書いてあること

  • 主な読者:遊休地を活用したい経営者
  • 課題:具体的にどう活用するのが効果的か分からない
  • 解決策:さまざまな活用例を参考に、できそうなアイデアを模索する

1 新事業の展開の必要性が高まる

どの産業も導入期、成長期、成熟期、衰退期をたどります。成熟期もしくは衰退期にある産業の事業者は、規模を縮小しつつ事業を継続して残存者利益を勝ち取るか、新たな収益源を生み出すしか、生き残る手段はありません。

本稿では、従来の事業の縮小・撤退などで生じた遊休地もしくは空きビルなどの建築物の活用により、新たな収益源を生み出すためのアイデア例を紹介します。

2 遊休地の活用例

1)セルフストレージ

セルフストレージは、顧客に収納スペースを提供するものです。タイプを大きく分けると、倉庫業法に基づき、物品を預かる事業である「トランクルーム」と、物品を収納するためのスペースを顧客に賃貸する事業の「レンタル収納」および「貸しコンテナ」があります。

トランクルームは倉庫業法に基づく事業であり、事業者には顧客との寄託契約により物品の補償義務が生じます。これに対し、レンタル収納および貸しコンテナは、スペースの賃貸借契約になるので、賃貸業と見なされ、原則として物品の補償はありません。

レンタル収納はビルや専用施設の室内を区切って使用するのが一般的で、貸しコンテナは屋外にコンテナを設置することが多いようです。このため、後者は遊休地、前者は後述する空きビル(建築物)の活用例に該当します。

セルフストレージは国内での歴史が浅く、今後の市場の成長が期待されています。業界大手のキュラーズのプレスリリースによると、トランクルームの2018年の市場規模は約590億円で、2025年には1000億円を超える規模へと成長する可能性を秘めているとしています。また、日本セルフストレージ協会のウェブサイトによると、米国では1700万室のセルフストレージがあるのに対し、日本では50万室程度にとどまっており、「狭い住宅事情の日本では、今後このサービスの需要は大きくなっていくものと思われます」と分析しています。

■キュラーズによる市場規模に関するプレスリリース■
https://www.quraz.com/info/pr/20190523.aspx
■日本セルフストレージ協会■
http://www.japanssa.org/

2)コインランドリー

コインランドリーはクリーニング業法の適用外の事業です。ただし、衛生的な管理を行うために厚生労働省が「コインオペレーションクリーニング営業施設の衛生措置等指導要綱」を定めており、事業者は施設の開設時などに保健所への届け出を行うことが必要となります。

基本的に店舗の営業は無人で行えるメリットがあることから、個人がフランチャイジーになるなどして副業として事業を始めるケースもある他、異業種からの参入も活発になっているようです。

東日本コインランドリー連合会のウェブサイトによると、コインランドリーの店舗数は、1997年の1万739店から、2017年は2万店となり、20年間でほぼ倍増しています。同連合会では、米国と比べて人口当たりのコインランドリーの店舗数はまだ半分であることから「これから伸びるビジネス」と見ています。

コインランドリーの特徴として、顧客には洗濯や乾燥のための待ち時間があることから、さまざまな施設を併設し、売り上げ手段の多様化や集客力のアップを図る動きが見られます。代表的な併設店舗は、カフェ、コンビニエンスストア、書店、ガソリンスタンド、フィットネスクラブなどで、この他にも洗濯関連のワンストップサービスとして洗濯代行を引き受ける店舗やクリーニング店もあるようです。

併設店舗の広がりは、逆に異業種からの参入を促す効果もあります。コンビニエンスストア大手のファミリーマートは2018年3月、コンビニエンスストアに併設したコインランドリー「ファミマランドリー」の第1号店を開店しました。2019年2月にはコンビニエンスストアおよび24時間フィットネスクラブとコインランドリーを併設した店舗も開設しています。また、ドラッグストア大手のツルハドラッグは2018年7月、コインランドリーのフランチャイズを展開するエムアイエス(旧mammaciao)とフランチャイズ契約を結び、ドラッグストアの施設内にコインランドリーを開設しました。

■東日本コインランドリー連合会■
http://claej.net/

3)サービス付き高齢者向け住宅

サービス付き高齢者向け住宅(以下「サ高住」)は、2011年に改正された「高齢者の居住の安定確保に関する法律」に基づく高齢者向けの住宅です。入居する高齢者に対し、状況把握サービス(入居者の心身の状況を把握し、その状況に応じた一時的な便宜を供与するサービス)、生活相談サービス(入居者が日常生活を支障なく営むことができるようにするために入居者からの相談に応じ必要な助言を行うサービス)、その他の高齢者が日常生活を営むために必要な福祉サービスを提供する施設で、建築物ごとに都道府県知事の登録を受けた住宅(もしくは有料老人ホームの居住部分)を指します。

登録を受けるには、国土交通省および厚生労働省が定めた基準を満たす必要があります。基準は国土交通省のウェブサイト「サービス付き高齢者向け住宅」に掲載されています。

高齢者住宅協会のウェブサイトによると、サ高住の登録件数は毎月増加しており、2011年12月の112棟・3448戸から、2019年7月には7415棟・24万7165戸へと増えています。

サ高住に関しては国が供給支援策を講じており、建設・改修の補助や税制優遇、住宅金融支援機構による融資などを受けられることも、追い風になっているといえます。

■国土交通省「サービス付き高齢者向け住宅」■
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000005.html

3 空きビル(建築物)の活用例

1)レンタルオフィス、貸し会議室

レンタルオフィスにはさまざまな定義がありますが、ここでは椅子やデスク、電話、通信回線など業務に使用される一定の物品や環境が備わったオフィス全般を指すこととします。そのため、シェアオフィス、コワーキングスペース、サービスオフィス、バーチャルオフィス、インキュベーションオフィスなどもレンタルオフィスに含むこととします。貸し会議室は、椅子、テーブル、ホワイトボードなどを備えた会議用の一室のみを貸し出す事業です。いずれも建築物内の1部屋単位から開業可能な事業です。

レンタルオフィスはシェアハウスのオフィス版という見方もできますが、他社との交流による情報収集や、施設に付随した各種サービスなど、賃料の安さ以外の目的で利用する企業が多いと見られます。料金体系は、月決めから時間貸し、機器類や各種サービスの利用といったオプションの設定などさまざまあります。貸し会議室は1日単位、時間単位での料金体系が多いようです。

貸し会議室大手で、サービスオフィスを展開する日本リージャスホールディングスを2019年4月に完全子会社化したティーケーピーが2019年8月に公表した新中期経営計画説明資料によると、同社が「フレキシブルオフィス」と定義するホテル宴会場、貸し会議室、レンタルオフィス、コワーキングスペースの2019年の市場規模は2000億円で、2030年には6兆円に拡大すると予測しています。同社はフレキシブルオフィス事業に関して、提供施設を2019年7月の410拠点・48万7000平方メートルから、2030年には約1500拠点・約140万平方メートルに拡大させる計画です。

レンタルオフィスは、施設やサービスの内容によって差異化が図れます。例えば、起業家向けのインキュベーションオフィス、セミナールーム・イベントスペース・会議室が使用可能なオフィス、共用スペースにラウンジやカフェを併設したオフィスなどがあります。この他、受付や電話対応の人員を配備したオフィスや、キッズルームが利用可能なオフィスもあります。さらに運営者側が共用スペースを使って、想定顧客のニーズに合わせたセミナーやイベントを定期的に開催するなど、ソフト面でも差異化できます。

一方、会議室は差異化策よりも規模や立地の影響が大きいと見られますが、前述のティーケーピーは宿泊施設に会議室などを併設した宿泊研修施設も展開しており、差異化にも取り組んでいます。

2)フィットネスクラブなど

日本生産性本部「レジャー白書2019」(以下「白書」)によると、フィットネスクラブの2018年の市場規模は7年連続の拡大となる4800億円で、前年を190億円(4.1%)上回りました。白書では小規模フランチャイズチェーンの拡大と、大手事業者のリノベーションや新業態・サービスの提供が寄与しているとしています。具体的には、24時間セルフサービス型ジムやトレーニングスタジオ、ホットヨガスタジオ、ストレッチサービス店を例に挙げています。さらに、新たに注目を集めている業態として、低酸素状態や暗闇でトレーニングするなど、小規模の目的志向業態と呼ばれる“ブティックスタジオ”の出店にも言及しています。

また、ヨガ・ピラティススタジオも成長が期待されています。白書によると、2018年の余暇活動の潜在需要(希望率から参加率を引いた数値が高いもの)の上位10位の中で、ヨガ・ピラティスは女性合計で第5位(13.6%)となり、女性の20代から50代までの各世代で上位10位以内に入っています。

ボルダリング・クライミングジムも注目されています。スポーツクライミングは新たに2020年の東京オリンピックで正式競技種目になり、今後メディアでの露出度が増えることが予想されます。中でもスポーツクライミングの3競技(リードクライミング、スピードクライミング、ボルダリング)のうち最も手軽に行えるボルダリングに特化したジムは、老若男女が参加できる施設としてニーズが高まる可能性があります。

3)その他

この他にも、立地の制約などは受けますが、今後の市場の拡大が見込まれる事業として、幼児向けのインドアプレイグラウンド、VR(バーチャルリアリティ)アミューズメント施設、インドアゴルフ場・シミュレーションボウリング場、カフェ等併設型ランニング(ウォーキング)ステーションなどが挙げられます。

以上(2019年11月)

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画像:unsplash

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