「経営者保証」とは、簡単に言うと、経営者が会社の連帯保証人となることです。経営者保証つきの融資を受けた場合、万が一会社として返済ができなければ、経営者は自分の財産を返済に充てなければなりません。
そのため、経営者保証つきの融資を抱えている経営者の多くは、
会社の経営に失敗したら、自分の財産まで失ってしまう。経営者保証がなければいいのに……。
と思っているのではないでしょうか。
経営者保証は、金融機関の長年の融資慣行として続けられていましたが、このように経営者の負担が大きいことから、2013年に「経営者保証に関するガイドライン(以下「ガイドライン」)」が作成され、経営者保証のつかない融資が推奨されるようになりました。
しかし、2022年上半期の時点でも、経営者保証のつかない融資は33.1%にとどまっています。そこで政府は2022年に閣議決定した「総合経済対策」において、経営者保証のつかない融資を促すことを盛り込み、年内にそのための施策を取りまとめるとし、さらなる強化に乗り出したのです。このように経営者保証を外す機運が高まってきている今は、経営者保証を見直す機会です!
この記事では、
- 2013年から始まった経営者保証を外す流れ
- 経営者保証を外す要件を示した「ガイドライン」
- 「ガイドライン」を活用すれば本当に経営者保証は外せるのか
について、解説していきます。
1 2013年から始まった経営者保証を外す流れ
前述のとおり、経営者保証を外すことや経営者保証のつかない新規融資を推奨する「ガイドライン」が、2014年2月から適用されています。
参照:「経営者保証に関するガイドライン(PDF)|全国銀行協会
しかし、その後も経営者保証のつかない融資は広がらず、金融庁は「ガイドライン」の周知を図るとともに、金融機関に対し「ガイドライン」の積極的な活用を要請したり、金融機関ごとの取組状況を一覧表にして掲示したりするなど、関与を強めてきました。
参照:経営者保証に依存しない融資慣行の確立に向けた施策について|金融庁
その結果、徐々に経営者保証のつかない融資は広がってきていますが、それでも2022年上半期の段階で民間金融機関による経営者保証のつかない融資は、33.1%にとどまっています(2017年度が16.5%)。
参照:「経営者保証に関するガイドライン」の活用実績について|金融庁
こうした状況を受け、政府が閣議決定した「総合経済対策」にも経営者保証のつかない融資の促進が盛り込まれ、金融庁は2022年12月に「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針(以下「監督指針」)」を改正しました。改正のポイントは金融機関に対し、経営者保証を求めた際には、
- 経営者にその理由を具体的に説明する
- その結果を記録し、金融庁に報告する
などの手続きを課し、経営者保証をつけた融資を抑制することが狙いです。改正後の「監督指針」は、2023年4月1日から適用されます。
参照:「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」|金融庁
また、「監督指針」の公表にあわせて、金融庁・経済産業省・財務省が共同で「経営者保証改革プログラム(以下「改革プログラム」)」を発表。「改革プログラム」では、
- 経営者と支援機関の目線合わせのチェックシートの作成(2022年12月作成済み)
- 経営者保証を徴求しない新しい信用保証制度の創設(2023年4月~)
- 金融庁に経営者保証専用相談窓口を設置(2023年4月~)
- 経営者保証の解除を選択できる信用保証制度の創設(2024年4月~)
など計21の施策を行うとしたのです。
参照:「経営者保証改革プログラム」|経済産業省
このように、経営者保証を外すための取り組みが急速に進んでいます。
2 経営者保証を外す要件を示した「ガイドライン」
経営者保証を外すためには自社の経営改善をし、金融機関と交渉する必要があります。金融機関は「ガイドライン」で経営者保証のつかない融資をすることが求められているので、これに沿った経営改善をしているかどうかが交渉のポイントになるでしょう。
「ガイドライン」には、経営者保証を外すための3つの要件(以下「3要件」)が提示されています。3要件とは、次のとおりです。
- 法人・個人の分離(資産の所有やお金のやり取りに関して、法人と経営者との関係が明確に区分されていること)
- 経営基盤の強化(財務基盤が強化されており、法人のみの資産や収益力で借入金の返済が可能であること)
- 経営の透明性の確保(金融機関に対し、適時適切に財務情報が開示されていること)
金融機関は、経営者保証を外す可能性を検討する際に、この3要件をどれだけ満たしているかを見てきます。
経営者は3要件の全て、または一部を満たすよう経営改善に努め、金融機関と経営者保証を外す交渉をすれば、外す確率を高めることができるかもしれません。金融機関は3要件の充足度合いによっては、代替手法(停止条件付保証契約など)を提案してくる可能性もあります。
この3要件を満たすために利用できるものが、「改革プログラム」の施策として作成された「ガバナンス体制の整備に関するチェックシート」などです。経営者がチェックするもの、商工会や弁護士などの経営支援者がチェックするものがあり、3要件のどういったところが見られるのかも分かるので、確認してみましょう。
チェックシートは中小企業庁が作成した「収益力改善支援に関する実務指針」の24ページ目にあります。
参考:「収益力改善支援に関する実務指針(PDF)」|中小企業庁
3 「ガイドライン」を活用すれば本当に経営者保証は外せるのか
1)外すためには、まず金融機関に相談すること
日本政策金融公庫の調査(2022年10月)によると、経営者保証は、
金融機関に相談したうちの約45.4%が「解除できた」
と回答しています。同調査の「解除できなかった理由」についても、「ガイドライン」の3要件にかかわる、
- 財務内容・業績が不十分(41.2%)
- 会社と個人の資産・経理の分離が不十分(12.7%)
- 情報開示不足(1.8%)
が、合計で55.7%に上っています。その他の「解除できなかった理由」も3要件に沿った経営改善を行えば、クリアできそうなものが大半です。「ガイドライン」に沿って経営改善を行い、金融機関に相談すれば、外せる可能性はさらに高まるといえます。そのため、まずは「ガイドライン」の内容を知り、
金融機関に相談してみることが大切
です。ただし、大前提として、いきなり解除の相談をするより、
金融機関と日頃からコミュニケーションを取り、信頼関係を築いておくことが大切
です。
2) 「ガイドライン」を活用して外せた事例
中小企業庁の「事例でみる経営者保証の解除~課題解決のポイントとその効果(2022年9月20日)」では、3要件を改善して解除となった事例を多く紹介しているので、抜粋して紹介します。
事例は中小企業庁の他にも、金融庁が紹介しています。それぞれ内容が違うので、あわせて確認すると、参考になるでしょう。
参考:「事例でみる経営者保証の解除 課題解決のポイントとその効果(PDF)」|中小企業庁
参考:「『経営者保証に関するガイドライン』の活用に係る参考事例集(PDF)」|金融庁
以上
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