書いてあること
- 主な読者:オフィスビルにテナントとして入居している企業の経営者、財務担当者
- 課題:賃料(固定費)の負担は抑えたい。社員の満足度は高めたい
- 解決策:実態に見合う適正なオフィススペースを再確認。必要に応じて移転の是非を判断
1 「働く場所」を選択する時代の「攻め」のオフィス戦略
皆さんは普段、どこで業務を行っているでしょうか? 時と場合によって異なるでしょうが、これからの時代、その答えは、必ずしも「オフィス」ではないのかもしれません。
「働く場所」が多様化していく将来を見据え、オフィス戦略をどうするか。大きく分けると2つの選択肢が考えられます。
- 「働き方改革」などで在宅勤務やリモートワークが定着して出社する人数が減ったため、縮小移転する
- ウェブ会議用の部屋の新設や雑談できるコミュニケーションスペース確保のため、より広いオフィスへ移転する
オフィス移転は、理想の環境を実現し、経営課題の解決を図るチャンスでもあります。この記事では、初めてオフィス移転を検討する際の、必要な手続きとポイントを整理します。
2 まずは、現状のオフィスを再確認
1)面積は自社の実態に照らして適正か?
まずは、「出勤しなければならない社員が何人いるのか」「どのようなケースで、オフィスでないと通常業務に支障を来すのか」を確認しましょう。
労働安全衛生規則では、「事業者は、労働者を常時就業させる屋内作業場の気積を、設備の占める容積及び床面から4メートルをこえる高さにある空間を除き、労働者1人について、10立方メートル以上としなければならない」(第600条 気積)とされています。
オフィスビルの天井高を2.5メートルとすると、1人当たりの面積は4平方メートルですが、ソーシャルディスタンスを保つため、1人当たりの面積をそれ以上広めに取ることも考慮しましょう。
2)足元のオフィス市況は?
賃料(固定費)を抑えるためにも、移転希望エリアの平均空室率や平均賃料などの市況を正確に把握することが重要です。
例えば、オフィス仲介大手の三鬼商事、三幸エステート、シービーアールイーなどは、主要都市のオフィス市況データを公表しています。また、不動産流通推進センターが運営するウェブサイト「不動産ジャパン」では、エリア・路線などの条件を入力して、事業用物件を検索できます。
3 移転計画を立てる
1)現オフィスの解約予告期間は?
現オフィスと移転後の新オフィスの賃料を両方とも負担する期間をなるべく短くするため、現オフィスの賃貸借契約で、契約解除のためにはいつまでに申し入れが必要なのかを確認します。この解約予告期間を基に移転の時期や条件を検討します。
2)オフィス移転に掛かる費用は?
オフィス移転に掛かる費用には、次のようなものがあります。
- 新オフィスの敷金・保証金、礼金、仲介手数料
- 前家賃、前共益費
- 火災保険料
- 内装工事費、電気工事費
- 家具・備品購入代
- 引っ越し代
- 名刺や封筒などの印刷代
- 現オフィスの原状回復工事費
移転に掛ける予算は、これら全ての金額を見積もる必要があります。
これらの費用の会計処理の方法は、一時に経費になるものや資産計上しなければいけないものなど、支出の内容によって異なります。詳しくは税理士などの専門家に確認しましょう。
3)移転先の物件探し、条件は?
移転先の物件探しについては、不動産会社へ依頼するのが一般的です。その際、立地条件、必要面積、賃料、移転時期に加え、建物の仕様(天井高、床荷重、OAフロアの有無、個別空調の有無、エレベーターの有無、男女別トイレの有無、駐車場・駐輪場の有無、新耐震基準など)の条件を設定する必要があります。
新耐震基準とは、1981年(昭和56年)6月1日以降の建築確認において適用されている基準です。それより前に建築確認を受けた建物(旧耐震基準)であれば、耐震診断を受け、必要に応じた耐震補強が実施されていることを確かめましょう。
4)自社だけで全て対応できる?
オフィス移転に関する業務は多岐にわたります。通常業務と並行してオフィス移転を進めるために、ノウハウ・実績を持つパートナーを選定するのが一般的です。
オフィス家具メーカー、建築デザイン事務所、プロパティマネジメント会社、通信系設備工事会社などさまざまなパートナー候補先から、ノウハウ・実績などを参考に数社に絞り、各社にプレゼンテーションを行ってもらい、提案の良しあしを見定めましょう。
4 物件選びから引っ越しまで
1)不動産会社へ紹介を依頼~現地内見
移転時期や希望条件が固まったら、不動産会社へ候補物件の紹介を依頼し、現地に赴いて内見をします。
内見では、あらかじめ設定した条件に加え、フロア形状、フロア内の柱の有無、眺望、採光、ブラインドの有無、入居している他のテナントの状況、エントランスの開閉時間、エレベーター・トイレなど共用部分の状況、携帯電話の電波受信状況などを確認します。
2)申し込みと条件交渉~審査書類提出
候補物件の中から気に入ったところが見つかれば、不動産会社へ申し込んで、その物件を押さえます。この段階で、不動産会社を通じて、物件の貸主と条件交渉を行います。
賃料・共益費の金額交渉とともに、フリーレント(賃料を無料とする期間)の交渉も行うとよいでしょう。共益費についても、交渉次第で、入居工事着工時から請求対象とするといった条件が得られることもあります。また、内装工事や電気工事は、借主負担で、貸主指定の工事業者に発注するように定められていることが多いですが、これも交渉の余地はあるでしょう。
その後、不動産会社を通じて審査書類を提出します。主な審査書類として次が挙げられます。
- 法人の登記簿謄本(写し)
- 法人の概要(会社のパンフレットなど)
- 直近3期分の決算書類
- 連帯保証人の身分証明書(写し)
- 連帯保証人の収入証明(写し)
3)審査通過~重要事項の説明~預託金の支払い
審査を通過すると、賃貸借契約を締結するまでの間に、不動産会社の宅地建物取引主任者から重要事項(建物・設備・契約の内容、契約期間と更新・解除、法令による制限など)について説明を受けます。少しでも不明な点があれば納得のいくまで確認しましょう。
そして、契約締結日前日までに、敷金・保証金(預託金)を預け入れます。なお、契約締結から入居までの期間が長い場合は、契約時に預託金の一部を預け入れる場合もあります。
4)現オフィスの解約申し入れ
審査書類を提出後、審査を通過した段階で、現オフィスを管理している先に解約を申し入れます。解約の申し入れは、一般的に契約時に渡される解約通知書面を郵送またはFAXで送付します。
通常、解約の申し入れ後は、日割り計算で賃料を支払います。書面の送付日が解約を受け付けた日付となるため、早めに対応するとよいでしょう。
5)電話回線・インターネット回線の移転の手配、各種見積もり
電話回線・インターネット回線の移転の手配を行い、各種見積もりを取ります。
- オフィスのレイアウト作成、内装工事の見積もり
- 購入する家具・備品の見積もり
- 通信機器・LAN設定工事の見積もり
- 引っ越しの見積もり
6)新オフィスの賃貸借契約
不動産会社や貸主に対し、賃貸借契約に当たって必要な書類を事前に確認の上、契約日までに用意します。
賃貸借契約を締結した後に一方的に解約を申し出ても、それが認められるとは限らず、違約金などが発生する恐れもあります。事前に条件交渉の結果が正確に契約書に反映されているかを、しっかりと確認することが大切です。
7)現オフィスの原状回復工事の打ち合わせ
現オフィスを退去するに当たって、通常、壁や床、天井などを入居時の状態に戻す必要があります。この原状回復工事の範囲や期間、期限を貸主に確認します。なお、原状回復工事については、貸主指定の工事業者に発注するように定められていることが多いため、指定業者の有無も併せて確認しましょう。
原状回復工事が期限までに完了しない場合、契約の不履行と見られて工事の完了までの日数に賃料が発生することもあります。明け渡し日を期限とするのが一般的なため、その数日前には工事が完了するようにし、不測の事態にも対応できるようにしましょう。
8)新オフィスの内装工事
賃貸借契約完了後に、内装工事、家具・備品、通信機器・LAN設定工事、引っ越しの発注を行います。
内装工事に入る前には、レイアウトと工事内容が記載された図面、工程表を貸主に提出して許可を得ます。騒音が出る工事については、他のテナントの迷惑にならないように、土・日・祝日にしか作業ができない場合も多いため注意が必要です。
9)引っ越し
引っ越しでは、前日までに荷造りを済ませ、新オフィスで混乱が生じないようにしましょう。梱包した荷物と移転後のレイアウト図面に番号を振って引っ越し業者に渡し、新オフィスのどこに配置するのかが分かるようにしておくとよいでしょう。
粗大ごみが出る場合、各市区町村の窓口に問い合わせ、日時・場所など指示に従って出します。回収は基本的に有料なので(無料の市町村もあります)、問い合わせのときに料金や支払い方法について確認します。ビルで指定の業者がある場合には、ビルの管理会社から収集日や収集方法などの説明を受けましょう。
5 関係官庁への届け出
移転によって所在地が変更となるため、登記、税務、労務などについて関係官庁へ必要書類を提出し、手続きをしなければなりません。
ケースによって提出書類の様式や添付書類、提出期限が異なるため、実際には関係官庁に問い合わせて確認することが大切です。必要に応じて、司法書士、行政書士、税理士、社会保険労務士に手続きの代行を依頼することも検討しましょう。
以上(2022年7月)
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画像:Africa Studio-shutterstock