書いてあること

  • 主な読者:不安定な国際情勢、物価高など、経営の根幹に関わる出来事がある中で、改めて自社の目指すべき姿を明らかにしたい経営者
  • 課題:「長期ビジョン」の策定を検討しているが、何から着手すべきか分からない
  • 解決策:「10年後の目指すべき姿」(経営者の熱い思い×現状分析)を全社で共有し、経営計画に落とし込んで実行していく

1 「長期ビジョン」の策定をご提案

この記事は、

長期ビジョンを策定する際の基本的な考え方

をご紹介するもので、次のような状態を目指すための第一歩です。

  • 社長が「10年後の目指すべき姿」を明確に語ることができる
  • 社員も社長と同じように、「10年後の目指すべき姿」を語ることができる

長期ビジョンは、「10年後の企業の目指すべき姿」と考えていただければ大丈夫です。長期ビジョンは国や行政、大企業が策定するイメージがありますが、中小企業でも意識されることが増えています。長期ビジョンという言葉を使わなくても、

10年後、我が社はどのようになっているのか、いや、どのようになっているべきか?

を考えざるを得ないことがたくさんあるからです。例えば、

不安定な国際情勢、金利の上昇、物価高、SDGs、働き方改革、Web3

など、さまざまなレベルで経営者の心を揺さぶる数多くの事柄があります。さらに、これらをきっかけに事業承継を決断したり、逆に先送りを決めたりといったこともあるでしょう。

これからさらに経営環境は変わります。そのとき、ご自身が組織を率いるとしても、次世代にバトンをつなぐとしても、改めて御社が目指すべき姿を確認することはとても有意義であり、現に多くの経営者がそのように考えていることでしょう。

2 ミッションやパーパスなど「言葉の定義」は気にしない

「ビジョン」との意味の違いが分かりにくい言葉に、「ミッション、バリュー、パーパス」があります。放っておくとモヤモヤするので説明しますが、基本的に言葉の定義はそれほど気にする必要はありません。大切なのは、「10年後の目指すべき姿」を明らかにすることです。

「ミッション、ビジョン、バリュー」は経営学者であるドラッカーが提唱したもので、英語の頭文字をとって「MVV」と呼ばれることもあります。近年は、ここに「パーパス」も加わったので、余計にごちゃごちゃしています。それぞれの定義の一例は次の通りです。

  • ミッション:自社が実現すること(使命)
  • ビジョン:自社が目標とする姿(ミッションを達成したときの姿)
  • バリュー:大切にしている価値観や行動指針
  • パーパス:企業の存在意義

書籍や記事などによって内容が微妙に違うので、説明されてもスッキリしないかもしれません。ただ、コンサルタントに策定を依頼した場合、ある意味で型にはまった長期ビジョンでは、こうした内容も記載されます。言葉を変えて説明してみると、以下のようになりますが、あくまでも一例ですので、解釈の違いはご了承ください。

私たちは○○のために存在しており(パーパス)、△△を達成することが使命である(ミッション)。それが達成されたとき、私たちは□□な存在となっているだろう(ビジョン)。これらを含め、私たちは××という価値観を大切に行動する(バリュー)。

3 「長期ビジョン」の策定ステップ

では、長期ビジョンの策定に入りましょう。具体的なステップは次の4つです。

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1)第1ステップ:現状分析

長期ビジョンの策定は、自社の現状分析からスタートします。具体的には、社会経済全体の課題や業界の課題といった自社を取り巻く外部環境に加えて、自社の収支構造などの内部環境の分析を行います。

分析時には、政治(Politics)・経済(Economy)・社会(Society)・技術(Technology)から外部環境を分析する「PEST分析」や、顧客(市場)・競合・自社の現状を洗い出す「3C分析」などのフレームワークを活用します。経営幹部がそれぞれ分析し、それを持ち寄って議論するのもよいでしょう。

2)第2ステップ:目指すべき姿

現状分析を踏まえつつ、そこに経営者の熱い思いを加えて、

自社が目指すべき姿や自社が提供すべき価値

を再定義しましょう。ステップ1の現状分析は客観的に行いますが、経営者の思いは主観的なもので構いません。また、この時点では、

きれいにまとめる必要はなく、あるがままに経営者の思いを言葉や文字にする

ことが大切です。繰り返しますが、教科書的で、優等生な発想は捨てます。

経営幹部などと「ビジョン合宿(仮称)」をして、議論するのもよいでしょう。もし、中堅や若手がビジョン合宿(仮称)への参加を希望したら、ぜひ、加えてください。なぜなら、

10年後の目指すべき姿を実現していく原動力は中堅や若手になる

からです。

3)第3ステップ:具体化

10年後の目指すべき姿が明らかになったら、それを実現するための計画を策定します。これは、いわゆる「経営計画」なので、明確な収益計画、投資計画、社員数なども盛り込みます。新規事業を行う場合は、既存事業とのバランスも考慮しなければなりません。リソースが限られた中小企業が、本業(既存事業)を回しながら新しいことに取り組むのは簡単ではなく、既存事業が縮小することも覚悟しなければならないからです。

また、この第3ステップは前の第2ステップとは逆で、経営者の熱い思いだけでは駄目です。定量的な根拠も確認しなければならず、数字をごまかすようなことは論外です。

とはいえ、

10年後の収益をイメージできる経営者がどれほどいるでしょうか?

6カ月後、1年後さえ分からないのに、10年後など分かるはずがありません。そこで、発想の転換が必要です。それは、

10年後が分かるはずがないことは百も承知ですが、そうした中でも【自分たちが目指す、そして信じる姿】を力強く描く

ということです。そして、【自分たちが目指す、そして信じる姿】は変えませんが、そこに向かうルートは必要に応じて、中期経営計画で見直していくのです。長期・中期・短期の経営計画の関係は次の通りです。左にある「長期ビジョンで目指す姿 長期経営計画」は変更せず、それを構成する中期経営計画や短期経営計画は、適宜、見直していくイメージです。

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4)第4ステップ:文書化と浸透

こうしてまとまった内容を、文書化します。いろいろと難しい言葉を使いたくなるかもしれませんが、大切なのは、

横文字などを使ったそれっぽさではなく、「分かりやすさ」

です。日ごろ、社内で使われているなじみのある言葉で、シンプルにまとめてください。量(ページ数)も、必要なことが書いてあれば、短くても構いません。

策定された文書は、社内に周知徹底させ、

社員も社長と同じように、「10年後の目指すべき姿」を語ることができる

ようにしましょう。経営者がミーティングなどで伝える他、第2ステップで紹介したビジョン合宿(仮称)に参加した社員が、日々、長期ビジョンを現場で口にすることも大切です。

以上(2024年10月更新)

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画像:unsplash

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