書いてあること
- 主な読者:サプライチェーンに属する中小企業
- 課題:そもそもSDGsとは何か、どのように取り組めばよいのかを知りたい
- 解決策:中小企業の間ではSDGsの知名度はまだ低い。今のうちにSDGsに取り組むことで、他社に先んじて、サプライヤーとしての競争力を高めることができる
1 SDGsは中小企業のビジネスチャンス
SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)と書いて、「エスディージーズ」と読みます。この言葉は、地球環境や雇用の問題など、国際社会が抱える課題を解決に導くために設定された国際目標です。
現在、SDGsに積極的に取り組んでいるのは大企業ですが、そこには中小企業のビジネスチャンスが見え隠れします。例えば、大企業のサプライチェーンに属する中小企業がSDGsに取り組むことで、サプライヤーとしての立場が強固になります。独自にSDGsに取り組み、新規事業として成功させた中小企業もあります。
中小企業もSDGsの当事者に十分なり得ます。SDGsは中長期的な経営戦略を考える際の重要な要素であり、経営者がぜひとも知っておきたい取り組みです。中小企業の経営者に必要なSDGsの情報をコンパクトにまとめます。
2 SDGsの概要
SDGsは、2015年9月の国連サミットにおいて193カ国の全会一致で採択されました。2030年を期限として、17のゴール(目標)と具体的なアプローチである169のターゲット(達成基準)からなります。SDGsの17目標は次の通りです。
なお、詳細は、国連グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)のウェブサイトなどで確認できます。
■GCNJ「持続可能な開発目標(SDGs)」■
http://www.ungcjn.org/sdgs/index.html
SDGsの特徴は、国やNPO・NGOだけでなく、民間企業が、SDGsに取り組むべき主要プレーヤーとして位置付けられていることです。民間企業が、社会課題の解決にビジネスチャンスを見いだすことに主眼が置かれているのです。
ビジネスと持続可能な開発委員会(BSDC)が2017年6月に発表した報告書では、アジア圏の企業がSDGsの主要目標を達成することで、2030年までに5兆米ドル以上のビジネスチャンスが見込まれています。
3 SDGsを取り巻く国内動向
1)日本政府が積極的に推進
日本政府は、SDGsを積極的に推進する姿勢を示しています。2016年5月には、内閣にSDGs推進本部が設置され、同年12月には、実施指針が策定されました。
同指針では、国と民間企業が連携強化を図り、国が、民間企業によるSDGsを通したイノベーション創出を支援するとしています。2018年12月には、そのための具体的な取り組みなどを盛り込んだ「SDGsアクションプラン2019」が発表されました。
SDGsアクションプラン2019では、大企業や業界団体に加えて、中小企業に対してもSDGsの取り組みを強化することが明記されています。
内閣府、外務省、経済産業省、環境省など、各省庁にまたがる横断的な取り組みとなっています。
2)産業界も呼応
産業界の動きも活発で、日本経済団体連合会(以下「経団連」)は2017年11月、「企業行動憲章」にSDGsの理念を取り入れた改定を行いました。ISO26000(企業の社会的責任に関する国際規格)の制定に応じた前回の改定から、7年ぶりに内容を大きく見直しました。
改定版では、企業がIoTやAIなどの技術を活用して経済成長を進めるとともに、SDGsが定める社会的課題の解決に積極的に取り組むことを促しています。
経団連の会員企業は日本を代表する1376社であり、これら企業が順守すべき指針としてSDGsへの取り組みを掲げたことは、日本の産業界に大きなインパクトを与えました。
3)東京五輪が普及の起爆剤に?
2020年に開催される東京五輪に向けた動きも活発化しており、SDGsへの取り組みが国内で普及する起爆剤になるのではという見方もあります。
2012年のロンドン大会では「持続可能な調達コード」が導入され、建物から大会で提供される食品に至るまで、経済合理性のみならず持続可能性にも配慮した調達を行う仕組みが導入されました。
東京大会でも、2019年1月に「持続可能性に配慮した調達コード(第3版)」が発行されており、東京大会で製品やサービスを納入する企業やスポンサー企業の他、東京都をはじめとする地方自治体の公共調達にも影響を与えるといわれています。
4 サプライヤーとしての立場を強固にする
1)サプライヤー管理に乗り出す大企業
前述した通り、SDGs推進の動きは中小企業にも無関係ではありません。中小企業のSDGsへの関わり方には大きく分けて2つありますが、まず1つが、サプライヤーとしての立場を強固にするために取り組むというものです。詳しく見てみましょう。
近年は、外資系企業やグローバルに事業を展開する日本企業などが、SDGsの実践的な取り組みとしてサプライヤー管理に乗り出しています。
例えば、米アップル社はサプライヤーに対して再生可能エネルギーの利用を促しています。2017年3月に同社は、部品メーカーのイビデンが日本で初めて、同社向けの製造活動の全てを再生可能エネルギーで賄うことを約束したと発表しました。
また、国内ではANAグループが、環境保全や人権尊重を含む「食のサプライチェーンマネジメント」を強化するため、将来的に、流通段階も含め機内食に係る全ての人・組織がIDを登録し、サプライチェーンを「見える化」する取り組みなどを進めています。
こうした動きに加え、今後は、SDGsに積極的な大企業の取引先となった企業も、自社のサプライヤーに対して同様の取り組みを求めていくだろうといわれています。
2)大企業の具体的な取り組み
大企業が、SDGsに沿って自社のサプライヤー管理を進める際に、サプライヤーに求める可能性の高い事柄を見てみましょう。
GCNJと地球環境戦略研究機関(IGES)が2018年3月に発表した調査レポート「未来につなげるSDGsとビジネス」によると、日本の大企業などが重点的に取り組んでいる目標は、「気候変動(13)」「働きがい・雇用(8)」「消費・生産(12)」「健康と福祉(3)」などです。その上で、同レポートは、こうした企業の傾向として「SDGsをビジネス機会の獲得・拡大よりも経営リスクへの対応として取り組んでいるとも捉えられる」と分析しています。
例えば、近年、サプライチェーン上で起こる人権侵害や環境破壊などが、経営を揺さぶる問題にまで発展するケースが増えていることから、電子機器関係のメーカーや大手サプライヤーの中では、「働きがい・雇用(8)」と「消費・生産(12)」への取り組みとしてEICC(電子業界行動規範)にのっとったCSR調達などに取り組む企業が増えているといわれます。
今後、大企業のサプライチェーンに属する中小企業がSDGsに取り組むことで、サプライヤーとしての競争力が強まったり、サプライチェーンから外された企業に代わって、新たなサプライヤーに選ばれる余地が出てきたりするかもしれません。
5 独自に取り組みビジネスチャンスを創出
大企業の動きに呼応する関わり方は、中小企業にとって現状維持や新たな取引先開拓にはなるものの、あくまで受動的な取り組みといえます。
他方で、中小企業のSDGsへのもう1つの関わり方として、独自にSDGsに取り組み、新規事業としてビジネスチャンスを創出するというものがあります。
例えば、神奈川県にある従業員約40人の大川印刷は、2005年から、石油系溶剤を含まない印刷インキの使用を開始したり、生態系や地域社会に配慮した調達を示すFSC(Forest Stewardship Council:森林管理協議会)認証の紙を使用したりするなど、環境に配慮した印刷に取り組んでいます。
2017年からは、こうした自社の経営戦略にSDGsを統合させながら、製品開発などを進めています。同年11月には、紙を束ねる金属製の輪の代わりに紙製のリングを使用し、さらに白内障の人や、色弱者なども見やすいように配慮した卓上カレンダーを発売し、SDGsの5つの目標達成に貢献できるものとして紐づけました。
同製品は、外資系企業のオフィシャルカレンダーに選定され、また、同社にユニバーサルデザインの依頼増加をもたらしました。SDGsへの取り組みが売り上げの増加や販路開拓に結びついた事例といえます。
6 他社に先行することで勝機を得る
中小企業が本格的にSDGsに取り組むためには、超えなければならない幾つかの課題があります。それは、資金・人的資源や取り組み方法に関する知識などの不足です。
そこで、環境省は、中小企業向けのSDGs導入手引きとして「持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド」を、2018年6月に発表しました。
■「持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド」■
http://www.env.go.jp/policy/sdgs/index.html
また、具体的な取り組み方や自社の経営戦略への統合手法が分からないという企業向けの支援ツールとして、GRI(グローバル・レポーティング・イニシアチブ)と国連グローバル・コンパクトおよびWBCSD(持続可能な発展のための世界経済人会議)が、企業行動指針「SDG Compass」を共同で発行しています。
■「SDG Compass:SDGsの企業行動指針-SDGsを企業はどう活用するか-」■
https://pub.iges.or.jp/pub/sdg-compass:sdgsの企業行動指針-sdgsを企業はどう活用するか-
現状では、前述した課題もあり、SDGsに本格的に取り組む中小企業は多くありません。関東経済産業局と日本立地センターが2018年12月に発表した共同調査レポートによると、SDGsについて全く知らないと答えた中小企業経営者は84.2%に上ります。
逆に言えば、今のうちにSDGsに取り組むことで、他社に先んじて、サプライヤーとしての競争力を高めたり、新たなビジネスチャンスを創出できたりする可能性があります。
以上(2019年4月)
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画像:un.org