぼさない原価
です。例えば、A社から2000万円の新設備を導入するために、200万円の内金を支払ったとします。ところが、B社から同じスペックの設備が1700万円で導入できることが分かりました。A社をキャンセルすると、内金の200万円は戻ってきません。一見、200万円の内金がもったいないと考えてしまいますが、これこそが埋没原価です。A社とB社に払う金額を比較する際、内金は無視をして、次のように考えます。
- A社から購入:1800万円
- B社から購入:1700万円
これは新設備の導入なので分かりやすい例です。新設備だと、旧設備の導入費用やその設備に慣れるまでの教育コストなどが気になってしまいますが、これは埋没原価ですので、未来思考で判断する癖をつけましょう。
3 「機会原価」は幅広い視野で判断する
機会原価とは、
ある選択をしたら得られたはずの利益。逆にいうと、ある選択をしなかったために失った利益
です。先の新設備の例で考えてみましょう。埋没原価にとらわれて、
- A社から購入:1800万円
- B社から購入:1700万円
という選択肢からA社を購入先に選んだ場合、差額の100万円が機会原価となります。逆にいうと、その選択をしたために失ってしまう利益なので「逸失利益」ともいいます。ただ、機会原価の考え方は難しいので、実際は後述する「増分原価」を検討することになります。
4 「増分原価」は具体的な利益を計算する
増分原価は差額原価ともいわれるもので、
ある意思決定をした際に、現在から増減する具体的な原価
です。意思決定は未来に対して行うものですから、過去の財務諸表を読むだけではイメージできません。複数の設備投資案から選択する場合、設備投資によって変化する収益と原価から利益を算出します。具体的には、
増分利益=増分収益-増分原価
といったように増分利益を算出し、意思決定を行います。
先の設備投資の場合、単純な金額の比較ではB社からの購入が好ましいですが、ビジネスでは常に複数の要素が含まれます。実際、
A社とは別の設備でも取引しており、今回の新設備をA社から導入することで、メンテナンス費用が150万円安くなる
といったことは珍しくありません。この場合、
メンテナンスまで含めた増分利益は、A社から購入したほうが有利
となるわけです。
以上(2024年11月更新)
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