書いてあること

  • 主な読者:プロジェクトの推進体制づくりに悩む経営者、プロジェクトマネジャー
  • 課題:成果を上げるプロジェクトチームの編成、運営、推進方法が知りたい
  • 解決策:まずはどのようなプロジェクトマネジャーが必要でどこまで権限委譲するか決める

1 プロジェクト推進体制の5つの問題点

プロジェクトは新しい製品やサービスを生み出したり、既存の業務推進体制を改善したりするための取り組みで、その成功は企業の成長に大きく寄与します。仮に成功に至らなくても、ノウハウを蓄積することで次に活かすことができます。

中小企業ではそもそもの人材が限られていることに加えて、通常業務との兼ね合いもあり、プロジェクトに割り当てることができる人材の選択肢は広くありません。実際、中小企業におけるプロジェクトチームの編成では、次のような問題が起こりがちです。

  • 場当たり的な即席チームが編成される
  • プロジェクトの成果が各チームによって大きく異なる傾向がある
  • プロジェクトマネジャーに必要な資質が総合的に評価されていない
  • プロジェクトマネジャーへの権限委譲が明確でない
  • 各プロジェクトを横断的にまとめるプロデューサーがいない

こうした問題を回避し、プロジェクト推進力を高めるにはどうしたらよいのでしょうか。以降では、プロジェクトを推進するための組織づくりや、プロジェクトマネジャーに求められる資質などを解説していきます。

2 プロジェクト推進力の強い組織をつくる

1)プロジェクト推進体制の統一を図る

権限委譲した範囲であれば、プロジェクトの進め方は、プロジェクトマネジャーの裁量に任せるのが基本です。とはいえ、複数のプロジェクトが進行している場合、皆が状況を把握できるよう、スケジュール表などのフォーマットは統一するのがよいでしょう。

ビジネス情報を公開するためのウェブサイト構築プロジェクトのスケジュール表の一例は次の通りです。

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エクセルで作成する場合、グループウエアやタスク管理ツールなどを利用するのもよいでしょう。ただし、こうしたフォーマットはクライアントと共有することもあるため、ウェブ上のツールを利用する際は、セキュリティー面での配慮が不可欠です。

2)プロジェクトの評価とナレッジの共有が高業績チームを育成する

プロジェクトの評価は、プロジェクトの進行途中はそのプロセスを、終了後は具体的な成果に着目して行います。

プロセス評価は、経営者がプロジェクトマネジャーの報告を受けながら行います。例えば、ウェブサイト構築プロジェクトであれば、システム仕様やデザイン変更など要件が頻繁に変更されがちなので、それに応じた軌道修正を強いられることもあります。こうした局面で、プロジェクトマネジャーおよびメンバーがどのように考え、どのような方向に軌道修正したのかを評価します。

また、プロジェクトの成果については、次の点などを総合的に評価します。

  • 成果:最終的に、プロジェクトは成功したか(目的を達成したか)?
  • 期間:予定した期日にプロジェクトは完了したか?
  • 予算:計画した予算の範囲内でプロジェクトは完了したか?
  • 人員:当初のチームを変更することなくプロジェクトは完了したか?
  • 効果:当初のコンセプト通り、顧客に新しい価値を提供できたか?

プロジェクトの成功率を高めるには、プロジェクトを成功させた経験のあるチームのナレッジを全社的に共有することが重要です。ナレッジ共有の場を提供し、プロジェクトに成功したコアチームにプレゼンテーションをしてもらうのもよいでしょう。

プレゼンテーションする際には、プロジェクトで利用したスケジュール表などの資料を配布し、予算の動き、時間管理状況などを報告します。また、プロジェクトの進行途上で発生した問題については、初めに「どのような問題があったのか」だけを紹介し、その対策は他の参加者に考えてもらってもよいでしょう。

そして、実際の行動と他の参加者の回答とでは何が違うのかを比較するなどして、プロジェクトの難所を乗り越えるためのノウハウを共有します。

プロジェクトを成功に導くためのキーパーソンはプロジェクトマネジャーです。中小企業では、業務の処理スピードが速い、営業成績が優れているなど、部分的に高い能力が評価されて経営者の目に留まる人材が少なくありませんが、プロジェクトマネジャーに求められる資質はさまざまで、これらをバランスよく備えた人材であるのが理想です。次章で、プロジェクトマネジャーに求められる10の資質を確認してみましょう。

3 プロジェクトマネジャーに求められる10の資質

1)理解力

経営者の考えや企業の置かれている状況、プロジェクトの目的を理解し、プロジェクトを正しい方向に進める力が求められます。

2)調整力

利害の一致しないこともある社内外の意見を調整し、プロジェクトを当初の方針通りに進める力が求められます。特に中小企業の場合、業務委託など外部のネットワークも活用してプロジェクトを進めることが多いので、こうした社外の人と調整する力も非常に重要です。

3)推進力

強力なリーダーシップがあり、プロジェクトの終点までチームを導く力が求められます。プロジェクトの進捗には、大なり小なりトラブルがつきものです。トラブルが起きても、プロジェクトを進めていく心の強さも必要です。

4)遂行力

迅速かつ正確に業務を遂行し、プロジェクトをスケジュール通りに進める力が求められます。

5)先見力

プロジェクトの始点から終点までを見渡し、事前に課題を想定する力が求められます。

6)対話力

メンバーと対話して良好な関係を築き上げることができ、結束力の強いチームをつくり上げる力が求められます。

7)決断力

冷静で的確な決断力があり、プロジェクトの方向転換や中止を経営者に進言する力が求められます。

8)想像力

最良のシナリオと最悪のシナリオを想像し、最良の成果を上げることができるだけでなく、最悪の結果を避ける力も求められます。

9)管理力

メンバー、設備、費用を管理し、バランスよく使いこなし、チームを切り盛りする力が求められます。

10)精神力

強い精神力があり、課題に直面したときに、強いハートで立ち向かっていく力が求められます。

11)プロジェクトマネジャーを育成する

以上で紹介した10の資質を全て備えた人材は、なかなか存在しないため、経営者はその育成を進めなければいけません。候補となる人材を経営者に同行させる機会を増やし、商談の流れや交渉術などを学ばせることが大切です。

4 権限委譲の範囲を明確にする

プロジェクトマネジャーには、プロジェクト推進に関する一定の権限が委譲されます。経営者が細かな点までを管理せずに済む体制が整えば、それがベストです。また、権限委譲はプロジェクトマネジャーのモチベーションを高める上でも効果的です。ただし、権限委譲の範囲について、経営者とプロジェクトマネジャーに認識の相違があってはいけません。権限委譲の確認表の一例は次の通りです。

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5 横断プロデューサーを配置する

メンバーが固定化されたプロジェクトチームの結束力は強くなります。これはプロジェクトチームにとってプラスである半面、いわゆる「グループシンク」に陥りやすい傾向でもあります。そうした傾向を是正するのはプロジェクトマネジャーの役割ですが、当の本人も担当プロジェクトに愛着があり、客観的な評価ができないことがあります。

こうした状況を解決するために、複数のプロジェクトを第三者的な立場で冷静に見守る横断プロデューサーを配置します。横断プロデューサーは、プロジェクトに主体的に参画して他のメンバーと一緒に議論したり、行動したりするのではなく、プロジェクトの方向性、プロジェクトマネジャーの考えや癖などを客観的に観察する役割です。横断プロデューサーがプロジェクトが暴走しそうな気配を感じたら、必ず経営者に報告するようにすれば、致命的な失敗を回避できる可能性が高まります。横断プロデューサーは、経営者の参謀的な役どころであり、過去に幾つものプロジェクトに携わってきた、ベテラン社員に任せるのがよいでしょう。

6 ボトムアップ型プロジェクトを形にする

プロジェクトのキーパーソンは優秀なプロジェクトマネジャーであり、まずはその選抜、育成に力を注ぐことが必要です。その後、横断プロデューサーの育成などを少しずつ進めていけばよいでしょう。こうして、プロジェクト推進体制が整った後、中小企業が取り組むとよいのは、従業員の自主的な立案による「ボトムアップ型プロジェクト」の募集です。ボトムアップ型プロジェクトとは、いわば従業員のアイデアから始まったプロジェクトであり、従業員が日ごろの業務遂行の中で感じている生の声を企画にしたものです。それらの中には、経営者が考えもしなかった視点で自社製品の改善を提案するものなど、経営のヒントになるものがあるかもしれません。

ボトムアップ型プロジェクトを多く募るためには、小規模なもので構わないので、実際にボトムアップ型プロジェクトを始動してみることです。立案者である従業員から見たボトムアップ型プロジェクトは、「自ら企画した提案を具現化する大きなチャンス」であり、高いモチベーションでプロジェクトに臨みます。こうした実例は従業員に“夢”を与えるため、ボトムアップ型プロジェクトが集まりやすい企業風土が生まれてきます。

中小企業のプロジェクト推進力の向上とは、単にプロジェクトチームの力量だけで実現できるものではありません。経営者が立案する「トップダウン型プロジェクト」の成功はもちろんのこと、「従業員が自ら考え、立案し、実際に行動して成功させるといった、積極的、自発的な組織であること」も重要なポイントといえるのです。

以上(2021年8月)

pj80021
画像:photo-ac

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