IPOするまでにはさまざまな準備が必要であり、それらに対応するために多くの時間がかかります。企業規模や経営管理体制などによっても異なりますが、スムーズに準備ができた場合でも一定の時間がかかります。

 IPOするまでのスケジュールを簡単に確認したのち、主幹事証券会社や株式事務代行機関など、IPOまでの活動を支援してくれるさまざまな機関の役割について紹介していきます。


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1 IPOするまでのスケジュール

一般的に、IPOするまでにはおおむね3年の準備期間が必要であるといわれます。スケジュールのイメージは次の通りです。

IPOまでのスケジュールのイメージを示した画像です

IPOは自社独自でできるものではなく、外部の機関と連携しながら準備を進めていくことになります。特に、主幹事証券会社や監査法人 は早い段階から選定しておく必要があります。各機関がどのような役割を担うのかを確認していきましょう。

2 主幹事証券会社の役割とは

主幹事証券会社とは、自社(IPO準備会社)が証券取引所に株式を上場する際に、その準備段階の全てにわたって支援を行う証券会社です。主幹事証券会社の推薦がなければ、証券取引所に株式を上場することはできません。

主幹事証券会社から見れば、自らが推薦した会社が上場後に不祥事などを起こしたり、すぐに業績の下方修正を行ったりすると、投資家から責任を問われることになるため、IPO準備会社を厳しく審査します。

証券会社には次のような種類があります。捉え方はさまざまですが、一般的には次のような特徴があるといえるでしょう。

証券会社の特徴を説明した画像です

経営者やIPO準備担当責任者と、証券会社担当者との相性の良しあしもあるので、主幹事証券会社の選定に当たっては、なるべく複数社と接触し、各証券会社の特徴などを把握するようにしましょう。

たとえ主幹事証券会社に選定しなくても、上場時には複数の証券会社を平幹事会社として選定するのが一般的です。そのため、主幹事証券会社の対抗馬として、複数の証券会社と付き合っておき、いろいろな意見を聞くとよいでしょう。

なお、主な証券会社の部署には、RM部門(Relationship Management。いわゆる「企業担当」)、引受部門、引受審査部門などがあります。RM部門は自社に寄り添って相談に乗ってくれる部門、引受部門はRM部門寄りで引受審査部門での審査対策を支援してくれる部門、引受審査部門は厳しく上場審査を行う部門という位置付けになります。

主幹事証券会社は多くの場面で自社をサポートしてくれますが、想定発行価格(上場時の目論見書に記載される公募想定価格)の決定については、IPO株式に応募する証券会社の顧客の利益を考慮して、低めの価格を設定することもあるので注意が必要です。

従って、上場が近づいてきたら、直近のIPO株式の初値騰落率(公募価格と初値との差異)を研究し、IPO株価について証券会社とよくディスカッションしておくとよいでしょう。

3 監査法人の役割とは

監査法人とは、財務諸表の監査や、IPOの準備に際してさまざまなアドバイスをする機関です。

IPOでは、直前々期と直前期の2期分の監査報告書が必要です。さらに、上場申請のタイミングによっては申請期の四半期決算に関するレビュー報告書が必要です。監査報告書は、上場申請時に証券取引所に提出する新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)、および上場承認日の新株発行決議の際に財務局に提出する有価証券届出書において必要になります。

これらの監査報告書の交付を受ける前提として、財務諸表の作成過程において信頼し得る内部統制制度が構築されていることが求められます。そのため、証券会社と同様に、監査法人からも内部統制制度に関する指導も受けることになり、主幹事証券会社より早い段階で監査法人を選定するケースが多いようです。

証券会社と同様に、監査法人にも大手と中堅・中小監査法人があります。一般的には、大手監査法人のほうがIPOの準備に関するノウハウがあり、証券会社や証券取引所とのリレーションも良いと考えられます。

また、担当する監査チーム、中でも監査報告書にサインするパートナーや実務を担当するインチャージ(=主任)の経験や柔軟性に注目し、自社との相性を見極めましょう。一度監査法人を決めると、上場後も付き合うことになるため、この点も念頭に置いておく必要があります。

監査法人は主幹事証券会社と同じく、自社にとっては重要な伴走者なので、3者の役割を踏まえて連絡を密にとり、良好なコミュニケーションを心掛けましょう。

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4 株式事務代行機関の役割とは

株式事務代行機関とは、株主名簿の管理や、株主総会招集通知の発送、配当金の処理などの株式に関係する事務処理を代行する機関です。証券取引所が指定する信託銀行、または証券代行会社が該当します。

一般的に、IPO準備の段階では株主数が少ないので、株式事務の委託という点では大きなメリットを感じられないかもしれません。しかし、資本政策や株主総会運営などのノウハウにたけていることや、株主の整理・特定などが必要な場合もあるので、上場申請期の2年程度前を目安に契約することが望ましいでしょう。

5 証券印刷会社の役割とは

証券印刷会社とは、ディスクロージャー全般においてサポートしてくれる会社のことで、国内では(株)プロネクサスと宝印刷(株)がシェアを二分しています。

IPOに際しては、金融商品取引法や証券取引所規則、会社法など、さまざまな規則により上場申請書類や株主総会招集通知などのディスクロージャー資料を作成する必要があります。また、上場後も、有価証券報告書やIRサイトの作成など継続開示が必要です。証券印刷会社ではこれら専門的な資料の作成指導やチェック、IRサイト作成などをサポートしています。

6 弁護士などの専門家の役割とは

1)弁護士

取引先との契約書のレビューや、資本政策におけるコンプライアンスチェック、法律面での開示資料に関する相談、内部統制上必要な社内規程の整備、M&Aに関する相談など、IPO準備の段階から上場後を見据えて信頼できる弁護士と顧問契約を結んでおくと、上場審査の法務リスク対応がスムーズになります。

2)司法書士

IPO準備段階では、増資やストックオプションの付与、役員変更、定款変更に伴う登記事項の変更など、登記に関連するイベントが多く発生するため、商業登記に慣れた司法書士と付き合っておくとよいでしょう。

3)税理士

自社が成長ステージに入ると、海外取引や投資、M&Aなど税務処理の難易度の高い取引が発生します。また、連結納税など、中小企業ではあまり見かけない処理が増えてきます。従って、上場企業と取引実績のある税理士や税理士法人と契約しておくことが望ましいでしょう。

4)社会保険労務士

中小企業の中には、労働基準法に準拠した社内制度が整備されていないところがあります。上場審査においては、未払残業代や就業規則をはじめとした労務関連規則のチェックなどは重点的に審査されるので注意が必要です。労務関連の相談は弁護士でも受けてくれますが、労務に特化した専門家としての社会保険労務士のサポートが必要なケースがあります。

7 IPOコンサルタントの役割とは

IPOコンサルタントには明確な定義がなく、主に公認会計士や、証券会社・ベンチャーキャピタル(VC)出身者、ベンチャー企業CFO等の役職経験者などのバックグラウンドを持つコンサルタントが該当します。自社で雇用し、IPO準備のプロジェクトマネジャーとして活用するケースもあれば、経営アドバイザーとして時々相談するなど、依頼方法や金額も多岐にわたります。

8 ベンチャーキャピタルの役割とは

ベンチャーキャピタル(VC)とは、自社に出資し、上場後のキャピタルゲインを得ることを目的とした投資家です。証券会社系・銀行系・事業会社系・外資系・独立系などに類型されます。さらに、社外役員やオブザーバーを送り込んで事業構造改革や取引先開拓を積極的に行うハンズオン型のVCから、書面での報告程度で経営にはあまり関与しないVCまであり、そのスタイルはさまざまです。

資金が潤沢な場合は、必ずしもVCを必要としませんが、事業の成長期で、資金が必要なときに力を借りると、自社の成長を後押ししてくれることもあります。

一方、VCから長期間IPOしそうにないと判断された場合、株式の買い戻しを迫られたり、自社が意図していない株主に対する株式売却を打診されたりと、資金回収に向けたプレッシャーも強いので、出資を受ける場合には慎重な検討が必要でしょう。

9 社内の人材がIPOの成否を左右する

IPOするために必要な支援機関を紹介しましたが、最も重要な支援者は社内の人材ともいえます。具体的には、上場後の事業運営まで見据えた参謀としてのCFOや社外取締役・監査役、内部監査室のスタッフ、開示や税務に強い経理担当者など、非上場会社ではあまり求められない特定のスキルを持った経営陣やスタッフを集めたり、育てたりする必要があります。

単に起業することと、IPOすることは大きく異なります。IPOするということは自社の株式が証券取引所で有価証券として取引される、すなわち公器になることを意味します。経営者はそのことを重く捉え、法令を順守し、健全で透明な経営を心掛ける必要があるでしょう。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年10月25日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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