書いてあること

  • 主な読者:2024年版「中小企業白書」から、現在の中小企業の課題を知りたい経営者
  • 課題:現状、中小企業が抱えている課題と解決策の事例を知り、他社との競争に勝ちたい
  • 解決策:主な課題は「人手不足」「生産性向上」。取り組みは賃上げや省力化投資など

1 2024年を中小企業の飛躍の年に!

新型コロナウイルス感染症(以下「コロナ」)が5類に移行してから1年余り。このタイミングで発刊された2024年版「中小企業白書」(以下「白書」)をひもとくと、

中小企業の業況は、業種によるばらつきはあるものの、コロナ禍の落ち込みから回復してきている

とあります。

しかし、順風満帆ではありません。多くの中小企業は人材不足に直面していますし、過去最高水準となった賃上げにも対応しなければなりません。足りない人材を補うためにも、人件費を捻出するためにも、省力化投資などを通して生産性向上を目指す必要性がありそうです。

この記事では、「人手不足」と「生産性向上」の2つの課題を取り上げ、その解決のヒントを紹介します。また、この2つ以外にも、白書の中で紹介されている中小企業の課題(事業承継やBCP(事業継続計画)など)についても簡単に解説します。

なお、以降で紹介する図表の出所は全て白書であることや、分かりやすさを重視したことから、出所の記載や注釈は省略しています。詳細な内容を確認したい場合は、白書の本編をご覧ください。

■中小企業庁「中小企業白書」■
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/

2 人手不足:外国人雇用にも注目しつつ、職場環境を整備

コロナが5類に移行し、中小企業の事業活動が再び活発化しています。一方、時間外労働の上限規制などにより、少ない社員に頼る働き方は難しくなり、人手が必要になります。しかし、そんな中小企業の思いとは裏腹に、人手不足はますます深刻化しています。中小企業は、女性・高齢者の他、外国人労働者などの活用にも目を向ける時期にきています。また、自社の職場環境・制度を見直し、整備することなども必要でしょう。

1)外国人労働者の活用

日本人だけを対象とした採用活動では、人手不足の解消が難しくなってきた中、外国人労働者の活用が期待されています。実際、図表1の通り、外国人労働者の数・就業者全体に占める割合は共に上昇傾向にあります。

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また、白書の別のデータでは、2070年には日本の生産年齢人口(15~64歳の人口)のうち、14.9%が外国人になるという推計もあります。将来的な人材確保を見据えて、今のうちから外国人雇用に目を向け、検討してみる価値はあるでしょう。

厚生労働省では、各ハローワークに外国人雇用に関する相談を受け付ける「外国人雇用管理アドバイザー」を置いたり、外国人が働きやすい環境づくりに取り組んだ企業に、最大57万円を助成する「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」を設けたりしています。詳細は厚生労働省ウェブサイトをご確認ください。

■厚生労働省「外国人を雇用する事業主への支援策」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/page11_00027.html

2)職場環境・制度の整備

自社の職場環境・制度を整備することも、人手不足を解消する上では不可欠です。既存社員の離職防止だけでなく、自社の取り組みを積極的にPRすることで、新規採用にもつながるでしょう。

実際、白書によると、人材を十分に確保できている企業では、働きやすい職場環境・制度の整備が進んでいます。図表2は、人材を十分に確保できている企業の取り組みをまとめたもので、特に、賃金や賞与の引き上げ(賃上げ)に取り組んでいる企業の割合が高いことが分かります。

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厚生労働省では、下記ページにて、人材確保につながる職場環境・制度のポイントや事例、相談窓口などを紹介しています。看護・介護・保育・建設については、その分野特有の人材確保対策を紹介しているのでご確認ください。

■厚生労働省「人材確保対策」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000053276.html

3)賃上げ

図表3の通り、最低賃金の改定率・春闘の賃上げ率は、2023年度時点で過去最高水準となっています。一方、物価上昇などの影響を受けて、防衛的賃上げ(業績の改善が見られない中で、離職防止などのために行う賃上げ)を実施する企業も多く、いかに収益を上げて、賃金の原資を確保するかが重要になってきます。

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賃金の原資確保のために行った施策には、人件費以外のコスト削減、価格転嫁、労働時間の削減などが挙げられます。

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厚生労働省では、賃上げを実施した企業の取り組み事例や、各地域における平均的な賃金額など、賃上げのために参考となる情報を掲載する「賃金引き上げ特設ページ」を開設しています。詳細については、こちらをご確認ください。

■厚生労働省「賃金引き上げ特設ページ」■
https://saiteichingin.mhlw.go.jp/chingin/

3 生産性向上:コスト削減と単価引き上げ

日本は就業者数が減少する中、OECD(経済協力開発機構)加盟国のうちで、労働生産性が平均より低くなっており、省力化投資などによる生産性向上が重要視されています。

1)省力化投資

生産性向上を図るための省力化(人間が行う作業を見直して効率化を図り、機械やシステムを導入することで作業負担を減らす取り組み)に向けた設備投資が注目されており、図表5のように、省力化投資を実施した企業は、売上高にプラスの変化が見られる傾向にあります。

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省力化投資の具体例として、

  • 製品製造時の全数検査を、人に代わって行う自動検査装置の導入
  • EDI(電子データ交換)を活用した販売管理システムの構築

に取り組む企業などがあります。

また、省力化投資を支援する取り組みもあります。例えば、経済産業省では、賃上げに向けて省力化等の大規模投資を行った場合、最大50億円を補助する「中堅・中小企業成長投資補助金」を実施しています。また、中小企業庁では、IoTやロボットなどを特定のカタログから選択・導入した場合、最大1500万円を補助する「中小企業省力化投資補助金」を実施しています。

■中堅・中小企業成長投資補助金■
https://seichotoushi-hojo.jp/
■中小企業省力化投資補助金■
https://shoryokuka.smrj.go.jp/

2)価格転嫁

生産性という言葉には様々な意味がありますが、1人当たりや1時間当たりで生み出す付加価値の額として捉えるのであれば、値上げの視点も重要です。

バブル期以降、日本企業は低コスト化・数量増加の取り組みを続けてきました。ですが、その結果、大企業の売上高や利益率は増加する一方、中小企業は発注側の売上原価低減の動きの中で低迷したままです。白書でも、「今後は低コスト化・数量増加以上に、単価の引き上げも重視されている」としています。

コスト増加分を十分に価格転嫁できていない企業は多いですが、その中でも取引先との価格協議を実施した企業は、自社の意向を価格に反映できている傾向があり、協議を実施できていない企業に比べて、価格転嫁に成功しやすいことが分かります。

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また、自社の商品やサービスについて、競合他社との差別化ができている企業ほど、価格転嫁も進んでいる傾向にあります。価格転嫁の協議を有利に運ぶために、いま一度、自社商品・サービスの強みを分析するのもよいでしょう。

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中小企業庁は、中小企業が取引先と適切に価格交渉・価格転嫁できる環境を整備するために、各都道府県のよろず支援拠点に「価格転嫁サポート窓口」を置いています。詳細については、こちらをご確認ください。

■中小企業庁「価格転嫁サポート窓口」■
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/tenka_support.html

4 その他の課題と解決のヒント

「人手不足」「生産性向上」以外にも、中小企業は以下のような課題を抱えています。それぞれの課題に対応する解決策の事例も簡潔に記載しますので、自社の問題を解決する際のヒントとしていただけましたら幸いです。

1)売上・受注の停滞、減少

コロナの5類移行の後も「宿泊」「交通」の消費が戻り切らないなど、コロナ禍の影響は続いており、現在も経営改善・再生支援のニーズは高いです。

各都道府県の「中小企業活性化協議会」では、企業の課題・問題点、ビジネスモデルに合わせ、収益力改善に向けた計画や、事業再生に必要な金融支援策の策定をサポートしています。2023年度には、中小企業の経営改善・再生支援を加速するための経済産業省「挑戦する中小企業応援パッケージ」の一環で、中小企業活性化協議会の専門家(弁護士)を倍増させるなどの体制強化も始まりました。詳細については、こちらをご確認ください。

■中小機構「中小企業活性化協議会」■
https://www.smrj.go.jp/sme/succession/revitalization/index.html
■経済産業省「挑戦する中小企業応援パッケージ」■
https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230830002/20230830002.html

2)事業承継・後継者不在への対応策

白書によると、2023年時点で54.5%の中小企業で後継者が不足しています。また、後継者が決まっている企業も、経営能力や相続税や贈与税などの問題を抱えていることがあります。

後継者不在の問題については第三者承継(M&A)を視野に入れることや、事業承継税制を利用するなどの取り組みが、解決策として挙げられます。また、各金融機関では、地域企業後継者の支援エコシステムの醸成・構築が進められていますので、問い合わせてみるのもよいでしょう。

なお、事業承継税制は、後継者が取得した一定の資産について、相続税や贈与税の納税を猶予する制度で、2025年度末まで、納税猶予の対象者などを大幅に拡充する特例措置が講じられています。詳細については、こちらをご確認ください。

■中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」■
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_zouyo_souzoku.html

3)脱炭素化への対応

近年は、中小企業が自社の取引先から、省エネルギーやCO2排出量削減目標の策定など、脱炭素化への対応要請を受けることも多いです。ただ、75.0%の中小企業が脱炭素化に当たって、取引先からのサポートを受けられていないというデータもあり、公的機関の補助金などの支援を利用するなど、外部からの協力を仰ぐことも重要になってきます。

経済産業省では、脱炭素化に向けて、一定の取り組みをする中小企業に対する補助金の支給(例:IT導入補助金、省エネ補助金)などを行っています。また、中小機構は、脱炭素化の取り組みについて、専門家のアドバイスなどが受けられる「カーボンニュートラル相談窓口」を設置しています。詳細については、こちらをご確認ください。

■経済産業省「中小企業等のカーボンニュートラル支援策」(下記URL中段)■
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/SME/index.html
■中小機構「カーボンニュートラルに関する支援」■
https://www.smrj.go.jp/sme/sdgs/favgos000001to2v.html

4)BCPの見直し

2024年1月に「令和6年能登半島地震」が発生し、広い範囲にわたって建物や設備の損傷などの被害を受け、災害への備えとして、BCPの策定・見直しが更に重要視されています。

中小企業庁では、中小企業向けにBCP策定の手引きなどをまとめています。詳細については、こちらをご確認ください。

■事業継続力強化計画(中小企業庁)■
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/keizokuryoku.html

以上(2024年8月作成)

pj80167
画像:ChatGPT

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