書いてあること

  • 主な読者:「物流業2024年問題」に危機意識を持っている経営者・人事労務担当者
  • 課題:長時間労働を改善したいが、業界慣習などもあってどう対応していいか分からない
  • 解決策:業務のDX化や配置転換、新卒採用などに取り組んでみる

1 物流業2024年問題をどうやったら乗り切れるのか?

物流業2024年問題とは、

働き方改革関連法によって、2024年4月1日から物流業にも「時間外労働の上限規制」が適用されたこと

による影響で起こる問題です。具体的には、時間外労働について「原則1カ月45時間、1年360時間までを上限とする」などの規制を設けるものです。

物流業の1カ月の所定外労働時間(就業形態計、年平均)は、2004年から2023年にかけての20年間、「調査産業計の約2倍」という状態が続いており、業界全体で長時間労働が慢性化している中、規制の適用を受けるようになった形です。

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物流業の場合、例えば、

  • 点呼や運行日報の記入などを人力で行っているケースが多い
  • 長時間の運転時間の他、荷待ち時間が発生したり、本来依頼になかった荷役作業を急ぎで依頼されたりすることが多い
  • 労働時間が不規則で年次有給休暇が取りにくいなどの理由から、若手が入りにくい

といった事情から、長時間労働に陥りやすい傾向があります。そこで、この記事では、物流業2024年問題を乗り切るためのポイントとして、次の2つを紹介します。

  • 時間外労働の上限規制の内容を押さえる
  • 業務のDX化や配置転換で長時間労働を是正する

2 時間外労働の上限規制の内容を押さえる

まずは、時間外労働の上限規制の内容を正確に押さえましょう。そもそも

時間外労働とは、法定労働時間(原則1日8時間、1週40時間)を超える労働のこと

です。本来、社員は法定労働時間しか働けませんが、会社が社員の代表(過半数労働組合または過半数代表者)と通称「36(さぶろく)協定」と呼ばれる労使協定を締結し、所轄労働基準監督署に届け出れば、原則36協定に定めた時間数の範囲内で社員に時間外労働を命じられます。

法改正前は、社員に命じられる時間外労働の時間数について具体的な上限が定められていなかったのですが、物流業の場合、2024年4月1日から図表2のように上限が設定されました。

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2024年4月1日以降、物流業の時間外労働は「原則1カ月45時間、1年360時間まで」となり、臨時的・特別な事情がある場合も「1年960時間」が上限となりました。この上限規制は、

2024年4月1日以後に効力が発生する36協定について適用

されています。2024年3月31日以前に効力が発生した36協定がまだ有効な場合、その協定に定めた有効期限までは時間外労働の上限規制は適用されず、次に締結する36協定から適用されます。違反すると、労働基準法により、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象になります。

ここまでが時間外労働の上限規制の内容ですが、物流業の場合、上限規制に加えてドライバーの拘束時間や休息期間などを定めた「改善基準告示」も守らなければいけません。違反すると、貨物自動車運送事業法により、行政処分(警告、車両の使用停止、事業停止など)の対象になります。改善基準告示は、「トラック運転者」「タクシー・ハイヤー運転者」「バス運転者」についてそれぞれ定められていて、トラック運転者の場合は図表3のようになります。

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3 業務のDX化や配置転換で長時間労働を是正する

中小企業クラスの物流業における、時間外労働の削減に関する取り組み事例を紹介します。

1)ドライバーの点呼や運行日報の記入を自動化

物流業では、安全運転の徹底のため、運行管理者がドライバーの出発前や帰社後に点呼を取り、健康状態や呼気中のアルコール濃度をチェックすることが欠かせません。ですが、この業務にかかる時間は、DX化によって削減できる可能性があります。

例えば、ある会社は、各営業所に設置したロボットが、ドライバーの健康状態やアルコール濃度のチェックを自動で行い、運行管理拠点にデータを送る形で点呼を行っています。

ロボットが点呼を行うことで、運行管理者がドライバーと対面する必要がなくなり、作業時間を大幅に削減できる

ようになったそうです。

また、この会社では、運行日報の記入の自動化も実施しています。運行日報は手書きが当たり前という会社も多いですが、

「デジタルタコグラフ(デジタコ)」を使い、運転時の速度・走行時間・走行距離などを自動で記録できるようにする

ことで、ドライバーの負担を軽減しているそうです。

2)セーフティーレコーダーで荷待ち時間を削減

ドライバーの長時間労働が慢性化しやすい原因の1つに、荷物の積み下ろしが終了するまでドライバーが待機する「荷待ち時間」の問題があります。

例えば、ある会社は、ドライブレコーダー機能とデジタコ機能が一体になったセーフティーレコーダーを全車に導入し、車両の速度、走行時間、走行距離などを分析することで、荷待ち時間がどの程度発生しているのかを突き止めました。さらに、

荷待ち時間を可視化したデータを顧客に見せ、荷待ち時間短縮の協力を仰ぐ

ようにし、配送ルートの見直しも併せて行うことで、時間外労働の削減に成功したそうです。

3)高齢ドライバーを事務職に配置転換し、効率の良い配車を

どの会社でも従業員の高齢化は大きな課題ですが、物流業においては特にその傾向が強いです。経験豊かなベテランは会社にとって戦力の要ですが、一方で人間の身体機能は年齢とともに低下していくため、高齢化とともにドライバーが事故に遭うリスクも高まっていきます。

例えば、ある会社は、こうした高齢のドライバーをあえて「事務職」に配置転換することで、事故のリスクを減らすとともに、働き方改革に成功しました。「経験豊かなベテランを現場から外して大丈夫なのか?」と思うかもしれませんが、

ドライバーの仕事内容を細かく把握しているからこそ、配車が効率良く行える

という側面があり、結果的に職場全体の時間外労働の削減につながったそうです。例えば、どのサイズのトラックなら現場に入れるかなどを細かく顧客とやり取りしながら、ドライバーの仕事を決められるといった具合です。

4)「あえての新卒採用」に取り組む

中小企業の場合、ドライバーは中途採用が基本です。トラックの運転免許については、大型免許であれば原則21歳以上、中型免許であれば原則20歳以上といった具合に年齢要件が高めに設定され、なおかつ一定の運転経験が受験資格に含まれているため、新卒採用に取り組みにくい面があります。ただ、人手不足と高齢化の中、そんなことばかり言ってもいられません。

例えば、ある会社は、「いつまでも若手を入れないわけにはいかない」と考え、

物流業のいわゆる3K(きつい、汚い、危険)のイメージを取っ払い、新卒の人にも興味を持ってもらえる会社づくり

に取り組みました。業界未経験者であっても会社が費用を出して免許を取ってもらう形を整え、労働時間が不規則で年次有給休暇が取りにくいという課題を解決するため、年5日の計画年休制度も導入するなどした結果、高卒のドライバーの新卒採用に成功しました。また、従業員のユニフォームを清潔なデザインに一新したり、社内にパウダールームを設けたりすることで、女性の新卒採用にも成功し、人材の確保・育成を継続しているようです。

以上(2024年6月)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)

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画像:emma-Adobe Stock

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