書いてあること
- 主な読者:企業を成長させたい経営者
- 課題:企業の競争力強化のために必要な考え方を知りたい
- 解決策:企業の競争力の源泉を見直し、競争力強化策を検討する際のポイントを解説する
書いてあること
- 主な読者:企業を成長させたい経営者
- 課題:企業の競争力強化のために必要な考え方を知りたい
- 解決策:企業の競争力の源泉を見直し、競争力強化策を検討する際のポイントを解説する
1 競争力を考える
1)「競争力」の源泉を見つけるには
企業の「競争力」とは、文字通り市場において他社との競争を優位にするための能力のことをいいます。技術力や販売力など、企業の有する特定の能力だけを示すものではありません。技術力、販売力、人材開発力などの企業が持つ内部能力や業界内での自社のポジショニングなど、さまざまな要素が複合的に作用することで決定されます。
「企業の競争力を強化する」など、「競争力」という言葉は企業の「強さ」を表すキーワードとして頻繁に使われています。しかし、「自社の競争力の源泉は何か」「自社の競争力を強化するためにはどのような取り組みを行うべきか」ということを客観的に検討し、取り組んでいる企業は必ずしも多くはないようです。
そこで、本稿では企業が成長を図るための取り組みを「競争力」という視点から捉えて、競争力を強化するための基本的な考え方を紹介します。
2)理想の競争力とは
企業活動の大きな目的は「長期・継続的に収益を獲得し、存続していくこと」にあります。そのために企業は、「競合他社に対して持続的な競争優位性をもたらす能力」によって競合他社に打ち勝ち、顧客を獲得していかなければなりません。
持続的な競争優位性をもたらす能力にはさまざまな要因がありますが、それらの中でも、「他社が容易に模倣できない(模倣困難性)」ということが重要となります。容易に模倣できるものであれば、他社はすぐに同じ能力を身に付けてしまうため、持続的な競争優位性をもたらす競争力とはなりません。
この模倣困難な競争力を生み出す主な要因は次の2つです。
1.独自性
「独自性」とは、自社独自の技術やノウハウなどを取り入れた競争力のことです。競合他社の知らない技術やノウハウに裏打ちされた強みは、容易に模倣されることはありません。
特許などの知的財産権として保護されている技術などに基づく競争力が、典型的な例といえるでしょう。
2.複雑性
「複雑性」とは、多様な要素から構成されている競争力のことです。たとえ、一つ一つはどの企業でも簡単に模倣できるような小さな要素でも、それらが多様に積み重なれば、競合企業は、それら全てを模倣できにくくなります。また、たとえ競争力を構成する多様な要素の中から中心的なものだけを模倣したとしても、同じ効果を得ることは非常に困難です。「カイゼン」に積極的に取り組む企業風土、サプライヤーとの密接な関係などが複雑に絡み合って構成されている「トヨタ生産方式」は、複雑性に裏打ちされた競争力の1つといえるでしょう。
2 競争力強化に取り組む際の基本方針
競争力強化を図るための基本方針は、「どの企業にも負けない自社の得意分野」あるいは「『○○といえば、この企業』といわれるような強み」をつくることです。
その際は、現在強みを発揮している分野において取り組むとよいでしょう。これまで強みを育成するためにさまざまな取り組みを行っている分野であれば、全く新しい分野よりも、組織構造面や従業員の心理面などにおいて取り組みやすいはずです。
その上で、他社には負けない突出した優れた能力を生み出す取り組みは、競争力強化という観点で2つのメリットがあります。
1つ目は、企業全体の能力向上を促す効果があるということです。突出した優れた能力があれば、その能力を十分に活かそうと多様な取り組みが行われます。その結果、企業全体の能力を連鎖的に向上させる効果が期待できます。
2つ目は、突出した優れた能力は、関連するさまざまな情報の蓄積を促す効果があることです。突出した優れた能力を有していると、商談・共同事業・共同研究の依頼や、講演会・セミナーの講師の依頼・経営に関する相談など、その能力を求めるさまざまな企業や団体などからのアプローチが増加します。それに伴って、同業他社の動向、最新の技術情報、川上(サプライヤー)・川下(顧客)に関連する情報など、自社の能力を高めるために有益な情報がその企業に集まるようになるのです。
このように自社の強みの育成にウェートを置くことで、効果的に競争力の強化を図ることができるのです。
3 競争力強化策を検討する際に考慮すべき4つのポイント
1)自社独自の技術・ノウハウを得るために「実験」を取り入れる
「独自性」を高めるためには、自社固有の技術やノウハウなどを蓄積する必要があります。その際に有効なのは、「新商品のテストマーケティング」「新たな生産方式の試験導入」など市場や製造現場などにおける「実験」を行うことです。
さまざまなことを実際に試してみることで、書籍などからでは得ることのできない自社固有の技術・ノウハウなどを蓄積することができます。
実験を行う際のポイントは「小さく、繰り返し行う」ことにあります。実験には予算上の制約や失敗した場合のリスクが伴います。このようなリスクを回避するためには、事前に十分な検討を行うことはもちろんですが、可能な限り小規模・短期間で「小さく」取り組むことが重要となります。そして、そこから得られた成果を基に、新たな「小さな」実験を行うのです。
このように小さな実験を繰り返し行っていくことによって、経営上のリスクを回避しながら自社独自の技術・ノウハウを蓄積することができます。
2)組織的に、小さな工夫や改善を繰り返す
小さな工夫や改善といった取り組みも競争力を強化する上で効果があります。模倣困難性という視点から見ると、特別な技術など特定の能力に基づく競争力よりも、むしろ企業独自の小さな工夫や改善を重ねて構築された競争力のほうが「複雑性」が高く、模倣が困難な場合が少なくありません。
例えば、特定の技術のみに基づいた競争力は、それ以上に優れた新技術が開発されてしまえば、その競争力は失われてしまいます。しかし、小さな工夫や改善の積み重ねから形成された競争力は、容易に模倣することができないのです。
小さな工夫や改善を競争力強化に役立てる際のポイントは、「継続的に取り組む」ことです。継続的に工夫や改善を行うには、場当たり的に対応するのではなく、計画を立てて組織的に行い、工夫や改善を重層的に積み重ねていく必要があります。
3)他社の技術・ノウハウなどを積極的に取り入れる
他社の技術・ノウハウなどを積極的に取り入れることも効果的です。前述した「実験」などを通じて独自技術・ノウハウなどを蓄積するにしても、1社単独の取り組みで得ることのできる技術・ノウハウなどには限界があります。
また、他社は自社には無いさまざまな技術・ノウハウなどを有しています。これらの技術・ノウハウなどを、自社の持っている技術・ノウハウなどと融合できれば、自社単独では得ることが困難な新たな技術・ノウハウを蓄積できる可能性があります。
他社の技術・ノウハウなどを取り入れるためには、他社や団体などと交流を図る機会を積極的に設ける必要があります。例えば、異業種交流会に参加し他社や団体などの人たちと積極的に交流を図る、あるいは産学連携や他社との共同事業などを通じて自社以外の技術やノウハウなどを吸収するなどが考えられます。また、コンサルタントなど外部の専門家を利用することも有効でしょう。
4)「過大な」目標を設定してみる
ここまで紹介したポイントは、既存の業務プロセスなどをベースにして、一歩一歩着実に努力を積み重ねて競争力を高めていくという、いわば「競争力の“改善”」を行っていく方法です。
一方、過大な目標を設定することは、革新的な技術、新商品の開発、新たな生産方法を創出するなどして、革新的に競争力を向上させる可能性を秘めた方法です。
「発注から店頭に商品が並ぶまでの日数を従来の3分の1にする」など、一見すると実現できないような数値目標や、「従来には無い高品質の商品を低価格で製造・販売する」などの現在の常識とは相いれないコンセプトといった過大な目標は、「既存のシステムの改善」といった従来の延長線上の取り組みでは実現することができません。そのため、既存のシステムにとらわれないゼロベースでの検討を促し、結果として革新的な技術、商品の開発、新たな生産方法の創出につながる可能性があるのです。
過大な目標を通じて革新的に競争力を向上させる際のポイントは、「いかに設定した目標に『現実味』を持たせるか」ということにあります。単に過大な目標を設定するだけでは、従業員などには「そんなことは実現できるわけがない」といったように、現実味の無い絵空事として受け取られてしまいます。過大な目標を達成するためには、過大な目標を「実現すべき目標」として従業員を実際に動かさなければなりません。
過大な目標を「実現すべき目標」に落とし込むために最初に行うことは、「期限」を設けた計画を立案することです。過大な目標を達成するには従来とは異なった取り組みが求められるため、通常の経営計画などのように具体的かつ詳細な計画を立案することは困難でしょう。計画はラフなものでもよいですが、その際に必ず盛り込まなければならないのが期限です。明確な時間軸を与えるだけでも、過大な目標が現実味を帯びたものとなってきます。
以上(2019年10月)
pj80075
画像:unsplash